【風水害編】 第1部 総則 第2章 区の概況と災害 第1節 区の概況 1 地勢 地勢は、震災編 第1部第2章「第1節 世田谷区の概況」を参照。 (1)河川(平成31年4月1日現在) 総延長 51,630m 1級 27,920m 2級 23,710m 区には11の河川がある。 谷戸川 谷戸川の水源は、昔は東山野(今の砧二丁目と四丁目にまたがる辺り)という区内最高(標高52.5m)の丘の北麗から湧出する泉。現在は、山野小学校脇から開渠となり流れている。平成6年度に砧公園内に浄化施設が完成し、水質は改善され、昔ながらの土水路になって流れている。下流部に行くと、静嘉堂緑地からの湧水の流入により水量が増え、丸子川に注いでいる。平成20年度から、仙川浄化施設からの導水も行われている。 谷沢川 谷沢川は用賀、中町、等々力と流れ、玉堤で多摩川に注ぐ全長3.8kmの小さな川。上用賀六丁目付近の小湧水が水源といわれているが、この付近はすでに蓋がけされ、川の姿を見ることができるのは、田中橋(用賀4-5付近)からとなっている。主な水源は仙川の浄化施設からの導水や等々力渓谷の湧水で、下流部の等々力渓谷は東京百景にも数えられ、都内に残る貴重な渓谷として知られ、至るところで湧水がわき出ており、手付かずの自然が残されている。 丸子川 丸子川は江戸時代に開削され、当時は次大夫堀と呼ばれていた。多摩川からの取水口は狛江市和泉付近。多摩川と平行して流れ、野川、入間川、仙川等の水も取り入れて大田区六郷まで流れていた。近年まで六郷用水と呼ばれ、農業用水として利用された。都市化による水田の廃止で上流は埋め立てられ、現在は仙川から下流が丸子川と名を変えて残っている。上流部は大蔵住宅の湧水を利用し、下流部では谷沢川の水をポンプアップして水源としている。区内を通過する延長は5.4km。 野川 野川は国分寺市東恋ヶ窪一丁目を水源とし、国分寺崖線の湧水を集め、武蔵野台地を東南に流れている。水源の湧水の一つは名水百選にも選ばれた「お鷹の道・真姿の池、湧水群」。小金井市、三鷹市、調布市を通って狛江市に入り、世田谷区との境付近で入間川を合流、さらに世田谷区を流れて鎌田三丁目で仙川を合流した後、玉川一丁目で多摩川に流入する延長20.2km(区内5.0km)、流域面積69.6km2㎡の一級河川。 仙川 仙川は小金井市貫井北町を水源とし、鎌田三丁目で野川に合流する。河川上流部に下水処理場があり、処理水が放流されているため、年間を通して安定した水量がある。川岸は洪水対策の改修を受け、垂直のコンクリート護岸で覆われ、容易には人が水辺に近づくことができない川となっている。 多摩川 山梨県甲州市の笠取山を水源とし、途中大小の支流河川を合流しながら東京湾に注ぐ全長138kmの一級河川。羽村堰で水道用水として取水するため流量が減少するが、支川の流入と流域の下水処理水によって流量が保たれている。二子玉川には兵庫島河川公園があり、野鳥などの自然観察イベント、行楽など利用者の多い公園となっている。 下記の川は、ほとんどが暗渠化され、下水道幹線となっており、その上部は緑道となり、小公園や人工の流れが再現されたりしている。 目黒川 北沢川と烏山川が合流し目黒川となり、目黒区内で蛇崩川を合流し品川区を通り東京湾に注ぐ全長7.8kmの二級河川。昭和60年頃までは、都市化の進展に伴う都市型水害が多発していたが、その後の河川改修、下水道幹線の整備、流域における流出抑制施設の整備等により、洪水に伴う被害は激減している。区内部分は支流の北沢川、烏山川とともに暗渠化され、目黒区の大橋(国道246号)から下流が開渠となっている。 北沢川 その昔、現在の松沢病院の構内より湧き出していた水が源流とされ、その後玉川上水より分水され農業用水となった。上北沢より区内を横断し、三宿と池尻の境で烏山川と合流して目黒川となる。現在はほとんどが暗渠となり、上部は緑道となっている。また、代田二丁目から三宿二丁目の区間をせせらぎのある緑道として改修されている。 烏山川 現在の高源院の池に武蔵野の伏流水が湧き出していたものが源流とされている。その後、玉川上水より分水され農業用水となった。