平成30年度 定期監査報告書 世田谷区監査委員 30世監第71号 平成31年1月11日 世田谷区議会議長様 世田谷区長様 世田谷区教育委員会様 世田谷区選挙管理委員会様 世田谷区農業委員会様 世田谷区監査委員 萩原賢一 同 阿部能章 同 石川征男 同 福田妙美 平成30年度定期監査の結果について 地方自治法第199条第1項、第2項及び第4項の規定により実施した監査の結果に関する報告を、同条第9項の規定に基づき、次のとおり提出します。 第1 監査の目的、監査対象部及び実施期間等 1 監査の目的 区の財務事務及びその他の事務が法令等の趣旨に沿って適正に執行されているかを検証するとともに、各事業の計画に対する成果や評価の状況から各事業が住民福祉の増進に寄与しているか、合規性、経済性、効率性、有効性の図られた運営がなされているかといった観点で監査することにより、公正で合理的な行政運営の確保に資するものとする。 監査の観点 合規性:法令、基準等に則しているか(適法性、正確性) 経済性:最少の経費であるか 効率性:最大の効果をあげているか 有効性:所期の目的を達成しているか 2 監査の範囲 各監査対象部等の平成29年度から平成30年度監査実施日までの財務事務及び事務事業の執行とした。 3 監査対象部等 (1)総合支所・本庁 領域 総合支所 対象部局 世田谷総合支所、北沢総合支所、玉川総合支所、砧総合支所、烏山総合支所 企画総務領域 対象部局 政策経営部、総務部、庁舎整備担当部、区長室、危機管理室、財務部、施設営繕担当部、会計室、区議会事務局、選挙管理委員会事務局、監査事務局 区民生活領域 対象部局 生活文化部、地域行政部、スポーツ推進部、環境政策部、経済産業部、農業委員会、清掃・リサイクル部 保健福祉領域 対象部局 保健福祉部、障害福祉担当部、梅ヶ丘拠点整備担当部、高齢福祉部、子ども・若者部、保育担当部、世田谷保健所 都市整備領域 対象部局 都市整備政策部、防災街づくり担当部、みどり33推進担当部、道路・交通政策部、土木部 教育領域 対象部局 教育委員会事務局 (2)施設等 施設区分 まちづくりセンター 実施基準 4年毎 施設数 6施設 施設名 若林、代沢、九品仏、用賀、船橋、上北沢 施設区分 出張所 実施基準 2年毎 施設数 1施設 施設名 用賀(二子玉川分室を含む) 施設区分 清掃事務所 実施基準 毎年 施設数 3施設 施設名 世田谷、玉川、砧 施設区分 児童館 実施基準 5年毎 施設数 5施設 施設名 野沢、玉川台、新町、鎌田、上祖師谷ぱる 施設区分 保育園 実施基準 5年毎 施設数 9施設 施設名 南桜丘、わかくさ、松原北、南奥沢、奥沢、上祖師谷、上祖師谷南、南大蔵、大蔵 施設区分 公園管理事務所 実施基準 2年毎 施設数 3施設 施設名 北沢、玉川、砧 施設区分 土木管理事務所 実施基準 2年毎 施設数 3施設 施設名 北沢、玉川、砧 施設区分 幼稚園 実施基準 5年毎 施設数 2施設 施設名 多聞、八幡山 施設区分 小学校 実施基準 5年毎 施設数 12施設 施設名 多聞、旭、中里、上北沢、経堂、山崎、京西、瀬田、用賀、八幡山、砧南、喜多見 施設区分 中学校 実施基準 5年毎 施設数 6施設 施設名 桜丘、松沢、八幡、尾山台、砧南、世田谷 施設区分 地域図書館 実施基準 4年毎 施設数 4施設 施設名 世田谷、深沢、粕谷、鎌田 施設区分 その他施設 実施基準 3年毎 施設数 2施設 施設名 民家園、郷土資料館 4 監査の実施期間 平成30年5月から同年11月までとした。 (1)総合支所・本庁 領域 総合支所 事務局による監査 5月8日から5月18日まで 監査委員による監査 世田谷総合支所 6月27日 北沢総合支所 6月28日 玉川総合支所 6月27日 砧総合支所 6月26日  烏山総合支所 6月28日 企画総務領域 事務局による監査 5月15日から6月20日まで 監査委員による監査 7月27日 区民生活領域 事務局による監査 5月15日から6月20日まで 監査委員による監査 7月30日 保健福祉領域 事務局による監査 5月15日から6月20日まで 監査委員による監査 7月31日 都市整備領域 事務局による監査 5月15日から6月20日まで 監査委員による監査 8月1日 教育領域 事務局による監査 5月15日から6月20日まで 監査委員による監査 8月2日 (2)施設等 事務局による監査 9月3日から10月22日まで 監査委員による監査 10月15日から11月6日まで 5 監査の重点(留意)事項 平成29年度定期監査で改善や検討を要する事項としたものについての対応を確認するとともに、世田谷区物品管理規則第35条に規定する指定供用物品及び同規則第37条に規定する特別整理を要する材料品において、受入れから保管、払出し等にいたる手続きが同規則及び世田谷区物品管理要綱等に基づき適正に行われているかに留意した。 第2 監査の結果 1 財務に関する事務、監査の重点事項等について 財務に関する事務、監査の重点事項(前掲)及びその他の事務事業については、おおむね適正に執行されていたと認められる。 ただし、財務会計事務等に関する軽微な誤りや検討を要する事項については、是正や訂正を行うよう当該所管課等に口頭で注意した。適正な処理を徹底すべき事項や全庁的に取り組むべき事項に関しては、次の意見において述べるので、事務処理の見直しや改善の参考とされ、より適正な事務の執行に努められたい。 2 意見 地方自治法第199条第10項の規定により、平成29年度を中心とする監査対象期間において、区が実施している事務事業等の執行状況について、区の組織及び運営の合理化に資するため、監査の結果に添えて意見を述べる。   (1)適正な処理を徹底すべき事項、全庁的に取り組むべき課題 @指定供用物品の適正な管理等について ア 指定物品受払簿について 郵券、商品券、ごみ処理券その他の有価証券や有償頒布物など、会計管理者が指定する供用物品(世田谷区物品管理要綱第15条に掲げるもの。以下「指定供用物品」という。)については、世田谷区物品管理規則第35条の規定に基づき、指定物品受払簿又はそれに代わるもの(以下単に「受払簿」という。)を備え、供用状況を明らかにしておかなければならない。今回の監査を通じて、指定供用物品の数量の過不足は認められなかったが、受払簿の整備・記載について、次のような事例が見られた。   ・はがき、図書カード、区内共通商品券、収入印紙、現金書留封筒等を購入し、一旦保管したにもかかわらず、受払簿を備えていない。 ・郵券について、補助簿から受払簿へ転記する際に、転記漏れや払出し日の誤記入がある。 ・郵券等の購入について、検査日を受入れ日とすべきところ、発注日や納品日を受入れ日として受払簿に記入している。 ・年度末現在において保管する郵券について、次年度への繰越し処理を受払簿に記入していない。   物品管理者は、受払簿の記載は、現物の残数確認に欠くことができないものであるから、適正かつ正確な記入を行うことにより、定期的な残数確認に努められたい。   イ 金券類の保管等について 指定供用物品のうち、郵券、タクシー券、駐車場無料券、ごみ処理券等の金券類については、世田谷区金庫管理要領第5条の規定に基づき、金庫に保管するものとされている。 しかし、いくつかの所管において、金庫を設置していないことから、郵券等を施錠可能な書棚内に保管している事例が見られた。 なお、金庫の管理については、年度当初に暗証番号等を変更し(同要領第6条第2項)、常時施錠する(同要領第7条第2項)こととされているが、いくつかの所管において、暗証番号を変更していない例や事務処理が煩雑になるとして、日中、金庫の施錠をしていない事例が見られた。 金庫総括管理者及び金庫管理者は、金券類の保管及び金庫の管理を適切に行われたい。   ウ 有償刊行物について 区政情報センター等で販売している区の刊行物は、有償頒布物として指定供用物品に指定されており(世田谷区物品管理要綱第15条第2号)、適正に管理する必要がある。有償刊行物の中には、各種計画書のように庁内への無償配付を主たる目的に作成されたが、その一定の部数を事業者に委託して販売用とするものがある。 