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最終更新日 2026年1月1日

ページID 30437

区のおしらせ「せたがや」令和8年1月1日号(2・3面)

2026 新春対談

左から 宮田利男さん、伊藤匠さん、保坂展人区長の写真

昨年、藤井聡太さんを破り、将棋の八大タイトルの一つ「王座」を獲得し、「叡王(えいおう)」と二冠のタイトルを持つ伊藤匠さん。

伊藤さんの師匠で「三軒茶屋将棋倶楽部」を主宰している宮田利男さん。

プロの将棋の世界について、保坂展人区長がお話をうかがいました。

タイトルを持つプロ棋士は、将棋が「好きで好きで、たまらない」もの

区長 あけましておめでとうございます。令和8年午(うま)年、今年も皆さんにとって心穏やかな年であるようお祈り申し上げます。さて、今年の新春対談は、将棋棋士の伊藤匠さん、そして伊藤さんの師匠でいらっしゃる、宮田利男さんをお招きしています。
伊藤さん・宮田さん あけましておめでとうございます。よろしくお願いいたします。
区長 伊藤さん、今年は年男とうかがっています。
伊藤さん はい、2002年生まれなので24歳になります。
区長 伊藤さんは藤井聡太さんと同い年で、藤井さんの最大のライバルと目される若手トップ棋士でいらっしゃいます。今年も勢いに乗っていかれるよう期待しています。
伊藤さん ありがとうございます。
区長 タイトルを巡って争うタイトル戦は、一局が10時間を超える長丁場になることもあるとか。将棋の技術はもちろんですが、強靭(きょうじん)な集中力と精神力も求められる世界ですね。
宮田さん 私は観戦しているだけですが、ただただ「すごい」のひと言に尽きます。藤井さんと伊藤さんの二人を見ていると、才能というよりは、まずは将棋が「好きで好きで、たまらない」のだろうなと思いますね。
区長 伊藤さんと藤井さんは子どもの頃からライバルで、様々な大会で勝負したことがあるとうかがっています。2012年の「小学館学年誌杯争奪全国小学生将棋大会3年生の部」では、藤井さんは準決勝で伊藤さんに負けて大号泣。伊藤さんは「藤井さんを泣かせた男」として紹介されることもあります。
伊藤さん この時は決勝に進んだのですが、一緒に教室に通っていた川島滉生(こうせい)くんに負けてしまって、悔しい思いをしました。
区長 そうした経験を経て棋士となり、八大タイトルの一つ「叡王」、そして昨年10月には第73期王座戦で、見事「王座」の位を勝ち取りました。タイトル戦というのは棋士にとってどういうものなのでしょうか。
伊藤さん そうですね、本当に小さい頃から、棋士になってタイトル戦に出たいという強い夢を持ってやってきました。子どもの頃はタイトルを持っている棋士というのは、ものすごく偉大な存在だと感じていたので、実際に自分がそのタイトルを取るということがなかなか想像がつかなかったところもあって、なんというか不思議な感覚もあります。
区長 タイトルは1年ごとに防衛戦やタイトル挑戦者決定戦が組まれ、追いつ、追われつの厳しい世界だと聞いています。そうした中で、心安らぐ時とか、将棋のことを忘れて空っぽになる時間はあるのでしょうか。
伊藤さん あまりないかもしれません。先ほど師匠もおっしゃっていたように、将棋が好きという気持ちが小さい頃から強く、将棋のことばかり考えてきた人生です。ふとした時も将棋のことが頭に浮かんでしまう、体に将棋のことが染みついている感じですね。

