資料2 令和3年8月12日 保育部 今後の保育施策の取り組み方針について 1 主旨 区では、これまで保育待機児童対策として私立認可保育園等の新規施設整備により保育定員を拡充し続け、2年連続保育待機児童ゼロを達成することとなった。 その一方、就学前人口は、平成30年以降減少し続けており、当面の間、減少傾向が続くと予想されている。 また、既存の保育施設の欠員の増加、新型コロナウイルス感染症の影響により今後の保育需要の見通しが難しいなど、新たな課題も生じており、当面の対応と中長期的な対応に分けて検討する必要が出てきている。 併せて、保育施設が地域の子育て家庭への支援に関わることへの期待がより高まっている。 こうした状況の中、これまで保育待機児童ゼロの達成を最大の目標として組み立ててきた保育施策を見直す必要が生じたため、新たな取り組み方針をとりまとめたので報告する。 2 現状と課題(参考資料1) (1)就学前人口の減少について 平成30年から減少に転じ、令和3年には、0〜5歳児の全年齢において減少し、ピークの平成29年と比較すると、約2700名の減少となっている。 また、最新の人口推計からも、当面の間、緩やかな人口減少が続くと推測されている。 (2)既存の保育施設の欠員の増加 認可保育園等の欠員が増加しており、令和3年4月時点では、特に0歳児の空きが急増し、私立認可保育園等の運営に影響を与える状況となっている。 (3)地域の子育て家庭への支援の充実 地域コミュニティの希薄化や核家族化の進展等により、身近に子育てに関する相談ができる相手がいないため、子育ての悩みや不安を抱え込んでいる家庭が増加している。 また、新型コロナウイルス感染症の拡大により、在宅子育て家庭及び保育園在園家庭においても地域でのつながりが更に希薄化している状況もあり、保育施設が専門性やノウハウを活かしながら、在園家庭に限定することなく地域の子育て家庭を支援することが、一層、求められている。 (4)保育施設の急増による保育の質の維持・向上 近年の区内保育施設の急増や保育施設等への認可・指導権限の移管に伴い、より一層、区における保育の質の維持・向上への取り組みが求められている。 また、保育の質の維持・向上については不断の努力が求められるところであり、区内のすべての保育施設が「保育の質のガイドライン」等に基づき、「子どもの権利に配慮し、人格を尊重した保育」を実現する取り組みを行っていく必要がある。 3 世田谷区の保育施策の目標 現状と課題を踏まえ、次の2点を保育施策の目標とした。 (1)保育待機児童ゼロの継続 待機児童ゼロは達成したが、依然として、入園を希望しているにもかかわらず入園できていない方もおり、今後の保育施設の空き状況や新年度の入園申し込み状況などを注視しながら柔軟に対応し、保育待機児童ゼロを継続していく。 (2)子どもを中心とした質の高い保育の実現 これまで、保育待機児解消のため、保育施設整備の拡充とともに質の高い保育の提供に関する取り組みも行ってきた。 今後も、「保育の質のガイドライン」等に基づき保育の質の維持・向上に取り組み、すべての子どもに対し、質の高い保育が提供できるよう、より一層、「子どもを中心とした質の高い保育」の実現を目指す。 4 目標達成のための3つの重点方針 これまでの課題に加え、新たな課題に対応し、保育施策の目標を達成するために3つの方針を定め、方針にもとづき今後、具体的な取り組みを進めていく。 ※なお、区立保育園については、この3つの重点方針を踏まえた上で、平成31年2月に定めた「区立保育園の今後のあり方〜未来に向けた区立保育園のあり方と「再整備方針」の見直し」に基づき、より具体的な取組みを進める。 重点方針1.保育定員適正化への取り組み (就学前人口の減少や既存の保育施設の欠員増加等への対応) 重点方針2.保育の質の維持・向上に向けた取り組み強化 (「子どもの権利に配慮し、人格を尊重した保育」の実現) 重点方針3.地域に開かれた子育て家庭への支援の充実 (保育施設による地域の子育て家庭への支援の拡充) 5 重点方針に基づき着手・実行する取り組み (1)保育定員適正化への取り組み 令和4年4月までに新たに実施するもの 1 新規施設整備等について 世田谷区は、保育待機児童ゼロを目指し、認可外保育施設も含めて、独自の補助金交付による施設整備や保育の質の向上へ向けた取り組みを行ってきた。 