資料6(添付) せたがやホッと子どもサポート活動報告書(令和2年度) 世田谷区子どもの人権擁護機関 はじめに 子どもサポート委員 月田みづえ コロナ禍の生活 新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行が続いています。 先の見えない不安と生活を成り立たせることすら困難な状況で、文化的・芸術的活動、旅行など楽しいことも制限され、心の平穏をどのようにして保つか、だれもが苦労していると思います。 そのなかで、ほっとする新聞記事を見つけました。 「『ソーシャルディスタンス』と、ぼくがお母さんに言うと、お母さんは、引っついてきます。ぼくが、『みつみつみつ!! 』と言うと、お母さんはチューをします。やっぱり好きなんでしょうか?ぼくのこと。」 (高知市立一ツ橋小学校5年の遠藤大覚さんの作文)心がなごみます。 家庭内感染も心配しなければいけない今、このような光景が早く自然になればと思います。 世界を見渡すと自由を重んじてきた国々でも、ロックダウン(都市封鎖)や国民への経済救済策が受け入れられてきました。 将来や日常生活への不安が共通のこととなっているからです。 日本でも経済的支援や医療提供体制の強化策もすすめられました。 多くの学会や公私の専門相談機関などさまざまな分野から、心身両面の健康を維持する暮らし方へのアドバイスや命を守るための情報サイトから相談の呼びかけがなされました。 それでも、平常時から、より一層の困難を抱えている「ひとり親家庭」、「ヤングケアラー(大人が担うようなケアの責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている18歳未満の子ども)」、「ひきこもり」、「非正規労働」などへの理解と支援が不十分であることも浮き彫りになりました。 子どもの自殺も2020年では、2019年と比べて4割以上増え(文部科学省「コロナ禍における児童生徒の自殺等に関する現状について」令和2年2月15日)、原因別に多い順では「進路に関する悩み」、「学業不振」が前年同様多く、「親子関係の不和」、「病気の悩み・影響(その他の精神疾患)」、「病気の悩み・影響(うつ病)」と続き、いずれの項目でも前年比で大幅に増えたと報告されています。 「せたホッと」の相談 「せたホッと」の新規の相談件数は、昨年度より減少しました。「せたホッと」の特徴として、例年、直接話をしたいという面接希望が多いのですが、昨年からの外出自粛で、面接に行きにくい状況がありました。 学校にも行けず、家族と家庭にいる時間が増えたため、家族内の相談で問題が解決したことも想定されます。 一方、家庭内の問題や親にも言えない悩みなどは、相談しづらかったと思います。実際、相談者からのそのような声もありました。 分析されてはいませんが、分散登校や行事の中止・縮小、生徒同士の接触の制限などで、摩擦・トラブル自体が減った影響があるかもしれません。 相談内容は、コロナ関連も多くありました。 なかには、日ごろ家にいない父親が在宅勤務となり、家族への介入方法で、衝突が起きることもありました。 全般的には、複雑で、深刻な問題が多かったです。 今まで目立たなかった未就学年齢のお子さんの教育・保育施設に関する相談や高校生からの相談が増え、海外の学校での問題や学校から帰宅後の近隣地域や学校外のクラブで起きた問題など多岐にわたりました。 また、方向性が見通せるまで長く時間がかかるものも増えました。 さまざまな問題を乗り越えて、光や希望をみつけようとした1年ではなかったでしょうか。 アマンダ・ゴーマンさんの詩「私たちが登る丘」(2021年1月のアメリカ大統領就任式のスピーチ)に期待を寄せた人々も多かったと思います。 「光はつねにそこにあるそれを見る勇気さえあれば光となる勇気さえあれば」 と締めくくられた詩(私たちが登る丘)には、次のような一節がありました。 「私たちの過ちは、彼ら(次世代)の重荷となるしかし1つだけ確かなことがある慈悲と力を合わせ力と正義を合わせれば愛が私たちの遺産となり子どもたちが生まれながらに持つ権利を変えられるだから与えられた国よりも良い国を残そう」 私たちの行動次第で、次世代の子どもの権利が変わるという強いメッセージです。 昨年、世田谷区には区立の児童相談所もできました。 「せたホッと」は、これらの機関とも協力しながら、子どもたちによりよい環境を残せるように役割を果たしていきたいと思います。 世田谷区子どもの人権擁護委員 「せたがやホッと子どもサポート」の制度 1 子どもの人権擁護委員(以下、子どもサポート委員) の設置目的、職務 (1)設置目的 子どもの人権を擁護し、権利を侵害された子どものすみやかな救済を図るため。 (2)位置づけ 地方自治法第138条の4第3項に基づく区長及び教育委員会の附属機関 (3)職務内容 1 子どもの権利の侵害についての相談に応じ、必要な助言や支援をすること。 2 子どもの権利の侵害についての調査をすること。 3 子どもの権利の侵害を取り除くための調整や要請をすること。 4 子どもの権利の侵害を防ぐための意見を述べること。 5 子どもの権利の侵害を取り除くための要請、子どもの権利の侵害を防ぐための意見などの内容を公表すること。 6 子どもの権利の侵害を防ぐための見守りなどの支援をすること。 7 活動の報告をし、その内容を公表すること。 8 子どもの人権の擁護についての必要な理解を広めること。 2 委員への協力 区の機関は、委員の設置の目的を踏まえ、その職務に協力しなければならない。 区民や区以外の機関は、その職務に協力するよう努めなければならない。 3 対象 18歳未満の子どもの権利侵害にかかる事案(子どもに準ずる場合として18歳又は19歳で高等学校等に在学等している場合も対象) 4 体制 (令和3年3月現在) (1)子どもサポート委員 3名 月田 みづえ (つきだ みづえ) 昭和女子大学 名誉教授 佐伯栄養専門学校 非常勤講師 (子ども家庭福祉) 半田 勝久 (はんだ かつひさ) 日本体育大学体育学部准教授 (教育制度学、教育法学、情報科学、子ども支援学) 平尾 潔 (ひらお きよし) 弁護士(第二東京弁護士会) 各委員の独任制を原則とする。要請、意見表明等の際は、より慎重を期すために、委員間の協議により対応する。 子どもの権利侵害の事案には、区立学校で発生したものや、保育所、児童館など学校以外の区の機関で起こったもの、あるいは私立学校、職場、家庭で起こったものなど、多岐にわたることが想定される。 こうした事案に対して、区長部局と教育委員会が一体となって区全体で子どもの権利侵害に関する救済等に取り組んでいくことを明確にするため、両執行機関の附属機関として共同設置した。 (2)相談・調査専門員 5名 子どもサポート委員を補佐し、相談対応や関係機関との連絡、調整等を行う。 社会福祉士、精神保健福祉士、臨床心理士、公認心理師、幼稚園教諭、保育士、中学校教諭、高等学校教諭の有資格者など。 (3)事務局 子どもサポート委員の補佐、区組織との連携・調整等を行う。 子ども・若者部子ども家庭課 5 相談方法等 (1)相談方法 電話0120−810−293 フリーダイヤル メール・FAX 区ホームページで「せたホッと」を検索 せたがやホッと子どもサポート「せたホッと」のページの「せたホッと」に相談するには メールの場合 メールで相談したいをクリック メール入力用フォームに相談内容を記入し、送信 FAX の場合 電話・ファクシミリで相談したいをクリック FAX 送信用の用紙に相談内容を書いて03−3439−6777にFAX送信 面接 予約なしの相談も可 その他 手紙、はがきによる相談も可 (2)相談時間 月曜日〜金曜日 午後1時〜午後8時 土曜日 午前10時〜午後6時 (日曜日、祝・休日、年末年始はお休み) (3)窓口所在地 世田谷区宮坂3−15−15 子ども・子育て総合センター3階 (小田急線 経堂駅北口より徒歩7分) 6 相談の流れ(仕組み) 7 擁護委員会議 世田谷区子ども条例施行規則第15条では、「擁護委員の職務執行の一般方針その他の必要な事項を決定するため、擁護委員全員で構成する擁護委員会議を設置する」(1項)とし、擁護委員の互選のもと代表擁護委員を置き(2項)、代表擁護委員が招集し(3項)、非公開とする(4項)と規定しています。 案件への対応は各委員の独任制を基本としていますが、会議ではそれぞれの専門分野から子どもの最善の利益実現のためにどのようにしていけばよいのか検討します。 申立て案件や発意案件に関しては擁護委員の合議で方針を決めています。 令和2年度は計24回開催しました。 個別ケース対応に関する検討は、会議開催日以外にも随時行っています。 平成14年4月 (2002年) 子ども条例施行 平成17年3月 (2005年) 子ども計画策定、教育ビジョン策定 平成23年12月 (2011年) 区立校の小学5年生及び中学2年生約2,600人を対象に「子どもの生活と人権意識」に関する調査を実施 平成24年5月 (2012年) 子どもの人権擁護の仕組み検討アドバイザー会議を設置、新たな制度の具体的検討に着手 10月 同会議にて「子どもの人権擁護の仕組み検討まとめ報告」とりまとめ 12月 子ども条例を改正し、第三者機関として子どもの人権擁護委員を位置づけ 平成25年2月 (2013 年) 子どもの人権の擁護と救済を考えるシンポジウム「新たな第三者機関の設置に向けて」開催(成城ホール) 4月 改正子ども条例を施行、せたがやホッと子どもサポート(せたホッと)設置 7月 区立子ども・子育て総合センター(宮坂3-15-15)にて相談業務を開始 平成26年6月 (2014年) 「平成25年度活動報告書」を発行 7月 平成25年度の活動報告会を開催(成城ホール) 平成27年3月 (2015年) 区立学校の通常学級での特別支援教育に関する意見を表明 6 月 「平成26年度活動報告書」を発行 7 月 平成26年度の活動報告会を開催(北沢タウンホール) 平成28年6月 (2016年) 「平成27年度活動報告書」を発行 7月 平成27年度の活動報告会を開催(北沢タウンホール) 平成29年6月 (2017年) 「平成28年度活動報告書」を発行 7月 平成28年度の活動報告会を開催(子ども・子育て総合センター) 平成30年6月 (2018年) 「平成29年度活動報告書」を発行 7月 平成29年度の活動報告会を開催(子ども・子育て総合センター) 令和元年6月 (2019年) 「平成30年度活動報告書」を発行 7月 平成30年度の活動報告会を開催(子ども・子育て総合センター) 令和2年6月 (2020年) 「令和元年度活動報告書」を発行 U 令和2年度の活動状況 1 相談活動の状況 令和2年4月1日から令和3年3月31日までの相談活動の状況は、令和元年度からの相談継続件数を含め、以下のとおりです。 (1) 相談の状況 令和2年度の新規件数は208 件でした。 令和元年度からの継続件数は94件だったため、令和2年度は、合計で302件の相談対応をしました。 令和3年度へ継続する件数は66件になりました。 (2)令和2年度の新規件数 令和2年度の新規件数、208 件の月別・相談者別の内訳は以下のとおりです。 (3)令和2年度の延べ相談対応数、活動回数 新規件数208件に令和元年度からの継続件数94件を加えた302件について、延べ相談回数804回(初回から終了までの間に相談者から寄せられた電話やメールなどによる相談回数)、相談者への活動回数485回(「せたホッと」から相談者に対して連絡を行った回数)、関係機関との活動回数310回(学校や区の他部署等とのやり取りを行った回数)、そのすべてを合わせた総活動回数は1,599回となりました。 活動回数の中には終了後の見守り対応も含んでいます。 なお、令和元年度の総活動回数は2,616回でした。 (4)相談状況の詳細と前年度との比較 1 相談内容 令和2 年度の新規の相談内容で最も多かったのは、「対人関係の悩み」(37件、17.8%)でした。次いで、「家庭・家族の悩み」(30件、14.4%)、「心身の悩み」(25 件、12.0%)、「学校・教職員等の対応」(24件、11.5%)、「いじめ」「子育ての悩み」(23件、11.1%)となりました。 令和元年度と比較すると、「虐待」や「家庭・家族の悩み」「子育ての悩み」など家庭に関する相談や「心身の悩み」が増え、「いじめ」「学校・教職員等の対応」や「学習・進路の悩み」など学校に関する相談が減少しました。 2 初回の相談者 令和2年度は、子ども「本人」からの相談が119件(57.2%)、「友だち」からの相談が2件(1.0%)「きょうだい」から1件(0.5%)でした。 おとなからの相談は、「母親」(74件、35.6%)、「父親」(5件、2.4%)、「祖父母」(1件、0.5%)、「関係機関」(2件、1.0%)となりました。 「関係機関」の内訳は、「学校」、「新ボップ」、「その他」の内訳は、「友だちの保護者」や「近隣住民」などでした。 区立小学校施設を活用して安全・安心な遊び場を確保し、遊びを通して社会性、創造性を培い、児童の健全育成を図るボップ事業に学童クラブ事業を統合し、一体的に運営している事業です。 3 初回の相談方法 初回の相談方法は、「電話」が全体の7割以上(159件、76.4%)であり、次いで、「メール」(41件、19.7%)、「面接」(8件、3.8%)となりました。 「手紙」、「FAX」による初回の相談はありませんでした。 令和2年度は、子どもからの「メール」による初回相談が増加し、子どもからの相談の約3割(35件、28.7%)を占めています。 4 相談対象となる子どもの所属 相談対象となる子どもの所属では、「小学校」に在学している子どもに関する相談が全体の約5割(108件、51.9%)で最も多く、次に「中学校」(50件、24.0%)、「高校等」(39件、18.8%)となりました。 また、令和元年度に比べ、「未就学」と「高校等」に関する相談が増加しました。 「高校等」には、18歳又は19歳で高等学校等に在学および児童福祉施設に在籍している場合も含む。 5 相談対象となる子どもの学年 相談対象となる子どもの学年で最も多かったのは、「小学校5年」(24件、11.5%)でした。 次いで、「小学校6年」「中学校1年」(22件、10.6%)、「小学校3年」(21件、10.1%)となりました。 「不明」が令和2年度度はいませんでした。 令和元年度に比べ、「未就学」「高校等2年」の件数は増加しました。 ほかの件数は減少していますが、「小学校3年」「小学校5年」「中学校1年」「中学校2年」などいくつかの学年では割合が増加しています。 「学年不明」は、学年や所属を確認できずにメールや電話での相談を終えたケースや、学年や所属を明かしたくないといった相談が含まれます。 「高校等」には、18歳又は19歳で高等学校等に在学および児童福祉施設に在籍している場合も含みます。 6 相談者との相談方法 相談者とのやり取りは、子どもが774回、おとなが515回、合計1,289回でした。 令和元年度に比べて全体的に大幅に減りました。 そのうち、相談者からの相談方法で最も多いのは、子どもは「メール」(229回、29.6%)、次いで「電話」(169回、21.8%)でした。 おとなは「電話」(257回49.9%)が最も多く、次いで「メール」(64回、12.4%)となりました。 「せたホッと」から相談者への連絡方法では、子どもに対しては「メール」(242回、31.3%)、おとなに対しては「電話」(110回、21.4%)が、最も多かったです。 令和2年度は、子どもからの「メール」による相談が「電話」の相談をはじめて上回りました。 また、令和元年度より「面接」による相談が子どももおとなも半分以下の回数になりました。 7 初回の相談者が子どもの場合の相談内容 初回の相談者が子ども(本人119件と友だち2件、きょうだい1件を合わせた122件)の場合の相談内容は「対人関係の悩み」(29件、23.8%)が最も多く、次いで「家庭・家族の悩み」(27件、22.1%)、「心身の悩み」(23件、18.9%)となりました。 令和元年度に比べ、「虐待」、「家庭・家族の悩み」、「心身の悩み」、「学校の悩み」の相談割合が増加しました。 「いじめ」、「学校・教職員等の対応」、「対人関係の悩み」等の相談は件数も割合も減少しました。 8 初回の相談者が子どもの場合の子どもの学年 初回の相談者が子どもの場合、「小学校5年」(16件、13.1%)が最も多くなりました。令和元年度に比べて、「小学校5年」、「中学校2年」、「高校等2年」からの相談が増加し、「小学校1年」、「小学校4年」、「小学校6年」など複数の学年では相談が減少しました。 「学年不明」は、学年や所属を確認できずにメールや電話での相談を終えたケースや、学年や所属を明かしたくないといった相談が含まれます。 「高校等」には、18 歳又は19 歳で高等学校等に在学および児童福祉施設に在籍している場合も含みます。 9 初回の相談者が子どもの場合の性別 初回の相談者が子どもの場合における性別の内訳は、女子からの相談(74件、60.7%)が男子からの相談(44件、36.1%)よりも多かったです。 令和元年度に比べて、男子からの相談の割合が減りました。 10 委員・専門員の総活動回数(相談方法別) 相談活動の方法としては、「電話」(840回、52.5%)が約半数で最も多く、次いで「メール」(596回、37.3%)、「面接」(158 回、9.9%)となりました。令和元年度との比較では、「メール」での相談活動の割合が増えました。 11 委員・専門員の総活動回数(相談対応先別) 相談対応先としては、「子ども」(774回、48.4%)とのやり取りが最も多く、次いで「おとな」(515回、32.2%)、「関係機関」(310回、19.4%)でした。 令和元年度に比べ、「子ども」とのやり取りの割合が全体の約半数に増加しました。 12 新規件数と総活動回数の月別推移 新規件数は、6月が最も多く、次いで10月と2月に多く相談がありました。 総活動回数は、10月、7月、2月の順に多く活動しました。 2 権利の侵害を取り除くための申立て等 令和2年度は、世田谷区子ども条例19条に基づく権利侵害を取り除くための申立てはありませんでした。 3 相談方法と内容の分析 令和2年度の新規相談件数は208件でした。 令和元年度からの継続件数94件をあわせると、総相談件数は302件でした。 令和2年度は、例年に比べ、子ども・おとなともに新規相談件数が減少しました。 初回の相談方法は、子ども・おとなともに電話が多く、次いでメ―ル、面接となっており、手紙、ファックスでの相談はありませんでした。 また、全体の初回の相談方法としては、電話が減少した一方で、メールが増加しており、特に子どもによるメールでの相談が増加しています。 相談対象者となる子どもの所属としては、「小学校」が減少した一方で、「高校等」が増加しました。 「せたホッと」への相談は例年、小学生に関する相談が約6割と最も多く、またその大半が電話を相談方法として選ぶ傾向にあります。 令和2年度は、その小学生に関する相談が減少したことが全体の件数に大きく影響していると考えられます。 これには、様々な要因が想定されますが、その一つに、学校の一斉臨時休校や不要不急の外出自粛要請、国からのテレワーク推進の要請など、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、子どもと保護者が家の中で一緒に過ごす時間が増えたことが影響していると考えられます。 上記を要因として小学生に関する相談が減少したと考えた場合、ポジティブな面とネガティブな面があると考えられます。 ポジティブな面というのは、子どもと保護者が一緒にいる時間が増えたことにより親子間のコミュニケーションが増え、相談する必要がなかったのではないかということです。 CCC マーレットホールディングス株式会社が行った「親子関係に関するアンケート調査」によると、全体の約7割が自粛期間で子どもと過ごす時間が「増えた」と回答しており、4割近くが自粛期間を経て親子関係が「より円満になった」と回答していることが分かりました。 このように、一部の家庭では、子どもと過ごす時間が増え、子どもの話を保護者がじっくり聴くことができたことで、子どもの安心感につながったり、悩みが大きな問題となる前に解決できたりしており、「せたホッと」の相談に至らなかった可能性が考えられます。 ネガティブな面というのは、子どもと保護者が一緒にいる時間が増えたことにより相談しづらくなった可能性があるということです。 これまでの子どもからの相談でも、保護者に気づかれないか心配しながら電話をかけてきたり、保護者が来たら電話を切ったりする場面がありました。 このことから安心して相談できない子どもたちが少なからずいることを感じています。 「親に聞かれたくない」、「親のことを相談したい」、 「親に心配をかけたくない」という子どもたちにとって、今回のような環境は相談のハードルを大きく上げることになったと考えられます。 特に、携帯電話を持っていなかったり、キッズ携帯等で発信できる相手に制限がかかっていたりする小学生にとって、影響が大きかったのではないでしょうか。 令和3年度からは、そのような子どもたちにも「せたホッと」を利用してもらいやすくなるような取り組みとして、「はがき相談」を新たに開始しようと準備を進めています。 子どもの一番近くにいる存在である保護者だからこそ話せないという子どもたちの切実な思いも大切にしながら、これまで相談につながらなかった子どもたちにも出会えることを期待しています。 令和2年度は、メールでの相談が増加しました。 メールやインターネットを利用しやすい状況にある子どもたちは、新型コロナウイルス感染症の中においても保護者の目を気にすることなく相談できたのかもしれません。 また、「せたホッと」は、平成31年2月より認定NPO 法人3Keys が運営する10代向け支援サービス検索・相談サイト「ミークス」に情報を掲載しています。 「ミークス」の利用者数は令和2年2月末時点で150 万人を超えており、「せたホッと」のメール相談の利用に影響を与えているかもしれません。 また、「高校等」からの相談も増加しました。 現在、ほとんどの高校生が自分の携帯電話を所持し、小中学生と比べるとフィルタリング設定率も低下しているなど、多くの高校生が保護者に管理されることなく自由に使用できる環境にあります。 また、先述した「ミークス」はインターネットを手軽に利用できる高校生前後の子どもが多く利用していることが想定されます。 加えて、後述する心身の悩みを抱える子どもたちが急増しているといった背景も影響して、「せたホッと」への高校生の相談が増加したのではないかと考えています。 