せたがや自治政策研究所 Newsletter 2023年5月号No.51 SETAKEN NEWS せた研写真ニュース 令和5年度せたがや自治政策研究所メンバー 令和5年度せた研メンバーと研究プロジェクトリーダー/担当の紹介 研究所次長 箕田幸人  今年度は特別区長会調査研究機構の研究会に人権・男女共同参画課とコラボで参加します。皆さんもせたけんと一緒に研究しませんか? 主任研究員 奥村亮平   地域コミュニティの実態や地域行政の調査研究を行います。「伝わる報告」で、研究と実務をつなげていくことを目指します! 主任研究員 田中陽子 データを揃え、人材を育成をしても活用するかどうかはまた別の話では、と思い、データ活用の場づくりを検討します。よければどうぞ来てください。 研究員 大石奈実  昨年度に引き続き世田谷区の人口動向の分析や将来人口推計を行い、庁内外で活用してもらえるような研究をめざします。 研究員 内海大輔  地域行政について他自治体の取り組みを調査し、世田谷区が取り組むべき施策を研究していきます。 特別研究員 鈴木颯太  今年度から特別研究員になりました。前任の研究員の作業を引き継いでコミュニティ調査のデータ分析に尽力します。 特別研究員 平原幸輝  世田谷区の社会経済的状況を可視化し、社会空間構造を明らかにしてまいります。また、地域の課題を視覚的に示していきます。 せたがや版データアカデミー Future Policy Seminar ご報告 主任研究員 田中 陽子 3月24日、せたがやの未来を考える若手職員研究会Future Policy Seminarが最終回を迎えました。 全18回に及ぶ長い政策形成演習の中から生まれた政策を区長・副区長に提案し、講評をいただきました。 若手職員が基本計画策定をわが事としてとらえる機会になれば、と始めた企画です。EBPMの考え方やデザイン思考を学び、区内で活躍する人たちへのインタビューやグループでの意見交換と合意形成、などを経て生み出された政策は、粗削りかもしれませんが、きっと共感を呼ぶものになったと思います。 提案した政策はEBPMの基本姿勢でもある「目的を明確に」するために、デザイン思考を取り入れて「ペルソナ」を設定し、「その人」が「どうなってほしい」のかを具体的にイメージして作り上げました。「りんこはそういうことじゃ動かないと思う」「サノさんはそういうの好きそうだよね」と名前を呼びながら、政策を考える姿が印象的でした。 お知らせやチラシを作るとき、何かの講座やイベントを考えるとき、対象を明確にしてその人がどうなってほしいのかを具体的にイメージすることは有効な手段です(目的を明確に!)。ペルソナはその手段としてうってつけなのでここで宣伝しておきます。 わかりやすい資料、わかりやすい説明のおかげで、発表後の意見交換・講評も盛り上がりました。当日はインタビューでお世話になった「ねつせた!」さんも取材に来てくれました。 最後に参加者の皆様、伴走のサポーターの皆様、講師のスタジオポリシーデザイン橋本様・カラーコード浅井由剛様ほかFPSに関わっていただいた すべての方にこの場を借りて感謝申し上げます。ありがとうございました。                  大杉所長のコラム  チャイムの響き 第9回「知の管理」術としてのEBPM  所長 大杉 覚 この春公開されたイギリス映画『生きるLIVING』は、黒澤明監督の名作『生きる』(1952年)の忠実なリメイク版であるとともに、カズオ・イシグロによる脚本ということで話題になりました。ご覧になられた方も多いでしょう。 イシグロといえば日本にルーツを持つ英国ノーベル賞作家。『日の名残り』や『私を離さないで』など映画化された作品も多く、日本でも多くのファンがいます。大観や藤田がモデルでしょうか、渡辺謙主演でドラマ化された『浮世の画家』も秀逸。近作ではAIをモチーフとした『クララとお日さま』が話題となりました。個人的には短編集『夜想曲集』がお気に入りです。 『生きるLIVING』では興味深いエピソードがあります。イシグロにとって、『生きる』は子ども時分に衝撃を受けた、「自分の人生において大切な作品」だとのこと。そもそも黒澤の『生きる』リメイクは、イシグロの提案なのですが、その際、ビル・ナイ主演を熱望した理由が唸らされます。『生きる』といえば主演の志村喬が真っ先に思い浮かぶほど印象が強い。ところが、イシグロは、小津安二郎映画などでは欠かせない、志村とは異なるタイプの俳優、笠智衆が主演であったら、違うトーンの映画になったんじゃないかと考えたというのです1)。 なるほど、好演したビル・ナイはまさしく英国版笠智衆。オリジナルに忠実ななかにあって、舞台を日本から英国に移した以上の趣向といえます。オリジナルとリメイクとを見比べる際の楽しみにしてはどうでしょう。 筆者より上の世代ですと、黒澤の『生きる』を観て感銘を受け、自治体職員になったという人が結構おられます。同世代ぐらいでは、職員になってから観た人が多いようですが、やはり感動したという声をよく聞きます。20、30代ですとどうでしょうか。