この場合、有償頒布物(販売用)として区別するための手続、有償頒布物の残数として管理すべき範囲、販売取り止め後に販売用途を廃するための手続等は、現行規程等において、必ずしも明らかではない。 会計管理者は、関係所管と協議の上、こうした有償頒布物の取扱いに係る手続を明確にすることが望まれる。   A適正な契約事務について ア 見積書の徴取について 世田谷区契約事務規則(以下「契約事務規則」という。)第40条は、契約担当者は、「随意契約によろうとするときは、契約条項その他見積りに必要な事項を示して、なるべく2人以上から見積書を徴さなければならない」としている。見積書は契約行為の根拠となるものであり、契約の申込みを明らかにし、かつ、区の予定価格に照らし合わせて申込み価格の妥当性及び経済性を判断するためのものである。徴取する見積書については、見積日が明らかであり、見積りの内容が区の示す契約条件と合致していなければならない。 しかし、いくつかの所管において、見積書に見積日の記載がないものや特段の理由もなく1人からしか見積書を徴取していない事例があったほか、次のような事例が見られた。   ・2人から見積書を徴取しているが、見積りに係る条件や内容が異なっている。 ・見積書を徴取した際の仕様と異なる内容の仕様で契約を締結している。 ・見積書の日付が契約締結日後になっている。   契約担当者は、改めて見積書徴取の意義を確認し、適正な事務の執行に努められたい。   イ 定期刊行物の購読について 新聞や専門雑誌等の定期刊行物の年間購読については、区の「財務事務の手引」において、年度当初に起案文書による年間購読の意思決定をすることが必要とされている。 しかし、いくつかの所管において、起案文書による意思決定がないまま、新聞等を年間講読している事例が見られた。 契約担当者は、必要な意思決定についても留意し、適正な事務の執行に努められたい。   ウ 適正な仕様書の作成について 契約における仕様書は、区が発注する物品や業務の内容を具体的に定めるもので、相手方が適正な履行を行うために十分な情報が記載されていなければならない。また、仕様書は、検査行為の根拠となる書類でもあるから、検査員が仕様どおりに履行がなされているかを判断できる内容を備えている必要がある。このため、仕様書の内容が不正確・不十分であると、区の発注と異なる内容の履行がなされたり、検査行為にも支障をきたしかねない。 しかし、仕様書について、次のような事例が見られた。   ・映像等の編集委託において、仕様書に具体的な履行内容が記載されていない。 ・複数施設の貯水槽清掃委託において、仕様書に記載された対象施設一覧と実際に作業した施設とで食違いがある。 ・印刷契約において、成果物として、印刷物とともにその電子データも納品させているが、仕様書に電子データの形式や提出方法の記載がない。 ・職員が常駐しない施設の維持管理業務委託において、清掃業務の履行確認のために業務報告書が必要であるにもかかわらず、仕様書に業務報告書の提出を求める記載がない。 ・設備設置の工事請負契約において、検査の必要上、写真帳の提出を受けているが、仕様書に写真帳の提出についての記載がない。 ・印刷契約において、仕様書に契約締結日前の日付を原稿渡し日として記載している。   これまでの監査においても重ねて意見を述べてきたところであるが、仕様書の作成に当たっては、安易に従前の仕様書を転用することなく、改めて内容を検討し、履行に係る内容や品質、数量、期限、成果物、報告書の提出方法などの仕様内容を具体的、詳細に記載し、検査員が検査を確実に行える内容とするよう徹底されたい。   エ 産業廃棄物処理委託の契約書類について 産業廃棄物の処理に関しては、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)及び廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(以下「廃棄物処理法施行令」という。)