令和元年度 定期監査報告書 世田谷区監査委員 31世監第153号 令和2年1月9日 世田谷区議会議長様 世田谷区長様 世田谷区教育委員会様 世田谷区選挙管理委員会様 世田谷区農業委員会様 世田谷区監査委員 萩原賢一 同 阿部能章 同 山口裕久 同 津上仁志 令和元年度定期監査の結果について 地方自治法第199条第1項、第2項及び第4項の規定により実施した監査の結果に関する報告を、同条第9項の規定に基づき、次のとおり提出します。 なお、本監査に当たっては、石川征男前監査委員及び福田妙美前監査委員は令和元年5月16日まで、山口裕久監査委員及び津上仁志監査委員は同月17日以降関与しました。 第1 監査の目的、監査対象部及び実施期間等 1 監査の目的 区の財務事務及びその他の事務が法令等の趣旨に沿って適正に執行されているかを検証するとともに、各事業の計画に対する成果や評価の状況から各事業が住民福祉の増進に寄与しているか、合規性、経済性、 効率性、有効性の図られた運営がなされているかといった観点で監査することにより、公正で合理的な行政運営の確保に資するものとする。 監査の観点 合規性:法令、基準等に則しているか(適法性、正確性) 経済性:最少の経費であるか 効率性:最大の効果をあげているか 有効性:所期の目的を達成しているか 2 監査の範囲 各監査対象部等の平成30年度から令和元年度監査実施日までの財務事務及び事務事業の執行とした。 3 監査対象部等 (1)総合支所・本庁 領域 総合支所 対象部局 世田谷総合支所、北沢総合支所、玉川総合支所、砧総合支所、烏山総合支所 企画総務領域 対象部局 政策経営部、交流推進担当部、総務部、庁舎整備担当部、区長室、危機管理室、財務部、施設営繕担当部、会計室、区議会事務局、選挙管理委員会事務局、監査事務局 区民生活領域 対象部局 生活文化部、地域行政部、スポーツ推進部、環境政策部、経済産業部、農業委員会、清掃・リサイクル部 保健福祉領域 対象部局 保健福祉部、梅ヶ丘拠点整備担当部、高齢福祉部、障害福祉部、子ども・若者部、児童相談所開設準備担当部、保育担当部、世田谷保健所 都市整備領域 対象部局 都市整備政策部、防災街づくり担当部、みどり33推進担当部、道路・交通政策部、土木部 教育領域 対象部局 教育委員会事務局 (2)施設等 施設区分 まちづくりセンター 実施基準 4年毎 施設数 7 施設名 太子堂、上町、新代田、松沢、上野毛、深沢、砧 施設区分 出張所 実施基準 4年毎 施設数 1 施設名 太子堂 施設区分 清掃事務所 実施基準 毎年 施設数 3 施設名 世田谷、玉川、砧 施設区分 児童館 実施基準 5年毎 施設数 5 施設名 上町、代田南、森の、成城さくら、上北沢 施設区分 保育園 実施基準 5年毎 施設数 10 施設名 太子堂、赤堤、上北沢、下馬、上馬、中町、用賀、烏山北、小梅、喜多見 施設区分 公園管理事務所 実施基準 2年毎 施設数 2 施設名 世田谷、烏山 施設区分 土木管理事務所 実施基準 2年毎 施設数 2 施設名 世田谷、烏山 施設区分 幼稚園 実施基準 5年毎 施設数 1 施設名 桜丘 施設区分 小学校 実施基準 5年毎 施設数 12 施設名 弦巻、代田、三軒茶屋、池尻、笹原、奥沢、尾山台、玉堤、烏山、船橋、山野、下北沢 施設区分 中学校 実施基準 5年毎 施設数 6 施設名 富士、弦巻、玉川、用賀、千歳、三宿 施設区分 地域図書館 実施基準 4年毎 施設数 3施設 施設名 代田、烏山、下馬 施設区分 その他施設 実施基準 3年毎 施設数 2 施設名 河口湖林間学園、青少年交流センター池之上青少年会館 4 監査の実施期間 令和元年5月から令和元年11月までとした。 (1)総合支所・本庁 領域 総合支所 事務局による監査 5月7日から5月20日まで 監査委員による監査 世田谷総合支所 7月2日 北沢総合支所 7月2日 玉川総合支所 7月1日 砧総合支所 7月1日 烏山総合支所 6月26日 企画総務領域 事務局による監査 5月14日から6月20日まで 監査委員による監査 7月29日 区民生活領域 事務局による監査 5月14日から6月20日まで 監査委員による監査 8月1日 保健福祉領域 事務局による監査 5月14日から6月20日まで 監査委員による監査 8月2日 都市整備領域 事務局による監査 5月14日から6月20日まで 監査委員による監査 8月5日 教育領域 事務局による監査 5月14日から6月20日まで 監査委員による監査 8月6日 (2)施設等 事務局による監査 9月2日から10月30日まで 監査委員による監査 10月16日から11月6日まで 5 監査の重点(留意)事項 平成30年度定期監査で改善や検討を要する事項としたものについての対応を確認するとともに、行政財産の使用許可、道路・公園の占用許可等について、使用料等の徴収及び減免に係る事務が関係法令等に基づき適正に行わ れているかに留意した。 第2 監査の結果 1 財務に関する事務、監査の重点事項等について 財務に関する事務、監査の重点事項(前掲)及びその他の事務事業については、おおむね適正に執行されていたと認められる。 ただし、財務会計事務等に関する軽微な誤りや検討を要する事項については、是正や訂正を行うよう当該所管課等に口頭で注意した。適正な処理を徹底すべき事項や全庁的に取り組むべき事項に関しては、次の意見において述べるので、事務処理の見直しや改善の参考とされ、より適正な事務の執行に努められたい。 2 意見 地方自治法第199条第10項の規定により、平成30年度を中心とする監査対象期間において、区が実施している事務事業等の執行状況について、区の組織及び運営の合理化に資するため、監査の結果に添えて意見を述べる。 (1) 適正な処理を徹底すべき事項、全庁的に取り組むべき課題 @行政財産の使用許可等について ア 行政財産の使用許可手続について 行政財産は「その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる」(地方自治法第238条の4第7項)とされている。同項の規定に基づき、世田谷区公有財産管理規則は、行政財産の使用許可について、許可の基準(同規則第23条)などを定めるとともに、許可の手続に関し、原則として使用希望者から申請書を徴すべきこと(同規則第24条第1項)、許可に係る起案文書は財務部経理課長を協議者とすべきこと(同条第4項)、許可の可否に応じて使用許可書又は使用不許可決定通知書を使用希望者に交付すること(同条第5項)などを定めている。 行政財産の使用許可は、あくまでも本来の用途・目的を妨げない限度において、例外的に行政処分(特許)として行われるものであることから、許可の基準に合致することはもちろんのこと、その手続においても適正に処理されなければならない。 しかし、行政財産の使用許可手続において、次のような事例が見受けられた。 ・建物の使用許可(更新)について、許可に係る起案文書の決裁が完了する前に、使用希望者に使用許可書を交付している。 ・工作物の使用許可(更新)について、許可に係る起案文書において財務部経理課長への協議がなされていない。 ・建物の使用許可(更新)について、所管課に行政財産使用許可簿が備えられていない。 行政財産の使用許可に当たっては、許可基準に合致していることの確認はもとより、許可の手続に関しても、改めて、世田谷区公有財産管理規則の規定を確認し、必要な決裁手続に漏れはないかなどに十分留意し、適正な事務処理を徹底されたい。 イ 使用料の徴収について 行政財産の使用料は、使用許可を受けた者から使用開始日までに全額を徴収するとされており(世田谷区行政財産使用料条例第6条第1項本文)、会議室等を使用する場合や特別の理由がある場合に限り、納期限を別に指定し(同項ただし書)、また、使用料を分割して納付させることができる(同条第2項)。 