2. 農地保全の取組み (1) 生産緑地地区 ●生産緑地地区とは 生産緑地地区は、生産緑地法に基づき定める地域のことで、市街化区域内において緑地機能及び多目的保留地の優れた農地等を計画的に保全し、良好な都市環境の形成に資するために定められています。 ●取り組みの状況 「世田谷区都市整備方針」では、将来目標を実現するためのテーマ別の方針がありますが、「みどり豊かで住みやすいまちをつくる」というテーマにおいて、みどりとみずを保全し、再生・創出する項目に、「みどりを守り育てる」があります。その具体策として、民有地のみどりの保全策として、農地を生産緑地に追加指定することにより、農地保全を図ることがあげられています。また、区では2018年に「みどりの基本計画」を改定し、基本方針の一つである「水循環を支えるみどりを保全する」の中で、農のみどりの継承の取組みとして、「農地の保全」や「農とのふれあいの推進」を位置付けており、生産緑地地区の指定等を進めていくこととしています。 世田谷区南西部には生産緑地等が広く分布しています。バブル崩壊以降、大都市地域を中心とした住宅・宅地供給のひっ迫があったことなどから、1991年に生産緑地法が改正され、宅地化する農地と保全する農地の明確な区別が行われました。具体的には、市街化区域内の宅地化農地の積極的活用による住宅・宅地供給を促進しつつ、一方で農業と調和した良好な都市環境の保全を図る必要があることから、緑地・オープンスペース等の機能を有している農地を、都市計画上の措置を図るために生産緑地地区に指定し、保全の対象としました。区では、1992年より都市計画法の地域地区の一つとして、生産緑地地区を定めています。 その後、全国で生産緑地地区が減少したことに伴い、国では2015年に都市農業振興基本法を制定し、さらにその翌年に策定された都市農業振興基本計画において、都市農地を「都市にあるべきもの」と位置づけ、大きく方向転換しました。都市内の農地を計画的に保全し、良好な都市環境の形成に資するため、2017年に生産緑地法等が改正され、「特定生産緑地制度」が創設されました。 (2) 農的活用のまちづくり 世田谷区では、持続可能な都市農業の実現のための政策立案、事業の展開に向けて、学識経験者の助言を受けつつ、農業者、農業関連事業者など農業に関わる幅広い関係者との意見交換などを行いながら農地保全のまちづくりについて研究しています。 現在、生産緑地の新規・追加指定の拡大、特定生産緑地の指定推進、貸借円滑化法の活用(農福連携)、農業公園の整備、六次産業化等支援、公共用地の暫定活用によるコミュニティ農園、都市計画等の研究に取り組んでいます。このうち、公共用地の暫定活用によるコミュニティ型農園について紹介します。 区内の農地やみどりを貴重な地域の財産として後世に引き継いでいくためには、まずは区民に「農」を知ってもらい、「農」に触れてもらう機会を増やすことが重要であること、「農」を活用したコミュニティ形成につなげていく必要があること、一方で、公有地等のオープンスペースの有効活用(暫定利用)を推進していくことを念頭に進めています。 農地保全に繋げる実証実験として進めている地域コミュニティの形成は、NPO法人neomuraと世田谷区が協働で行っている事業として「タマリバタケ」と名付け、「農」のある暮らしの実現と、農を守るコミュニティづくりを目指し、地域の皆さんと課題の解決にもつなげていくものとして活動を行っています。 タマリバタケは「つながりを育てる畑」を目指すものとして、参加者のみんなが自主的に取り組み、農地に関心を持ちみんなで守っていくことにつなげていきます。 3. 大震災に備える取組み (1) 都市復興プログラム 2011年3月に発生した東日本大震災以降、その余震は未だに続いています。今後30年以内に70%の確率で南関東にマグニチュード7規模の大地震が発生すると予想されていますが、区民一人ひとりが震災の経験や教訓を継承し、災害への備えとして事前に地震に強い街づくりと人づくりを進め、最小限の被害と被災後の復興への力を蓄えておく必要があります。 