このページに知りたい情報がない場合は

ここから本文です。

最終更新日 2024年4月1日

ページID 10934

世田谷区報4月1日号 江守正多さんのインタビュー内容

1.江守正多さんのインタビュー内容

私たちは地球温暖化の問題をどのように捉え、その解決のために何をしたらよいのか?

東京大学教授の江守正多氏に聞く

2023年7月の国連本部での最新の報告書の発表に際し、国連事務総長であるアントニオ・グテーレス氏は、「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した。」と記者団に語り、劇的かつ早急な気候アクションの必要性を訴えたと言われています。

地球温暖化や気候変動という長期的で広範囲に及ぶ問題を、私たちはどのように捉え、その解決のために何をしていけばよいのか?地球温暖化について15年以上前から警笛を鳴らし続けてきた気候科学者の江守正多さんに、地球温暖化の状況やそのための対策について、世田谷区環境政策部の職員がお話を伺いました。

江守さんは、本年3月までは、上級主席研究員として国立環境研究所にも所属し、長年、地球温暖化のシミュレーションに関する研究に取り組まれ、気候危機の時代における諸課題を科学と社会の両面から探求されています。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次および第6次評価報告書の執筆にも関わられた日本を代表する科学者です。

【聞き手:世田谷区環境政策部職員】

話者プロフィール

江守先生

江守正多さん

東京大学・未来ビジョン研究センター教授

2024年3月まで国立環境研究所・上級主席研究員を兼務。1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に勤務。同研究所地球システム領域 副領域長、社会対話・協働推進室長等を経て、2022年より現職。専門は気候科学。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書 主執筆者。著書に「異常気象と人類の選択」「地球温暖化の予測は『正しい』か?」、共著書に「地球温暖化はどれくらい『怖い』か?」「温暖化論のホンネ」、監修に「最近、地球が暑くてクマってます。」、監訳に「ドローダウン-地球温暖化を逆転させる100の方法」、「リジェネレーション[再生]―気候危機を今の世代で終わらせる」など。

本ページの巻末に、江守さんが関わった解説動画と書籍情報をまとめました。子供や大人向けにとても分かりやすくまとめられたものもあります。ぜひご覧ください。

江守正多さんのインタビュー内容見出し

近年、確実に温暖化は科学者が予想していた通りに進んできた。

Q,(区職員)江守先生は、単著としては15年ほど前に「地球温暖化の予測は「正しい」か?~不確かな未来に科学が挑む~」を初めて執筆され、これ以降も、子供向けの絵本や各種書籍の執筆や監修・監訳などにも関わられていらっしゃいます。この間、様々な経済活動が行われ、温暖化のシミュレーション技術の精度の向上もあったと思いますが、こうしたことも踏まえ、温暖化の状況を今どのように捉えていらっしゃるか。また、近未来の10~20年後、あるいは今世紀末の2100年という時点で温暖化をどのように捉えることができるかを、改めてお伺いしたいです。

江守さん

まず大前提として、世界平均気温は産業革命前から1℃ちょっと上がっており、これを1.5℃で止めようという話をしています。その原因が人間活動による温室効果ガスの排出であることは疑う余地がありません。この排出量が、ずっと増えてきて未だ減少に転じていません。

近年の10年、20年ということで言うと、やはり、確実に温暖化は予想された通りに進んできたなという感じです。

と言いますのは、2000年代に入った頃からしばらく世界平均気温はあまりあがっているように見えなかったのです。それで、温暖化していると思いたくない人は「温暖化が止まった」と強調していた。

気候科学者はそのうちまた上がるはずだと思っていたわけですが、案の定2016年にはかなりはっきりと上がって、また最近はっきりと上がった。特に昨年(2023年)はとても記録的でしたよね。

つまりこれは、気候というのは、温室効果ガスの影響では、長期的な上昇傾向というものが決まるわけですが、年々どうなるかは自然の変動があり、それが重なっていて、年によってはあまり上がらないが、年によってはすごく上がるということを繰り返すわけです。

それを科学者はわかっているわけですが、わからずに見ていると、「最近上がっていないじゃないか」というところに注目すればそのように見えるし、でもまた上がった、でもまたしばらく上がらないね、いやまた上がった、ということになる。傾向としては、科学者が予測していた通りに上がったということが、この20年くらい起きていたことだと思います。

特に昨年の記録的な高温は専門家にとっても非常にショックなことでありまして、これはエルニーニョ現象が一つの要因だといわれていますが、それがとても強いわけではなくて、他にも色々なことがいくつか重なり、過去の記録をびっくりするくらい上回るような記録が出てしまった、ということです。