したがって、使用料を使用開始後に徴収する場合や分割して徴収する場合には、使用許可を受けた者から事情を聴取し、十分な検討の上で、特別な理由の有無を判断しなければならない。 しかし、区施設の使用を許可する際に使用料の全額を使用開始前までに徴収していないにもかかわらず、使用許可の決定に係る起案文書中に、特別の理由等が明記されていないものが複数見受けられた。 行政財産の使用料の徴収に当たり、使用開始日までに全額徴収しない場合には、世田谷区行政財産使用料条例に基づき、特別な理由の有無を判断し、その状況を起案文書中に明記するなど、適正な事務処理を図られたい。 A適正な契約事務について ア 適正な仕様書の作成について 契約における仕様書は、区が発注する物品や履行させる内容を具体的、詳細に定めて、受注者が適正な履行を行うための十分な情報が記載されていなければならない。また、仕様書は検査行為の根拠となる書類でも あるから、検査員が指示どおりに履行が完遂されているかを判断できる内容を備えている必要がある。このため、仕様書を作成するに当たっては、契約内容を十分検討するとともに、履行内容を正確に記載しなければならない。 しかし、仕様書について、次のような事例が見受けられた。 ・施設修繕の業務委託契約において、写真帳の提出を受けて履行内容を確認しているが、仕様書上に写真帳の提出が記載されていない。 ・通知書等の印刷契約において、仕様書上、原稿の受渡日として契約締結日より前の日付が記載されている。 ・測量調査委託において、個人情報の電算機での処理を伴う業務のため、「電算処理の業務委託契約の特記事項(兼電算処理の個人情報を取り扱う業務委託契約の特記事項)」が仕様書に添付されているが、当該契約には適用されない一般規定である「個人情報を取り扱う業務委託契約の特記事項」も一緒に付されている。 契約担当者は、安易に前年度の仕様書を転用するのではなく、履行内容が受注者に明確に伝わる内容であるかどうか、また検査員が履行内容を確実に確認できるかどうかという視点で、仕様内容を精査し、適正な仕様書を作成されたい。 イ 見積書の徴取について 世田谷区契約事務規則第40条では、契約担当者は、「随意契約によろうとするときは、契約条項その他見積りに必要な事項を示して、なるべく2人以上から見積書を徴さなければならない」とされている。見積書は契約行為の根拠となるものであり、契約の申込みを明らかにし、かつ、区の予定価格に照らし合わせて申込み価格の妥当性を判断するためのものである。徴取する見積書については、見積日が明らかであり、見積り の内容が区の示す契約条件と合致していなければならない。 しかし、見積書に関して、次のような事例が見受けられた。 ・見積書に見積日の記載がない。 ・見積書の見積日が契約締結日後の日付になっている。 ・特段の理由がなく、見積書を1人からしか徴取していない、あるいは全く徴取していない。 ・2人から見積書を徴取しているが、仕様内容が異なっている。 ・仕様書の内容が曖昧だったため、2人から徴取した見積書の見積額に大幅な開きがある。 契約担当者は、見積書徴取の意義をしっかりと認識したうえで、契約の相手方の意思表示日でもある見積日が明らかであること、見積りの内容が区の示す契約条件と合致していることを、必ず確認するなど、適正な事務の執行に努められたい。 B指定供用物品の管理等について 郵券、ごみ処理券、その他の有価証券など、会計管理者が指定する供用物品(世田谷区物品管理要綱第15条に掲げるもの。以下「指定供用物品」という。)については、世田谷区物品管理規則第35条の規定に基づき、指定物品受払簿又はこれに代わるもの(以下単に「受払簿」という。)を備え、供用状況を明らかにしておかなければならない。 しかし、受払簿の記載について、次のような事例が見られた。 ・郵券等の購入について、検査日を受入日とすべきところを、発注日や納品日を受入日として受払簿に記入している。 ・郵券やごみ処理券について、年度末に年度繰越しの処理をする際、翌年度への繰越し、及び前年度からの繰越しを、受払簿に記入していない。 ・郵券やごみ処理券の年度繰越しの処理について、閉庁日に当たるか否かにかかわらず、翌年度に繰越す際の払出し日は3月31日、前年度より繰越しを受け入れる日は4月1日とすべきところを、開庁日の日付で処理している。 ・郵券等の購入で、検査日と同日で全量を払い出す場合は、納品書兼完了届の摘要欄にその使用内容を記載することにより、例外的に受払簿の記帳を省略することができるが、納品書兼完了届にも受払簿にも記載がない。 受払簿等への記載は、指定供用物品の現物の確認に欠くことができないものである。物品管理者は、郵券等の指定供用物品の管理に当たっては、受払簿等への適正かつ正確な記載に努められたい。 (2)各領域の事務事業について @企画総務領域 区は、区政に関する総合的な調査・研究を行うことを目的に、せたがや自治政策研究所を設置し、同研究所では、これまで主に区の政策に資する基礎的な事項の調査・研究に取り組んできた。同研究所では、研究等の成果をより具体的な政策形成につなげられるように、令和元年度から研究テーマの設定方法や研究体制等の見直しを行っている。将来にわたる人口動態や社会的特性を踏まえた研究に取り組むことは、これから の区政のあり方を検討していくために重要である。今後は、研究成果を具体的な政策立案のために還元できるように研究員のスキルを高め、同研究所の政策提言力の向上に努められたい。 区では、「世田谷区役所版働き方改革」の一環として、平成30年2月から試行した新たな超過勤務ルールが令和元年7月から本実施となった。職員一人当たりの年間平均の超過勤務時間の前年度比の伸び率は、平成27年度から平成29年度までは毎年7〜8%台で推移していたものが、平成30年度は4.8%となったことから、一定の抑制効果が認められる。職員のワーク・ライフ・バランスの推進には、勤務時間の適 正管理はもとより、区民サービスに留意しつつ、事務事業の優先度を踏まえながら、業務の手順や実施手法の点検と見直しを行うことが重要である。そのためには、管理職を含めた職員が合理的な仕事の進め方に向けた意識改革を不断に行っていくことが必要である。今後も、効率的な会議運営、資料作成等の省力化、業務内容に応じた委託化など、具体的、効果的な改善策を模索し、一層の働き方改革に取り組まれたい。 公共施設の整備に当たっては、経費の抑制とともに、利用者の視点に立った質や安全性の確保が求められる。労務単価や建設資材価格の上昇など、工事の発注を取り巻く状況が変化する中、工事経費の積算を適切に行い、工事予定価格を適正に定めることは、円滑な契約締結と公共施設の質や安全性の確保につながる。区は、積算単価に実勢価格を適切に反映させるよう、区が定める積算標準単価を適宜更新し、最新のものとしている。また、外部委託 による建築設計積算の検証や市場価格調査を踏まえ、積算精度の向上と適正な価格設定に取り組むとともに、毎年度、技術研修を実施し、職員の能力向上と技術の継承を図っている。今後も、職員の育成に力を注ぐとともに、技術革新の動向や現場従事者の働き方改革等、建設業を取り巻く状況も注視しながら、適正で合理的な価格や工期の設定、施工管理に努められたい。 A区民生活領域 地域防災の要である各総合支所では、大規模災害の発生に備え、日頃から、災害時区民行動マニュアルやハザードマップの周知、防災区民組織による防災訓練等に対する支援、避難所運営の支援など、地域の防災力の向上に取り組んでいる。大規模地震だけでなく、近年頻発する大雨や暴風による風水害や土砂崩れ等が発生した際に、被害の拡大を防ぐためには、日頃からの効果的な備えが極めて重要である。今後とも、区民の生命と財産を守るため、自助・共助・公助による地域の防災力向上に向けた取組みをより積極 的に進められたい。 区は、世田谷区第3期文化・芸術振興計画に基づき、次の時代を担う世代に向けた文化・芸術振興事業の一つとして、若手芸術家の発掘・支援を目的とした「世田谷区芸術アワード“飛翔”」を公益財団法人せたがや文化財団と共催して実施している。