令和2年度の新規件数における相談内容の傾向としては、学校に関係する「対人関係の悩み」や「学校・教職員等の対応」が減少する一方で、「心身の悩み」や「家庭・家族の悩み」が増加しました。 初回の相談者を子どもに限った場合で、最も多かった相談内容も、「対人関係の悩み」、「家庭・家族の悩み」、次いで「心身の悩み」となっており、こちらも「心身の悩み」や「家庭・家族の悩み」が増加しています。 「心身の悩み」と「家庭・家族の悩み」が例年に比べ大きく増加した点が、令和2年度の大きな特徴であるといえます。 「心身の悩み」については、厚生労働省・警視庁によると、令和2年の児童生徒の自殺者数は、過去最多の499 人を記録し、文部科学省5 は、自殺の原因として、「病気の悩み・影響(その他の精神疾患)」や「病気の悩み・影響(うつ病)」が増えていることを示しています。 このことから分かるように、心身の悩みを抱え苦しんでいる子どもが急増していることが懸念されます。 「せたホッと」の相談においても、例年「心身の悩み」は中高生に多い傾向にあり、令和2年度については、「高校等」の割合が増加しているため、「心身の悩み」も必然的に増加したと考えることができます。 相談内容としては、「こころが落ち着かない」、「眠れない」といったものや、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で「部活動が休止になってしまったり、楽しみが減ってしまったりして苦しい」、さらには、「自傷をしてしまう」などといった自分を大切にできないという深刻なものまであります。 特に中高生は、保護者からの自立が大きな心理的テーマとなり自分と向き合う機会が増え、こころも不安定になりやすい時期だといわれています。 それに加え、昨今では新型コロナウイルス感染症の影響やSNSやゲームの普及などによる情報化の問題など子どもを取り巻く社会はどんどん複雑化しています。 そのような子どもたちのこころの支えとして「せたホッと」が機能することが求められてきていると痛感しています。 「家庭・家族の悩み」については、例年多く相談が寄せられますが、令和2年度は例年以上に高い割合でした。「親が厳しい」、「親と喧嘩した」、「両親が仲良くない」といった相談が複数寄せられています。 テレワークや外出自粛が求められたことで、家族で一緒にいる時間が増え、子どもと保護者との間で衝突が生じやすくなったり、子どもの前で両親が喧嘩をするといった場面が増えた家庭も多かったのではないかと思います。 「子育ての悩み」も例年に比べ、高い割合となっています。 保護者としても子どもとの時間が増え、子どもとどう接するとよいか悩むことも増えたのではないでしょうか。 また、例年の相談では、母親に対しての相談が多く寄せられていましたが、令和2年度は父親に対しての相談も複数ありました。 今後もテレワークが推進され、父親が家事や育児により参加していくなかで、保護者の子どもへの関わり方にも変化が出てくるのではないかと思います。 学校に関係する「対人関係の悩み」や「学校・教職員等の対応」が減少したことについても、新型コロナウイルス感染症の影響を受けていると思われます。 学校の一斉臨時休校や分散登校、また、通常通りの登校になった後も子ども同士の接触の制限などを受けて、子どもたち同士のトラブルや子どもと教職員とのやり取りが減少したことで相談のニーズも減少したことが考えられます。 その一方で、「SNSのグループである子が仲間外れにされている」、「オンラインゲームで友だちと喧嘩した」といったSNSやオンラインゲーム上でのトラブルに関する相談も複数あり、このような相談は外からは見えづらく子どもが悩みを一人で抱えてしまっている場合が多くあります。 今後も子どもの声にじっくり耳を傾け、子どものSOSをキャッチできるよう注視していく必要があると思います。 令和2年度は新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けた年となりました。 そして、残念ながらまだしばらくこの影響は続きそうです。 この危機的状況は、様々な場面で子どもの権利が犠牲になってしまう危険性を含んでいると思います。 「せたホッと」としても、この危機的状況に対応できるよう子どもが声をあげやすい相談システムの構築と子どもの権利に関わる広報啓発活動にますます取り組んでいく必要があると考えています。 V 相談対応・調整活動状況 1 事例紹介 プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 事例1 母親 未就学児 いじめ 電話 相談内容 同じクラスの子から、追い掛け回されたり、悪口を言われたりする。 私が相手の子に対して注意をした時には、相手の子の保護者から、「子どもなんだから、そんな注意しないでほしい」と言われてしまった。 園に相談しても、何もしてくれない。 小学校は違うところに通わせたいが、そういう相談はできるでしょうか。 せたホッとから 母親に現在の状況や具体的にどういったことを言われているかを確認していきました。 相手の子どもとは、園だけでなく近所の公園でも会うことがあり、気軽に遊ばせることができないでいるとのことでした。 本人は「園に行きたくない」と言う一方で、「相手の子にどういう風に言ったらわかってくれるだろう」と一生懸命に考えてもいるので、無理に転園はさせたくないと思っているとのことでした。 また、園長に相談したところ、「相手の子は気持ちが不安定なところがあるから」と言われてしまい、「守ってもらえないんだな」と思ってしまったとのことでした。 「せたホッと」から、他に相談しやすい先生がいるか尋ねたところ、副園長なら話しやすいとのことでした。 また、本人は担任の先生のことを好きと言っているため、本人からは担任の先生へ嫌だったことを伝えてみる、母親からは副園長へ相談してみることを提案しました。 さらに、家が近所であり、今のままでは小学校が同じになってしまうという懸念に対しては、学区域変更をする場合の条件を「せたホッと」と一緒に確認しました。 変更希望の際には、教育委員会に相談してみてほしいということを伝え、電話を終えました。 プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 事例2 その他 小学生 いじめ メール 相談内容 近所の公園で複数の子どもが1人をいじめているような光景を何度か目撃した。 暴力は無いようにみえるが、暴言がある。 小さな子も遊ぶ公園なので、言葉をまねしたり、何か悪い影響がでるのではないかと心配になってメールしました。 せたホッとから 近所の公園での出来事をいじめではないかと思い、心配してメールをしてくださったことに感謝を述べ、さらに詳しい話をお聴きしたいと返信しました。 相談者からは、「何度か目撃したがいつも3〜4人くらいの子が1人を追い掛け回していて、ぶったり、蹴ったりはないが、『死ね』とか『学校にくるな』とかの暴言を聞いたことがある。 これはいじめではないだろうか」と返信が来ました。 また、相談者の他にも目撃している方がいるので、学校名、学年、子どもの名前がわかるとのことでした。 この相談を受け、委員と専門員で協議し、学校へ訪問することになりました。 訪問すると、学校としてもいじめについての対応をしているところでした。 副校長からは「学校外のことはなかなか見えてこないので知らせていただきありがたい」 「引き続きいじめが起こらないよう指導していくとともに、関係機関とのつながりや地域でのおとなの見守りも大事にしたい」と話してくれました。 「せたホッと」からは「いじめ予防授業」ができることを伝え、検討していただくことになりました。 後日、相談者に報告すると、「学校でいじめについての対応をしていることがわかり安心した」と話されたため、相談を終了しました。 プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 事例3 父親 小学生 いじめ 電話・面接 相談内容 転入してきて、クラスに馴染めないなか、複数のクラスメイトからちょっかいを出される。 蹴られたりもしており、昨日はハサミを向けられた。 いつも相手の方から近づいてきてやられている。 本人から担任の先生に相談しているようだが、解決に至らない。 本人がどこかに相談したいと言っていたので「せたホッと」を探して電話してみました。 せたホッとから まずは電話で父親が知っている内容を聴き取りました。 そのうえで、「せたホッと」は直接子どもの意見や気持ちを聴き、それをもとに活動していることを説明し、本人が来所できる日を決めました。 後日、委員と専門員で、本人と父親と面接を行いました。 本人からは、相手の子がハサミを振り回したりすること、他の子もやられ始めていて、特におとなしい子が狙われていること、何とかしたいがどうにもできないことなどを話してくれました。 父親からは、本人が先生に相談できているので大丈夫だと思っていたが、最近は相手の子に襲われる夢まで見始めていて心配だということが話されました。 本人が相手の子に頑張って対応してきたことをねぎらい、相談しに来てくれたことへの感謝と、「せたホッと」が学校に訪問して本人の気持ちを話しに行くことができることを伝えました。 本人から「学校と話して何とかしてほしい」という希望があったため、学校に訪問することになりました。 委員と専門員で学校に訪問し、本人が相手の子に襲われる夢を見るまで苦しんでいることや何とかしたいもののどうにもできない気持ちがあることを管理職に伝えました。 学校としても、本人に怖い思いをさせてしまったことを申し訳なく思っており、おとなの目を増やし、席替え等をして様子をみたいとのことでした。 後日、父親から「先生がうまく相手の子に対応してくれたようで、何かされるようなことはなくなった」という報告がありました。 また何かあれば「せたホッと」から学校に再度話しに行くこともできると伝え、見守りを続けています。 プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 事例4 本人 中学生 虐待 電話・面接 相談内容 お父さんから「今すぐ宿題をしなさい」「今すぐお風呂に入りなさい」などと言われ、従わないと叩かれる。 私が従わないのが悪いんだけど、怖くて手の震えが止まりません。 助けてください。 せたホッとから 本人の「怖い」という気持ちに対し「手の震えが出るほど怖かったんだね」と伝え、また「怖い気持ちを抱えながら今までよく頑張ってきたね」と本人の頑張りをねぎらいながら話を聴いていきました。 本人は「もっとひどいことをされている人もいる」「叩かれるのは普通のこと」と話していたため、「せたホッと」から「どんなに怒っていても暴力はしてはいけないことなんだよ」と説明しました。 さらに、本人のことが心配なので、もっと詳しく話を聴きたいと伝え、「せたホッと」で会って話すことを提案しました。 本人も会って話したいが、世田谷区の学校に通っているけど世田谷区には住んでいないから今すぐに会えないということだったので、下校後に学校の近くで会う約束をし、電話を終えました。 翌日、本人と会って話すことができました。 「せたホッと」から再度本人が今まで頑張ってきたことをねぎらい、これからは「せたホッと」を含めた周りのおとなが支えていきたいということを伝えました。 