資料6 子ども・若者部保育の質向上担当副参事 子ども・若者部保育課 世田谷区区立保育園における事例検証委員会の検証結果及び今後の区の取組みについて 1 主旨 令和5年5月31日の子ども・若者施策推進特別委員会において報告した「区立保育園における事例検証委員会」を令和5年5月より全4回開催し、8月25日に報告書が提出された。  このたびの検証委員会における検証内容と、検証委員会の提言を受けた今後の区の取組みについて報告する。 2 検証委員会の開催状況等 検証委員会は、児童福祉審議会保育部会委員のうち、保育の知見を有する委員と外部の学識経験者を委員とし、令和5年5月から全4回開催した。 (1) 委員構成 (五十音順 敬称略) 氏名 所属 委員長 天野 珠路 鶴見大学教授 委員 井上 眞理子 洗足こども短期大学教授 委員 宮ア 豊 玉川大学教授 (2) 開催状況 日時・場所 検討内容 第1回 令和5年5月26日(金)区役所第一庁舎 ・委員長の互選、検証委員会の概要等 ・本件事例の背景や課題について ・園や保育課の組織的対応の課題について 第2回 令和5年6月19日(月)区役所第一庁舎 ・課題を抱える職員への対応について ・園や保育課の組織的対応の課題について ・再発防止策について 第3回 令和5年7月18日(火)区役所第二庁舎 ・再発防止策について ・報告書案について 第4回 令和5年8月25日(金)区役所第一庁舎 ・報告書の取りまとめ 3 検証結果報告書(概要) (1) 検証委員会における議論と主な意見 検証委員会では、今回の事案が引き起こされた背景や課題を抱える職員への対応、保育園や保育課の組織的対応の課題について、それぞれ検討を行った。 @性嗜好障害や小児性愛者の傾向と理解 今回の事案は、当該保育士の特性によって引き起こされた側面が強いことから、検証にあたっては性嗜好障害や小児性愛者の一般的傾向の把握と特性の理解に努めた。性嗜好障害等の一般的な特徴として、自己都合の優先、自身の解釈による認知の歪み、わいせつ行為を目的としたグルーミング(性的な手なずけ)などがあげられるが、今回の事案でも、そうした特徴の一致が見られた。なお、男性で5%、女性で1〜3%の割合で傾向があると言われており、生涯行動に移さない人もいる。  そのような点を踏まえ、検証委員会では、職員の行動に周囲が少しでも違和感を覚えた際、その兆候を見逃さないための取り組みの強化や、医療機関へのさりげない促し等の適切な対応の必要性が指摘された。その上で、子どもへの有害な行為に至る前の相談体制の充実や、職員に対する嫌疑への対応として、当該職員の人権に配慮した対応等について具体的に検討しておく必要があるとの意見があった。 A課題を抱える職員への対応について 当該保育士は、今回の嫌疑とは別に過去に勤務していた園で2回のわいせつ行為の嫌疑があった。いずれも確定的な事実が確認できなかったことや当該保育士の日頃の勤務態度等から、子どもへ一人で関わらないとする対応を取った上で、保育園での勤務を継続させていた。  検証委員会では、過去に同じ職員に2回も嫌疑があったことや、嫌疑があった際の職員への聞き取り等で懸念された職員からの意見等を踏まえ、当該保育士の行動をより注視し対応する必要があったという意見のほか、身体接触を伴う保育の実施方法の検証や職員の適性に合わせた人事配置の必要性等の意見が出された。 B園や保育課の組織的対応の課題について 当該保育士の過去2回の嫌疑を受け、園長間では当該保育士を「気になる職員」として午睡や着替えの援助に一人で従事させないことを引継ぎ事項とし、保育課とも共有していた。しかし、最初の嫌疑以降、確定的な証拠がない中、即時に保育園勤務から当該保育士を外すという判断ができなかったことや、保育課も定期的に園の状況を確認していなかったことから、結果として2回目、3回目の嫌疑へと繋がってしまった。  検証委員会では、今回の事案を受け、わいせつ嫌疑は即時に警察へ相談することとした点は評価するとともに、園長を中心とした保育園職員の気づきの感度を向上させることの重要性や、子ども自らが自分を守り自分と他者を大切にする思いを育むための取り組みの重要性に対する意見が出された。 (2)検証結果と検証委員会からの提言 検証委員会からは、今回の事例検証の結果、本件事案の背景にある4項目の要因の指摘と、区が取り組むべき5項目の再発防止策の提言を受けた。  @検証で明らかとなった要因 ア 保育園の体制や環境 保育園では、当該保育士の過去の嫌疑を受け、当該保育士が一人で園児に対応しないこと等を取り決めていた。しかし、新型コロナウイルスの影響等により一時的に職員体制が手薄になっていたこともあり、一人で子どもに対応する場面や死角が生じていたほか、周囲に他の職員がいたが、当該保育士の行動に疑問を持てなかった。また、同一職員による複数回にわたる過去の嫌疑に対し、周囲の認識の甘さがあった。 イ 当該保育士個人の課題 当該保育士の様子について、特定の保護者との距離の近さや園児への接し方に差が大きいと感じていた職員がいたが、周囲から一定の信頼を得ていたために嫌疑後も保護者からの苦情はほとんどなかった。当該保育士は、特定の数人の子どもとの距離が特に近く、スキンシップは保育士にとって必要な行為という思いを強く持っていた。 ウ 保育園内での人間関係等 保育園では、同僚職員が当該保育士の言動に疑問を持っても指摘ができる風通しの良い環境ではなかった。平成29年の1回目の嫌疑以降、園長や副園長は機会を捉え保育や保護者対応に対する指導を行っていたが、改善までには至らなかった。さらに、休職者がいたことや感染症対応等で職員全体にゆとりがなく、周囲に目を配るだけの余裕がなかった。 エ 区立保育園の運営者である保育課の対応 過去2回の嫌疑があったものの確定的な証拠がなく、3回目の嫌疑が起きるまで当該保育士を保育園勤務から外すことをしなかった。また、嫌疑に対する確証がない中、園長等がどのように対応すべきかが明確でなく、運営が園長の判断に任せていた。園からの報告や保護者からの苦情により、課題のある職員としての認識はあったものの、機会を捉え、園からの追加報告を求めることや定期的に様子を聞き出す等の対応を行っていなかった。 A再発防止策の提言 ア 子どもの人権擁護の再徹底 ・区立園に勤務する全職員が、自身の保育を振り返るとともに相互に気づきを伝え合うなど、客観的な視点も取り入れながら、各園の取り組みを区立園内で共有する機会を設ける。 ・私立園も含めた他園の好事例を参考に、区内保育施設全体として子どもの人権への意識を高め、保育の質の向上をはかる。 ・平成27年に策定した保育の質ガイドラインの見直しの必要性を検討する。 ・子ども自身が自分を大切にし、自分を守ることができるようプライベートゾーンに関する意識を高め、知識を得られる取り組みを進める。あわせて保育士自身が、子どもに対し的確に分かりやすく伝えるための知識等を習得し、さらなるスキル向上を図る。 イ 研修のさらなる充実 ・職員の多様性や相互理解につながるための研修内容を検討し、実施する。 ・勤務経験に応じた様々な階層別の研修を実施し、職員が最新の保育動向を学び、保育の質向上のための機会を提供する。 ・研修の実施が保育の実践につながっていることが分かるよう、成果を可視化する。 ウ 職員採用時の工夫 ・子どもの命を預かる保育園という施設の特性を重視し、保育の提供にあたり課題が見られる職員については、本人の適性に合わせ保育園以外の職場への配置を検討する。 ・職員の条件付採用期間中に園長との面接を十分に行い、職員の適性を見極める。 ・人事関係は区全体の制度に関わることであるため、関係部署等と連携し取り組みを進める。 エ 園長等の管理監督者の責務 ・園長が職員の特性や経歴等に関心を持ち、積極的に情報を収集し職員理解を深める。 ・職員と適切に情報を共有し、直接言いにくいことも伝えられる方法を用意することで、風通しの良い職場環境を構築する。 ・リスクに係る気づきの感度をあげ、事故や虐待(不適切な保育)に関するヒヤリハットの共有や他園の園長と連携して課題に対応できる関係を構築する。 ・園長が園運営に集中し、保育士が自分の役割や能力を発揮できるよう、保育課と連携し職場の環境を整える。 オ 保育園職員への適切な支援 ・本件を受け、保育園に勤務する職員の士気低下が懸念されることから、各保育園で活躍し世田谷の保育を支えている職員に対し、適切な支援を行う。 ・園職員が働きやすい職場となるよう、保育園に勤務する職員の意見を聞き取りながら職場環境を整えていく。 