世田谷区路上ベンチ等設置指針 令和3年8月31日 世田谷区 はじめに この指針の目的は、単に“物質としてのベンチ設置”が目的ではない。我々が休憩場としての座れる場所を提供することにより、すべての歩行者が安心して快適に移動できるようになることが目的である。その先には、様々な人がまちに出る機会の創出につながり、ひいては将来の地域づくり・まちづくりにつながる一翼を担っている。 座る、ひと休みする、といった機能さえ満足できれば、かたちには拘らない。例えば、何もない殺伐とした河原を歩き、疲れ果てて「やれやれ」と腰を下ろす際どうするか?なるべく近くにある、他より少し背の高い、上面がなるべく平らで座り心地の良さげな石を見つけて腰を下ろすだろう。道路や沿道においてもそれで良いのである。 しかし、都会の道路にはそんな丁度良い石はない。それに代わるモノを置くことについて記したのが本指針である。 創意工夫を凝らし、関連する所管が一丸となって座れる場づくりに取り組んでいきたい。  この指針は、「世田谷区座れる場づくり検討会」において、世田谷区自らが管理する道路において、道路法に基づく附属物として設置・管理するベンチ等の技術的指針についてとりまとめたものである。 世田谷区座れる場づくり検討会  高齢福祉部介護予防・地域支援課  道路・交通計画部交通政策課  土木部土木計画調整課  土木部工事第一課  土木部工事第二課  都市整備政策部都市デザイン課(事務局) 目次 第1 方針編 第2 技術指針編 第3 整備目標 参考資料 第1 方針編 1 背景  1950年、一人の65歳以上の者に対して現役世代(15歳から64歳)は12.1人であった。しかしその後、日本の高齢化は進み続け2015年は2.3人、2065年には1.3人になると予測されている。折しも2020年の敬老の日にあわせて総務省から、「日本の高齢者人口の割合は世界で最高となった」と発表された。日本は既に世界でも経験したことのないような超高齢社会に突入しているのである。  世田谷区においても、団塊ジュニアの世代が65歳に達する2040年には高齢者人口が現在より6万5千人増え、約25万人となることが予想されており、健康寿命の延伸のための介護予防や社会参加の促進、支援を必要とする高齢者の生活を地域で支えるための取り組みが進められている。  このような状況のなか、東京2020大会ホストタウンの中でも特に先導的な行政団体である「先導的共生社会ホストタウン」に自ら手を挙げた世田谷区は、全国をけん引するような様々な取組を進める責任があり、加齢や病気により歩く力が低下していても、安心して社会参加や買い物などの日常生活が送れるよう、まちづくりという側面で支えることもそのひとつとして挙げられる。  更に、令和元年には国の提唱するウォーカブル推進都市に賛同し、「居心地が良く歩きたくなるまちなか」づくりを進めるため、より一層「歩くこと」の意味について深化させる時期に来ている。 2 位置づけと役割  この指針は、「座れる場づくりガイドライン」を補足し、道路内にベンチ等を設置する際に必要な考え方・基準・整備目標などを記したものである。 補足 座れる場づくりガイドラインとは、世田谷区ユニバーサルデザイン推進条例第7条に基づく「世田谷区ユニバーサルデザイン推進計画(第2期)後期」のひとつである「だれでも使えるトイレとベンチ等の休憩施設のネットワーク整備」における具体的な手引きであり、「世田谷区ユニバーサルデザイン推進条例施設整備マニュアル」の整備基準を補完するものである。 ベンチ等とは、世田谷区標準構造図集に記載のベンチ(背付・背無)及びスツールの他、花壇の縁、車止め柵、サポートタイプベンチ、省スペースベンチなど座れるように設えたもの或いは座ることが可能な施設全てをいう。 3 方針  外出を支える座れる場の多い安心なまちを創るなかで、ベンチ等を設置する歩道において利用者の安全に十分配慮し、沿道住民の理解を得ながら、設置可能な場所に適切なベンチ整備を推進する。 第2 技術指針編 1 有効幅員との関係 (1)ベンチ等が設置可能な歩道幅員及び歩道有効幅員    道路は自動車や歩行者、自転車等の安全かつ円滑な交通を確保する基本的な機能をはじめ、沿道施設への出入り、自動車や歩行者の滞留等の交通機能の他に、市街地の形成、防災、環境、収容空間等の機能を持っている。    