(資料配布) はじめに 子どもサポート委員 半田 勝久 「せたホッと」の活動と子どもの権利条約の一般原則 「せたホッと」の活動は、子どもの権利条約の理念に基づいて実践されています。 ケース対応においていつも立ち返って考えることは、子どもの権利条約の一般原則です。 第2条 差別の禁止 第3条 子どもの最善の利益 第6条 生命、生存および発達への権利 第12条 子どもの意見の尊重 第2条に関しては、この相談の背景に差別はないのか、たとえばいじめの相談の場合、子どもまたは親の人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的、民族的もしくは社会的出身、財産、障がい、出生またはその他の地位が影響していじめられていないか、また実際に差別によるいじめがあった場合、そこから守られるためあらゆる適当な対応がなされているのかといった視点です。 第3条に関しては、家庭、保育所、施設、学校、放課後の居場所等における子どもにかかわるすべての活動において、子どもの最善の利益が第一次的に考慮されているのか、また子どもに対してその福祉に必要な保護およびケアが確保されているのかといった視点です。 第6条に関しては、虐待や体罰といった暴力から生命が危険にさらされていないか、発達段階や発達の個人差が考慮された対応や支援等が実践されているのかといった、子どもの生命への権利が認められ、生存および発達を可能なかぎり最大限に確保されているのかといった視点です。 第12条に関しては、条約では「自己の見解をまとめる力のある子どもに対して、その子どもに影響を与えるすべての事柄について自由に自己の見解を表明する権利を保障する。その際、子どもの見解が、その年齢および成熟に従い、正当に重視される。」(国際教育法研究会訳)とされており、たとえば自分の居場所や進路選択、家庭や学校での決まり事などの決定にあたって、子ども自身の見解が重視されているのか、その決定過程に子ども自身の参加が保障されているのかといった視点です。 子どもの面談と親の面談 「せたホッと」における子どもとの面談では、子どもの現状や気持ちをできる限り子ども本人から丁寧に聴き取り(書面等でのやり取り含む)、現在起きている問題やその解決の糸口について把握したうえで、子どもが何に苦しんでいるのか、どういう気持ちでいるのか、どういった方法で子どもの気持ちを尊重していけばよいのか本人とともに考えていくことを心がけています。 親からの相談がある場合は、まずは相談してくれたことに感謝し、提供いただいた情報を整理するとともに、感情を受けとめる姿勢で話をうかがいます。 情報が混乱していることや、「怒り」「哀しみ」「不安」「不信」「苛立ち」といった感情があふれ出ていることもあります。 関係当事者からの納得のいかない対応が続き、子どもが傷ついている場合は、なおさらそうなることは当然だと思います。 親のこれまでの苦しみ、我慢、疲労、やるせなさ、納得いかない気持ちなどに思いを馳せ、共感的に話を受け止めます。そのうえで、子ども自身の気持ちに寄り添った対応をしたいことをお伝えします。 「子どもの意見の尊重」に基づく、対応をするためです。 ここで、子どもに出会うことができず、親からのみ話をうかがうこともあります。 そうした場面では、親から「子どもには相談していることを伝えていない」「子どもは親には動いてほしくないと言っている」「子どもは傷ついていて話をできる状態ではない」「子どもは塾や習い事もあり忙しくて話にいく時間をつくれない」「子どもの気持ちを代弁している」などといった話がしばしば聞かれます。 そうした場合、引き続き親から丁寧に話をうかがい、子どもとつながることができる機会を待つことになります。 子どもから直接話を聴けると、親と子どもの思いが一致している場合と、思いにズレがあり解決イメージが異なる場合もあります。 「せたホッと」が学校など関係機関等に訪問する場合は、子どもの気持ちを尊重し、親と解決イメージを共有することを大切にしていきます。 関係機関等への訪問 教職員など関係当事者から当該問題の経緯や現状を確認するときには、関係当事者に是正要請することを前提とせず、ともに解決につなげたいという姿勢で話し合いを進めることになります。 問題が生じた場面などをふり返り、このとき起きた事象をどのように捉えているのか丁寧に話をうかがいながら、子どもの気持ちと関係当事者の思いとのズレを把握します。 そして、子どもはそのときどういった気持ちであったか、今どういった気持ちでいるのかを代弁していきます。 関係当事者はこうした子どもの気持ちにとても驚かれ、場合によってはボタンの掛け違いにショックを受けられることもあります。 そのうえで、関係当事者の気持ちを受け止めながらズレを修正し、関係を修復するための方法などについて検討していきます。 そこで重要になるのが、「子どもの最善の利益」を第一次的に考慮することです。 解決のためにできること、やらなければいけないことなどを検討いただき、それをもとに相談者である子どもにフィードバックします。 親ともその内容を共有するなかで、子ども自身の気持ちの整理や解決につながったかを確認し、子ども自身が「もう大丈夫」「相談してよかった」と思えるようになるまで支援を続けます。 その後も安心して過ごしているのかなど見守り支援をしていきます。 調査・調整と「せたホッと」の役割 申立てになり、調査を行う場合も、調査のなかで明らかになったことをもとに権利回復のための調整を行っていきます。 「せたホッと」における、権利侵害行為の事実認定は、裁判とは違い限界があります。 「せたホッと」は事実認定をして、相手を罰したり、処分したりする権限を持っているわけではありません。 子どもの傷ついた気持ちや苦しい思いをもとに、そうした状況になった背景を整理し、権利侵害行為があったと認められる場合は是正を要請し、権利侵害とはいえない場合であったとしても、子どもの置かれた状況を改善につなげるよう執行機関や関係当事者などに働きかけていくことが「せたホッと」の役割といえます。 制度改善への取り組み 「せたホッと」は申立て案件や自己発意案件を取り扱った結果、権利侵害の状況が引き起きる要因が、既存の制度や仕組みにあると認められる場合は、制度見直しや改善のための要請や意見表明等を行うことができます。 意見を表明し、教育委員会事務局や区長部局、関係機関等と対話を深めるなかで課題が共有されることにより、制度や仕組みを子どもの権利の視点から見直し、推進できるよう後押しする役割も担っています。 子ども・おとな向けの子どもの権利の普及啓発活動 「せたホッと」では、出前講座という名称で、小学校・中学校問わず各所で講座を行っています。 内容は、依頼のあった学校等と打ち合わせをしながら決めていき、これまで「いじめ予防授業」、「セーフティ教室」、「家庭での子どもの権利(ヤングケアラー)」といった講座を実施してきました。 子どもを対象としたものの他、保護者や地域住民、関係機関等を対象としたものも行っています。 こうした講座は、「せたホッと」の周知だけでなく、子どもの権利の普及啓発につながっています。 講座を実施するにあたり、学校や依頼者との打ち合わせを丁寧に行うことにより、学校等の抱える課題解決の一助となっています。 子どもにとっては、自分や他者を尊重する気持ちの醸成、さらには自己実現につながっているように感じています。 あらたに始めたはがき相談 令和3年度の活動では、子どもにやさしいやり方で相談を受けられるよう「はがき相談」を始めました。 はがきを含めた手紙の相談は、子どもから76 件ありました。 「せたホッと」から返信する際には、あらたにはがきを同封します。 子どもからはまたはがきをもらったり、やり取りを繰り返すなかで、電話や面談につながったりしたこともありました。 こうした鉛筆で書く相談方法は、自分専用のスマートフォンやパソコンを持たない子どもにとっては有効であることが分かりました。 「せたホッと」の成果と課題を踏まえて 開設9年が経過した「せたホッと」では、これまでの成果を確認するとともに、課題を整理し、10年目の活動に生かそうとする取組みを始めました。 「せたホッと」のような子ども条例に基づく子どもの相談・救済機関は全国で約40自治体となりました。 国においては、こども家庭庁の設置やこども基本法案の検討、さらにはこどもコミッショナーについても議論されています。 こうした「せたホッと」の活動が、広く社会に還元され、子どもの権利条約に基づいた子どもの相談・救済機関の広がりや子どもの権利の普及啓発につながることを願っています。 世田谷区子どもの人権擁護委員「せたがやホッと子どもサポート」の制度 1子どもの人権擁護委員(以下、子どもサポート委員) の設置目的、職務 (1)設置目的 子どもの人権を擁護し、権利を侵害された子どものすみやかな救済を図るため。 (2)位置づけ 地方自治法第138条の4第3項に基づく区長及び教育委員会の附属機関 (3)職務内容 1子どもの権利の侵害についての相談に応じ、必要な助言や支援をすること。 2子どもの権利の侵害についての調査をすること。 3子どもの権利の侵害を取り除くための調整や要請をすること。 4子どもの権利の侵害を防ぐための意見を述べること。 5子どもの権利の侵害を取り除くための要請、子どもの権利の侵害を防ぐための意見などの 内容を公表すること。 6子どもの権利の侵害を防ぐための見守りなどの支援をすること。 7活動の報告をし、その内容を公表すること。 8子どもの人権の擁護についての必要な理解を広めること。 2委員への協力 ・区の機関は、委員の設置の目的を踏まえ、その職務に協力しなければならない。 ・区民や区以外の機関は、その職務に協力するよう努めなければならない。 3対象 18 歳未満の子どもの権利侵害にかかる事案(子どもに準ずる場合として18歳又は19歳で高等学校等に在学等している場合も対象) 4体制(令和4年3月現在) (1)子どもサポート委員3名 つきだ みづえ 昭和女子大学 名誉教授 佐伯栄養専門学校 非常勤講師 (子ども家庭福祉) はんだ かつひさ 日本体育大学体育学部准教授 (教育制度学、教育法学、情報科学、子ども支援学) ひらお きよし 弁護士 (第二東京弁護士会) 各委員の独任制を原則とする。 要請、意見表明等の際は、より慎重を期すために、委員間の協議により対応する。 子どもの権利侵害の事案には、区立学校で発生したものや、保育所、児童館など学校以外の区の機関で起こったもの、あるいは私立学校、職場、家庭で起こったものなど、多岐にわたることが想定される。 