目次 1後期事業取りまとめの経緯と趣旨 1 2計画の位置づけと期間 2 (1)後期事業補足版の位置づけ 2 (2)後期事業の期間と障害者制度見直しの動き 2 3障害者(児)施策推進の基本的考え方 3 (1)基本理念 3 (2)基本的方向性 3 4近年の障害者施策の動向 4 (1)障害者(児)施策の国際社会における動向 4 (2)国の動向 5 5区の取組み 7 (1)近年策定した計画等 7 (2)障害者の状況把握・検討 8 6「障害者施策推進の主要な課題」の進捗状況 10 (1)地域における障害理解の促進 10 (2)相談体制、情報提供の体制の整備 10 (3)地域で自立して生活するためのサービスの整備 11 (4)新たなニーズへの対応 13 (5)今後の障害保健福祉改革への対応 13 7施策の方向と事業計画(平成22年度〜平成26年度) 15 後期事業一覧表  16 (1)住居(すまう) 21 (2)健康(すこやか) 31 (3)教育(そだつ) 44 (4)就労(はたらく) 51 (5)交流(ふれあう) 55 (6)創造(つくる) 70 (7)安心(あんしん) 74 (8)基盤(ささえる) 85 1 後期事業取りまとめの経緯と趣旨  世田谷区は、平成17年度に、区民に最も身近な基礎的自治体として、区内に住まう障害者(児)が地域でいきいきと暮らしていくための支援の方策を検討し、区の障害者施策における平成17年度から平成26年度までの10年間の方向性を定めた「せたがやノーマライゼーションプラン」を策定した。  本プランは、区の障害者施策を全庁的かつ計画的に推進するとともに、区民、事業者、区が協力・連帯し、地域で共に支え共に生きるノーマライゼーション社会をめざすための基本的な計画である。また、従来、障害者基本法に規定する障害者(児)の範囲である身体障害、知的障害、精神障害の3障害に限定せず、社会における実際の生活上の諸困難に着目し、新たに対象とされた発達障害や高次脳機能障害などに対応する施策も掲載してあり、現在の社会情勢の下でも十分に機能するものである。  一方、現在、国では障害者自立支援法を廃止し、応能負担を基本とした谷間のない総合的な制度の検討に着手しており、「障がい者制度改革推進本部」のもと、「障がい者制度改革推進会議」において、国内法の整備を始めとする広範な議論が開始された。このように、わが国の障害者に係る制度の全体像については、依然、流動的である。  このような状況のなか、後半5年間の事業を進めるにあたっては、現在の計画の基本的考え方や、施策の体系を維持することが望ましいとの姿勢のもと、進行中の各施策についての進捗状況を調査し、計画策定後の社会経済状況の変化や区の関連する計画等との必要な調整にもとづき平成22年度から平成26年度までの事業を「後期事業補足版」として取りまとめることとした。 2 計画の位置づけと期間 (1)後期事業補足版の位置づけ 「せたがやノーマライゼーションプラン」は、「世田谷区基本計画」に基づき、保健医療福祉にかかる基本的な方向性を示す「世田谷区地域保健医療福祉総合計画」の分野別計画であり、「世田谷区障害福祉計画」、「世田谷区ユニバーサルデザイン推進計画」その他障害者等に関する計画などと整合性を保つものである。また、障害者基本法第9条第3項に規定される「市町村障害者計画」として策定したものである。  今回取りまとめた後期事業補足版は、この「せたがやノーマライゼーションプラン」の後期5年間を計画的に推進するためのものである。 (2)後期事業の期間と障害者制度見直しの動き  今回取りまとめた後期事業は、「せたがやノーマライゼーションプラン」に掲載している事業計画を補足する平成22年度〜平成26年度までのものである。この間に、国では現在の障害者の制度についての改革が予定されている。 3 障害者(児)施策推進の基本的考え方 (1)基本理念  安心して地域で自立した生活を継続できる社会の実現  「安心」とは、「世田谷区基本計画」における将来目標のキーワードにもなっており、将来にわたって地域生活を継続していく上で、最も必要とされる。とりわけ障害者(児)にとっては、平時、災害時を問わず、生活の全局面で求められる。  また、「地域」とは、ここでは、私たちの住み慣れたまち・世田谷である。