烏山寺町より南東に経堂を経由し、三宿と池尻の境で北沢川と合流し目黒川となる。船橋七丁目から三宿一丁目までの約7.0kmが緑道として整備され、変化に富んだ散策路となっている。 蛇崩川 旧弦巻村を水源とし、三軒茶屋から下馬を通り目黒区の上目黒一丁目で目黒川と合流する小河川。名前の由来は、流れる形が赤土の地層を崩したように蛇行しているところからそう呼ばれるようになったといわれている。現在は暗渠となっており、上部は駒沢二丁目から下馬一丁目までが緑道として整備されている。 呑川 世田谷区新町地先を源として東南流した後、荏原台と田園調布台にはさまれた谷底低地に沿って東南に流れて東京湾に注ぐ流域面積約17.7km2、河川延長約14.4kmの二級河川である。呑川に流入する支川として、目黒区緑が丘地先において合流する河川延長約2.6㎞の九品仏川がある。 九品仏川 浄真寺(九品仏)を囲むようにあった昔の水田地帯の水を集めて東流し、緑が丘で呑川に合流する極めて短い川。大正の終わりごろまではサギソウが自生しており、これにまつわる伝説に基づいて世田谷区の花がサギソウに指定された。現在は暗渠となっており、上部は奥沢五丁目から奥沢七丁目までが緑道として整備されている。 2 人口・産業 震災編 第1部第2章「第1節 世田谷区の概況」を参照。 第2節 気象の概況 1 区部と多摩地域 東京地方の降水量には、年間に2つのピークがある。1つは梅雨時期の6月、もう1つは秋雨前線や台風の影響の出る9月を中心に出現する。 また、この時期をはさんで、雷雨や台風、前線などによって、狭い範囲に数時間にわたり強く降り、100ミリから数百ミリの雨量をもたらす、いわゆる「集中豪雨」と呼ばれるような大雨となることがある。 関東甲信地方(伊豆諸島や小笠原諸島を除く)に接近する台風の平均個数(接近数)は、6月に0.2個、7月に0.4個、8月に0.9個、9月に1.2個、10月に0.7個となっている(平成元年から平成30年までの30年平均、気象庁)。 (1)春(3月~5月)の気象 移動性高気圧により天気は周期的に変化するが、晴れる日が多い。 3~4月頃には「菜種梅雨」と呼ばれる天気のぐずつく時期がある。 春から夏にかけて南寄りの風が卓越する。 (2)夏(6月~8月)の気象 関東甲信地方の平均的な梅雨の期間は6月8日頃から7月21日頃までで、この期間は天気がぐずつく日が多い。 その後は、太平洋高気圧に覆われて南寄りの風が卓越し、高温・多湿の日が多い。 台風の影響により天気が荒れることもある。 (3)秋(9月~11月)の気象 夏型の気圧配置の続く秋分頃までは、暑い日が続き、秋の前半は台風や秋雨前線の影響によりぐずつく日も多い。 その後は高気圧や低気圧が交互に通過して天気は周期変化となるが、次第に安定した晴天の日が多くなる。 冬に向かい、北寄りの風が卓越するようになる。 (4)冬(12月~2月)の気象 乾燥した北寄りの風が吹く晴れの日が多い。 1月から3月にかけては、本州南岸を通過する低気圧により大雪が観測されることもある。 第3節 風水害の概況  都の水害記録によると、10棟以上の浸水被害が発生したのは、平成19年度~平成28年度で台風性による降雨で8回、集中豪雨等によるもので23回となり、年に3、4回の頻度となっている。これまでの風水害の状況は以下のとおりである。 1 過去の大規模水害 戦後、東京に大きな被害をもたらした風水害としては、昭和22年9月のカスリーン台風、24年8月のキティ台風などがある。  これらの水害は、江戸川をはじめとする大河川の決壊や高潮によるもので、江東区、足立区、葛飾区、江戸川区などの区部東部の低地に甚大な被害を発生させた。 また、昭和49年9月の台風第16号においては、多摩川の世田谷区上流、狛江市付近において堤防が決壊し、同市内の民家19棟が流出する被害が発生した。 2 都市型水害の発生 主要河川の改修、堤防の補強、防潮堤の建設等が進んだ結果、昭和49年の多摩川堤防の決壊を除き、主要河川の氾濫や決壊による被害は大幅に減少した。しかし、昭和30年代から始まった急速な都市化の進展は、中小河川の氾濫による新たな都市型水害を発生させた。 