では、産業廃棄物の運搬又は処分を他人に委託する場合には、廃棄物処理法及び廃棄物処理法施行令で定める者にそれぞれ委託しなければならないこと、契約書類には受託者に係る運搬業又は処分業の許可証の写しを添付することなど、委託の基準を厳格に定めている。 しかし、受託者の産業廃棄物運搬業又は処分業の許可の確認に関して、次のような事例が見られた。   ・施設の衛生設備保守点検委託において、産業廃棄物の運搬を含む契約であるにもかかわらず、契約書に受託者の運搬業の許可証の写しが添付されていない。 ・不用品の収集運搬・処分委託において、契約書に受託者の運搬業の許可証の写しが添付されていない。   産業廃棄物処理委託については、これまでの監査においても意見を述べてきたところであるが、契約担当者は、契約の締結に当たっては、廃棄物処理法等の関係法令を必ず確認し、適正な事務の執行に努められたい。   B納品書兼完了届について 納品書兼完了届について、いくつかの所管において、納品日又は完了日より前の日が検査日として記入されている事例があった。 検査員及び収支命令者は、支出に係る書類の日付の記載についても留意し、世田谷区会計事務規則等に基づく適正な支出事務が確保されるよう努められたい。   C情報機器の管理について 課における電子計算組織の適正な管理及び効率的な運営並びに情報セキュリティの確保のため、情報化管理者は、情報セキュリティポリシーに基づき、課の情報セキュリティ実施手順を作成し、運用することとされている(世田谷区電子計算組織の運営に関する規則第9条第3項第5号)。 しかし、いくつかの所管において、デジタルカメラやUSBメモリ等の記録媒体を保有するにもかかわらず、情報機器管理台帳を作成していない事例や、新たに購入したデジタルカメラやICレコーダー等を台帳に追記していない事例が見られた。 情報化管理者は、作成した情報セキュリティ実施手順に従い、情報機器を適正に管理されたい。   (2)各領域の事務事業について @企画総務領域 区は、過熱する返礼品競争等による特別区民税の減収に対応するため、区へのふるさと納税を促進する取組みの一つとして、クラウドファンディング手法のふるさと納税(寄附事業)に取り組んでいる。平成29年度には、宮坂区民センター前広場に設置している旧玉電車両の補修等事業や大蔵運動場の陸上競技場スタンドの改築事業に、クラウドファンディングを活用し、一定の成果をあげている。今後とも、世田谷らしい寄附制度をより一層充実させるため、柔軟な発想による創意工夫を凝らし、区へのふるさと納税の促進に向けた取組みをより積極的に進められたい。 区は、公共施設整備において新築・改築の基本設計を対象として、職員によるVE(バリューエンジニアリング)を実施している。事業者が行った基本設計の内容の精査を行い、部材の質や数量の見直しなどによる費用対効果や改善すべき事柄をVE提案し、採用されたVE提案が実施設計に反映されることで工事予定額の削減に成果をあげてきた。一方、医療施設を含む梅ヶ丘拠点整備事業においては外部VEが実施され、また、現在進められている本庁舎等整備の基本設計においてはより専門的な知見から発注者である区を支援するCM(コンストラクションマネジメント)業務委託が採用され、CM業者によるVEが行われる。本庁舎等整備については、この外部VEと並行して職員によるVE実施が考えられており、VEに関する知見の蓄積に効果があるものと期待している。VE提案を通じて、職員の技術力の向上や、経験豊富な職員による若手職員の能力育成を図り、今後の公共施設の改築等における経費抑制に活かすことを要望する。 高齢化が加速する中で、区においては、振り込め詐欺などの特殊詐欺の被害が増加し続けている。特殊詐欺被害を防止する目的で、平成27年度に自動通話録音機の無料貸与が東京都主導で開始されたが、平成29年の被害件数は前年の1.6倍の216件となっている。自動通話録音機を設置することによる被害の防止効果は高いとされ、利用者が増えることは望ましいが、一方で、廉価とは言えない自動通話録音機を公費で購入できる数には限界があるとも考えられる。