個人情報の保護に関する法律の改正に伴う世田谷区の個人情報の取扱いに関する運用上の細則等について 答申(令和4年12月) 世田谷区情報公開・個人情報保護審議会 はじめに 今般の個人情報保護法の改正について、審議会は、世田谷区長からの令和4年2月10日付諮問第968号「令和3年個人情報保護法改正に伴う世田谷区における個人情報保護制度等の見直しに向けての考え方について」に対し、令和4年7月に答申しました。 その後、世田谷区において、世田谷区個人情報保護条例の全部改正(素案)を取りまとめ、9月からはパブリックコメント(区民意見提出手続)を実施するなど、個人情報保護制度等の見直しに継続して取り組んできたと承知しています。 こうした中、世田谷区長より審議会に対し、同年10月18日付諮問第994号「個人情報の保護に関する法律の改正に伴う世田谷区の個人情報の取扱いに関する運用上の細則等について」が諮問されました。 これに対し、審議会では、審議会小委員会を設置し2回にわたり検討、審議を行い、同年11月30日に小委員会から審議会に検討結果が報告されたところです。 これを踏まえ、改めて、審議会において諮問の内容を審議し、各委員からの意見や質問等を検討し整理した結果を本答申として取りまとめました。 本年7月の答申の折にも記していますが、重要なことですので、再度、確認として記します。 審議会としては、この法改正の趣旨を踏まえたうえで、国の制度に先駆け世田谷区が個人情報保護制度を構築し、一貫して区民の個人情報保護のために多くのことを積み上げてきた知見と実績を大切にし、今後も継続・発展させていくことが、必要不可欠であると考えています。 これから世田谷区が条例改正案の策定及び事務運用の検討を行ううえでも、本答申をもとに世田谷区個人情報保護条例が改正され、それに基づく新たな個人情報保護制度が運用されることにより、世田谷区の個人情報保護制度がより充実したものとなることを期待します。 令和4年12月19日 世田谷区情報公開・個人情報保護審議会 会長 山田 健太 1 条例要配慮個人情報の制定 (1)改正個人情報の保護に関する法律第60条第5項(条例要配慮個人情報)について 改正個人情報の保護に関する法律(以下「改正法」という。)では、第2条第3項で「要配慮個人情報」(人種、信条、社会的身分等)を定めている。 また、第60条第5項で「地域の特性その他の事情に応じて、本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして地方公共団体が条例で定める記述等が含まれる個人情報」(いわゆる「条例要配慮個人情報」)を定め、「要配慮個人情報」に該当しない「条例要配慮個人情報」を条例で定めることができる旨規定している。 一方、現行の世田谷区個人情報保護条例(以下「条例」という。)では、第7条で「収集禁止事項」を定め、原則として、@思想、信条及び宗教に関する事項、A社会的差別の原因となる事実に関する事項並びにB犯罪に関する事項の収集を禁止しており、例外的に審議会の意見を聴いて必要があると認められる場合等にこれらの情報を収集することを可能としている。 (2)これまでの議論の経過 条例要配慮個人情報については、令和4年3月から同年5月までの間にかけて情報公開・個人情報保護審議会小委員会(以下「小委員会」という。)において審議し、さらに同年6月には情報公開・個人情報保護審議会(以下「審議会」という。)においても議論した。 その際、区は、全所属への条例要配慮個人情報の該当性調査を行った結果、調査時点では条例要配慮個人情報に該当する情報は存在しないと報告した。 制定に対する前向きな意見が出る一方で、区における事務運用に対する懸念が示されるなど、様々な議論を経た結果、@改正法でカバーできる可能性が高い点、A実務上具体的な事例が出てきた際に、再度検討して条例を改正することができる点及びB条例要配慮個人情報の制定に伴う事務の取扱いが困難となる点、以上の三点の理由により条例要配慮個人情報の制定については見送るべきであるとの結論に至ったところであった。 (3)さらなる議論と審議会としての考え 今般の令和4年10月に設置された小委員会において、区から報告があり、区議会や区民意見提出手続(パブリックコメント)において、LGBTや国籍といった個人情報を条例要配慮個人情報として制定すべきとの意見が複数寄せられたとのことであった。 区は、このことを重く受け止め、国の個人情報保護委員会に対して、区の立法措置として、「世田谷区多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例」(以下「多様性条例」という。)があることを根拠に、LGBTや国籍といった個人情報を条例要配慮個人情報に制定できるか否か照会したところ、同委員会から、一定程度の情報を条例要配慮個人情報に制定することも妨げられない旨の回答があったとのことである。 こうしたことを踏まえ、区は、総合的に検討した結果、改正法第60条第5項に基づき、国籍、性的マイノリティに関する情報及びドメスティック・バイオレンスに関する情報を条例要配慮個人情報として制定することが適当であると考えるに至ったため、再度、審議会に対して意見聴取を行うこととしたものである。 