三軒茶屋駅周辺まちづくり基本方針 世田谷区2019. 3 本基本方針の構成と目次 本基本方針の構成を以下に示す。 構成図 なお、本基本方針の第1章から第4章については、「三軒茶屋駅周辺まちづくり基本方針有識者検討委員会」における検討を経て策定されたものである。 第1章 策定の趣旨 1 策定目的 2 対象区域 3 三軒茶屋駅周辺地区のこれまでのまちづくり 4 上位計画等との関係と本基本方針の役割 5 本基本方針の計画期間 第2章 三軒茶屋駅周辺の特色 1 まちの個性 2 都市基盤 3 今後の可能性 第3章 三軒茶屋駅周辺のまちづくり 1 まちのビジョン(将来像) 2 ビジョン実現に向けた方針 3 ビジョン実現の方策 4 社会状況に対応したまちづくりの視点 第4章 具体的な取組みに向けて 1 三軒茶屋駅周辺の機能イメージ 2 三軒茶屋駅周辺の基盤整備イメージ 第1章 策定の趣旨 1 策定目的 三軒茶屋駅周辺においては、「三軒茶屋地区市街地再開発基本構想(昭和56年策定)」に基づくまちづくり、「三軒茶屋駅周辺地区交通バリアフリー基本構想(平成18年策定)」に基づく交通バリアフリーの実現への取組みなど、本区の都市整備方針に位置づけている「広域生活・文化拠点 ※1」の役割を担うため、地域の特色を活かしたまちづくりが進められてきた。現在は、三軒茶屋駅周辺地区の中心的な街区である三軒茶屋二丁目地区において、地権者を中心に、市街地再開発準備組合が組織され、市街地再開発事業によるまちづくりの検討が行われている。 近年は、公共空間の利活用によるまちのにぎわいの創出など、民間を主体としたソフトのまちづくりも活発になってきている。地域住民等を中心に、新たなまちの個性や魅力を築いていく上で、まちづくりにおける民間の役割が拡大しつつあり、公民連携の推進が大きく期待されるところである。 三軒茶屋駅周辺は、広域生活・文化拠点として、交通の利便性と魅力の向上、地域活力の増進と発展を目指す。その実現に向け、都市機能を適切に更新するとともに、区民・事業者・区の連携により、駅周辺の将来像を見据えた、ソフトとハード一体の新たな総合的まちづくりに取り組むことが有効である。 三軒茶屋駅周辺まちづくり基本方針 そこで、都市整備方針などの上位計画や地域の特徴・歴史を踏まえながら、本区の東の玄関口としてのまちのビジョン(将来像)を示し、実現していくため、「三軒茶屋駅周辺まちづくり基本方針(以下、「本基本方針」という。)」を策定する。 ※1 広域生活・文化拠点:主として商業業務機能及び文化情報発信機能が集積し、全区的な「核」であると同時に、本区を越えた広域的な交流の場を広域生活・文化拠点とし、三軒茶屋、下北沢、二子玉川駅周辺地区の3地区を位置づける。(世田谷区都市整備方針(平成27年4月策定)より引用) 2 対象区域 本基本方針においては、主に商業系の用途地域が指定され、商業等の集積が進んでいる三軒茶屋交差点を中心とした概ね半径300m以内を方針策定の対象区域とする。 また、三軒茶屋駅周辺のまちづくりにおいては、広域的な視点で周辺地域との関係性も考えていく必要がある。そこで本基本方針では、東急田園都市線沿線、東急世田谷線沿線、三軒茶屋を通過するバス路線沿道等を「日常的に三軒茶屋を利用する生活圏(三軒茶屋生活圏)」として捉え、この範囲に及ぼす影響を視野に入れながら検討を行っていくものとする。  3 三軒茶屋駅周辺地区のこれまでのまちづくり  三軒茶屋駅周辺地区は下北沢駅周辺地区及び二子玉川駅周辺地区とともに、本区の都市整備方針において、商業・業務・文化などの機能が充実した、親しみやすく庶民的雰囲気をもつ拠点である「広域生活・文化拠点」として位置づけられている。