はじめてのいってきます! サポーターズマニュアルだい2はん 子どもの安全を支える世田谷の力 子どもの危険回避プログラム 子どもの輝く明日のために 世田谷区は、平成16年、小学校入学を控えた保育園・幼稚園に通う年長児などが、入学後安全安心な生活を過ごすことができるよう、小学校に入るまでに危険に対応できる能力を身につけるためのガイドブックを作成しました(『初めてのいってきます!〜応援ブック〜』)。 それに併せ、えんの先生や保護者、地域の方々が子どもの危機管理能力の育成をサポートしていけるよう、大人向けの指導マニュアルも作成しました。それが、本サポーターズマニュアルです。 その後、文部科学省は、犯罪を含む様々な危機を乗り越える力を積極的に育てるため、安全教育を正規授業化(義務化)しました。 平成22年文部科学省は、幼児期の教育(保育園、幼稚園)と児童期の教育(小学校における教育)を円滑につないだ教育を進めることを定め(保幼小接続)、また平成30年からは、安全教育が正規授業化されました。 幼稚園や保育園でも小学校や中学校とつながりを持たせた安全教育を行わなくてはならなくなったのです。 安全教育が十分な効果を上げるために、まずえんで基礎を十分に培うことが求められます。 上記の変化を受け、サポーターズマニュアルを大幅に改訂しました。 本マニュアルと併せ「初めてのいってきます!応援ブック」をお読みください。 改訂版サポーターズマニュアルのポイント ●本マニュアルでは、卒園を目の前にした年長児までに身につけられるとよい「犯罪からの危機回避・克服力づくり」に焦点を絞りました。 ●園児の発達段階に沿った安全学習の目標と具体的内容をプログラムとして11ページに掲載しておりますのでご参考ください。 また特に重要な項目の幾つかを取り上げ、その大切さと具体的方法を示しました。 ●プログラムは、あくまでも「小学校に向けての接続期にこういうことをやっておくことが大切です」ということを示したものです。 プログラム中の全てを行う必要はありません。 今まであるえんのプログラムに必要だと思う項目があれば、えんの状況や子どもたちの様子に応じ選択していただき、やりやすいよう工夫しておこなってください。 目次 1.園の安全教育、これだけは心得ておきましょう。3ページ 2.その前どうする。4ページ 3.その時どうする。5ページ 4.その後どうする。10ページ 5.子どもの安全能力を測りましょう。10ページ 6.接続期におけるマイ園プログラムを充実させていきましょう。11ページ 【ごさんこう】接続期における犯罪からの体験がた安全教育基本プログラム。11ページ 1 えんの安全教育、これだけは心得ておきましょう 子どものための接続期の安全教育を工夫しましょう 子どもたちを取り巻く安全安心な環境は生活に合わせ変化し、指導方法や取り組みも変化しています。 本書の基本的な接続期安全教育プログラムを参考にしていただき、よりよい「マイ園子どもの安全プログラム」づくりを工夫してみましょう。 安全教育には、犯罪や地震などに共通して危機に備えた「3つのとき」があります。 1 その前どうする 何かことが起こる前に備えておかねばならない基礎的心構えや態度・行動 2 その時どうする 何かことが起こったその時どうするかの知識や態度・行動 3 その後どうする 何かことが起こったその後どうするかの知識や態度・行動 この3つの「とき」に沿って考えることは、子どもの危機問題の整理をとても簡単にしてくれます。 みなさんの「マイ園子どもの安全プログラム」づくりをこの「3つのとき」に沿って行うことをおすすめします。 備えておこう子どもの安全「2つの基本的心得」 心得その1 安全安心に「これで絶対だいじょうぶ」という言葉はありません。 危ない人(犯罪者)は絶えず勉強し手口を変え、一瞬の隙を見つけて行動します。 ですから「マイ園子どもの安全プログラム」を作り子どもを指導しているから絶対大丈夫、ということはありません。 常に見直して、改善・改良していきましょう。 心得その2 「そう言えば」「まさか」「あの時どうして」という言葉をなくしましょう。 危ないことが起こったその後で、深い後悔の念を込めてこの言葉が使われます。 