将棋の魅力は自分だけで考え抜いて、新しい盤面を創り出していくこと

区長 世田谷区制80周年記念に「羽生善治三冠と指そう」という催しを行いました。今から14年前です。この時の写真を見ていましたら、伊藤さんが羽生さんと将棋盤に向かっている写真が残っていました。覚えていらっしゃいますか?
伊藤さん 覚えています。羽生先生の前に座って、子どもたちが一人ひとり、かわるがわる一手ずつ順番に指すという形でした。羽生先生の前で良い手を指そうと意気込んで行ったら、なんかもうすでに結構メチャクチャな盤面になってしまっていて(笑)それがちょっと残念だった記憶があります。
区長 伊藤さんが将棋を始めるきっかけは、どんなことだったのですか。
伊藤さん 5歳の時のクリスマスに、「将棋の盤と駒がほしい」とサンタクロースにお願いしたみたいで。どうしてお願いしたのか自分ではあまり覚えていないのですが、それで始めました。
区長 宮田先生の教室の門をたたいたのはいつですか。
伊藤さん 将棋を始めて3か月くらい経った頃です。初めは父がルールを教えてくれたのですが、すぐに勝てるようになって。家の近所に師匠の教室があって、行ってみようということになりました。
区長 宮田先生、伊藤さんはどんなお子さんでした?
宮田さん 今とは違い、ほっぺがふっくらしているかわいい子どもでした。どのお子さんも強くなってくると、だんだん頬がこけてくるものなのですが、伊藤さんもプロになりたい、奨励会に入りたいと言うようになって、その通りになりました(笑)子どもの頃から落ち着いていて、わいわい騒いでいた記憶はあまりありませんね。
区長 将棋の才能というのは、その当時からお感じになっていましたか。
宮田さん 将棋で大切なのは集中力です。この子は強くなるだろうなという子は、集中力が違います。伊藤さんもそういう子の一人でした。それと、将棋が好きでたまらない。そういうお子さんは、目つきや雰囲気が違いますよね。でも私は彼に、「プロになりたいなんて言わずに、勉強して東京大学へ入りなさい」と話したんです。
区長 えっ、それはまたどうして。
宮田さん 自分でもよく分からないのですが(笑)、東日本大震災があった頃でした。だから今は将棋に打ち込むときではないんじゃないかなと思ったんですよね。
区長 伊藤さんはその時のことを覚えていますか。
伊藤さん そうですね。「勉強して将来は医者になるんだぞ」と、ずっとおっしゃっていただいたのを覚えています(笑)
区長 でも、いくら言われても、やはり将棋の方がよかったわけですね。
伊藤さん 最終的には将棋が好きという気持ちが大きかったですね。
区長 将棋の魅力はどこにあるのでしょうか。
伊藤さん 将棋は自分一人で考えて、先の先まで考え抜いて、指し手を選択していきます。そうした自分だけで創り上げていく世界が、おもしろいと感じるところだと思います。
区長 自分だけで創り上げていく……。
伊藤さん 子どもの頃は相手に勝つという気持ちでやっていたのですが、プロになって、創るという考えが生まれてきたように感じます。

盤面に向かったら大人も子どもも対等に勝負する将棋の世界

区長 宮田先生は、教室にやってくる子どもたちをどのようにご覧になっていますか。
宮田さん 小学1年生でも2年生でも、大人と対等に向き合えるのが将棋ですよね。子どもが大人と対等というのは、ほかの世界にはちょっとないことです。
区長 私も小学生に将棋で負けて、「全体をよく見た方がいいよ」と言われました(笑)
宮田さん 伊藤さんが奨励会に入る前だと思うのですが、ある大きな会社の役員の方と道場で対局したんです。その方は大学生の時に将棋部のキャプテンだったそうで自信があったと思うのですが、勝ったのは伊藤少年でした。対局後、その方が伊藤少年に聞くわけですね。「僕のどの手がいけなかったでしょうか?」と。すると伊藤さんは「この手はありがたかったです」と答えている。聞いていておかしくなりましたが、老若男女関係なく、強い者を認めて教えを乞う。これはよいものだなと思いました。
区長 宮田先生の教室は、子どもたちがものすごく強いと聞いています。また、棋士として活躍されている方もたくさん輩出されています。
宮田さん 最初に棋士になったのは斎藤明日斗、次は本田奎(けい)。みんな活躍しています。
区長 伊藤さん、宮田先生のご指導の中でどんな点が一番印象的でしたか。
伊藤さん 師匠には将棋とダジャレをたくさん教えていただきましたが(笑)、それ以外に将棋の心構えを教えていただき、それは今でも活(い)かされていることが多いなと感じます。
区長 心構え、ですか?
伊藤さん 将棋は「勝ちたい」ではなく、「強くなりたい」と思うことが大事だとおっしゃっていただきました。
宮田さん 強くなるためにはどうすればいいかを考えた方がよいということですね。
区長 伊藤さんも強くなるためには、AIを使って研究を深められたり、AIを参考に自分の棋譜を作られたりしている世代だと思うのですが、AIをどのように捉えていますか。
伊藤さん AIは本当に強い。棋士のタイトルホルダーが強いと感じる実力を持っています。このAIを活用することで、棋士はさらに実力を高め、よい手を追求していくことができるのではないかと思います。
宮田さん AIを参考にするのはよいですが、実力のない者がAIの推奨する手を鵜呑(うの)みにして、それを暗記するようでは本末転倒です。強くなるために努力すること、自分で考えることが、将棋ではもっとも大事なことです。
区長 AIは必要な時代だと思いますが、将棋のおもしろさや意外性とAIは、相容(い)れない感じもします。勝負において迷ったり、考え込んだり、苦しんだりする中に人を感動させるドラマが生まれるのですし、そこを我々は応援したいと思うわけですよね。
宮田さん AI同士で勝負しても、誰も関心を持ちません。人間と人間がやるからおもしろいのです。