江守先生 顔写真2

氷期と間氷期で地球の平均気温は6℃違い、海面レベルでは120mの差がある。産業革命前に比べ、人類はすでに平均気温を1℃以上、人為的に上げてしまっている。

江守さん

どのように表現すれば人々にわかりやすく伝わるのかわからないのですが、たとえば「過去10万年になかった高温である」とか言います。10万年という数字を聞いただけではピンとこないかもしれないですが、なにしろ、ひどい状況な訳です。

世界平均気温が1℃上がるといってもピンとこないと思うのですが、例えば、昔2万年くらい前に「氷河期」がありましたね。とても寒く氷がいっぱいあった地球だったというのは聞いたことがあると思いますが、それは氷期と間氷期といって天文学的にそのような状況が繰り返し起きます。

今は間氷期で、この間氷期はあと5万年くらい続くということもわかっているのですが、何しろ、地球の寒い時期と比べたときに、世界平均気温だと氷期と間氷期※の差はどのくらいあったのかを調べると6℃くらいなのですね。

※「氷期(寒冷期)と関氷期(温暖期)」についての解説は、国立環境研究所地球環境研究センターのホームページをご覧ください。

世界平均気温で6℃違うと、海面は120mくらい違うのです。120メートルですよ。120センチではないですよ。それくらい違う気候なのです。グリーンランドとか、今氷がありますが、氷期には今のカナダや北欧のあたりはすべて氷だったのです。グリーンランドのような氷が乗っかっていたわけです。その状態の気温が今と比べて6℃寒いだけなのです。

それを今人間は逆向きに1℃上げているわけで、ほっておくとこれが2℃、3℃上がるわけです。世界平均気温で1℃上がるということは、科学者からみると、とんでもないことなのです。

日常の感覚だと、日々の気温の変動や朝晩の気温の変動は10℃、20℃変わってしまうわけなので、それに比べて1℃と言われてもピンとこないですよね。なので、どう言ったらピンと来るか分からないのですが、科学者から見ると、ちょっととんでもない状況なのだということを分かって欲しいのです。

2021年の政府間パネル(IPCC)第6次報告書では人間活動が温暖化の主な原因であることは“疑う余地がない”とされた。

江守さん

それで、地球温暖化予測のシミュレーションの精度の向上はもちろんあります。コンピューターの能力も年々良くなり、より計算が沢山早くできるようになりました。カメラの画素数が上がるみたいに、解像度がより細かく計算することができるとか、色々なシミュレーションの方程式をより現実に近いように改良したり、そうしたことが色々と行われてきている。それでシミュレーションがよくなり色々とわかるようになった面もありますが、温暖化が人間活動のせいであることがわかってきたのは、現実の温暖化そのものが進んできて、非常にはっきりしてきたということが大きい気がします。

20年前ということで言うと、IPCCの第三次報告書が2001年に出て、その時には「人間活動が温暖化の主な原因である“可能性が高い”」と言っていたのですね。それが、2007年の報告書では“可能性が非常に高い”、2013年の報告書では“可能性が極めて高い”となり、今回出た最新の第6次報告書(2021年)では“疑う余地がない”となった。それは、科学の進歩はもちろんあるのですが、現実の温暖化がその間みるみるうちにはっきりと進んできたということです。その状況が、“温暖化が人間活動で起きているということは、どう考えても疑いようがない”という認識を進めてきたということかなと思います。

今世紀末にはこのままいくと氷期と間氷期の温度差6℃(海面レベルでは120m差)の半分弱の2.5℃の温暖化が予想される。ただし、あきらめない限り可能性はある。

江守さん

将来ということで言いますとね、これも今、世界の排出量は減り始めてはいなくて、これからそれなりに減っていくとしても、今くらいのペースでいくと、今世紀末には2.5℃くらい上がるといわれていますよね。

2.5℃温暖化すると、先ほど言ったように、氷期と間氷期の半分弱くらい上がってしまう訳ですよね。なので、結構すごいということと、いわゆるティッピングポイント※というのが色々あるのですけど、グリーンランドの氷が解けるのが止まらなくなったりとか、南極の氷が流れだすのが止まらなくなったりとか、そういう「臨界点」ですね、この点を超えると、後戻りできない急激な変化が始まるだろうといわれている温度を、いくつか超えてしまう可能性がかなり上がってきますね。2.5℃という温度上昇ですとね。

※ティッピングポイント(tipping point):それまで小さく変化していたある物事が、突然急激に変化する「転換点」や「臨界点」を意味する。気候変動問題においては、このティッピングポイントを過ぎると、気候変動が一気に進む恐れがあることが指摘されている。

本当にその手前で止めなきゃということで、今頑張っている訳ですけれども、だんだんそれらを超えてしまうということが現実味を帯びてきているというのが今の状況だと思います。

それは、このままだらだら行くとそうなるということであって、当然、今、社会のシステムを温室効果ガスが出ないように変えていこうとしている訳なので、これを我々があきらめない限り、そうならない可能性は残っている。1.5℃で止まるかというのは、もう甚だ心もとなくなってきているのですけれども、仮にそれがだめでも、1.6℃とか1.7℃とか、何しろ0.1℃でも低く温暖化を止めるという可能性を、我々は目指しているところだと思っています。

温暖化による異常気象と国際秩序の不安定化の心配

Q,(区職員)2030年時点と2050年時点で日常的に生活している人にとってどのような状況変化があるのでしょうか?