本区では、この3つの拠点を都市軸で結び、拠点ごとの特性に応じたまちづくりを進めている。 「広域生活・文化拠点」としての三軒茶屋駅周辺地区、下北沢駅周辺地区及び二子玉川駅周辺地区は以下のように位置づけられている。 【三軒茶屋駅周辺地区】商業・業務・文化など多様な機能を備えた拠点 ○庶民的雰囲気のにぎわいと活気にみちた街づくりを進める ○再開発事業等を進めるとともに、駅周辺の小規模な木造商業地区を更新し高度利用を図る。 ○まちの発展と防災性向上に必要なオープンスペース、自転車等駐車場、防災性をもつ拠点等を確保する 【下北沢駅周辺地区】商業・文化等の地域資源を活かした拠点 ○小田急線の連続立体交差事業にあわせ交通結節点機能を強化する ○小田急線の上部利用や井の頭線の盛土部分の活用など防災・みどり機能を充実させる ○歩行者が主体で活気あるまちとして、安全・快適な回遊性を高める 【二子玉川駅周辺地区】様々な機能を備え、にぎわいと居住の調和が図れた魅力ある拠点 ○駅東側での再開発事業による都市基盤の整備や土地の高度利用、都市機能の更新を活かし、西側との一体的な街づくりや周辺地区の整備を進める。 ○二子玉川公園などを活用し、多摩川に面した拠点として自然環境との調和を図る。 三軒茶屋は、江戸期に大山道の分かれ道(現在の玉川通りと世田谷通りの分岐点あたり)にあった三軒の茶屋(休憩所)が大山詣でへの参拝客でにぎわったことが地名の由来となっているなど、古くから交通の要衝として栄えてきた。関東大震災の後には都心から移り住む人が増え、急速に都市化が進むとともに、街は活発な商店街として発展してきた。 その後、三軒茶屋駅周辺地区の商業水準向上や世田谷郵便局の移転に伴う跡地利用のあり方の議論を契機として、昭和56年に「三軒茶屋地区市街地再開発基本構想」が策定された。同基本構想では、商業地区の現状や問題点を踏まえ、商業空間づくりのあり方と目指すべき方向として以下の項目が示された。 策定当時の商業空間づくりのあり方と目指すべき方向(三軒茶屋地区市街地再開発基本構想) (1)駅前広場や公園、バスターミナル(又はバスバース)など三軒茶屋商業地区に必要な施設を、地区の状況に応じつつ確保していくこと。 (2)買物客の回遊性を促すための施設や道路、地下道、ペデストリアンデッキ(空中歩廊)などの施設を導入すること。 (3)商業施設とともに「世田谷の表玄関」にふさわしい、公益施設の設置を考えること。 (4)大規模駐車場や、自転車駐車場を確保すること。 この基本構想を受け、昭和57年には、太子堂地区(第2工区:現キャロットタワー街区)における市街地再開発事業の実施に向け、「太子堂地区市街地再開発基本計画」が策定されるなど、開発の機運がある5つの街区(工区)ごとの市街地整備の検討が進められた。その後、広域生活・文化拠点にふさわしい市街地整備が進められてきたが、第2章に後述するように、特に都市基盤に関しては様々な課題が残されている。現在、東急世田谷線三軒茶屋駅前の広場と東急田園都市線〜世田谷線間を結ぶ地下広場及び地下道が街区をつなぐ動線となり、地域のイベントで活用されている。一方、玉川通りや世田谷通り等の幹線道路に南北を分断されたまちの骨格に変化はなく、利便性の高い魅力ある駅前空間の創出・活用や回遊性向上に資する歩行者ネットワークの確保が求められている。 また、世田谷の顔の一つである世田谷パブリックシアターなどが区内外から人を集め、新しい個性的な店舗、商店街のレトロなにぎわいが魅力の一つとなっている一方で、交流人口の滞在時間を増やすなど、まちの機能をバランス良く高めることも求められている。