このまちこそが私たちの生活の場であって、障害の有無に関わらず、このまちで家族、親しい仲間、パートナーと暮らしていける基盤が築かれなくてはならない。それこそがノーマライゼーション社会の実現にほかならない。  そして、「自立」とは、その人らしく、かけがえのない人生を送っていくことである。誰もが人生の主人公であって、その人生のシナリオを自由に描いていく姿にこそ人間の尊厳がある。 (2)基本的方向性  幼児期から成人期まで一貫した地域生活支援の仕組みづくり  障害者施策は、ひとりの障害者を中心に、その成長や発達に応じて、生涯にわたる一貫した総合的支援を実施していくため、当事者の視点にたっての施策を構築する必要がある。  ノーマライぜーション社会実現のための区民、事業者、区の連携、協働  障害による生活上の困難さは、一部の人の問題ではなく、妊娠、加齢、ストレスなども含む健康状態等により、すべての人に起こり得る普遍的な問題である。ノーマライゼーション社会を実現していくためには、区民全体が、障害の問題を自分自身の問題として認識し、主体的かつ積極的に障害者施策の推進に参加していくことが求められる。区主導の施策推進ではなく、区民、事業者との連携、協働による仕組みを構築する中で、ノーマライゼーション社会を実現していくことが必要である。その仕組みづくりにあたっては、区は積極的な役割を果たしていく。   4 近年の障害者施策の動向  以下に「せたがやノーマライゼーションプラン」を策定した、平成17年度前後に行なわれた主な障害者施策の動向について、その概要を掲載する。 (1)障害者(児)施策の国際社会における動向  ア 障害者の権利に関する条約  国連においては、障害者の権利及び尊厳を保護し、及び促進するための包括的かつ総合的な国際条約である「障害者の権利に関する条約(仮称)」が、平成18年12月、第61回国連総会本会議において採択され、平成19年3月30日に署名のために開放され、我が国は、同年9月、この条約に署名した。条約は平成20年5月に発効しているところである。  イ アジア太平洋障害者の十年(2003〜2012年)  平成14年5月、国連アジア太平洋経済社会検討委員会(ESCAP)総会において、「アジア太平洋障害者の十年」(1993〜2002年)を更に10年延長し、平成14年から平成24年を新たな「アジア太平洋障害者の十年」の行動計画とする決議が採択。同年10月に行動計画である「びわこミレニアム・フレームワーク(BMF)」が採択され、優先的に行動すべき7つの行動分野と目標を達成するための4つの戦略が示された。  この中間年にあたる平成19年9月には、BMFに係る後期5年間の行動指針として、「びわこプラスファイブ」が採択され、7つの分野に対して、行動を追加するとともに、戦略の4分野を5分野に再構築した。この「びわこミレニアム・フレームワーク」「びわこプラスファイブ」の全文は内閣府のホームページに掲載されている。  ウ 国際生活機能分類(ICF)  世界保健機関(WHO)は、平成13年に「国際生活機能分類(ICF)」を公表した。このICFにおいては、障害を妊娠、加齢、ストレスなども含む「健康状態」に関する現象として取り扱い、狭義の「障害者問題」の枠を超えたすべての人々の状況をカバーしている。また、障害を「心身機能・身体構造」だけではなく、「活動」「参加」の状況からも理解していくと共に、それぞれの要素が相互作用することを示している。これによって、当事者への治療、訓練のみではなく、社会的差別の解消やバリアフリー化の進展によっても、障害は軽減しうることを示唆し、障害者施策の推進に影響を与えてきた。  その後、派生分類として生活機能分類−児童版(ICF-CY)が開発され、平成19年に発表された。平成20年には日本語版が発行され、児童期や発達初期の段階の人への活用をめざしている。 (2)国の動向  ア 障害者基本法の一部改正  平成16年5月に「障害者基本法の一部を改正する法律」が成立し、この改正の趣旨を踏まえ、これまで各分野において様々な法制度の改正が行われてきた。この改正法においては施行後5年を目途として、実施状況・社会経済情勢の変化等に基づいて必要な措置を講ずる検討規定が盛り込まれている。  