令和2年度 定期監査報告書 世田谷区監査委員 2世監第73号 令和3年1月8日 世田谷区議会議長様 世田谷区長様 世田谷区教育委員会様 世田谷区選挙管理委員会様 世田谷区農業委員会様 世田谷区監査委員 萩原賢一 同 中根秀樹 同 山口裕久 同 津上仁志 令和2年度定期監査の結果について 地方自治法第199条第1項、第2項及び第4項の規定により実施した監査の結果に関する報告を、同条第9項の規定に基づき、次のとおり提出します。 なお、本監査に当たっては、阿部能章前監査委員は令和2年11月30日まで、中根秀樹監査委員は12月1日以降関与しました。 地方自治法(昭和22年法律第67号)第199条第1項、第2項及び第4項に基づく令和2年度の定期監査については、世田谷区監査基準(令和2年2月13日監査委員決定)に基づき実施した。 第1 監査の概要 1 対象部局等 (1)総合支所・本庁 領域 総合支所 対象部局 世田谷総合支所、北沢総合支所、玉川総合支所、砧総合支所、烏山総合支所 企画総務領域 対象部局  政策経営部、交流推進担当部、総務部、庁舎整備担当部、区長室、危機管理部、財務部、施設営繕担当部、会計室、区議会事務局、選挙管理委員会事務局、監査事務局 なお、5月1日付けで特別定額給付金担当部が、9月1日付けで財政担当部が新たに設置された。 区民生活領域 対象部局 生活文化政策部、地域行政部、スポーツ推進部、環境政策部、経済産業部、農業委員会、清掃・リサイクル部 保健福祉領域 対象部局 保健福祉政策部、高齢福祉部、障害福祉部、子ども・若者部、児童相談所、保育部、世田谷保健所 都市整備領域 対象部局 都市整備政策部、防災街づくり担当部、みどり33推進担当部、道路・交通計画部、土木部 教育領域 対象部局 教育委員会事務局 (2)施設等 施設区分 まちづくりセンター 実施基準 4年毎 施設数 7施設 施設名 下馬、上馬、北沢、等々力、二子玉川、喜多見、烏山 施設区分 出張所 実施基準 4年毎 施設数 2施設 施設名 二子玉川、烏山 施設区分 清掃事務所 実施基準 毎年 施設数 3施設 施設名 世田谷、玉川、砧 施設区分 児童館 実施基準 5年毎 施設数 5施設 施設名 若林、弦巻、松沢、上用賀、喜多見 施設区分 保育園 実施基準 5年毎 施設数 9施設 施設名 世田谷、弦巻、西弦巻、守山、松沢、上用賀、ふじみ、希望丘、南八幡山 施設区分 公園管理事務所 実施基準 隔年 施設数 3施設 施設名 北沢、玉川、砧 施設区分 土木管理事務所 実施基準 隔年 施設数 3施設 施設名 北沢、玉川、砧 施設区分 幼稚園 実施基準 5年毎 施設数 2施設 施設名 松丘、三島 施設区分 小学校 実施基準 5年毎 施設数 13施設 施設名 太子堂、桜、中丸、赤堤、松丘、城山、東深沢、桜町、等々力、芦花、武蔵丘、希望丘、千歳台 施設区分 中学校 実施基準 5年毎 施設数 5施設 施設名 北沢、駒留、東深沢、烏山、船橋希望 施設区分 地域図書館 実施基準 4年毎 施設数 3施設 施設名 奥沢、尾山台、上北沢 施設区分 その他施設 実施基準 3年毎 施設数 3施設 施設名 教育センター、太子堂調理場、平和資料館 2 対象事項 監査の対象とする事項は、次のとおりとした。 (1)令和元年度における財務事務及びその他の事務の執行 (2)令和2年度における監査実施日までの財務事務及びその他の事務の執行 3 実施期間 令和2年5月から同年11月までとした。 (1)総合支所・本庁 領域 総合支所 事務局監査 5月7日から5月22日まで 監査委員による監査 世田谷総合支所 6月29日 北沢総合支所 6月30日 玉川総合支所 6月26日 砧総合支所 6月26日 烏山総合支所 6月25日 企画総務領域 事務局による監査 5月7日から6月19日まで ただし、交流推進担当部は10月7日に実施した。 監査委員による監査 7月20日 区民生活領域 事務局による監査 5月7日から6月19日まで 監査委員による監査 7月21日 保健福祉領域 事務局による監査 5月7日から6月19日まで 監査委員による監査 7月22日 ただし、保健福祉政策部は8月6日にも実施した。 都市整備領域 事務局による監査 5月7日から6月19日まで 監査委員による監査 7月28日 教育領域 事務局による監査 5月7日から6月19日まで 監査委員による監査 7月29日 (2)施設等 事務局による監査 9月2日から10月29日まで 監査委員による監査 10月15日から11月5日まで 4 実施方法 監査は、監査委員及び事務局により、次の方法により実施した。 (1)監査委員による監査 監査対象事項について、監査資料等による審査を行うとともに、必要に応じて関係部課長等から事情聴取を行う。 (2)事務局による監査 監査対象事項について、監査資料等による調査、検証を行うとともに、必要に応じて担当者から事情聴取を行う。 5 着眼点 監査の着眼点は以下のとおりとした。 (1)監査対象部局の事務の特性や執行上のリスクを考慮し、リスクの高い事務に着眼して実施した。 (2)監査対象部局の事務事業の執行について、合規性、経済性、効率性、有効性が図られた運営がなされているかに着眼して実施した。 第2 監査の結果 1 監査結果の概要  監査の着眼点に沿って実施した監査の結果、財務に関する事務について、以下のとおり、是正や改善を求める指摘事項等が認められた。 また、軽微な誤りや検討を要する事項については、是正や訂正を行うよう口頭で注意したので、各所管課においては適正な事務の執行に努められたい。 また、その他の事務事業については、おおむね適正に執行されていたと認められる。 2 是正や改善を求める事項 監査の結果、次に示すような適正な処理を徹底するために是正を求める事項や改善に向けた検討が求められる事項が認められた。当該所管課はもとより、他の所管課においても事務処理の見直しや改善の参考とされ、適正な事務の執行に努められたい。   (1)原稿の校正等を慎重に行うべきもの 政策経営部広報広聴課は、区のおしらせ「せたがや」定期号及び特集号を印刷、発行している。