はじめに 世田谷は、23区の中でも比較的、自然環境に恵まれています。一方、宅地開発や農地転用などにより 自然環境や様々な生きものの減少が危惧されています。 地球全体を見た場合も、人類に様々な恵みをもたらす、生きものとそのつながりが刻一刻と失われつつ あります。 生きものとともにある暮らしと、みどり豊かな環境を次代に引き継ぐためにも、今、私たちは何ができ るか、何をすべきかを考え、行動しなければなりません。 そこで、区は住宅都市のリーディングモデルとなる生物多様性地域戦略を「生きものつながる世田谷プ ラン」として策定し、皆で取り組みを実践していきます。 私たちの暮らしと生物多様性のつながり 生きものたちは、樹林や草地、川、湿地、池、公園、庭など、それぞれの生息・生育に適した環境で生 きています。そして、食べる・食べられる、寄生する・される、共生するなど、お互いに関わりをもっ て生きています。このように、多様な生きものが、互いに関係しながら生きていることを「生物多様性 」といいます。 私たち人間も暮らしのなかで、食料や水、気候の安定など、心のやすらぎや豊かな景観など、生物多様 性から多くの恵みを受け取っています。生物多様性は、地球上のあらゆる生命を支えている大切なもの です。 世田谷の生きものの現状 南西部は多摩川や国分寺崖線などのまとまった緑が多く残り、中央部は住宅の中に社寺林や農地が点在 し、東部は都心に近く開発が進んでいるという特色が見られます。2015 年(平成27 年)に現地調査で 確認された生きものの一例を地域ごとに紹介します。 みどりの連続性が高い地域 キンラン、サワガニ、ハグロトンボ、ミシシッピアカミミガメ 住宅地の中に中・小規模緑地が点在する地域 イヌタデ、ヒバリ、ニホンカナヘビ、アライグマ 市街化が進み比較的みどりが少ない地域 ホタルブクロ、ニホンヤモリ、ツマグロヒョウモン、ガビチョウ 生物多様性の視点でとらえた特長と問題点 みどりの連続性が高い地域 特長 国分寺崖線・多摩川、等々力渓谷などみどり豊かな環境 屋敷林、社寺林 ボランティア活動が活発 問題点 生きものの生息・生育環境の量と質の低下 住宅地の中に中・小規模緑地が点在する地域 特長 みどり豊かな住宅地 大蔵大根などの伝統野菜 区民農園、農業体験農園、農業公園などの整備 問題点 農地や民有地のみどりなどの減少 市街化が進み比較的みどりが少ない地域 特長 商店街等での緑化 建物の屋上・壁面の緑化 雨水貯留施設の整備 問題点 自然とのふれあい機会の減少 プランの役割 本プランは、生物多様性国家戦略や東京都の「緑施策の新展開」を踏まえ、世田谷区基本構想・基本計画 を上位計画とし、都市整備方針や環境基本計画などの関連計画と連携を図りながら、生物多様性の視点を 持って、より良い街づくりを進めていくための計画です。 対象区域 世田谷全域 対象期間 策定から2032(平成44)年まで 理念 環境共生をリードする住宅都市として、区民との協働によって生物多様性の保全と持続可能な利用を進め 、豊かな地球環境の一部となる世田谷の地域環境を次代に伝えていきます。 将来像 みどり・生きもの・ひとがつながって、生物多様性の恵みをみんなが実感し、大切にしている街・世田谷 将来像(1)3つの地域ごとの将来イメージ @みどりの連続性が高い地域「多摩川・国分寺崖線エリア」 ・国分寺崖線・多摩川のみどりとみずが保全され、生きもののネットワークが広がっています。 ・公園緑地では、区民協働の整備や維持管理・運営が 進んでいて、生きものが保全されています。 ・多摩川周辺でのみどりや生きものの保全活動が盛んに 行われ、生きもの観察・体験の場が広がってい ます。 A住宅地の中に中・小規模緑地が点在する地域「住宅地エリア」 ・体験農園・区民農園や農業公園が増え、区民が農を生活に取り入れています。 ・住宅地に庭木、水鉢、プランターなど生きものを 呼ぶ工夫がされています。 ・公園緑地や住宅のみどりには、区民の協働によって、在来種の緑化が行われています。 B市街化が進み比較的みどりが少ない地域「市街地エリア」 ・商店街などで「せたがやそだち」を使ったイベントが行われています。 ・建物の周辺や屋上・壁面にみどりとみずの空間がつくられ、生きものが集まっています。 ・市民緑地や小さな森において、区民協働による在来種の保全が行われています。 将来像(2)生きものネットワークのイメージ 1 広域的な生きものネットワーク 生きものの生息・生育する環境は、区の南西部にある自然環境に恵まれた国分寺崖線や多摩川など、大小 様々な公園緑地、住宅や学校のみどりがつながることで、世田谷周辺の生田緑地、井の頭公園、武蔵野公 園、明治神宮、新宿御苑、皇居などのみどりとみずに恵まれた緑地につながり、区境を越えて広域的な生 きものネットワークとなります。 2 区内の生きものネットワーク 区内の生きものの生息・生育する環境は、みどりとみずの軸(国分寺崖線や多摩川)、みどりの軸(河川 、水辺、緑道)、みどりの拠点(大規模公園やまとまりのあるみどり)、まちなかのみどり(宅地のみど りや中小規模公園)のそれぞれがつながることで、区内の生きものネットワークが形成されます。 