こうした事案に対して、区長部局と教育委員会が一体となって区全体で子どもの権利侵害に関する救済等に取り組んでいくことを明確にするため、両執行機関の附属機関として共同設置した。 (2)相談・調査専門員5名 子どもサポート委員を補佐し、相談対応や関係機関との連絡、調整等を行う。 社会福祉士、精神保健福祉士、臨床心理士、公認心理師、幼稚園教諭、保育士、中学校教諭、高等学校教諭、キャリアコンサルタントの有資格者など。 (3)事務局 子どもサポート委員の補佐、区組織との連携・調整等を行う。 子ども・若者部子ども家庭課 5相談方法等 (1)相談方法 電話:0120-810-293〔フリーダイヤル〕 メール・ファックス 区ホームページで「せたホッと」を検索 ファックス 03-3439-6777にファックス送信 面接 予約なしの相談も可 その他 手紙、はがきによる相談も可 (2)相談時間 月曜日〜金曜日 午後1時〜午後8時 土曜日 午前10時〜午後6時 (日曜日、祝・休日、年末年始はお休み) (3)窓口所在地 世田谷区宮坂3−15−15 子ども・子育て総合センター3階 (小田急線 経堂駅北口より徒歩7分) 6 相談の流れ(仕組み) 7 擁護委員会議 世田谷区子ども条例施行規則第15 条では、「擁護委員の職務執行の一般方針その他の必要な事項を決定するため、擁護委員全員で構成する擁護委員会議を設置する」(1項)とし、擁護委員の互選のもと代表擁護委員を置き(2項)、代表擁護委員が招集し(3項)、非公開とする(4項)と規定しています。 案件への対応は各委員の独任制を基本としていますが、会議ではそれぞれの専門分野から子どもの最善の利益実現のためにどのようにしていけばよいのか検討します。 申立て案件や発意案件に関しては擁護委員の合議で方針を決めています。 令和3年度は計24回開催しました。 個別ケース対応に関する検討は、会議開催日以外にも随時行っています。 8 これまでの経過 平成14年4月 (2002年) 子ども条例施行 平成17年3月 (2005年) 子ども計画策定、教育ビジョン策定 平成23年12月 (2011年) 区立校の小学5年生及び中学2年生約2,600人を対象に「子どもの生活と人権意識」に関する調査を実施 平成24年5月 (2012年) 子どもの人権擁護の仕組み検討アドバイザー会議を設置、新たな制度の具体的検討に着手 10月同会議にて「子どもの人権擁護の仕組み検討まとめ報告」とりまとめ 12月子ども条例を改正し、第三者機関として子どもの人権擁護委員を位置づけ 平成25年2月 (2013年) 子どもの人権の擁護と救済を考えるシンポジウム「新たな第三者機関の設置に向けて」開催(成城ホール) 4月改正子ども条例を施行、せたがやホッと子どもサポート(せたホッと)設置 7月区立子ども・子育て総合センター(宮坂3-15-15)にて相談業務を開始 平成26年6月 (2014年) 「平成25年度活動報告書」を発行 7月平成25年度の活動報告会を開催(成城ホール) 平成27年3月(2015年) 区立学校の通常学級での特別支援教育に関する意見を表明 6月「平成26年度活動報告書」を発行 7月 平成26年度の活動報告会を開催(北沢タウンホール) 平成28年6月 (2016年) 「平成27年度活動報告書」を発行 7月 平成27年度の活動報告会を開催(北沢タウンホール) 平成29年6月 (2017年) 「平成28年度活動報告書」を発行 7月 平成28年度の活動報告会を開催(子ども・子育て総合センター) 平成30年6月 (2018年) 「平成29年度活動報告書」を発行 7月 平成29年度の活動報告会を開催(子ども・子育て総合センター) 令和元年6月 (2019年) 「平成30 年度活動報告書」を発行 7月 平成30年度の活動報告会を開催(子ども・子育て総合センター) 令和2年6月 (2020年) 「令和元年度活動報告書」を発行 令和3年6月(2021年) 「令和2年度活動報告書」を発行 10月 令和2年度の活動報告を動画により配信 令和3年度の活動状況 1 相談活動の状況 令和3年4月1日から令和4年3月31日までの相談活動の状況は、令和2年度からの相談継続件数を含め、以下のとおりです。 (1)相談の状況 令和3年度の新規件数は300件でした。 令和2年度からの継続件数は66件だったため、令和3年度は、合計で366件の相談対応をしました。 令和4年度へ継続する件数は74件になりました。 (2)令和3年度の新規件数 令和3年度の新規件数、300 件の月別・相談者別の内訳は以下のとおりです。 (内訳の表) 令和3年度からの継続件数 74件 (3)令和3年度の延べ相談対応数、活動回数 新規件数300件に令和2年度からの継続件数66件を加えた366件について、延べ相談回数1,150回(初回から終了までの間に相談者から寄せられた電話やメールなどによる相談回数)、相談者への活動回数705回(「せたホッと」から相談者に対して連絡を行った回数)、関係機関との活動回数398回(学校や区の他部署等とのやり取りを行った回数)、そのすべてを合わせた総活動回数は2,253回となりました。 活動回数の中には終了後の見守り対応も含んでいます。 なお、令和2年度の総活動回数は1,599回でした。 前年度からの継続件数66件を加えた366件に対する回数 (4)相談状況の詳細と前年度との比較 1 相談内容 令和3年度の新規の相談内容で最も多かったのは、「対人関係の悩み」(61件、20.3%)でした。 次いで、「いじめ」(45件、15.0%)、「心身の悩み」(35件、11.7%)、「家庭・家族の悩み」(31件、10.3%)、「学校・教職員等の対応」(29件、9.7%)となりました。 令和2年度との比較では、相談件数が増えたこともあり、全体的に増加しています。 特に「いじめ」や「虐待」、「学習・進路の悩み」といった相談が大幅に増加しました。 一方で、「子育ての悩み」や「家庭・家族の悩み」は減少しました。 また、近年は相談が少なかった「セクハラ」の相談が3件となっています。 2 初回の相談者 令和3年度は、子どもからの相談は、「本人」からが193件(64.3%)、「友だち」からが4件(1.3%)でした。 おとなからの相談は、「母親」(84件、28.0%)、「父親」(8件、2.7%)、「祖父母」(2件、0.7%)、「関係機関」(1件、0.3%)となりました。 「関係機関」は「学校」です。 「その他」の内訳は、「クラスメイトの保護者」や「親戚」などでした。 5 相談対象となる子どもの学年 相談対象となる子どもの学年で最も多かったのは、「小学校6年」(39件、13.0%)でした。 次いで、「小学校4年」(36件、12.0%)、「小学校2年」(34件、11.3%)、「小学校3年」(28件、9.3%)となりました。 令和2年度に比べ、「小学校」からの相談が増加しており、中でも「小学校1年」、「小学校2年」、「小学校4 年」、「小学校6年」からの相談が増加しました。 一方で、「高校等」では、全学年の相談が減少しています。 ※「学年不明」は、学年や所属を確認できずにメールや電話での相談を終えたケースや、学年や所属を明かしたくないといった相談が含まれます。 ※「高校等」には、18歳又は19歳で高等学校等に在学および児童福祉施設に在籍している場合も含みます。 6 相談者との相談方法 相談者とのやり取りは、子どもが880回、おとなが975回、合計1,855回でした。 そのうち、相談者からの相談方法で最も多いのは、子どもは「電話」(188回、21.4%)、次いで「メール」(132回、15.0%)でした。 おとなも「電話」(342回35.1%)が最も多く、次いで「メール」(165回、16.9%)となりました。 「せたホッと」から相談者への連絡方法では、子どもに対しては「メール」(134回、15.2%)、おとなに対しては「電話」(202回、20.7%)が、最も多かったです。 令和3年度は、子どもからの「はがき」による相談や、子ども・おとな共に「面接」での相談が大幅に増えました。 一方で、子どもの「メール」での相談が減少しています。 8 初回の相談者が子どもの場合の子どもの学年 初回の相談者が子どもの場合、「小学校2年」、「小学校3年」(24件、12.2%)が最も多くなりました。 令和2年度に比べて、相談件数がほぼすべての学年で増加しました。 ただ、「小学5年」、「高校2年」のみ相談件数が減少しています。 割合としては、「小学校1年」〜「小学校4年」までの小学校低・中学年の相談が増えています。 ※「学年不明」は、学年や所属を確認できずにメールや電話での相談を終えたケースや、学年や所属を明かしたくないといった相談が含まれます。 ※「高校等」には、18歳又は19歳で高等学校等に在学および児童福祉施設に在籍している場合も含みます。 9 初回の相談者が子どもの場合の性別 初回の相談者が子どもの場合における性別の内訳は、女子からの相談(130件、66.0%)が男子からの相談(54件、27.4%)よりも多かったです。 令和2年度に比べて、男子からの相談の割合が減りました。 10 委員・専門員の総活動回数(相談方法別) 相談活動の方法としては、「電話」(1,092回、48.5%)が最も多く、次いで「メール」(620回、27.5%)、「面接」(324回、14.4%)となりました。 令和2年度との比較では、「面接」、「はがき」、「手紙」での相談活動の割合が増えました。 また、「ファックス」(15件、0.7%)での相談活動も増えています。 11 委員・専門員の総活動回数(相談対応先別) 相談対応先としては、「おとな」(975回、43.3%)とのやり取りが最も多く、次いで「子ども」(880回、39.1%)、「関係機関」(398回、17.7%)でした。 令和2年度に比べ、「おとな」が「子ども」を上回りました。 新規件数は、11月(65件)が最も多く、次いで10月(36件)、7月(30件)の順に多く相談がありました。 総活動回数は、11月(318回)、3月(273 回)、12月(229回)の順に多く活動しました。 2 権利の侵害を取り除くための申立て等 令和3年度は、世田谷区子ども条例19条に基づく権利侵害を取り除くための申立てはありませんでした。 3 相談方法と内容の分析 相談方法の分析 令和3年度の新規相談件数は300件でした。 