【富士山等噴火降灰対策編】 第1章 富士山の現況等 第1節 富士山の現状等 1 富士山の概要 富士山は、フィリピン海プレート、北米プレート、ユーラシアプレートが接する地域に、静岡県と山梨県の二県にまたがって位置しており、富士山火山帯に属する玄武岩質の成層火山である。 日本に110存在する活火山の一つであり、活動度はランクB(100年活動度又は1万年活動度が高い火山)とされている。 標高は3,776mで日本最高峰であり、山体の体積は約400k㎥で日本の陸域で最大の火山である。 山腹斜面の勾配は、標高1,000m以下では10度未満と緩いが、標高が高くなるに従い傾斜は急になり、山頂近くでは40度近くとなっている。 都内からは、丹沢山地の後背に山頂部を望むことができ、都内各所に富士見坂などの地名が残っている。富士山山頂火口から都内までの距離は、最も近い檜原村の山梨県境まで約47km、新宿区の都庁まで約95km、最も遠い葛飾区の千葉県境まで約115kmとなっている。 2 富士山の活動史 富士山は今から70~20万年前に活動を開始し噴火を繰り返すことで、約1万年前に現在のような美しい円錐形の火山となったと考えられている。 それ以降も活発な火山活動を繰り返しており過去の噴火で流れ出た溶岩が多く見つかっており、古文書等の歴史資料にも富士山の噴火の記述がある。 (1)富士山の成り立ち 富士山は、約10万年前から1万年前まで活動した「古富士火山」とそれ以降、現在まで活動を続ける「新富士火山」に区分されている。 古富士火山は、それ以前からあった小御岳火山の南斜面で噴火を開始し、爆発的噴火を繰り返すとともに、活動末期には複数回の山体崩壊(表層の崩壊ではなく深部に至る崩壊)が発生した。 新富士火山は、山頂火口及び側火口(山頂以外の山腹等の火口)からの溶岩流や火砕物(火山灰、大山礫等砕けた形で噴出されるもの)の噴出によって特徴づけられ噴火口の位置や噴出物の種類等から5つの活動期に分類できる。 <新富士火山の主な噴火活動期> 活動期 Ⅰ 年代 約11000年前~約8000年前 主な噴火口の位置 山頂と山腹等 噴火の特徴  多量の溶岩流の流出 噴出量は、新富士火山全体の8~9割に及ぶ 活動期 Ⅱ 年代 約8000年前~約4500年前 主な噴火口の位置 山頂 噴火の特徴 溶岩流の噴出はほとんどなく、間欠的に比較的小規模な火砕物噴火 活動期 Ⅲ 年代 約4500年前~約3200年前 主な噴火口の位置 山頂と山腹等 噴火の特徴 小・中規模の大きい火砕物噴火や溶岩流噴火 活動期 Ⅳ 年代 約3200年前~約2200年前 主な噴火口の位置 山頂 噴火の特徴 比較的規模の大きい火砕物噴火が頻発 活動期 Ⅴ 年代 約2200年前以降 主な噴火口の位置 山腹等 噴火の特徴  火砕物噴火と溶岩流噴火 宮地(1988)に基づく (2)歴史資料上の噴火 歴史資料で確認できる噴火は下表のとおりである。1707年の宝永噴火を最後に、これまでの約300年間富士山は静かな状態が続いている。 年代 781年(天応元年) 火山活動の状況 山麓に降灰、木の葉が枯れた 年代 800~802年(延暦19~20年) 火山活動の状況 大量の降灰、噴石 特に名前がついた噴火 延暦(エンリャク)噴火 年代 864~866年(貞観6~7年) 火山活動の状況 溶岩流出(青木ヶ原溶岩。)溶岩により人家埋没。