三軒茶屋駅周辺では、本区の東の玄関口である広域生活・文化拠点として、都市の防災性を確保するとともに交通結節機能を高め、人を呼び込む魅力ある都市空間を創出するとともに後背地の住宅とバランスよく共存しながら、まちの個性を継承しつつ機能を高めていくことが望まれている。 4 上位計画等との関係と本基本方針の役割 本基本方針は、東京都の上位計画や、本区の基本構想・基本計画、都市整備方針、その他の方針・計画等の体系の一部に位置づけられる。本基本方針は、三軒茶屋駅周辺のまちづくり方針を示し、将来的には具体的な事業の誘導に向けた方針・計画(個別の再開発誘導方針、個別の都市計画及び地区街づくり計画等)を策定するためのガイドラインとして活用する。 5 本基本方針の計画期間 都市整備方針に即し、計画期間は策定から20年間とする。社会経済情勢等の変化や具体的なまちづくりの計画・実施を踏まえ、必要に応じて見直しを行う。 第2章 三軒茶屋駅周辺の特色 1 まちの個性 「まちの個性」を構成する主な要素としては、以下の3点が挙げられる。 (1)様々な要素がバランスよく共存している 三軒茶屋は、首都高速道路やキャロットタワーなど駅前の都市的な景観から、裏通りに一歩足を踏み入れればにぎわいのある商店街や若者に人気が高い店舗が立ち並び、「トレンド」と「レトロ」の混在したまちとして知られている。また、商業系地域の後背地には住居系地域が控え、日用品の買い物は全て徒歩圏内で済ませることができる等、生活利便性が高い。 様々な要素がバランスよく共存していることから、訪れる面白さと住むための快適さを備えたまちといえる。 (2)若者を含め多世代を集める創造的な文化と交流の歴史がある 江戸期から交通の要衝として栄えてきた三軒茶屋は、明治期に軍事施設が置かれたことから自然発生的に商店街が形成され、その後、関東大震災の被災者の流入や戦後の住宅開発により人口が急増し、人を集める様々な機能を担うようになった。 昭和55年に開館した昭和女子大学人見記念講堂や平成9年に開館した世田谷パブリックシアターでは年間を通じてクラシックコンサートやジャズ、バレエ、古典芸能、現代劇等の公演が行われており、区内外から世代を問わず多くの人を集めている。 ◆参考資料T p.59 世田谷文化生活情報センター平成28年度利用者数 また、平成16年に旧池尻中学校の校舎を活用して開設された「世田谷ものづくり学校」は、インキュベーション(創業支援)施設として様々な「ものづくり」事業者が入居し区内創業の機会を創出している。 ◆参考資料T p.60 ものづくり学校 入居事業者の状況 駅徒歩圏には多くの若者でにぎわう昭和女子大学と日本大学が立地するほか、三軒茶屋分庁舎をはじめとする公共施設や教育・文化施設、世田谷公園や烏山川緑道などの緑地も点在しており、その利用を目的とした来街者も多い。 ◆参考資料T  p.54〜58 公共施設、教育施設、公園等 (3)活力あるコミュニティが存在し、大学と連携した学びの場がある 明治40年の玉川線開通以来、三軒茶屋は重要な交通結節点であり本区の東の玄関口として、公共交通事業者との連携のもとにまちづくりが行われている。 駅前を中心として世田谷通り、玉川通り、茶沢通り、栄通り沿いに展開する商店街や、町会・自治会、まちづくり協議会など、地域住民による活力あるコミュニティの存在も三軒茶屋駅周辺の大きな特徴である。 ◆参考資料T p.53 商店街 また、昭和女子大学と本区との包括協定により設置された地域連携センターでは、地域の課題解決と地域社会の発展に寄与することを目的とした学びの場として、一般向けの公開講座やまちづくり活動等の取組みが行われている。 ◆参考資料T p.56 地域連携センターの取組み 以上から、こうした「まちの個性」は住む場所・訪れる場所としての三軒茶屋駅周辺の魅力を支えているものであり、今後も継承し、残していく必要がある。 