基本的には、記事の担当所管課が広報広聴課に原稿を提出し、提出課の校正を経て広報広聴課が発行している。 令和2年6月1日号(12ページ建て定期号)について、広報広聴課は通常どおり印刷、配布準備を行っていたが、発行直前になって1面に掲載した令和元年の台風第19号による水害に関連した4枚の写真のうち3枚の説明文の誤りに気付いた。このため、区民が常時参照できる保存版部分を除いた3ページから10ページのみをそのまま発行し、保存版部分の1・2・11・12ページは、印刷し直して同年6月4日に改めて特集号として発行していた。これらの経費については、6月1日号の新聞折込み分、戸別配布分及び広報紙用スタンド入れ替え分からの引き抜き作業経費として合わせて、3,230,097円が追加となり、また、6月4日号については、別途、年間単価契約の特集号の経費で賄われていた。 原稿の写真とその説明文の内容が合致しているかを、原稿提出時や校正時にきちんと確認していなかったために、追加の経費が生じてしまったことは遺憾である。 直接の原因としては、写真を含め記事の担当所管課である危機管理部災害対策課の原稿提出時の確認ミスや校正ミスにあることから、原稿の内容確認や校正等については、より慎重に行うとともに、チェック体制の強化等を図られたい。また、区のおしらせの発行所管課である広報広聴課においては、原稿提出時や校正の際に所管課へデータや写真などの内容に誤りがないか、再度注意を徹底されたい。 (2)未受講の研修に伴う費用の支出 交流推進担当部交流推進担当課では、「東京2020大会関連業務に従事する職員の語学研修等費用負担要綱」(以下「負担要綱」という。)に基づき、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に関連して、日常業務の中で外国語を使用する必要がある関係課の職員に対し、語学力を向上させて業務を円滑に遂行できるように育成するため、語学研修等の費用を区で負担することとしている。負担要綱第4条第3号では、対象となる経費について、受講期間が1年以内で、年度内に修了できるものであることとし、第7条では、語学講座等の終了後、速やかに職員語学研修等実施報告書を所属長に提出させることとなっている。 交流推進担当課では、職員が令和2年2月28日にレッスン回数20回、契約金額212,300円で英会話スクールと契約した英語講座について、令和2年3月2日付けで職員語学研修等実施計画書が当該職員から提出され、同年3月6日に受講費用の負担を決定している。その後、英会話スクールは、新型コロナウイルス感染症の影響で3月2日から22日まで並びに28日及び29日が休校となった。この結果、受講予定のレッスン20回分の全てが未受講であったため令和2年4月以降に受講すると記載された職員語学研修等実施報告書が、令和2年3月31日付けで当該職員から提出された。同課は、年度内に受講が修了していない当該研修の費用212,300円全額を負担金として、4月6日に会計事務上の手続きを行い、4月9日に当該職員へ支出している。 この支出に関しては、3月31日付け職員語学研修等実施報告書の提出を受けたが、令和元年度中に支出の根拠となる負担要綱の改正等の意思決定は行われておらず、負担要綱第4条第3号の規定から適切な処理とは言い難い。所管課としては、会計年度独立の原則を踏まえ、現行の負担要綱に即して、令和元年度の未実施分の受講費用の支出は行わず、令和2年度に改めて職員語学研修等実施計画書を提出させ、受講費用の負担を決定すべきであった。負担要綱に明記されていない事案については、支出の根拠を慎重に判断し、改めて必要な意思決定を行った上で、適正な事務処理を励行されたい。   (3)適正な事務処理とチェック機能の強化を行うべきもの 区は、国民健康保険の保険者として、生活習慣病予防及び疾病の早期発見・早期治療を目的に、40歳から74歳までの国民健康保険加入者を対象とした特定健診・特定保健指導を実施しており、毎年度、対象者へ特定健診受診券(以下「受診券」という。)を送付している。 保健福祉政策部国保・年金課は、令和2年7月17日に受診券63,391件を対象者あてに送付したところ、そのうち47,089件について、「自己負担金区分」及び「過去の特定健診受診結果」の両方又はいずれかが誤っていることが判明した。このため、誤った受診券を送付した47,089人全員に対し、正しい「自己負担金区分」と「過去の特定健診受診結果」の両方又はいずれかを記載した通知文書を7月21日から7月27日までに改めて発送した。そのため区は、郵送料、封筒代及び職員の超過勤務手当の経費として、合わせて5,047,558円の新たな負担が生じた。 これは、新型コロナウイルス感染症の影響により、受診券の発送スケジュールに変更が生じたため、職員が手作業で対象者のデータを最新の状態に更新することとなったが、その際のデータ処理を誤ったことが原因であった。 新型コロナウイルス感染症により、例年とは違う対応をせざるを得ない状況ではあったが、区民の個人情報を取り扱い、厳格に管理することが求められる事務処理において、作業ミスがあってはならない。また、特異な作業であるからこそ、リスクを予想し、複数の職員による事務手順やシステムの設定・変更の検証など様々な角度・手法による十分な確認が不可欠であるが、それがなされていたとは言い難い。 個人情報のデータ処理・データ管理に当たっては、携わる職員一人ひとりが個人情報保護の重要性を再認識するとともに、作業前に綿密に打合せを行い、作業手順ごとのチェック機能を強化されたい。 3 意見 地方自治法第199条第10項の規定により、令和元年度を中心とする監査対象期間において、区が実施している事務事業等の執行状況について、区の組織及び運営の合理化に資するため、監査の結果に添えて意見を述べる。   (1)主な指導事項(適正な処理を徹底すべき事項、全庁的に取り組むべき課題) 指導事項のうちリスクアプローチ(注)による観点から、大きなミスにつながるおそれがあるものや基本的な事項の理解が不足しているものについて記載する。