せたがや自治政策研究所 Newsletter 2023年夏号No.52 SETAKEN NEWS せた研写真ニュース 7月2日日曜日に東京都市大学世田谷キャンパスにて開催されたコミュニティ政策学会に参加しました。 当研究所の田中主任研究員が「データでみる世田谷」をテーマに報告しました。 後半のミニワークショップでは、地域の方や学生、学識経験者が異なる立場から意見交換を行いました。 分析手法としての社会地図 少子高齢化を考える 特別研究員 平原幸輝 「異次元の少子化対策」と世田谷 「異次元の少子化対策に挑戦する」。岸田文雄総理大臣は、2023年の年頭記者会見で、このように発言しました。 6月には、経済的支援の充実や社会全体の意識変革などを内容とする「こども未来戦略方針」を策定。 私は今年まで記者として岸田政権を取材してきましたが、一連の動きの中で、岸田総理の少子化対策に対する熱意を感じていました。 この少子化の現状を把握するべく、「人口推計」データの各年10月1日時点の人口を確認すると、15歳未満の人口は1982年以降一貫して減少。 世田谷区についても確認すると、「国勢調査」データでは、15歳未満の人口は2000年代から上昇傾向が見られてきました。 少子化対策に関連して、およそ10年前、世田谷は待機児童の多さが指摘されてきました。 近年は認可保育園の増設などを進めたことによって、待機児童は減少。 2020年度から2022年度までは3年連続でゼロを記録しました。ただ、2020年代には0?5歳人口自体も減少傾向に転じています。 認可保育所等の定員に対する空きの割合は直近で6%程度となる中、保育の需要には地域によって差があるのでしょうか。 この「地域による差」を示すために使われるものが、社会地図です。 ここでは、2023年4月1日時点の、地区ごとの認可保育所等の定員に対する空きの割合を算出。 その値の高低を、色の濃淡で示す地図を作成しました。 世田谷区では、定員に対して、0歳は16%、1歳は1%、2歳は2%、3歳は5%、4歳は7%、5歳は9%程度の空きがある中、 0?2歳までは九品仏や奥沢などの南東部、3?5歳までは梅丘や新代田などの北東部に空きが多く、東高西低の様子が概ね見てとれます。 要因については、経年比較や交通網の地図化など更なる分析が必要ですが、保育園の定員調整などにあたり、こうした各地域の充足状況を可視化した地図は判断の一助となります。 「 超高齢社会 」 が目前に迫る世田谷 少子化とともに、 現代日本で課題とされてきたのが、高齢化です。 「人口推計」データで各年10月1日時点の人口を確認すると、65 歳以上の人口は戦後一貫して増加する中、 総人口に占める割合も上昇傾向にあり、2022年には29.0となりました 。 世田谷区も65歳以上の人口は継続的な増加傾向にある中、総人口に占める割合も上昇し、2020年には20.1に到達。 住民基本台帳に基づく年齢別人口で最新データも確認してみると、2023年7月1日時点では 20.4となっています。 WHO(世界保健機関) は、この割合が14を超過する場合は「高齢社会」、21を超過する場合は「超高齢社会」と、 社会を分類していますが、その定義によると、世田谷は「超高齢社会」が目前に迫っている状況です。 「超高齢社会 」目前の世田谷において、その 65 歳以上の人口の多寡は、地域によってどう異なるのでしょうか。 ここでは住民基本台帳に基づく年齢別人口のうち、65 歳以上の人口について 、町・丁目単位の社会地図を作成しました。 また、65 歳以上の方向けの交流の場所である集会・交流施設についても、地図にプロットしてみました 。 65歳以上の人口は、北沢地域などの北東部に多く、砧地域などの南西部に少ないという、大まかな傾向が読み取れます。 その上で、65歳以上の方の集会・交流施設は、区の北側に多く存在し、南側にはほとんど見られません。 また、65歳以上の人口の多い北沢地域の東側にも見られません。この社会地図の分析に加えて、サロンやミニデイなどの活動のために利用できる地域 支えあい活動拠点などを考慮した分析を行っていくことも考えられますが、「超高齢社会」目前 の世田谷において、65歳以上は今後も増えるとも見られる中で、65歳以上の方の交流環境の充実のためには、 現在、手薄になっていると見られる区の南側や、ニーズの多い北沢地域の東側などへの新たな働きかけも必要なのではないかと想起されます 。 このように複数の社会地図を組み合わせることでも、地域の実情を示すことができます。 他にも、地区別に町・丁目単位の社会地図を作成することで、よりミクロな地域の実情を把握することができます。 地図作成ソフトも広く使用されるようになってきた中、何かご関心のあるテーマについて、地図を作成し、眺めてみると、新たな発見があるかもしれません 。 せたがや自治政策研究所では、研究成果や研究のプロセスで得られた様々な知見を庁内職員で共有し、職員同士で考え、議論できるオープンな場として「せた研ゼミ」を開催しています。 今回は、2回分を一挙に報告します! 令和5年度第1回せた研ゼミ「自分の仕事を深く考えてみよう!文章で伝えてみよう!」実施報告 実施概要 ・日時令和5年5月23日(火)14:30〜17:00 ・会場教育総合センター研修室「にじ」 ・講師 男鹿芳則氏(前世田谷トラストまちづくり理事長) 鈴木景子氏(一般社団法人イヴの木代表理事) Tご講演「自分の仕事を深く考えてみよう!文章で伝えてみよう!」(男鹿氏) 男鹿さんからは、ご自身の経験から「福祉のまちづくり」と「住民参加」をどのように進めてきたのかをお話いただきました。 