令和2年度からの継続件数66件をあわせると、総相談件数は366件でした。 令和元年度から新規相談件数は減少傾向でしたが、令和3年度では子ども・おとなともに新規相談件数が増加しました。 要因としては、子どもに関しては、令和3年度から実施を開始した、はがき相談によるものが大きいです。 実際に、令和3年度の初回の相談方法では、子どもで最も多かったのが「電話」(83件、42.1%)、次にはがき相談が分類される「はがき」(73件、37.1%)となりました。 令和2年度の初回の相談方法では、「はがき」や「手紙」が0件だったことを考えると、新規相談件数増加の大きな要因であることがわかります。 特に、小学生に対して配布した11月は、新規相談65件のうち「はがき」が43件となっており、はがき相談が小学生の重要な相談方法であると言えます。 NTTドコモ モバイル社会研究所による「2021年親と子の調査」では、携帯電話未所有の割合が「小学生低学年(小1〜小3)」は73%、「小学生高学年(小4〜小6)」は48%という結果を示しています。 小学生全体の半数以上が携帯電話を所持していないことから、小学生が電話やメールで相談するとなった場合、保護者の携帯電話や家庭の固定電話、公衆電話を使用することになります。 家庭の固定電話や公衆電話は減少傾向になっており(「令和3年度版情報通信白書」)、必然的に子どもが使用する頻度も減っていると考えられます。 保護者の携帯電話で相談となると、相談事が親に知られるのはもちろんのこと、使用するタイミングが限られており、子どもが相談したいときに電話やメールでの相談ができません。 子どもが自分のタイミングで、思ったことや 相談したいことを書けるという点で、はがき相談が小学生の相談方法として有効だったと考えられます。 一方で、メールでの相談割合が減少しています。 初回の相談方法でも、その後のやり取りにおいても減少しており、メールでの相談需要が低くなっていることがうかがえます。 メールでの相談は、中学生・高校生が中心ですが、中学生からの相談は増加、高校生からの相談もほぼ横ばいであることから、中学生・高校生も電話や面接での相談が多くなったと言えます。 東京都都民安全推進本部の「家庭における青少年のスマートフォン等の利用等に関する調査」では、「スマートフォンの主な使用目的」として、「メール」が中学生・高校生ともに約35%であるのに対し、SNS は7割以上と高い割合を示しています。 この点からも、中学生・高校生のメール離れが生じていると考えられます。 SNSの利点として、即座に返事が返ってくるという点が考えられますが、その点においてメールよりも電話や面接が好まれているのではないかと推測されます。 今後は、小学生ははがき相談での相談件数の増加が見込まれますが、中学生・高校生に対してはメールに代わる新しい相談方法の確立が必要となってくると考えます。 また、おとなに関しては、「電話」が86件(83.5%)と最多であり、例年同様、初回での主要な相談方法となっています。 ただ、初回以後のやり取りに関しては、メールや面接での相談方法が昨年度に比べて増えています。 最初は電話で予約を行い、詳しい相談は面接で行いたいという相談者も多くいました。 メールも、面接日の予約調整のために使用するという相談者が多いことから、やり取りの数が増加しているものと考えられます。 相談者の傾向 「せたホッと」への相談は例年、子どもからの相談が約6割を占めており、令和3年度も子どもからの相談が65.7%となりました。 特に、本人からの相談が令和2年度では全体の57.2%でしたが、令和3年度では64.3%まで上がりました。 保護者が「せたホッと」への相談を子どもに勧めた場合もあり、子どもだけでなく保護者にも「せたホッと」の認知度が高まってきていることを感じます。 さらに、令和3年度は「クラスメイトの保護者」からの相談があったのが印象的でした。 当事者からの相談ではないということで、「せたホッと」ができることも限られてしまいますが、子どもの権利侵害に関する出来事の早期発見は重要なことだと考えます。 そのため、子どもだけでなく、おとなに対する広報・啓発活動も重点的に行っていこうと思います。 相談対象となる学年では、全体では「小学校6年」が最も多く、次は「小学校4年」でした。 一方で、初回の相談者が子どもの場合は、「小学校2年」と「小学校3年」が最も多くなりました。 このことからも、小学校低学年の子どもからの相談が増えていることがわかります。 これは、前述したはがきによる相談数の増加が主な要因であると考えられます。 相談内容の分析 令和2年度の活動報告書では、新型コロナウイルス感染症の影響で、学校に関係する相談が減少したと分析しました。 文部科学省は、いじめの認知件数が10万件近く、暴力行為が1万3千件近く減少したと報告しています。 その要因として、新型コロナウイルス感染症の影響により、「生活環境が変化し、児童生徒の間の物理的な距離が広がったこと」や「様々な活動が制限され、子供たちが直接対面してやり取りをする機会やきっかけが減少したこと」などをあげています。 一方で、令和3年度では、「いじめ」や「対人関係の悩み」など、子ども同士の関係性に関する相談が増加しています。 特に、「いじめ」は相談全体の15%を占めました。 国立成育医療研究センターでは、「コロナ×子どもアンケート」として、子どもおよびその保護者のコロナ禍での心の実態について、アンケート調査をしています。 その「第7回調査報告書」において、小学校低学年の25%が「すぐにイライラしてしまう」と回答しており、1つでもストレス反応を示している子どもが71%いたことを報告しています。 新型コロナウイルス感染症によるストレスは、子どもに大きな影響を及ぼしており、物理的な距離を保つなどといった予防対策も限界に近づいてきている可能性もあり、子ども同士のトラブルが増えたものと考えられます。 また、その対策を実施している学校も対応に苦しんでいるのではないかと推測されます。 こうした中で、「せたホッと」のような中立的な第三者機関が関係調整を行っていくことは、学校での問題解決の一助になると考えます。 また、令和3年度では、「虐待」の相談件数も増加しました。 令和2年度からは倍以上、過去8年間で最も多い件数になっています。 世田谷区児童相談所は、令和2年度の虐待相談対応件数として、1,525件と令和元年度に比べ増加していることを示しており、世田谷区での虐待の認知件数が増加しているといえます。 令和3年度の活動報告書では、相談件数の減少の要因について、子どもと保護者が家の中で一緒に過ごす時間が増えたことで、保護者と子どもの間でコミュニケーションが増え、「せたホッと」に相談するまでに至らなかったということと、子どもが親のことや親に聞かれたくないことを相談しづらくなったのではないかという2つの側面から考察をしています。 特に、「虐待」等の家庭に関する相談は、話したくても保護者が家にいるから話せないといった、子どもにとって相談しづらい環境であったと考えられます。 厚生労働省は、児童虐待相談件数の増加の要因の一つとして「警察等からの通告の増加」を挙げています。 子どもから児童相談所には直接相談できず、家庭に警察が訪問する事態の増加を示していると考えられます。 一方で、令和3年度になると、在宅勤務や外出自粛が緩和された時期もあり、子どもと保護者が離れる時間も多くなりました。 そのため、短い時間でも子どもにとって保護者に知られず相談できる機会が増えたものと思われます。 本来は子どもと保護者のコミュニケーションが増えることは、良いことだと思います。 ただ、現代社会のストレスが多い状況下では、少しの意見の違いからエスカレートしてしまう可能性が高いです。 子どももおとなも、互いに相談できる相手に話をすることで、客観的に物事を見つめ直したり、少し冷静に対応できるようになったりします。 さらに、令和3年度は過去8年間では、1件のみだった「セクハラ」に関する相談が3件ありました。 令和3年度は、「いじめ」、「虐待」、「セクハラ」など、重大な権利侵害の相談が増加しており、子どもの権利救済機関として「せたホッと」の必要性が高まっていると感じます。 今後、新型コロナウイルス感染症が拡大していくか、縮小していくかはわかりません。 その中において、子どもを取り巻くおとなが、より一層子どもの現状を把握し、見守っていく必要があると考えます。 「せたホッと」も子どもが相談できる相談機関として、子どものストレスを緩和していけるように尽力していきたいと思います。 相談対応・調整活動状況 1 事例紹介 ※プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 事例1 【相談内容】 仲良くしていた友だちから急に「ウザい」「友だちの縁を切りたい」と言われたり、無視されたりするようになりました。 担任に相談しても、あしらわれてしまったので、これ以上言っても何もしてくれないと思います。 学校に行かなきゃとは思うけど、つらい気持ちが大きくなってきて、学校を休みたいと思うようになってきました。 どうしたらいいですか。 【せたホッとから】 本人と母親に来所してもらい、委員と専門員で話を聴きました。 学校が好きで、積極的に発言ができ、係の仕事を一所懸命にする、クラスには他にも仲の良い友だちが何人もいる子でした。 本人からは、無視しはじめた友だちに対して、前のように仲良くしなくていいので、嫌なことを言ったり、あからさまに無視をしたりはやめてほしいという希望がありました。 しかし、自分から先生に相談してもわかってくれないかもしれないということなので、「せたホッと」が学校に訪問し、いじめの解消について話し合うことができると伝えると、「第三者の人が話してくれるとわかってくれるかも。お願いします」と言ってくれました。 委員と専門員で学校を訪問し、本人の気持ちや希望を伝えました。 担任は、友だちもたくさんいて、積極的な児童なので、気にしなくていいと励ませば大丈夫だと軽く考えていたようでした。 普段は明るくしていても、心は傷ついていることを伝え、誰も助けてくれない、わかってくれないと苦しんでいたことを受け止めてほしいと伝えました。 学校からは、それぞれの子どもから話を聴き、対策を考えるとの回答があり、校長が直接本人の話を聴いて味方になってくれることや、他のクラスの先生も見守るようにしていきたい、という話がありました。 