将来像を実現するための3つの柱 1 生物多様性を「守り、育てる」 世田谷では、国分寺崖線や湧水の保全、みどりの創出に積極的に取り組んでいますが、本プランにより、 生物多様性に配慮したみどりの保全・再生、創出をより一層推進していきます。 2 生物多様性のために「協働する」 生物多様性の保全には、生きものを守ることと同時に、地域の経済活動と生物多様性を育む自然環境が調 和する地域づくりが必要です。そのため、 行政、区民、事業者、教育機関等の多くの主体との連携・協 働を推進します。 3 生物多様性の恵みを「理解し、楽しみ、伝える」 世田谷の文化や歴史に育まれた自然環境を次代へ継承するためには、様々な世代が世田谷の生物多様性を 理解し、次代へ伝えることが重要です。生物多様性についての普及啓発や世田谷らしい地域資源を伝えて いきます。 取り組み主体 生物多様性の恵みを受ける8つの主体が、それぞれの役割を認識し、連携することによって実行力と継続 性を持って取り組んでいきます。 世田谷区、一般財団法人世田谷トラストまちづくり、区民、事業者、活動団体、教育・研究機関、関係自 治体、国・東京都 取り組み体系 1 生物多様性を「守り、育てる」 目標1. 多様な生きものが生息・生育する場を保全する 取り組み方針1-1.国分寺崖線の保全 取り組み方針1-2.景観の保全 取り組み方針1-3.河川・水辺の保全 取り組み方針1-4.農地の保全 取り組み方針1-5.民有地・公共用地のみどりの保全 目標2. 多様な生きものの生息・生育に配慮した場を創出し、生きものネットワークを形成する 取り組み方針2-1.河川・水辺のネットワークづくり 取り組み方針2-2.公園緑地のネットワークづくり 取り組み方針2-3.民有地・公共用地の生物生息空間づくり 目標3. 外来種および野生生物の適正管理および共生に向けた普及啓発に努める 取り組み方針3-1.外来種や野生生物への対応 目標4. 生物多様性の恵みを分かち合うために、様々な主体や施策を相互に連携・協働する 取り組み方針4-1.国や関係自治体との連携 取り組み方針4-2.区民の活動を活性化する仕組みづくり 目標5. 生物多様性の向上のために自ら進んで行動する多様な主体を増やす 取り組み方針5-1.生物多様性に関わる活動の活性化 目標6. 生物多様性に関する情報を一括して管理・発信できる仕組みを整える 取り組み方針6-1.生物多様性に関わる情報整理、発信の仕組みづくり 目標7. 多様な主体が生物多様性の恵みを身近なこととして理解する 取り組み方針7-1.生物多様性の普及啓発 目標8. 将来にわたって恵みを享受し続けるための人材育成・教育の仕組みを整える 取り組み方針8-1.生物多様性に関わる体験・学習の場づくり 取り組み方針8-2.生物多様性保全の人材育成 目標9. 生物多様性とともにある世田谷の伝統文化を継承する 取り組み方針9-1.世田谷らしい農の継承 取り組み方針9-2.歴史・伝統文化の継承と活用 リーディングプロジェクト 9つの目標を総合的かつ効果的に達成するために、先導的に進めていくプロジェクト事業を、 リーディングプロジェクトとして立ち上げます。これは、区民など各主体がそれぞれの立場から取り組み に参加していくに当たっての、いわば最初の一歩となることも期待されるものです。 @生きもの拠点づくり プロジェクト ・生物多様性に配慮した公園設計や管理の手法を構築したうえで、それに基づくネットワークを考慮した 新たな拠点を含む、公園緑地の整備や管理を実施します。 ・生きもの拠点を、区民が自然との関わりについて体験し、学ぶ場として活用します。 Aちょこっと空間づくり プロジェクト ・庭やベランダに生きものを呼び込む工夫を学び実践し、観察記録などを報告して、広く共有する「生き ものモニター制度」を始めます。 ・「植栽ガイドブック」を改訂し、区民や事業者等に生物多様性に配慮した緑化を普及啓発します。 Bせたがやカレー プロジェクト ・農業公園で活動する区民団体、農業関連団体、学校との連携を進めます。 ・せたがやそだちなどの区内農作物を使った、カレーなどをつくるイベントを実施することで、生物多様 性への関心の向上や、農地の大切さの理解を進めます。 C世田谷生きもの会議 プロジェクト ・様々な主体が連携して情報を共有し、生きもの調査なども行う、「世田谷生きもの会議」を創設します。 ・各活動団体等の活動がより充実したものになるよう、専門家の派遣制度をつくります。 進行管理 個々の取り組みとリーディングプロジェクトは、別途『生きものつながる世田谷プラン行動計画』を策定し 、着実に推進していきます。行動計画は、区が年度毎に進捗状況を把握し、環境審議会に報告しつつ、庁内 で評価・検証して、個別取り組みのその後の進行に活かすことにより、計画を確実に進めます。 詳細は 世田谷区 みどり33推進担当部 みどり政策課 にお問い合わせください。