参加者からのアンケートでは、「『私たち抜きで私たちのことを決めるな』という話は、仕事をするうえで念頭に置くべきことだなと感じました」、 「世田谷のまちづくりの歴史をお聴きすることができて、大変興味深かったです」という声が見られました。 U ご講演「アウトプットの重要性」(鈴木氏) 鈴木さんからは、文章を書くきっかけとなった日々の業務日報の お話や、ご自身が代表理事を務める一般社団法人イヴの木の活動と活動を始めるきっかけについてお話しいただきました。 参加者からのアンケートでは、「興味を持たれたことにどんどんチャレンジされる姿勢がすごいなと印象に残りました」、 「日常的な業務管理も工夫することで他のことに役立つという鈴木さんの実体験が印象に残った」という声が見られました。 V 座談会テーマ「アウトプットの重要性」 後半では、男鹿さん、鈴木さん、大杉所長による座談会を行いました。当研究所の主任研究員の田中がコーディネーターとなり、 自分の活動をアウトプットするなかでの苦労話や、よかったことを伺いました。お話の中では、様々な活動をしながら文章を書く中でのスケジュール管理の難しさについてや、 文章の構成を組み立てる上で、伝えたいことを伝えるための構成の考え方についてお話を伺いました。 後日、区公式YouTubeチャンネル【せたがや動画】にて公開予定です! 令和5年度第2回せた研ゼミ「自治権拡充に向けた特別区の在り方とは?」実施報告 実施概要 ・日時令和5年5月31日(水)14:30〜17:00 ・会場教育総合センター研修室「ほし」 ・講師志賀コ壽氏(特別区長会事務局参与) T ご講演「自治権拡充に向けた特別区の在り方とは?」 志賀さんからは、現在の地方分権改革についてや都区制度改革について、基礎からお話いただきました。 参加者からのアンケートでは、「都と特別区との役割分担が都区制度、大都市事務である、という点がとても印象に残った」、 「特別区全体の相互間連携を通じた自治権拡充という視点が印象に残った」という声が見られました。 U 全体ディスカッションテーマ「自治権拡充について」 後半では、志賀さんと大杉所長をパネリストにお迎えし、当研究所の主任研究員の奥村が聞き手となり全体ディスカッションを行いました。 日頃の業務のなかで、自治権拡充について思うところなどについて議論しました。参加者からは、 「『都の仕事、国の仕事、特別区全体の視点を持ちつつ、区民により良い取組みは何かを考えることが大切』という講師のご発言が印象に残った」、 「制度的な枠組みから考えなくても、自分は何をすべきかと考え、それによって何をしていったらよいか考えることが大切だと思った」という声が見られました。 後日、区公式YouTubeチャンネル【せたがや動画】にて公開予定です! どうなる?!世田谷区のこれからの人口 主任研究員田中陽子/ 研究員大石奈実 <人口動向> 世田谷区も人口減少へ? 世田谷区の人口は平成7(1995)年以降、長期的な増加傾向にあり、26年間で約14万人増えて、令和3(2020)年に92万人を超え、ピークを迎えました(図表1)。 この人口増加の主な要因として、転入者数が転出者数を上回る社会増(転入超過)が続いたことがあげられます(図表1)。 一方、世田谷区の出生数は平成28(2016)年以降、減少傾向が続いており、令和元(2019)年には死亡数が出生数を上回る「自然減」に転じただけでなく、その差は徐々に広がっています。 また新型コロナウィルス感染症の感染拡大(以下、「コロナ禍」という。)の影響により、転入者数が減り、転出者数が増えたことから令和3(2021)年中は一転して「社会減」となりました。 令和4(2022)年は社会増になったものの、令和元(2019)年から続いている「自然減」が拡大したため、全体としては減少傾向が続き、令和5(2023)年には91万5439人となりました。 転入超過数の年齢別内訳をみると、世田谷区には大学が多いこともあり、10代後半から20代は「転入超過」となっていますが、0〜4歳や30代・40代で「転出超過」となっていることから、 ファミリー層の「転出超過」があることがわかります。(図表2) <将来人口推計> 令和15(2033)年の世田谷区の人口は928,458人に 昨年度に引き続き、基本計画策定の基礎資料として、この間の人口動向を踏まえて、将来人口推計を行いました。 令和5(2023)年1月1日の人口(915,439人)をもとにした推計では、令和15(2033)年1月1日には928,458人に達する見通しとなりました(図表1)。 出生については出産に関わる世代全体の人口が減少していくこと、コロナ禍以前より続いている合計特殊出生率の減少や平均の第一子出産年齢が年々高くなっていることなどから、 今後も現在と同程度の比率で出生が続くと想定しました。死亡については高齢化の進展により本格的な「多死社会」の局面に入ることが考えられます。 このため今後の世田谷区では「自然減」の状態が続くと仮定しています。移動については長期的に社会増が続くものの、コロナ禍を契機としたデジタル化の影響や住宅に対する価値観の変化はある程度続くと想定しました。 世田谷区の将来の人口については、今後20年間緩やかな増加が続き、令和24(2042)年に937,270人に到達した後、緩やかな減少に向かう、という見通しとなりました。 年齢3区分で見ると、これまで、年少人口は増加から減少に変化しており、今後も引き続き緩やか な減少傾向となります。老齢人口はこれまで通り長期的に緩やかな増加傾向となり、移動の多い生 産年齢人口はボリュームゾーンとなっている現在の50代後半の世代が高齢者となる令和11(2029)年まで増加し、その後減少に転じる見込みです。