あわせて、虐待に関する相談先として児童相談所があることを伝えると、「叩かれるのが増えるかもしれない」という心配が話されました。 「せたホッと」からは「暴力はやめてほしいと思うし、そのためには児童相談所に相談してほしい。心配はあると思うけど、児童相談所の人は暴力がなくなるまでお父さんやお母さんに何回でも説明してくれる」ということを話しました。 さらに、本人の不安を軽減するために、児童相談所で話すときに「せたホッと」が同席することを提案すると、「それなら話せるかも」ということで、本人と「せたホッと」と児童相談所で話すことになりました。 その後、本人の居住地の児童相談所に連絡し、面接を行いました。 児童相談所は家庭訪問をし、父親への指導をしてくれることになりました。 「せたホッと」へは、引き続き本人から相談があり、家庭のことだけでなく、学校での不安や悩み事についての話を聴きながら、見守りを続けています。 プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 事例5 その他 小学生 体罰 電話・面接 相談内容 うちの子の友だちがサッカーのクラブチームに所属しているが、話を聴いていると、そこでの指導が行き過ぎているように思われます。 暴言や暴力があり、「辞めたい」と言っている子もいるようです。 どうしたらいいでしょうか。 せたホッとから クラブチームに所属している子どもやその保護者から直接話を聴きたいと伝えたところ、相談者が声をかけてくれ、複数の子どもたちとその保護者が来所してくれました。 話を聴くと練習中に「クソ」と言われたり、頭を叩かれたりしており、練習内容も厳しく、泣いてしまう子も多くいるとのことでした。 子どもたちは「サッカーやチームメイトは好きだから続けたいけど、コーチが怖くて練習に行きたくない」と話してくれました。 保護者たちは「改善してほしいとコーチに言った親子もいたが、最終的に辞めさせられてしまったこともあり、怖くて言えない」「保護者のなかには、このような指導をよいと思っている人もいて、保護者間でこの話題を出しにくい雰囲気がある」と困っている様子でした。 また子どもたちから、「せたホッと」に対応してもらいたいけれど、誰が話したか内緒にしてほしいという希望があり、それを踏まえて対応することになりました。 その後、クラブチームを訪問し、子どもたちの気持ちを匿名でコーチに伝え、暴力や暴言を止めてほしいことを強くお願いしました。 コーチからは「保護者とは指導方針を共有している。 これまで特段問題はなかった」との話がありましたが、面接を重ねるなかで「試合に向けて指導に熱が入っていたのかもしれない」「保護者とも今一度話し合いたいと思う」という言葉を聞くことができました。 その後も数回の面接での議論を経て、クラブチームの保護者との話し合いを踏まえた改善策が示されました。 子どもたちには、また困ったことがあったら連絡してほしいと伝え、見守りを続けています。 プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 事例6 本人 小学生 対人関係の悩み 電話 相談内容 学校で友だちとけんかをすると、担任が「もう6年生なんだから自分たちで解決しなさい」と言う。 それなのにすぐ「謝罪の会」になってみんなで「ごめんなさい」と言わされて終わってしまう。 なんかすっきりしない。 解決になってない。 どうしたらいいですか。 せたホッとから 本人から、学校で友だちとけんかをした時、担任に相談しても、スクールカウンセラーに相談しても、「両方悪いよね?」「お互い謝ろう」と言われて、みんなで「ごめんなさい」をして終わりになってしまうという話がありました。 けんかについて何も解決されないため、しばらくお互い無視してしまうなどその後の友だちとの関係性にも影響があるようでした。 また「担任の『自分たちで解決しなさい』という言葉の意味がわからない」など、本人の納得がいかないことや不満も確認できました。 本人から「謝罪の会」に意味があるのかという疑問もあり、謝ることについて一緒に考えていきました。 謝罪については、自分は悪くないという思いが強く、相手が悪いのだから謝ってもらいたいとのことでした。 「せたホッと」から、お互いに謝罪して終わるのではなく、どうしてけんかになってしまったかを考えたり、自分の気持ちを伝え、相手の気持ちも聴いたうえで解決できるように話し合う時間を作るのはどうかと提案しました。 後日、話し合う時間を作ったことで、自分たちで解決できるようになったと報告があり、相談を終えました。 プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 事例7 本人 中学生 対人関係の悩み 電話 相談内容 SNSでトラブルにあっている。 クラスのSNSグループがあり、そこで悪口や無視といったことが起きている。 一人のリーダー格のような子がいて、その子が悪口を言ったらみんな同調している。 そういった悪口を聞くのも正直に言うと嫌で、でも学校からはSNSグループを作ってはいけないと言われており、先生に相談しにくい。 どうしたらいいだろうか。 せたホッとから 「せたホッと」にSNSでの様子や嫌だという気持ちを正直に伝えてくれたことに感謝を伝え、本人の気持ちに寄り添いながら話を聴いていきました。 そのうえで、現状について具体的にどのような悪口があるのか、またSNSグループ内がどのような関係性となっているのかを本人と一緒に整理していきました。 そのなかで、一人の子をグループから外そうという流 れがあり、何もしないでいるのはいじめに加担しているのと同じではないかと思っているとの話がありました。 「せたホッと」から、心配な状態だと感じるし、先生に伝えてほしいが、SNSのグループを作ってはいけないということを学校から言われていることもあるので、「せたホッと」から学校に話をすることや、守秘義務を持っているスクールカウンセラーに相談してみるのはどうかと伝えました。 本人からは「まずは自分でやってみます」という返事があったので、「うまくいかなければまた連絡してほしい」と伝え、電話を終えました。 プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 相談者 子どもの所属 相談の主な内容 相談方法 相談及び調整の概要 事例8 母親 中学生 家庭・家族の悩み 面接 相談内容 中学生男子の母です。 最近、コロナ禍の影響で夫の帰宅が早くなり、息子の何気ない生活習慣や勉強法などに関して、夫からの注意が多くなった。 息子は学校では元気なのに帰宅すると頭痛や腹痛を訴え、体調不良になってしまった。 どうしたらいいかわからない。 面接してもらえますか。 せたホッとから 母親が一人で来所し、委員と専門員で話を傾聴しました。 今まで父親は子育てには無関心だったが、帰宅が早くなったことで、夫の目が行くようになり、子どもの学習面や生活面のしつけに厳しくなりました。 さらに母親が担っていた子どもの教育に対しての文句も言い始めたことで夫婦喧嘩が増えてしまい、息子は夫婦喧嘩を自分のせいだと感じてしまって体調不良になっているとのことでした。 母親の困りごとや家族のなかの父親の存在を整理していき、家族でどのように解決していくかを一緒に考えました。 後日、母親から電話があり、家族会議を開いて息子に対する教育の役割分担をし、父親は息子との共通の趣味であるギターや、学校でのリモート授業や調べもので使うパソコン操作を教えることになりました。 すると、父子間の会話が変わり、息子の体調不良が少しずつ改善しているとのことでした。 また困ったら相談してほしいこと、本人からの相談も受けられることを伝え、終了しました。 プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 相談者 子どもの所属 相談の主な内容 相談方法 相談及び調整の概要 事例9 母親 中学生 子育ての悩み 電話 相談内容 中学生の子どもがゲームをやめられない。 生活習慣が乱れてしまい、成績も下がっている。 子どものスマートフォンの使用時間を制限したり取り上げたりもしたが、親の端末を勝手に使ったりする。 そこまでしてやる意味がわからない。 また、ゲームの内容が暴力的であるため、その影響が出ないか心配。 もうどうしたらいいかわからない。 せたホッとから 母親の今までしてきた対応を傾聴し、その頑張りをねぎらいました。 その後、なぜ子どもがゲームをやめられないかを考えていくなかで、子どもにとってゲームがどういう役割を果たしているかを一緒に考えていくことになりました。 話をしていくと、以前本人が「やっていないと『キック』されちゃう」と言っていたことがあることがわかりました。 「キック」とはゲーム内で仲間はずれにされることであり、子どもにとってゲームがコミュニケーションの一つの方法となっており、ゲームのなかでの関係性が現実の対人関係に影響しているのではないかと伝えました。 また、外で遊べない状況のなか、ゲームのなかで友だちと会話している側面もあるという話もしました。 母親から「子どもがゲームをやりたい理由が友だちとのことだとは思わなかった。 今度は友だち関係について話をしてみる」という言葉があり、電話を終えました。 プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 相談者 子どもの所属 相談の主な内容 相談方法 相談及び調整の概要 事例10 本人 高校生 学習・進路の悩み メール 相談内容 家族に受験や志望校について口を出されており、プレッシャーが大きくてつらい。 得意なこともないし、やりたいことやなりたい職業もこれといってない。 勉強も得意ではないし、塾の先生からも志望校を下げたほうがいいと言われ、なんでこんなに頑張らなくてはいけないんだろうと思い始めてきた。 せたホッとから 本人としても頑張りたい気持ちはあるものの、家族からは勉強に対していろいろなこと を言われ、友だちからも「つらいのはあなただけじゃない」と言われるため、誰にも話せ ず、6か月近くつらい気持ちを抱えているとのことでした。 「長い間一人で頑張ってきたん だね」と本人の頑張りをねぎらい、つらい気持ちに共感していきました。 何回かやり取りを続けていくなかで、昔は将来の夢があったが、親に「お前にはできない」と否定されてしまったとのことでした。 「せたホッと」から、「大切な夢を否定されたら誰でも苦しいと思う」と伝え、将来の夢がどんな仕事であるか、その仕事に就くためにどんな進路があるかなどを一緒に考えていきました。 その後も受験のための勉強方法や面接の心構えについて一緒に考えていき、志望校合格の知らせを受け、終了となりました。 プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 相談者 子どもの所属 相談の主な内容 相談方法 相談及び調整の概要 事例11 本人 中学生 心身の悩み メール 相談内容 最近、ストレスを感じやすく自分で自分を傷つけてしまうことがある。 やめたいと思っているのにやめられない。 どうしてなのか。 親や先生には心配させたくなくて話せなかったので、「せたホッと」にメールをしてみた。 せたホッとから 誰にも話せないなか、「せたホッと」に相談してくれたことに感謝を伝え、傷の具合や今一番何にストレスを感じているかを確認していきました。 