第11章 放射性物質対策 本章における対策の基本的考え方 放射性物質対策における基本的考え方 都内には原子力施設が存在せず、また、他県にある原子力施設に関しても原子力災害対策重点区域に都の地域は含まれていない。このことから、国内の原子力施設において、原子力緊急事態が発生した場合に、区民の避難等の対応を迫られるものではない。 しかし、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故では、発電所から約220km離れている東京においても、様々な影響を受けた。 この経験を踏まえて、放射性物質対策について、初動態勢と区民の不安の払拭と安全の確保を図るために、国・都等の関係機関と連携した迅速・的確な情報提供、放射線等使用施設、核燃料物質等運搬中の事故の対応について示す。 第11章 放射性物質対策 第1節 現在の到達状況 東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故への対応は、以下のとおりとなっている。 1 区有施設等における放射線測定・放射性物質検査等 東日本大震災において、福島第一原子力発電所の事故による放射性物質の飛散が懸念されたことから、区民の健康不安の払拭と安心の確保を図るため、区管理施設における空間放射線量の測定、プール水の放射性物質検査並びに区立小中学校及び保育園の給食の放射性物質検査を実施した。 2 区民への正確な情報提供等 ホームページ等を活用し、区民へ情報の発信を行うとともに、放射性物質に対する健康不安について、区民からの相談に対応した。また、区内における空間放射線量の測定結果について、区立幼稚園、小・中学校、保育園の保護者及び区立公園の利用者等に対し、情報提供を実施した。   第2節 課題 1 より円滑に対応できる体制の構築 福島第一原子力発電所事故への対応の経験を踏まえ、放射性物質等による影響について、より円滑に対応できる体制の構築が必要である。 2 区民への情報提供策の構築 放射線に関する情報について、区民に正確な情報を提供し、問い合わせや相談があった場合には、関係所管で連携しながら適切に対応する必要がある。 空間放射線量については、区で実施している定点測定のほか、都健康安全研究センター(新宿区)でのモニタリングポストの数値を注視し、変動が見られた場合は、測定体制の強化を図る必要がある。また、食品に対する放射性物質の影響が考えられる場合は、速やかに給食食材に対する既存の検査体制を強化する必要がある。 〔原子力発電所の場所〕 世田谷区から近い現在の原子力発電所は、以下のとおりである。 *図表省略   第3節 対策の方向性 1 関係部の役割分担の明確化 これまでに各部でとられた様々な対応策を踏まえて、庁内における役割分担を明確化し、情報連絡体制を整備することで、より機能的に対応できる区の体制を構築する。 2 情報提供策の構築 都と連携し、区民の不安払拭と安全の確保のための正確な情報提供策を構築する。 ホームページ等を活用して、区民へ情報発信する。 放射性物質に係わる健康相談に随時対応する。 空間放射線の定点測定及び食品の放射性物質検査を継続して実施する。 新たな課題が発生した場合は、世田谷区放射線等対策本部において適切に対応する。 第4節 到達目標 1 円滑かつ的確に対応できる体制を構築 放射性物質等による影響が生じた際に、被害情報等の正確な情報を収集し、庁内における情報の共有化や必要な連絡調整を行う等、各部が連携して円滑かつ的確に対応できる体制を構築する。 2 適切な情報提供による区民の不安を払拭 放射性物質及び放射線による影響を考慮し、学校や公園等の空間放射線量を測定して公表するとともに、健康相談に関する窓口を設置する等、区民に対する正確な情報提供・広報を迅速かつ的確に行う。 第5節 具体的な取組み 第1 予防対策 1 情報伝達体制の整備 2 区民への情報提供等 3 放射線等使用施設の安全化 放射性物質による災害は、万一発生すると、区民への影響が極めて大きいため、災害対応に万全を期するものとする。都内には、原子力施設が存在せず、また、他県にある原子力施設に関しても、「原子力災害対策重点区域」に区の地域は含まれていないが、区民の不安払拭及び災害時の不測の事態に備えて、国、都及び関係各機関、周辺自治体等との連携体制を確立するものとする。 