平成30年度世田谷区各会計歳入歳出決算審査意見書 概要 31世監第67号 令和元年9月5日 世田谷区長 保坂ノブト 様 世田谷区監査委員 萩原賢一 同        阿部ヨシアキ 同        山口ヒロヒサ 同        ツガミヒトシ 平成30年度世田谷区各会計歳入歳出決算及び世田谷区基金運用状況の審査結果について 地方自治法第233条第2項及び第241条第5項の規定により、平成30年度世田谷区各会計歳入歳出決算及び世田谷区基金運用状況を審査したので、別紙のとおり意見を提出します。 第1 審査の概要 1 審査の実施方針 地方自治法第233条第2項の規定に基づく決算審査については、平成31年度(2019年度)監査基本計画を踏まえ、各会計歳入歳出決算の計数等が適正であるかを確認するとともに、予算がその目的に従って効率的、経済的、合法的に執行されているかを審査した。 2 審査の対象事項 審査の対象とする事項は、平成30年度各会計歳入歳出決算の状況とした。 3 審査の実施期間  審査は、令和元年6月から令和元年8月までの間に実施した。 4 審査の重点事項  審査の実施にあたっては、次の点に特に留意した。 (1)財政運営が健全かつ合理的になされているか。 (2)予算執行は、適正かつ効率的になされているか。 (3)収入確保の努力が十分なされているか。 5 審査の実施方法 審査は、監査委員と事務局により、次の方法で実施した。 (1) 監査委員による審査  決算関係資料及び事務局からの報告等をもとに各部長等関係職員から事情聴取を行った。 (2) 事務局による審査  決算関係資料に基づき、前年度決算や当初予算との比較及び決算状況の推移等の分析を行い、平成30年度各会計歳入歳出決算の特徴や問題点を検出するとともに、必要に応じて関係職員からの事情聴取等の方法により確認した。 6 審査の対象書類  審査の対象書類は、各会計歳入歳出決算書、各会計歳入歳出決算事項別明細書、実質収支に関する調書、財産に関する調書とした。 第2 審査の結果 1 決算の総括 (1)各会計歳入歳出決算の総額 各会計歳入歳出決算の総額は、次のとおりである。 金額は、千円未満を四捨五入した。      一般会計 歳入額 3094億 856万6千円 歳出額 2981億2626万5千円 差引額 112億8230万1千円 国民健康保険事業会計 歳入額  839億6751万3千円 歳出額  835億 784万5千円 差引額  4億5966万8千円 後期高齢者医療会計 歳入額  215億9874万2千円 歳出額  209億2148万9千円 差引額  6億7725万3千円 介護保険事業会計 歳入額 663億5294万7千円 歳出額 645億8678万7千円 差引額 17億6616万円 学校給食費会計 歳入額  26億6464万4千円 歳出額  26億6464万4千円 差引額    0円 合計 歳入額  4839億9241万2千円 歳出額 4698億 703万1千円 差引額  141億8538万1千円 2 審査の結果 (1)様式及び計数の確認について  審査に付された平成30年度の各会計歳入歳出決算、各会計歳入歳出決算事項別明細書及び実質収支に関する調書、財産に関する調書の様式は関係法令に準拠しており、また、計数は証拠書類等と照合した結果、正確であることを確認した。 (2)財政運営について  平成30年度の各会計歳入歳出予算の執行、財政運営及び財産管理の状況は、適正に処理されていると認められた。 (3)意見 @ 社会経済動向と区政運営  平成31年1月28日に閣議決定された「平成31年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」によると、平成30年度の日本経済は、緩やかな回復が続いている。輸出はおおむね横ばいとなっているものの、企業収益が過去最高を記録する中で設備投資が増加するとともに、雇用・所得環境の改善により個人消費の持ち直しが続くなど、経済の好循環は着実に回りつつある。また、平成31年度については、雇用・所得環境の改善が続き、経済の好循環が更に進展する中で、内需を中心とした景気回復が見込まれる、とされた。  こうした経済情勢の中、区では、平成30年度は、基本計画の5年目及び新実施計画(後期)の初年度を迎え、基本計画に掲げる重点政策に基づき子育て・若者支援、高齢者・障害者施策、災害対策の強化、自然エネルギーの活用など、様々な施策を積極的かつ確実に展開し、参加と協働によるせたがやの推進を図ってきた。  