せたがや自治政策研究所 Newsletter 2022年11月号No. 45 SETAKEN NEWS せた研写真ニュース 10月21日(金) 教育総合センター研修室で「せたアカCRF第2シーズン(第2回目)」を実施しました。 第2シーズンは、高齢福祉課の森田係長が「高齢者の健康寿命の延伸」をテーマに政策アイデアを報告しています。今回は、国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部主任研究官の大夛賀政昭先生お招きし、地域包括ケアシステムのEBPMについてお話を伺い、意見交換を行いました。 プロジェクトA-1中間報告 2回の調査に見る地域コミュニティの変化    特別研究員 金澤 良太 せたがや自治政策研究所では2021年度に「地域生活とコミュニティに関する調査」を実施しました。この調査の目的のひとつは、当研究所が2009年に実施した「地域の生活課題と住民力に関する調査 ’09」の結果と比較し、地域コミュニティの経年的な変化を明らかにすることです。そこで、中間報告として、団体加入と近所づきあいに着目して、2つの調査から地域コミュニティの変化について検討したいと思います。 なお、両調査の調査対象者の年齢は、2021年調査が30歳以上74歳未満、2009年調査が20歳以上74歳未満であるため、2009年調査は30歳以上74歳未満のケースのみについて集計しました。 図表1は、地域で活動する団体への加入率について、両調査で比較可能なものを示しています。いずれの団体も加入率が低下しています。町会・自治会は、もっとも広範に地域住民を組織化している団体ですが、加入率が大きく低下しています。ただし、これは個人に回答を求めた結果であり、町会・自治会は世帯単位の加入であるため、実際の加入率とは異なるものと考えられます。しかしながら、加入率が低下のトレンドにあるということは言えるでしょう。全体として、団体や組織としての地域コミュニティは縮小したことが分かります。 地域コミュニティの変化を見るとき、地域コミュニティを構成する団体や組織だけでなく、個々の住民の地域における社会的交流、すなわち近所づきあいにも着目する必要があります。図表2は2009年調査と2021年調査のそれぞれについて、近所づきあいの有無を示したものです。両調査で共通する項目(@道で会えばあいさつする、A立ち話をする、B家にあがって話をする)のいずれかが1人以上いるケースを近所づきあいあり、すべてが0人であるケースを近所づきあいなしとしました。近所づきあいのない人は4.9%から20.9%へと増加しました。 図表3のとおり、近所づきあいのない人のほとんどはコロナ禍前から近所づきあいがない人でした。コロナ禍は人々の社会的交流に負の影響を及ぼしたということが言われていますが、少なくとも近所づきあいについては、その影響はさほどではないと言えます。 地域コミュニティの苦境が叫ばれて久しいですが、地域コミュニティをとりまく状況は年々厳しくなっています。このような困難な現状をふまえたうえで、われわれは地域コミュニティの将来像を考えていかなければなりません。それはきっと、過去にあった(かもしれない)地域コミュニティへの回帰ではないはずです。    プロジェクトB-1 地域行政史とアーカイブスの構築 中間報告 主任研究員 古賀奈穂 平成3(1990)年に地域行政がスタートしてから30年以上が経過しました。せたがや自治政策研究所では、プロジェクト「地域行政史とアーカイブスの構築」の一環として世田谷区の地域行政にかかわった区職員OBや有識者の方などにオーラルヒストリー・インタビューを行っています。 令和3(2021)年5月から令和4(2022)年10月までに、8名、のべ9回インタビューを おこないました。インタビュー記録は、とりまとめて記録集として順次発行する予定です。 研究所では、地域行政のリーフレット「世田谷区 地域行政のあゆみ」を配布しています。 大杉所長のコラム「チャイムの響き」 第7回  「巻き込む」から「誘い込む」へ 所長 大杉 覚 住民との関係で行政が「巻き込む」ということばを使いはじめたのはいつ頃からのことなのかわかりませんが、耳にされたことがある方も少なくないと思います。 コミュニティ意識の希薄化だとか、地域への関心の低下だとかはかなり以前からいわれてきたことですが、近年では人口減少、少子・高齢化が進み、そもそも地域活動の担い手となる分母にあたる人口が減少しつつあることとも関係があることでしょう。防災などの面から、地域のつながりの大切さが強調されるようになったからこそでもあるかもしれません。最近のコロナ禍で人と人の繋がりがますます希薄化する傾向にあることは、看過できない状況にあります。 そうした状況もあって、「巻き込む」という表現が当然のごとく使われているようですが、果たしてどうでしょうか。 「巻き込む」ということばを使うとき、どうやら行政職員の多くはほぼ無意識・無自覚なようです。いわれている側の住民も無意識に受け止めている方もおられるかもしれません。そればかりか、地域活動を主体的に担っている側の住民が、他の住民に対して、やはり無意識・無自覚に「巻き込む」という表現を使っていることもままあります。 ただ、その場合、巻き込まれる対象となる側の住民の気持ちはどの程度考えられているのでしょうか。行政職員であればその対住民の実務の力量が問われるといって過言ではありません。その意味では、鈍感力、ということではすまされない問題だと考えます。 最近では、筆者の周辺では、「巻き込む」は参加・協働のまちづくりではNGワード、とする仲間が増えています。なかには「巻き込む」は貰い事故だ、迷惑千万とはっきり言明する人もいます。 とはいえ、自らの活動を周知、情報提供し、理解を得て仲間の輪を広げたいものです。これをなんと表現すればいいのか。 国のある研究会でたまたま目にした「誘い込む」が当面の代替候補では、と使わせてもらっています。その研究会の報告書では、当初あちこちに使われていた「巻き込む」という事務局作成の原案をすべて削除し、「誘い込む」に置き換えてもらったこともあります。 世田谷区では現在、基本計画を策定中です。区民の皆さんを「巻き込む」のではなく「誘い込む」ことが上手くできているか、厳しく見守って欲しいものです。