後日、本人と相手の子との話し合いに副校長と担任が入り、今後どうするかを一緒に考え、お互いに納得するかかわり方をしていこうと約束をしたと、本人から報告をもらいました。 また困ったことがあれば相談してほしいと伝え、相談を終えました。 ※プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 事例2 【相談内容】 担任が、毎日のように大きな声で怒鳴り、授業で問題を間違えると見せしめのようにみんなの前に呼んで怒るようです。 さらには、言うことを聞かない児童は廊下に出すなどもしているようです。 子どもは、自分が怒られているわけではないけれども、自分が怒られているように感じて怖いと言っています。 独りで寝るのを怖がったり、夜中に突然泣いたりなどの症状がみられ、医師からは不眠症と診断されました。 ストレスや不安が関係することが多いということで、医師の指示により今は学校を休んでいます。 学校に相談しましたが、休んでいる理由を理解してもらえません。 子どもは「本当は学校に行きたい」と言っているので、何かできることはないかと思い、「せたホッと」に相談しました。 【せたホッとから】 母親からメールで相談を受けたため、本人とも一緒に会って話を聴きたいと伝えたところ、本人が母親と一緒に面接に来てくれました。 担任は給食指導にも厳しく、黙食中に少しでも話をしていると「黙って食べろ」、「今度やったら次はないぞ」など強い言葉を言っていました。 また、担任が本人を無理やり説得して学校に連れて行くこともあったようで、そのことも担任への恐怖心が大きくなる一因になっていることがわかりました。 しかし、学校に行って勉強がしたいという思いも話してくれました。 また母親は、担任が怖いので休みたいと言っても学校には理解を得られず、「低学年にはよくあること」、「そのうち慣れる」と言われ、学校への不信感を募らせていました。 「せたホッと」は、学校を訪問して本人の代わりに話をしに行くことができると伝えると、本人が希望したため、委員と専門員で学校を訪問することになりました。 学校には、身体症状が出るほど担任に恐怖を感じていることと、学校には行きたいと思っていることを踏まえて、本人に対応してもらいたい旨を依頼しました。 その後、母親からは「本人と母親の話を聴いてくれる窓口となる先生を決めてもらい、安心して話ができるようになりました」という報告がありました。 本人からは、「少しずつ学校に行ける日を増やしていきたい」という話もあり、またいつでも相談してほしいと伝え、見守りを続けています。 ※プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 事例3 【相談内容】 小学生の息子と中学生の娘の父です。 子どもたちは、母親から暴言を吐かれたり、怒鳴られて家から追い出されたりすることもあります。 また、日常的に家事をさせられ、娘はテスト勉強ができず、成績にも影響が出てしまいました。 妻は精神疾患を患っており、子どもたちはいつも突然怒られます。 私が在宅時には、子どもを守るようにしていますが、夫婦喧嘩も増え、なかなか夫婦間では解決にはいたりません。 子どもも私も限界です。 どうしたらいいですか。 【せたホッとから】 父親に後日来所面接を依頼し、子どもと一緒に委員と専門員で話を聴きました。 子どもは母親に監視されており、自由が制限されていることがわかりました。 特に姉は、家事を強要されることが多く、負担が大きいようでした。 また、近所の方から児童相談所に通告があり、それ以降は定期的に関わりがあること、子ども家庭支援センターには、子育てや母親の精神疾患について相談していることもわかりました。 「せたホッと」として何ができるかを探るために、児童相談所と子ども家庭支援センターと協議したいと伝えると、父子ともに了承してくれました。 児童相談所と子ども家庭支援センターのそれぞれに訪問し、情報共有と役割分担をしました。 父母に対しては児童相談所と子ども家庭支援センターが、子どもについては「せたホッと」が話を聴いていくことになりました。 姉弟で「せたホッと」に遊びに来てくれることもあり、見守りを続けています。 ※プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 事例4 【相談内容】 子どもが毎朝、頭痛や腹痛を訴えて、登校できない状況が続いています。 休むととても元気にしていて、ゲ−ムばかりしています。 病院では、頭痛や腹痛について「心因性のものかもしれない」と言われました。 子どもに、学校でトラブルなどがあったのかと聞いても、何も話してくれません。 でも「せたホッと」になら話せるかもしれないというので、子どもの話を聴いてもらえませんか。 【せたホッとから】 本人が母親と一緒に面接に来てくれました。 母と別室で、本人から話を聴きました。 母親には何も話そうとしないという事前の情報や、肩を強ばらせて緊張している様子などを踏まえ、まずは本人の好きなことなど話しやすい内容から質問していき、「せたホッと」は話を聴いてくれるところだという気持ちをつくっていきました。 そうすると、本人は、「学校に友達がいないから楽しいことがない」、「授業もつまらないので行きたくない」、「それを言うとお母さんが心配するので言えなかった」と話してくれました。 世田谷区には、心理的理由などにより登校できないでいる区内在住の小・中学生のための「心の居場所」になる「ほっとスクール」があることを伝えました。 本人が自分のペースで勉強ができる、やりたいことや好きなことが見つかるかもしれないと興味を持ったため、一度見学してみてはどうかと提案しました。 その後、「ほっとスクール」を利用しつつ、「せたホッと」でも本人の思いに寄り添いながら、定期的に話を聴いています。 ※プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 事例5 【相談内容】 同じ運動部に入っているみんなで一緒に相談したいと思い、電話しました。 部の顧問の暴言がすごい。 厳しく注意するとかそういう感じじゃなくて、パワハラみたいな感じ。 顧問に対して、ものすごく怒っている子や部活を辞めたいと言い出す子、怖くて泣いている子もいます。 一部の子は、試合に出してもらえなくなることが怖くて何も言えないでいる。 今度、顧問の先生と話し合いがあるので、どうしたらいいかアドバイスがほしい。 【せたホッとから】 具体的にどういうことが心配なのかを聴くと、普段の様子として「暴力はないけど、威圧的な態度でいろいろ言ってくる」「怒鳴りながらの指示が怖く、すぐに『試合に出さないぞ』と脅してくる」ということがあるため、「冷静に話し合えるか心配」と話してくれました。 「せたホッと」から、校長や副校長にも話し合いに参加してもらうのはどうか、一人でもおとなの参加があれば、顧問も冷静に話したり、聞いたりするのではないかと伝えました。 電話口の代表者からみんなにも伝えて相談し、やってみるとの返事がありました。 その話し合いがうまくできなかった場合には、「せたホッと」が、みんなの意見を学校へ言いに行くこともできるので、話し合いの結果がどうなったかを知らせてほしいと依頼し、電話を終えました。 後日、話し合いは副校長が入り、冷静に話し合いができたという報告があり、相談を終えました。 ※プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 事例6 【相談内容】 私の家の近くに同じ年の女の子と男の子が引っ越してきました。 私とその二人で一緒に登校することになったのですが、そのときに二人は英語で話すことがあります。 私は英語がわからないので、何を話しているのかわかりません。 「何を話しているの?」と聞いたら、二人は笑いながら走って行ってしまいました。 昨日はすごく悲しくて、泣いてしまいました。 私は友だちの悪口は言いたくなくて、お母さんや先生に相談すると、告げ口みたいになっちゃうので話せません。 どうしたらいいですか。 【せたホッとから】 「友だちの悪口は言いたくない」という優しい気持ちを受け止めながら、友だちとどうしたらもっと仲良くできるのかを一緒に考えました。 「自分は英語がわからない」、「話せない」という考えが強かったため、まずは本人も知っている英単語を一緒に思い出していきました。 すると、本人が思っていたよりもたくさんあることがわかりました。 その英語を使いながら話したり、知らない英語をおしえてもらったりするのはどうかという提案をすると、「やってみる」という明るい言葉が聞けたので、電話を終えました。 ※プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 事例7 【相談内容】 隣の席の子が、うるさいし、ちょっとミスしただけでもバカにしてきたりして、すごく嫌だけどやめてくれません。 ランドセルを後ろから押されることもあって、びっくりするし、怖いです。 【せたホッとから】 はがきでの相談に対し、「せたホッと」から返事の手紙を書きました。 返事の内容として、まず、はがきに相談を書いて送ってくれたことへの感謝と相談できる勇気があること、「せたホッと」も一緒に考えたいことを伝えました。 授業中にうるさいと先生の話も聞こえず、勉強も楽しくなくなるのではないか、バカにされたら悲しい気持ちになるのではないかと想像しながら、嫌な気持ち、怖い気持ちに共感しました。 ランドセルを押されると転んで怪我をしてしまう可能性もあるため、もしも怪我をした場合はすぐに先生に話してほしいと伝えました。 また、隣の席の子に本人の嫌だという気持ちを伝えるためにも、大きな声で「やめて」と言ってみること、それでもやめてくれないときは、担任や保健の先生、スクールカウンセラーなど話しやすい先生に話すことを提案しました。 もしも、先生にもうまく言えないときには、「せたホッと」が手伝うことができることも書き添え、本人が返事を送ることができるように新たな相談用はがきを同封し、返事の手紙を送りました。 ※プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 事例8 【相談内容】 子どもが学校配布のタブレットで動画を見てしまう。 本来は見てはいけないと言いたいが、止めづらい。 学校でも見てしまうのではないか心配。 どうしたらいいでしょうか。 【せたホッとから】 母親がどんなことで悩んでいて、どういった対応をしてきたのかを整理しながら話を聴いていきました。 