せたがや自治政策研究所 Newsletter 2023年3月号No.49 SETAKEN NEWS せた研写真ニュース 2月6日(月) 第1庁舎5階庁議室で「せたアカCRF第3シーズン(第3回目)」を実施しました。 第3シーズンでは、公園緑地課の高橋係長が「地域ストック効果を高める都市公園・都市緑地の整備と柔軟な管理運営のあり方」をテーマに政策アイデアを報告しています。今回は、東京都市大学の坂井文先生と公園緑地課の市川課長をお招きし、政策アイデアについてご講評いただきました。 令和4年度研究活動報告会の報告(活動報告@) 地域行政史とアーカイブスの構築 主任研究員 古賀 奈穂 令和3年度から継続しておこなってきたオーラルヒストリー・インタビューですが、現在は「オーラルヒストリー・インタビュー記録集」冊子としてまとめ・発行の準備に入っているところです。 さて、先日24日の研究活動報告会では時間の都合上詳しくはご報告できませんでしたが、オーラルヒストリー・インタビューの目的は主に2つあります。@口述記録の方法により、当時の政策担当者の思いや考えを活きた言葉の行政資料として編纂し、今後の地域行政推進にかかる政策の企画・立案の際の貴重な資料として活用すること、A既存の資料からは把握することが難しい政策の背景や意図、意思決定の過程、制度化の苦労話等を明らかにすることです。 インタビュー内容は下記のとおりです。「地域行政」を切り口として、区に採用されてから退職まで、当時の区の課題や問題意識について幅広くお話を伺いました。とくに大きく制度を変えたときにご苦労された経験や、前例のない事業を担当することとなり苦慮されたご経験に関するお話は、日々悩みながら職務に当たっている職員にとって、参考になるものも多いのではないでしょうか。 令和3年度から現在までインタビュー調査をした方は8名です。 「(仮)オーラルヒストリー・インタビュー記録集」は2023年4月公開予定です。発行しましたら、本紙でお知らせします。楽しみにお待ちください。 令和4年度研究報告会の報告(活動報告A) 地域行政に関する調査研究 ―地域行政に係るデータベースの作成― 研究員 伊藤 大樹 平成3年に区の地域行政制度がスタートしてから31年が経過しました。区を取り巻く状況が変化し、制度の更なる充実が必要となったことを背景に、区では昨年10月1日「地域行政推進条例」が施行されました。 プロジェクトA-2「地域行政に関する研究」の目的は2つあります。1つ目は、他自治体の都市内分権に関するデータを収集し比較することで、地域行政制度の特徴を明らかにし、今後の政策展開に向けての検討資料とすること、2つ目はデータベースをホームページ上で公開することで、都市内分権に関連する調査研究の進展に寄与することです。 データの収集方法については、インターネットや先行調査等からの情報収集を行い、不足する情報については追加で政令指定都市・中核市・特別区を対象として郵送・メールによるアンケート調査を実施しました。今後、調査結果をとりまとめ、区ホームページにて公開する予定です。 令和4年度研究活動報告会の報告(の補足)(研究発表@-1) 定点観測はじめました! 主任研究員 田中 陽子 せたがや自治政策研究所では、公的統計データや各種社会調査等によりデータを集めてエビデンスをつくる活動をしています。集めたデータを体系的に整理し、分析できる状態にしたデータを「定点観測データ」と呼ぶことにしました。今年度は人口データを中心に収集を始めており、地区のデータを庁内で試験的に公開しています。 社会調査のような数年に一度のデータや年次更新データであれば中・長期的な変化を追うことができます。また月次や日次更新のデータであれば急激な変化を把握することができます。リアルタイムデータがあれば、より即時的な分析も可能でしょうが、人口は季節や曜日による変動が大きいので、月次または年次変化を確実に捉えることが大切だと思われます。 下の図表は人口動態統計で公開されている婚姻件数と出生数のデータです。件数をそのまま比較することもできますが、他の自治体との違いを見たい場合は人口千人あたりに変換することで比較できるようになります(最初の年を1として増減を追う方法もあります)。 報道されているように婚姻件数は減少していますが、実は結婚する世代の人が減っていることもあり、コロナ前から減少傾向にありました。