審議会としては、条例要配慮個人情報を制定するにあたっては、多様性条例を根拠とすべきであり、@国籍、A性的マイノリティ(多様性条例第2条第6号に定める記述)及びBドメスティック・バイオレンス(多様性条例第2条第7号に定める記述のうち、改正法第2条第3項に該当しないもの)の三点の個人情報を条例要配慮個人情報として制定することに異議はない。 ただし、区内部における条例要配慮個人情報に関する事務運用等で混乱をきたすことは決してあってはならないため、令和5年4月以降、上記三点の情報を条例要配慮個人情報として適切に取り扱うことができるよう関係所管課と詳細を検討し、適切に職員周知を図ることを求める。 また、条例要配慮個人情報の定義の趣旨を鑑み、外部委託、外部提供、目的外利用等を行った案件については、令和4年7月の審議会答申第968号(以下「答申第968号」という。)に倣い、要配慮個人情報と同様に条例要配慮個人情報についても、後述の各審査基準に則った所管課の審査後、審議会に対する報告を求める。 2 個人情報保護管理基準 改正法第66条第1項により、各自治体は、「…保有個人情報の漏えい、滅失又は毀損の防止…個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講」ずべき義務が生じた。 この規定を受け、国から周知された「個人情報の保護に関する法律についての事務対応ガイド(行政機関等向け)」(以下「事務対応ガイド」という。)の指針に則り、各自治体は、安全管理措置を講ずる必要が生じたことから、今般、区は「個人情報保護管理基準」を策定することとしたものである。 審議会としては、区が改正法第66条第1項及び事務対応ガイドに基づき策定した「個人情報保護管理基準(案)」の内容について異議はない。 ただし、今後の区内部での周知を見据えて、改正法や改正条例、当該管理基準等の位置関係が明瞭にわかるよう工夫を凝らすことを要望する。 3 外部委託等の審査基準 現行条例では、区の各所管課は、個人情報を取り扱う業務において外部委託、外部提供、目的外利用等を行う際に、原則として各個別案件ごとに事前に審議会へ諮問し、審議会に承認され次第、業務を開始している。 一方で、改正法では、第66条第1項により安全管理措置に関する基準を示し、外部委託については委託先がこれを遵守することにより、電子計算機への記録及び回線結合については区が安全管理措置を遵守することにより、個人情報の適切な管理が担保されることとなる。 また、収集禁止事項及び本人外収集については改正法第61条から第64条までの規定を厳格に遵守し、外部提供及び目的外利用については改正法第69条の規定を厳格に遵守することとなることから、各個別案件の審議会への事前諮問は許容されないところである。 このことを踏まえ、区が前述の「個人情報保護管理基準」を策定したうえで、各所管課が個人情報を取り扱う業務において外部委託等を行う場合に、事前に審査することを可能とする各審査基準を策定するものである。 審議会としては、改正法の枠組みの中、現行条例において事前に審議会へ諮問する事項につき、各所管課が個人情報を取り扱う際に事前審査する審査基準の方向性について異議はない。 また、区の所管課が実際に個人情報の保有等を行う場合、その都度、審査基準及び別票を作成し、総括個人情報保護管理者へ提出することとなると、本件に係る事務量が増え、非常に煩雑になることが想定される。 よって、各所管課が要配慮個人情報や条例要配慮個人情報を取り扱った場合に限定して総括個人情報保護管理者へ報告することとする等、本件に係る区の所管課の事務負担についても一定程度考慮に入れて検討することが望まれる。 ただし、各所管課による現場判断の比重が高まることがあっても、それによって、現行条例に基づきこれまで審議会が行ってきた判断の基準が緩和されることのないよう、十分厳格かつ慎重な取扱いを継続することが強く期待される。 4 開示請求手続の本人確認書類 現行条例施行規則において、開示請求手続の本人確認書類について詳細に定めているものの、改正法が施行される令和5年4月以降は、改正法に基づく開示請求を行うこととなることから、改正法及び政令の規定に沿った対応が求められる。 ついては、改正法及び改正条例が施行される令和5年4月以降の開示請求手続の本人確認書類については、事務対応ガイドを参考とし、各自治体において具体的な本人確認書類を確定させる必要がある。 審議会としての意見は、以下の三点のとおり。 まず、一点目として、改正法では、開示請求時に確認する本人確認書類について、原則として、開示請求書に記載されている開示請求をする者の氏名及び住所又は居所と同一の氏名及び住所又は居所が記載されていることを求めているため、区がこの方針を採用していることに異議はない。 