江守さん

日常的にはもちろん、すでに起きているような猛暑で熱中症により沢山の人が病院に運ばれるとか、大雨が降るとか。大雨も直撃すると大変ですからね。世田谷はわかりませんが、2019年の台風19号では多摩川は少し溢れた。荒川はぎりぎりセーフでしたが、溢れていたらきっと大変なことになっていた。みたいなことがすでに起きているわけですよね。なので、ちょっと熱いのを我慢しなくちゃいけないとか、そういうレベルの話ではなくなってきますよね。

僕がすごく心配しているのは、やはり温暖化が進むことによって、国際秩序が不安定になるというか、難民が沢山出てくるとかですね、それによって色々な国際関係が悪化することです。今すでに国際関係はいろいろ悪化しているので、それに人々は慣れてしまっている部分があるかもしれませんが、それによってある種、部分的に起きているように、エネルギーや食糧などの国際的な調達というか貿易が影響を受けるし、今みたいにエネルギー価格が高くなるとか、場合によっては食料がすごく高くなるとか、そういうことが今後どんどん心配になってくると思います。

Q,(区職員)温暖化というのは影響が出るのは2100年といったように、とても長期的なスパンの話です。日常生活の中では、台風の強さや夏の暑さの度合いが年を追うごとに高くなるのは確実であるが、2030年と2050年の違いを明確にいうということはなかなか難しいということですね

江守さん

そうですね。

区職員と江守先生

たばこの分煙化のように、社会のシステムを変えることが必要であり、そのためには、関心を持つ人から行動を起こしていくことが重要

Q,(区職員)地球温暖化の対策はまだまだ足りていない状況があると思います。江守先生がとても重たい課題と認識されていることが、まだ世間に十分に浸透していないということですね。気候変動問題は、多種多様な人間活動からなり、長期的なものです。これを俯瞰的に見てコントロールできる主体を社会がどう形成できるのか、とても大きな課題だと思いますが、いかがでしょうか。

江守さん

僕は、この課題というのはできるだけ多くの人に理解してもらって考えて欲しいと思っていますけれども、世の中の大多数の人が、非常に優先度高くこういう問題を考えるという状況というのは起きにくいと思っているのです。それはそういうものだと、ある意味しょうがないと思っています。

やはり気候変動の問題というのはおっしゃるように長期的だし、抽象的かもしれないし、自分が何かしてもどうにかなるような気は全然しないですし。ちょっとそういう話を聞くとその時は「そういうのは大変ですよね」という感じにはなるけれども、人々は日常の生活で他にも色々と考えなければならないことがあるので、そこまで優先度高くこの問題を考えられない、というのは普通の感覚ですよね。

それはそういうものだと思うのです。そのような中で社会のシステムを変えていくにはどうしたらよいか、という話なのですね。

僕は、よく以前から話をしているのは、例えば、たばこの常識が変わった。分煙が今は当たり前になっています。

昔はこのような部屋があれば、こんなところに必ず灰皿があって、たばこを吸いながら話をしていたと思うのです。つい30年前くらいの話ですよ。今は考えられないわけですよね。

それは大きく常識が変わったのだけど、変わるにあたって社会の大多数の人たちが、例えば受動喫煙の健康被害のことをよく知っていたからという訳ではなく、一部の人がそういうことが大事だと思って活動をして常識を変えていったのだと思うのです。

皆が関心をもたないと変わらないと思っていたら、この問題は解決しない

江守さん

多くの人というのは知らないうちに常識が変わり、それについて行くという感じになると思うのです。そこでは関心を持った人が変えているのです。そして、関心を持とうと思えば、誰でも関心を持てるわけですよ。だから、だれかエリートが勝手に変えていると思ったとしたら、自分も関心をもってどう変えるかという議論に加わればいいのであって。多分そういうものだと思うのですね。

僕自身は気候変動問題に関しては仕事なので、色々知っていて、こういう風に皆さんに理解してほしいという顔をしてしゃべっていますけど、他の社会課題に対しては全部知っているわけではないので、むしろ僕の知らないうちに、関心を持った人が取り組んでいて、社会が変わって、僕がそれについて行けばよいと思っているのです。そういうものではないかな、と思いますね。

だから関心を持つ人は多いほどもちろん良いし、深く関心をもってくれる人がさらに出てくるのがよいですけど、皆が関心をもたないと変わらないと思っていたら、この問題は解決しないですね。そんな認識でいます。

世界のルールは変わりはじめている

Q,(区職員)諸外国の取組みの状況を踏まえたときに、再生可能エネルギーの活用を含めて、今の日本の取組み状況をどのように捉えていらっしゃいますでしょうか?