令和元年に令和婚による一時的な増加がありますが、翌年は激減しており、こちらはコロナ禍の影響がうかがえます。その後の令和2−3年のグラフの傾きはコロナ前の減少傾向より大きくなっており、出会いの場の減少の影響もあるかもしれません。これは世田谷区に特有ではなく、特別区全域で同様の傾向です。 また一般的に婚姻件数と出生数には正の相関がありますが、世田谷区では2年後の出生数に、より強い相関があります。令和2、3年の婚姻件数が落ち込んだことから、令和4、5年の出生数も低下すると予想することができます。定点観測データを整備しておくことで、中期的な予測をデータで裏付けることができるのです。 令和4年度研究活動報告会の報告(研究発表@-2) 将来人口推計と地域の人口分析 研究員 大石 奈実 プロジェクトC-3では、今年度7月に公表した将来人口推計の概要についてと、今年度整備を進めた地区別の人口データを使った地域の人口分析について報告しました。 将来人口推計では、結果はすでに7月に公開しているため、推計方法について、コロナ禍をはじめとする社会の変化に伴いこれまでの推計を改めて見直し、変更した以下の2点について報告しました。 変更点@ 出生の推計方法 「母親年齢別出生率」から「子ども女性比」に変更 変更点A 各歳人口推計の対象 これまでは0歳から94歳までの値を各歳で計算し95歳以上で丸めていたものを、0歳から9 9歳までの値を各歳で計算し、100歳以上をまるめることに変更 人口分析では、地区別の人口ピラミッドの形からツリー状の形の地区に着目し、ツリー型と名付け、それらの地区にどのような特徴があるのかを国勢調査の結果などを使って調べました。その結果、以下の3点の特徴があることがわかりました。 特徴@ 他の地区と比較して、年少人口・老年人口が少なく生産年齢人口が多い 特徴A 他の地区と比較して、単身世帯かつ持ち家ではない人が多い 特徴B 他の地区と比較して、鉄道が多く通っている 令和4年度研究活動報告会の報告(研究発表A) 世田谷区におけるコミュニティ・モラールの変化 特別研究員 金澤 良太 報告会のアンケートで、コミュニティ・モラールについて「初めて聞いた」という声がありましたので、ニュースレターで少し詳しく解説したいと思います。 コミュニティ・モラール(以下、CMと表記)とは、住民の地域意識の主体的側面を把握するために都市社会学者の鈴木広が提唱した概念で、コミュニティに対する知識・帰属感情・参加意欲の3つの要素から構成されます(鈴木 1978; せたがや自治政策研究所 2010)。われわれが2009年と2021年におこなった調査では、帰属感情と参加意欲について比較可能なように質問を設定することで、この間のCMの変化を明らかにしました。 CMはこの10年余りで低下しました。CMのうち、参加意欲は相対的に高い水準を保っていますが、興味深いことに、2009年調査で見られた年齢層による差が、2021年調査では見られなくなりました。地域への参加意欲は高齢者の方が高いということは当然のことと考えられており、確かにかつては実際にそうでした。しかし、地域への参加意欲と年齢との間に関連はなくなったのです。 地域コミュニティについて私たちが持っている「知識」は、もしかしたら、すでに現実とはかけ離れたものになっているのかもしれません。地域コミュニティの現在と将来を考えるためには、まずは地道なデータの収集と分析を通して、私たちの「知識」を更新していく必要があるように思います。 [文献] せたがや自治政策研究所, 2010,「『住民力』に関する調査・研究報告書」『せたがや自治政策』2: 3-56. 鈴木広, 1978,「コミュニティ論の今日的状況」鈴木広編『コミュニティ・モラールと社会移動の研究』アカデミア出版会, 9-31. ちょっとよくわからなかったので大杉所長に聞いてみました 研究員:前回、熟議と効率性のバランスについてお話を伺いました。今回はその続きで、たとえば「ここはしっかり話あっておきたい」と思っていても、たくさんの仕事に追われて組織として熟議するための時間がとりづらいのが現実のように感じます。どうしたらいいのでしょうか。 大杉所長:これっていうものがあるわけではないですが、日本の行政組織は「大部屋主義」です。