湖の魚被害 特に名前がついた噴火 貞観(ジョウガン)噴火 年代 937年(承平7年) 火山活動の状況 噴火 年代 999年(長保元年) 火山活動の状況 噴火 年代 1033年(長元5年) 火山活動の状況 溶岩流が山麓に達した 年代 1083年(永保3年) 火山活動の状況 爆発的な噴火 年代 1511年(永正8年) 火山活動の状況 噴火 年代 1560年(永録3年) 火山活動の状況 噴火 年代 1707年(宝永4年) 火山活動の状況 噴火前日から地震群発、12月16日から2週間にわたって爆発的な噴火。江戸にも降灰 特に名前がついた噴火 宝永(ホウエイ)噴火 (3)最近の活動 平成12年(2000年)10月から12月及び翌年4月から5月にかけて、富士山直下深さ15km付近を震源とする低周波地震の多発が確認された。これより浅い地震活動や地殻変動等の異常は観測されず、直ちに噴火の発生が懸念されるような活動ではなかった。 3 富士山における噴火の特徴 これまでに分かっている「新富士火山」の噴火の主な特徴は、次のとおり。 噴火のタイプは、火砕物噴火、溶岩流噴火及びこれらの混合型の噴火で、少数ではあるが火砕流の発生も確認されている。 山頂火口では、繰り返し同一の火口から噴火しているが、側火口では同一火口からの再度の噴火は知られていない。 噴火の規模は、小規模なものが圧倒的に多く、約2200年前以降で最大の火砕噴火は、宝永噴火であり最大の溶岩流噴火は貞観噴火である。 古文書等の歴史的資料には、確かな噴火記録だけでも781年以降10回の噴火が確認されている。 4 富士山以外の火山 富士山以外の火山において、区に影響するような噴火等が発生した場合は、発生の規模に応じて、適正な対応をする。 *日本における過去噴火一覧〔資料編資料第123・P287〕 *火山防災のために監視・観測体制の充実等の必要がある火山〔資料編資料第124・P288〕   第2節 国による検討 平成12年10月から12月及び平成13年4月~5月には富士山直下の深さ15km付近を震源とする低周波地震の多発が観測され、改めて富士山が活火山であることが認識された。仮に噴火した場合には、他の火山とは比較にならない広範かつ多大な被害や影響が生じるおそれがあるため、平成13年7月に国、関係する県及び市町村により「富士山火山防災協議会」が設立(後に都も参加)され、火山防災対策の確立のため、平成16年6月に「富士山ハザードマップ」が作成された。 ハザードマップ作成においては、過去3,200年間の噴火活動の実績を踏まえ、火口範囲の想定、溶岩流、火砕流、融雪型火山泥流、降灰、噴石、土石流といった各現象について数値シミュレーション等により到達範囲等が求められた。 富士山の噴火に伴う被害として想定されたものには、次のようなものがある。 火山活動に起因する現象  溶岩流、噴石、降灰、火砕流、火砕サージ、水蒸気爆発、岩屑なだれ、融雪型火山泥流、噴火に伴う土石流、噴火に伴う洪水、火山性地震(地殻変動)、津波、空振、火山ガス 火山活動に起因しない現象 斜面表層崩壊、豪雨等に伴う土石流、豪雨等に伴う洪水、雪泥流、岩屑なだれ、落石 また、平成16年6月には、同協議会において、同ハザードマップを基に、国、県、市町村が役割分担を明確にした上で互いに協働して行う広域的な防災対策、並びに富士山が日本でも有数な観光資源であることに配慮した防災対策について具体的な検討を行うこととなり、平成17年9月に「富士山火山広域防災対策」としてとりまとめられ、中央防災会議に報告された。 第3節 噴火による被害想定 1 被害想定 都地域防災計画(火山編)では、国が設置した富士山ハザードマップ検討委員会が平成16年6月に公表した「富士山ハザードマップ検討委員会報告書」に示された被害想定を計画の基礎としている。 都では、富士山火口から距離があるため、溶岩流や火砕流等の被害を受けることはなく、広範囲な降灰に起因する被害が想定されている。