区では、都市の震災に備えるための計画として、地震が起きても被災後の立ち上がりを早められるように「世田谷区都市復興プログラム」を作成しています。 都市復興プログラムとは? 「自助」「共助」「公助」の基本理念のもと、区が区民や東京都などと協働して震災復興に取り組むための方針や行動手順等を、街づくりの視点から、都市の復興プロセスの時間経過とともにまとめたマニュアルです。 (2) 復興事前準備への取組み 日本は世界でも有数の地震大国と言われ、昨今も全国各地で大規模な地震が頻発しています。首都直下地震の切迫性が高まる中、区においても、平時から、防災・減災対策による災害に強い街づくりと並行して、被災後に限られた資源でも早期に的確な復興の実現を図るための準備をしておく「復興事前準備」が求められています。 復興事前準備を進めていくことで、被災後の復興街づくりにおいて、直面する課題の解決に要する負担の軽減や、被災地域住民との合意形成の円滑化などが図られ、復興街づくりの効率的な進捗や期間の短縮が期待されます。 復興事前準備については、過去の大震災の教訓として確認されたその重要性や有効性を鑑み、国や東京都において、関連する計画やガイドライン、マニュアル等の整備、復興街づくりの実践力の向上や体制づくりに資する訓練の実施など、現在、具体的な取組みが進められています。区においても、国や東京都の取組みとの連携を念頭に、2022(令和4)年12月、「世田谷区都市復興プログラム」の改定を行いました。区は、改定した都市復興プログラムをもとに、区民との協働による復興街づくりの円滑な推進に向け、復興事前準備の取組みの充実と強化に努めます。 世田谷区のウィークポイント ●建物倒壊危険度の状況 危険度4と5の町丁目はありませんが、比較的高いとされる危険度3の町丁目が4か所あります。 ●火災危険度の状況 危険度4の町丁目が4か所あります。 【危険度について】 東京都が実施した「地震に関する地域危険度測定調査(第9回)」(令和4年9月公表)において、危険度は5段階に分かれており、5が最も危険性が高いことを表しています。 詳細は、以下から調査報告書をご参照ください。 「地震に関する地域危険度測定調査」 https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/bosai/chousa_6/home.htm 復興街づくりでは災害に強い街にするためのもので、今までと同じ街をつくる復旧とは異なります。 4. 環境とエネルギー (1) 自動車による二酸化炭素排出量 ●おおむね交通量に比例し、東西方向の道路よりも南北方向の道路で多い 区では、区内を走る幹線道路の9つの地点(右図および下表)で、自動車の騒音や交通量に関する調査を毎年実施しています。ここでは、調査で判明した自動車の通過台数やその種類、平均速度を用いて、各地点の前後100メートルで排出されている二酸化炭素排出量の推計を行いました。 推計結果を下図に示します。二酸化炭素排出量を推計する際には、通過する自動車の交通量や種類、速さを考慮しますが、推計結果には交通量が特に大きな影響を与えます。また、区内9地点における二酸化炭素排出量は24時間交通量におおむね比例しています。 区内を南北に走る環状七号線や八号線は、都道でありながら、区内を東西に走る国道246号や20号よりも交通量・二酸化炭素排出量の両方が高い傾向にあり、これらが区内の一般道における自動車交通の中心を担っていることがわかります。 (2) 建物による二酸化炭素排出量 ●商業活動が盛んな場所で局所的に排出 わが国では、2030年までに2013年度に比べて46.0%の二酸化炭素排出量削減を目指しており、区においても、生活や社会、経済などの様々な活動による二酸化炭素の排出抑制に取り組む必要があります。ここでは、建物からの二酸化炭素排出という観点から、建物種別や建築時期に基づいた排出量(参考値)の推計を行いました。 地区別の年間総排出量をみると(右図)、世田谷地域や玉川地域において、二酸化炭素排出が比較的多いことがわかります。