高齢者が被害に遭うケースが多い現状を踏まえ、自動通話録音機貸与事業の効果的な充実を図るとともに、被害情報や、被害を防止するための方法などを啓発する機会が増えるよう、警察をはじめ高齢者サービスを展開している区の関係所管部や事業所等と密接に連携しながら取り組まれたい。   A区民生活領域 区は、新実施計画に基づき、区民のボランティア参加の仕組みづくりである「ボランティア・マッチング事業」を進めている。平成29年度には、社会福祉法人世田谷ボランティア協会と連携し、同協会が運営する「おたがいさまbank」を再構築し、ボランティア意欲のある区民とボランティアを必要とする活動団体とをつなぐ環境の整備に取り組んだ。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を控え、区民のボランティア機運は高まりつつある。今後は、「おたがいさまbank」が地域の様々なボランティアニーズに対応できる人材バンクとして一層機能するよう、同協会と連携して、効果的な事業運営に取り組まれたい。 区では、住民登録や戸籍の届出などの申請手続における窓口サービスの向上を図ることを目的として、各総合支所の住民記録事務と戸籍事務の窓口を一体化し、効率的に受け付ける総合窓口として「くみん窓口」を平成29年7月に開設した。開設の効果については、来庁者アンケート等を実施し、レイアウト変更やフロアマネージャーの配置、番号発券機システムの導入、土曜開庁の拡充などの点でおおむね良好な評価を得ている。今後も、「くみん窓口」の効果を検証し、取扱い業務や運用上の課題に的確に対応することにより、更なる事務処理の効率化、区民サービスの向上に努められたい。 区は、世田谷区環境基本計画等に基づき、区内から排出される温室効果ガスを削減するため、再生可能エネルギーの利用拡大に取り組んでいる。神奈川県三浦市に区の太陽光発電所を開設し、エネルギーの地産地消に取り組むほか、長野県の水力発電による電力を区立保育園等に導入し、また、群馬県川場村の木質バイオマス発電による電力を区内の一般家庭に供給する仕組みを整備するなど、自治体間連携による再生可能エネルギーの活用も進めている。今後は、こうした取組みによる温室効果ガス削減の効果及び費用面の検証並びにそれらの「見える化」に努め、より分かりやすく区民に伝えながら、再生可能エネルギーの活用をより積極的に進められたい。 特殊詐欺や悪質商法による高齢者の被害が後を絶たない中、高齢者の消費生活トラブルの未然防止や早期発見、拡大防止については、高齢者への啓発とともに地域、地区全体の見守りが重要である。区は平成29年に「世田谷区消費者安全確保地域協議会」を設置した。同協議会では、高齢福祉部と連携し、「高齢者見守り協定に係る連絡協議会」加盟の事業者等に対し、福祉的見守りに加え、消費者トラブル防止の観点からの見守りへの協力を依頼している。今後も、高齢者が消費者市民社会の形成に積極的に参画し、自立した消費者になるための支援と地域・地区の高齢者見守り体制の強化を推進されたい。   B保健福祉領域 区では、誰もが住み慣れた地域で安心して暮らし続けることができる地域社会の実現のために地域包括ケアシステムを推進している。そのための取組みの一つとして、「地区」、「地域」、「全区」の三層構造による「地域ケア会議」を実施している。福祉的・複合的な相談から地域の課題を抽出し、課題の解決に向けた具体策の検討や取組みが、活発に行われていることを評価する。一方、地域における様々な課題に対応して解決するためには、住民等の活動の場の確保や担い手となる人材の確保・育成など、地域の特性や生活ニーズ等に応じた社会資源の発掘・創出を行うことが重要である。社会福祉法人世田谷区社会福祉協議会との連携を一層密にしながら地域の社会資源の開発を進めるとともに、地区住民にこうした取組みの重要性を理解してもらい、参加を促進するための工夫が必要である。今後も地域包括ケアシステムの充実に向けて、地域の多様な主体による「参加と協働による地域づくり」を推進されたい。 