平成20年12月に「障害者施策の在り方についての検討結果について」取りまとめが行われ、「障害者基本法」の実施状況等について整理するとともに、障害者施策における198項目の課題とその対応を明らかにした。また、障害者権利条約の締結に際し必要と考えられる「障害者基本法」の改正事項についても明示した。「障害者基本法」については、これらの取りまとめの経緯も踏まえて、立法府において改正に向けた検討が行われているところである。    イ 障害者自立支援法の成立と今後  障害の有無にかかわらず地域で安心して暮らせる社会の実現をめざして、「障害者自立支援法」が平成18年4月に施行された。同法においては、これまで障害種別ごとに異なる法律に基づいて自立支援の観点から提供されてきた福祉サービス、公費負担医療等について、共通の制度の下で一元的に提供する仕組みが創設された。また、障害者がもっと働ける社会にするため、就労支援を抜本的に強化した。なお、法の施行にあたっては、利用者負担の更なる軽減や事業者に対する激変緩和措置など、制度の着実な定着を図るための特別対策が実施された。  現在、今後の障害福祉施策を、障害のある当事者が社会の対等な一員として安心して暮らすことのできるものとするため、障害者自立支援法を平成25年8月までに廃止し、新たな総合的な福祉法制を実施する予定である。    ウ 発達障害者支援法の施行  身体障害、知的障害、精神障害という3つの枠組みでは的確な支援が難しかった発達障害に対して、その障害の定義を明らかにするとともに、保健、医療、福祉、教育、雇用等の分野を超えて一体的な支援を行う体制整備を行うため「発達障害者支援法」が平成16年12月に成立し、17年4月から施行された。  エ バリアフリー新法の成立、施行  国土交通省では、高齢者や障害のある人のみならず可能な限り全ての人を対象として想定し、「どこでも、だれでも、自由に、使いやすく」というユニバーサルデザインの考え方に基づき、今後の社会資本整備、交通分野における取組み方針を「ユニバーサルデザイン政策大綱」として平成17年7月に公表している。  同大綱を踏まえ、生活環境の分野においては、平成18年6月、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(通称「バリアフリー新法」)が成立し、同年12月から施行された。これにより、当事者の参画による基本構想の策定や、公共交通機関、道路、建築物のみならず、都市公園、路外駐車場を含め、障害者等が日常生活等において利用する施設や経路を一体的にとらえた総合的なバリアフリー化の推進等が図られることとなった。    オ 教育関係法令の改正・施行  平成18年6月の学校教育法改正により、平成19年4月から特別支援教育がスタートした。特別支援教育は、障害のある幼児・児童・生徒の一人ひとりの教育的ニーズを把握し、適切な指導や必要な支援を行うものである。改正法では、盲・聾・養護学校を障害種別を超えた特別支援学校の制度とすることや幼稚園・小学校・中学校等において、発達障害を含め障害のある幼児・児童・生徒に対して適切な教育を行うことなどが規定された。  また、平成18年12月の教育基本法改正では、「国及び地方公共団体は、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない。」との規定が新設され、特別支援教育の実施が明確に位置付けられた。    カ 障害者の雇用の促進に関する法律の一部を改正する法律  障害のある人の社会参加に伴いその就業に対するニーズが高まっており、障害のある人の就業機会の拡大による職業的自立を図ることが必要なことから、平成17年7月に、精神障害のある人に対する雇用対策の強化等を内容とする「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、平成18年4月から全面施行された。また、障害のある人の雇用の一層の促進を図るため、中小企業における障害者雇用の一層の促進、短時間労働に対応した雇用率制度の見直し等を内容とする「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律」が平成20年12月に成立し、21年4月から順次施行された。    