子どもは、休みの日には四六時中動画を見ていて、最近は「学校行きたくない」とも言い始めている。 せめて動画を見る時間を制限しようとしたが、本人から「この動画を見ることだけが生きがいなの」と言われてしまい、なかなか厳しく言えないという話が出てきました。 しかし、学校ではタブレットで写真を撮ったり動画を見たり、自由にしている子もいるようで、何かルールを設けないと、本人も真似してしまわないか心配とのことでした。 母親の苦労をねぎらいつつ、どのようにしていくのがよいかを一緒に考えていきました。 まず、タブレットを使用するルールを保護者が決めるのではなく、子どもと一緒に決めることを提案しました。 また、学校に行きたくない原因が他にあるのではないかということを尋ねると、下の子が生まれたばかりで「さみしい」と言っていたということを話してくれました。 「せたホッと」からは、本人と過ごす時間をもう少し作ってみるのはどうか、「せたホッと」も子どもの話を聴けるということを話し、電話を終えました。 後日、本人からも電話があり、「お母さんが動画を見てはだめというけど、理由がわからない」という相談がありました。 動画を見たい理由やどうしたら見てもいいよと言ってもらえるかなどを、本人と一緒に考えていきました。 「もう一回お母さんに聞いてみます。ありがとうございました」という言葉が聞けたため、相談を終えました。 ※プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 事例9 【相談内容】 子どもの長期休暇中に父親と子どもが新型コロナウイルスに罹患しました。 新型コロナウイルスにかかった人への偏見が怖いので、学校には「保健所から家族以外に濃厚接触者はいないと言われたので、陽性であったとはクラスメイトには伝えないでほしい」と伝えていました。 しかし、子どもが休んでいる時に「コロナの陽性者が発生した」という話があったようで、今日子どもが登校再開すると、周りから「コロナだったのか」と聴かれ、困ってしまったようです。 どのように対応すべきか相談したいです。 【せたホッとから】 まず、母親に対して新型コロナウイルスに罹患した家族を看病したことをねぎらいました。 そして、現在の子どもの様子や学校の対応について聴いていきました。 子どもは、体調は回復したものの、クラスメイトが尋ねてくることに対して「嘘はつきたくないけど、偏見の目で見られるのはもっと嫌だ」と話しており、どう対応していいかわからないと悩んでいるようでした。 学校へはまだ連絡しておらず、誰に連絡したらいいかもわからないとのことでした。 まずは、本人がどうしたいかを聴いてみたうえで、親から担任の先生に対して相談することを勧めました。 本人の「嘘はつきたくない」という気持ちが強い場合は、周囲にどのように説明するかを相談するのはどうかと提案しました。 また、本人が「偏見の目で見られるのが嫌だ」という気持ちが強い場合は、学校全体で休みになっている生徒がほかにいれば、本人も「陽性者はきっとほかの学年の子かも」と話せるかもしれないので、担任の先生にその点を確認するのはどうかと伝えました。 さらに、本人の気持ちを確認したうえで、「せたホッと」が学校とどのように説明するかを相談できることも説明しました。 母親からは、「ありがとうございます。 やってみます」という言葉があり、電話を終えました。 ※プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 事例10 【相談内容】 自信がなくて、自分の意見を言うのが苦手です。 自分のことなのに自信をもって決めることもできません。 自分の気持ちに蓋をして、周りの人の空気を読んで考えてばかりいる自分がもう嫌です。 でも、逃げたくないので、もっと頑張ろう としたら過呼吸になってしまい、つらいです。 【せたホッとから】 本人の気持ちに寄り添いながら、メールと電話で傾聴しました。 クラスや部活動で友人関係が上手くいかず、人間不信に陥り、勉強もうまくいかず進路にも悩んでいたが、誰にも相談できずにいたとのことでした。 これ以上独りでつらい思いを抱え込まないように一緒に考えようと伝えました。 相談の過程では、空気を読むことは誰もができることではない本人の力であること、相談しながら乗り越えようとする勇気があることなど、持っている強みを一つひとつ伝えていきました。 相談を続けるうちに、少しずつ考え方が変わってきた、前より気持ちが楽になっていると話してくれました。 自分は完璧主義で緊張が強いタイプだということ、話すことで気持ちの整理ができることなど、自分を客観的に見ることができるようにもなってきたとも伝えてくれました。 自分の気持ちを大切にしながら、先生やスクールカウンセラーなど話しやすい先生に相談してみることを提案すると、担任に話すことができるようになったという報告があったため、またいつでも相談してほしいと伝え、見守りを続けています。 ※プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 事例11 【相談内容】 習い事のスポーツクラブに、いつもとても怖い言い方をするコーチがいます。 ある時トラブルがあって、コーチから、その原因について何もしていない自分のせいにされました。 そして、ものすごくひどい言い方でいろいろ言われ、とても腹が立ち、傷つきました。 言われた自分はとても傷ついているのに、向こうは平気な顔をしていて悔しい気持ちでいっぱいです。 そのスポーツはすごく好きだし、このコーチの元では続けたくないけど、いまの気持ちのままやめたくないです。 親とも相談しているのですが、どうしたらいいですか。 【せたホッとから】 本人の悔しさや怒りの気持ちに共感しながら、メールでのやり取りを続けていきました。 また、本人から親にも相談することができていて、つらい思いを一人で抱えていなくてよかったということを伝えつつ、親とともに話を聴かせてほしいと依頼したところ、一緒に面接に来てくれました。 本人は今の習い事はやめたいけれど、傷ついた気持ちのままやめたくないし、疑われた友達にも自分はやっていないとわかってほしいとのことでした。 親は、自分の子どもがそれだけ傷つけられたことを、親としてきちんとコーチと対峙してきたが、改善がなされないということで困っていました。 「せたホッと」から、今のコーチに対して「せたホッと」が本人と親の思いを代弁しに行けることを伝えました。 ただ、改善には時間を要するかもしれないこと、嫌なコーチのところに居続けると、そのスポーツ自体も嫌いになってしまう可能性があるので、違うコーチのところでそのスポーツを習うことなども含め、再度家族で検討してもらいたいと伝えました。 後日、別のクラブチームへ習いに行くことにして、今のコーチとは今後かかわらないことにしようと家族で決めたという報告があり、相談を終えました。 2 関係機関との連携 令和3年度の関係機関との連携活動回数は、398 回となりました。特に、学校や教育委員会との連携活動回数が令和2年度の2倍近い回数に増えました。 この背景には、新型コロナウイルス感染症の影響が大きかった令和2年度に比べ、学校生活が少しずつ平常に戻り、オンライン授業から通常授業への移行や、行事や部活動が徐々に再開されたことなどがあると考えられます。 コロナ禍で少なくなっていた人と人との接点が増え、「いじめ」や「学校・教職員等の対応」など学校との関係調整や教育委員会とも協働して解決を目指していく相談が増加していきました。 また、令和3年度より、「せたホッと」の相談方法に「はがき相談」(p.42参照)が加わりました。 その返事の受け取り方法として「学校に手紙がほしい」「住んでいるところに手紙がほしい」「電話がほしい」という選択肢があります。 この中の「学校に手紙がほしい」を選んだ場合には、学校長へ電話し、子どもへの返信封筒は開封せずに渡してもらいたいこと、担任から本人へ渡す際には、周りの子どもたちに気づかれずに本人に渡すような配慮をお願いしたいこと、また相談の内容は守秘義務のもと開示できないことなどを連絡してからの発送になります。 このようなやりとりも、学校との活動回数231回の中に含まれています。 世田谷区児童相談所との連携活動回数は、開設年度である令和2年度と比較して2倍に増えました。 一時保護された子どもたちは、入所の際に、「せたホッと」へ手紙を送ることができる制度について説明されます。 令和3年度は、この制度を使った手紙による相談が数件届きました。 緊急性を判断しての通告や情報提供だけでなく、一時保護所の子どもからの直接の相談が増えたことが、連携回数の増加につながっていると考えられます。 手紙を出してくれた子どもたちがどのような思いで手紙を書いたのかを詳しく聴くために電話対応や面接を行い、また、「せたホッと」が活動した結果についてもフィードバックを求めるかについても確認しました。 様々な理由から学校には行きたくないと悩む子どもたちの「心の居場所」として世田谷区内に3ヶ所ある「ほっとスクール」との連携も増えており、見守り支援を行っています。 家庭に関する相談では、相談者の了承をとりながら、「子ども家庭支援センター」との連携を大切にしています。 その他の活動回数の中には、学校支援の学生ボランティアとの協力もあります。 子どもたちの最善の利益のために関係機関との連携を行っています。 初回の相談者が「関係機関」である場合に行ったやり取りは、398回の中に含まれません。 「ほっとスクール」とは、心理的な理由などで登校できないでいる、区内在住の小・中学生のための「心の居場所」です。 学校生活への復帰や自分らしい進路の実現に向けた支援を行っています。 世田谷区内には、「城山」「尾山台」「希望丘」の3ヶ所にあります。 「子ども家庭支援センター」とは、東京都内の区市町村において、18歳未満の子どもと家庭の問題に関するあらゆる相談に応じる総合窓口として、地域の関係機関と連携をとりつつ、子どもと家庭に関する総合的な支援を行うことを目的に平成7年より始まった東京都独自の制度です。 世田谷区内には5地域に各1ヶ所設置されています。 関係機関活動回数 学校231 世田谷区児童相談所61 世田谷区教育委員会46 世田谷区役所関連窓口17 世田谷区子ども家庭支援センター15 ほっとスクール10 アップス1 他自治体関係機関5 その他12 総計398回 関係機関との連携活動回数(やり取りを行った回数) 希望丘青少年交流センター( アップス) 関係機関との連携活動回数(月別)計398回 広報・啓発活動 1 広報・啓発 機関を身近に感じてもらえるよう「安心して相談できる機関」、「顔の見える相談機関」をモットーに、広報・啓発活動に取り組んでいます。 