先日、大学の授業時に『生きる』を観たことある人はと聞いたところ、ゼロ。唯一一人の学生が、親から勧められたけれどもまだ観ていないということで、映画そのものももはや知られていません。無理もないでしょう。 ともあれ、『生きる』を観て自治体職員になった人が少なからずいたわけですが、かつて疑問に思っていたことがありました。日英いずれの作品でも、判に押したような公務員生活を送っていた主人公が余命幾許もないことを知って、市民要望を実現しようと奔走し、その熱意に打たれて、同僚部下はもちろん、組織の縦割りを超え庁内を巻き込んでいくストーリーです。でもそれでは終わりません。それまでたらい回しにされてきた案件であった公園設置は実現されたものの、主人公の死後、手柄の奪い合いになるのみならず、市民本位の仕事に向けた熱意はあっさりと失われてしまう。バッド・エンドで、まさにお役所ぶり≠ェ皮肉たっぷりに描かれているのです。 だとすると、『生きる』が自治体職員志望の動機だというのはどういうことなのかというのがずっと引っかかり続けていたのです。まさか、所詮はお役所仕事、気楽な稼業だと思ったから公務員になったわけではないでしょう。むしろその逆、自分だけは主人公が抱いたような熱意を心に灯し続けて、市民のために働こう、さらにその熱意を組織内に伝導させてやろうと志したからに違いありません。 しかし、現実は厳しい。やはりというか、そういう意味では挫折感を感じて公務員人生を終えた人がほとんどでしょう。そんな熱意を持っていたことすら忘却の彼方という人も少なくないはずです。映画でもこの問題への解決策≠ヘ示されていません。 作家の童門冬二さんは、『生きる』のなかで結局は元の「役人の官僚主義」に戻ってしまったのは、課長自ら情熱的な姿を部下に示すという「情の管理」にとどまり、知的に論理化された方法論として展開する「知の管理」が欠けていたからだと喝破します。 童門さんは、元東京都職員として政策室長まで務め上げ、美濃部都政で知事のスピーチライターを務めたほどの実績のある方。さすが鋭い洞察力です。童門さんは、別の角度から私の疑問に答えてくれたのです。童門さんの著書『「情」の管理 「知」の管理』に触れたことで、以来、ストンと腑に落ちました2)。筆者が管理監督職向けに研修・講演をする際に同著をよく言及させてもらっていますが、自治体職員を含め組織人の方々にとっておそらく有用なはずです。是非手に取ってほしいと思います。 世田谷区では、現在、基本計画の改訂作業が進捗中です。その重要な節目の一つとして、筆者が会長職を務めた世田谷区基本計画審議会が「世田谷区基本計画大綱」を先般答申しました(3月29日)。 「大綱」では目指すべき未来の世田谷の姿を、区民生活、地域経済、都市基盤、自然環境、自治体経営の観点に即して取りまとめています。区民委員をはじめ、綺羅星のようなその道の専門家の学識経験の委員から思いのこもった提言をいただきました。その内容については、区の関連ホームページを参照していただきたいと思います。 「大綱」には、これら計画内容を実現させるために「計画策定にあたって考慮すべき事項」として重要なポイントをまとめています。なかでも、「EBPMの推進」を強調しておきたいと思います。 以前のコラムでも触れたことがありますが、EBPMとは、「証拠に基づく政策立案」evidence-based policy makingのことです。 「大綱」では、「EBPM(証拠に基づく政策立案)を推進し、より効果的で実効性の高い政策や施策の立案を目指すこと」とシンプルに記述されるにとどまります。しかしながら、この考え方は、他の事項、「最上位の行政計画としての内容」「バックキャスティング」「目標指標の設定のあり方」「区民意見の反映」すべてに直結し、その基盤となる考え方です。いわば基本計画のコアを形成する「知の管理」手法なのです。 なんとはなしに、いいことだから、いままでやってきたことだから、ではなく、区民が望む実現されるべきアウトカムは何かを明確なエビデンスをもって示し、施策・事業を論理的に組み立てていこうというのが、今回の基本計画の基本姿勢だということです。 基本計画を策定していくなかで、そのエビデンスは区民の皆さんとも共有していくことになります。また、ロジックに基づくプランニングを、所管だけが抱え込んで行うのではなく、区役所庁内はもちろん、区民に対しても開かれたかたちで進めていくことが求められます。 せた研では、こうした新たな試みをバックアップすべく、計画担当向けのEBPMに関するセミナーを開催するなど、支援していきます。「生きる」基本計画、生き続ける基本計画に仕上がることを願っています。 1)カズオ・イシグロへのインタビュー、『生きるLIVING』プログラム掲載による。 2)童門冬二『「情」の管理 「知」の管理』PHP文庫、1987年 ChatGPT をちょっと使ってみました!  主任研究員 田中 陽子 もしかしたらNewsletterの記事を書く時間を短縮できるのかと思って、OpenAIのChatGPTを触ってみました。