江守さん

世界の方が早く動いていて、日本はそれについて行かなくちゃいけない状況だと思います。世界にも色々な国がありますけれども。ヨーロッパとか、アメリカのリベラルな州などに比べると、日本は全く考え方が遅れている訳ですよね。もちろん色々な国にも色々な認識の人が住んでいると思いますけれども。

だから、世界のルールは変わり始めているのです。それに人並について行った方が良いのではないか、ということが起きている気がしています。

日本がいつまでも化石燃料を使い続けていると、例えば昨年のG7ではその面に関しては少なくともリーダーシップは取れていない。議長国であるにも関わらず何かちょっと変なことを言っているみたいな風に見える状況になってしまっている。それを少なくとも世界並みのところまでは、まずやらなければならないのではないか。ということが、今のステージのような気がしています。

対策の進んでいる国の市民は、政治に働きかけ社会を変えるアプローチをとっている。

Q(区職員)他の世界で対策が進んでいる国というのは、やはり市民で熱心な方が、一生懸命活動して合意形成を取って進めている感じを受けていますでしょうか?

江守さん

それもあると思いますけど、日本でイメージしているみたいに、市民みんながエコな生活をしているというよりは、政治に働きかけているのではないでしょうか。だから、本気で社会を変えようと思ったら、自分の生活をちょっと変えるくらいではだめで、政治からアプローチしてもらって、ルールを変えて、それで社会全体を変えていかないといけないと理解している人たち。また、そういう行動の仕方を知っている人たちが日本より多くいるのだと思います。

日本でも地球温暖化は心配ですか?と聞くと、8~9割の人が心配ですと言う訳ですよね。だけどそれが、日本の場合は政治的な要求につながらない。心配だからこれを止めてくれるように、そういう政治家を選ばないといけないとか、そういうルールをつくるために何かプレッシャーをかけなければいけないとか、そういう発想にはほとんどの人はならないわけですけれども、ヨーロッパなどだとそういう発想で動く人がもっと多いのではないでしょうか?

Q,(区職員)ひとつの自治体として率先して動くことが、ほかの自治体にも影響を及ぼし、世界に広がっていくようなケースもあるでしょうか?

江守さん

もちろんありますよね。それはぜひ。世界をリードできるかどうはともかくとして、日本をリードするというのは、やる気のある自治体はどんどんリードしていってほしいですよね。それはぜひ世田谷区にそうなっていただきたいと思いますよね。

Q,(区職員)住宅都市としての世田谷の場合、人口が多いので「再生可能エネルギー電力」を皆で選択するということも一つの大きなインパクトある取り組みになると考えられそうでしょうか?

江守さん

そうですね。

ただ、一つ注意が必要なのは、再生可能エネルギーのプランの電力を契約すると、自分が使っている電気では二酸化炭素が出ていないことになりますが、自分がそれまで使っていた二酸化炭素の出る電気を他の誰かが使うので、日本全体ではその瞬間に排出量が減るわけではないですよね。自分の庭先だけきれいにしているみたいにもみえます。

じゃあ意味が無いのかというとそういうことではなくて、やはり多くの人が再生可能エネルギーの電気を使いたいという状況になることで、再生可能エネルギーの普及に取り組んでいる事業者の収益が上がり、投資が増えることになりますので、再生可能エネルギーが増えて、それで初めて排出量が減ると。そこは一応理解しておく必要があるかなと思います。

江守先生 顔写真3

若い人に対するインフルエンサー的な立場の人がもっと出てこないかと思っている

Q,(区職員)子ども若者に対する環境啓発について、どんな取り組みをやるとよいか。あるいは面白い取り組みがあれば教えていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

江守さん

いつも思っているのは、日本だと、気候変動に心底熱心に取り組んでいる有名人って思いつかないじゃないですか。例えば、アメリカだと、レオナルド・ディカプリオなどがいて、アカデミー賞のスピーチで気候変動の話をしたりする訳ですよ。

そういう人って、日本で思いつかないですよね。最近ちょっとSDGsに力を入れる芸人やタレントが出てきていますけど、そういう人でもよいので、セレブリティ(有名・著名な)というか、本気でそういう問題に関心をもつ若い人に対するインフルエンサー的な立場の人がもっと出てこないかと思っているのですよ。