その他の活動 擁護委員会議 月2回程度 広報・啓発活動の方針及び内容の検討 24回 いじめ予防授業 区立・私立小中学生等を対象に子どもサポート委員による授業を実施 中学校での講演 子どもの権利について、中学生に向け講演を実施 ホームページ「せたホッと」の最新情報、活動等を随時更新 活動報告動画配信 令和2年度の活動報告を動画により配信 ※「いじめ予防授業」とはいじめ被害をなくすための最善の策は、いじめの被害がひどくなる前に予防をすることと考え、学校に出向き、いじめは人権侵害として絶対に許されないことを理解してもらうことを目的として、いじめについて子どもたちと一緒に考える授業です。 2 視察受入れ 子ども条例改正の経緯、内容、子どもに係わる関係機関との連携状況、事務局の運営状況等を説明しました。 5月21日 小金井市 子ども家庭部 児童青少年課 7月20日 中野区 子ども教育部 子ども・教育政策課 11月4日 世田谷区子ども子育て会議委員 11月5日 荒川区 子ども家庭部 子育て支援課 3月28日 那覇市議会議員 3 関係機関との意見交換 世田谷区内の子どもと関わる機関と連携し、積極的に意見交換しました。 12月22日 いじめ防止等対策連絡会 委員 1月12日 要保護児童支援協議会(全区) 委員 せたホッと はがき相談 令和3年度から新しい相談方法として実施 X メッセージ、相談者からの声 1 子どもサポート委員 子どもの意見、親の意見 〜いじめの場面での意見表明権から子どもの最善の利益を考える〜 子どもサポート委員 平尾 潔 はじめに いじめの相談は令和3年度45件を数えました。 全体の15.0%で、例年同様、高い比率を占めています。 いじめについて、相談者の意向を踏まえて、「せたホッと」が学校などに直接出向き、関係調整を行うこともあります。 私は弁護士として、自分の仕事でもいじめの相談を受けていますが、同じように子どもの意向を確認してから、学校に関係調整に出向きます。 実は、この意向確認のときに、少し気になることがあります。 子どもの意見表明権 いじめに限らず、「せたホッと」では、子どもの意見を必ず確認することにしています。 これは、子どもの権利条約に、意見表明権(12条)が規定されていることに基づいています。 同条には、次のように規定されています。 1項 締約国は、自己の見解をまとめる力のある子どもに対して、その子どもに影響を与えるすべての事柄について自由に自己の見解を表明する権利を保障する。 その際、子どもの見解が、その年齢および成熟に従い、正当に重視される。 2項 この目的のため、子どもは、とくに、国内法の手続き規則と一致する方法で、自己に影響を与えるいかなる司法的および行政的手続きにおいても、直接にまたは代理人もしくは適当な団体を通じて聴聞される機会を与えられる。 (国際教育法研究会訳。以下同じ)。 この条文では、何でも子どもの意見を聞き入れるべきとは書いてありません。 まず、「自己の見解をまとめる力のある」ことが要件の一つとされています。 また、子どもの見解は、 「年齢および成熟に従い、正当に重視される」とされており、常に子どもの意見をそのまま取り入れるべきとは規定されていません。 しかしながら、これらの制限を必要以上に重視し、子どもの意見を軽視していいわけではありません。 能力や年齢等を問わず人間的な意思を尊重していくことが実践原理にかなっており、自己の見解をまとめる力の促進のために積極的な取り組みが必要であるとの指摘もあります。 子どもの意見表明権は、「まだこの子には意見をまとめる力はない」などの理由で安易に軽視、無視されるべきものではないのです。 子どもの最善の利益 子どもの意見表明権と密接な関係にあるとされるのが、子どもの最善の利益(子どもの権利条約3条)です。 同条約3条1項には、「子どもにかかわるすべての活動において、その活動が公的もしくは私的な社会福祉機関、裁判所、行政機関または立法機関によってなされたかどうかにかかわらず、子どもの最善の利益が第一次的に考慮される。」 と規定されています。 子どもにとって何が最善か、という子どもの最善の利益を考えるとき、子どもの意見の実現こそが最善の利益というケースがあります。 子どもの最善の利益の確保において、「子どもの意思の尊重」の視点を欠かせない条件のひとつにしようとした努力の後に、子どもの意見表明権を独立条文化した経緯があります。 このように、最善の利益と意見表明権は相互に影響しあう、強く結びついた関係にあります。 本来的には、子どもの意見を中心に子どもの最善の利益を考えるべきですが、我が国では、子どもの最善の利益を子どもの意見を確認せずに大人が考える、という現象が時折見られます。 平易な表現を用いれば、「この子はまだ子どもだから、大人がよりよい解決を導くべきだ」という考え方が入り込む余地が出てくるのです。 子どもの意見と保護者が考える最善の利益の乖離 往々にして、子どもの意見が、保護者の考えと異なることがあります。 いじめのケースを例にとって考えてみましょう。 保護者は、自分のこと以上に一所懸命になり、時として感情的にもなります。 たとえば、これは架空の例ですが、わが子がいじめられた、子どもは学校に行くのも怖がっているようだ、ならばいじめをした子には転校してもらうしかない、せめてクラスからその子を排除してもらわなければ。 こんなに一所懸命に訴えているのに、その言い分を担任はまともに取り合ってくれない。 こんな担任は信用できない、担任も変えてもらおう、訴訟も起こさなければ、刑事告訴もしなければ、といった具合に、要求がどんどん拡大していき、いじめの解決がより困難になっていくケースも見受けられます。 私が冒頭で「気になる」と書いたのは、この、保護者の行動が、必ずしも子どもの意見と一致していないことがあるという点です。 うちの子は気が弱いから、保護者である自分がしっかり交渉しなければ、という強い思いは、子を思う深い愛情からきています。 子どもの権利条約に照らして換言すれば、子どもの最善の利益を、保護者なりに考えて活動している、ということになります。 そして、それが子どもの意向と一致しているのであれば、それに従って保護者が動くことは理解できます。 ただ、子どもに聞いてみると、保護者の意向とは異なることも少なくありません。 「いじめた子にちゃんと謝ってほしい」「もうしないと約束してほしい」といった意見が出てくることもあるのです。 いじめの当事者は子ども自身であり、学校、学級という場所も子ども自身が生活する場です。 その中で子ども自身が自分の意見を述べることは、学齢が低くても十分可能であると私は考えます。 であれば、大人はその意見を「正当に重視」すべきではないでしょうか。 保護者の役割とは いじめ問題の当事者は子どもです。 いじめに関しては、子どもの個性もありますが、基本的には自分の意見を述べるだけの力はあると考えてよいでしょう。 その子の意見を中心に置いて、教師と保護者が、それぞれ役割分担をして、子どもの望むことをどうかなえていくかという目標を持って協力し合うことが、本来望むべき姿ではないでしょうか。 そのような方向性を実現できるように、「せたホッと」も子どもの意見に耳を傾け、それを基本として活動していくことを肝に銘じたいとあらためて思います。 変わりゆく時代の中の子どもたちとこれからと 相談・調査専門員 小出 真由美 はじめに 令和3年度の活動報告書なので、本来であれば令和3年度に寄せられた相談の中からいろいろ感じたことを例年書いているのですが、今回は専門員として最後の原稿となるため、これまで寄せられた相談も含めて書いていきたいと思います。 民法の懲戒権と児童虐待防止法の矛盾 私は、社会福祉士として、社会福祉法や児童福祉法などに基づいて対応を考えていくことが多いです。 それらの法律は戦後70年近く小さな改正ばかりで、法律としては旧態依然としていました。 平成の時代に大きな改革ともいえる法律改正がなされました。 この改革により、現場の社会福祉のニーズに即した法律に年々改正されているところです。 人が生きることと直結する法律はそれくらい改正がなされてもいいのかもしれないと思わされています。 その後、虐待防止法においては、女性(DV防止法)を筆頭に、児童虐待防止、高齢者虐待防止、障害者虐待防止と相次いで法律が制定されていきました。 その中で、児童虐待防止法はできたものの、児童の虐待による死亡のニュースはなくならずに「しつけ」という言葉で子どもが亡くなっていきました。 それが民法の中にある懲戒権だと以前からずっと気になっていました。 児童虐待防止法と民法の懲戒権の矛盾関係をなくさない限り、子どもはいつまでたっても親の「しつけ」の下で苦しい思いをし続けることになり、子どもの権利保障どころではないと思っていました。 今後、この民法の懲戒権が削除されるという方向で、国が動き出しているというニュースを聞きました。 明治時代の民法 と平成時代の児童虐待防止法との矛盾がこの令和という時代に、決着がつくようなので本当に良かったと思っています。 「せたホッと」での児童虐待だろうと思われた相談の多くは、「親の期待」によるものと思われました。 「親の期待」の下、子どものためにと習い事をさせていることも教育虐待につながるかもしれません。 例えば、子どもたちが「習い事が多くて疲れちゃう、どうしたらいい?」「やめたいって言ってもやめさせてもらえない」と困り果てて相談してくれて、「せたホッと」としては何とかしたいと思って、子どもとともにどうしたらいいかを考えてきました。 子どものために保護者の理解を得るにはどうしたらいいかということを考えるのはとても難しいことです。 なぜなら、保護者が「子どものことを思って、習い事をさせている」と子どもたちに伝えていて、子どもたちもとてもよくわかっているからです。 でも、頑張りの限界を迎えると「親の期待」に応えられない自分への様々な思いや親の思いに反していいのかなどの思いに押しつぶされそうになって相談してくれました。 それらの「親の期待」というのは「魔法の呪文のような強さ」iがあって子どもを縛ってしまうと鴻上尚史さんの本にありました。 この期待は虐待だけにとどまりません。 