1. 土地利用 (1) 土地利用の状況 世田谷区は都心に近い良好な住宅環境のあるまちとして、明治時代以降に開発が進められてきました。そうした経緯もあり、現在の土地利用としても区全体のほとんどが住宅の街としての特性を反映して、多くの住宅地が占めています。 特に多いのは戸建住宅を示す専用住宅用地(図中の緑色)で、区内各地にみられます。次に多いのは集合住宅(黄色)となっており、両者で全体の50.5%を占めています。これに対し、専用商業施設に分類される商業施設(赤色)や事務所建築物(紫色)は6.2%となっています。これらは鉄道駅周辺や幹線道路沿いに立地しており、世田谷区においては交通結節点を商業の中心としつつ、その周辺に住宅生活圏が広がっていることがわかります。 なお、大規模な公園や運動場、農地等は多摩川左岸や区中西部にみられる一方、東部では比較的少なく、畑や樹園地、森林はほとんどみられません。 (2) 土地利用の構成 ●2/3を宅地が占める住宅の街 土地利用を面積別にみると、総面積(5,804.9ヘクタール)のうち、およそ2/3にあたる67.3%が宅地として利用されています。さらに、宅地の大部分が専用住宅や集合住宅といった住居系で占められています。このことから、世田谷区が住宅の街としての歴史を歩んできたことがうかがえます。 宅地以外の面積は区全体のおよそ1/3を占めています。この中で最も大きな割合を占めているのは交通系(道路)で、区全体の2割弱を占めています。これに対し、農地系、緑地系(原野)といった自然に関する土地利用は多くありません。住宅の街として発展する一方で、その他の用途が限定的である点が世田谷区の土地利用の特色といえます。 (3) 土地利用の推移 ●宅地が全区面積の67.3%を占め、10年間で0.9ポイント増加 区のおよそ2/3は宅地で、その割合は増加傾向にあります。宅地・非宅地の割合(右図)をみると、2021年には67.3%となっており、2016年の66.9%から0.4ポイント増加しています。 宅地面積の構成割合をみると(左下図)、2021年には専用住宅が43.6%、集合住宅が31.3%と、住宅としての利用が7割以上を占めていることがわかります。一方で、非宅地面積の構成割合をみると(右下図)、2021年には道路や鉄道用地が含まれる交通系が55.3%と過半を占めており、公園系の17.7%、空地系の16.2%が続きます。 宅地においては公共系、非宅地においては公園系の構成割合が増加傾向にあることから、公共施設や公園の整備による住環境の向上が図られているといえます。 ●系統別では住居系、公共系が微増 土地利用を系統別に要約し、土地利用の構成の推移をみると(右図)、宅地のうち、住居系や公共系がわずかながら増加傾向にあることがわかります。世田谷区の住宅の街としての性格は一層強まっているといえます。 一方で、同じ宅地でも商業系や工業系は減少傾向にあります。商業系には住商併用住宅、工業系には住居併用工場が含まれていますが、これらを考慮してもなお、住居の建築のために使用される土地の割合が増えていることになります。 非宅地では空地系が減少傾向にあり、開発が進んでいる反面、その余地は少なくなりつつあることがうかがえます。田畑が含まれる農地系も減少が続いており、これも開発によって宅地や道路など、都市的な土地利用に転換しているものと考えられます。なお、道路が含まれる交通系は、わずかながらに構成比が増加しています。農業施設を示す農業系や、水面・水路を含む河川系は、ほとんど変化が見られませんでした。 (4) 土地利用の転換 ●空地系は専用住宅と集合住宅にそれぞれ40ヘクタール程度が転換 2016年から2021年の直近5年間での土地利用の転換状況をみると(下表)、空地系から専用住宅や集合住宅に転換した面積が特に大きいことから、この期間の開発事業の多くは住宅開発であったことがわかります。なお、空地系から住居系への転換面積は、専用住宅と集合住宅ともに40ヘクタール程度と、両者の間に大きな差はありませんでした。 また、専用住宅から集合住宅へ転換した面積のほうが、集合住宅から専用住宅へ転換した面積よりも大きいことから、住宅の集合住宅化が進んでいることもわかります。なお、専用住宅の面積は2016年には1,721.1ヘクタールありましたが、2021年には1,704.3ヘクタールとなっており、16.8ヘクタール減少しています。 (5) 地域別の土地利用 ●都心に近いほど住居系利用が多く、離れるほど用途が多様化する傾向 5地域別の土地利用の構成割合をみると(下図)、いずれの地域においても住居系が卓越して多く利用されていることがわかります。特に、世田谷地域や北沢地域では住居系が過半を占めていることから、都心に近い地域ほど住宅に特化した土地利用がなされているといえます。 一方で、玉川地域や砧地域、烏山地域では、公園系やその他の土地利用割合が比較的高く、比較的多様な土地利用がなされています。 コラム 土地利用現況調査とは 土地利用現況調査は、区がおおむね5年に1度実施する土地・建物に関する基礎調査です。定期的に調査することで、区内の長期的な動向をとらえることが可能になっています。調査対象は区内にあるすべての土地と建物で、土地の利用状況や、建物の用途・階数・構造などについて、道路上からの目視や航空写真による確認を行っています。また、調査結果は、主に区の今後の都市計画や街づくりなどの方針や計画策定及び事業の検討に用いられます。 調査結果の一部については冊子を作成し、区民向けに公開しています。調査結果から土地・建物の分布や町丁目別の集計を行い、これらを地図やグラフにすることで、視覚的にわかりやすい表現にしています。また、今回の冊子では、誰にとっても読みやすいユニバーサルデザインの考え方を取り入れ、識別しやすい配色やフォントを用いています。 本冊子は、令和3年4月〜令和4年3月に行われた「令和3年度世田谷区土地利用現況調査」の結果を中心に取り扱っています。また、区の街づくりに関するトピックを紹介する「3章 近年の街づくりの取組み」を掲載しています。 過去の調査結果や集計・分析結果を区ホームページから閲覧できます https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/sumai/001/001/d00016866.html 2. 建物利用 (1) 建物棟数 ●専用住宅の宅地の細分化が進む 2011年から2021年までの建物種類別の棟数の推移をみると、専用住宅と集合住宅がともに増えています。このうち専用住宅については、2016年から2021年にかけて土地利用面積が減少していることから(20ページ参照)、宅地の細分化が進んでいることがうかがえます。 なお、同じ住宅でも住商併用建物は、2011年以降は減少が続いています。工業系や農業系も減少が続いていますが、一方で公共系はほぼ横ばいとなっています。 (2) 総建築面積 ●住宅面積の増加と人口増加は比例 2011年から2021年までの系統別の建築面積(建物の外壁またはこれに代わる柱の中心線で囲まれた部分の面積)の推移をみると、棟数と同様に専用住宅や集合住宅で増加傾向がみられます。特に集合住宅で面積の増加が顕著です。 住宅のほか、公共系の建築面積にも増加傾向がみられました。人口増加が続く世田谷区において、これに応じた公共サービスに供する施設の充実が進められてきたことが表れています。なお、住民基本台帳に基づく世田谷区の人口は、2022年に減少に転じており、新型コロナウィルス感染拡大の影響とともに、今後の土地・建物利用がどのように進んでいくのか注視が必要と考えられます。 (3) 総延床面積 ●住宅を中心に増加、集合住宅の高層化が進む 2011年から2021年までの建物種類別の延床面積(建築物の各階の床面積の合計)の推移をみると、専用住宅と集合住宅、公共系で面積が増加傾向にあることがわかります。特に集合住宅の延床面積の増加が著しく、総建築面積の増加(23ページ)以上に大きく上昇していることから、住宅の高層化が進んでいることがうかがえます。 (4) 用途地域別の延床面積構成比 ●おおむね用途地域に沿った構成だが、工業系、公共系に特色あり 用途地域別の延床面積構成比は、おおむねそれぞれの用途地域が目指す街並みに適合した系統の建物の比率が高くなっています。例えば、第一種低層住居専用地域や、第二種低層住居専用地域では、そのほとんどが住居系の建物で占められています。これに対し、近隣商業地域や商業地域では、およそ半分が商業系で占められています。 例外といえるのが準工業地域です。