本人としては母親との関係について悩んでおり、何をやっても怒らせてしまうとのことでした。 また、自傷行為は体をつねったり、指や爪を歯形ができるまで噛んだりしてしまうと話してくれました。 「せたホッと」から、「イライラや不安があると自傷行為をしてしまうのは、自分自身をストレスから守ろうとしているからだよ」とどうして自傷行為をしてしまうのかを説明し、それほど苦しい思いをしていることに共感しました。 ただ、一方で自分を傷つける行為は万が一のこともあるし、できれば他のことでストレスを少なくしていってほしいと伝え、本人にとって興味のあることについて一緒に考えていきました。 「せたホッと」から、好きな音楽を聞いたり、運動したりといったことを提案するなど、何回かメールでのやり取りを続けています。 プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 相談者 子どもの所属 相談の主な内容 相談方法 相談及び調整の概要 事例12 本人 小学生 性の悩み 電話・面接 相談内容 自分は女子だが、「私」と言うのが嫌で、本当は「僕」と言いたい。 スカートをはくのも嫌だし、女子と遊んでいても楽しくなくて、男子と遊びたい。 親は中学受験をして女子校に行くことを勧めるけれど、行きたくない。 親にはなんて言ったらいいのかわからない。 せたホッとから 電話だと少し話しにくい様子でしたので、会って話すことを勧めたところ、後日、来所してくれました。 自分の身体的な性に違和感があるという本人の気持ちに寄り添い、どうしたらよいかを一緒に考えました。 今一番の困りごとは中学受験のことで、両親が勧める女子校には行きたくないとのことでした。 さらに話をしていくと、共学での部活動や課外活動などに興味があること、制服をズボンかスカートか自由に選べるのは魅力的であることなどを教えてくれました。 「せたホッと」から、本人が中学で何をしたいかを中心に親に伝えてみるのはどうかと提案すると、もう少し自分でも考えつつ、まずはいつも優しく応援してくれている母親に話してみることになりました。 また自身の性については、どう伝えていったらいいかを今後も「せたホッと」と一緒に考えていくことになりました。 本人は「お母さんにうまく話せそうになかったら、また来る」と話し、面接を終えました。 プライバシー保護のため、複数の事例から構成するとともに、内容等も一部変更しております。 相談者 子どもの所属 相談の主な内容 相談方法 相談及び調整の概要 事例13 本人 その他 その他(見守り支援) 電話 相談内容 中学や高校でも学校に行けないときがあって、そのたびに「せたホッと」に何回も相談していました。 あれからなんとか大学に進学したのですが、新型コロナウイルスの影響で大学に行くことがなくなり、リモート授業だと勉強がよくわからなくなってしまいました。 新型コロナウイルスに感染するのも怖くて外にも出たくなく、引きこもりの状態です。 「せたホッと」にまた助けてほしい。 せたホッとから 以前から相談してくれていたことや、「せたホッと」に再度相談してくれたことに感謝を伝えました。 「せたホッと」では、世田谷区から引っ越したり、18歳以上になってしまったり等で相談対象ではなくなってしまった子どもに対して、その後も他の相談機関を一緒に探すなどの見守り支援ができることを伝え、新しい相談機関を探していくことになりました。 元々本人の居住地は区外であり、在籍している学校も大学に進学したことで区外となってしまったため、世田谷区内の他の関係機関には相談しにくい状態であることがわかりました。 そこで、本人の居住地の相談機関を一緒に探していきました。 さらに、大学の学生相談室についても検討し、メールでの相談ができるかなどを調べました。 また、本人から「うまく話ができるか自信がない」という心配が話され、「最初だけ『せたホッと』が新しい相談機関に話してもらえないか」と話がありました。 そのため、まずは簡単に「せたホッと」から、新しい相談機関に本人の状態や現在の悩みについて話し、あとから本人が連絡することを伝え、相談を終了しました。 2 関係機関との連携 令和2年度において、「せたホッと」と関係機関等との連携の傾向としては、次のようなことが挙げられます。 まず、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、関係機関とのやり取り自体が令和元年度の534件から310件に減少しました。 この件数には子どもにかかわる関係者等とのやり取りも含まれます。 中でも関係機関への訪問による調整活動が例年より少なくなり、関係機関・関係者等には電話での調整活動が多くなりました。 令和2年度から世田谷区児童相談所が開所しました。 児童虐待防止法に基づき、世田谷区に住んでいる子どもたちの虐待の通告などを、世田谷区児童相談所にするようになりました。 それに伴い、これまで地域における第一義的な児童虐待の通告先であった子ども家庭支援センターとのやり取りが減りました。 また、世田谷区以外に住んでいて、世田谷区内の学校へ通学している子どもに虐待が疑われた際には、子ども自身にその子どもの居住地の児童相談所や子ども家庭支援センターに連絡したいことを相談の中で了承を得たり、緊急性を判断したりしながら、通告や情報提供をしてきました。 子どもの居住地を担当する関係機関と子どもが直接連絡をできる場合には、対応をお願いすることもありましたが、子どもとのやり取りがメールのみの場合等、引き続き「せたホッと」が子どもと連絡を取り、関係機関との間に入ってやり取りをすることもありました。 例年多く寄せられていた「いじめ」や「学校・教職員等の対応」などの学校に関する相談が減少したため、学校への関係調整も減少しました。 新年度早々、学校が始まらなかったことなど、こちらも新型コロナウイルス感染症の影響があったと考えられます。 一方で、学校や子どもに関することを教育委員会へ問い合わせなども含めてやり取りすることが多くありました。 学校関連以外には、未就学児に関する相談について、保育課や教育委員会学務課などとやり取りがありました。 その他の連携した関係機関としては、「ほっとスクール」や「メルクマールせたがや」などがありました。 初回の相談者が「関係機関」である場合に行ったやり取りは、310回の中に含まれません。 「子ども家庭支援センター」とは、東京都内の区市町村において、18歳未満の子どもと家庭の問題に関するあらゆる相談に応じる総合窓口として、地域の関係機関と連携をとりつつ、子どもと過程に関する総合的な支援を行うことを目的に平成7年より始まった東京都独自の制度です。 世田谷区内には5 地域に各1か所設置されています。 また、平成25年度に開所した「せたホッと」は、令和2年度に8年目を終えましたが、長期にわたって相談対応している場合もあります。 それらの相談は「せたホッと」だけでなく様々な関係機関によって子どもをともに見守りながら支援している場合が多いです。 学校に関する相談の場合、相談者(子ども)本人や家族の同意を得た上で、相談した子どものことについて、「せたホッと」が学校と調整していきます。 その相談の多くが子どもの成長や学年が上がるなどの環境が変わることで解決していきます。 このような場合は、見守りを含めても、1年から1年半程度で終了することが多いです。 一方で、家庭に関する相談は、虐待だけでなく子ども自身の心の問題も含めて、相談が長期にわたり、相談内容が複雑になってきており、「せたホッと」だけで権利侵害を取り除くことが難しいことが多くなってきています。 特に、「せたホッと」は相談者(子ども)の対象年齢が18歳(高校等卒業)までと決められているため、その後の相談者のよりつながりやすい相談先をともに探していくことも、「せたホッと」の課題だと感じています。 さらに、学校等や家庭以外の地域において子どもの権利侵害が疑われるとの相談が寄せられることも増えてきました。 その場合、権利侵害が疑われた子ども自身のために多くの関係機関、関係者等に問い合わせをし、ご協力をいただきながら、権利救済につなげていくことも多かったです。 様々な関係機関に「せたホッと」の活動を理解していただきながら、子どもの最善の利益を一緒に考えて対応していただきました。 今後も世田谷区児童相談所のように新たにできる子どもにかかわる関係機関にも「せたホッと」を知ってもらい、子どもたちの権利を守るために協力をお願いしていきたいと思っています。 3 その他 世田谷区子ども条例施行規則第8条第2項に基づき、専門的事項に関する分析、鑑定等を依頼しました。 7月17日 子どもの権利を踏まえたスポーツ指導のあり方等専門的事項 伊藤 雅充 教授 (日本体育大学) 3月31日 相談対応における専門的事項(児童精神医療) 田中 恭子 医師 (国立研究開発法人 国立成育医療研究センター) W 広報・啓発活動 1 広報・啓発 機関を身近に感じてもらえるよう「安心して相談できる機関」、「顔の見える相談機関」をモットーに、広報・啓発活動に取り組んでいます。 2 研修会への講師派遣 関係機関、子どもにかかわる団体等の研修会に講師として参加しています。 11月20日 青少年委員会 烏山地域合同研修会 委員・専門員 3 視察受入れ 視察がありました。 内容としては、子ども条例改正の経緯、内容、子どもに係わる関係機関との連携状況、事務局の運営状況等を説明しました。 10月7日 日本弁護士連合会国内人権機関実現委員会 10月30日 昭和女子大学 人間社会学部 学生 2月18日 世田谷区議会議員 4 関係機関との意見交換 世田谷区内の子どもと関わる機関と連携し、積極的に意見交換しました。 9月18日 要保護児童支援協議会(北沢地域)専門員 9月23日 要保護児童支援協議会(世田谷地域)専門員 10月2日 要保護児童支援協議会(烏山地域)専門員 10月12日 要保護児童支援協議会(玉川地域)専門員 10月15日 要保護児童支援協議会(砧地域)専門員 12月3日 いじめ防止等対策連絡会 委員 12月10日 要保護児童支援協議会(全区) 委員 新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から書面開催 X メッセージ、相談者からの声 1 子どもサポート委員 子どものしあわせを願うこととパターナリズム 子どもサポート委員 平尾 潔 校則問題 近頃、校則に関するニュースが多くみられます。 2020年に福岡県弁護士会が行った調査では、下着の色を先生がチェックする、女子は髪を耳の下で結ばなければいけない、男子は側頭部を短く刈り上げるいわゆるツーブロックの禁止などが挙げられていました。 校則の中には、下着の色は白、体育の時には体操服の下に下着をつけてはならないなど、不合理に思われるものもあり、教育委員会が是正するよう指導するなどの問題にも発展しています。 やっかいなのは、これらの校則が、「児童生徒のためを思って」制定されているところです。 学校というところは、「大人が子どものためを思って」制定したルールや慣例がたくさんあります。 「子どものためを思って」の目当て、行事やルール 学校では、目当てが石碑のようなものに彫ってあるのをみかけます。 「〇〇小の子」として、「がんばる子 思いやる子」といった言葉が書いてあります。 