2 相談・調査専門員 教育を受ける権利と登校 コロナ禍2年目、東京都の新型コロナウイルスの感染状況が悪化すると、世田谷区では通常授業とオンライン学習の選択制が実施されていました。 登校することだけが当たり前ではなく、学びの機会が保障されたことで、今年度はこんな声もいくつか聞こえてきました。 それは、「実はずっと我慢して登校してた」「学校行くより家にいたい」「コロナ禍、家の居心地の良さを知ってしまった」というものでした。 「ステイホーム」という、こちらもまた「魔法の呪文のような強さ」を持つ言葉が生み出したのは、家を出ないで何でもできる社会でいいのではないかという社会活動の変革でもありました。 おとなたちも、社会からリモートワークを求められて、子どもたちもオンライン学習を選択できて、家にいられて、家の居心地がいいというのは、家にいたくないと思う児童虐待とは大きく異なり素敵な話です。 しかし、子どもの悩みはそこから発生してきます。 その悩みは「登校がしんどい、できれば行きたくない、けど行かないとならないと思うと、体調が悪くなって動けない」といういわゆる不登校に関する相談です。 コロナ禍、全国的に不登校の人数が増加したというニュースもありましたが、令和3年度、「せたホッと」における不登校に関する相談は多かったと感じています。 保護者からの相談は、例年同様に、学校への対応や子どもの対応などの相談が多かったです。 一方、子どもからは例年、何らかの理由があって「登校したくない」というものが多いのですが、「家にいたい」という理由は、このコロナ禍が生み出したもう一つの思いになったと感じています。 コロナ騒動になる以前には、学校に行くのが当たり前で、長期間行かない・行けないと「不登校」になっていました。 コロナ禍、登校せずとも教育を受ける権利を保障されていくと、学校という学びの場以外の場を用意されたことで、前述の子どもの声からも、本当にホッとしている子どもたちも多かったのだと気づかされました。 そして、それを元通りに戻そうとするときに出てくるのが、以前のように通えるようになるのではないかという「親の期待」です。 親は登校するだろうと子どもを見ていて、子どもは登校するだろうと思われていると感じてきちんとわかっています。 だから、「登校しないと…だけど、行けない」という不安に押しつぶされそうになって相談してくれました。 その相談の時、心がけたのは「どうしたいか?」という問いです。 相談者である子どもは学校へ行きたいのか、行きたくないのか、それによって一緒に考える道筋が変わっていくからです。 しかし、「自分は行きたくないような気もするけれど、親のためにも行かないとならないし、行った方がいいというのもわかっているけれども、だからって本当に行きたいかどうかというと…」「まったくどうしたいかわかりません」ということで、その場から動けずにいる子どもも少なくなかったです。 「親の期待」と「自分の思い」に挟まれて身動きできないところを動かすには、「親の期待に応えたいと思っていることが素晴らしい。 学校へ行こう、頑張ろうと思うことも素敵なこと。 でも、一番は自分自身を大切にしてもらいたい。」と伝えてきました。 私がこの言葉で用意したのは、第三の選択肢というところだと思います。 学校へ行く、親の期待に応えるという道か、そうでない道か選ばないといけないと思っているところに「自分を大切にする」という道を加えているのです。 その先に、学校へ行く選択があるかもしれないし、学校に行かないという選択があるかもしれませんが、いずれにしても、自分を大切にした結果、自分で「よかった」と思えることを選んでもらうことが「せたホッと」の相談においては一番いい方法だと思っています。 それを証明するかのように、「せたホッと」の受付には、令和3年の東京オリンピックでボクシングの金メダリストの入江選手の素敵なメッセージ色紙(写真)があります。 いらしたときは見ていただきたいです。 未来の教育と「せたホッと」 ノーベル平和賞を受賞されたマララ・ユスフザイさんが国連ユース集会でのスピーチに「すべての子どものすばらしい未来のためには、学校と教育が必要です。 平和と教育を求めて、わたしたちは活動を続けます。 だれもわたしたちを止めることはできません。 権利を求めて声をあげれば、世の中はきっと変わります。 声には力があることを信じてください。 世界を変えることだってできるのです。 なぜなら教育を求める人々の心はひとつなのですから。」とありました。 日本では学校がすべての子どもたちに用意されています。 とはいえ、大きな障害がある子どもや病気のために療養せざるを得ない子どもたちへの学びの保障は道半ばと言えるところもあります。 一方で世田谷区では、それらの子どもたちへの支援もはじまりつつあります。 明治時代からの民法が変わろうとしたり、コロナによって社会活動自体のあり方が変わっていったりしている昨今、日本の子どもたちが求める教育のあり方もきっと変わっていくのだろうと思っています。 マララさんが言ってくれているように、これから先、子どもたちが学ぶことに対して、子どもたち自身が声をあげて変えていくのではないかと思います。 世田谷区にかかわる子どもたちが、学びたい方法で学んで素晴らしい未来へ羽ばたいていけるよう、子どもたちの教育に関する困った思いや変えたい思いなどを気軽に「せたホッと」に話してもらいたいです。 「せたホッと」はその思いにいつでも応えていくところです。 いつでもお話を聞かせてください。 おわりに 「せたホッと」が開設されるときから、令和3年度まで相談・調査専門員として勤めさせていただきました。 時に相談者に私が救われながら職務を行えたことは、幸せな仕事だったと感じています。 これから先、子どもの権利侵害などが無くなって、すべての子どもたちが幸せに暮らせる社会となることを願っています。 「子どものちから」は、無限大! 相談・調査専門員 田中 由美子 子どもからの相談の中で、とても多い相談は「『やめて』と言っても、やめてくれません。 どうしたらいいですか」という相談です。 せっかく勇気を振りしぼって「やめて」と伝えても相手がそれを聞いてすぐにやめてくれないと意味がありません。 私の娘も相談者の子どもたちと同じようにこんな経験をしています。 娘の髪は、とてもクセのある髪型です。 これは、生まれた時からのもので、見た目でいうとカーリーヘアというのでしょうか。 チリチリとした強いカールをした髪型です。 どこへ行くにも人の視線が集まり、時には指をさされながらクスクスと笑われ、「どうしてなんだろうか?親とは同じではないし、親の趣味でカーリーヘアにさせられているのだろうか?」と囁かれたこともありました。 そんな経験と出くわすたびに、親子で落ち込み、辛い日々を送っていました。 また、小学校に入学して間もないころ、娘の髪型を男の子から、「何でお前はそんな髪なんだ?変な髪だなあ」「まるでブロッコリーみたいだから、お前をブロッコリーちゃんと呼ぼう!」などと言われたことがありました。 それに対して娘は、一生懸命自分の髪型について説明をして、何回も「そんなこと言わないで!」「やめて!」と伝えたようです。 しかし、からかいや悪口は止まらず、エスカレートしていきました。 そして娘の我慢も限界になり、最後には男の子をグーパンチで殴ってしまいました。 その男の子はビックリしたものの、びくともせず仁王立ちしていました。 かたや娘は、「わぁ−−−!」と大声で泣いてしまいました。 教室は大パニック。 「どうした?なんだ?」と周囲の子どもたちは駆け寄り、ある子は急いで先生を呼びに行きました。 先生は男の子と娘から事の経緯を聞き取りました。 娘からは、特に気持ちの部分を丁寧に聞いてくれたようです。 また周囲の子どもたちからも目撃情報を集めました。 周囲の子どもたちは一生懸命それぞれが見聞きした状況を説明してくれたようです。 その後、先生は男の子と娘から了承をとり、クラスで謝罪の会を行いました。 先生がクラスみんなに話したのは次のようなことです。 「友だちの容姿、身体についてのからかいや悪口は、絶対に言ってはいけない事です。 なぜなら、それを言われた人はみんなとても傷つき、つらくて悲しくて泣きたくなるからです」 「でも言われて嫌だった、つらかった、悲しかったから人を『殴っても良い』ということにはなりません。 暴力はどんな人にも絶対にやってはいけないことなんです」 「もし相手に嫌なことを言われたら、先生に伝えてください。 先生があなたの嫌だという気持ちを伝え、『やめてください』と注意します」 そして、先生は、クラスのみんなにこんなことも伝えました。 「もし、お友だちに『やめて』と言われたら、すぐにやめてください。 『やめて』というのは、『もうやらないで。助けて』と叫んでいるのです。 また、みんなのまわりで、誰かの『やめて』を聞いたら、『どうしたの?大丈夫』と聞いてそのお友だちを助けてあげましょう」 娘はこの日以来、何度となく「やめて」を大きな声で叫び、周りにいる人たちに助けてもらいました。 数年後の4年生のときにも、自分より大きな6年生に全く同じことを言われてしまいましたが、「やめて」と大きな声で叫び、周りの先生や友だちに助けてもらいました。 こうして娘は、一人ではできないことでもまわりに協力を求め、様々な困難を乗り越えるようになっていきました。 娘の成長を傍らで見ていて思うのは、子どもの吸収力はすごいということです。 入学当初はどうしたらいいか分からずパニックになっていた娘が、数年後には周りに助けを求めるという解決方法を習得していたのです。 ここで習得した「ちから」はその後の人生においても、大きな財産になっていると感じています。 そして、子どもが習得できる「ちから」は無限大だと思っています。 相談の中には、「友だちや家族を守りたい」「なんとか自分で助けたいがどうしたらいいか」という相談もあります。 友だちや母親のSOSにすぐに気づき、悩みに悩んだ末の相談です。 子どもによっては、友だちや母親が受けたつらい出来事を、まるで自分のことのように受け止めてしまい、苦しくなってしまっている場合もあります。 そんな状況でも、勇気を出して 相談してくれることがあります。 その「ちから」も本当に大切にしたい「ちから」です。 SOS に気づき「助けたい」と思える「ちから」をもった子どもたちがいるからこそ、子どもは安心して「助けて」が言えるのです。 