各所管課においては、事務処理の見直しや改善の参考とされ、適正な事務の執行に努められたい。 注 リスクアプローチとは、行財政運営上の様々なリスク(組織目的の達成を阻害する要因)をあらかじめ識別し、そのリスクの量的・質的重要性を評価して監査を行う手法をいう。   @補助金の交付事務の適正な執行について 補助金の交付申請、決定その他補助金の執行に関する共通・基本的事項については、世田谷区補助金交付規則(以下「補助金交付規則」という。)で規定され、補助金ごとの補助対象や申請手続きなどの具体的事項は、各補助金交付要綱(以下「補助金要綱」という。)で規定されている。また、補助金は、公益上の必要がある場合に限り支出できるものであり(地方自治法第232条の2)、公正かつ有効に使用されることが求められている(補助金交付規則第3条)。 しかし、補助金の交付事務において、次のような事例が見受けられた。 ・教育領域所管の任意団体の運営に充てる補助金の交付において、補助金要綱上、余剰金があった場合の精算処理などを求めていないものがある。また、補助金要綱に定める補助金の上限額を毎年交付し続けた結果、余剰金が団体の予備費として翌年度に繰り越され、その金額が1年間の補助金の上限額を超える金額に膨らんでいる。 ・総合支所所管の任意団体の研修事業助成のための補助金の交付において、補助金の交付金額に影響はないものの、補助金要綱上、規定されている補助事業に要する経費に含まれない事務経費を含んだ申請をそのまま受理し、交付決定している。   補助金の交付に当たっては、補助金の申請・交付・精算事務手続き、補助事業の目的・内容の公益性や補助対象とする経費を明確にすることはもちろんのこと、区民に対して費用対効果などの十分な説明責任を果たせるよう、適正な補助金要綱の整備に努めるとともに、その執行が前例踏襲とならないよう、団体の収支状況を十分に精査するなど、補助金の必要性を十分に検証されたい。   A契約権限の委任事務を適正に行うべきものについて 世田谷区契約事務規則(以下「契約事務規則」という。)第3条第1項は、契約権限の委任について規定しており、別表で所管課長において行うことができる契約は、定期刊行物及び新聞の購読並びに例規類集の追録並びに1件予定価格50万円以下の契約とされている。 所管課長の行った契約で、意図的に契約を分割したと思われるおそれのある次のような事例が見受けられた。   ・区民生活領域所管の同一のイベント事業に係る2件の記念品の作成委託契約で、それぞれの契約業者、契約期間、納品日及び検査日が同一であり、その契約金額の合計が50万円を超えている。 ・総合支所の新規施設に係る2件の文房具等の物品購入契約で、それぞれの契約業者、契約日、納期、納品日及び検査日が同一であり、その契約金額の合計が50万円を超えている。 ・都市整備領域所管の業務内容、契約期間から一連の業務と思われる2件の調査委託等の契約で、契約業者、請求日、支出月日が同一であり、その契約金額の合計が50万円を超えている。 地方自治法上、契約方法としては、一般競争入札が原則であり、随意契約ができる場合は限定されていることを踏まえ、契約の内容、履行期間等を十分精査した上で、価格面においても経済的な予算執行となるよう、適正な契約の締結に努められたい。 また、これらの事例における不適切な契約事務の原因の一つとして、契約の実務担当者が契約事務規則の内容を理解していない等の認識不足も認められた。所管課長は、職員に対して契約事務規則の内容の周知徹底を図るとともに、契約や支出事務のチェック機能が働くよう、取り組まれたい。   B適正な仕様書の作成について 契約における仕様書は、区が発注する物品や履行させる内容を具体的かつ詳細に定めて、受注者が正確な納品、適正な履行を行うための十分な情報が記載されていなくてはならない。また、仕様書は検査行為の根拠となる書類でもあるから、検査員が納品や履行が指示通りに完遂されているかについて検査できる内容を備えている必要がある。しかし、仕様書について、次のような事例が見受けられた。   ・区立小学校解体後の廃材を活用して行う事業企画の業務委託において、仕様書上、記載がない材料保管などの業務について、受託者に口頭で履行を指示している。 ・読書の実態調査の委託において、結果をまとめた成果物となる冊子の仕様について、契約締結後にページ数や印刷の色数などを変更させたにもかかわらず、仕様書上の変更等を行っていない。 ・同一のコンサートに係る企画制作・実施運営業務委託と運営補助委託において、実際には異なる業務を別々の事業者に発注しているにもかかわらず、仕様書の一部において全く同じ履行内容で契約している。 ・市街地整備に係る事業の実績調査委託において、仕様書には電算処理の特記事項を遵守することと記載があるが、当該「電算処理の業務委託契約の特記事項(兼電算処理の個人情報を取り扱う業務委託契約の特記事項)」が契約書に添付されていない。 ・学校施設への動物の飼育小屋等の設置作業委託において、仕様書に具体的な場所や広さ、囲いや門扉の有無などの指示の記載がなく、設置内容が全て業者任せとなっている。   仕様書は、前述のとおり区が受注者に対し、履行内容を明確に、具体的に伝える手段であり、また、検査行為の根拠となる書類である。したがって、その内容が不正確であると、適正な見積額を算定できなかったり、検査行為にも支障が生じ、ひいては、それに関係する事務事業の執行自体に大きく影響するおそれがある。契約の実務担当者は、仕様書の重要性を再確認し、検査員が履行された契約内容が適正であるか否かを判断できるよう、その内容の精査に努めるとともに、併せて検査員は、仕様書に基づく適正な履行の確認に努められたい。 また、業務履行上、仕様内容に変更が生じた際は、受注者との協議を十分に行うとともに、契約担当課である財務部経理課や教育総務部教育総務課と調整し、速やかに契約変更等の手続きを行うなど、適正な契約事務の執行に努められたい。 