クライメイトライブ(音楽を通じて気候変動の認知と行動を促す取組み)というのを聞いたことはありますか?音楽のライブなのですが、これをはじめたのがイギリスで、クイーンのブライアン・メイが高校生から「気候変動が大変なので手伝ってください」という手紙をもらい、「じゃあライブをやるか。」ということで始まったらしいです。

クライメイトライブが世界の色々なところで行われ、日本でもそれをやっている人がいる。コロナだったこともあって、そんなに大注目されていないのですが、2~3回やっていると思います。

民主主義のアップデートとしての気候市民会議

Q(区職員)江守先生は、気候市民会議に関わっていらっしゃったかと思いますが、先ほどの政治に働きかけるという話にもなると思いますが、世界市民会議で各国の市民に対し「気候変動に対してどういうに認識をもっていますか?」と聞いたときに、気候変動対策をやることは生活の質の向上につながると言っているのが世界の潮流なのに、日本では低くて、むしろ自分の生活の制限になるという認識が多い。先ほどの話ともつながっていると思っていて、やはり誰か何とかしてくれよ、という気持ちがあるのかなと思われます。また、自分で何とかしようと思っても無力感があるとも思います。民主主義のアップデートといいますか、自分のあげた声が政治に直結する取り組みも一方でいるのかなとも思います。実際に江守先生が関わられたときの実感として、気候市民会議がなにがしかの民主主義の回路が次の段階に行くような何かにはつながったような実感はお持ちでしょうか?

江守さん

それはすごくありますね。東京23区では、杉並区が今度やると思いますが、武蔵野市、多摩市、日野市、茨城県つくば市、神奈川県厚木市の気候市民会議にはこれまで関わってきました。気候市民会議は無作為抽出の市民に、専門家が情報提供して議論してもらい、ミニパブリックスと言って、社会の縮図になるようにサンプリングするところに特徴があります。

普段あまり話したことがないような世代であるとか、職種であるとか。まあ世代が大きいですかね。同じグループに入ってたとえば高校生とお年寄りが電気自動車をどうしようか、というような話をするわけですよね。それは、どこの会場をみても非常に議論に活気があるわけですね。そういう今まで話したことがない人と話をするという経験をいきいきと市民がやるということがまず観察できますね。

また、僕がちょっと思ったのは、例えば、市民の提案が出てきましたと。その提案は自治体の職員も思いついていたかもしれない。だけど、職員は忙しいし、ステークホルダーに説明することや議会を通すことは大変だし、重い腰を上げてやるほどのことでは無かったとするじゃないですか。そういうことでも、市民の提案として意見がでると、では市民が言っているからやるかと、動くような面もあるかもしれないですし。

そうすると参加した市民はとてもやりがいを感じるでしょうし、参加しなかった人も、そういう会議をやっていることを認識した市民は、自分は選ばれなかったけど自分たちの代表が直接議論して提案して、それが実現するのだと思えば、ちょっとした良い体験になると思います。ぜひ世田谷区でも!

新たなルールを作りこれまでの常識を変えることが大事。市民の役割として、そういうルールができることに賛成する、あるいは作るべきだと声をあげることが必要。

Q(区職員)難しいのは、社会では市民も各種団体も自分たちの都合で活動しています。一方で、地球の環境問題は、全体の一つのことなので、それをいかに共通認識として持ち、それぞれできる立場でできることに取り組んでいくことが必要と思います。まず認識してもらうことと、認識してもらった上で、具体的な行動に移してもらうということが、とても難しい問題だと思っています。

江守さん

先ほども言ったように、みんながそれを共通認識として持って、自分でできることをそれぞれに考えてやるということは、自主的には起きないと僕は思っているので、やはりルールができるというのがすごく大事で。先ほどのたばこの話にしても、健康増進法ができて、最初は努力義務でしたけど、規制されて常識が変わったということが起きた。多くの人にとっては、そういう問題だったわけですよね。

今回も、東京都の太陽光パネルの条例などは非常に良い例だと思っています。そのようなときに、市民にできることというのは、やはり政策を支持すること。太陽光パネルの条例に賛成しますという人が、多く現れたことが大事だったと思います。

それでルールが変われば、皆が変われるわけなので。今まで関心がなかった人も、新築の住宅を建てれば、ほぼ太陽光パネルを載せることになるので。それで載せてみたら、これはやはり良かったね、ということに多分なるのだと思います。

最初はみんな載せなくてはいけなくなったから載せるのでも、電気代高くなってもうちは発電しているから心配ないし、とだんだんなっていって、そのうち載せるのが当たり前になるので。その変化を起こすことがやはり大事なのだと思っています。

それを市民として、そういうルールができることに賛成する。あるいはルールができそうな状況の中で、案に意見があるなら、パブコメで意見をするとか。あるいはそういうルールが全然できなさそうであれば、作るべきだと声を上げる。これが、市民の重要な役目であって、ヨーロッパの市民は多分そういうことをやっている人が多いのだと思います。そういうイメージですね。

Q(区職員)時期的なことを考えたときに、やはりルール化も進めないと社会変革が間に合わないという感覚はお持ちでいらっしゃいますか?