区は、平成28年4月に施行された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」の趣旨に沿って、相談体制の整備や区民、事業所等への普及啓発を行うなど、障害者差別の解消のため、様々な取組みを行っている。また、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて、区は平成29年12月に、東京都内の自治体としては初めて国の「共生社会ホストタウン」に登録された。その取組みの一環として、商店街等との協働による商店や事業所への段差解消用簡易スロープの設置や筆談ボードの配置など、障害者の外出環境の向上や障害理解の促進等を図る「心のバリアフリー」に取り組んでいる。今後も、引き続き、障害者差別の解消や障害者への理解促進のため区民や事業所への普及啓発などを進めるとともに、区民、団体、事業者等との連携・協働のもと、共生社会の実現に向けて積極的に取り組まれたい。 区では、認知症初期集中支援チーム事業の実施や認知症カフェの普及への支援などにより、認知症高齢者の在宅生活を支えるための取組みを進めている。また、認知症在宅支援施策の専門的かつ中核的な役割を果たす拠点となる「認知症在宅生活サポートセンター」(以下「センター」という。)の平成32年度(2020年度)の開設に向けて、センターが有する機能の事業化を順次図るとともに、平成29年度はセンターの運営事業者を選定するなど、円滑な開設・運営への体制づくりを着実に進めている。区における認知症高齢者数が2025年には65歳以上の約7人に1人に達することが見込まれる中、認知症予防や認知症になっても住み慣れた地域で安心して生活できる社会の実現をめざして、開設されるセンターの多様な機能を活用しながら、更なる認知症施策の充実に取り組まれたい。 区の平成30年4月1日時点での保育待機児童数は486人で、前年度と比較して375人、約43%の減となった。待機児童数が大幅に減に転じたことは、この間、保育施設整備の促進や保育人材の確保などに全力で取り組まれた成果であると評価する。今後も地域・地区ごとの保育需要を見定めながら、引き続き、保育待機児童の効果的な解消に全力で取り組まれたい。また、保育施設の運営や保育人材の確保などのために交付されている各種補助金は、保育待機児童の解消や保育の質の向上を進める取組みとして、大きな効果をあげている。今後も、社会保障関連経費の増大が見込まれる中、補助事業の趣旨に鑑み、補助金交付事務の執行体制を強化しながら適正な補助金の管理や必要な指導を行い、その有効な活用により子どもの健やかな成長に向けた保育の質の向上が図られることを要望する。   C都市整備領域 区には、住宅密集地域をはじめ全域に、幅員4m未満の狭あい道路があり、災害時の迅速な避難や緊急車両の通行に支障をきたしている。区は、平成9年に世田谷区狭あい道路拡幅整備条例を制定し、建物の建替えに伴う道路の拡幅を行うとともに、道路後退に伴う擁壁の移設や撤去工事に対して助成するなど、狭あい道路の拡幅整備を進めている。平成29年度からは後退用地内の地下埋設管や隣地との境にある共有塀の撤去等に要する費用の助成を開始した。これらにより、平成29年度までの道路後退等による整備実績は、累計で約128kmとなり、成果をあげている。今後も地域防災の観点から、狭あい道路拡幅整備の重要性を区民に周知し、拡幅整備を促進することにより、安全安心な街づくりに全力で取り組まれたい。 区では、「世田谷区民自転車利用憲章」を定め、これまで、交通安全教室の開催、20〜40歳代への重点的取組み、自転車安全利用推進員の育成・支援の三本柱を中心に、自転車安全利用の啓発を進めてきている。しかし、平成29年中の区内の自転車事故の件数は都内ワースト1位であり、これまでの減少から、増加に転じている。自転車は手軽に利用できるからこそ、安全に利用し、交通ルールやマナーを守るという意識を高めることが求められる。