1 情報伝達体制の整備 (1)対策内容 区は今後、都内において原子力災害による放射性物質等の影響(以下「放射性物質等による影響」という。)が懸念される事態が発生した場合に備え、より迅速かつ機能的に対応できる体制を構築する(詳細は、「第2 応急対策」による。)。 2 区民への情報提供等 (1)対策内容と役割分担 国、都や区との役割分担を明確にした上で、必要な情報提供体制を整備する。 3 放射線等使用施設の安全化 (1)対策内容と役割分担 放射線等使用施設については、国(原子力規制委員会)が、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」に基づき、RI(ラジオ・アイソトープ)の使用、販売、廃棄等に関する安全体制を整備するとともに、立入検査の実施による安全確保の強化、平常時はもとより震災時においても監視体制がとれるよう、各種の安全予防対策を講じる。 放射性物質等のうち、核物質の保管状況等の情報については、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」に基づき国が把握しているが、治安対策上の理由から国からの情報提供は行われていない。都では、火災予防条例に基づく届出により東京消防庁が消防活動に必要な情報を把握しており、関係機関において、必要な情報の共有を図っていく。 機関名 区 対策内容 災害時の情報共有について、東京消防庁・消防署等関係機関との連携に努めていく。 機関名 東京消防庁・消防署 対策内容 事業所防災計画の作成指導 機関名 都福祉保健局 対策内容 RI管理測定班を編成し、地域住民の不安除去に努める。 機関名 都総務局、都福祉保健局、都産業労働局 対策内容 監視体制の強化、法制上の問題、災害時の安全対策等について協議 関係各局がそれぞれのRI対策を推進 (2)詳細な取組み内容 【実施主体】東京消防庁・消防署 東京消防庁・消防署は、放射線等使用施設を有する事業所の震災時の安全性確保のため、都震災対策条例に基づく事業所防災計画の作成を指導する。 第2 応急対策 1 情報連絡体制 2 区民への情報提供等 3 放射線等使用施設の応急措置 4 核燃料物質輸送車両等の応急対策 放射性物質の運搬中の事故及び放射性物質による広域的災害が発生し又は発生するおそれがある場合における、使用者への必要な措置の要請、または応急対策について必要な事項を定める。 1 情報連絡体制 (1)対策内容と役割分担 放射性物質等による影響が生じた際に、円滑かつ的確に対応できる体制を整備する。 機関名 区 対策内容 放射線等対策本部により対応体制を強化 機関名 都 対策内容 放射能対策チーム等を設置 (2)詳細な取組み内容 【実施主体】区災対都市整備部、区災対統括部、区災対教育部、区災対保健福祉部等 ①世田谷区の体制 放射線等対策本部により、放射性物質の諸課題に対する庁内での検討体制・対応体制を強化する。 本部長  区長 副本部長 副区長、教育長 構成員  全部長 2 区民への情報提供等 (1)対策内容と役割分担 モニタリング等の実施と、その結果についての情報提供を行う。 機関名 区(災対都市整備部、災対統括部、災対教育部、災対土木部、災対保健福祉部等) 対策内容 放射線量や放射性物質の測定及び検査並びに内容・結果の公表 機関名 都水道局 対策内容 浄水場原水・浄水等の放射性物質の測定及び情報提供 機関名 都下水道局(水再生センター等) 対策内容 下水汚泥焼却灰及び混練灰に含まれる放射能量の測定、情報提供 機関名 都総務局、都生活文化局 対策内容 的確な情報提供・広報 機関名 都環境局 対策内容 大気環境測定局で得られた気象データの提供 都内区市町村等と連携し、焼却施設等における放射能濃度等の測定データを収集 機関名 都福祉保健局 対策内容 被ばく線量の測定等に関する医療情報の提供 保健所において被ばく線量等の測定 空間放射線量や流通食品等の放射性物質の測定と結果の公表 3 放射線等使用施設の応急措置 (1)対策内容と役割分担 放射性同位元素使用者等は、放射性同位元素又は放射線発生装置に関し、放射線障害が発生するおそれがある場合、又は放射線障害が発生した場合においては、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」に基づいて定められた基準に従い、直ちに応急の措置を講じ、原子力規制委員会に報告する。 