ChatGPTは対話形式の質問に対し、ウェブ上にあるいろいろな文章の中から、「問いに対する答えの可能性が一番高いもの」を示してきます。 単に「EBPMについて教えてください」だと広すぎて一般的な内容になるため、ここでは対象や内容を絞って説明するよう指示しました(絞った方が回答の幅が狭くなり、”偶然”正解に当たる率が高くなるため、正しい答えに近いものが出やすいと言われています)。 田中:あなたは基礎的自治体の職員です。総合計画策定におけるEBPMの意義を職員向けに教えてください。 CGPT:EBPMとは、証拠に基づく政策決定のことであり、政策決定において、データや証拠に基づいた科学的手法を用いることを指します。自治体において、EBPMを導入することで、以下のようなメリットがあります。 1.客観的なデータに基づいた政策決定 EBPMを導入することで、政策決定において、客観的なデータや証拠を踏まえた科学的な手法を用いることができます。これにより、政策の効果を事前に予測し、より効果的な政策を実施することができます。 2.透明性の向上 EBPMを導入することで、政策決定の過程が透明化されます。政策決定において使用されるデータや証拠が公開されることで、市民の信頼度が向上し、市民参加型の政策決定が促進されます。 3.質の高い政策の実施 EBPMを導入することで、政策決定において科学的な手法を用いるため、より質の高い政策が実施されることが期待できます。また、政策の効果を定量的に評価することで、政策の修正や改善を行うことができます。 以上のように、EBPMを導入することで、より効果的な政策の実施が可能となります。何かご質問があれば、お気軽にお尋ねください。? 小見出しを付けた読みやすい説明をつくってくれました。最初に結論を言い、3つの例示をして最後に結論をもう1回言う、という説明のお手本のような構成です。一方で、EBPMを導入することのメリットのひとつ目にEBPMを進めること自体を上げているなど、よく読むとなんだか不安な内容です 。 説明の際、何かを引用するときには、出典を明記することが大原則です。そこで出典も明記するよう指示して、総合計画にロジックモデルを活用している自治体について尋ねてみることにしました。兵庫県豊岡市とか盛岡市などが有名です。出てくるでしょうか? 田中:ロジックモデルを実際に総合計画に使用している自治体はありますか CGTP:はい、ロジックモデルを実際に総合計画に使用している自治体はあります。例えば、日本の自治体である福岡市では、市民の声を反映した総合計画「ふくおか未来デザイン」の策定にあたり、ロジックモデルを使用しています。福岡市のロジックモデルは、「未来に向けたビジョン」「方向性」「重点施策」「基盤整備」の4つのレベルに分かれており、それぞれのレベルで目的や活動、成果、効果を明確にしています。 また、日本の地方自治体情報システム機構(J-LIS)が作成した自治体総合計画策定支援システム「KANSHI」では、ロジックモデルの作成や管理が可能となっています。自治体がこのシステムを使用することで、ロジックモデルを活用した総合計画策定がより効率的に行えるようになっています。 他にも、日本国内外の自治体や国際機関でも、ロジックモデルを活用した総合計画策定が行われています。自治体がより効果的な政策を実施するためには、ロジックモデルを活用することが有効な手段の一つと言えます。 田中:出典も教えて CGPT:福岡市の「ふくおか未来デザイン」については、以下のウェブサイトを参照してください。 ・福岡市「ふくおか未来デザイン」 https://www.city.fukuoka.lg.jp/keizai/mirai-design.html J-LISの「KANSHI」については、以下のウェブサイトを参照してください。 ・J-LIS「自治体総合計画策定支援システムKANSHI」 https://www.j-lis.go.jp/project/kanshi/ 福岡市の計画もJ−LISのサイトもリンクをクリックしたところ404 not foundでした。念のため福岡市のHPの検索窓やJ-LISのサイト内検索も使いましたが該当なし。NDLサーチ(国立国会図書館)でも該当なし。「KANSHI」って「監視」?管理システムで「管シ」?いろいろな名前を入れましたが、スマホ調査だけでは無いことを証明するのは難しく、文章の精査に1−2時間は使ってしまいました。  出典を明記してもらっても、たどれないリンクを出してくるのでは意味がなく、かえって時間がかかってしまいます。一方で、一次資料に当たって確認することの重要性を再認識する結果となりました。 今のところ正確な内容の文章を確実に出すのは難しいと思いました。これから使い込んでいけば、より使える文章が出てくるものになっていくかもしれませんが、そのまま鵜呑みにするのは危険そうです。自動生成されたフェイクニュースが増えそう、というのもわかる気がします。個人情報に関わるものは取り扱わないということ以外にも、現在のところは注意が必要でしょう。 必ず一次資料で確認しよう 質問の仕方に工夫が必要 文章構成のお手本にはなるかも