特に、自転車事故の原因者として多い20〜40歳代への取組みとして、事業者、大学、子育て世帯への交通安全の啓発や自転車保険の普及に更に努めるとともに、学校や家庭を通じて児童・生徒への安全利用教育についても引き続き進められたい。 区は、「水害に強い安全・安心のまち世田谷」をめざし、豪雨対策を推進しており、平成29年度の流域対策の実績は、40万8,847m3となり、目標値を約4%上回った。平成30年6月には新たな豪雨対策行動計画を策定し、新しい視点としてみどりなどの自然の持つ機能を積極的かつ有効に活用するグリーンインフラの考え方を取り入れ、世田谷区雨水流出抑制施設の設置に関する指導要綱の見直しや雨水浸透ますの設置促進に取り組むなど、流域対策の強化を図っている。気象変動が進む中、豪雨対策が効果的に機能するためには、区民や事業者の理解と協力が不可欠である。今後もハザードマップの配布や、建築計画の説明の機会などを捉えて、グリーンインフラの考え方や流域対策の重要性を区民等に啓発し、流域対策等の更なる推進に取り組まれたい。 区は、区制100周年となる2032年にみどり率を33%とする「世田谷みどり33」を長期目標に掲げ、みどりの保全と創出を推進してきた。平成28年度のみどり率は25.18%で、樹木の生長と宅地への新たな植栽等により、5年前の同じ調査と比較すると、約0.6ポイント上昇している。一方、民有地においては土地の細分化による樹木・樹林地の減少や、宅地化による農地の減少を招いている。民有地は区全域の約7割の面積を占めるため、民有地でのみどりの保全と創出につながるアプローチが重要となる。こうしたことから、区は、みどりの取組みを総合的・計画的に進めるため、平成30年度を初年度とする新たな「みどりの基本計画」を策定した。今後も、同計画に基づき、区民一人ひとりが身近な場所でみどりを増やせるよう、民有地への働きかけを積極的に行い、「世田谷みどり33」の実現に向けた取組みを推進されたい。 D教育領域 教育委員会では、第1期の世田谷区特別支援教育推進計画に基づいて、学校包括支援員の全区立学校への配置や支援要員の配置時間数拡大により通常学級の人的支援を充実するとともに、平成28年度から全区立小学校に「特別支援教室」を導入し、児童の在籍学級における集団適応能力の伸長、障害者理解の促進に向け取り組んでいる。特別支援教育推進体制の中心的な役割を担う特別支援教育コーディネーターは、通常学級の担任や養護教諭が兼務しており、コーディネート業務に専念できる時間の確保と、コーディネートスキルの向上が、今後の指導・支援の強化には必要である。第2期の世田谷区特別支援教育推進計画に基づき、特別支援教育の推進体制の充実に係る施策や、区立中学校への「特別支援教室」導入に向けた取組みを着実に推進し、世田谷区の特別支援教育が更に充実することを期待する。 教育委員会では、給食用厨房機器等について、耐用年数に合わせ計画的に更新し、学級数の増加や老朽化等に伴う学校改修などの機会を捉えて給食室の改修工事を行い、施設・設備の充実及び改善を図っている。学校給食は、バランスのとれた食事を安全に提供することで、児童・生徒の健康の増進を図るという重要な役割を担っており、そのためには、調理設備や施設の維持管理を適切に行うことが不可欠である。今後も太子堂調理場の改修も含め、施設や設備の計画的整備による安全・安心な給食提供環境の確保に努めるとともに、平成30年度から全小中学校で公会計化された給食費についても、適正な債権管理や歳入・歳出事務に取り組まれたい。 教育委員会では、世田谷区教育総合センターの平成33年度(2021年度)の開設に向けて準備を進めている。教育総合センターは、区立小中学校や公私立幼稚園・保育所等の教職員や保育者のほか、子どもや保護者を支援する拠点として、また、災害時の避難所として地域の中での役割も併せ持つ施設として整備される。組織体制としては、「専門性の高い調査・研究を行う組織」、「学校経営や子どもと保護者を支援する組織」、「乳幼児期からの教育・保育を推進する組織」が核となるとされている。