令和3年度の調査研究の総括と今後の展望 大杉 覚 (せたがや自治政策研究所所長) 1.はじめに 令和3年度は、前年度に引き続きコロナ禍のもとでの調査研究となったが、新たに策定した「3か年計画」に基づき、 中長期的な視点から体系的・計画的にプロジェクトを推進することができた。所員の熱心な取組みによるものであると同時に、 関係各位からのご協力の賜物であることをあらためて感謝申し上げたい。 さて、本報告書を取りまとめるにあたって、本章ではあらかじめ、令和3年度の調査研究のアウトプットの全体像を整理するとともに、 令和4年度以降に取り組むべき課題とその対応の道筋を示しておきたい。 2.本年度調査研究のアウトプット (1)地域コミュニティおよび地域行政に関する調査研究 地域コミュニティおよび地域行政に関する調査研究については、令和2年度までの調査研究を踏まえつつ、新たな「3か年計画」では、 プロジェクトA「自治体経営のあり方に関する研究」およびプロジェクトB「世田谷区地域行政史調査研究」として位置づけられている。 これらはプロジェクトとしては別立てだが、社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)のうち特に注目するコミュニティ資源、地域行政資源、 パーソナルネットワーク資源に関連する調査研究であり、意識的に相互に連携・協力を図りながら進めることが求められる。 プロジェクトA「自治体経営のあり方に関する研究」のうち、A−1「地域コミュニティの実態に関する調査研究」では、次の2つの調査研究のアウトプットが得られた。 1つは、前年度「世田谷区における『小さなまちの拠点』の形成」(古賀奈穂研究員(当時))を踏まえ、令和3年度は「小さなまちの拠点」に関する情報収集を図り、 世田谷区内の「小さなまちの拠点」についてのデータベースを作成したことである。地域活動が多様かつ盛んに展開され、 コミュニティ資源が豊富な世田谷区においては、多活動マッチング型の地域プラットフォーム形成が期待されるが、その実態把握、 分析や情報発信にとって有用なツールとして今後活用が強く期待されるものである。 いま1つは、2年度にわたる調査研究の初年度として、区民対象アンケート「地域生活とコミュニティに関する調査」を行なった。 初年度の取りまとめ、「世田谷におけるコミュニティの現状とコロナ禍の影響——「地域生活とコミュニティに関する調査」報告書——」 (金澤良太特別研究員、小山弘美政策研究員、古賀奈穂主任研究員)にも示されているとおり、コロナ禍における影響などが明確に浮き彫りとなっており、 基本計画改定や地域行政制度の設計に有用なデータが導かれた。2年度目となる令和4年度ではアウトプットのまとめとともに、具体的な政策提言に結びつけていることが期待される。 地域行政資源に関しては、A−2「地域行政に関する調査研究」、プロジェクトB「世田谷区地域行政史調査研究」が行われた。 前者については、地域行政制度に関するデータベース作成を行なった。これまでの特別区や政令指定都市に関する地域行政の仕組みの調査の一環として、 新たに中核市の仕組みについて調査し、データベースとして利活用しやすく取りまとめたものである(大石奈実研究員)。 後者は、地域行政に関するオーラル・ヒストリーおよびアーカイブス事業である。  地域コミュニティおよび地域行政に関する調査研究については、総じて令和3年度においては本報告書の各パートで述べられているとおり、 ほぼ初期の目標を達成する調査研究のアウトプットを出せたが、個別プロジェクトごとに進められたきらいがある。令和4年度においては、 プロジェクトを横断する総合的な視点を加えて取り組んでいく必要がある。 (2)データの整備と活用 プロジェクトC「データの整備と活用」は、C−1「政策形成の向上とデータ活用の推進」、C−2「世田谷版データアカデミーの開催」、 C−3「次期基本計画に向けた招来人口推計」から構成される。 プロジェクトCは短中期的には基本計画改定に資することを目的とするが、中長期的には、行政経営の基盤強化、底上げを狙いとした組織開発型人材育成を目的とするものである。 C−1に関しては、EBPMに関する基本情報や世田谷区でのあり方について、田中陽子研究員が「世田谷区でEBPMを推進しデータ利活用を進めるために必要なこと」を取りまとめたほか、 「政策ナッジとEBPM」をテーマにした庁内オープン・ゼミを開催するなど、理論・実践面からのアプローチを展開した。 C−2は、より実践に重きを置いた取組みであり、令和3年度本研究所の基幹的事業として、庁内の人材を集めて執り行われたものである。 単なるデータ活用手法の学びにとどまるものではなく、「互学互修」を通じたEBPMマインドとスキルを有した人材の庁内循環的な育成を試みたものである(中村哲也研究員)。 なお、この事業は、単年度完結というものではなく、フォローアップを含めて持続的に執り行われるべきものである。 C−3は、直接的には基本計画改定に合わせた作業であるが、本研究所の調査研究の一環として位置付けることから、単なる将来人口推計にとどまらず、 課税情報や土地利用情報と人口データとを合わせて政策研究として展開させるための基盤的な調査研究を企図したものである。 令和3年度段階でのアウトプットは、志村順一主任研究員による「世田谷区の人口動向の分析——次期基本計画に向けた将来人口推計——」に示されたとおりである。 (3)その他アウトプットについて  「3か年計画」では、プロジェクトD「連携研究事業」、E「人材育成と情報発信」についても、プロジェクトA〜Cを推進していくうえでの基盤を提供し、 また、調査研究のアウトプットを発信するための極めて重要な事業として位置づけている。特に情報発信としては、新たに庁内オープン・ゼミを3回開催したほか、 所内研究会をオープンにするなど、調査研究アウトプットの庁内共有を積極的に進めた。 コロナ禍とはいえ、庁内オープン・ゼミについては初期の目標回数(年4回)を達成できなかった点や、 庁内のみならず区民向けの講演会等の情報発信がまったく不十分であったことは反省すべき点である。 3.次年度以降の調査研究について 令和2年度の報告書で書いた次の文章を今一度提示しておきたい。すなわち、「適切な自治体経営がより豊かな地域資源の形成を実現する。 豊かな地域資源の形成がよりよい地域社会の形成につながる。そして、よりよい地域社会の形成が自治体経営の基盤を強化し、より向上させる。 地域ガバナンスの好循環をこのように定式化したとき、こうした循環システムが適切に構築され、円滑に機能するよう、 調査研究を踏まえた具体的な提言によって世田谷区政をサポートするのが、せたがや自治政策研究所のミッションである」と。 令和4年度は、引き続き、「3か年計画」に従い調査研究プロジェクトを推進していくが、基本計画改定作業との有機的に関連づけていくほか、 調査研究アウトプットを確実にアウトカムにつなげることを意識した取組みを重視していきたい。