2.植栽計画 (5ページ) (1)植栽のその前に 1)地域の個性を生かした植栽計画 世田谷区は、みどり豊かな住宅都市として知られています。この環境と風景は、世田谷の地域特性と歴史により形づくられた、貴重な財産といえます。 樹木などのみどりは、環境や風景の大きな要素となります。建築を行う場合には、街並みを踏まえ、世田谷らしい植栽を意識することが重要です。 植栽計画にあたっては、良好な環境や風景を将来に継承することに配慮し、建築敷地内に留まらず、敷地周辺にも目を向け、地域の個性や街並みを把握することから始めましょう。 (1)屋敷林や樹林地が残る地域では 近世の世田谷は、畑作を主とする江戸郊外の農村でした。農家の周囲には、屋敷林としてケヤキなど が植栽され、建築材等として活用されました。現在でも、区内随所に屋敷林が残っています。 また、薪や炭等の材料となる落葉樹の樹林も形成されました。その名残は、国分寺崖線の樹林地等で 見ることができます。この国分寺崖線に沿った住宅地では、現在でも、地形や既存樹木を上手に生かし た庭を見ることができます。 このように、屋敷林や樹林地の残された地域では、植栽もその風景になじむような樹種を選び、ま た、地形や既存樹木を積極的に活用することを検討しましょう。地域の風土を保全し、世田谷らしい風景 づくりにつながります。 (2)良好なみどりの街並みが残る地域では 大正〜昭和初期を中心に、区内随所に近代的な住宅地が開発されました。道路にはサクラなどの街路 樹が植えられ、接道部には大谷石の土留めや生垣が設けられたり、門被りの松が植栽されたりしまし た。そして、広い庭には様々な庭木が植えられ、みどり豊かな街が形成されました。 このようなみどりの街並みが残る地域では、既存樹木や生垣などを生かしたり、地域の景観に相応し いシンボルツリーを植栽したりすることで、街並みの連続性を保ち風景を維持していきましょう。 (3)みどりの少ない地域では 小規模な住宅や店舗などが集まり、みどりの少ない地域でも、軒先やベランダなど小さなスペースを活 用した小さなみどりが見られます。 みどりの少ない地域では、このような小さなみどりや、近隣にある公園や広場などとの連続性も考え た、植栽計画を立てましょう。 緑化する敷地がつながっていくことで、地域全体が落ち着いた風景となっていきます。 敷地周りの既存樹木群を生かすことは、地域の街並みの保全にもつながります。 2)敷地を知る(6ページ) 建築計画にあたっては、敷地全体をまず更地にしてから、建築物や緑化の設計をする例も多くみられます。 しかし、敷地内に既存樹木がある場合、まずは、これらの樹木をできるだけ保全・活用することを考えてみてくだ さい。既存樹木を可能な限り残すことを前提に、建築物や緑化の設計を行うようお願いします。 (1)建築計画を立てる前に 建築計画を立てる前に、まず敷地の状況を調べましょう。 敷地内に、既存樹木はあるでしょうか。ある場合は、敷地の平面図に樹木の位置を書き入れ、その樹 木の大きさ(幹周りの長さ・おおよその高さ)と名称(樹種)を調べておきましょう。幹周りの大きい立派な 樹木であれば、区指定の保存樹木等になっている可能性もあります。指定の有無について、必ず確認を してください。(P36「保存樹木制度」参照。) 既存樹木とともに、敷地内の土壌についても調べましょう。樹木が健全に育つためには、植栽基盤であ る土壌の質が重要です。敷地内に庭や樹林、畑など、現に植物が健全に育っている場所がある場合、 その場所の表土は植物の生育に適した良質な植栽基盤であると考えられます。 (2)実際の建築計画にあたって 実際の建築計画にあたっては、既存樹木と良質な植栽基盤の保全を考えましょう。 まず、可能な限り、既存樹木はその位置で残すことを考えてください。特に大木の場合は、移植にあた って根や枝葉を多く切ることになるので、樹勢が弱ったり、樹形が大きく乱れることもあります。できるだけ 既存の位置で残しましょう。 既存の位置で残すことが困難な場合、移植を検討しましょう。建築計画上、どうしてもその位置での保 全が難しい樹木も、移植によって適正な場所に再配置することができます。 (補足)世田谷区の緑化基準では、一定規模以上の既存樹木を保全(敷地内移植も含む)する場合、樹木本数基準の本数換算 が優遇されます。 既存樹木の保全とともに、植栽基盤の保全もできるだけ検討してください。