ここで、平成30年度の区政運営における各会計の歳入歳出予算を総括し、以下のとおり意見を述べる。 A 財政状況  平成30年度決算額は一般会計及び4つの特別会計で、歳入総額4,839億9,241万2千円、歳出総額4,698億703万1千円となり、歳入歳出差引額は141億8,538万1千円であった。  一般会計の決算状況を見ると、歳入総額は3,094億856万6千円で、前年度と比較すると2.2%の増であった。歳出総額は2,981億2,626万5千円で、前年度と比較すると1.0%の増であった。  歳入歳出差引額である形式収支は112億8,230万1千円で、このガクから翌年度へ繰り越すべき財源である36億1,418万6千円を差し引いた実質収支は76億6,811万5千円となり、前年度と比較すると27.9%の増であった。   実質収支から前年度の実質収支を差し引いた単年度収支は、16億7,107万8千円であった。これに財政調整基金への積立額47億6,810万8千円(取崩しはなし)を加えた実質単年度収支は、64億3,918万7千円となった。なお、地方債の繰上償還は行わなかった。  次に、普通会計での財政指標であるが、財政力指数(指数が大きいほど財源に余裕があるものとされている)ワ0.73で前年度と比べ0.01減、実質収支比率(概ね3〜5%が適度であるとされている)ワ3.9%で同0.6ポイント増、公債費負担比率(数値が高いほど一般財源等に占める公債費の比率が高く、財政構造の硬直化が進んでいるものとされている)ワ2.1%で同1.0ポイント減、経常収支比率(割合が高いほど財政が硬直化しているとされている)ワ79.3%で同3.8ポイント減となり、財政指標全体として前年度よりやや改善され、ほぼ適正水準を維持しているといえる。  また、国民健康保険事業会計、後期高齢者医療会計、介護保険事業会計及び学校給食費会計の4特別会計の決算状況を見ると、それぞれの目的に応じた財政運営が行われたものと認められる。 B まとめ  世田谷区の平成30年度当初予算における財政見通しは、歳入の根幹である特別区税について、ふるさと納税を活用した他自治体への寄附額拡大に伴う著しい減収が見込まれつつも、人口増に伴う納税者数の増加等を踏まえ、一定の増収を見込んだ。特別区交付金は、財源である固定資産税・市町村民税法人分の増や基準財政需要額の増を見込み、前年度比で増額としたが、地方消費税交付金は、国による地方消費税の配分見直しの影響により、前年度を大きく下回った。  一方、景気の緩やかな回復基調が続くと見込まれつつも、変動する国際情勢やふるさと納税の拡大による特別区税への影響、地方法人課税のさらなる偏在是正措置による特別区交付金への影響が懸念されるなど、区財政は一段と先行き不透明な状況にあった。  このような状況の中で、区は、基本構想に掲げる九つのビジョンを実現するべく施策を推進するとともに、私立保育園運営費や社会保障関連経費の増加、本庁舎整備や梅ヶ丘拠点施設の整備、学校など老朽化した公共施設の改築・改修・耐震補強経費などの財政需要に的確に対応する必要があった。このため、事業手法の改善など不断の行政経営改革に取り組むとともに、より効果的な施策推進を目指し、創意工夫を重ねた事業の組み立てを行った。また、後年度を見通した行政経営と歳出構造の見直しをさらに進めるため、柔軟な発想による手法の転換や施策の優先順位を見極めながら事業の改善に取り組んだところである。   平成30年度の一般会計歳入歳出決算は、歳入においては、ふるさと納税による大きな影響を受けたものの、納税者数の増などにより特別区税は増加した。歳出については、私立保育園運営費や財政調整基金積立金、道路用地取得経費の増などにより、民生費、諸支出金、土木費などが前年度と比べて増加した。一方、庁舎等建設等基金積立金の減などにより、総務費が減少した。  以上の結果、決算収支では、実質収支が約77億円となり、前年度と比較した単年度収支は約17億円、実質単年度収支は約64億円となった。また特別区債残高は、上用賀公園の用地取得や梅ヶ丘拠点整備事業などについて新規発行したことにより約647億円となり、積立基金残高については、基金からの繰入金を抑制し、財政調整基金に約48億円、義務教育施設整備基金に約51億円をそれぞれ積み立てたことなどにより、約984億円と過去最高となり、引き続き基金残高が特別区債残高を上回ることとなった。  