3 維持・管理 (31ページ) 植栽したときは小さな苗木でも、樹木は年々生長していきます。また、特に植栽直後は樹木がその場所になじ んでいないため、適切な管理を怠ると枯れてしまう恐れもあります。 樹木が健全に生育できるよう、敷地の状況や、樹木の生長に応じた適切な管理が必要です。 本章では、植栽の維持管理に必要な情報を記載します。 (1)剪定、刈り込み 大規模な庭や広場等では、剪定を植木屋や造園業者などの専門家に依頼することがほとんどですが、でき るところは自分で剪定してみるのも楽しいものです。 また、自分で行うのが難しい場合でも、剪定の基本的な事項を知ることは、末永く樹木と付き合っていくため に欠かせないことです。 1)剪定の目的 剪定の目的は、発芽を促したり生長を抑制したりして大きさを調節すること、そして樹形を美しく整えることです。 また、剪定すると、枝葉の風通しがよくなって風雨や積雪による倒木や枝折れを防ぐことにもつながります。 (1)一般的な落葉樹 一般的な落葉樹の剪定は、葉が落ちて枝のつき方が良く分かる冬に行うとやりやすく、蜂などの危険な昆虫もいないので安心です。 冬は樹木が休眠しているので、切り口も痛みにくく、樹木の生理的にも適しています。 (2)一般的な常緑樹 常緑樹は、わずかですが冬でも活動しています。また、暖かい地方に分布するものが多いので、冬に大量の枝葉を切ると、 寒さで樹木が弱ってしまいます。剪定は、少し暖かくなりかけた3〜4月頃に行います。 (3)花を楽しむ樹木 花を楽しむ樹木(花木)では、剪定時に花芽を切ってしまうと、開花に支障が出ることがあるので注意が必要です。 特に、ツツジ類、ジンチョウゲなどは、夏季に花芽が分化されるので、6月中旬までに剪定や刈り込みを終わらせます。夏の後に刈り込むと、 翌年の花付きが少なくなってしまいます。 基本的に、花木は、花が終わった直後を剪定の目安にすれば、ほとんど間違いありません。 3)剪定の方法  (32ページ) (1)枯れ枝、折れ枝を切る まず最初に除去する枝は、枯れ枝、折れ枝、病気の枝です。特に高木の枯れ枝は、いつ折れて落ちて くるか分からず、大変危険ですので、見つけ次第早めに取り除きましょう。 (2)バランスを見て切る 樹種にかかわらず、樹形を乱す枝や生育上不要 な枝(徒長枝、平行枝、逆さ枝、からみ枝、ふところ 枝、幹ぶき、ひこばえなど)は剪定します。 また、高く伸びすぎた枝や、道路や隣地に支障となっている枝の有無を確認し、もしそのような枝があ ったら切り取ります。 樹木全体の枝付きを見ながら、樹形が偏らないように剪定します。 (コラム) 剪定の目的と技法 〜剪定は、その目的によって様々な技法があります〜 <主に、混んだ枝の中すかしのための技法> 骨格となる枝を選び、その枝の伸びを考慮して周辺の不要な枝をつけ根から抜き取ります。「枝抜き剪 定」と言います。 <主に、樹冠の形を整えるための技法> 樹冠外に飛び出した新しい枝を、樹冠の大きさが整う長さに、芽のすぐ上の位置で剪定します。「切詰 め剪定」と言います。 <主に、樹冠を小さくするための技法> 適正な分岐点より長いほうの枝をつけ根から切り取ります。骨格となっている枯れ枝や古い枝を切り取る場 合は、後継となる枝の発生する場所を見つけて、その部分から先端の枝を切り取ります。「切返し剪定」と言 います。 4)刈り込み (1)刈り込みの方法 刈り込みは、生垣や低木の寄せ植え、仕立物などの形を整えるために行います。仕立物の刈込みは難 しいため、専門家に依頼する必要がありますが、一般的な生垣や寄せ植えであれば、自分で刈り込むこ ともできます。 