同アワードでは、より多くの応募者を募り、有意な人材を発掘・支援するため、令和元年度より賞金を創設し、外部審査員の登用、応募要件の緩和など、若手芸術家の応募動機の醸成を図っている。区民が若手芸術家の優れた創作活動に触れる機会を充実することは、区の文化・芸術全体の振興に つながることが期待できる。今後も事業の成果を適宜検証し、同アワードの受賞者が受賞後も区と関わりを持ち、区民にその成果が還元されるよう工夫されたい。 区は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向け、トップアスリートとの交流や競技体験の催しを開催するなど、区民の気運を高める様々な取組みを進めている。とりわけパラリンピックは、区民が障害者スポーツに触れる貴重な機会になることから、大会の気運と区民の障害理解を高めるための取組みの意義は大きい。大会終了後も、そのレガシーが次の世代に広く引き継がれることを見据えるとともに、先導的共生社会ホストタウンとしての役割を踏まえ、関係機関と十分連携しながら効果的に事業予算を執行し、取組みを推進されたい。 新たな産業の創出や経営力の強化、新製品や技術の開発を促進し、区内産業の持続的な成長を図るため、区は、平成30年度に金融機関、産業支援機関、区内大学等と区で構成する「せたがや産業創造プラットフォーム」を設置した。区ではこれまでも、ソーシャルビジネス活動への支援や経営支援コーディネーターを活用した支援などにより、区内産業の基盤強化に取り組んできた。また専門的知見を施策に活用するため、区内大学との連携プロジェクトも進めている。同プラットフォームの運営に当たっては、こうした取組みを 緊密に連携させながら、区内産業の成長と新たな創造に向けて、より具体的、効果的な成果が挙がるよう、努められたい。 B保健福祉領域 昨今、80歳代の親と50歳代の子との家庭において、必要な支援が行われない状態が長期化したまま、家庭が孤立してしまう、いわゆる「8050問題」が大きな社会問題となっている。「8050問題」は、経済的な問題による生活困窮だけでなく、介護や医療など複合的な要因を抱えている場合が多いとされている。顕在化しにくいことからその状態が長期に及ぶことが多く、極めて深刻な問題となっている。各総合支所では、各地域の地域ケア会議において「8050問題」を共通の課題 として挙げるなど、支援の必要性の認識を共有し解決に向けた取組みが始まっている。また、区では支援のあり方を検討するために、ひきこもりの実態を把握する調査も令和元年度に初めて行った。今後も当事者の状況やニーズを様々な機会を捉えて把握するとともに、高齢や障害などの分野別の支援にとどまらず、各分野の専門の職員が相互に連携し、世帯全体を地域ぐるみで支える包括的な支援となるよう尽力されたい。 区は、平成28年の児童福祉法の改正を踏まえ、医療的ケアが必要な障害児(以下「医療的ケア児」という。)とその家族が、必要な支援を適切に受けることができるよう、取組みを進めている。平成30年度には、関係機関の連携を強化するための協議の場である「世田谷区医療的ケア連絡協議会」を設置し、また、区立保育園での医療的ケア児の受入れや、在宅医療を支える訪問看護師を対象とした研修を開始するなど、様々な支援に取り組んでいる。医療的ケア児が日中過ごすことができる場の確保や家族の介護負担の軽減は 生活を支える重要な課題であり、そのためには、医療的ケア児の受入れ施設の拡充や、専門性の高い人材の育成・確保が求められている。今後も、医療的ケア児とその家族が地域で安心して生活することができるよう、保健・医療・福祉・教育など幅広い分野において関係機関の連携を強化し、成長段階に応じた支援の充実を図られたい。 区は、平成31年2月に青少年交流センターとして区内3箇所目となる「希望丘青少年交流センター(愛称「アップス」)」を開設し、委託方式により運営している。