危ないことには、事前に気がついた、もしくは気がつかなかった前兆があります。 どういった前兆があったのか確認し、えんの安全対策を見直していくことが大切です。 2 その前どうする 3つのときの内「その前どうする」では、普段から心がけておくとよい安全教育の基本的な心構えや態度などについて記載します(プログラム11ページ参照)。 1.命や体の大切さ、かけがえのなさを知りましょう 小学生へ向けた接続期に最も大切な安全教育の目標は「あなたの命や体は大切でかけがえのないものだ」ということを子どもが知り、感じることです。 子どもは純粋に「良いものは良い」、「いけないことはいけない」、「危ないことは危ない」など、生きていく上で根本的に大切なことを、素直に受け入れることができます。 「命や体」、「お友だち」の大切さを知ることは大変重要です。 自分の命や体が「大事だ」と思うことなしに、自分の力で自分の安全を守ろうという「自助の芽」は育ちません。 周囲の信頼できる大人やお友だちと「命や体」の大切さを共有し、「共に助け合う」という共助感覚の基礎を培い始めることができます。 2.「その前どうする」を体験しておきましょう 「その前どうする」では、命や体の大切さを知るほかに、危機を乗り越えるため必要な幾つかの基礎的事柄について体験していくことも大切です。 1 危機回避の第1歩は「歩き方練習」から 子どもの犯罪被害のほとんどは通学途中で起こります。 実験や調査で犯罪者は、被害者のおよそ20メートル手前から狙い、だんだん「やる気」を高め、最後は5〜6メートルで実行に移すことが分かっています。 子どもが変な人・怪しい人・危ない人を早く見つけ、危機を回避するためには、20メートル手前からどんな人がいるかを見分けることがとても大切なのです。 しかし、子どもの「見える範囲」は大人に比べ、とても狭いことが分かっています。 そのため、子どもは周りを見るためにキョロキョロしてしまうのです。 興味や関心があるものに熱中するのは子どもの特権なので、あまり神経質になってはいけませんが、「ふらふらしないで、しっかり前を見て歩こうね」と声掛けすることはとても大切です。 子ども、特にもうすぐ学校に通うことになる年長児を対象に「しっかり前を見て歩く」ことがなぜ大切なのかを説明しながら、実際に園庭や園外の道路で「歩き方体験指導」(交通事故対策も含む)をすることが、えんで子どもに危機回避能力をつける「初めの一歩」です。 2 ひごろのあいさつを大切にしましょう 子どもを守る一番の「力」は周囲の見守りの「目や声」です。 犯罪者は他者の視線や声を大変嫌います。 園外保育の時、近隣の方や良く見知った方で、子どもに理解のある方に日頃からあいさつをしましょう。 その時、子どもにも「あいさつの仕方(あいさつしてよい人・せねばならない人・あいさつの内容・あいさつのタイミングなど)」を教えましょう。 こうした相互交流があれば、何かあった「その時」に、「110番の家」でなくとも、その人やその家に「飛び込む」などの避難行動が取りやすくなります。 また、保護者の方と通学路の「おさんぽ安全マップ」を作る時のチェックポイントにもなります。 ただ、むやみやたらなあいさつは、犯行意図を持つ者に接近の口実を与えるなどのマイナス効果を生む場合もあることに注意しておく必要があります。 あいさつは教えられなければできません。 子どもの時にこそ、あいさつの仕方をしっかりと学びましょう。 おさんぽ安全マップとは 自宅からえん・学校までの道をお散歩しながら、危ない場所、安全な場所、見守ってくれる人がいる場所、怪しい人がいた場所など簡単に地図に記すのが「おさんぽ安全マップ」です。 白紙に自宅からえん・学校までの道と、目印となる場所、ひまわり、はちみつじまんを参考にかきいれます。 定期的にアップデートしていくとよいでしょう。 ひまわり ひ。ひとりきりになるところ ま。まわりからみえない(みえにくい)ところ わ。わかれ道。わき道やうら道のおおいところ り。りようされていない家やあきち、公園、ちゅうしゃじょうなどだれもいないところ はちみつじまん は。しつこくなにかとはなしかけるひと ち。ぐんぐんちかづいてくるひと み。じっとみつめてくるひと つ。いつまでもどこまでもついてくるひと じ、ま。じっとまっているひと ん。