枝の密生した箇所は、内部に日光を入れるために中すかしを行い、樹冠の外側のラインを一定の形に 添わせて切ります。 生垣は、樹木上部の枝を強く、樹木下部の枝を弱く刈り込むと、裾のラインを美しく保つことができます。 なお、自分で管理する場合、あまり高くせず、刈りやすい高さにしておくと維持管理しやすいでしょう。 (2)刈り込みの回数と時期  (33ページ) 樹種や萌芽力によって、年1〜3回程度行います。 年1回の場合は、6〜7月に行い、ほとんどの樹種はこの時期に行って差し支えありません。 年2回の場合は、新芽が生長を休止する5〜6月と、土用芽が生長を休止する9〜10月に行います。 イヌツゲ、カナメモチ、ヒイラギなど萌芽力の強い樹種に適しています。耐寒性のない樹種や花芽分化後 の花木では、9〜10月の刈り込みは控えましょう。 年3回以上の場合は、萌芽力の著しく強い樹種や、仕立物で常に同じ形を保つ必要のあるものなどに行います。 5)枝葉の処理 剪定によって出る樹木の枝葉や落ち葉は、適切に処理する必要があります。専門業者に剪定を依頼した場合は、業者が枝葉の処理 まで行うことができますが、自分で剪定した場合は、家庭ごみとして処理することになります。 落ち葉や枝に生ごみを混ぜて、堆肥を作ることもできます。コンポスト化容器を活用すると、比較的簡単に作ることができます。ごみと して処分してしまわずに、資源として有効利用することも考えてみましょう。 <堆肥の作り方> 1.コンポスト化容器は、排水がよく日あたりの良い場所の地面に設置します。 2.剪定枝はハサミで1〜2cmの長さに切り、落ち葉や生ごみはよく水を切って乾かします。 3.枝葉・生ごみと、乾いた土をサンドイッチのように交互に重ねて入れます。できるだけ水分を少なめに保つことがポイントです。 4.空気の流通をよくするため、月に1度程度、かき混ぜましょう。 5.落ち葉や生ごみで作った場合は、4ヶ月〜半年くらいでできあがりますが、剪定枝を入れた場合、10ヶ月〜1年くらい掛かります。 家庭ごみの出し方の注意 枝葉を家庭ごみ(可燃ごみ)として出す場合は、枝の長さを50cm以下に切り束ねるか、東京23区推奨のごみ袋に入れ、収集 日に少しずつ出してください。45リットルのごみ袋で3袋までが目安です。 一度に大量に出す場合は、事前に清掃事務所に相談してください。 <コラム> 隣地境界付近の樹木の越境 隣地境界付近にある樹木は、生長とともに枝や根の一部が隣地へ越境してしまうことがあります。 民法上の規定では、樹木の枝が隣地の境界線を越えているとき、隣地住民は、その枝を勝手に切り取るこ とはできませんが、樹木の所有者に対してその枝の切り取りを請求できます。(民法233条) なお、樹木の根が隣地の境界線を越えているときは、隣地住民は、その越えた部分の根を切り取ること ができます。(民法233条2項) 法律ではこのように規定されていますが、法律による解釈よりも、まずは近隣同士でよく話し合って解決の 道を探っていきましょう。 (2)落ち葉の清掃  (34ページ) 落ち葉の清掃は最も日常的な管理ですが、特に大木や樹林地付近では、落葉シーズンに大量の落ち葉が降り注ぎます。 剪定によって樹木の越境等を防ぎ、定期的に落ち葉の清掃を行うとともに、所有者や近隣の方、みんなで 助け合って管理していきたいものです。 1)落ち葉の清掃 敷地外の道路や通路に落ちた葉を放っておくと、通行の支障になったり、衛生上の問題も発生します。落 葉のシーズンには、定期的に清掃するよう心がけましょう。 一方、庭や植込地の土の上に堆積した落ち葉は、土の乾燥を防ぎ、保温効果もあります。