せたがや自治政策研究所 Newsletter 2022年6・7月合併号 No. 43 SETAKEN NEWS 活動報告 せたがや自治政策研究所ミニセミナー 「Beyondコロナと自治体政策〜行政職員のための地方自治超入門@」研究員 大石 奈実 6月8日に、大杉覚所長による「ミニセミナー」を実施しました。初回は「Beyondコロナと自治体政策〜行政職員のための地方自治超入門@」をテーマにお話を聞きました。 T 講演:「Beyondコロナと自治体政策〜行政職員のための地方自治超入門@」  今回のミニセミナーでは、コロナ・リセット後の地域の未来図を見据えた地域づくりを考えるうえで、@「地域づくり」とは地域価値の再確認し、 これからの未来図を思い描き、その実現を試みようとする価値実現のプロセスである、A自治体行政の特質とは近接性、現場性、透明性、先端性である、 B今後の自治体計画がめざす姿は公共私の連携による「公共計画」である、とのお話を聞きました。 U ワーク:世田谷区の地域価値とは?  世田谷区(ないしは特定の地域)の、@根っこにある地域価値=i=せたがやってこうだよね)、Aこれからの未来価値=i=せたがやってこうあってほしいね) とはどのようなものかをテーマに、3班に分かれてそれぞれの意見を出し合い、班ごとに発表しました。 参加した職員からは、「若手職員に薦めたい。広い視野で業務に取り組むための学びになると思われる」、 「自治体職員として働くうえで、どのような仕組みで仕事が成り立っているかという初歩的な部分も学べるため、知っておく内容だと感じた」などの感想がでました。 大杉所長のコラム「チャイムの響き」 ウェブ公開を祝して 所長 大杉 覚 筆者が所長就任から半年経った2020年4月に復刊となったせた研のニュースレターSETAKEN NEWS=i復刊号は通巻18号)も、 いよいよこの2022年6・7月合併号からウェブ上で一般公開されます!長い道のりでした。 これまでも決して区民共有財産であるはずの区政情報を区民の目から隠匿し、逃げ隠れしてきたわけではありません。バックナンバーを、 通称緑本=A本研究所の研究・活動報告書である、『せたがや自治政策』に一年分まとめて堂々と掲載しておりました。 その気になれば区民の皆さんも読めなくはなかったのです。とはいえ、旬の記事を読めず、 一年分まとめて報告書中に掲載されたバックナンバーで読めればそれでいいだろ、では、いくらなんでも「行儀は正しく、礼儀は知らず」に過ぎます。 それから、たとえば、7月号ですと、7月下旬にかろうじて発行するのが慣行となっていました。 発行時期については諸事情があったのですが(私の原稿提出が遅れてということ以外にもです)、 これを機に前月末までには発行することとしました。商業誌でしたらあり得なかったことでしょうが、 むしろ非営利だからこそ、こうした点でセンスが問われると考えたいものです。  基本計画の改定作業がこれから本格化します。基本計画は区の最上位計画である総合計画の中核部分ですから、 所長としては、そのなかにせた研の調査研究業務をしっかり位置づけたいと考えています。 区政全般の政策体系での位置づけのあやふやさは、せた研のイメージにかかわると考えるからです。 筆者は所長就任以来、せた研のファンクラブを立ち上げようと呼びかけてきました(もちろん、業務外でですが)。 ところが、これが実にウケが悪い。笛吹けど踊らずで、いまだ実現していません。 もちろん、他の部署にもファンクラブなどあるわけないでしょうし、政策体系上の地位いかんによるわけでもないでしょう。 それに、行政がファンクラブだなんて、不真面目だとお堅く考える人もいるかもしれません。 ですが、いまやくまモンをはじめとして、自治体のゆるキャラがすっかり定着してきたぐらいです。 せた研が先頭を切って自らブランド化し、ファン集めをしてやろうという遊び心があってもいいでしょう。 コロナ禍で、ともすると庁内の萎縮しがちな気分を払拭したいものです。 それに、このまま、ふるさと納税で多額の税収が流出してしまうのもむべなるかな、ですませてしまうようではいけません。 一矢報いたいぐらいの意気込みは必要でしょう。 さて、せた研では、日頃から、第一線で活躍する大学等の研究者と交流しています。 プロの研究者やせた研所属の行政実務に精通した研究員とともに、 一般の区民研究員≠交えて研究プロジェクトを遂行するのも一案。 基本計画改定作業のなかでこうしたアイディアが提起されないか、楽しみにしたいと思います。 いずれにしても、ニュースレターのウェブ公開を機に、世田谷区を「自治体シンクタンクのあるまち」と呼ばせてみたいと夢想しています。 せた研 ブックレビュー 「まあ、いっか。人それぞれだもんね。」の本音。 主任研究員 古賀 奈穂 『「人それぞれ」がさみしい「やさしく・冷たい」人間関係を考える』 著:石田 光規  筑摩書房 著者である石田光規は、主な著書に「孤立の社会学:無縁社会の処方箋」(2012)や「孤立不安社会―つながりの格差、 承認の追求、ぼっちの恐怖」(2018)などがあり、現代社会の人間関係や孤立をテーマに実証的な研究を行っている日本の社会学者です。 筆者は現在早稲田大学文学学術院で教鞭をとっていますが、最近の学生たちの会話である言葉をよく耳にするようになったと言います。 たとえば結婚のことや進路のことを話しているとき。「まあいっか。人それぞれだもんね。」 日本では、戦後の「ムラ」社会から、高度経済成長を経て豊かさを増すにつれ、いわゆる「個人化」が進んできました。 個人化には、物的側面の個人化と思想的側面の個人化があり、日本では1990年代後半から個人化が進んだと言われています。 本書では、個人化した社会を「人それぞれの社会」と表現し、個人が尊重される社会の負の側面を捉え、警鐘を鳴らしています。 「一人」になれる条件が整った社会において、個人は尊重され、私たちは選択の自由を手に入れました。 しかし一方で、私たちは孤独を感じ、「相手との摩擦を避けるため」の人間関係に疲れ、社会的分断を深めていると筆者は指摘しています。 「人びとの行為や主張や『人それぞれ』と受け止める社会には、その言葉が発された瞬間から、対話の機会をさえぎるはたらきがある」(石田2020、p35)、 つまり個人が「人ぞれぞれ」自由に選択した結果なのだから、その結果は自己責任、なにかあったときに他人に頼ることは甘えであると突き放しているというわけです。 「人それぞれ」の社会がもたらす社会は、引き起こされた結果の責任を、当事者の選択に帰することで、格差を正当化する社会を生み出します。 本書は私たちが改めて「個人を尊重」する意味を考え直し、人と向き合う必要があることを問いているといえます。 筑摩書房 2022年 せた研文庫(購入した書籍のご紹介) 「SDGs×自治体 実践ガイドブック現場で活かせる知識と手法」 2020年発行 著:高木超 学芸出版社 SDGsの先進地域の最新情報や、現場で使えるゲーム・ワークショップ等のノウハウがまとまった書籍 編集後記 せたがや自治政策研究所では、活動を紹介するため、本研究所の1年間の研究・活動報告書である、『せたがや自治政策』 を掲載しておりました。 区民の皆様によりタイムリーに情報をお届けするため、今号よりニュースレターにつきましてもウェブ公開し、研究内容の報告や活動についてご紹介していきます。