この用途地域は、主として環境の悪化をもたらす恐れのない工業の利便の増進を図りつつ、これと調和した住居の環境を保護するために定める地域ですが、工業系の土地利用は10%を下回っています。 公共系の建物は、準工業地域や第一種・第二種中高層住居専用地域で比較的高い割合を占めています。 (5) 建物棟数密度 ●ネットで1ヘクタール当たり45.9棟、増加傾向にある 建物棟数密度は、建物棟数を敷地面積で割った場合をネットといい、すべての土地面積で割った場合をグロスといいます。 建物棟数密度の2021年の値は、ネットで1ヘクタール当たり45.9棟、グロスで1ヘクタール当たり31.0棟であり、2011年以降、ネット、グロスとも一貫して増加傾向にあります。世田谷区では元々宅地としての土地利用が多い(20ページ)こともあり、両者はおおむね相関関係にあるといえます。 棟数密度の増加は、空地の開発や宅地分譲の進行が影響していると考えられます。 棟数密度とは敷地面積わる建物棟数 ネットの敷地面積は、道路を除く宅地部分の土地面積 グロスの敷地面積は、道路を含むすべての土地面積 ●高密度化が区全域にわたって進行 2021年の建物棟数密度は、区平均で1ヘクタール当たり45.9棟となっており、前回(2016年、1ヘクタール当たり45.1棟)から1ヘクタール当たり0.8棟増加しました。これを増減率でみると、直近5年間は1.8%で、前回(2011〜2016年)の1.8%と同じ傾向が続いています。 町丁目別にみると、太子堂や若林など、区東部で高密度な箇所が多くみられ、これらの箇所では5年前と比較して増加幅も大きくなっています。 密度が高くなった箇所は区全域にわたって多くみられ、これには空地の開発や宅地の分譲が進んでいることが関係していると考えられます。なお、宇奈根や大原、池尻などの一部では、大規模団地が建替中であることから、密度が低下しています。 ネット街区とは、道路で囲まれた街区形状のことで、グロス街区とは、道路中心で囲まれた街区形状のことです。グロス街区には、道路面積が含まれるため、宅地面積を利用した計算値は概数となりますが、他自治体との比較などを簡易的に行いたい場合などに使用されます。 棟数密度 イコール 敷地面積 わる 建物棟数 3. 建ぺい率・容積率 (1) 実際の建ぺい率【利用建ぺい率】 ●東部と中西部でさらに差が広がる 実際に利用されている宅地(敷地)と建物の面積比率を示す建ぺい率(利用建ぺい率)は、2021年の区全体の値が47.7%で、2016年(47.3%)から0.4ポイント上昇しました。 町丁目別の利用建ぺい率をみると、松原、代田、三軒茶屋などの都心に近いエリアや、経堂、砧、桜新町、奥沢といった、鉄道沿線で高い傾向があります。一方で、2016年からの増減に注目すると、若林などの区東部で増加した箇所が多いのに対し、用賀などの区中央部から西部にかけては減少した箇所がみられます。また、区東部で高い利用建ぺい率は、一層その傾向を強めています。 建ぺい率とは、建築面積(建物の外壁または柱の中心線で囲まれる部分の水平投影面積)を敷地面積で除したもののことです。 建ぺい率 イコール 敷地(宅地)面積わる建築面積 建ぺい率は用途地域(68〜77ページ)に応じて規制されます。ここでは、区が定める最大の建ぺい率を指定建ぺい率、区内の実際の宅地と建物における建ぺい率を利用建ぺい率と呼び区別します。 (2) 区が定める最大の建ぺい率【指定建ぺい率】 ●30〜80%で指定 区が都市計画に定めて規制する最大の建ぺい率(指定建ぺい率)は、用途地域に応じて設定されています。 区内では住宅地を中心に50%または60%の地域が広くみられます。これに対し、鉄道駅周辺や幹線道路沿いでは80%と高く設定されており、一方で成城や尾山台、野毛周辺で40%に設定されています。このほか、上祖師谷の一部では、都市計画公園が指定されていることから30%に設定されています。 (3) 指定建ぺい率に対する充足率 ●都心に近いエリアや指定建ぺい率が低いエリアで高い傾向 建ぺい率の充足率(指定建ぺい率を上限とした利用建ぺい率の割合)は、区全体では47.7%で、2016年の47.3%から0.4ポイント上昇しました(右図)。 町丁目別にみると(下図)、都心に近い北沢や代沢、指定建ぺい率の低い成城や尾山台で充足率が90%を超えるなどの高い傾向にあります。