当センターでは、準備段階から当事者である若者や地域の意見及び要望を最大限に反映した運営が行われ、同年3月末までの2か月間の利用者数は1万1千人余りで、当初の予想を上回る利用状況となっている。また、既存の「青少年交流センター池之上青少年会館」及び「野毛青少年交流センター」においても、それぞれの特色を活かしながら、若者への支援が行われている。3つの青少年交流センターは、その開設の背景や地域特性は異なるが、多世代の交流や活動の拠点として相互に情報を共有し、連携・協力しながら、地域とともに若者 の自立と成長の支援ができるよう、取り組まれたい。 区では、令和2年4月の児童相談所開設に向け、多くの課題を調整しながら、全力で準備に取り組んでいることを評価する。児童相談所の開設に当たっては、区には経験豊富な職員が少ない現状の中、児童相談行政に必要な資質を備えた人材の確保、専門性の向上を図るための人材育成、関係機関との迅速かつ適切な連携体制の構築などが極めて重要である。また、運営開始後、児童や保護者に対し迅速かつ適切な支援を行うためには、職員の疲弊や不安を防止するための体制整備が欠かせない。今後も全庁的なサポート体制と財政基盤を 整えながら、子ども家庭支援センターと児童相談所の一元的運用を大きな柱として、区民に信頼される児童相談行政の実現に取り組まれたい。 C都市整備領域 区は、「世田谷区電線類地中化整備5ヵ年計画(平成26〜30年度)」に基づき、無電柱化を計画的に進め、平成30年度は、4箇所で道路延長約800mの電線共同溝が整備された。無電柱化は、都市防災機能の強化や安全で快適な歩行空間の確保、良好な都市景観の創出に寄与するものである。その一方で、多額の経費と各ライフライン事業者や商店街等との調整や理解獲得に多くの時間を要することから、平成30年度末現在での整備済道路延長は約12km、整備率は道路管理延長の約1.1%にとどまっている。区は平成28年施行の「無電柱化の推進に関す る法律」の趣旨を踏まえ、令和元年6月に「世田谷区無電柱化推進計画」を策定した。今後は、財源の確保を図るとともに新技術の導入や地元の住民との早期の合意形成に努め、計画目標の達成に向け着実に取組みを進められたい。 平成30年6月の大阪府北部地震による小学校のブロック塀倒壊で発生した児童の死亡事故を踏まえ、区は令和2年3月までの緊急対応として安全性を確認できないブロック塀等の除却費用助成制度を構築し、平成30年度は32件の助成実績があった。しかし、年度途中からの開始で周知期間が短かったためか、本助成制度を含む「がけ・擁壁等防災対策」事業の平成30年度予算執行率は26.9%にとどまった。令和元年度は、「世田谷区がけ・擁壁等防災対策方針」に基づく「擁壁改修専門家派遣制度」「がけ地近接等危険住宅移転事業補助金交付制度」「住 宅・建築物土砂災害対策改修補助金交付制度」に加えて、新たに「擁壁改修等補助金交付制度」を開始し、ハード・ソフト両面の支援策を拡充している。前述の「ブロック塀等緊急除却助成金交付制度」も含めて、積極的なPRと所有者の理解促進に努め、区民の安全・安心に資するよう、取り組まれたい。 区は、平成30年10月に「世田谷区空家等対策計画」を策定し、管理不全な空家等の対策に取り組んでいる。区による空家等への改善要請により、一定の改善がなされ、著しく管理不全な特定空家等についても所有者等による解体が徐々に進んでいるが、空家等対策の推進に当たっては、空家の発生を抑制するための区民への一層の情報提供や意識啓発、空家等の所有者が直面する困り事への相談窓口の充実が重要である。区は、平成31年3月に空家等対策に関する協定を15の専門家団体等と締結し、相談窓口の設置や、空家等の所有者等への意識啓発に協力を得 ている。今後も専門家団体等と連携し、空家対策の更なる推進に取り組まれたい。 区内の交通事故全体に占める自転車事故の割合は、平成27年の34.5%以降連続して上昇し、平成30年は39.8%と高い状況となっている。