C支出手続に際しての根拠法令等の遵守について 附属機関の委員への費用弁償の支給に関しては、世田谷区附属機関の構成員の報酬及び費用弁償に関する条例(以下「報酬・費用弁償条例」という。)において定められている。報酬・費用弁償条例第4条第3項では、「委員が会議に出席するときの費用弁償は、鉄道賃、船賃、航空賃、車賃及び宿泊料の5種とし、(中略)近接地以外の居住地から出席する者に限り支給する。」とされ、同条第4項では、「旅費の支給方法は、区職員に対して支給する旅費の例による。」とされている。 しかし、区民生活領域所管の附属機関の委員への費用弁償で、次のような事例が見受けられた。 ・職員の旅費に関する条例第20条第2項第1号では、特別急行列車の急行料金は、片道100キロメートル以上の場合に支給されることとなっている。しかし、旅費の支給対象地域となっている居住地から区内で実施された会議に出席した委員に対し、特別急行列車の利用条件である「片道100キロメートル以上」に満たないケースで急行料金を支出していた。 この急行料金分については、後日、区に返還されているものの、支出事務を行うに当たっては、世田谷区会計事務規則第2条第8号に規定する収支命令者は、根拠法令等を必ず確認し、適正な執行に努められたい。   (2)事務事業について @新型コロナウイルス感染症への対応 世界的に猛威を振るい、未だに収束が見通せない新型コロナウイルス感染症について、区としての感染防止対策や区民の健康と生活を守る様々な取組みについて意見を述べる。   ア 新型コロナウイルス感染症対策 区は、新型コロナウイルス感染症について、区民からの相談や感染の疑いのある方、陽性反応者及びその濃厚接触者に対する調査・検査などに対応するため、「帰国者・接触者電話相談センター」(現「発熱相談センター」)の開設、区内医師会の協力による地域外来・検査センターとPCR検査センターの開設、保健所の体制強化などに取り組んできている。 今後も感染拡大が懸念される中、区民に迅速かつ的確に情報提供を行うとともに相談体制の充実や医療機関等との連携が求められる。とりわけ、23区最大の人口を擁する本区において、PCR検査の拡充は区民の命と暮らし、事業活動を守る上で重要な取組みである。検査の対象や手法、財源の確保、国・東京都及び医療機関との連携、庁内の効果的な協力体制、区民へのわかりやすい説明などに特段の工夫を凝らし、区民の期待に応えられたい。併せて、今後順次実施される予定のワクチン接種への体制にも万全を期すよう、要望する。 イ 職員の働き方改革への取組み 区は、区民が社会生活を維持する上で必要な業務を継続していくために、庁内の各職場で感染防止対策を講じ、執務場所の分散を図るとともに、在宅勤務制度の導入や週休日の振替による職員の出勤調整、時差勤務制度の活用、執務中の三つの密(密閉、密集、密接)の回避などにより感染防止に一定の効果をあげた。しかし、在宅勤務が可能と判断できる業務は、現状では、個人情報を取り扱わない資料作成や計画策定業務などに限られること、また、専用のモバイル端末の台数が十分確保されていないことなどが課題となっている。こうした課題を解決し、それを契機に感染防止対策だけでなく、職員の働き方改革全体の効果をあげられるよう、取組みを更に進められたい。   ウ 世田谷区自殺対策基本方針に基づく取組み 新型コロナウイルス感染症は、区民生活に長く深刻な影響を及ぼしており、ストレスや失業・生活困窮などを要因とした自殺リスクの高まりが危惧される。 区は、令和元年度に策定した「世田谷区自殺対策基本方針」に基づき、自殺予防対策を保健、医療、福祉のみならず、教育、労働など幅広い分野にわたる横断的な対策として位置付け、総合的に推進するとしている。この方針に基づき、コロナ禍においても区民に接する全ての所管や窓口で区民が抱える生活、家族、健康など様々な問題やその背景を早期にくみ取り、適切な支援につなげるよう有機的な連携を図られたい。また、今後も区民のこころの健康づくりの充実に向け、継続的な環境整備を望む。   エ 中高年齢者の地域への参加促進への取組み 区は、中高年齢者が、身近な地域で人と人とのつながりを持ちながら、健康で生き生きと活動できるよう、中高年齢者の地域活動への参加促進に取り組んでおり、様々な活動が根付いてきている。今般の新型コロナウイルス感染症により、直接顔を合わせる対面での活動が制約される中、今後のウィズコロナの社会では、「新しい生活様式」のもと、オンラインなどIT技術を活用したコミュニケーション手段の比重が高まると考えられる。区は、中高年齢者がこれらの手段に慣れ親しみやすい機会を作るなど、様々な手法を用いて地域での人と人との絆が保てるよう、支援を継続していくことを要望する。   オ 地域における健康づくりの推進 新型コロナウイルス感染症の影響により、区民の先の見えない不安やストレスはもとより、外出や通院の自粛等に伴う体力の低下や健康への影響も懸念される。 総合支所では、「健康せたがやプラン(第二次)後期」に基づき、地域の資源や特性を踏まえた健康づくりの計画である「地域健康づくり行動計画」を策定し、区民や地域の関係団体等と連携・協働しながら身近な地域での健康づくりを推進している。各地域においては、地域の方々や区内大学等と連携しながらウォーキングマップの作成や健康体操等の普及啓発を行うなど、地域の多様なネットワークを活かした特色ある取組みが展開されてきた。このような取組みが、多世代にわたる健康づくり活動の実践や健康の保持・増進につながり、実効性のある施策となるよう、事業の評価指標を設定し、その継続的な検証に努められたい。 これからのウィズコロナの状況においても、生活習慣の改善や健康意識の向上を図ることは大切である。オンラインを活用した情報提供も積極的に行い、健康づくりの場や手法に工夫を凝らしながら、区民が健康づくり活動を実践・継続できるよう、取り組まれたい。   カ 学習支援の取組み 教育委員会は、新型コロナウイルス感染防止のため、令和2年4月から5月にかけて、全区立小・中学校を臨時休業とした。