なお、実際の降灰範囲は、噴火のタイプ、火口の出現位置、噴火規模、噴火の季節等、様々な条件によって変化する。 <噴火の規模と被害の概要> 噴火の規模等 規模 宝永噴火と同程度 継続期間 16日間 時期 (1)梅雨期(2)その他の時期 噴火の原因 降灰 被害の範囲 都内全域 被害の程度 世田谷区 2~10cm程度(八王子市及び町田市の一部10cm程度、その他の地域2~10cm程度) 被害の概要 降灰によるもの 健康被害、建物被害、交通・ライフライン、農林水産業、商工業、観光業への影響 降灰後の降雨等に伴うもの 洪水、泥流、土石流に伴う人的・物的被害   2 降灰予想図(降灰の影響が及ぶ可能性の高い範囲) *図表省略 * 出典:富士山火山広域防災対策基本方針(平成18年2月、中央防災会議) 3 火山灰による被害 ※ 出典:防災科学技術研究所「火山灰の健康被害 地域住民のためのしおり」より (1)火山灰の特徴 火山灰とは火山岩が粉々になった細かい粒子(直径2mm以下のもの)のことである。 火山灰が生じるのは、火山が爆発するときや高温の岩なだれが火山の山腹を流れおちるとき、赤熱した液状の溶岩がしぶきになって飛び散るときなどである。 火山灰の外見は、火山のタイプや噴火の仕方によって異なり、明るい灰色から黒色のものまで様々である。 大きさも様々であり、小石のようなものから化粧用パウダーと同じくらい細かいものまである。 空中を浮遊する火山灰は太陽光をさえぎり、視界を悪くする。そのため、昼間なのに真っ暗になるということもある。 (2)健康被害 ①呼吸器系の影響 噴火によっては、火山灰粒子が非常に細かく、呼吸によって肺の奥深くにまで入ることもある。 大量の火山灰にさらされると、健康な人でも咳の増加や炎症等を伴う胸の不快感を感じる。一般的な急性(短期間)の症状は次のとおり。 鼻の炎症と鼻水。 のどの炎症と痛み。乾いた咳を伴うこともある。 呼吸器系の基礎疾患がある人は、火山灰を浴びた後、数日続く気管支のひどい炎症(空せき、たん、ぜーぜーとした呼吸、息切れ)を引き起こす可能性がある。 ぜんそくまたは気管支炎の患者における気道の刺激 息苦しくなる。 ②目の症状 火山灰のかけらによって、目に痛みを伴う角膜のひっかき傷や結膜炎が生じる。コンタクトレンズ着用者は、特にこの問題が大きい。一般的な症状は以下のとおり。 目の異物感 目の痛み、かゆみ、充血 ねばねばした目やに、涙 ③皮膚への刺激 火山灰が酸性の被膜に覆われている場合、皮膚に炎症を起こす場合がある。その他、皮膚に痛みや腫れ、ひっかき傷からの二次感染等が起きる場合がある。 (3)交通被害 空中を浮遊する火山灰によって視界が悪くなり、交通事故が起きやすくなる。 火山灰が薄く積もった路面は、湿っていても乾いていても非常に滑りやすく、ブレーキが利きにくくなる。 火山灰が厚く積もると道路が通行不能になる。 (4)ライフライン被害 降灰によって停電が起きる可能性がある。また、湿った火山灰には導電性があるので、電源供給装置等を使用する場合等に、感電する可能性がある。 (5)建物被害 火山灰の重みによって屋根が崩落することがある。特に、屋根を清掃する際に人の重みが加わり、崩落する危険性が高い。 (6)給水被害 水の汚濁や給水装置の遮断・破損が起きる可能性がある。 小規模でふたのない給水施設は特に火山灰に弱く、少量の火山灰でも給水に支障をきたす。 火山灰が給水施設に入った場合、有毒である危険性は低いが、酸性度が強くなったり、塩素による殺菌効果が弱くなる可能性がある。 清掃用の水需要が増加して、水不足になる可能性がある。