特色1:継承し、残していきたいまちの魅力 2 都市基盤 三軒茶屋駅周辺は古くから交通の要衝であり、現在も鉄道2路線の駅や多くのバス停留所が存在する交通結節点として機能している。その一方で、都市基盤の整備状況については不十分な点があり、主な課題としては、以下の3点が挙げられる。 (1)古くから交通の要衝にありながら、公共的な空間や動線が不足している 三軒茶屋駅周辺では、歩行者の通行や滞留のための空間が十分確保されているとは言えない。玉川通りや世田谷通り等の幹線道路では歩道の幅員が狭く、幅員3m未満の箇所が存在する。歩道が狭いことから、十数箇所あるバス停留所付近では混雑が発生しやすくなっている。 また、三軒茶屋駅周辺は幹線道路によって南北が分断されている。歩行者動線は主に地下空間で確保されているものの、地上と地下をつなぐエレベーターやエスカレーターが少なく、回遊できるバリアフリー動線が十分確保されていない。 ◆参考資料T p.51〜52 駅出入り口における歩行者空間 (2)築40年以上経過した駅施設や首都高速道路、一部建替え困難な老朽建築物等が存在する 都市基盤は首都高速3号(昭和46年開通)や東急田園都市線三軒茶屋駅(昭和52年開業)など、いずれも今後の大規模な改修や更新が必要となる可能性がある。 既存建築物の更新が進んでおらず、駅前に建替え困難な老朽建築物が残存している。駅周辺の既存建築物のうち3分の1以上は旧耐震基準(昭和56年以前)であり、築20年以上の建築物が約8割を占めている。また、幹線道路沿いでは建物の不燃化が進んでいるものの、駅周辺の既存建築物のうち5割近くが防火構造もしくは木造建築物である。 ◆参考資料T p.47 築年、p.48 建物構造 (3)商業系地域と住居系地域の調和をとった土地利用が難しい 三軒茶屋駅周辺は同規模程度の街と比べて商業系地域の範囲が小さく、後背地にすぐ住居系地域が広がっておりバッファゾーン(緩衝地帯)が不足していることから、互いの調和をとった土地利用が困難な状況となっている。 ◆参考資料T p.43 用途地域 以上から、三軒茶屋駅周辺は交通結節点としての機能を有する一方で、都市基盤には課題が多く、適切に維持・更新を行っていかなければならない。 特色2:空間・動線や安全面で課題の多い都市基盤 3今後の可能性 三軒茶屋駅周辺で今後予想される変化のうち、まちづくりに影響を与える可能性のある要素としては、以下の2点が挙げられる。 (1)渋谷・二子玉川等の近隣拠点における開発の影響や新しい働き方へのシフト等により、働く場としての存在感が高まる 現在、渋谷駅近辺では鉄道事業者等による大型開発プロジェクトが進行中であり、平成30年以降に大規模なオフィス供給増が見込まれる。さらに渋谷のオフィス賃料が上昇することにより、多くの事業所が高い賃料を避け三軒茶屋などの周辺部に拠点を移転することが予想される。また近年、二子玉川駅周辺では再開発事業によってオフィスを含む大規模複合施設が開業し業務拠点化が進んでいるため、今後、近接する三軒茶屋においても業務機能のニーズは高まっていくと考えられる。 ◆参考資料T p.24〜25 周辺地域の開発計画 また、近年では共働き世帯が増加し、出産後も育児しながら就業を継続する人が増えているほか、高齢化により要介護者が増加し親を介護しながら働く人も増えていくと考えられることから、子育てや介護をしながら住む場所の近くで働くことができる環境の整備が求められている。 ◆参考資料T p.21 区内産業の構造と課題 p.40 就業先、p.41 共働き世帯と出産後も就労を継続する女性の増加 (2)世田谷観光やテンプル大学のキャンパス開設等により海外からの来訪者・定住者が増加し、グローバル化の兆しが見られる  近年、訪日外国人旅行客が急増しており、三軒茶屋生活圏でも海外からの観光客 の姿が見られるようになってきた。特に、東急世田谷線では観光に力を入れており、豪徳寺や松陰神社等の寺社・仏閣が観光スポットとして注目され始めている。さらに、平成31年には米国ペンシルベニア州立テンプル大学の日本校が昭和女子大学の構内に移転する予定であり、60か国以上の国や地域から訪れた留学生を含む約1,400人の学生や、その他大学関係者・プログラム受講者等が新たな三軒茶屋駅周辺の利用者となる。 ◆参考資料T p.39 外国人人口の推移、p.56 テンプル大学のキャンパス開設 以上から、三軒茶屋駅周辺は今後の発展の契機を活かし、新しい魅力を創出できる可能性がある。 特色3:発展の契機を活かした新しい魅力創出の可能性 第3章 三軒茶屋駅周辺のまちづくり 1 まちのビジョン(将来像) 第2章で整理したとおり、三軒茶屋駅周辺は本区の広域生活・文化拠点として、生活や文化・芸術、公共サービス等、人を集める様々な機能を担っている。また、トレンドとレトロなど様々な要素の共存や地域住民による活力あるコミュニティの存在が魅力となっている。 しかし、古くから交通の要衝でありながら、公共的な空間や動線が十分に確保できておらず、災害などに備えた都市機能などの更新と併せて都市基盤を整備していかなければならない。 将来的には渋谷や二子玉川との近接性を活かした働く場の需要や観光・宿泊ニーズの高まり、海外からの観光客や留学生の増加等が見込まれ、三軒茶屋駅周辺は今後も拠点としてのポテンシャルが極めて高いまちであると考えられる。 以上を踏まえ、今後、区民・事業者・区が連携して三軒茶屋駅周辺の魅力あるまちづくりを進めていくためのまちのビジョン(将来像)を以下のとおりとする。 三軒茶屋駅周辺のまちのビジョン 進化し続ける交流のまち「三茶Crossing」 Crossing:英語で「交差点/横断(名詞)」もしくは「(複数のものが)交差する/(複数のものを)掛けあわせる(動詞)」等の意味。有識者検討委員会において、街道の交差点にあった三軒の茶屋に始まるまちの歴史や「人と人が交流する」「道路や鉄道が交差する」「地上のまちと地下鉄が交差する」「様々な機能を掛けあわせる」等の意味を込めたキーワードとして提案された。 2 ビジョン実現に向けた方針 三軒茶屋駅周辺のまちのビジョンの実現に向けた方針について、以下のとおりとする。 方針1:「つたえる」(まちの個性を継承・強化する) 三軒茶屋らしい空間やバランス、多世代を集める文化・歴史を継承していくとともに、まちづくりにおける様々な主体との連携や交流を促進しコミュニティの強化を図る。 方針2:「つなげる」(まちを支えつなぐ) 交通結節点の形成と多様な空間の創出によりまちの南北の分断を解消し、回遊性を高める。加えて、災害発生時に倒壊や火災発生の恐れのある建物を減らしていくとともに、平常時から防災体制の強化に取組み、ハード・ソフトの両面において駅周辺の安全性・防災性を確保する。 方針3:「はぐくむ」(魅力を育て機能を高める) 三軒茶屋駅周辺における新しい働き方やライフスタイル、文化・観光などの魅力を育て、発信する。さらに、まちとして進化し続けるため、利便性の高い駅前の機能をバランスよく高めていく。 3 ビジョン実現の方策 方針1〜3に基づくビジョン実現の方策を以下のとおりとする。 (1)方針1「つたえる」(まちの個性を継承・強化する)に基づく方策 1- @ 共存・MIXを維持する ・商店街を中心とした面的なにぎわいを継承していく。 ・小さな店舗と住居が共存するヒューマンスケール※2のにぎわいを継承していく。 ・創意工夫のある空間利用や起業・創業マインドを継承していく。 1- A 界わい文化を継承する ・街道の歴史に由来する界わい文化を継承する。 ・若者を引き付ける界わいを継承する。 ・地域に根付いた文化・芸術の拠点として、地域に親しまれる文化施設、公共施設等のさらなる活用を図る。 1- B コミュニティを維持し強化する ・大学や区民と連携したまちづくりの土壌を活かし、日常的に三軒茶屋駅周辺を利用する人々がいきいきと活動・交流できる場づくりを行う。 ・コミュニティを育む交流空間の充実を図る。 ・区民の参画ネットワークを維持し、育成する。 ※2 ヒューマンスケール:人間の身体の大きさを基準にして形成された空間のこと。 (2)方針2「つなげる」(まちを支えつなぐ)に基づく方策 2 -@ シームレスな交通結節点を形成する ・地下から地上までシームレス ※3に接続し、スムーズな移動や乗り換えを実現する。 ・駅周辺に不足している歩行者空間の充実を図る。 ・高齢化や狭い路地の多いまちの構造に対応した近距離移動手段の充実を図る。 ・バリアフリーの歩行動線を確保することで南北の分断を解消し、まちの回遊性を高める。 2 -A 出会いと交流の空間を創出する ・鉄道事業者との連携により、地下空間の活用を図る。 ・みどりなどを活用した憩いの空間としての利用や、その他多様な使い方ができる新しいパブリックスペースを創出し、まちをつなぐ。 ・駅直近の建物と駅への動線が連続的につながる空間を創出する。 2 -B 災害に備え安全・安心と支え合いを育む ・駅周辺に残存する老朽建築物の更新や幹線沿道建築物の不燃化を促進し、まちの防災性を向上させる。 ・大規模災害等により徒歩による帰宅が困難となった人(帰宅困難者)の安全・安心を確保する。 ・三軒茶屋・太子堂各地区の取組みへの支援や駅周辺の商店街や事業所等との連携を強化し、平常時から防災対策を推進する。 ※3 シームレス:「継ぎ目のない」という意味であり、交通におけるシームレスとは、複数の交通サービス を誰もが連続して容易に利用できる状態をいう。 ※このイラストはイメージであり、現況や将来計画を反映したものではありません。 (3)方針3「はぐくむ」(魅力を育て機能を高める)に基づく方策 3 -@「暮らす」と「働く」を両立する ・新しい働き方を可能にする機能を導入し、職住近接を推進する。 ・起業・創業に係る優遇措置や各種支援メニューにより、希望する人々が起業しやすく、多種多様な事業が生まれる環境を充実させる。 ・三軒茶屋駅周辺で働きながら交流できる場づくりを行う。 ・三軒茶屋駅周辺で働き続けるための支援機能を充実させる。 3 -A人を呼び込む魅力をつくる ・東急世田谷線など地域資源を活かした観光を推進し、三軒茶屋らしさを世界に向けて発信する。 ・商業のグローバル化に対応したまちづくりを行う。 ・新しいライフスタイルや文化を創造・発信する機能を強化する。 3 -Bまちの機能をバランスよく高める ・交流人口の滞在時間を増やす機能を導入する。 ・利便性の高い駅直近に機能の集約と用途の複合化を図る。 ・用途地域の見直しや地区計画の策定も含め、空間ニーズの変化に対応した土地利用を実現していく。 ・開発の機会などを捉え、質の高いみどりある空間を創出する。 4社会状況に対応したまちづくりの視点 三軒茶屋駅周辺が現在の魅力を活かしながら都市基盤の更新を進め、新たな魅力を創出していくためには、まちを取り巻く環境変化を捉え、これからの社会のあり方を見据えながら、まちづくりの具体的な取組みを考えていくことが必要である。 そこで、具体的な取組みを策定する際は、以下の視点に基づき検討していくものとする。 (1)持続可能な都市経営 現在、渋谷駅、新宿駅、中野駅、二子玉川駅など、周辺地域では再開発事業や公共交通事業者等による大型開発が進行中である。また、様々な周辺自治体がそれぞれまちの活性化に向けた政策誘導や拠点整備を進めており、都市間で差が出始めている。 こうした状況の中、高度利用が望ましい商業系地域において住居系の土地利用が進み、三軒茶屋駅周辺の拠点性が失われてしまう事態を避けるためには、三軒茶屋を駅周辺だけでなく三軒茶屋生活圏として広域的視点で捉えるとともに、まちのサステイナビリティ(持続可能性)の確保を念頭においた都市経営を行う必要がある。 ◆参考資料T p.24〜26 周辺地域及び区内の開発計画        p.34周辺自治体のまちづくり方針 (2)安全・安心 首都圏では、まだ記憶に新しい東日本大震災の教訓や、今後30年以内に70%の確率で発生すると言われている首都直下地震のリスクに備え、様々な計画・取組みが行われている。都が「セーフシティ東京防災プラン」等の防災計画を定めているほか、本区においても「防災街づくり基本方針(平成28年改定)」、「地域防災計画(平成29年修正)」、さらには地区別の地区防災計画が定められている。三軒茶屋駅周辺では、町会その他の地域団体を中心に「若林・三軒茶屋地区防災計画」及び「太子堂地区防災計画」が取りまとめられ、防災訓練や啓発活動等の減災につなげる活動・取組みが行われている。また、東京都の定める不燃化特区に指定されている太子堂地区を中心に、木造住宅密集地域の不燃化が促進されている。 こうした動きを受け、三軒茶屋駅周辺では今後予想される災害リスクに対し適切に備えるとともに、災害時の情報提供手段を整備するなど、誰もが安全・安心に暮らし、訪れることのできるまちの実現が求められる。 ◆参考資料T p.17 世田谷区防災街づくり基本方針        p.18 世田谷区地域防災計画 (3)ダイバーシティ(多様性) 国では、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機に、ユニバーサルデザインに対応した公共施設・交通インフラの整備や、点字・音声・サイン・多言語等を用いた情報提供のバリアフリー、支援の必要な人の事情を理解し意識と行動でバリアをなくしていく「心のバリアフリー」等が推進されている。 本区では、平成21年に「ユニバーサルデザイン推進計画」を策定し、現在「ユニバーサルデザイン推進計画(第2期)」(平成27年4月策定)に基づいて、公共的施設や住宅の整備、誰にでもわかりやすい情報やサービスの提供などユニバーサルデザインの取組みを進めている。 平成30年4月1日現在、本区の外国人人口は初めて2万人を超え、国の「外国人材の活用」策のもと、今後もさらなる増加が見込まれる。「全ての人が、国籍、民族等の異なる人々の互いの文化的違いを認め合い、対等な関係を築こうとしながら、共に生きていこうとする」多文化共生社会の形成は喫緊の課題といえる。 三軒茶屋駅周辺においても、年齢・性別・国籍・能力等にかかわらず、多様性を認め合いながら誰もが安心して暮らし、訪れ、働けるまちへの転換が必要である。 ◆参考資料T p.16 世田谷区ユニバーサルデザイン推進計画(第2期) (4)グローバル/ローカル リピーターを含む訪日外国人旅行客が急増している中、地域性を活かしたユニークな観光や買い物のニーズが生まれている。また、今後は就労を目的とした外国人定住者の増加も見込まれる。 三軒茶屋駅周辺においても、東急世田谷線沿線や駅前等が観光スポットとして注目されていることや、テンプル大学のキャンパス開設等により、海外からの来訪者・定住者の増加が見込まれる。