その間、教育委員会では、学校と協働して教科書や副教材などを配付するとともに、ホームページを使って児童・生徒へ学習のポイントを示したり、授業に関する動画を作成するなど、家庭学習の支援を行ってきた。しかしながら、学校や学年により支援内容の偏りも見受けられたことから、今後は、オンライン等も効果的に活用し、学校休業時や登校できない状況での家庭学習の支援の充実に向けた取組みを進められたい。 また、令和元年度より全区立中学校で開始されたe−ラーニングは、一部の不登校生徒の利用や、ログインした生徒の延べ数は確認できるものの、生徒全体の日常的な利用には必ずしも至っていない状況と認識される。BYOD(注1)のモデル校での実践や、国のGIGAスクール構想(注2)に基づく児童・生徒1人1台のタブレット型端末の前倒し配備、学校休業時の授業の動画配信など、学校のICT化が進む中で、これまでの学習支援の成果や課題を振り返り、施策の整合を図るとともに、教員の負担が過大とならないよう抑制策を講じながら、計画的、効果的に学習支援の取組みを推進されることを期待する。 注1 BYОD(Bring Your Own Device)は、家庭のパソコン等を学校に持参し、授業等で活用する取組み 注2 GIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想は、義務教育を受ける児童・生徒のために、1人1台の学習用パソコンと高速ネットワーク環境などを整備する計画 キ 学校休業に伴う学校給食の対応 教育委員会では、新型コロナウイルス感染予防の観点から、令和2年3月2日から6月21日までの学校休業や分散登校の期間は学校給食を休止した。休止期間中は、保護者等から給食費を徴収せず、また、発注済みで取消しができなかった分の食材費について公費負担としたことは、緊急の感染予防対策に伴うものとしてやむを得ない措置であったと考える。また、給食再開後は、手洗いの徹底、対面形態を避けた座席配置、器具を使用した配膳作業など、衛生管理の徹底を図っていることを評価する。給食中は、会話を控えるように指導しているため、アニメーションを放映したり、校内放送でクイズを行うなど、学校ごとに楽しく食事をする工夫がなされている。しかし、児童・生徒用として一斉に配付された飛沫防止パーテーションは、その仕様や使い勝手について、学校現場の意向が必ずしも反映されていないように見受けられた。緊急に購入すべきものであっても公金を支出する以上、使用する現場の状況を踏まえ、様々な視点から検討した上で購入を判断されたい。   A災害対策の充実 台風や集中豪雨による風水害や近い将来、発生が危惧される首都直下地震について、区民の安全を守るための区の災害対策の取組みについて意見を述べる。   ア 風水害対策の見直し 区では、これまで台風や集中豪雨による被害が見込まれる場合に、水防本部を設置し、関係職員の水防体制を組み、水害対策を講じてきた。令和元年の台風第19号への対応では、大規模風水害が発生するおそれがあったため、首都圏に台風が接近する2日前に、区長を本部長とする災害対策本部を設置した。気象庁や国土交通省等から発表される防災気象情報や、多摩川、野川・仙川等の水位情報をもとに、多摩川の洪水、土砂災害に関する避難勧告等を発令したが、区内に浸水被害箇所が広がり、また、避難所も避難者が満杯になるなど混乱が生じた。区では、これを教訓に、風水害対応タイムライン(防災行動計画)及び、庁内で行った風水害対策総点検を踏まえた今後の対応方針をとりまとめた。 風水害対応では、最新の気象状況を踏まえ、早目に区としての態勢を整えることが重要であり、そのためには災害対策本部の機能の強化と職員のたゆまぬ訓練が不可欠である。風水害対策に従事する職員を効果的に配置し、避難行動要支援者等の前日避難を実施するなど、区民の安全・安心の確保に全力で取り組まれたい。   イ 豪雨対策行動計画に基づく取組み 区では、台風や集中豪雨などによる浸水被害の軽減を図るため、豪雨対策行動計画に基づく雨水流出抑制対策に取り組んでいる。具体的には、令和3年度の区内の雨水流出抑制目標対策量を51万5千?として雨水貯留浸透施設の設置促進に取り組んでおり、区の公共施設のほか、「世田谷区雨水流出抑制施設の設置に関する指導要綱」に基づく、国、東京都、公共公益機関の施設への要請、民間施設の新築、建替時における指導により、雨水貯留浸透施設の設置を促進している。 今後は、環境にやさしいグリーンインフラの視点も踏まえつつ、雨水の貯留、浸透を一層促進し、流域の浸水対策を強化することを要望する。また、浸水被害に対する区民の自助の取組みとして、土のうステーションの利用やハザードマップの活用促進、建物の浸水防止策を周知・啓発するなど、支援を更に充実されたい。      ウ 災害時等における区民への情報提供のあり方 令和元年の台風第19号の際には、アクセスの集中により区のホームページがつながりにくくなる状態が長時間続いた。区では、こうした状況を改善するために、アクセス集中によるサーバーへの負荷を自動的に調整・分散させる仕組みの導入やアクセス数に耐えられる十分なサーバー容量へ増強を行った。また、風水害対策総点検を踏まえて、区の情報を災害対策本部に隣接する部屋からエフエム世田谷で速やかに直接放送できる体制を整備した。 災害時や緊急時における情報発信では、特に、区民に対して、迅速性、正確性及び分かりやすさが求められることから、引き続き、日常的な検討・検証を怠らず、区のホームページやエフエム放送、災害・防犯情報メール、ツイッターなど様々なツールを駆使して情報提供の充実を図られたい。   エ 地域における防災の取組み 区は、迅速な情報収集と的確な判断による避難所等の開設準備や運営の見直しに継続して取り組んでいる。しかし、避難所運営に携わる地域の担い手の高齢化、地域団体等との避難行動要支援者への支援協定の締結の推進、ペットの同行避難受入れ時における避難所ごとのルールの確立など、引き続き取り組むべき課題は多い。自然災害の発生は予測が難しく、今般の新型コロナウイルス感染症対策などの新たな課題への対応も含め、地域におけるきめ細かな防災体制を早急に構築する必要がある。