江守さん

はい、持っています。やはり個人の選択の範囲だと、たまたま関心を持った人、たまたま口コミで聞いた人になりますよね。

ただ、やはりルール化するうえでは、ある程度の人々の支持がないと、ということはあるので、関心を持つ人を増やしていかなければならないのでしょうけど、最終的には、それがルールになって当たり前なっていくということを、なるべく早くしないと。

本当に今、求められている1.5℃で温暖化を止めるような排出削減ペースというのは、これは世界全体の話ですが、今の取組みでは程遠い訳ですよね。全然良い線もいっていないわけです。まあ国によってはいっていますが。

これは世界全体なので。本当はそのことを考えると、途上国が排出量を減らしながら発展できるか、というところがものすごく大きくて、まだそういう状況になっていないのです。今日は詳しくは触れませんが。しかしながら、本当に世界で排出量が減らないといけないので、そのことについても関心をもって欲しいなと思っています。

規制によっては我慢しなきゃいけない規制はありますが、断熱や太陽光パネルは得する規制ですよね。皆が知らないからルール化するけれども、したらその方が皆いいと言いますよという類のものではないかと思うのです。

話を聞いていると、高断熱の住宅にした方が、初期費用としての施工費はかかりますが、光熱費が減るので、ランニングコストで元が取れるだろうし。もちろん快適だし健康に良いし、資産価値も下がりにくいし、そのくらい住む人にとって良いのだったら、行政がそのことを理解して、進めることができれば、早くやった方が良いわけですよね。太陽光パネルもたぶんそうですよね。良い規制を早く入れていただきたいと思います。

(区職員)変わってみれば、それが当たり前になっているという常識は、そのきっかけをつくるために最初は一定程度の合意形成がいると思いますが、そこさえ作れれば、そこからドミノ倒し的に常識を変えることができるということですね。おっしゃる通りで、そういうことを踏まえながら取り組んでいければと改めて思った次第です。今日は有難うございました。

以上(インタビュー:2024年2月5日、東京大学本郷キャンパスにて)

2.江守正多さんが関わった解説動画・各種記事・書籍情報の一覧

目次

(1)江守正多さんが地球温暖化を解説する動画

江守正多さんが、本年3月まで所属されていた国立環境研究所の研究員のお立場で、地球温暖化の現状とその対策などについて、わかりやすく解説しています。

20分でわかる!温暖化シリーズ

温暖化シリーズの20分の短縮版です。(国立環境研究所動画チャンネルより)

20分でわかる!温暖化シリーズ
再生時間 タイトル
19分50秒

【20分でわかる!】温暖化のホント 地球温暖化のリアル圧縮版(1)

19分16秒

【20分でわかる!】温暖化ってヤバいの?地球温暖化のリアル圧縮版(2)

19分57秒

【20分でわかる!】じゃあ、どうしたらいいの?地球温暖化のリアル圧縮版(3)

「GENKI LABO」での対談動画

科学の面白さを多くの人に知ってもらうためにマルチに活動するサイエンスアーティスト市岡元気さんが配信するYouTubeチャンネル「GENKI LABO」での江守さんの解説動画。

(引用元:GENKI LABO【ゲンキラボ】市岡元気オフィシャルサイト

「GENKI LABO」での対談動画
再生時間 タイトル
16分35秒

地球温暖化はウソvs本当 科学的なデータで戦ってみた

TEDxにおけるプレゼン

運動会の「綱引き」をヒントに、気づいた市民が行動を変えることにより、社会の常識が変わり、それが気候変動を食い止める原動力になるという、温暖化対策の希望を語ります。

TEDxにおけるプレゼン
再生時間 タイトル
11分55秒 3.5%の綱引き|江守正多|TEDxUTsukuba

(2)江守正多さんのインターネット上の記事・論文

インターネット上に公開されている江守正多さんが関わった記事をご紹介します。

記事・論文
  タイトル 説明
記事

江守さんが寄稿したyahooニュースページの一覧

※各記事をご覧いただく場合は、それぞれのタイトルをクリックください。

江守正多さんがyahooニュースページで2014年から今日に至るまで約10年間にわたり連載している60本以上の記事の一覧です。気候変動に関する問題について、その時々の話題をとても分かりやすく解説しています。