また、建築面積あたりの年間排出量を町丁目別にみると(下図)、玉川や三軒茶屋、北沢の一部で多いことから、商業活動が局所的な二酸化炭素排出につながっていると考えられます。 本集計では、2021年土地利用現況調査の結果から、建物の用途と建築・延床面積に基づいた集計を行っています。一方、区における総合的な二酸化炭素排出量は、オール東京62市区町村共同事業「みどり東京・温暖化防止プロジェクト」の事業の一環として作成された、区市町村共通の算定方法を用いて把握しています。算定結果は「ECOネット東京62(https://all62.jp/)」で公開されています。 (3) ソーラーパネルの普及状況 ●パネル設置建物は10年で約4倍に 東京都では2025年4月を目標に、一定の条件に当てはまる新築物件に対する太陽光パネルの設置義務化を進めています。現在までにおいても、2012年のFIT(固定価格買取制度)の開始以降、全国の新築建物では太陽光パネルが取り付けられるようになりました。これを受けて、世田谷区内におけるパネルが設置された建物を集計し、その面積を推計しました。 推計によると(右図)、2021年時点では各地域においておよそ4万〜8万平方メートルのパネルが設置されていますが、これは現存する建物の屋根に本来設置可能な面積(設置ポテンシャル※)に対して、1割にも達していません。太陽光パネルが設置された建物棟数(右表)は、2021年には7,670棟と、2011年(1,621棟)から5倍近くに増加しており、町丁目別にみると(下図)、特に成城や喜多見、尾山台などで増加がみられます。 (4) グリーンインフラ ●グリーンインフラの取組み 近年、多発・激甚化している集中豪雨等による浸水被害の原因の1つとして、都市化の進展などにより地表がコンクリートやアスファルトで覆われ、雨水が地中に浸み込まなくなり、一気に下水道や河川に流れ込むようになったことがあげられます。 この浸水被害を少しでも減らすため、区では、昭和50年代から雨水貯留浸透施設の設置を進めており、公共施設だけでなく、民間施設にも雨水浸透桝や雨水タンクの設置を呼びかけるなどして、豪雨対策に取り組んできました。こうした中、平成30年度に策定された「世田谷区豪雨対策行動計画」では、新たに「グリーンインフラ」の考えを取り入れ、豪雨対策を効果的に推進しています。 ●グリーンインフラとは グリーンインフラとは「自然環境が有する多様な機能をインフラ整備に活用する」とアメリカで発案された社会資本の整備手法で、1990年代に欧米で発展した手法や考え方をいい、SDGsが示す目標6「安全な水とトイレを世界中に」、目標11「住み続けられるまちづくりを」、目標13「気候変動に具体的な対策を」などの達成に貢献するものと期待されています。 ●世田谷区でのグリーンインフラ グリーンインフラは非常に広範囲な概念で、雨水流出抑制効果のほか、健全な水循環を支える効果や、ヒートアイランド対策などの様々な効果が期待できることから、豪雨対策行動計画のほか、みどりの基本計画や環境基本計画にも理念や取組みを位置づけています。 区は、グリーンインフラを「自然環境の有する多様な機能を賢く活用し、持続的で魅力あるまちづくりを進める取組み」と捉え、公園や道路をはじめとした区の施設の整備時には、この考え方を積極的に取り入れています。 ●グリーンインフラライブラリー せたがやグリーンインフラライブラリーは、「世田谷区緑の基本計画」が策定された平成10年度以降に整備された公共施設(一部民間施設を含む)や取組みについて、「地下水涵養」、「流域対策」、「緑化」、「緑の保全」、「雨水利用」、「ヒートアイランド対策」の6つの機能に着目し、うち3つ以上の機能を有する施設の概要を台帳形式でわかりやすく整理し、区のホームページで公開しています。今後も新たに整備した施設などを加え、随時更新していきます。 ●今後の展望 グリーンインフラの考え方を普及していくために、公共施設における取組みと合わせ、区内の土地利用の約7割を占める民有地での取組みが不可欠となります。今後、民間でもグリーンインフラへの一層の理解が進むよう、連携・協働して取り組んでいます。