幅広い機能が集約される施設を効果的・効率的に運営できるように、組織体制の肥大化を招かないよう留意しながら再構築し、教育を取り巻く変化に対応できる、真に質の高い教育を推進する拠点となることを期待する。 教育委員会では、平成27年度からの10年間を計画期間とする第2次世田谷区立図書館ビジョンの基本方針のもと、利用者サービスの向上に向けた取組みが進められている。具体的には、ボランティアも活用したおはなし会等の各種催しや地域資料の充実を図るとともに、図書館資料にICタグを装備し、自動貸出機や盗難防止用ゲート等を設置することで、貸出し・返却の利便性を高める施策等も進められている。今後も、こうした利用者サービスを充実させ、知と学びと文化の情報拠点としての図書館の利便性の向上に努められたい。また、民間活力の計画的導入については、現在15館ある地域図書館の中で、指定管理者による運営が1館、図書館の一部業務委託が1館という状況である。民間活用しているこれらの図書館やその他図書館カウンターの運営状況を評価・検証し、今後の図書館サービスの充実に資するよう、幅広い視点から運営体制の検討を進められることを要望する。 終わりに 以上、平成29年度を中心とする財務事務の執行状況、重点事項である指定供用物品等の受入れ、払出しなどの手続きや各領域の事務事業等について意見を述べてきた。 事務事業全般については、おおむね適正に運営されていると認められる。財務事務については、今回の監査においても、書類に数量や日付などの記入漏れがあったり、仕様書の記載内容が不十分であるなど、職員の不注意や根拠規定の認識不足から生じるミスが多く見受けられた。こうしたミスが毎年度、繰り返されていることから、管理監督者は、小さなミスが大きな事故につながることを常に念頭に置き、法令はもとより、財務関係の規則、要綱等に則り、公金を処理する責任感を持って、財務事務にあたるよう職員への指導を徹底されたい。なお、契約事務を統括する経理課では、適正な契約事務の徹底に向けて、具体的な留意点を全庁的に通知するなど改善に取り組まれている。今後も、契約事務の適正な処理が確保されるよう所管課への指導に努められたい。 さて、区において障害者雇用率の誤算定があったことは、区民の区政に対する信頼を損なうものであり大変遺憾である。再発防止に向けた適正かつ正確な事務処理の徹底と今後の計画的な採用に向けた取組みを強く要望する。 地方自治法の改正により、長が内部統制に関する方針を策定し、必要な体制を整備することが定められた。特別区では努力義務規定ではあるが、事務処理のリスクをコントロールし、事故の未然防止を図るための重要な仕組みである。区において収納金の紛失や職員による区営住宅の不正利用があったが、そうしたリスクを回避するためにも内部統制の制度化に向けた取組みを進められたい。 区では、平成30年度から企業会計の手法を取り入れた新公会計制度を導入し、財務諸表の作成や固定資産台帳の整備を進めている。財務諸表を行政コストの分析や事務事業の評価・点検に活用し財政の見える化を推進するとともに、日々の会計処理を通して職員のコスト意識の醸成に努められたい。 平成30年度は「世田谷区基本計画」の5年目、新実施計画(後期)の開始年度となり、区は、地域包括ケアシステムの推進、地域防災力の向上、幼児教育・保育の推進などの政策課題に対し、関係所管部の横断的連携や区民・事業者等との参加と協働による取組みを進めている。 一方、ふるさと納税、地方消費税交付金の配分見直し、法人住民税の国税化などによる減収や幼児教育・保育の無償化に伴う負担増が見込まれ、今後の区の財政運営は厳しい状況が想定される。増大する社会保障関連経費や大規模な公共施設の整備費等の財政需要に備えるため、更なる行政経営改革の推進と将来にわたり安定した財政基盤の構築に全力を注ぐことを要望する。 最後に、職員一人ひとりが区政を担う責任と自覚を持ち、地域に暮らす区民の視点に立って事務事業の充実・改善に全力で取り組むとともに、服務規律を遵守し、区民から信頼される区政運営に努められたい。