校則では「〇〇学校の生徒にふさわしい服装を心がける」「中学生らしい髪型」などと記載されることもあります。 大人が描く理想像に近づく子どもが育つように、という思いから定められているものでしょう。 子どもを「健全に育成する使命感」を強く感じます。 運動会や体育祭はだいたいどこの学校でもやっています。 私は、こういう行事は子どもたちが運動を楽しむスポーツフェスティバルのような日にすればよいのではないかと思うのですが、そうはなっていません。 集団演技という種目があり、全体で統率の取れた踊りや行進、器械体操などを演技します。 上手にできる子どもばかりではありませんから、運動会、体育祭がイヤだという子どももいるのですが、こういう種目はなかなかなくなりません。 学芸会も同様で、当然、お芝居の好きな子どももいれば、そうでない子どももいます。 これも長年続いている学校行事です。 これらは、いずれも「みんなで力を合わせてひとつのものを作り上げる」という一体感が教育上有効であるとみなされて行われているものでしょう。 一体感になじめない子もいるので、その子どもにとっては疎外感を感じることにもなりえます。 冬になると学校でもマラソン大会がよく行われます。 個人の速い遅いだけで評価するだけでなく、各人に自分の持っているタイムよりも少しでも早くなるよう目標設定させ、そのタイムを上回るように努力させるという学校もあります。 自分の持つ力を少しでも向上させるよう努力することで人間性が高められる、という配慮からくるものでしょう。 家に帰ったら帰ったで、保護者からもいろいろなことを求められます。 受験勉強、好き嫌いなく食べること、ちゃんと家でも勉強すること。 こういったことを、保護者は「あなたのためを思って」という枕詞を付けて子どもに求めます。 「終わりのないマラソン」 これらの目標、きまりは、いずれも「子どものために」という理由から、大人が定めたものです。 子どものためを思って大人が決める。 これを「パターナリズム」といいます。 大人が「子どもらしさ」「子どもはこうあるべき」「子どものためにはこれが必要」と定め、それをルールとして子どもに要求するのです。 背景には、子どもを権利の主体というよりは、「大人が責任を持って健全に育成するべき対象」ととらえる考え方があります。 子どもが自分で定めた目標や決まりではなく、大人から課されたものだということがポイントです。 このような状況は、子どもにとっては、いつも何かの目標を課され、それに向かって努力することを強いられている状態です。 ある目標を乗り越えても、場合によってはさらに高い目標が課されることもあります。 たとえて言えば、休みたくなっても、後ろからブルドーザーのようなもので追いかけられているから走り続けなければならない、「終わりのないマラソン」のようなもので、子どもたちは非常にストレスフルな状態に置かれています。 言い換えれば、こういった状態は、子どもにとっては、「お前には足りないものがある」「そのためには努力しろ」と言われ続けていることを意味します。 ありのままでいい、今のままで十分だと言ってもらって安心したくても、これではできません。 低い自己肯定感 このようなことも大きな原因だと思いますが、日本の子どもの自己肯定感の低さが指摘されています。 第38回教育再生実行会議(2016年10月28日)の参考資料2によると、日本の高校生を対象にした2015年の調査で、自分をダメな人間だと思うことがあると回答したのは、「とてもそう思う」「まあそう思う」の合計が72.5%に達しました。 同じ調査で、米国は45.1%、中国46.4%、韓国35.2%と、日本だけが突出して高い数値を出しています。 この「終わりのないマラソン」についていけない子どもたちは学校に行けなくなります。 もちろん、不登校の原因がこれだけではありませんが、不登校は2019年度で、小中学校で18万人を超え、7年連続増加、過去最多を更新しました。 自殺者も多く、2020年ではコロナ禍もあり小中高生の自殺は479人と過去最多を更新しています。 パターナリズムの限界 このように見ていくと、パターナリスティックな「上からの目標設定」、その背景にある「子どもは大人が健全育成する対象」という考え方が限界にきていることが分かります。 私たちは、子どもを育成の対象としてではなく、権利の主体としてとらえる必要があります。 これを、権利基盤型アプローチと言います。 自分はどう生きたいのか、今は人生の中でどういう時期なのか、自分がしたいことは何か、そういったことを子どもたち自身が考えて、それに大人が応えていく、そういった教育やしつけこそが、まさに子どもの権利に基盤を置いた考え方で、今求められえているのではないでしょうか。 「せたホッと」の重要性 子どもたちは社会的な弱者です。 これまで述べたことを子ども自身が声に出すことは簡単ではありません。 せたホッとにコンタクトしてくる子どもたちの声は、つらい、苦しい、なんとかして、という悲鳴に近いものがたくさんあります。 私たちは、子どもの権利を大切にしながら、今日もその声を聴き、一緒になって考え、子どもたちの苦しみを少しでも和らげることはできないかと、考えながら走り回っています。 参考・引用資料等 1 「校則に関する調査報告書」(令和3年2月17日) 福岡県弁護士会 2 新たなテーマ2「子供たちの自己肯定感が低い現状を改善するための環境づくりについて」に関する 参考資料(文部科学省「我が国の子供の意識に関するタスクフォース」より報告) (平成28年10月28日) 3 「令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」 (令和2年11月13日) 文部科学省 4 「コロナ禍における児童生徒の自殺等に関する現状について」(令和2年2月15日) 文部科学省 2 相談・調査専門員 子どものために保護者を支える 相談・調査専門員 渡邊峻平 「せたホッと」にくる電話やメールなどによる相談は、毎年約6割程度が子どもからの相談で占められています。 子どもだけの相談で終わることもありますが、相談を続けていくと保護者からもお話を聞くことがあります。 そうして、保護者とも子どものことを一緒に考えていくのですが、その中で感じることは、子どもの気持ちと保護者の気持ちが完全に一致することは少ないということです。 「せたホッと」は、子どもの人権擁護機関として、子どもから直接話を聞き、子どもの最善の利益を目指した活動を行っています。 そのため、関係機関への調整や調査を含め、「せたホッと」の活動は子どもから話を聴くことを重視しています。 ただ、相談の中には、保護者が子どもの気持ちを代弁するということがあります。 子どもが心理的にその時の出来事を思い出したり、話したりすることが難しい場合や、外に出るのが怖くなってしまった場合など、保護者しか面接に来られないということがあり、そういった時には保護者が自ら聴き取った子どもの気持ちを話してくださることが多くあります。 子どもの気持ちの代弁という形になるので、子どもから話を聴いたことと同じだと思われますが、実際にはそうではありません。 人は誰かに話をする際、目の前の相手に伝えたいことを意識的または無意識的に表現しています。 それは、言葉によるものだけではなく、しぐさや態度といった言葉以外のことも使って伝えようとしています。 そのため、保護者が聴き取った子どもの気持ちは、その保護者に向けられたものであり、「せたホッと」に向けられたものではないのです。 例えば、「学校に行きたくない。先生が嫌い」と子どもが保護者に向けて言ったとします。 それは、保護者に自分の気持ちをわかってほしいと思っていたり、極端に言えば「私を見てほしい」という訴えであったりする可能性もあります。 このように、子どもが伝えたい相手との関係性によって、子どもが話すことが変わってくるのです。 また、子どもの気持ちの代弁を基に「せたホッと」に関係調整や調査について相談されることもあります。 「子どもは先生が嫌いと言っていたから、先生に謝ってほしいと思っているはず」という話をされたり、時には子どもから気持ちや考えを聴かず、こう思っているだろうとお話しされたりする保護者の方もいらっしゃいます。 こういった話は、どうしても保護者の気持ちや考えが含まれたお話になってしまいます。 特に家族という特別な関係性では、子どもの意見も同じだろう、同じであってほしいと思ってしまうものです。 令和2年度は、新型コロナウイルスの影響で、家族で過ごす時間が増え、改めてそれぞれの家族の形やあり方を考えるといったことがあったのではないでしょうか。 一緒に過ごす時間が多かったり、血のつながりを感じたりすると、家族としての意見となってしまいがちです。 そうすると、個人の気持ちや考えが何なのかという見落としが出てきてしまいます。 違う人間であるので、意見や気持ちが違うのは当然なのですが、家族という関係性や子どもの危機に対しての不安や焦りから、普段なら気づけるような当然のことでも見落としてしまうことが多いのです。 以上のことから、子どもから直接話を聴いていくことはとても重要なのです。 ただ、そうは言っても、子どもから話を聴くことがどうしても難しいということがあるのも事実です。 前述したように、心理的に話すことが難しい場合だけでなく、保護者も子どもに話してほしいが話してもらえない時、そもそも保護者さえ子どもと関わりを持つことができない時、関わりを持てたとしてもすぐにケンカになるなど話ができる状態でなくなってしまう時など、様々な事情が考えられます。 このような子どもが話せないという状態には何かしらの理由があります。 その理由が何かを見極めて解消していかないことには、当然ながら問題は解決しません。 また、その理由のなかには、子ども自身の心理的・身体的理由だけでなく、保護者の気持ちによるものが含まれることもあります。 子どもがその時の出来事を思い出して話すことで傷ついてしまうのではないか、より深刻に悩んでしまったり落ち込んでしまったりするのではないかなど、子どもがいま以上に傷つくことを恐れない保護者はいないと思います。 なぜ子どもが話せないかという理由のなかに、保護者の不安や苦悩を組み込んでいく必要があるのです。 子どものことで悩んでいる保護者は、誰しもが現状に苦しんでいます。 その苦しみから抜け出すためにすることすべてが悪い方向にいってしまうのではないか、もうこれ以上何をしたらいいかわからないという方も多いと思います。 そうした時、相談機関は保護者を支えていく必要があります。 保護者は最も子どもと関われる可能性を持っている重要な存在です。 子どもの苦しみを取り除いていくことが主たる目的ですが、その目的のために子どもの苦しみとは別に、保護者が抱える苦しみに共感し、ある程度の道筋を一緒に考えていくことも相談機関の役割であると考えます。 「せたホッと」では、子どもの権利救済のために子どもから話を聴く必要がありますが、子どもが話せるようになるためにどのようにしたらいいかを保護者と一緒に考えていくということが重要だと思います。 子どもを支えていくことを最も重視していかなければなりませんが、子どもの利益のために保護者を支え、どうしたらいいかを一緒に考えていく必要があるのです。 保護者は子どもを支える一番手です。子どもを直接支えられないという場合には、子どもを支えている保護者を支えることが必要です。 