商業、ビジネス、地域社会等のグローバル化に対応していくため、グローバルな視点に立ちつつ、地域の資源や人材を活かしたローカルな取組みを積み重ねていくことが求められる。 (5)戦略的な公民連携の推進 少子高齢化による税収不足や既存の公共施設老朽化を背景に、従来の公共サービスを安定的に提供できなくなることが懸念されており、ハード整備重視の公共政策から、ハード・ソフトを一体に運用する戦略的な資産マネジメントへの転換が求められている。 本区では、平成29年3月に策定した「公共施設等総合管理計画」に基づき公共施設の整備を進めており、多数の公共施設が点在する三軒茶屋駅周辺においても、ソフト面の施策を踏まえて公共施設機能の再編を考えていく必要がある。 また、三軒茶屋駅周辺のまちづくりは大学等との連携によるほか、地域の商店街や町会等の様々な主体とともに行われてきた。今後のまちづくりを進めるにあたっては、より三軒茶屋駅周辺の魅力を高めるため、地域と連携した運営の仕組み等も含め、公民連携のあり方を検討していく必要がある。 ◆参考資料T p.19 世田谷区公共施設等総合管理計画 第4章 具体的な取組みに向けて まちのビジョン「進化し続ける交流のまち『三茶Crossing』」を実現するためには、実現の方策を有機的に組み合わせ、さらにまちづくりの視点を加えて具体的な取組みへとつなげていかなければならない。 具体的な取組みについては、今後、個別の誘導方針や計画において検討していく。 また、本基本方針のイメージを多様な主体で共有しながらまちづくりを進めていくため、本章では三軒茶屋駅周辺のまちの個性やポテンシャルを活かした「機能イメージ」と「基盤整備イメージ」を示す。 1 三軒茶屋駅周辺の機能イメージ 三軒茶屋駅周辺を概ね以下に挙げる4つのゾーンに分け、機能イメージを示す。 ・Crossingゾーン:まちの個性を継承・強化していくとともに、交通結節点の形成や空間の創出など基盤の整備を進め、新たな魅力を育て機能を高めていくゾーン ・玉川通り沿道ゾーン:玉川通り沿道の立地を生かし、新たな魅力を育て機能を高めていくゾーン ・魅力共存ゾーン:商店街通りを中心としてまちの個性を継承・強化し、新たな魅力と連携していくゾーン ・住宅地と商業地のバッファゾーン:後背地の住宅の環境に配慮しつつ、地区のニーズや今後のまちづくりの動きに合わせて方策を展開していくゾーン また、引き続き交流や連携が必要な下北沢や東急世田谷線沿線と三軒茶屋を結ぶ交流の軸の形成を図る。 機能イメージ図 2 三軒茶屋駅周辺の基盤整備イメージ 第2章の2で示したように、三軒茶屋駅周辺の都市基盤には課題も多い。今後、交通結節点の形成と多様な空間の創出により南北のまちの分断を解消し、まちの回遊性を高めていくため、三軒茶屋駅を中心として以下の方策を展開する基盤整備イメージを示す。 ・スムーズな移動や乗り換え:駅から次の交通手段までバリアフリー動線で接続された歩行者空間を創出し、スムーズな移動や乗り換えを実現する。 ・パブリックスペースの創出:憩いや交流など、多様な使い方のできるスペースを創出する。 ・地下空間の活用:東急田園都市線三軒茶屋駅を起点とした歩行者広場や建築物と接続する地下通路など、地下空間の整備を誘導する。 ・歩行者空間の充実:屋上・壁面緑化等の多様なみどりや歩行者の滞留空間等、憩いの空間を整備する。 ・歩行者の南北移動円滑化:複数のレベルで幹線道路を横断する動線を確保し、南北の断絶を解消する。 ・回遊性向上に寄与する動線の強化:回遊動線となる道路やスペースを整備するとともに、周辺地域も含めてまちを楽しく歩けるソフト事業を実施することで、まちの回遊性を向上させる。 基盤整備イメージ図