ベンチ等を設置する場合、ベンチ等本体の規模に加え、人が座った場合の寸法も考慮したうえで、歩行者のための有効幅員を確保する必要があることから、幅員3.5m以上の歩道であればベンチ等の設置は可能である。 この場合、歩道有効幅員は、ベンチ等に人が座った状態の幅を考慮したうえで、車いす使用者同士がすれ違える歩道有効幅員2.0m以上の確保に努めること。 一方、現在様々なタイプのベンチ等が製品として開発されていることから、幅員3.5m未満の歩道においても歩行者の交通量なども十分に考慮したうえで、ベンチ等の設置を検討する。なお、歩道幅員が狭く2.0m以上の歩道有効幅員を確保することが困難な場合は、ベンチ等に人が座っていない状態で歩道有効幅員を2.0m以上確保できるベンチ等の製品選択を検討すること。    この場合、所轄警察署と個別に協議を行うこと。 補足 歩道幅員が狭く2.0m以上の歩道有効幅員を確保することが困難な場合は、ベンチに人が座っていない状態で2.0m以上確保する。この場合、所轄警察署と個別に協議を行うこと。 2 ベンチ等設置位置  ベンチ等の設置が考えられる場所とその設置例 (1)歩車道分離された道路の歩道の部分 (2)道路区域内の残余地の部分で交通の支障とならない部分 (3)バス停付近 (4)信号機の有る横断歩道において、荷物置き、小休憩のための1人用スツール等の設置場所として植栽帯の端部等 (5)植栽帯の縁などを利用したタイプ (6)防護柵兼用 (7)道路代替地を道路区域に編入した場所を活用 3 安全対策 (1)留意事項      ア ベンチ等の路上への設置にあたっては、ベンチ等又はベンチ等利用者と歩道内を通行する自転車又は歩行者との接触が懸念されるため、接触が起きない配置となるよう十分な検討を行うこと(ベンチ等側面付近にポストコーンを設置する、座る際に足を投げ出しづらい仕様とする等)。 イ 歩行者自転車柵を兼ねたベンチについては、ベンチ利用者と車道を通行する車両との接触が懸念されるため、接触が起きない配置となるよう十分な検討を行うこと(歩車道境界からの離隔を十分に確保する、背もたれを高くする等)。 ウ 交差点又は横断歩道付近に設置する場合は、交差点内及び交差点付近の見通しを確保し、ベンチ等利用者による死角が生じないような位置に設置すること。 エ 設置計画を策定する際には、歩道における歩行者及び自転車の交通量を考慮するなど、交通の支障とならないよう計画すること。 オ 実際に設置する際には、上記事項を検討したうえで、必要に応じて設置場所を管轄する警察署と調整すること。 (2)設置例    歩道の車道寄りにベンチ等を設置する場合は、ベンチ利用者と車道を通行する車両との接触が起きない配置となるよう検討する。 (3)ベンチ等又はベンチ利用者と歩道内を通行する自転車又は歩行者との接触が起きない配置となるよう十分な検討を行うこと。また、夜間の視認性等を考慮し、必要に応じてベンチ本体への反射材貼付、もしくは、ポストコーン等を設置する。なお、ベンチ等の前方等にポストコーンを設置する場合は以下を参考にすること。ポストコーンは反射材付きとする。 コラム 安全・安心で利用しやすいやさしい設え 路上に設置するベンチ等は、高齢者、歩行や移動に障害のある人、妊婦や子どもを抱えた人など、長時間連続して歩くことが難しい人にとって休息の場として利用しやすいよう、以下のことに配慮をするとよい。 (1)手すり  ベンチから立ち上がる際、ベンチ本体もしくはすぐ脇に手すりがあると動きが楽になる。縦手すりは座面に近すぎると、腕力に頼ることとなり、また、立ち上がった時に、手すりが背中のほうにまわり、肩に負担がかかる。体重の移動がスムーズになるよう、縦手すりは、座面から斜め前方に25cm程度離すことが望ましい。 (2)座面の高さ  低い座面に深く座ってしまうと、立ち上がる時に膝や太腿への負担が大きくなり、より多くの力を必要とする。そのため、座面の高さは40〜45cmを目安とするとよい。 (3)座面の角度  立ち上がる動作は、踵を後ろに引いて軽く頭を下げ、重心を前に移動する動きを無意識に行っている。立ち上がる際の前方への重心移動をやりやすくするための体をかがめる動作(骨盤の前傾)の補助として、座面の傾斜は水平か若干前傾(目安は3°〜4°)位が望ましい。