そのためには、各地区の防災塾等での検証と実践を更に重ねるとともに、区で養成している女性防災コーディネーターが積極的に地域で活躍できる仕組みを整えるとともに、自助・共助の視点を踏まえつつ、まちづくりセンターがそのネットワークを十分活用して安全で安心できる避難所の運営体制の構築を支援するなど、地域防災の充実に努められたい。   オ 非常事態時のごみの収集体制や災害ごみへの対応 令和元年の台風第19号の被害に伴い、区内では通常の可燃・不燃ごみ、粗大ごみに加え、消毒のため剥がした壁や床材、テレビや冷蔵庫などの家電リサイクル4品目などの大量の災害ごみが発生した。区では、これらの災害ごみへの対応として、区立玉川野毛町公園拡張予定地に早期に「粗大ごみ臨時中継所」などを設置し、また資機材を確保するとともに、清掃事務所の職員だけでなく、庁内各部の職員や近隣区の清掃職員、民間の事業者の協力を得て、被災した区民の要望に迅速に対応したことを評価する。これらを教訓に前述の風水害対策総点検も踏まえて、令和2年6月には、世田谷区災害廃棄物処理計画を策定した。震災と水害の特性の違いや被災地域の範囲の広さなど、災害の状況や程度は異なるため、災害ごみの種類や量を事前に把握することは難しい。災害時における区民の生活環境の保全と公衆衛生の確保を図るためにも、災害ごみの受け入れ体制、作業手順、資機材及び集積場所の確保等について更なる検証を重ね、より迅速で的確な対策が講じられるよう努められたい。 カ 木造住宅密集地域の解消に向けた取組み 区は、国や東京都の補助金等を活用して道路や公園等の公共施設整備を行う密集事業や、令和2年度を最終年度とした東京都の「木密地域不燃化10年プロジェクト」による不燃化特区での老朽建築物の建替え等を進めてきた。不燃化特区5地区全体の不燃領域率は、平成23年度の56.1%から令和2年度当初で66.7%まで上昇し、太子堂・三宿地区においては70%を達成したものの、5地区全体としては目標の70%には及んでいない。老朽建築物に係る相続問題や所有者の高齢化、無接道敷地の存在などがその要因であったとしている。首都直下地震の発生が危惧される中、火災による甚大な被害が想定される木造密集地域の不燃化は急務である。今後は、国の社会資本整備総合交付金や令和7年度まで継続される東京都の不燃化特区制度を活用し、これまでに明らかとなった諸課題の解決に取り組み、不燃領域率の目標達成と地域の防災性の向上に引き続き尽力されたい。また、本庁と総合支所が連携して、密集事業地区の用地取得を加速させる新たな取組みを検討するよう望む。 B子どもや子育て家庭を守り育てる取組み 高齢社会の進行、ICT社会の急速な進展、就労形態の多様化など、区を取り巻く社会環境が変化する中で、子育てしやすい環境の整備に向けて、区が実施している子どもや子育て家庭を守り育てる取組みについて意見を述べる。 ア 児童相談行政の充実 令和2年4月、区は、23区で初めてとなる児童相談所を設置・開設した。開設までの間、区は、国及び東京都との協議をはじめ、組織・人員体制の整備、専門性を備えた人材の確保・育成、関係機関との迅速かつ適切な連携体制の構築などに尽力した。児童相談所の開設は、このような多岐にわたる課題を調整しながら、区をあげて取り組んだ成果であると評価する。令和元年度には、東京都世田谷児童相談所への区の派遣職員により、個々の相談ケース等の具体的な引継ぎが行われた。また、子ども家庭支援センターと児童相談所がそれぞれの持つ専門性を発揮し問題の解決まで協働で関わる、一元的な運用を行うための具体的な体制整備なども進められた。子ども家庭支援センターと児童相談所が同一自治体で運営される強みを十分に活かし、地域と一体となった効果的な児童相談行政を実現することを期待する。 一方、長引く新型コロナウイルス感染症の影響により区民の生活様式や働き方などが変わる中、生活不安やストレスなどによる児童虐待等のリスクの高まりや深刻化が懸念される。また、乳幼児健診や乳児期家庭訪問等は、児童虐待等を早期に発見し必要な支援につなぐことができる大切な機会であるが、健診の受診率や訪問の実施率が低下すると、子どもの様子が見えにくくなり、問題が潜在化することも危惧される。 地域での見守り機能を強化し、庁内及び関係機関との連携を深めるとともに、相談業務等に携わる職員の育成や疲弊防止にも十分留意しながら、児童虐待等の予防や早期発見・早期対応に努められたい。 イ 子どもの貧困対策の推進 区は、平成30年度に実施した「子どもの生活実態調査」の結果等を踏まえ、令和2年3月、「子どもの貧困対策計画」を「子ども計画(第2期)後期計画」に内包する形で策定した。区ではこれまで、子どもへの食の支援事業の実施や地域における学習支援事業等の充実などにより、全ての子どもが健やかに育成される環境の整備や、支援が必要な子どもや家庭を適切な支援につなぐ仕組みの構築に取り組んできた。また、今般の新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、深刻な状況に直面している生活困窮世帯が増えていることから、新たに子どもの育ちと学びを支援するための生活応援給付を実施するなど、生活困窮世帯の子どもへの支援の強化を図っている。子どもの貧困対策は、そのことを主目的とする施策だけを行うのではなく、関連する様々な支援策との適切な調整を全庁的に図るとともに、学校や地域の関係機関等と連携しながら推進することが重要である。子どもが生まれ育った環境によって現在及び将来が左右されることなく、また、貧困の連鎖を断ち切ると同時に新たな貧困を生まないよう、引き続き、福祉、教育、経済等の所管課やNPО等の関係団体との連携を強化しながら、子どもの状況に即した区の取組みの充実・発展を図られたい。   ウ 保育待機児童解消及び保育の質の確保・向上に向けた取組み 区では、保育待機児童解消のため保育施設整備による保育定員拡大等に総力をあげて取り組み、その結果、令和2年4月1日時点での区の保育待機児童が、国の基準に基づく積算上、初めて解消されたことを高く評価する。