こうした状況を踏まえ区では、区内の自転車事故件数の約5割を占める20〜40歳代の利用者を視野に、子育て自転車のためのガイドブックを新たに作成した。また、事故が起きた場合の備えとして、区民交通傷害保険を導入し、平成30年度の加入件数は6,851件に上った。高齢ドライバーが運転免許証を自主返納し、自動車の代わりに自転 車の利用の増加も予想されることから、高齢者を含めた幅広い世代への事故防止対策が不可欠である。そのためには、警察等関係機関との連携により、自転車の安全利用の啓発や自転車走行帯の路面表示など、ハード・ソフト両面から自転車事故件数の減少に向けた取組みを進めるとともに、区民交通傷害保険の加入促進に努められたい。 D教育領域 教育委員会は、平成30年度に区立中学校4校でe−ラーニングの試行を開始し、令和元年度からは全区立中学校で実施している。学習習慣の定着や生徒の学力向上といった導入目的に沿った利用が活発に行われるためには、事業者、学校、本人及び保護者との連携や協力が欠かせない。加えて、e−ラーニングを不登校生徒等に対する学習支援策として普及させることも重要である。学習の基礎や基本の能力を育むため、教育委員会では、このほかにも土曜講習会や、区立小学校における放課後学習支援も実施している。こうした取組みの成果が学級担任や教科担任 に効果的に集約され、教材研究や授業を通じて世田谷9年教育の質の向上につながるよう努められたい。 平成30年度の河口湖移動教室に参加した児童・生徒数は、前年度比で104人の減となっている。河口湖林間学園は、これまで、児童・生徒が豊かな自然環境のもとで、体験学習や集団生活を通じて心身を鍛え、豊かな人間性をつくりだすことに長く寄与してきた。しかし、利用者の減少は施設の有効利用の観点から課題であるといえる。当学園は、風光明媚な場所にあり、今後は耐震再診断に基づく補強工事も予定されている。広い体育館や食堂棟を備えている区所有の施設であることから、利用者数の拡大に向け、現在一部 の中学校で行われている部活動合宿への開放の拡充を含め、年間を通じた施設活用の可能性を検討されたい。 区立図書館においては、資料貸出のほか読書に関する講演会や講座、おはなし会の開催、ボランティアの育成・活用等、様々な事業が行われている。運営面では、第2次世田谷区立図書館ビジョンに基づく運営方針のもとで、指定管理者による運営や一部業務委託の手法を取り入れるとともに、ICタグや自動貸出機の導入による利便性の向上も図られてきた。活字離れと言われる今日において、各図書館の特色や取組み内容、管理運営に係るコスト情報を区民と共有していくことは、魅力ある図書館づくりにとって重要である。人生100年時代を見据え、図書館が区 民の生活の中にしっかりと位置づけられるよう、知と学びと文化の情報拠点にふさわしい機能充実を図られたい。 区における不登校の児童・生徒数は増加傾向にあるが、平成30年度のほっとスクール2箇所の入室者は合計で34人となっている。様々な背景はあるものの、不登校の児童・生徒数が800人以上という状況においては、入室者数は極めて少数といえる。こうした中で、不登校の状態にある児童・生徒のための区内3箇所目の施設としてほっとスクール「希望丘」が平成31年2月に開設された。運営はこれまでの直営ではなく事業委託の手法が採用されており、相談件数は同年3月末までで約200件の実績を 挙げている。この新たな施設の開設も契機として、各スクールの特徴を活かした支援を充実するとともに、3つのほっとスクール相互の連携協力や情報の共有・発信等により利用者の拡大を図られたい。また、卒業後の支援の必要性も考慮し、生きづらさを抱えた若者の支援施設との情報連携などにも努め、社会的自立を目指すうえで有効な施設となるよう、取り組まれたい。 終わりに 以上、平成30年度を中心とする財務事務の執行状況、重点事項である行政財産の使用許可、道路・公園の占用許可等に係る事務や、各領域の事務事業等について意見を述べてきた。 