原子力規制委員会は、必要があると認めるときは、放射線障害を防止するために必要な措置を講じることを命じることができる。 機関名 区 対策内容 関係機関との連絡を密にし、必要に応じ、区民に対する避難の勧告等の措置を実施する。 機関名 警視庁・警察署 対策内容 事故の通報を受けた最寄りの警察機関は、事故の状況把握に努めるとともに、事故の状況に応じて被災者の救出・救護、交通規制等必要な措置を実施する。 機関名 東京消防庁・消防署 対策内容 放射性物質の露出、流出による人命危険の排除を図ることを主眼とし、使用者に必要な措置をとるよう要請する。 事故の状況に応じ、必要な措置を実施する。 機関名 事業者等(輸送事業者、事業者、現場責任者) 対策内容 事故発生後直ちに、関係機関への通報、人命救助、立入制限等事故の状況に応じた応急の措置を講ずるとともに、警察官、海上保安官又は消防吏員の到着後は、必要な情報を提供し、その指示に従い適切な措置をとる。 機関名 国(原子力規制委員会、国土交通省、警察庁、総務省消防庁、海上保安庁、経済産業省、厚生労働省) 対策内容 ①内閣府の対応 原子力緊急事態宣言の発出 原子力災害対策本部の設置 ②各省庁の対応 事故情報の収集、整理及び分析 関係省庁の講ずべき措置(事業者からの通報) 係官及び専門家の現地派遣 対外発表 その他必要な事項 ③派遣係官及び専門家の対応 関係省庁は、事故が発生した場合、現地に係官及び専門家を派遣する。係官は事故の状況把握に努め、警察官、海上保安官又は消防吏員に対する助言を行うとともに、関係各省との連絡を密にしつつ、事業者等に対する指示等必要な措置を実施する。専門家は、関係省庁の求めに応じて、必要な助言を行う。 機関名 都総務局 対策内容 事故の通報を受けた都総務局は、都の窓口として、直ちに区市町村をはじめ関係機関に連絡するとともに、国との連絡を密にし、専門家の派遣要請や区民の避難など必要な措置を講ずる。 機関名 都福祉保健局 対策内容 RI使用医療施設での被害が発生した場合、RI管理測定班を編成し、必要な措置を実施 (2)詳細な取組み内容 【実施主体】区 関係機関との連絡を密にし、事故時には必要に応じ、次の措置を実施する。 区民に対する避難の勧告又は指示 区民の避難誘導 避難所の開設、避難住民の保護 情報提供、関係機関との連絡 原子力災害発生時の対応 区は、警察・消防等防災関係機関と連携し、放射性物質にかかる事故・災害等に関し積極的に情報を収集する。収集する内容は以下のとおりである。 ①事故又は災害発生の時刻、場所 ②事故又は災害の原因 ③放射性物質の種類及び量 ④事故又は災害の範囲及び量 ⑤汚染状況の調査 ⑥気象情報(風向き、風速) ⑦その他必要と認める事項 区民への周知 区は、放射性物質の運搬中の事故及び放射性物質による広域的災害が発生し、又は発生のおそれがあることを知った場合は、直ちに防災行政無線、広報車、緊急速報メール等を活用し、区民に情報を提供する。 避難 第2部「第9章 避難者対策」を準用する。 なお、その際は、国等の専門家等からの助言を得て、状況に応じて風向、風速、天候等に十分留意し、区民の生命、身体を守るために万全を期するものとする。 【実施主体】東京消防庁・消防署 放射性物質の露出、流出による人命危険の排除を図ることを主眼とし、使用者に次の各措置をとるよう要請する。 施設の破壊による放射線源の露出、流出の防止を図るための緊急措置 放射線源の露出、流出に伴う危険区域の設定等、人命安全に関する応急措置 事故の状況に応じ、火災の消火、延焼の防止、警戒区域の設定、救助、救急等に関する必要な措置を実施 放射性物質取扱施設の応急措置 東京消防庁・消防署は、放射性物質の露出、流出による人命危険の排除を図ることを主眼とし、次の各項の活動ができるよう関係者に指導を行う。また、災害応急活動は、第2部第5章第5節第2「2 消火・救助・救急活動」を準用することとする。 ①施設の破壊による放射性物質の露出、流出に伴う危険区域の設定及び被害の拡大防止対策等、人命安全に関する応急措置を実施すること。 ②管理区域外で火災が発生した場合は、防護活動を実施すること。 ③関係機関への連絡方法を確認すること。 ④使用者に対して必要な措置を要請すること。   4 核燃料物質輸送車両等の応急対策 (1)対策内容と役割分担 核燃料物質の輸送中に、万一事故が発生した場合のため、国の関係省庁からなる放射性物質安全輸送連絡会(昭和58年11月10日設置) において安全対策を講じる。 機関名 区 対策内容 関係機関と連絡を密にし、必要に応じ、区民に対する避難の勧告等の措置を実施 機関名 警視庁・警察署 対策内容 事故の状況把握及び都民等に対する広報 施設管理者等に対し、被害拡大等防止の応急措置を指示 関係機関と連携を密にし、事故の状況に応じた交通規制、警戒区域の設定、救助活動等必要な措置 機関名 東京消防庁・消防署 対策内容 事故の通報を受けた旨を都総務局に通報 事故の状況に応じ、火災の消火、延焼の防止、警戒区域の設定、救助、救急等に関する必要な措置を実施 機関名 事業者等 対策内容 関係機関への通報等、応急の措置を実施 警察官等の到着後は、情報を提供し、指示に従い適切な措置を実施 機関名 原子力規制委員会、関係省庁 対策内容 放射性物質輸送事故対策会議の開催 派遣係官及び専門家の対応 機関名 都総務局 対策内容 事故の通報を受け、直ちに関係機関に連絡 国への専門家の派遣要請や住民の避難等の措置 (2)業務手順 *図表省略 (3)詳細な取組み内容 【実施主体】区 ①事故情報の収集・連絡 都総務局と連携し、事故の状況、事業者及び関係機関の応急対策の活動状況等の情報を収集する。 ②事故の対応 区長は、応急措置を実施するために必要があると認めるときは、知事に対し自衛隊の派遣要請を行う。 事故の状況に応じて速やかに職員の非常参集、情報収集連絡体制及び区本部の設置等、必要な体制をとるものとし、機関相互の連携を図る。 国が原子力緊急事態宣言を発出し、原子力災害対策本部及び現地災害対策本部を設置した場合、区本部を設置し、必要に応じて次の措置を講ずる。 退避・避難収容活動 緊急輸送活動 事故状況の情報収集、被害状況の調査 各種規制措置と解除(飲料水・飲食物の摂取制限等) 区民の健康調査 関係機関と連絡を密にし、事故時には必要に応じ、次の措置を実施する。 区民に対する避難の勧告又は指示 区民の避難誘導 避難所の開設、避難住民の保護 情報提供、関係機関との連絡 第3 復旧対策 1 保健医療活動 2 放射性物質への対応 3 風評被害への対応 1 保健医療活動 (1)役割分担と対策内容 放射性物質及び放射線による影響を考慮し、原子力災害時における都民の健康に関する不安を解消するため、必要と認められる場合は、次の保健医療活動を行う。 機関名 区(災対医療衛生部、災対教育部、災対保健福祉部、災対都市整備部) 対策内容 健康相談に関する窓口の設置 機関名 都福祉保健局、都病院経営本部 対策内容 健康相談に関する窓口の設置等 保健所、都立病院において外部被ばく線量等の測定 2 放射性物質への対応 (1)役割分担と対策内容 機関名 区、都各局 対策内容 除染等の必要性を検討し、必要に応じて対応を行う。 (2)詳細な取組み内容 放射性物質による環境汚染に関する国の対処方針や都内の状況等を踏まえ、空間放射線量の測定、除染等の必要性を検討し、必要に応じて対応を行う。   3 風評被害への対応 (1)役割分担と対策内容 風評等により農作物や工業製品等が購入されず経済的な被害が生じる。 このような風評被害を防ぐために、正しい情報を把握し発信する。 機関名 区 対策内容 区民の安全確保のための正確な情報提供 区内の産業・経済への影響を防ぐための正確な情報提供 機関名 都産業労働局 対策内容 都内産農林水産物等の放射性物質検査を定期的に実施するとともに、都民に対して情報提供 海外のメディアや旅行事業者に対して、東京の安全性や魅力をPR 工業製品の放射線量測定試験を実施して検査証明書を発行する等、製品の安全性のPRに努める。 機関名 都中央卸売市場 対策内容 摂取又は出荷が制限・自粛された食品の流通を防止 卸売市場を流通する生鮮食料品の安全性のPR及び正確な情報の提供