記事

NHKサイエンスZERO 地球温暖化は疑う余地がない ―江守正多さんが語る“人類の分岐点”【博士の20年】

NHKサイエンスZEROで放映された江守正多さんへのインタビュー内容です。(2023年3月1日公開)

記事

持続可能な未来へ「わたしたちにできる5つのこと」

NHKみんなでプラス(みんなの声で社会を“プラス”に変える)の「地球のミライ」のページで掲載されているイラスト記事です。モデルで環境活動家の小野りりあんさん他が江守正多さんのインタビュー記事を読み、その内容を若い人たちも興味を持ってくれる形で紹介したいと、ビジュアル化したものです。地球のミライを守るため、わたしたちにできる「5つのこと」がまとめられています。(2021年1月8日公開)

記事 気候変動に対して 私たちができる5つのこと

NHKみんなでプラス(みんなの声で社会を“プラス”に変える)の「地球のミライ」のページで掲載されている記事です。地球温暖化を少しでも食い止めるために、私たちには何ができるのか。5つのポイントから江守正多さんが答えます。

(2023年11月27日)
論文【専門家向け】

招待論文「グリーン成長」の次のパラダイムは何か

(江守 正多、環境共生Vol37No.2、2021年9月)

グリーン成長の課題、脱成長の可能性に触れ、次なるパラダイムシフトへの転換に向けさらなる創造的な議論が国内で活発化することへの願いが書かれています。

(3)地球温暖化に関する江守正多さんが関わった本

江守正多さんが関わった、地球温暖化の問題をわかりやすく解説した本が様々あります。専門的な立場から解説した本をはじめ、大人向けに楽しく分かりやすく伝わる本、児童向けの本、地球温暖化懐疑論者との対話をまとめた本など多岐にわたる書籍の一部をご紹介します。以下に掲載の書籍は、多くが世田谷区立図書館にも所蔵されています。

1)児童向けの絵本

(1)チコちゃんに叱られる ちきゅうおんだんかって なに?

著者:海老 克哉/文、オオシカ ケンイチ/絵、出版社:文溪堂、出版年月:2021年7月

<抄録>NHKで大人気のテレビ番組「チコちゃんに叱られる!」の絵本シリーズ。「ボーっといきてんじゃねーよ!!!」と叱られないように、温暖化について知っている人も知らない人も、チコちゃんと一緒に話を聞きに行ってみましょう。チコちゃんが会いに行ったのは、国立環境研究所の江守さん。温室効果ガスをふとんに例えながら、5歳の子にもわかりやすい例えをあげて、丁寧に教えてくれます。

(2)ピンクマ-ピンクになったシロクマのはなし-

著者:柏原 佳世子/作、江守正多/監修、出版社:KADOKAWA、出版年月:2023年7月

<抄録>暑さに耐えられなくなったシロクマたちは、「どんな願いもかなえてくれる動物」に便利な道具を紹介される。だが、道具に頼りすぎたことで冬になっても暑く、シロクマたちの体はピンクになって…。SDGs入門に最適な絵本。

2)子ども向けの書籍

(3)地球を救う仕事-14歳になったら考える 5 (温暖化をくい止めたい 1)

くさば よしみ/編著、江守正多他/著、汐文社/2009年3月

<抄録>世界が抱える問題を伝えながら、実際に地球を救う仕事に携わっている人の声を通じて、子どもたちが何をすべきかを考える道しるべとなるシリーズ。紛争、貧困、温暖化。これらは、私たち人間が引き起こしたものだけれど、解決できるのも人間だ。温暖化で地球がどうなるか予測する仕事、新しい発電技術を開発する仕事など、困難な仕事に取り組みながら、こうした問題をなんとかしようと力を尽くしている5人の人たちの姿を紹介する。江守さんは、「温暖化で地球がどうなるか予測する仕事p7-44」を担当。

(4)どうする?気候危機(SDGs地球のためにできること ;2)

著者:江守正多/監修、出版社:国土社、出版年月:2023年12月

気候危機ってどうして問題なの?気温が上がると巨大台風や異常気象が増える?

わたしたちの食べものが変わる?砂漠化するいっぽうで、洪水が起きる国がある?

気候危機はどうして起こるのか、わたしたちの暮らしにどんな影響があるのか、どんな取り組みがはじまっているのかをさぐります。身近な家庭や学校ではじめられること、調べられることも紹介。はじめの一歩を踏み出すきっかけに!