次に、二点目として、なりすましが特に懸念される任意代理人による開示請求について、現行条例施行規則第10条(開示請求者の確認)において、保有特定個人情報における任意代理人による開示請求の場合に委任者本人の実印を押印した委任状及び当該実印に係る印鑑登録証明書を要求していることから、区がこの対応を継続し、引き続き厳格に対応していくことに異議はない。 最後に、三点目として、@本人による開示請求、A法定代理人による開示請求及びB任意代理人による開示請求の三点の開示請求について、区が提示した各請求時の具体的な本人確認書類は、改正法及び政令並びに現行条例の内容を鑑みた適正な内容であると認められるため、異議はない。 5 死者の情報に関する開示請求基準 現行条例も改正法も「個人情報」は、生存する個人に関する情報であり、死者に関する情報は含まれない。 また、改正法では、改正条例に個人情報の定義として死者に関する情報を含める規定を設けることを許容していない。 ただし、死者に関する情報が同時に遺族等の生存する個人に関する情報でもある場合には、当該生存する個人に関する情報として改正法の保護対象となる。 他方、死者に関する情報の取扱いについて個人情報保護制度とは別の制度として条例を定めることは妨げられていないところである。 この点について、答申第968号では、区の個人情報保護制度とは別の制度としての条例制定は求めないが、条例の運用と同様に内部管理規定により適切な運用を行うべきであるとした。 また、現行条例で運用している「死者の個人情報に関する開示請求の取扱い基準」は、ガイドライン等で示されている「死者に関する情報が同時に遺族等の生存する個人に関する情報でもある場合」と同じ主旨と考え、今後、区の開示請求制度が区民にとって後退することがないように、死者に関する取扱い基準を内部管理規定として制定することが相当であるとしたものである。 以上のことから、区は、改正法施行時においても、一定程度の死者の情報も生存する個人が開示請求することを可能なものとする現状の運用を継続するため、審議会に意見を聴いたうえで、「死者の情報に関する開示請求基準」を改めて策定するものである。 審議会としては、区が提示した「死者の情報に関する開示請求基準(案)」は、現行の「死者の個人情報に関する開示請求の取扱い基準」を実質的に継続するものであって現行制度を後退させるものではなく、答申第968号に則ったものであると認められるため、異議はない。 参考1 諮問第994号 令和4年10月18日 世田谷区情報公開・個人情報保護審議会 会長 山田 健太 様 世田谷区長 保坂 展人 世田谷区情報公開・個人情報保護審議会条例第2条の規定に基づき、下記の事項について諮問します。 諮問事項 個人情報の保護に関する法律の改正に伴う世田谷区の個人情報の取扱いに関する運用上の細則等について 諮問理由 個人情報の保護に関する法律(以下「法」という。)の改正に伴う世田谷区における個人情報保護制度等の見直しに向けての考え方については、本年7月に世田谷区情報公開・個人情報保護審議会(以下「審議会」という。)の答申として、新たな個人情報保護制度を構築するうえでの「世田谷区の3つの基本方針」など、貴重なご意見を取りまとめていただき深く感謝申し上げます。 区としては、答申の内容を踏まえ、本年9月に世田谷区個人情報保護条例(以下「条例」という。)の全部改正(素案)として取りまとめ、パブリックコメントを実施したところです。 現在、区民から寄せられた意見に対する区の考え方を整理するとともに、改正条例(案)の取りまとめに向けて具体的な運用等の詳細な検討を行っているところです。 つきましては、令和5年4月1日の改正法及び改正条例の施行に向けて、区の個人情報の取扱いに関する運用上の細則等を制定する必要があることから、審議会の意見を聴くものです。 参考2 世田谷区情報公開・個人情報保護審議会委員名簿 山田健太(やまだけんた) 専修大学文学部ジャーナリズム学科教授 会長 小委員会委員 斉木秀憲(さいきひでのり) 国士舘大学法学部・大学院法学研究科教授 副会長 小委員会委員長 土田伸也(つちだしんや) 中央大学法科大学院教授 小委員会委員 山梢(たかやまこずえ) 弁護士 小委員会委員 山辺直義(やまべなおよし) 弁護士 システム監査技術者 上田啓子(うえだけいこ) 世田谷区町会総連合会 太田雅也(おおたまさや) 一般社団法人世田谷区医師会 旦尾衛(あさおまもる) 世田谷区商店街連合会 朝倉宏美(あさくらひろみ) ひとえの会 藤原和子(ふじわらかずこ) 世田谷区民生委員児童委員協議会 吉田周平(よしだしゅうへい) 元世田谷区立小学校PTA連合協議会 中村重美(なかむらしげみ) 世田谷地区労働組合協議会 小委員会委員 大重史朗(おおしげふみお) 公募委員 小島昭男(こじまてるお) 公募委員 (敬称略) 参考3 小委員会の審議経過 (1)第1回(令和4年10月26日(水)) 条例要配慮個人情報の制定(案) 死者の情報に関する開示請求基準(たたき台) 改正法の安全管理措置に関する基準関係 (2)第2回(令和4年11月8日(火)) 条例要配慮個人情報の制定(案) 死者の情報に関する開示請求基準(案) 個人情報保護管理基準(案) 外部委託等の審査基準(案) 開示請求手続の本人確認書類(案)