一方で、喜多見や大蔵、鎌田で60〜70%、上北沢や桜上水の一部で60%未満の箇所があり、ゆとりある街並みが形成されているといえます。 指定建ぺい率に対する充足率 イコール 指定建ぺい率 わる 利用建ぺい率 (4) 実際の容積率【利用容積率】 ●鉄道駅付近などの需要の高い地域で上昇 実際に利用されている宅地(敷地)と建物の延べ床面積の比率を示す容積率(利用容積率)は、2021年の区全体の値が136.6%で、2016年の133.2%から3.4ポイント上昇しました。 町丁目別の利用容積率をみると、三軒茶屋や若林、経堂、用賀、南烏山、玉川など、鉄道駅付近において高い傾向にあり、土地や建物に対する需要が高いことがあらわれています。 増減については、区内の多くの箇所で増加していますが、喜多見や宇奈根など、利用容積率が低い箇所においては大きな変動がないか、または減少がみられます。 容積率とは、延床面積(各階の床面積を合計した面積)を敷地面積で除したもののことです。ただし、車庫など、その用途によっては容積率の算出対象から除外される場合があります。 延べ面積(各階の床面積の合計) イコール 延床面積 容積率 イコール 宅地(敷地)面積 わる 延床面積 容積率は用途地域(68〜77ページ)に応じて規制されます。ここでは、区が定める最大の容積率を指定容積率、区内の実際の宅地と建物における容積率を利用容積率と呼び区別します。 (5) 区が定める最大の容積率【指定容積率】 ●60〜600%で指定 指定容積率は、用途地域に応じて設定され、区内ではおおむね西部で60〜100%、中央部で100〜200%、東部で150〜200%に設定されています。ただし、幹線道路沿いや鉄道駅周辺では300%以上の指定となっており、広域生活・文化拠点である二子玉川駅付近や三軒茶屋駅付近、下北沢駅付近などでは500%以上に設定されている箇所もあります。 (6) 指定容積率に対する充足率 ●都心に近い東部で低いほか、局所的に低いエリアもあり 容積率の充足率(指定容積率を上限とした利用容積率の割合)は、区全体で136.6%となり、2016年の133.3%から3.3ポイント上昇しました(右図)。 町丁目別にみると(下図)、指定容積率の低い成城や尾山台で充足率90%を超えるなど高い傾向にあります。この点は指定建ぺい率に対する充足率と傾向が同じですが、これと異なる傾向として、北沢や代沢などでは70%〜80%とそれほど高くない値になっています。また、充足率70%未満の箇所として、区役所付近の世田谷・若林や喜多見があげられますが、世田谷・若林は古くからの市街地であり狭い道路が多く建て詰まっていることから容積率を使い切れていないことがうかがえる一方、喜多見・宇奈根は農地が比較的多く残っており、地域ごとに状況は異なります。 (7) 建物用途別の利用建ぺい率・利用容積率 ●利用建ぺい率は商業・工業用の建物で高く、利用容積率はマンションの有無に大きく左右される 2021年の建物用途別利用建ぺい率は、住商併用建物で62.6%と最も高くなっており、工業系は57.4%、専用商業は52.2%となっています。 建物用途別利用容積率は、集合住宅で209.8%と最も高くなっており、住商併用建物が188.9%、専用商業の171.3%がこれに続きます。2011年からの推移では、例えば集合住宅では利用建ぺい率は2%(51.6%わる50.5%イコール102.1%)程度の伸びに対して、利用容積率では4%(209.8%わる202.0%イコール103.8%)となっており、利用容積率のほうが伸び率は高い状況となっています。 (8) 用途地域別の利用建ぺい率・利用容積率 ●商業・工業地域でいずれも高い傾向 用途地域別の利用建ぺい率は、第二種低層住居専用地域が最も高く67.7%となっており、第一種中高層住居専用地域の63.7%がこれに続き、商業系の用途地域よりも高くなっています。 利用容積率については、商業が中心の用途地域では、駅や商店街などの限られた土地を有効に活用する必要があることから指定容積率が高く設定され、活用ニーズもあることから利用容積率も高くなる傾向にあります。区内主要駅付近に設定されている商業地域(76ページ)では403.4%となっており、近隣商業地域や準工業地域の2倍近い値となっています。また、住居系用途地域の利用容積率は、第一種低層住居専用地域から準住居地域の順に高くなる傾向があります。