複数の人が一緒に仕事をしています。一方、アメリカやヨーロッパでは個室で仕事をしています。この点に着目して考えてみましょう。 日本型の「大部屋主義」の場合、みんなが一緒のところにいるので、その中で仕事を分担したり、協力することができます。この間の日本の行政組織をみると、行革の名のもとに定員適正化、つまり職員を減らされています。 そうすると一人当たりの仕事がふえていきますが、どうしてそれができるのでしょうか。日本の場合、一人当たりの仕事が決まっていないからです。アメリカでは、ある意味で「個人割り」となっています。そのため、人を減らせません。人を減らすということは、その仕事がなくなるということだからです。日本の場合はその人に属する仕事がないため、その人が減ったらほかのひとに分けることになります。 研究員:そうなのですね。そういえば、一人減らされ、二人減らされ、、、アルバイトや短時間雇用に置き換えられ、、、ということがあちこちの職場で起きていますね。 大杉所長:それは、日本の仕組みによるものです。人と組織の関係が、欧米と日本では根本的に違います。最近の議論でいうと日本は、「メンバーシップ型」、アメリカは「ジョブ型」と呼んでいます。行政学だと、日本の場合は新卒一括採用して、そのまま終身雇用の仕組みである「閉鎖型任用」、一方、「開放型任用」は一人ひとりの職務が定まっているため、ポストがあいたら内部昇進、もしくは外から採用する形です。なので、アメリカはみんなで一緒に仕事をする必要がないため、個室で仕事をするようになります。 研究員:区役所とは全く異なった業務分担の考え方なのですね! 大杉所長:仕事のとらえ方が違う中で、人が減っていくと、対局的ともいえる大部屋と個室がだんだん収斂されてきているようにおもいます。ひとつは、アメリカが変わってきました。だいぶ前の話になりますが、バブルの時代に「日本に学べ」ということで「チーム制」を取り入れるようになりました。これは、日本の大部屋主義が元になっています。日本は、逆に「チーム制」を導入していますが、もとは大部屋主義のはずです。大部屋主義なのに協力しあっていない状態になってきています。最近は、人が減らされて少人数で仕事をしなければならないため、個人に仕事を割り振ることになります。研究所でもプロジェクトごとにリーダーを決めて仕事を割り振っています。しかし、忘れてはいけないことはプロジェクトリーダー以外のメンバーも全プロジェクトのメンバーという気持ちを持つことです。そのため、協力するところのメリハリをつけていくことが必要です。自分の担当業務以外のほかの職場の事がらであっても、ある程度の知識・理解は必要でしょう。日本の職場のいいところは、担当が不在の時に問い合わせがきても、完全な回答ができないとしてもある程度の対応ができます。個室の場合は、問い合わせして担当者が不在だとその業務はストップしてしまいます。 研究員:効率重視の私としては、そのために結構時間もとられるし、苦労もあるのですが、、、 大杉所長:私は仕事柄、国内の多くの役所を見て歩くことが多いのですが、最近は一緒のところにいるのに、個室主義に近い形なっているように感じます。組織の中で分担していたのが、業務で分担するようになり、一人もしくは二人の閉じた中で仕事をすることが多くなっているのが全国的な傾向です。 そういう意味でいうと、日本の場合、かつてはみんなで仕事をしていたため、人事評価制度が難しかったですが、最近は人が減ってきて、個々の仕事がわかりやすいため評価はしやすくなっているように思います。個室主義に近くなってきていることのメリットといえるでしょう。 しかし、それがいいか悪いかでいうと、個室主義にはマイナス面も多いように思います。みんなで協力していけるところが必要ではないでしょうか。 人事評価の前段として、組織目標はどのように考えられているでしょうか。ほかの自治体をみていても、管理職が決めたものがそのままになっていたり、それをみて個人目標を考えてね、となっていると、組織の役割といった大切な意図が共有できない組織になってしまうのではないでしょうか。 研究員:人が減らされて業務が属人的になりやすいからこそ、組織として「みんなで協力する場面」を意識していくことが重要ですね。 参考文献:大森 彌.2006. 『官のシステム』 .東京大学出版会