特別会計である国民健康保険事業会計、後期高齢者医療会計、介護保険事業会計及び学校給食費会計の平成30年度各会計においては、概ね適正な財政運営が行われた。国民健康保険事業会計については、制度改正により平成30年度から都道府県が財政運営の責任主体となったことや被保険者数の減少により、歳入・歳出とも減少した。  学校給食費会計については、平成30年度から、小学校も公会計となり、対象校が大幅に増加し、予算執行の規模も拡大している。今後も、出納整理期間中の会計事務も含め、より迅速・的確な事務処理に努められたい。  また、保険料の収入未済額は、国民健康保険事業会計は減少、介護保険事業会計は微減、後期高齢者医療会計では、若干の増となった。さらに、区では、国民健康保険料、後期高齢者医療保険料及び介護保険料について、平成30年度より延滞金の徴収を行っている。歳入の確保を図るとともに、負担の公平性・公正性について区民の理解を得られるよう、今後も、各会計における収入未済額の縮減に向けて、職員の専門性の向上を図り、効率的・効果的な債権回収の手法を駆使し、債権管理体制の強化に努められたい。また、納付方法の利便性をより高め、区民が納付しやすい環境づくりを工夫することにより、収納率の向上の取組みを着実に進められたい。  平成30年度の区の財政運営を総合的に見ると、景気が緩やかに回復しているものの、今後の区財政の見通しが不透明な状況にある中、一般会計予算は第4次までの補正を行い、様々な区政課題に積極的に対応しつつ、積立基金からの繰入を抑制するなど、比較的健全な財政運営であったと評価できる。  しかしながら、将来の人口推計等を踏まえ、今後の区の財政状況を見通すと、保育需要の増大に伴う私立保育園運営費の増加、高齢化の進展などに伴う社会保障関連経費の増加、公共施設等の更新にかかる経費の増加が引き続き見込まれ、令和2年度からは本庁舎整備の経費負担も本格化する。その一方で、他自治体へのふるさと納税の影響による特別区税の減収拡大による行政サービスへの影響や、地方消費税の配分見直しによる地方消費税交付金の減収による区財政への影響が危惧される。また、令和元年10月からの消費税率引上げにあわせた法人住民税のさらなる国税化による特別区交付金への影響や同月からの幼児教育・保育の無償化に伴う区の経費負担の増がもたらす行政サービスへの影響も懸念される。  このように、区の財政は予断を許さない状況ではあるが、平成30年度から4年間の新実施計画(後期)を着実に推進していくために、今後の財政需要や経済動向を見極めつつ、持続可能で強固な財政基盤を確立するとともに、さらなる行政経営改革を進められたい。  区では、児童相談所の開設や東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会への対応など、重点課題や新たな行政需要に応えるため、組織体制を強化し、職員数は平成31年3月1日現在、前年度比で96名の増となった。ベテラン職員の大量退職が続き、新規職員の採用が進む中で、将来の職員の年齢構成、地方公務員法及び地方自治法の改正に伴う令和2年度からの会計年度任用職員制度の導入や人口の推移等を見据えながら、引き続き適切な職員定数の管理と人材育成を図られたい。  また、平成30年度より新公会計制度を導入し、複式簿記・発生主義会計による財務諸表等を作成し、行政経営に活用している。令和元年度からは、新たな行政評価に取り組み、これまでの実績管理から成果とコストを重視した施策や事業の運営に取り組んでいる。行政評価については、その内容を区民にわかりやすく「見える化」するとともに、政策効果の向上につなげられることを期待する。  さらに、日本銀行による金融緩和政策の継続により、市場金利は、今後も極めて低い水準で推移していくものと推測される。引き続き起債と基金残高のバランスに留意し、安全性と効率性に配慮した計画的な資金運用に努められたい。  今後も、施策や事業の実施にあたっては、区民ニーズの変化や社会経済状況を十分踏まえ、最少の経費で最大の効果をあげられるよう職員一人ひとりが経営感覚やコスト意識を研ぎ澄まし、より一層区民福祉の向上を図ることができる行財政運営を推進されたい。    詳細な内容については、次の担当部署へご連絡ください。  監査事務局  電話 03 5 4 3 2 2 7 6 3  ファクシミリ 03 5 4 3 2 3 0 5 6