現状をその都度整理していき、「せたホッと」に何ができるか、何が子どもの最善の利益になるかを考え、これからも相談対応を行っていきたいと思います。 ★★★53〜★★★ 「責任を取る」に寄り添う 相談・調査専門員 竹内麻子 はじめに 「自分がこれだけ傷ついたことについて、先生はどう責任を取るつもりなんですか?」 学校の先生に向けられた子どもの言葉。 もうずいぶん前のことですが今でも心に強く残っています。 その後長く重苦しい沈黙があって、私のほうから「君が傷ついたことの『責任』を取ることは残念だけど誰もできない。 たとえ先生が学校を辞めたとしても、君の傷つきが癒されるわけではないんじゃないかなって私は思う」と(いうようなことを)返したと記憶しています。 子どもの権利擁護機関で相談にあたっていると、「責任を取る」という言葉とよく出会います。 学級の荒れやいじめなどを理由に不登校になった場合は、初めに受けた傷つきもさることながら、本来であれば享受できたはずの楽しい学校生活を送れなくなってしまったこと(失った時間)による喪失感や、学校に行けないことに伴って経験される「不安」「孤独」「焦燥感」といった様々な感情体験による苦しみが非常に大きなものとなります。 時に長く続くこのストレスにさらされることは、子ども本人にとっても、それを見守る保護者にとっても大きな苦痛です。 また保護者は、体調面・生活面でのお子さんの変化に戸惑い、「ちょっと無理してでも学校に行かせるべきなのか」「どういう風に関わってあげたらいいのか」など様々な養育上の悩みを抱えつつも、子どもを苦しめている状況を改善すべく、学校などの関係するおとなと交渉を行っていかなくてはなりません。 それによってご自身の仕事や他のきょうだいへの関わりの減少など、様々な生活上の変化を余儀なくされる場合もあります。 そのような状況の中で、この苦しみの責任はどこにあるのか、またそれを問いたいと感じる心の動きは自然なことだと思います。 ただ同時に、人と人が関わって誰かが傷ついたときに「責任を取る」ことは果たして可能なのか、またそこに立ち会って、自分には何ができるのかといつも考えさせられます。 責任の意味 そもそも私たちは民法や刑法といった「法律」というルールのもと社会生活を営んでおり、他人によって何らかの損害や被害を負わされたときには、法の手続きにもとづき、金銭賠償や原状回復のような形でそれを回復し、場合によっては国家権力によって相手を罰してもらうこともできます。 しかしながら、相談者が「責任を取ってほしい」と語るとき、ほとんどの場合に法の適用を受けるということを指してはいません。 「責任」という言葉を広辞苑で引くと、1「人が引き受けてなすべき任務」2「政治・道徳・法律などの観点から非難されるべき責(せめ)・科(とが)。 法律上の責任は主として対社会的な刑事責任と主として対個人的な民事責任とに大別され、それぞれに一定の制裁を伴う。」という二つの意味を持っていることがわかります。 このため、誰かから「責任を取る」ことを求められたときに、私たちは何らかの建設的な提案なども含めて、「あなたの立場でやるべきことがあるでしょう?」と言われているのか、それとも法律上の「責任」に近しいかたちで「あなたは何らかの制裁を受けるべきである」と言われているのか迷うこととなります。 では、責任を取るには「制裁」を受ける必要があるのでしょうか。 確かに、「うちの子(私)はこんなにつらい思いをしたんだから、その責任を取ってほしい」と保護者の口からその言葉が語られるとき、相手に「同じくらいの痛みを感じてほしい」という気持ちも多少は含まれているかもしれませんし、「目には目を歯には歯を」を代表とした「同害報復」が古来多くの法律で採用されていたことを考えれば、むしろそれが人情というものなのかもしれません。 でも同時に、何らかの痛みを相手に負わせれば、その「傷つき」は本当に回復するのでしょうか。 例えば、誰かが我が家の塀を壊したとしたら、相手方にお金を出させて(金銭的な痛みを負わせることによって)新しい塀を立てることができます。 ついでに前々から気になっていた経年劣化のひび割れもきれいにできるかもしれません。 しかしながら、犯罪被害者への支援に関するこれまでの歴史的な流れをみる限りにおいても、傷ついた心の回復に対し、相手に「痛み」を与えることがどの程度の効果を発揮するのか、もしあるとしてもそれはどういう条件がそろった場合なのかなど、中身の精査が必要なのではないかと思います。 また、これまで見てきたケースの限りでは、相談者が本当にして欲しかったことは、相手を罰することではなく、クラスの他の子どもたちや関係するおとな、学校全体から、当たり前に受け入れられ、支えられていることを実感できることだったように思います。 モノである壁と違って、人の心は自己回復の力を持っています。自戒も込めて考えてみると、目に見えない心の傷や身体化した様々な症状、表面化している怒りに目を奪われて、私たちは時に相談者の持つ状況に適応する力を信じ、支えるという視点を持ちにくくなってしまうことがあるように思います。 しかし「引き受けてなすべき任務」ということを考えたときに、本当は、相談者の持つ健康的で適応的な側面である「回復力」を信じ、決して孤立させずに近くでしっかりと支えていくということが、相談者のニーズに一番沿っているのかもしれません。 養育レジリエンスについて 「レジリエンス」とは、重大なストレス(例えば、災害によって大きな被害を受ける、大切な人を失うというような)にさらされる状況下において、一時的に深刻な心理的落ち込みを経験したとしても、そこから立ち直っていく過程のことを指す概念です。 書籍などでは、ストレスを上手にコントロールし「折れない心を作る」「逆境に耐える力をつける」というように、回復する「力」を意味する言葉として使用されることも多いため、そのような形で知っている方も多いかもしれません。 このレジリエンス(回復)の過程が良好に進んでいくか否かには、本人のものの捉え方や考え方、行動傾向といった個人内要因と、ソーシャルサポートの有無のような環境要因の両方が影響を与えると考えられています。 発達障害・知的障害がある子をもつ養育者のレジリエンスに関する研究(鈴木,2021)では、養育者が「養育困難があるにも関わらず、良好に適応する動的な過程」を「養育レジリエンス」と定義し、「小学校入学後、子どもの困難さが顕著になる」「子どもがいじめにあう」など、子どもに関する問題が起きると、養育者は一時的に落ち込みを経験するものの、養育レジリエンスの要素(回復にあたってポジティブに働く個人内要因や環境要因)が豊富にあれば、さまざまな場面で回復しやすくなるとされています。 この、養育レジリエンスに影響を与える要素には、「親意識」「自己効力感」「特徴理解」「社会的支援」「見通し」といった5つの要素があり、その中の「社会的支援」には、1受容的態度で接してくれる人が周りにいるという「聴き手の認知」、2困った時に助けてくれる人がいるという「支援者の認知」、3養育者に対し負の影響を及ぼし、どんなに説明しても変わらない「無理解者の容認」(そういう人もいると認めている状態)が含まれ、教育者や保育者が「聴き手」「支援者」の役割を担うことができれば、養育者がレジリエンスの要素を獲得したことになるため、回復にポジティブな影響を与えることを指摘しています。 強い言葉の背景にあるもの 私たちの脳はある一定以上の強い感情に出会うと「今は危機的な状況である」と判断し、興奮状態(過覚醒状態)になり、自分や他者の心の状態(本当の気持ち、自分の行動によって相手がどう感じるか等)を想像することや、自分や他者の言動について、その人の精神状態などと結び付けて考えること(相手の立場なども含め、想像力を働かせて相手の発言を解釈する等)が難しくなるといわれています。 子どもが学校に行けなくなるという事象は、多くの場合、親の心に様々な強い感情を湧き起こします。 その結果、後から冷静になって考えると「少し言い過ぎたかな、、」と思うような、普段よりも攻撃的な対応をとってしまったり、極端な対応を求めてしまうこともあるかもしれません。 今回テーマにした「責任を取る」という言葉も、そういう「熱くなってしまっている」タイミングで使用されることが多い言葉です。 「責任」という言葉は非常に強い言葉です。向けられた側はかなりの心理的な苦痛を感じます。 そして、それによって支援者の側の防衛反応が働くと、関わりを避ける、相手を責める、意図していなくても、早口になったり、声が大きくなったりして、相手を抑圧してしまうということが起こりがちです。 しかしそうなると、ご家庭はソーシャルサポートを失い、本来持っている健康的な適応力を発揮しにくくなることにより、問題の解決から遠ざかっていってしまいます。 それは双方が望まないことです。 個人内要因の強弱に関わらず、環境要因の充足は危機に面しているご家庭の回復に良い影響を及ぼすのは間違いありません。 保護者の怒りの背景には「子どもが今どういう状況なのかわからない」「今の対応がベストなのか不安である」「このままずっと学校に行けなかったらどうしよう」といった養育にかかわる不安や、「子どもが今こんなに苦しんでいることをわかって欲しい」という親として当然の気持ちが第一感情としてあります。 レジリエンスの視点から考えてみると、一時的に表面化している怒りに目を奪われることなく、第一感情の部分を「支援者」「聴き手」としてしっかりと支えていくことが、問題解決にあたって一番大事なのかもしれないなと思います。 おわりに 学校からの帰り道。 駅での別れ際「話してみてどうだった?」と聞くと、「まぁ予想通りでしたけど、よかったです」とその子は答えてくれました。 私が感じた限りでは、あの時その場にいたおとなは全員、長い話し合いの間誰もその子の言葉から目を背けることなく、真剣に向き合っていました。 あの時間も次のステップに漕ぎ出していく、あの子の支えになってくれていたらいいなと今でも思っています。 もちろん何も起きていなかった時まで時間を戻せたならば、それが一番いいのかもしれません。 でも、「覆水盆に返らず」というようにそれはかないません。 しかしながら私たちは、自分でまたは誰かの力を借りながら自分の心をアップデートすることができます。 お盆に同じ水を戻すことはできなくても、新しい水を注いでお盆を豊かに満たすことはできるのです。 「今・ここ」の人生をどう歩んでいくのか、その重苦しい沈黙の時に、子どもの、そして関係するおとなたちの隣に入れる存在であれたらなと切に願っています。 参考・引用資料等 鈴木浩太「発達障害・知的障害がある子をもつ養育者のレジリエンス―園や学校での家庭支援を充実させるために―」『発達教育』2021年2月号 3 相談者からの声 「せたホッと」から ぼくは学校でいじめをうけました。 学校の先生に相談しても話すらきいてもらえず困っていたときに、せたホッとに相談しました。 せたホッとの先生方はぼくの話をよくきいてくださり、とても優しく接してくれました。 また、ぼくの為にうごいてくれてぼくが一番しあわせだと思える環境をいっしょに考えてくれました。 そのあともときどきお電話をいただき、ぼくの今の様子をきいてくれたので、とても安心して学校生活をおくることができました。 ぼくがとても楽しい思い出と共に卒業することができたのは、せたホッとの先生方のおかげです。 ぼくをとても良い環境に導いてくれたせたホッとの先生方、本当にありがとうございました。 