4 今後の区の取組み 検証委員会での検証結果と再発防止策の提言を受け、再びこのような事案を引き起こさないため、以下のとおり取り組みを進める。 (1) 子どもの人権意識のさらなる向上 令和2年度の区立保育園での虐待(不適切な保育)を受け、子どもの人権意識向上に対する取り組みを全区立保育園で進めていた。その中で今回の事案が引き起こされたことは、これまでの取り組みが職員一人ひとりに浸透していたとは言い難い。保育課主導により人権意識を高めていくことは必要であるが、職員自ら意識を向上させることが最も重要である。保育園職員の勤務に過度な負担がかからない範囲で、今回の事例についての話し合いを行うなど、各園で職員同士の人権意識向上の取り組みを進めるとともに、人権意識向上に向けた職層別の研修の充実や私立保育園との交流研修等による区立園職員の視野の拡大を進める。 また、区の保育の基本的な指針となる保育の質ガイドラインについても、策定後10年が経過することから、改めて子どもの人権に一層配慮した記載の検討や、直近の保育園の状況を踏まえた見直しの検討を進める。さらに、子ども自身が自分を大切にできるよう、日頃の保育の中で子どもに分かりやすい形で人権に関する内容を伝えていく。 (2) 職員研修の充実 保育園職員に対する研修はこれまで様々取り組んでいるが、今回の事例を受け、子どもの人権にかかる研修や小児性愛等職員の理解に資する研修、研修受講の機会が少ない職層に対し、保育の先進事例や自身の知識の更新につなげる研修等の充実を図る。今後は、単に研修を受講するだけでなく、研修受講の成果が自身や自園の保育の向上につながっていることを共有できる機会を設ける。本事案については、既に、本年7月の区立園長会、9月の私立園長会時に小児性愛等に関する研修を実施した。また、8月に開催した臨時園長会では、本件事例をすべての区立園長へ共有し、園長同士での話し合いにより自園の課題等の再確認と共有を行った。 (3) 職員採用に関する取り組み 区立保育園での勤務希望者の採用面接時に、子どもの人権に関する考え方を把握できるよう質問を充実させる。これまでの採用面接時の質問事項に加え、具体的な事例等を盛り込む等の方法を取り入れることを検討する。また、採用後の条件付採用期間中、園長が職員とのヒアリング等を通じ、勤務態度、子どもや同僚職員への対応、保育への思い等を見極め、職員としての適格性の判断につなげる。保育園での勤務継続に重大な支障が生じる恐れがある場合は、保育課長や園長による本人とのヒアリングを重ね、条件付採用期間経過後の正式採用の見送りを検討する。 (4) 園長等の管理監督者の責務向上 今回の事案では、保育園の運営にあたり園内での情報共有や保育課との連携に課題が見られた。園長は職員との情報共有を密にし、職員が意見を言いやすい環境となっているかを再確認する。園長や副園長が園の課題を抱え込むことがないよう、年2回の定例ヒアリング以外にも、個別に園運営に関する情報を共有できる機会を設ける。特に課題を抱える職員の情報については、適宜保育園と共有をはかり、園長と職員とのヒアリング結果を踏まえ、状況に応じ本人の適性にあわせた職員配置を行う。その際、職員の人権に配慮し、職員自身からも適切に聞き取りを行う。  また、保育課が職員からの意見を随時聞き取ることができる制度について、保育士だけでなく全職種にも再度周知徹底させ、保育園と保育課の風通しの良さを一層向上させ、関係性の強化に努める。 (5) 保育園や職員支援の充実 令和5年度の組織改正により区立保育園園長経験者の副参事を2名配置し、園の運営支援を専門とする担当係を設けるなど、保育園の支援充実をはかっている。園長だけでの解決が困難と思われる課題があった際には、運営支援の担当だけでなく、状況に応じ副参事を含めた保育課職員が直ちに園を訪問し、園長等から聞き取りを行い迅速な対応に努めている。引き続き、保育の質向上担当副参事を中心に、園長等の支援を行うとともに、支援が必要性な園に対してはサポート訪問等を臨時的に行うなど、さらなる園支援を充実する。 5 今後のスケジュール(予定) 令和5年9月以降 保育の質ガイドラインの見直しに向けた事前検討保育施策推進会議(学識経験者を交え、保育の質向上、人材育成等について検討する。) 研修内容の見直し職員採用に関する取り組みの実施