そういうひとにはん?と注意 3 「一人になっては危ない」ということを知りましょう 子どもの自立に「一人歩き」はとても大切です。 しかし、自分の身を自分で守るための最低限の知恵と力がつくまでは「一人歩き」には徹底して注意することが大切です。 犯罪者は一人だけの子ども、一人だけになりそうな子ども、一人だけにすることが簡単そうに見える子どもを狙います。 子ども、特に抵抗力・逃走力が低く、誘いかけにも弱い子どもには「ひとりになったら危ない」だけでなく「誰もいない、周りから見えない・見えにくいところは危ない」「ひとりにならない」ことを徹底して教えてあげてください。 小学校2年生の下校途中の女の子がみんなと別れ「もう少しでお家」の路上で被害にあった事例があります。 どうしても一人になってしまう場合は、ひまわりの場所に気をつけると同時に、夕方以降は連続した街灯のある道を歩くように教えましょう。 ポツンと光るような街灯だけだと、あかりの下の子どもの顔がかえって照らされ、周囲の暗闇からねらわれるおそれがあります。 3 その時どうする 危機に出あう寸前、あるいは出あってしまった「その時」のために身につけておかねばならない力や行動について記載します。 1 「その時どうする」の危機を乗り越えるための9つの「力」とは 危ない目に遭いそうになった時、自分で乗り越えていく力も、少しずつはぐくんでいくことが大切です。 犯罪から身を守る方法を標語にしたのが「ハサミとカミはおともだちと伝えよう」です。 この9つの「力」のうち、接続期としての就学前の幼児期に「特につけておきたい力」をにじゅうまる、「つけておくのが望ましい力」をまるで示しました。 この標語は、「どのような力」が危機回避・克服に必要な力なのかを先生や保護者などに向けて簡単にまとめたものです。 子どもが記憶しなければならない標語ではありません。 「その時」の危機を乗り越える9つの力 1 ハ。走る力。20メートルを走り逃げ切る。20メートルの意味を知る。自分の走る力がわかる。にじゅうまる。 2 サ。叫ぶ力。身振りをつけるなどしながら大声を出す。叫ぶだけでなく身振りをつけることの大切さがわかる。にじゅうまる。 3 ミ。見つける・見分ける力。変な人・怪しい人・危ない人・場所を見分ける、見分けようとする。誰にでも何処でも危ないことは起こることがわかる。にじゅうまる。 4 と。飛び込む力。安全な場所を見つけ、そこに飛びこみ助けを求める。普段のあいさつを通して逃げ込む場所がわかる。にじゅうまる。 5 カミ。噛みつくなど抵抗する力。加害者に噛みつく・じたばたする・腕ブンブンする、防犯ブザーを鳴らす。噛みつきは噛みつく場所とタイミング、ふざけてやらない。にじゅうまる。 6 は。はっきり断る力。「いやです・だめです・いきません」と言葉や態度できっぱり表す。知っている人でも一人だけになるところに連れて行く人は怪しい人だとわかる。にじゅうまる。 7 お友だち。共に助け合う力。友だちどうし見守り合い、助け合う。距離を置いてジッと見ることの大切さがわかる。まる。 8 と。飛び出す力。ステップを切って、危機遭遇地点から逃げる。鬼ごっこ・ケンケン遊びで飛び出す、走り出すタイミングがわかる。まる。 9 伝えよう。伝える力。周囲に見たこと、出遭ったことを伝える、伝えようとする。親しい人への日常のあいさつ、すぐ知らせることの大切さがわかる。にじゅうまる。 2 「その時どうする」に備え、幼児期に安全のための「力」をつけましょう。 「ハサミとカミはお友だちと伝えよう」の順にこだわらず、下記の図3に示すような変な人・怪しい人・危ない人を見分けることから始まり、危機を回避・克服し、その後先生や保護者などに伝えおわるまでの順で、それぞれの「力」に気づき関心を持つように指導してみましょう。 1 ミ。変な人・怪しい人・危ない人を見つける見分ける力(重要度にじゅうまる) 多くの不審者や犯罪者遭遇の事例調査から、変な人・怪しい人・危ない人は被害者のおよそ20メートル手前から「ジッと見る」などして、様子をうかがっていることがわかりました。 そして気持ちをどんどんと高ぶらせながら一気に実行に移しています。 「人が潜みやすい場所」「怪しい人の行動」の特徴をそれぞれ「ひまわり」、「はちみつじまん」の標語で表しました(応援ブック12,13ページ参照)。 