子どもの声を受けて 当時、お子さんが相談してくれたのは、小学校低学年の頃でした。 お子さん自身もご家族も、 とてもつらい思いをされてきたことを丁寧にお話ししてくれました。 つらい気持ちを話すことは、とても勇気がいることですし、さらにつらい思いをすることもあったかもしれません。 その勇気やつらさを、よりよい力に変えていってほしいと思いながら、委員と専門員でお話をお聞きしました。 さらに、お子さんやご家族が望んだ選択が、お子さんやご家族にとって良い選択となるかどうかということも一緒に考えていきました。 お子さんが楽しい学校生活を過ごせたのは、学校の先生や子どもたちとの信頼関係やご家族の支えがあったからだと思います。 そして、何よりもお子さんが持っている素晴らしい力によるものだと思います。 その力は「他者を信じる力」であり、「自分を信じる力」だと思っています。 これから先の学校生活も素晴らしい力で楽しまれることを、陰ながら応援しています。 ご卒業、おめでとうございました。 おわりにかえて コロナ禍における子どもや保護者の実状や相談を通して見えてきたこと 子どもサポート委員 半田 勝久 新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、学校や日常生活における活動が制限されており、子どもも親もストレスを抱え、先行きの見えない不安な毎日を過ごしています。 日々のニュースや新聞では、新規感染者数や病床のひっ迫状況が報道され、より一層の感染予防対策が求められています。 自粛要請が続いていると、不安を抱え、心が落ち着かず、鬱々とした気分になってしまう方も多いです。 そうした最中、「せたホッと」に、世田谷区青少年委員会第5ブロック地域合同研修会の講師の依頼がありました。 テーマは「コロナ禍の今、みんなどうしてる?」でした。 研修会コーディネーターの青少年委員の方々との打ち合わせの中で、今自分たちの置かれている生活の実状から、子どもとの関係について考えていきたいという話になり、参加予定者に事前アンケートを取っていただくことになりました。 「コロナ禍で家庭生活や子育てにおいて変わったと思うことはなんですか?」という項目では、よかったととらえた回答には、「家族で話す時間が増えた」「食事など皆がそろってとれたり父子の交流時間が増えた」「家族で何か一つをやりとげようと話し合い、実行にうつせた」といった家族団らんの時間が増えたことによる効果があげられました。 子どもの学習や勉強面では「どんな勉強をしているのか、よく分かった」「個々のペースや体調で勉強をすすめられた」「小学生の勉強をゆっくりみてあげられる時間が増えた」といった子どもの学びの様子を理解したり、勉強を見てあげたりすることができたというものでした。 生活面では、「日頃習い事などで忙しかったので子どもがのびのび1日を過ごせた」「子どもと色んな事にチャレンジ出来た」「学校提出の健康カードを記入することで子どもの平熱が分かった」といった回答がありました。 これらに共通したものは、家族で過ごす時間が増えたことにより、親子の会話が増え、子どもの様子が理解でき、一緒に何かに取り組むことができたといった前向きな気持ちでした。 一方、困ったこととしては、「生活が不規則になった」「運動不足になった」「友人と接する機会がなかった」「緑(自然)とふれ合う機会が減った(視力の低下)」といったこれまでできていたことができなくなったことによる負の側面、「子供がスマホ(ユーチューブ)を見る回数が増えた」「公園や友人と遊べない時期はゲームやタブレットの時間が増えた」といったこれまでできなかったことができるようになったことにより、親があまりしてほしくない時間の使い方が増えたことでした。 また、「家族全員分の食事を毎日3食作る事」「子どもの勉強(宿題)を家で見るのが大変だった」といった家事が増えたことや子どもの生活面や学習面でサポートすることへの負担感が目立ちました。 他には、「家族全員が1日家にいるので息抜きができなかった」「家族で気軽に旅行に行けなくなった」といった、様々な制限のなかストレスが溜まり、リフレッシュすることも難しい様子も浮かび上がってきました。 日本体育大学野井研究室が実施した「子どものからだと心に関する緊急調査」(2020年5月休校中、6、7月休校明け)によると、保護者の「心配ごと」では「運動不足になってしまうこと」(82.7%、54.9%)、「勉強を教えてもらえないこと」(73.7%、20.8%)、「(思うように)外に出られないこと」(71.9%、41.8%)、「感染症にかかること」(66.0%、63.4%)、「友達に会えないこと」(61.9%、18.6%)となっており、学校再開後にはこれらの心配ごとが程度の差はあるが減少している。 保護者の「心配ごと」は、先の青少年委員会のアンケートと似た結果となっています。 一方、子どもの「困りごと」の回答では「(思うように)外に出られないこと」(61.0%、32.4%)、「友達に会えないこと」(56.5%、12.2%)、「運動不足になってしまうこと」(56.1%、30.0%)、「感染症が不安なこと」(44.0%、40.4%)、「勉強を教えてもらえないこと」(39.0%、8.5%)となっており、保護者と上位5項目は同じですが、「(思うように)外に出られないこと」や「友達に会えないこと」が上位となっています。 学校再開後の調査では、「マスクをつけなければならないこと」(保護者49.2%、子ども49.4%)、「学校行事がないこと」(保護者43.0%、子ども34.0%)、「友達と今まで通り遊んだり話したりできないこと」(保護者37.0%、子ども28.6%)が、あらたな「心配ごと」や「困りごと」として上位になっています。 コロナ禍(特に休校中)においては、外出制限が続くなか、人とつながることが遮断され、学校再開により人と会えるようになってもソーシャルディスタンスをとることや会食が制限されたり、黙食が推奨されたりするなか、近づくことや会話することが好ましいとされない傾向にあり、さらには学校行事がなくなり、友達と今まで通り遊んだり話したりできないことにより、心のつながりにまで鍵をかけられてしまった状況のようになっている子どもや保護者も少なくないように思われます。 「せたホッと」にも新型コロナウイルス感染症にかかわる相談がいくつも寄せられました。 「父親が在宅勤務中で、殴られたり蹴られたりする」「父親がコロナの影響で異動になり、精神的に不安定で、子どもにあたっている」といった虐待が疑われる相談、「コロナで自傷行為が再発した」といったSOSを発している相談、「オンライン授業から登校に切り替わった後、何日かは行けたが学校に行けなくなってしまった」「自粛の影響で引きこもってしまい親子間で会話がない」といった不登校やひきこもりにかかる相談、「オンライン授業になり、課題をするのが難しくなって疲れた」「学校から大量の課題が出ている。 子どもたちだけではできず、母親が仕事から帰宅してから課題をやることになってしまう」といった学校や習い事・塾の課題にかかる相談、「保護者会や授業参観がコロナでなくなり、学校に様子を見に行くことができない」「コロナの影響でスクールカウンセラーに相談に行けない」といった学校に子どもの様子を見に行ったり、相談に行ったりできないといった相談、「共稼ぎであり、子どもが一人で留守番になる。 行政は、そんな子どもの居場所を考えていない」といった子どもの居場所にかかる相談などがありました。 「オンラインゲームやSNS にはまっていて、生活習慣が乱れているし、成績も下がっている」「特定のオンラインゲームにはまっているが、ゲーム時間も長すぎるし、暴力的なところがあるから心配である」「スマートフォンを解約すると親から言われて、死にたい」といったゲームやインターネットにかかる相談も多いです。 近年、「ネット依存」や「ゲーム障害」が社会問題になってきています。 国立病院機構久里浜医療センターが行った「ネット・ゲーム使用と生活習慣についてのアンケート」(2019年)によると、10歳から29歳に調査を行った結果、学校や仕事のある日の1日平均インターネット利用時間で4時間以上と回答したものは36.4%であり、休みの日になると56.8%とさらに増えます。 ゲーム時間に関して平均4時間以上と回答したものは、学校や仕事のある日が9.3%、休みの日が25.8%となっています。 先に紹介した「子どものからだと心に関する緊急調査」においても、コロナ休校中と休校明けとにおけるネット依存傾向を見てみると、小学5・6年生男子(休校中:不適応的使用25.4%、病的使用21.5%、休校明け:不適応的使用21.9%、病的使用27.0%)、同女子(休校中:不適応的使用21.3%、病的使用11.4%、休校明け:不適応的使用22.3%、病的使用16.8%)となっており、2019年3月に行われた世田谷区における先行研究(男子:不適応的使用19.1%、病的使用8.7%、女子:不適応的使用17.2%、病的使用6.8%)よりも増加しています。 近年、WHO(世界保健機関)は、ゲーム障害を国際疾病分類に位置付けており、ゲームが他の人生の利益や日常の活動よりも優先順位を上げ、個人的、家族的、社会的、教育的、職業的、またはその他の重要な機能領域に著しい苦痛または重大な障害をもたらすとしています。 コロナ禍において、ゲームやインターネットとどのように付き合っていくかは、国内外で大きな課題とされています。 一方、子どもたちには、安心できる居場所として、インターネットのなかで、思いや気持ちを出し合える場があることが、子どもの成長にとって欠かせないものともなっています。特にコロナ禍において、「子どもの安心できる居場所としてのインターネット」という社会への理解の醸成も図っていかなければならないと考えます。 インターネットやデジタル環境を、子どもの権利保障の観点に基づきプラスの側面から考察してみると、デジタルテクノロジーの革新は、子どもの表現の自由、参加、学習、休息、余暇、遊びなどにおいて、多様な権利実現や自己実現の支援につながります。 さらには、生活の便利さ、オンライン授業など教育の機会の拡大、緊急時(震災、コロナ禍など)のライフラインにも活用できます。 コロナ禍においては、環境の変化や未知のことへの不安や恐怖から、心のバランスや人との関係性が崩れてしまうこともあります。 そんなときに「せたホッと」をご活用いただき、元気を回復するために何ができるか一緒に考えることができれば幸いです。 参考・引用資料等 日本体育大学野井研究室「『子どものからだと心に関する緊急調査』結果報告書」2021年1月30日 厚生労働省ゲーム依存症対策関係者連絡会議 2020年2月6日 資料2 樋口進「ゲーム障害について」国立病院機構久里浜医療センター 死亡率および罹患率統計のためのICD-11(バージョン:2020 年9 月)6C51「ゲーム障害」 せたがやホッと子どもサポート活動報告書(令和2年度) 令和3年6月発行 編集・発行 世田谷区子どもの人権擁護機関(せたがやホッと子どもサポート) 156−0051 東京都世田谷区宮坂3−15−15 (世田谷区立子ども・子育て総合センター3階) 電話03−3439−8415(事務局) ファックス03−3439−6777 せたがやホッと子どもサポートホームページ 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