事務事業全般については、おおむね適正に運営されていると認められる。財務事務については、今回の監査においても、見積書などの日付の記入漏れや仕様書の内容が不明確であるものなど、基本的事項に係るミスが多く見受けられた。ミスをなくすためには、財務事務の根拠となる法令や規則等を必ず確認し、契約や支出に係る事務処理の意味を理解することが不可欠である。管理監督者は、安易な前例踏襲の方法を改め、組織内のチェック機能を徹底するとともに、 公金を誤りなく取り扱うという責任感を持って、財務事務に当たるよう職員への指導力を発揮されたい。 また、区では、令和元年11月にコンプライアンス推進委員会を設置し、各部におけるリスクマネジメントなどコンプライアンスの確保に向けた具体的な取組みを進めている。リスク管理の観点から事務処理の進め方を検証・改善することは重要なことであり、適正かつ正確な事務執行に成果をあげることが期待できる。今後も、リスク管理を徹底し、内部統制が機能する体制づくりに努められたい。 さて、令和元年10月の台風19号は、大雨による多摩川等の氾濫に伴う住宅、道路等への浸水、強風による住宅の屋根の損壊や倒木など、区民生活に大きな被害をもたらした。河川の水位上昇、避難指示、避難所の開設などの情報が区民に迅速・的確に伝わらず、また、水防業務等に従事する職員が不足するなど、区の情報発信の仕方や水防や復旧態勢のあり方について多くの課題が浮き彫りとなった。区は、台風19号への対応に係る課題を早急に検証し、区民 の生命と財産を守るためのきめ細かな風水害対策の構築に取り組まれたい。 ところで、庁有車の事故が減らない状況にあることは遺憾である。不注意な運転により重大な事故を引き起こせば、区政は区民からの信頼を損なうことになる。庁有車を使用する所管課及び職員は、改めて安全運転と事故防止の徹底に努められたい。 区では、新公会計制度導入後初めての決算となる平成30年度決算から重点政策や新実施計画事業について、成果指標をもとにコスト分析等に基づく事業成果の達成状況等に対する評価を行った。区民に対して財政や施策効果の見える化を図った点は評価できるが、数値化に馴染まない分野や項目もあり、また、コストだけでは評価しにくく、かつ、評価の記述からは論理的に妥当性を判断しにくい事業も見受けられた。今後は、継続的に行政評価の手法や内容を十分 検証し、事業の性質等も踏まえたより多角的かつ客観的な視点で事業評価を行い、効率的・効果的な行政サービスの実現に努められたい。 区財政を取り巻く状況を見ると、ふるさと納税の特別区民税への影響の拡大、消費税率引上げに合わせた法人住民税の更なる国税化による減収、幼児教育・保育の無償化に伴う負担増など、今後も区の財政運営は厳しい状況が想定される。増大する社会保障関連経費や大規模な公共施設の整備費等の財政需要に備えるため、更なる行政経営改革の推進と将来にわたり安定した財政基盤の構築に全力を注ぐことを要望する。 令和元年度は「世田谷区基本計画」の6年目、新実施計画(後期)の2年目となり、区は、地域包括ケアシステムの推進、地域防災力の向上、幼児教育・保育の推進などに取り組むとともに、児童相談所の開設準備、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた気運醸成事業、本庁舎等整備など喫緊の課題に取り組んでいる。区の人口が91万人を超え、更に増加する推計が示される中、急激な高齢化が見込まれる区の将来像を見据え、官民連携や住 民との協働など、事業の手法を工夫し、区民サービスの充実を図られたい。 最後に、すべての区民が安心で安全な暮らしを実感できるようにするためには、職員一人ひとりが、常に区民の視点に立って事務事業の充実・改善に取り組むことが大切である。今後とも、最少の経費で最大の効果を生み出す施策を着実に進め、区民から信頼される区政運営に努められたい。