園外保育などで、「ひまわり」で表される場所を実際に子どもたちに見せて、「危ない」ことを教えてください。 また、「はちみつじまん」で表される人には「十分注意」することを繰り返し伝えましょう。 年少児・年中児にはかなり難しいと思います(そのためまず一人にしない、一人にならないのが大切)。 しかし年長児になると「怪しい人」、「不審者」という言葉を実際多くの子どもが発しており、「怪しい」の理解はされやすく、「気をつける人や場所」に関心を持ち、気づく準備が十分できているものと考えられます。 こうした知識を得ると、やみくもに怖がったり、まったく無関心で無防備になるのではなく、しっかり周囲に気を付けながら歩き、見守りの方などにはあいさつをしながら通学路を歩けるようになります。 2 は。はっきり断る力(重要度にじゅうまる) はっきり断る力は、幼児期の安全教育、特に小学校入学が迫った年長児には大変重要です。 この力は幼児期でも十分体得できます。 変な人・怪しい人・危ない人は、必ずといってよいほど、事前に子どもの周りをうろつき徘徊します。 そして、様子をうかがいながら近づいてきて、多くの場合、子どもの様子や周囲の状況を捉えながら、非常に巧みにさまざまな声かけをします。 1 子どもを一人にさせようとする(子犬がいなくなったけど一緒にさがしてくれるかな、トイレはどこにあるか教えて、お菓子を買ってあげるから一緒に行こう、など) 2 その場で脅す(まるまるしないと大変な目に遭うぞ、など) 3 目線や微笑みで気を許させ自分の思うままにしようと誘いこむ(じっと凝視するなどの視線は声にならない言葉です。このことを子どもにしっかり教えてあげてください) こうした声かけのうち、特に1 子どもを一人にさせようとし、人の目の届かない場所に連れ込もう(動かそう)とする声かけに、たとえ知っている人であっても、断固と対応する必要があります。 対応の方法で最もよいのは、次の3つの言葉でしっかり断ることです。 1いやです!2だめです!3いきません! この3つの言葉で事件になりそうな声かけの7割以上が防げます(千葉県警と(株)ステップ総合研究所の共同調査)。 ただこの言葉を発するには、事前に子どもたち一人ひとりが先生とのやり取り(ロールプレイング)でしっかり練習を積んでおきましょう。 「いやです・だめです・いきません」ロールプレイング 先生が不審者(声かけ役)となり、子ども一人一人に内容を変えながら誘い、子どもは「いやです・だめです・いきません」の言葉を「はっきり・きっぱり」発し、その場を「さっさ」と去るというロールプレイングをくり返してください。 何があったか伝える練習もしましょう。 3 サ。叫ぶ力(重要度にじゅうまる)。 危機を伝えるのに子どもの叫び声は良く通ります。 しかし、かなきりごえが出せたらです。 実際には多くの子どもは声も出せずに立ちすくむ、しゃがみ込んでしまうなどの行動を取ってしまいます。 「大声」は経験がなければなかなか出せるものではありません。 幼児期に思いきり大声を出す経験をさせてください。 一斉に出しても、一人ずつでもよいです。 声の内容は「キャー」でも「助けて!」でも大声であればどのような内容でも構いません。 大切なのは連続して出すこと、大声を出すだけでなく、手を振り回しジタバタすることも重要です。 大声だけだとふざけていると見られる場合が多くなります。 「大声」で叫ぶ代わりに、同じ音を出す「防犯ブザー」を鳴らすことも大切です。 いざというときのために、前もってブザーの鳴らし方を学んでおくことが必要です。 4 (カミ)噛みつくなど抵抗する力(重要度にじゅうまる) 子どもでも身につけ、使える抵抗方法です。 東京都内の園や小学校で、乳児期に学んだ以下の「テクニック」を使い危機を乗り越えたという事例がいくつもありました。 ●「腕ブンブン」で抵抗する 不審者の多くは接近してきて子どもの腕をつかみ、動きを封じ込めようとします。 その時つかまれた腕をどうふりほどくか。 腕をブンとふりぬく「腕ブンブン」が有効です。 掴まれた腕を一気にふりほどくスピードが大切です。 腕ブンブンに関わらずすべての抵抗に言えますが、「実行するとき」は相手のすき(油断)をついて「一気にやる」ことが大切です。 ●「足ジタバタ」で抵抗する 掴まれてはいないが走り去ることもできないような状況の時、「すきを狙って逃げる」、「通りかかった誰かに助けてもらう」、あるいは「加害者があきらめる」までの時間かせぎのための行動です。 素早く地面に腰をつき、相手のすねを蹴とばして抵抗します。 ●「噛みつき」で抵抗する 腕や手首、あるいは手そのものを掴まれたときの最後の抵抗法です。 子どもの噛みつきは、歯の先がとがり小型犬並みの威力があります。 重要な点は、掴んだ手や手のひら、あるいは腕の露出部分に口を寄せ、「皮膚を食い破るような気持ちで思いっきり」噛みつくことです。 服やシャツの上から噛みついても効果はありません。 この「思いっきり」は練習しなくてはできません。 ただし、絶対にお友だちや先生などにふざけて噛みついてはいけません。 5 ハ。走る力(重要度にじゅうまる) 「走り逃げ切る力」は、「はっきり断る力」と同じように重要な力です。 犯罪者の追いかけから逃げ切るには、およそ20メートルを走りきらねばならない(そこまで走らないと犯罪者は追いかけるのをあきらめない)ことが元犯罪者との実験でわかっています。 そこで、子どもに「20メートルとは「電車1両あるいは電柱と電柱の間の長さ」」と説明してください。 子どもを20メートル分並ばせて見せるのもよいでしょう。 そして「怪しい人はこれくらい前からあなたたちを見ているし、追いかけられたらこの距離を逃げなければいけないんだよ」と教えてください。 この感覚を身に着けることは、小学校に入って「メートル」を正式に習うまで非常に重要です。 実験の結果、小学校4年までの子どもが20メートル逃げ切るには、何も背負わない状態で成人男性の手前4メートルから走り出さなければなりませんでした。 ランドセルを背負うとそれがおよそ6メートル手前からになります。 年長児にランドセルやリュックを背負って走る経験をさせましょう。 また、前方に注意し、「怪しい」と思ったらすぐ反対方向に走り始める心の準備をするよう教え、実際に経験させてみるのもおすすめです。 6 お友だち。共に助け合う力(重要度まる) 共に助け合うことは非常に重要ですが、幼児期では、体力、判断力、知識などにおいて積極的にお友だちを助けに行くことは難しいです。 それでも2つのことはできます。 1つは被害に遭いそうな、あるいは遭っているお友だちを遠方から「ジッと見守って」あげることです。 見守るだけで良いのです。 元犯罪者はそういった「見守り」をする子どもは非常に「邪魔だし嫌だ」と話しています。 2つはお友だちがそうした状況にあることを周囲の大人(通りがかりの人を含む)に「伝える」ことです。 「伝える」ことができた結果、非常に多くの子どもが「駆けつけた大人」に助けられ、被害に遭わずに済みました。 子ども、特に年長児に「見守る」や「伝える」ことで「困っているお友だちや人を助けられる」ことを教えてください。 将来、本格的な共助の芽を培うことにつながります。 7 と。飛び出す力(重要度まる) 令和元年に起こった川崎市登戸児童殺傷事件でも、不意に襲われた児童の多くは当初何が起こったか判らず、あるいはすくみ上がってしまい動けませんでした。 そうした時大切な動作は、ラグビーの選手がステップを切りながら前方あるいは左右にポンと一気に飛び出す力です。 先生や子どもが前方に立ち左右に動き、主役の子どもは「1、2、3の掛け声」と同時に身をかわしながらそのディフェンダーの間をすり抜け、ゴールを目指す速さを競う「すり抜け遊び」をしてみましょう。 最初はなかなかできませんが、幼い子どもほど早く上達し、身軽に飛び出す力を培うことができるようになります。 8 と。飛び込む力(重要度にじゅうまる) 安全な場所に「逃げ込んで助けを求める力」であり、これも重要な力です。 こうした安全な場所として「110番の家」が在りますが、実際にはそう身近にあるものではありません。 ですから近くにある家や商店などに、とにかく「飛び込む」こと、それも大きな声で「ただいま」、「助けて!」などと叫びながら飛び込むことが重要です。 大声を出しながら思い切りよく飛び込むには「勇気」が必要です。 勇気は、普段の練習の積み重ねにより培われます。 