キ 障害者の制度に係る改革の推進  「障害者の権利に関する条約(仮称)」の締結に必要な国内法の整備を始めとする障害者制度の集中的な改革を行い、障害者施策の総合的かつ効果的な推進を図るため、平成21年12月「障がい者制度改革推進本部」の設置が閣議決定された。本部は、当面5年間を障害者制度に係る改革の集中期間と位置づけ、改革の推進に関する総合調整、改革推進の基本的な方針案の作成などを行う。  また、障害者施策の推進に関する事項について意見を求めるため、障害者、障害者の福祉事業従事者、学識経験者等による「障がい者制度改革推進会議」が参集され、初会合が平成22年1月に開かれた。 5 区の取組み  以下に「せたがやノーマライゼーションプラン」を策定した平成17年度以降の障害者施策に関する計画や検討について、その概要を掲載する。 (1)近年策定した計画等  ア 世田谷区障害福祉計画  世田谷区障害福祉計画は「障害者自立支援法」に基づき、平成18年度より3年間を一期として策定している。本計画は国の定める「基本指針」に即し、障害者が自立した日常生活・社会生活を営むことができるように、必要な障害福祉サービス等の支援を行い、サービス提供基盤の計画的な基盤整備を図ることで、障害者の福祉の増進及び安心して日々の生活を送ることのできる地域社会の実現に寄与することを目的とする計画であり、「世田谷区基本計画」、「世田谷区地域保健医療福祉総合計画」、「せたがやノーマライゼーションプラン」等との整合性を保つものである。現在、平成20年度に策定した第2期計画を推進している。    イ発達障害児支援基本計画・実施計画  区では、平成17年3月に策定した「世田谷区子ども計画」において、「配慮を要する子どもへの支援」を施策の主要な柱立ての一つとし、配慮を要する子どもを地域社会全体で支えていくこととした。この支援の基本的方向性について検討を重ね、知的、身体、精神の3障害に比べ、その取組みが大きく遅れている発達障害児への支援を推進するため、平成20年8月「発達障害児支援基本計画」を策定した。この計画の基本目標は「発達障害の子どもが地域の一員として自立することを支援する」ことであり、基本的取組みとして「早期発見・早期対応」、「個別的継続支援」、「相談から療育までの一貫した支援体制の整備」、「地域支援基盤の整備」を掲げた。平成21年3月には「発達障害児支援実施計画」を策定し、具体的な取組みを進めている。    ウ 世田谷区ユニバーサルデザイン推進計画  「世田谷区福祉のいえ・まち推進条例」とそれに基づく「世田谷区福祉的環境整備推進計画−バリアフリー世田谷プラン21−」の取組みを一層推進し、だれもが安全で安心して住み続けられるまちを実現するために、ユニバーサルデザインの考え方を基本とした「世田谷区ユニバーサルデザイン推進条例」を平成19年に制定し、この条例に基づき、生活環境の整備に関する施策を総合的、計画的に推進するため平成21年3月に「世田谷区ユニバーサルデザイン推進計画」を策定した。    エ 世田谷区教育ビジョン  区教育委員会では、特別支援教育の円滑な実施に向けて、平成17年9月に「世田谷区における特別支援教育の在り方について」を取りまとめた。この検討を踏まえ、平成18年度から障害のある児童・生徒一人ひとりの教育ニーズに応じた適切な教育的支援を実現していくために、学校における指導体制や学校を外部から支える体制の充実などに取り組みはじめている。さらに、平成20年3月に策定した「世田谷区教育ビジョン第2期行動計画」では、特別支援教育を重要施策のひとつとして位置づけ、今までの取組内容を継承しつつ、関係機関との連携を進めるなど、更なる特別支援教育体制の充実に向けた取組みが推進されている。 (2)障害者の状況把握・検討  ア 地域生活支援型施設と暮らしの場の確保検討(平成19年7月〜平成20年3月)  家族のもとや入所施設等で暮らしていた人たちについて、家族や施設等が担っていた役割と、地域で自立した生活を送るために必要な支援の機能は何かについて分析し、障害者本人やその家族にどのような支援があれば、本人の希望を尊重した地域生活が送れるかについて、学識経験者、区内の障害者団体、サービス提供事業者で検討委員会を設置し検討を行った。