良質の植栽基盤が存在す る場所を、そのまま保全して植栽できれば良いのですが、それが難しい場合は表土を採取して堆積保管 し、復元するという手法もあります。 もちろん、既存樹木を既存の位置で残すことは、そのまま植栽基盤の保全につながります。 敷地の調査 既存樹木の有無の確認 既存樹木の位置・大きさ・樹種の調査 土壌(植栽基盤)の調査 (7ページ)「植栽基盤の条件」) 建築計画にあたって 既存の位置での樹木の保全 (7ページ「既存樹木の保全」) 樹木の移植保全 (8ページ「移植」) 植栽基盤の保全 既存樹木や植栽基盤の保全に配慮した建築計画・緑化計画 3)植栽基盤の条件(7ページ) (1)土壌 土壌条件によって樹木の生育の良不良が左右されます。望ましい土壌は、適度な排水性(水を通す性質)・保水 性(水を蓄える性質)と、栄養分が備わっている土壌です。建築に伴う緑化の場合、重機の使用や建設廃材の取り残 しなどにより、土壌条件が悪くなっている場合があります。コンクリートガラなどの有害物を取り除き、硬くなった土を 掘り起こし、腐葉土などの有機物や土壌改良材を混入して、土壌改良しましょう。土壌条件が極端に悪い場合は、 客土(良質の土壌と入れ替え)も検討しましょう。 また、樹木を選ぶ際には、土の乾湿状態に合わせて乾燥に耐える樹木、湿地を好む樹木などを考えましょう。 (2)有効土層の広がり 根が無理なく張れる良質の土壌を、有効土層といいます。地上での生長を支えるために、有効土層は、水平方向(幅) で 樹木の樹冠の水平投影部分以上、垂直方向(厚さ)では、 高木 1〜2メートル程度、低木 30センチメートル以上 を確保する必要があります。 4)既存樹木の保全 大きな樹木は、その街の歴史を刻み、地域の人々に親しまれている街の財産です。 現在、敷地内に既存樹木がある場合、できるだけ切らないように建築計画を検討して、可能な限り既存の位 置で保全することを考えてください。 (1)保全の留意事項 建築にあたって、樹木の幹や根、枝が建物等の障害にならないかどうか調査しましょう。 また、建物の基礎のために根を切らなければならないときは、樹木が倒れないように支柱で支えましょ う。根の周辺の土を2方向以上掘り取ると、枯れる場合があるので注意しましょう。 (コラム) 既存樹木の保全と雨どいへの落ち葉対策 既存樹木を保全して建築をする際には、樹木の維持管理のことまで視野に入れる必要があります。意外 と盲点になるのが、屋根の雨どいに樹木の落ち葉が詰まって、雨水があふれてしまうことへの対策です。 建物近くで既存樹木を保全する場合や、すぐ近隣に大木がある場合、建物の建築段階から雨どいへの 落ち葉対策を講ずることで、雨どいの清掃等の手間を大幅に減らすことができます。 雨どいをつけずに済むような方法の検討や、清掃がしやすい構造の雨どいの設置、また、落ち葉がほとん ど詰まらない構造の雨どいなども販売されていますので、設置を考えてみてはいかがでしょうか。 5)移植 (8ページ) 既存樹木は、現状の位置でそのまま保全することが理想的ですが、建築計画上、その場で残すことが難し い場合は、移植も検討しましょう。 世田谷区では、地上1.5mの高さの幹周りが80cm以上の樹木、または高さ10m以上の樹木を移植する 場合、一定の条件により、移植費用の一部を助成する制度もあります。(36ページ「樹木の移植助成制度」参照) (1)根回し 根回しとは、移植をする前に堀取り時の根鉢を作る部分の根を切断し、切断部位より細根を出させる ことをいいます。移植後の樹木の活着を良くするために行われ、大木や、移植の難しい樹木を移植する 場合には、必要不可欠とも言える工程です。根回し後、半年以上、少なくとも夏を越さないと細根は出な いので、それを見越して計画的に行いましょう。 (2)移植に適した時期 移植は、できるだけその樹木の移植適期に行いましょう。活着率が高くなります。 ・針葉樹:2月上旬〜4月中旬、最適期は3月中旬〜4月上旬、続いて9月下旬〜10月上旬。 ・常緑広葉樹:4月上旬〜下旬、続いて6月中旬〜7月中旬。 ・落葉広葉樹:2月下旬〜4月上旬、続いて10月中旬〜12月中旬。 ・竹類:種類によって一定しないが、筍の出る1ヶ月前位がよい。一般的には3〜4月。 (3)樹種による移植の難易度の違い 樹木は、気候条件、根の形態と再生力、生長力により、移植の難易度が異なります。 (移植の容易な樹種の例) ・針葉樹:ヒマラヤスギ・サワラ・ラカンマキ ・常緑広葉樹:クロガネモチ・サンゴジュ・ツツジ類・アオキ・ヒサカキ ・落葉広葉樹:ヤマボウシ・ウメ・ハナカイドウ・サルスベリ・アジサイ・ハギ・ヤマブキ・ユキヤナギ (移植の難しい樹種の例) ・針葉樹:モミ・アスナロ・イタリヤサイプレス・コウヤマキ ・常緑広葉樹:ウバメガシ・タイサンボク・オガタマノキ・タブノキ・ゲッケイジュ・ユズリハ・オリーブ・ジンチョウゲ ・落葉広葉樹:カキ・ハクモクレン (2)樹木の選び方・大きさ別に考える (9ページ) 1)植栽する樹木の選び方 植栽する樹木は、末永くみどりを楽しみ育てていくことを前提に選ぶことが大切です。 (1)世田谷の風土に調和する樹木 昔からその地域で自然に見られた樹木や、植栽されてきた樹木は、比較的健康に育ちやすく、景観に もなじみやすいものです。 国分寺崖線の樹林地で見られる樹木や、屋敷林に植栽されてきた樹木、古くからの住宅街に植栽さ れ、風景になじんでいる樹木など、昔から世田谷で育ってきた樹木を見直してみてはいかがでしょうか。 (5ページ「地域の個性を生かした植栽計画」参照) ・樹種の例:コナラ・クヌギ・エゴノキ・ヤマザクラ・ケヤキ・シラカシ・エノキ・ムクノキ・ ヤマブキ・ムラサキシキブ・センリョウ (2)観賞価値がある樹木 花や実、樹形が美しい、葉や幹の色や模様が魅力的など、観賞価値がある樹木は、植栽樹として相 応しいものです。 (3)植栽がしやすい樹木 基本的に、幼木のほうが植栽(移植)が容易で、大きく生長した樹木ほど植栽(移植)が難しくなります。 ある程度生長した樹木を植栽する場合には、確実に活着させるためにも、できるだけ移植が容易な樹種 を選びましょう。(8ページ「移植」参照) また、市場性がある樹木は、価格と流通量が安定している上、活着しやすいように育苗されていること も多いので、こういった樹種を選ぶのも良いでしょう。 (コラム) 病気の中間宿主(ちゅうかんしゅくしゅ)となる樹種 植物の中には、病気の中間宿主(病原菌が最終的に寄生する終宿主に着くまでの間に、一時的に寄生 する相手の生物)となり、結果的に他の植物に病害を広めてしまうものがあります。 植栽樹として用いられるカイヅカイブキは、赤星病の中間宿主で、ナシに大きな被害を与えるほか、ハ ナカイドウやボケなどにも被害を与える可能性があります。 植栽計画を立てる際には、こういった点にも配慮しましょう。 (4)人とつき合いやすい樹木 地域の環境に合っている樹木 世田谷の気候に合っている樹木や、乾燥・大気汚染などの都市環境に強い樹木は、管理の手間が掛 かりにくく、管理がしやすい樹木と言えます。 (15ページ「乾燥に強い樹木の例」・10ページコラム「生活環境の改善に役立つ樹木」参照) 剪定の手間が掛からない樹木 高木では、生長が遅いものやあまり大きく生長しないもの、また、あまり剪定を必要としない樹木を選ぶ と、剪定の手間を減らすことができます。 ・あまり剪定を必要としない樹木の例:コウヤマキ・カクレミノ・コナラ・アカシデ・ヤマボウシ・ハナミズキ・ モミジ類・モチノキ・ヒトツバタゴ 剪定に耐える樹木 剪定に耐え、樹姿が乱れにくい樹木は、剪定により生長をコントロールできるため、管理がしやすいとも言 えます。 中木や低木では、剪定や刈り込みに耐える樹木を選ぶのが良いでしょう。 病害虫に強い樹木 病害虫に強く、肥料を施す必要がほとんどない樹木を選ぶことも大切です。 ・病害虫に強い樹木の例:コノテガシワ・アベリア・カクレミノ・キンモクセイ・ソヨゴ・ヤツデ・ユズリハ・ウツギ・ ウメモドキ・エゴノキ・トサミズキ・ナツツバキ・ニシキギ (コラム)生活環境の改善に役立つ樹木 大気浄化効果が高い樹木や、防火性が高い樹木など、生活環境の改善に役立つ樹木が 注目されています。 大気浄化効果が高い樹木は、汚染物質の吸収能力が高く、大気汚染に対して抵抗力が ある樹種で、ヤマモモ、ウバメガシ、シラカシ、スダジイ、マテバシイ、クスノキ、モッコク、 カクレミノ、モチノキ、アキニレ、コナラなどがあります。 防火性の高い樹木は、葉に水分を多く含み、直接火を受けない限り発火しない樹種で、 スダジイ、シラカシ、タブノキ、サンゴジュ、アオキ、ユズリハ、モッコク、タラヨウ、ツバキ、イチョウなどがあります。 ・大気浄化効果が高い樹木例 (ヤマモモ) ・防火性が高い樹木例 (モッコク)