保育待機児童ゼロを2年連続達成したことや、区内の年齢別人口動態等により、今後、大幅な需要増の見込みが得られないことから、既存施設の支援強化のため既に事業決定しているものを除き、当面の間、認可保育園の新規施設整備は実施しないこととする。 2 認定こども園について 区立幼稚園の用途転換計画の見直しも含め、私立保育園等から寄せられている認定こども園への移行の相談等の諸課題を検討するために検討会を立ち上げ、区としての考え方をとりまとめていく。 3 区立保育園の対応について 1)弾力化定員に空きが生じている区立保育園は、早急に弾力化解消を実施するとともに、周辺地域の未就学児人口等の状況に応じた定員減を令和4年4月入園時から実施する。 2)区立保育園の再整備等については、新たな再整備手法の検討を始め、令和4年度に予定されている子ども・子育て支援事業計画の策定におけるニーズ調査等も踏まえ、次期再整備計画をとりまとめる。 4 私立保育園等の対応について 1)運営法人の意向も踏まえ、定員の弾力化解消を進めていく。 2)国有地等の賃貸期間が設定されている私立園や、老朽化の進んだ園への対応や調整等の支援を行う。 今後検討を進めていくもの 1 私立保育園運営について 安定的な園運営の支援に向けた課題を整理し、検討を進める。 2 保育室の移行支援について 移行支援事業者として決定している相手方との間で調整中であるが、移行候補地の保育需要が計画当初から大きく変化しているため、今後の保育園の整備計画に組み込み、対応していく。 3 認証保育所について これまで実施してきた1 歳児受入促進事業をはじめ、認可保育園等の保育料の水準を踏まえた負担軽減策、短時間勤務者への支援策など、認証保育所の補助事業の効果を検証し、夜間利用、短時間利用、就労要件のない利用など、認証保育所に求められるニーズ等を踏まえ必要な対応を進める。 (2)保育の質の向上へ向けた取り組み強化(参考資料2、3) 令和4年4月から新たに実施するもの 1 私立保育園等への取り組み強化 多様な運営主体により施設数が増加した中、今後すべての園が「保育の質ガイドライン」等にもとづき、子どもの権利に配慮し、人格を尊重した保育を実施していくため、巡回支援相談などのこれまでの取り組みに加え、学識経験者等の協力を得ながら、質の向上に向けた取り組みを進める。 1)保育部や乳幼児教育支援センターにおいて実施される研修を積極的に活用する。 2)開園にあたって条件を付した法人に対する指導や助言などの取り組みを推進し、継続したフォローアップを行っていく。 3)各施設と養成校との交流・連携による保育体験を通した人材育成等の取り組みを促進する(「世田谷きてみて保育」等)。 4)子どもや保護者と向き合うことを充実させるための業務負担軽減を促進する。 (区の業務と連動した事務の効率化等) 2 乳幼児教育支援センターを活用した取り組み(令和3年12月開設予定) 1)(仮称)指針・基本方針の策定とこれに基づく各種取り組みの展開 ・公私幼保共通体系による研修の実施 ・園評価(自己及び関係者)の実施と評価結果の公開 ・公開保育の実施(園内研修や園評価との連動含む) ・保育実践研究の促進を通じた好事例の蓄積とその活用 2)地域の教育・保育ネットワークの展開 ・「地域保育ネット」等これまでのつながりを活かしながら、より身近な地域単位での交流、連携 ・小学校との連携(交流促進、教育内容の接続、個別支援の継続など) 3)研究者、大学との連携 ・公開保育や自己評価促進の園内研修へのアドバイザー派遣 ・共同研究の実施(区における園評価の方法開発など) 既に実施しているが、今後更に強化を図るもの 1 区立保育園における取り組み強化 1)区立保育園が今後果たす役割に基づき、地区ごとの公的なセーフティネットの役割を担うため、各地区の区立保育園を「サポーター園」として指定し、地区の拠点として日々の交流の中で地区内のすべての保育施設から保育等に関する相談を受ける支援体制を強化する。 (令和3年度より、認証保育所等への支援開始、今後地域型保育事業、認可外保育施設へ拡充していく予定。) 2)各地域で取り組んでいる「地域保育ネット」の更なる活動強化のため、地域のネットワークの中心としての役割を担う拠点園が事務局機能を担うとともに、認可外保育施設へも参加を呼びかけ、地域のつながりを強め、地域全体の保育の質の維持・向上につなげる。 