一方で、依然として希望する保育園に入園できていない世帯も多いことや、一部の保育施設においては欠員が生じるなど、保育需要の地域偏在といった課題も生じてきている。今後も保育需要や社会経済状況の推移、財源確保等に十分留意しながら、保育待機児童を生じさせないように全力をあげられたい。 併せて、区では、全ての保育施設で質の高い保育が提供されるよう、専門職による巡回支援相談や、人材育成のための研修、第三者評価の受審促進等の取組みを行っている。また、公・私立の認可保育所をはじめ、認証保育所、保育室、保育ママなど、施設や運営の種別を問わず、地域の様々な保育施設同士が情報共有や保育の質の向上を図るための地域保育ネットワークの取組みを支援している。保育施設の急増に加え、令和2年度からは区児童相談所の開設に伴い認可外保育施設の指導・監督権限が新たに区に移管されたことから、認可外保育施設における保育の質を確保するための指導・監督体制の強化も重要となっている。今後も全ての子どもや保護者が安心して質の高い保育を受けることができるよう、継続的に取り組まれたい。 なお、区では、保育施設の運営や保育士等の人材確保などのため、保育事業者に対して様々な補助事業を通して多くの補助金を交付している。補助金の交付に当たっては、これらの補助事業の目的や内容を鑑み、補助金が適正かつ効果的に活用されるよう、指導・監督に努められたい。 エ 特別支援教育の充実と医療的ケア児の支援 教育委員会では、区立小・中学校に特別支援教室(すまいるルーム)を計画的に整備するとともに、多様な人的支援を強化し、配慮を要する児童・生徒の教育の充実に取り組んでいる。 発達障害等がある児童・生徒を対象とした特別支援教室は、平成28年度に全区立小学校に、また、令和元年度には区立中学校28校に導入された。在籍する学校で指導を受けられる利便性等から、利用者は増加している。今後も、支援が必要な児童・生徒に対する教員や保護者の理解促進を図り、一人ひとりの特性に応じたきめ細かい支援に努められたい。 また、医療的ケア児の学校における受入れと支援は、平成30年度から2年間にわたる試行を経て導入され、看護師の配置により安心して学校生活を送ることができるなど、教育的効果や保護者の負担軽減の面で成果を得ている。ケアに当たる人材の確保、校外学習時の医療的ケアの実施や移動手段の確保などの課題を解決しながら、引き続き、医療的ケア児と家族の支援の充実に取り組まれたい。 さらに、令和3年度に設置する予定の特別支援学級(自閉症・情緒障害)においては、知的発達に全般的な遅れのない自閉症又はそれに類する障害のある児童・生徒が、より充実した支援・指導を受けられるよう、体制の整備を進められたい。     C充実に向けて取り組むべき事務事業 上記、@からBまでに記した事務事業のほか、次に掲げる事務事業等について、より一層の充実に向けた観点から意見を述べる。   ア 世田谷ものづくり学校のあり方 旧池尻中学校校舎を活用した世田谷ものづくり学校については、これまで、区民のものづくりに関する学びや体験の機会の提供をはじめ、創業支援、地域交流活動の促進に成果をあげてきた。具体的には、校舎の減額貸付を受けた運営事業者が、創業希望者などに施設内のブースを転貸して利用者の活動を支援している。しかし、業務形態や働き方の多様化、IT化の急速な進展に伴い、起業や創業の手法等も変化してきたことから、ブース利用者のうち、退去後に区内で事業を営む者は、全体の4割程度にとどまり、区民にとって、ものづくり学校の目的や成果がわかりにくくなっている。区は、進化し変容する技術力や就業形態に対応し、世田谷ならではの新たな産業やビジネスの創出・学び等の拠点となるよう、当該施設の効果的な活用や支援に努められたい。   イ 指定管理者制度の適正な運用 区では、指定管理者制度のより効果的な運用を図るため、令和2年1月に新たな「指定管理者制度運用に係るガイドライン」を策定した。公の施設の所管課が、同ガイドラインに定める指定管理者制度の運用に当たっての留意点や事務手続きを正しく理解し、指定管理者に対し適切な指導・調整を行うことが求められる。しかし、事業報告や収支報告に記載すべき内容が指定管理者によって異なっているなど、所管課の指導やチェックが不十分な事例も散見されている。ガイドラインは、公の施設の運営状況を正しく把握するための統一的な基準とすべきものであることから、事例の比較検証や蓄積を行い、実績の把握の精度向上に向けて研究を重ねられたい。 ウ くみん窓口の充実 区では、令和元年12月をもって、これまでの証明書自動交付機を廃止し、新たにマイナンバーカード専用の証明書自動交付機を導入した。以前の証明書自動交付機と比較して運用経費の削減が図られた一方、マイナンバーカードを所有していないと利用できないことから、区民サービスの維持・向上を図るため、まちづくりセンターでの証明書の取次サービスの導入や、くみん窓口の体制強化などを行っている。 一方、コロナ禍において、特別定額給付金のオンラインでの申請受付が開始されたことに伴うマイナンバーカードの暗証番号再設定等の手続きや、緊急小口資金等手続きのための証明書の取得などのため、区民が窓口に詰めかける事態となり、一時、窓口の大混雑を招いた。 急増した事務処理に対する職員の尽力は評価するが、将来も想定されるマイナンバーカードの機能拡大に伴う事務手続きの大きな変更期や期間の限られた申請受付期等においては、区民への適切な周知や的確な区民の動向予測に基づく受け入れ態勢の整備に努めながら、効率的な窓口運営に取り組まれたい。     エ 生活保護事務の適正執行 区の令和元年度の生活保護費の返還金・弁償金の未収金額は、5総合支所の合計で約15億円の巨額となっている。これらの未収金は、一旦発生するとその回収は長期に及び、実績を上げることも困難となる。令和元年度は、前年度に比べ、返還金・弁償金の収納率が大きく低下しており、新型コロナウイルス感染症の影響による景気の不透明感が漂う中、今後も失業等による生活保護申請者の増加も想定される。