今日も子どもたちから「『やめて』と言ってもやめてくれません」という相談が入った場合には「やめて」と言えたことの勇気をたたえ、そのことをもっと大きな声で言って周りに知らせることもできるか、「やめて」と仲良しの友だちと一緒に言えるかなど、子どもたちと一緒に考えながら、一人ひとりの子どもの「それならできる」を探し、「子どものちから」を増やしていきたいと思います。 そして、子どもたちの無限大の「ちから」にしっかり対応できるように、私の相談を受ける「ちから」も無限大になるよう日々努めていきたいと思います。 3 相談者からの声 「せたホッと」から 初めて「せたホッと」に相談に来たとき、「一人で話したい」と力強く言っていたことがすごく印象的でした。 小学校低学年の子が一人で話すということは、とても強い意志と勇気が必要です。 この言葉に、委員も専門員もとても勇気を感じ、お話を聞かせてもらいました。 ご家族の方も、勇気のこもったその言葉を信じ、一人で話をさせてくださったのだと思います。 子どもを信頼する力が、子どもの勇気にもつながります。ご 家族の方の支えもあって、「せたホッと」がこうやって話を聴けているんだなと思いました。 そして、何回も電話や会って相談してくれましたね。 そのたびに、自分の気持ちをしっかりと自分の言葉で伝えてくれ、「せたホッと」が話すことにも耳をかたむけてくれました。 自分の気持ちをだれかに伝えることは、誰しもができることではありません。 それ以上に、ちゃんと相手の話を聴くというのは、できる人は少ないです。 その力があったからこそ、いま楽しい学校生活が送れているのだと思います。 これからもっともっと素晴らしくかっこよく成長していくと思います。 たまに顔見せに来てね。 いつでもどんなことでも相談待っているよ。 相談してくれてありがとう。 ぼくは学校でよくいじめられてました。 そして、毎日ものすごく辛かったです。いつも一人でトイレでないていました。そして、とてもつ らくて学校に行けなくなりました。 その時に母が「せたホッと」と言う相談場所につれてってくれました。 そして相談前、きんちょうしました。 だけどものすごく辛かった事なのでゆう気をふりしぼって相談しました。 相談している間とてもやさしく話を聞いてくれてとっても話しやすかったです。 相談が終わった時とてもスッキリした気持ちになりました。 その後も様子を見に学校に来てくれました。 校長先生ともたんにんの先生にも話してくれました。 よくなるまで、なんかいもくり返してくれました。 電話もくれました。 とても気持ちがすくわれました! 「せたホッと」のおかげで学校に行けるようになりました。 今はとてもたのしいです!!!!! 「せたホッと」には人生がすくわれました。 「せたホッと」は気軽に話せました。 なぜならぼくのすきな事を話してくれたからです。 話し方がやさしかったです。 つぎまたいじめられたらぼくは「せたホッと」に行きたいです。 ありがとうございました.... おわりにかえて 相談活動ってなーに? サポート委員 月田 みづえ 子どもサポート委員(擁護委員)として相談活動を続けてきましたが、相談活動はどのようなものなのか? 世田谷区子ども条例の第3章第16条に、擁護委員の仕事が書かれています。 子どもの権利の侵害について 1 相談と必要な助言や支援 2 調査 3 権利侵害を取り除くための調整や要請 4 権利侵害を防ぐために意見を述べる 5 権利侵害を取り除くための要請と防ぐための意見の内容を公表する 6 権利侵害を防ぐための見守りを支援する 7 活動内容の報告と内容を公表する 8 人権擁護についての必要な理解と広報です。 この子ども条例における擁護委員の仕事について、私見ですが、社会福祉領域における相談活動―ソーシャルケースワークの理論から示唆されることがあるのではないかと感じています。 その観点から雑感を述べさせていただきたいと思います。 (1)ソーシャルケースワークとの類似点 ソーシャルケースワークの初期の体系的理論家として有名なリッチモンドは、次のように述べています。 「『ソーシャルケースワーク』は、さまざまな人々のために、さまざまな人々とともに、さまざまな事柄を行う。 ソーシャルケースワークは特殊化し多様化していく。 一方、『社会改革』は、さまざまな人々のために、同じことを行う手法を発見していくことによって一般化・多様化していく。 そしてソーシャルウェルビーイングに到達していく」としています。 擁護委員の仕事は、子どもの権利の侵害にフォーカスされますが、子ども条例第16条の1から3は、リッチモンドの定義に照らし合わせると『ソーシャルケースワーク』の説明に相当し、一方、条例の4,5,7,8は、制度・政策に働きかける手法という意味で、『社会改革』に通じるといえるでしょう。 なお、条例の6の見守りについては、リッチモンドの定義にそのような概念があったか、検証が必要です。 リッチモンドによれば、『ソーシャルケースワーク』は、特殊化、多様化していくものであり、『社会改革』は、一般化・多様化していくものとしています。 さらに、その過程を通 じて、ソーシャルウェルビーイング(自分らしく幸せに生きる、筆者注)に到達することを目指す点も類似していると思います。 実際に、擁護委員の相談活動のなかで、個別の相談では、一般化・共通化できる内容を含んでいますが、個々の事情は千差万別であり、特殊化、多様化する傾向にあると感じています。 そのうえで、意見表明などの活動は、個々に相談された課題から共通点を導き出して、普遍化し、制度・政策の変革につながるよう一般化・多様化する過程といえるのではないでしょうか。 リッチモンドは、100年以上前に、この定義を書いています。 『ソーシャルケースワーク』も『社会改革』もその内容は、今の時代に、より複雑になり、一層特殊化しながら多様化していくと考えます。 (2)「子どもの最善の利益」は、だれもがもつ基本的な権利「人間の安全保障」のうえになりたつ 相談を受けるなか、子どもたちが話す感情でめだつのが、権利の侵害者に対する恐怖心です。 過去に受けたいじめや脅し、それにつながる身体的あるいは心理的な暴力を忘れることができず、また起こされるのではないかという不安感によってもたらされます。 権利の侵害者は、友達や教員、保護者など多岐にわたります。 人はだれでも安全に安心して日々を過ごしたいと願うし、過ごす権利をもっています。 だれもが、このような恐怖やそのもとになる欠乏から自由であり、尊厳をもって暮らすことができる「人間の安全保障」を求める権利をもっています。 子どもの権利条約でうたう「子どもの最善の利益」を保障するという大人の誓いは、この「人間の安全保障」のうえになりたつものといえます。 21世紀にあって、信じられないことではありますが、他国による侵略によって、だれにとっても保障される基本的人権が根こそぎ奪われる、想像を絶する現実が起きています。 きれいごとに聞こえ、解決にはつながらないと考えられるかもしれませんが、あえていえば、平和ななかでも、虐待や体罰をはじめとする心身に対する暴力的行為、力による抑圧や支配を感じることは、多くあります。 このような行為は嫌だし、社会からなくしたいと肌感覚で感じとることができるような感性を幼少期から育てることの大切さを痛感します。 (3)当事者が解決できない問題なのに、第三者が役に立つ?不遜では? 急激に変化する時代では、一般的に、価値観やライフスタイルの多様化、複雑化は、私たちに利点をもたらすと同時に、地域の絆や支え合いの希薄化、困難化につながるといわれます。 そのなかで、だれでもが、社会的に解決したい問題をかかえることが増え、第三者による相談が求められる時代です。 「ひとりで悩まないで」、「かかえ込まないで」と私たちが訴えるのは、価値観が多様で、複雑化する社会であるだけに、当事者だけで解決することが困難なことが多くなっていると思えるからです。 他人に話すことで、自分の考えや気持ちが整理できます。 また、虐待やいじめを受けたという相談で、「あなたは悪くない」といわれて、「救われた」、「気が楽になった」という声を聴くことがあります。 おそらく、他人から自分の行為が肯定され、心を占拠していた悩み、おそれ、怨念、自責の念から解き放たれたと感じるからではないでしょうか。 ソーシャルワークのグローバル定義では、「社会変革と社会開発、社会的結束、および人々のエンパワメントと 解放を促進する、実践に基づいた専門職であり学問である。 社会正義、人権、集団的責任、および多様性尊重の諸原理は、ソーシャルワークの中核をなす。 (中略) ソーシャルケースワークは、生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう、人々やさまざまな構造に働きかける」とされています。 戸塚は、ソーシャルワークにおいて、ファクトベースの問題解決法だけでは、もはや機能しない。不安定,不確実,複雑,曖昧で表現される現況では、物ごとの因果関係を静的でシンプルな枠組みで整理できず、直覚的 に把握される「解」を試行錯誤しつつ、最適な「解」を“動的”に模索していく手法が注目を集めてきている。 一定の手法さえ学べば、サービスをある程度誰もが提供可能になるものとは一線を画すと述べています。 さらに、グレンを挙げて、「ケースワークはじょじょに形づくられていくアートであ」るが、「(中略)ケースワークの場合,何かを創造するというよりは(何かから)解き放す,あるいは自由 にしていくのであ」る。と説明しています。 バワーズもいうように、相談活動(ソーシャルワーク)においてアートで表現されるような相談者の感性を豊かに刺激する情緒的で自己実現的なアプローチが大切になると考えます。 戸塚は、既存のサービス利用という切り口でしか相談を受けられず、難しいことや、ややこしい問題には、初めから踏み込まない実態に警告を発しています。 そして、前述のリッチモンドをはじめとする100年近く前の多くの文献に,現代にそのま ま通じる相談援助の基本軸、 1 人間性に関わるものであること, 2 当事者を解放したり 自由にしたりしていくこと、 3 さまざまな人とさまざまなことを行うプロセスを共に歩むことが打ち出されていると述べています。 相談を受ける際に、「想像力」「創造力」「洞察力」が求められますが、本当に難しい課題です。 相談してくださった子どもたちの自尊心を高める援助になっているのか、お一人おひとりの「声」に隠されている「真の声」と真摯に向き合うことができているのか、絶えず、切磋琢磨していかなければならないと思います。 今後とも、「せたホッと」の活動が発展できますように、ご支援・ご指導をよろしくお願いいたします。