土壌も豊かにな りますので、できるだけそのまま残すと良いでしょう。 2)雨どいの清掃と落ち葉対策 戸建住宅では、落ち葉が屋根の雨どいに詰まって、雨水があふれてしまう様子がよく見られます。 雨どいの清掃は高い場所での作業になるので、雨どいの位置や敷地の状況によっては、個人での清掃が難しい場 合もあります。植木屋や造園業者に樹木剪定等を依頼する際に、雨どいの清掃も併せて依頼するなど、定期的に処置しましょう。 また、雨どいに落ち葉を詰まりにくくする装置やネットも販売されています。これらの製品は、雨どいの清掃の頻度を一定程度、 減らすことができます。細かい葉ではネットに葉が突き刺さってしまうことがあるなど、設置にはあたっては十分な検討が必要です。 可能であれば、建物の建築段階から雨どいへの落ち葉対策を講ずることが理想的で、より抜本的な対策を講ずることができます。 (7ページ「既存樹木の保全と雨どいへの落ち葉対策」参照) <コラム> 落葉樹・常緑樹 樹木は葉の性質から、冬に葉を落とす落葉樹と、一年を通して葉が茂っている常緑樹に大別されます。 落葉樹は秋から冬の落葉シーズンにすっかり葉を落とすため、清掃の負担も考えて、植栽計画を立てましょう。 常緑樹はあまり落葉しないと思われがちですが、多くの樹木が春から初夏の芽吹きの時期に古葉を落とすため、 この時期にまとまって落葉します。落葉樹でも常緑樹でも、落葉の清掃は欠かせません。 (3) 病気や害虫の防除  (35ページ) 病気や害虫は、まず何よりも、その発生を予防することが大切です。専門家に任せきりにするのではなく、 所有者や近隣の方、みんなで樹木の病気や害虫を見つけ、被害が小さいうちに処置しましょう。 1)病気や害虫の防ぎ方 病害虫の予防策 病害虫の発生を防ぐには、樹木を丈夫に育て、病害虫に対する抵抗力を付けることが一番です。 日あたりが十分でなく、風通しが悪いといった環境は、病害虫の温床となります。枝をすかせて樹木の内部まで日光を入 れ、風通しを良くしましょう。また、枯れ草、ゴミくずなどは害虫や病原体の越冬場所となりますので、早めに処理しましょう。 病害虫の早期発見 日ごろから樹木の様子に気を配り、早期発見に努めましょう。早めに対処することで、少ない手間で防除でき、 被害も最低限度に抑えることができます。 2)被害を見つけたら 害虫の場合 虫本体を見つけて、直接捕殺するか、虫のついている枝葉を切り取り、廃棄処分します。 害虫の中には、一時的に大発生しても、人的被害や植物に対する被害は看過できる程度にとどまり、やがて自然といなく なるものもあります。このような害虫の場合、放置して虫がいなくなるのを待つのも一つの方法です。 病気の場合 病気にかかった枝葉は、早めに切除して廃棄処分します。アブラムシやカイガラムシがついている場合は、病気の温床 となるので、かき落としましょう。 被害が酷い場合や病気の種類によっては、外科的治療や植え替え等が必要になってくることもあります。専門家に相談 しましょう。 <コラム> チャドクガの対処法 チャドクガは、幼虫がツバキ、サザンカ、チャノキなどツバキの仲間を食害する害虫です。全身に無数の毒毛を有し、直接触れ たときはもちろん、抜け殻に触れても炎症を起こすので注意が必要です。 チャドクガの幼虫は、4〜9月の間に年2回発生します。発生初期は、葉の裏に固まって群生するため、その部分の枝を切り取 り、廃棄処分します。その後、樹木全体に分散するため、個人での駆除は難しくなります。できるだけ早期発見、早期駆除する よう心がけましょう。枝を剪定しておくと駆除しやすく、発生の予防にもなります。