生活困窮者の迅速な支援に十分留意しつつ、生活保護費の過払いの防止と未収金の回収体制の強化に取り組まれたい。 併せて、関係機関と連携し、生活保護受給者一人ひとりの状況に応じたきめ細かな就労支援や自立支援に尽力されたい。 D施設等の管理運営に係る取組み 施設等の管理運営に関して充実すべき点について、意見を述べる。 ア 教員が児童・生徒と関わる時間の充実 区立小・中学校には、教員のほか、学校支援の様々な職務を担う会計年度任用職員や委託を受けたスタッフが配置され、教育委員会も専門スタッフや支援チームを学校へ派遣し、支援をしている。それぞれの職員、スタッフが専門性や実務能力を発揮することにより、児童・生徒への個に応じた適切な指導・助言や学校事務の効率化が図られているが、一部において、多様な職種間の役割の曖昧さも認められた。また、副校長が行う時間講師等の人材確保や、勤務の時間や日数の異なるスタッフの出勤簿管理などの負担が大きいとの声もあった。 教育委員会や各学校においては、コロナ禍で促進されたオンライン化の取組みや、様々な会計年度任用職員等の職務や位置づけを継続的に検証しながら、一層、機動的、効果的に人材や経費の投入を図り、教員が児童・生徒と関わる時間が拡充されるよう、取り組まれたい。 イ 地域図書館の効果的な運営 各地域図書館では、地域の特性に応じた企画展示の工夫や地域、学校等と連携した催しなどが行われ、その取組みの内容は、区のホームページでも紹介されている。しかし、ホームページ上の検索が分かりづらい面もあることから、検索しやすい形を検討し、各図書館の情報発信力を高められたい。 また、令和2年11月10日から電子書籍サービスが開始された。図書の貸出宅配サービスも含め、非来館型の手法を活用するとともに、事業の成果指標や達成度を全館で共有しながら、知と学びと文化の情報拠点として、区民の財産である図書を効果的に利用できるように一層のサービス向上に努められたい。    ウ 清掃事務所の執務環境の改善 清掃事業の一部が東京都から区に移管されてから久しいが、世田谷・玉川・砧の各清掃事務所の建物や施設の老朽化は著しく、執務環境や災害対策の面でも改善が急務な状況となっている。特に、世田谷清掃事務所は、狭小である上に2箇所に分散しており、業務の効率化の点で課題があると言える。一時的にしのぐ施設の修繕経費は今後も益々増大していくと予測される。区民生活に欠かせないごみの収集・運搬事業は停滞が許されず、職員の安全で快適な執務環境の確保は極めて重要である。改善を先延ばしすることなく、早急に検討に着手されることを望む。 エ 奥沢図書館の施設の改善 奥沢図書館は、駅に近く、交通の利便性の良い立地にあるが、耐震性に加え、施設の老朽化による様々な課題を抱えている。空調設備の不具合、雨漏り、汚水の溢水などが恒常的に発生しているが、玉川総合支所、教育委員会などの責任の所在や調整すべき事項が多岐にわたり、施設の老朽化の現状も十分に共有できていない状況が見受けられた。区民利用施設として、利用者や職員の安全面、衛生面の改善を最優先し、早急に現実的な対応を図られるよう要望する。 終わりに 以上、令和元年度を中心とする財務事務の執行状況や事業類型別の事務事業等について意見を述べてきた。 財務事務については、今回の監査においても、見積書などの日付の記載漏れや仕様書の記載内容が不十分であるなど、職員の不注意や関係法令の認識不足から、例年と同様のミスが繰り返されている。契約、支出等の事務の根拠となる法令、要綱等を必ず確認し、個々の事務処理の意味を理解した上で適正な事務処理を行うべきである。今後は、法制度の変更や区の業務の細分化に加え、業務のデジタル化や委託化が進み、業務内容が一層複雑化することが想定される。管理監督者は、職員が業務内容や業務執行の過程を理解し、事務事業の実施に係る起案から所要経費の支出まで適正な事務処理が行われるよう、多忙な中でもリスクへの感度を高め、指導・管理を徹底されたい。 また、通勤手当を不正受給した職員及び庁有車の運転中に赤信号を無視し交通事故を起こした職員が、懲戒処分を受けたことが公表された。いずれも公務員としての倫理観や自覚を欠き、区民の信頼を失墜させる行為である。管理監督者は、こうした不祥事を防止するため日ごろから職員に対し法令や服務規律の遵守を徹底するとともに、適正な職務遂行に向けた職員の指導育成に努められたい。 さて、本年度の監査期間中に、新たに国の特別定額給付金給付事業が実施された。担当所管部だけでなく、多くの職員の協力のもとに、大量で初めての事務を限られた期間内に処理した職員の努力を評価する。しかし、区民に混乱を与えない適切な情報提供やオンライン申請も含め、分かりやすく円滑な事務処理の観点からは、課題も見受けられたので、改善に努められたい。 区では、「世田谷区基本構想」、「世田谷区基本計画」及び「世田谷区実施計画」のもとに、政策ごとに多くの行政計画を策定している。施策の目標を立て、予算を含めた事業の年次計画等を定めて事業を進行管理し、実績を検証していくことは行政にとって重要である。しかしながら、行政計画の策定自体が目的化されることなく、一つひとつの事業を着実に実施し、区民福祉の向上を実現していくことが基本と考える。区として、様々な行政計画を有機的に活用し、区民に事業の成果を還元できることに意を用いて取組みを進められたい。 新型コロナウイルス感染症の収束が見通せない中、日本経済は戦後最大の危機的状況にあると言われている。今後、数年間は、特別区税や特別区交付金の大幅な減収が見込まれ、非常に厳しい財政状況が続くものと想定されることから、区は、事務事業の抜本的な見直しに取り組んでいる。大規模災害にも対応できる新庁舎の建設という大きなプロジェクトを進める中で、行政経営改革の徹底、優先すべき事務事業の選択、財源の確保など、課題は山積しているが、真に必要な区民サービスの維持・向上をめざして行財政運営の改善に取り組まれたい。 最後に、職員一人ひとりが区民の命と生活を守るという使命感を持って、最少の経費で最大の効果を生み出す施策に着実に取り組み、区民から信頼される区政運営に努められたい。