3)1)、2)の取り組みを通して、保育士等の専門性をより高めるために、地域の社会資源、医療機関等と連携しながら、共同研究等を行い、その成果を他の保育施設と共有する。 ※地域保育ネット:平成15 年度から始まり、区内5 地域に分かれて、公私立保育園、認証保育所、保育室、保育ママ、認可外保育園等が横断的に集まり、各地域での保育施設間のネットワークの強化、学習会の開催や施設間の交流等を通して、保育の質の維持・向上のための活動を行っている。 2 認可外保育施設への支援・指導 令和4年4月の世田谷区施設等利用費の支給に係る認可外保育施設の基準を定める条例施行後、幼児教育・保育無償化の対象外となる国の指導監督基準を満たさない施設も含め、引き続き適切な支援・指導を行う。 (3)地域に開かれた子育て家庭への支援の充実 地域の実情に応じた子育て支援を通して、子育ての課題の把握や多様な保護者への理解を深め、更なる支援へと活かしていく。 令和4年4月から新たに実施するもの 1 誰もが気軽に相談できる人や場の提供 1)区立保育園の福祉的役割の強化 一時保育の利用条件を緩和したモデル実施(令和3年度から開始予定)等により、支援を必要とする家庭の早期発見と継続的な見守り・支援を行う。 2)私立保育園の取り組み 一時保育事業の利用条件緩和に向けた調整を行う。 2 子どもの権利・人権に対する理解の促進 保育園の保護者や地域の子育て家庭に対して、「保育の質のガイドライン」や「なるほど!せたがやのほいく」等を活用しながら、子どもの権利に配慮し、人格を尊重した子育てについて伝える機会を設け、必要な支援を行っていく。 既に実施しているが、今後更に強化を図るもの 1 支援を必要とする子どもや家庭の早期発見および対応 1)「地域保育ネット」等を通じて、子ども一人ひとりの特性に応じた保育や福祉的な視点も含めた個別支援の実施方法等を地域の保育施設の間で共有しあい、保育士の専門的能力及び保育施設としての機能の向上を図る。 2)社会的孤立や生活の自立への支援等を視野に入れながら、関係機関との連携強化を図り、支援が必要な子どもや家庭を早期発見し、適切な支援につなげる。 3) 区立保育園において医療的ケアが必要な子どもの受け入れを進める(令和5年4月から(仮称)玉川地域拠点保育園で1名受け入れ開始予定)とともに、私立保育園等へ情報提供し、医療的ケアが必要な子どもについての理解の促進と知識・技能の共有を図る。 6 入園申し込みの見直しについて (1) 入園申込みの電子化等DX の取り組み(令和3年9月開始) (2) 出生前入園選考の開始(令和4年4月申込みから対応) (3) 0歳児クラスの区外居住者の4月入園申込みの受付開始 (在勤者は令和4年4月入園一次選考から、通過者は二次選考から対応) 7 今後のスケジュールと予定 9月2日(木)福祉保健常任委員会報告 (参考資料1) 資料1-1(保育所の利用児童数の今後の見込み:厚生労働省出典) 資料1-2(区の就学前人口及び認可保育園入園申込者数の推移) 資料1-3(保育定員数と待機児童数の推移) 資料1-4(区内認可保育園等の空き状況の推移・各年4月1日現在) 資料1-5(世田谷区の出生数と出生率の推移) 資料1-6(世田谷区0 歳児人口及び増減率の推移) 資料1-7(25〜34 歳女性就業率と女性人口の推移) (参考資料3) 「(仮称)指針・基本方針」の構成 1 私たちがめざす乳幼児期の教育・保育の基本 子どもを権利の主体(一人の人間)としてとらえる 子ども一人ひとりに対する理解を基盤とする 環境を通した教育・保育 育みたい資質・能力、幼児期の終わりまでに育ってほしい姿 保育者の主体性の発揮 2 実践の視点(例) (1)大切にしたい子どもの経験 発達の過程をとらえる基本的な視点 0歳児の保育 1・2歳児の保育 3歳以上児の教育・保育 5歳児後半の子どもの姿から、小学校の教師と子どもの育ちを共有する視点 (2)子どもの力を育む保育のプロセス 具体的なねらいと内容の明確化 環境の構成と保育者の援助 子どもの理解に基づく振り返りを通じて明日の保育を考える 園全体で教育・保育を実現していく 全ての子ども一人ひとりに応じた適切な配慮 (3)教育・保育をつないでいく 幼児教育と小学校教育との円滑な接続 家庭との連携 地域に開かれた教育・保育 3 教育・保育の質向上にむけた取組みの充実