幼児期に「飛び込み」練習した経験のある小学校2年生が、不審者に遭遇した時、通学路に面した家の庭に飛び込み、事なきを得ました。 後日「園で「飛び込みなさい」と教えられた」と語っています。 4 その後どうする 9 伝えよう。伝える力(重要度にじゅうまる) 危機を克服した後に、先生や保護者、あるいは地域の人やお巡りさんに伝えることがとても大切です。 伝えることにより、危機の再発に備えることが出来るからです。 子どもが被害に遭う事件は、場所を少し変え日時を置いたとしても「繰り返される」ことが多いのです。 子どもが出あった危機は、引き続き起こるかもしれない危機の前兆かもしれません。 この前兆をしっかり受け止め対応しましょう。 そのためには、まず危機に出遭った子どもが、先生などにしっかり伝えられなくてはなりません。 伝える内容は、@いつ、Aどこで、Bどんなことが、Cどんな人によって起こされたかです。 普段から子どもたちに、どんな些細なことでも、自分で「大丈夫」と判断せず、4つのことを周りの大人に伝えることを教え、「伝える力(コミュニケーション力)」を培っておくことが大切です。 子どもからこうした危機に遭遇した訴えがあった時、先生や保護者などが取るべき行動は、@いかにささいな訴えでも聞き流さない、A何があったか、どうするかを必ず上司や同僚などに伝える(相談する、情報の共有)、B何らかの対応が必要と感じたら早急に関係機関に連絡(前もって連絡先をきめておく)などになります。(応援ブック16ページ参照)。 前兆6・3・2の原則 犯罪者は、「ねらいやすい」子どもの情報を求め、「うろつき」徘徊します。 この「うろつき」は子どもが被害にあう事件の前兆です。 早くその前兆をキャッチすることができるかどうかが、事件や声かけ事案の発生を未然に防ぐ鍵となります。 たとえば半年に6回「変だ」、1か月に3回「変だ・あやしい」ことが起こり、最後に1週間に2回「大変だ、問題じゃない?」ということを見聞きしたら、その子どもの住む町や通う園の周りで「危ないことが起こる前兆」と警戒し、皆でしっかり子どもを見守ってください。 子どもを巡り悲しい事件が起こった後、「そういえばあの時」、「変だと思ったんだ」などという言葉を必ずといってよいほど耳にします。 これは予兆、前兆を捉えることに失敗した「深い反省の言葉」です。 5 子どもの安全能力を測りましょう これまでおこなった安全教育がどれだけ身についたか、特に卒園前の年長児の学習達成度を確認することは大変重要です(応援ブック14ページ参照)。 これにより小学校で行われる安全教育に向けて、接続期としてのえんでの安全教育が十分になされたかが確認でき、どの部分が不足しているかが分かり、先生自身の指導を振り返り、さらに良いものにしていくことが可能となります。 このチェックリストは、接続期としての幼児期に身に着けておくとよい主要な力をチェックできるようになっています。 子どもがどのくらい安全基礎体力をつけたか、また子ども自身が犯罪に対しどれくらい危ないかを3段階で測れるようになっています。 このうち、特に第3段階の子ども(チェックした個数が0〜3個しかない子ども)は、どの項目がチェックされたかに関わらず、簡単でいいので再度最初からすべて丁寧に教えるようにしましょう。 また、チェックリストを使った診断は、年長児になった初期時(4月頃)と就学直前の2回行い、進歩の程度をチェックし、それに合わせて指導を行うことをおすすめします。 6 接続期におけるマイ園プログラムを充実させていきましょう 幼児期は、危険について遊びや環境を通して学ぶことが中心となります。 まず年少・年ちゅう児は、特別なことをしなくても、普段の遊びや語りかけの中に、6ページの危機を乗り越えるための9つの力や次の基本プログラムの内容を意図的・系統的にちりばめてみましょう。 そうして「安全基礎体力」を培うことで、就学直前には、しっかり前を見て歩きながらあいさつをし、いざという時にははっきり「いやです」と断り、走って逃げて伝えられるようになります。 9つの力の根っこを育てるためにはどの遊びが合うかなど、考えながら読んでいただければと思います。 