昭和33年の狩野川台風は、中小河川の氾濫等により、区部東部地域に加え、新興住宅地のがけ崩れや、それまで浸水被害の少なかった山の手台地の谷底部にも大きな被害をもたらした。 都内では、市街化の進行により雨水が地下に浸透しにくくなり、短時間に川に集中して流れ込む傾向があるとともに、ヒートアイランド現象によると考えられる集中豪雨の頻発により、毎年のように浸水被害が発生している。 また、地下空間の増大など、土地の高度利用化が進み、浸水の危険性が増すとともに、浸水被害額は増加している。 昭和56年10月の台風第24号及び昭和57年9月の台風第18号は、神田川、目黒川などの中小河川を氾濫させ、いずれも5,000世帯以上の床上浸水被害を引き起こした。 3 集中豪雨・台風等の大雨による被害 平成17年9月4日から5日未明にかけ、台風第14号及び秋雨前線の影響により、区部西部に、1時間雨量100mmを超える集中豪雨が発生した。神田川及び支流の妙正寺川、善福寺川など8河川からの溢水により、中野区、杉並区を中心に都内で約6,000棟に及ぶ浸水被害が発生し、都は、12年ぶりに中野区、杉並区に災害救助法を適用した。 本集中豪雨では、神田川・環七地下調節池第一期区間の貯水容量(24万m3)が、平成9年完成以来初めて満杯となったため、緊急措置として工事中の第二期区間にも雨水18万m3を取り込み、被害の軽減を図った。 区においても、野川・仙川流域をはじめ区内各地で浸水被害が発生し、被災世帯は累計で約1,300世帯に達した。 平成19年9月5日から7日にかけての台風第9号においては、多摩川の国土交通省京浜河川事務所田園調布(上)水位観測所における水位が国が定める避難判断水位を超過し、区では平成11年8月以来8年ぶりに、堤防より河川側に位置する地域(玉川一丁目、三丁目の一部)を対象に避難勧告を発令した。 平成22年7月5日の夕方から夜にかけて石神井川流域で1時間雨量100mmを超える集中豪雨が発生し、北区内の溢水では約400棟に及ぶ浸水被害が発生した。これを受け、同年、都市整備局、建設局及び下水道局の三局連携のもと「緊急豪雨対策」を策定し、白子川地下調節池の工期短縮や、石神井川からの洪水を取水できるようにすることで、異なる流域間で機能を発揮できる調節池となる。 平成25年7月23日豪雨では、城南地区を中心に集中豪雨が発生し、目黒区周辺では15時30分から16時30分までの1時間に約100mmの猛烈な雨が観測された。この大雨により、品川区、目黒区、大田区、世田谷区では、床上・床下浸水が合わせて500棟を超える被害となったほか、道路冠水による交通障害や鉄道などの交通機関にも影響が見られた。 また、同年10月16日未明から明け方にかけて、台風第26号の接近に伴い、大島町元町地区では1時間に最大122.5mmの猛烈な雨が降り、総雨量では最大824.0mmといずれも観測史上第1位の値を更新した。大規模な土砂災害の発生及び山腹崩壊により、建物被害が385棟、停電が最大110件、断水が最大約3,000世帯で発生するなど、甚大な被害が発生し、都は大島町へ災害救助法の適用を決定するとともに、国は激甚災害に指定した。 平成30年8月27日、気温の上昇や前線の影響で関東を中心に大気の状態が非常に不安定になり、夜に雷を伴う猛烈な雨となった。世田谷区内における10分間最大雨量は世田谷観測地点で40mm、1時間最大雨量は玉川観測地点で114mmとなり、記録的短時間大雨情報が発表された。300件を超える浸水等の被害があった。 令和元年10月12日から13日未明にかけて、台風第19号の接近に伴い、24時間雨量で最大627mmを観測した檜原村や多摩川無堤防箇所で溢水した世田谷区など、都内25の区市町村に大雨特別警報が発表された。区は10日に災害対策本部を設置し、災害対応にあたった。世田谷内では、台風の影響により、死者1名のほか、大雨による堤内地の浸水等により650棟を超える建物被害が発生した。都は28の区市町村へ災害救助法の適用を決定するとともに、国は特定非常災害、激甚災害に指定した。