(下図、骨盤傾斜に注目) (4)座面の色  座面の色は、周辺と明度差をつけることで、視認能力が低下した方も見つけやすくなる。 (5)地面のぬかるみ等への配慮  足元は平坦性を保ち、ぬかるみにならない、滑りにくい等環境に配慮することが望ましい。 (6)緑陰  座れる場所の周辺に日陰、木陰、植栽があると心身にとって快適さが増す。 4 植栽帯との関係  座れる場は、休憩施設としての空間設置であることを念頭に、座った際の快適さにも配慮されていることが望ましい。周辺の植栽、夏場の木陰、冬場の日向が提供が理想であり、ベンチ等の近傍に落葉樹などの植樹がそれらを可能とする場合が多い。  なお、やむを得ず、既設植栽帯の一部を撤去してベンチ等を設置する場合は、「世田谷みどり33」の取組みに配慮する。  当該植栽帯に求められる機能を総合的に発揮させ、道路空間が地域の価値向上、周辺環境との調和に留意するため、専門知識を有する公園緑地課担当職員と事前に調整をすること。 5 埋設物との関係 (1)ベンチ等設置を前提とした埋設物調査を事前に実施すること。 (2)既設埋設管等への影響を考慮し、ベンチ等の基礎設置形状を選択すること。 第3 整備目標 1 整備目標  座れる場が100m〜200m程度の間隔となるよう設置を検討する。ただし、沿道の施設(総合支所、まちづくりセンター、出張所、図書館、区民センター、地区会館など日中であれば休息がとれる区の施設)や、公園、緑道、バス停ベンチ、民設ベンチ等がある場合は、これらを含み座れる場が100m〜200m程度の間隔となるよう設置を検討する(次頁 モデルケース参照)。 補足 既存研究によると高齢者が望むベンチの設置間隔は「100〜200m程度」が最も多い。 「高齢者を考慮した歩行空間の休憩施設設置に関する研究」  三星昭宏、北川博巳他 土木計画学研究・論文集 1999年10月 考え方 ・既存研究によると、「設置希望間隔は、200mで約半数がカバーされ、100mでは約8割の高齢者をカバーすることができる。」とある。 ・既設ベンチ等の設置状況(公共施設、公園、バス停、民設、いずれも座ることが可能な花壇等も含む)により、合理的な配置ができるよう検討する。 ・設置するベンチ等は、ゆったりと座らせるものなのか、ひと休みの場を提供するためのものなのか等、その狙いを明確にしたうえで製品を選定する。(座れる場づくりガイドライン参照) ・ベンチ等設置に地先の理解が得られない場合は、やむを得ず設置を見送る。 駅前広場におけるベンチ等整備目標について 駅前広場は、交通の起終点の要素があり人の滞留を前提とした道路空間である。 しかしながら現在、人の滞留という行動に対するベンチ等の設置数を算出する適切な計算式が無い。 そのため当面の対応として、既存の駅前広場については、現状のベンチ等数を維持するとともに、区民から設置要望があった場合は、現状の利用状況などを考慮し柔軟な対応を検討すること。 参考資料 ベンチ等設置ガイド @配置計画  ベンチ等を含む座れる場が100m〜200m程度の間隔になるよう配置を計画する。 A利用目的  ベンチ等には様々な利用目的が考えられる。立地、周辺の状況、人通りなどを考慮し利用目的を想定し、相応しいタイプを選定する。 ・休憩 ・待ち合わせ ・交差点での信号待ち ・バス待ち ・まちを眺める ・会話を楽しむ ・子どもと遊ぶ ・その他 Bベンチのタイプ 標準構造図集に記載されている、「ベンチ背付」、「ベンチ背無」、「スツール」のほか、省スペースタイプや、防護柵兼用のベンチ、植栽帯の縁に腰をおろすタイプなど、様々な形状のものがあり、製品化されている。 C設置場所 ・単断面道路は、ベンチ等設置不可。 ・原則は、人が座った状態で歩道有効幅員2.0m以上確保。 ・歩道幅狭く困難な場合は、人が座っていない状態で2.0m以上を確保。 D設置の向き  ベンチ等の設置の方向は車道向き、民地向きのほか、縦断方向も考えられる。 E安全対策  歩行者や自転車との接触が懸念される場合は、予めポストコーンなどの設置を検討する。 F警察署調整 G地先への説明  超高齢社会の現状などの背景から、「外出を支える座れる場の多い安心なまちを創る。」といった方針を必要に応じて説明する。 世田谷区路上ベンチ等設置指針についての問い合わせ 世田谷区都市整備政策部都市デザイン課 電話番号    03-6432-7252 ファクシミリ  03-6432-7996