本マニュアルは、子どもの成長発達段階にそい、小学校でなされる安全教育とのつながりをふまえた危機回避・克服を目的とする最初の段階の学習に取り組むために、また小学校入学以降一人で学校に通い、学童クラブや塾、おけいこごとなどに通うなどの行動けんの拡張にそなえた安全教育を行うためのいちじょになればと作成いたしました。 さまざまな危機遭遇場面を想定し、いやなこと、恥ずかしいことをされそうになった時や、周りからみえない場所に誘われたときに断る力をつけるために、普段の遊びにマイえんプログラムを盛り込みながら、実行してみましょう。 その際は安全基礎体力の習熟度をはかりながら進めてみましょう。 ごさんこう 接続期における犯罪からの体験型安全教育基本プログラム。 ここでは教諭・保育士を「先生」と表現する。 えんの基本的構え。 ・えんは犯罪からの危機回避・克服を目的とした安全教育の最初の段階の営みを行う。 ・えんは園内外で発生する可能性のある危機遭遇時を想定した行動計画を立てる。 ・えんは子どもの安全確保と安全教育をより効果あるものとするため、子どもの保護者などに安全教育の知識を伝える。 えんにおける犯罪からの安全学習の一般的目標 年少児・年ちゅう児。 ・本人に関する基礎的情報(個人情報)を知る。 ・社会的コミュニケーションに関する基礎的力を知る、身につける。 ・危機回避・克服に関する基本行動(その時どうする)を知る。 ・犯罪からの安全に関わる基本的心構えや知識・行動を身につける。 えんにおける犯罪からの安全学習の一般的目標 年長児。 ・本人に関する基礎的情報(個人情報)を知る。 ・社会的コミュニケーション力を身につける。 ・犯罪者及び犯罪者行動に関する基礎知識を知る機会をもつ。 ・何が変なこと、怪しいこと、危ないことかの基本を自分で判断しようとする。 ・危機回避・克服に関する基本行動(その時どうする)を知る機会をもつ。(小学校一年生になる直前に)基本行動が一つでもできるようになる。 ・犯罪からの安全基礎体力のたいとく程度の測定。 えんにおける犯罪からの安全学習の具体的内容、年少児・年ちゅう児。 ・自分や保護者・えんの名前などが言える。 ・保護者以外にもらしてはならない基本的な個人情報のあることがわかる。 ・自分や友達の「命」や「身体」の大切さ・かけがえのなさを知る・感じる。 ・好きなことは好き、自分の物は自分の物と言葉や態度で表そうとする。 ・えんの先生や近所の人にあいさつをしっかりするようになる。 ・えんの先生や保護者の指示の意味を理解しながら行動しようとする。 ・一人で歩きまわらない・出歩かない・一人にならないなどの大切さがわかる。 ・「鬼ごっこ」などで自分の体力を知る。 えんにおける犯罪からの安全学習の具体的内容、年長児。 ・とっさの時に自分や保護者・えんの名前がいえる。 住所、保護者の勤務先を覚えようとする。 ・個人情報を伝えてよい人・いけない人の区別をしようとする。 ・知っている人でも嫌なことは「いやです」、「だめです」、「いきません」と言葉や態度でしっかり伝えようとする、伝えることができる。 ・その日の出来事や、出あった変なことなどを保護者や先生に一つでも、毎日でなくてもお話する。 ・前方を注意しながら、しっかり前を見て歩こうとする。 ・恐い人(犯罪者)の基本行動(何メートルから注視するかなど)の中でも特に重要な行動があることを知る機会をもつ。 ・走って逃げる、大声を出す、ブザーを鳴らす、ジタバタする、腕ブンブンする、すり抜け遊びなど「その時どうする」かの基本行動を学ぶ、もしくは基本行動ができるようになろうとする。 ・どんな子が狙われやすいかを知る、考える機会をもつ。 ・犯罪が起こりやすい場所(「ひまわり」)に関心をもつ。 ・どんな人が危ない人か(「はちみつじまん」)を知る機会をもつ。 ・暗くなったら、連続した街灯のある道を通るようにする。 ・犯罪からの危機回避・克服の「力」のつきぐあいを測る(→応援ブック14ページ参照) 令和5年11月印刷 発行 世田谷区 編集 子ども・若者部子ども・若者支援課 ゆうびんばんごう154-8504、世田谷区世田谷4-21-27 TEL 5432-2523、FAX ご、よん、さん、に、さん、ぜろ、いち、ろく 監修、株式会社、ステップ総合研究じょ、所長、きよながなほ この冊子の記載内容はすべて無断転載を禁じます。