(5)地球の危機図鑑

滅亡させないために知っておきたい12のこと

著者:福士謙介/監修,江守正多 [ほか] 取材協力、出版社:学研プラス、出版年月:2022年2月

地球が直面する最新の「危機」にどのようなものがあるか、またそれをどうやって解決、回避していくのかをビジュアルで学ぶ。「危機」をそのままにした場合のワーストシナリオと、解決したときのベストシナリオを比べて、自分たちのこれからの行動を考える。

3)子供にも大人にもとても楽しくわかりやすく伝わる書籍

(6)最近、地球が暑くてクマってます。-シロクマが教えてくれた温暖化時代を幸せに生き抜く方法

著者:水野 敬也/著、長沼 直樹/著、江守正多/監修、出版社:文響社、出版年月:2021年9月

<抄録>レジ袋を有料化する程度では、地球温暖化の根本的な解決にはならない。ではどうすればいいか? 地球温暖化解決に向けて、シロクマが送るメッセージ。温暖化が起こるしくみや温暖化対策についての解説も掲載。

4)温暖化の問題を異なる視点・立場から語りつくした書籍

(7)温暖化論のホンネ-「脅威論」と「懐疑論」を超えて(tanQブックス6)

著者:枝廣 淳子/著、江守 正多/著、武田邦彦/著、出版社:技術評論社、出版年月:2010年1月

<抄録>私たちは地球温暖化という問題をどう理解し、どう考えていけばいいのだろうか?環境問題に詳しい枝廣淳子、江守正多、武田邦彦が、温暖化懐疑論や脅威論という次元を超え、科学的な知見をもとに温暖化論の本質に迫る。

5)温暖化の状況等について科学的に詳しく解説した書籍

(8)地球温暖化の予測は「正しい」か?-不確かな未来に科学が挑む(Dojin選書 ;20)

著者:江守正多 著、出版社:化学同人、出版年月:2008年11月

<抄録>地球温暖化とはなにか。またそのコンピュータ・シミュレーション予測とはいかなるものか。温暖化予測の主役ともいえる「気候モデル」の信頼度や不確実性も含めて解説し、地球温暖化について適切に知るための判断材料を提供。

(9)異常気象と人類の選択(角川SSC新書195)

著者:江守正多/著、出版社:角川マガジンズ、出版年月:2013年9月

<抄録>最高気温記録更新の酷暑、局地的なゲリラ豪雨など、異常気象が日本を襲った2013年夏。IPCC第5次評価報告書の執筆者である著者が、異常気象と地球温暖化の関係から、持続可能な人類の将来を考える提案の書。

(10)地球温暖化はどれくらい「怖い」か?-温暖化リスクの全体像を探る

著者:江守 正多/編著、気候シナリオ「実感」プロジェクト影響未来像班/編著、阿部彩子/[ほか著]、出版社:技術評論社、出版年月:2012年5月

<抄録>地球温暖化の対策は、どれくらい行うべきか。第一線の研究者たちが、気候、陸や海の生物、水資源、農業、沿岸域、人間の健康問題、その他の各視点から、地球温暖化の良い影響、悪い影響について解説する。

(11)地球・惑星・生命

著者:日本地球惑星科学連合/編、江守正多ほか/著、出版社:東京大学出版会、出版年月:2020年5月

<抄録>「はやぶさ2」は何を見たのか?地球の中心はどこまでわかったのか?地球温暖化を正しく理解するには?地球惑星科学の最先端と今後の展望を、第一線の研究者がわかりやすく語った入門書。江守さんは、「地球温暖化を正しく理解するには p164-173」を担当。

6)地球温暖化を回避する新たな方法を解説した書籍

(12)ドローダウン:地球温暖化を逆転させる100の方法

著者:ポール・ホーケン/編著、江守 正多/監訳、東出 顕子/訳、出版社:山と溪谷社、出版年月:2021年1月

<抄録>地球温暖化を「逆転」させる具体的な方法を解説。食品の生産と消費、再生可能エネルギー、環境保全型農業、電気自動車、教育、水、森林、ネットゼロエネルギービルをカバーするほか、革新的な技術も紹介する。

(13)リジェネレーション〈再生〉-気候危機を今の世代で終わらせる-

著者:ポール・ホーケン/編著、江守 正多/監訳、頭 美知/訳、出版社:山と溪谷社、出版年月:2022年4月

<抄録>気候危機を防ぐために個人・団体ができる行動(アクション)とは?IPCCが2018年に出版した特別報告書「1.5℃の地球温暖化」にまとめられた目標を達成するための道筋を描く。「ドローダウン」の完結編。

※(2)、(3)、(6)~(13)の<抄録>は世田谷区図書館ホームページに記載の内容を転載。(1)と(4)と(5)は各出版社の解説を引用・一部編集しています。

添付ファイル(ホームページと同一の内容をPDF化したものです。適宜ご活用ください。)

江守正多さんのインタビュー内容PDF(PDF:1,286KB)

江守正多さんの動画+記事・論文+書籍(PDF:779KB)

お問い合わせ先

環境政策部 環境・エネルギー施策推進課  

ファクシミリ:03-6432-7981