伊藤匠さんのさらなる活躍で、世田谷区の将棋文化の裾野を広げる

区長 世田谷区では「誰もが文化・芸術を楽しめるまち」を掲げています。将棋文化の裾野をさらに広げ、深めていくためにはどんな取組みがあったらよいでしょうか。
宮田さん それは伊藤匠の活躍ですね(笑)伊藤さんは弦巻小学校の出身ですが、うちの教室にも弦巻小学校の子どもたちが何人も来ています。彼らに「どれくらい強くなりたい?」と聞くと、「伊藤さんに勝てるくらい」と答えます。こういう気持ちが将棋文化を支えていますね。
区長 伊藤さんには今後、区が主催する子どもたちを対象とした取組みにもご協力いただきたいと思っています。今年の抱負をお聞かせいただけますか。
伊藤さん 今年はこれまで以上に、将棋に集中する年にしたいなと考えています。まだまだ自分には、自分自身の将棋を強くする余地が残っていると実感することが多く、もっと実力をつけることができれば、さらにおもしろい将棋をお見せできるのではないかと感じています。
区長 では、伊藤さんを育てた宮田先生の今年の抱負をうかがいたいと思います。
宮田さん 子どもたちと変わらず将棋をやっていきたいですね。
区長 今日は貴重なお話をありがとうございました。
伊藤さん・宮田さん ありがとうございました。

12面のアンケートにご回答いただいた区内在住・在勤・在学の方(抽選4人)へ、伊藤匠さんのサイン入り色紙をプレゼント!

詳しくは、12面「アンケート あなたの声で、本紙・区のおしらせSETAGAYA(せたがや)をもっと読みたくなる紙面に」をご覧ください。

伊藤 匠さん

伊藤匠さんの写真

2002年10月10日生まれ。世田谷区出身の将棋棋士。宮田利男八段門下。5歳で将棋を始め、三軒茶屋将棋倶楽部で腕を磨き、2013年9月に奨励会に入会。2020年10月プロ入り。2024年には叡王のタイトルを獲得し、2025年には叡王の防衛に成功。さらに王座のタイトルも獲得するなど、若手トップ棋士として活躍中。得意戦法は相掛(あいが)かりや角換(かくが)わり。各分野で活躍する30歳未満の若者を選出する 「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2025」を受賞。

宮田 利男さん

宮田利男さんの写真

1952年10月29日生まれ。秋田県大曲市(現在の大仙市)出身の元将棋棋士。1968年奨励会に入会。1972年10月プロ入り。2017年5月、64歳で引退。通算539勝、最終段位八段。生粋の居飛車党(いびしゃとう)。多くの若手棋士を育成し、伊藤匠二冠などの師匠としても有名。世田谷区三軒茶屋で「三軒茶屋将棋倶楽部」を運営し、将棋の普及活動に尽力している。

 

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