区の役割と新たな支援モデルについての提言を受けている。 ○区の役割…障害者が多様な暮らし方が可能となるような相談支援、日中活動の場、短期入所等の基盤確保と、多様な社会資源を有効活用できるネットワークづくり。 ○新たな支援モデル @多様な暮らしの場における支援機能の強化 A地域生活支援の新たな拠点機能の創出  イ 障害者自立支援法実態調査(平成19年8月〜9月)  平成19年度に障害者自立支援法の円滑な施行と区の障害福祉計画の着実な実施を図るために、障害者及びサービス提供事業者に対する実態調査を実施した。本調査結果は、第2期障害福祉計画及び今後の障害福祉施策に反映されるための基礎資料とした。 ○障害者の主な意見 ・家族・介護者の負担軽減のための支援 ・短期入所・日中活動系サービスの充実 ・就労のための訓練・職場の理解 ・利用者負担軽減策の継続 ○サービス提供事業者からの主な意見 ・人材の確保 ・ケアマネジメント体制の整備 ・事業運営の安定化    ウ 配慮を要する子どもへの継続的な支援の在り方について報告・提言(平成17年6月〜平成18年3月)  「世田谷区基本計画」、「世田谷区子ども計画」において配慮を要する子どもへの支援が重要な施策課題として明確化された中で、支援の基本的方向性について検討を行うため、保護者、学識経験者、支援機関、行政から構成される「要配慮児童継続支援検討委員会」を設置し、配慮を要する状態についての基本的考え方や配慮を要する子どもへの支援の在り方について検討を行い、平成18年3月に「配慮を要する子どもへの継続的な支援の在り方について 報告・提言」を受けている。 ○配慮を要する子どもとは ・心身の成長・発達等に起因する問題により、生活していく上で何らかの個別的配慮を要する状態にある子ども ○基本的考え方 ・子どもの最善の利益 ・保護者の参画 ・早期対応 ○基本的方向性 ・支援は、一人ひとりの個別のニーズを踏まえていかなければならない(個別性) ・支援は、ライフステージで途切れることなく、連続していかなければならない。(継続性) ・支援は、計画的に、適切なサイクルのもとで実施されていかなければならない。(計画性) 6「障害者施策推進の主要な課題」の進捗状況 「せたがやノーマライゼーションプラン」策定時に設定した障害者(児)施策推進の主要な課題について、現在の進捗状況を次の通り取りまとめた。 (1)地域における障害理解の促進  ア 策定時の課題 ○理解とは、人と人との結びつきの原点であり、区民・事業者・区の主体的な参画による協働のしくみを構築していく上で重要である。 ○障害者(児)が地域で自立した生活を送っていく上で、地域社会全体の障害理解は必要不可欠であり、障害者(児)施策の推進においても最重要視されなければならない事項である。    イ 進捗状況  区は、これまでも障害の理解促進に向け、毎年12月3日から9日までの障害者週間における「区民ふれあいフェスタ」や「障害者週間記念作品展」の開催、「区のおしらせ」、エフエム世田谷を活用した啓発活動などに取り組んできている。また、「第2期世田谷区障害福祉計画」を知的障害のある方及び小学校高学年を対象として、分かりやすく説明したパンフレットを別に作成して、広く啓発に努めてきた。 今後も、「障害者就労支援センターすきっぷ」や福祉作業所の見学会、雇用促進協議会の活動などを通して企業への障害理解の促進を図るとともに、障害者施設が実施する地域行事に学生ボランティアを活用するなど、これまで以上に多くの方が障害者の就労や社会参加に対する正しい理解を深めることができるよう、さまざまな取組みを推進していく必要がある。 (2)相談体制、情報提供の体制の整備  ア 策定時の課題 ○困ったときにいつでも相談できる体制が整備されていることは、障害者(児)が安心して地域生活を送っていく上で重要である。 ○障害者(児)施策が複雑化している中で、サービスの種類や利用方法が、当事者にとって見えにくい現状がある。 ○聴覚障害者(児)、視覚障害者(児)をはじめとする障害者(児)の地域生活を支えるうえで、適切かつ適確な情報は、必要不可欠である。 ○特に、災害時においては、適切な情報提供こそが、ライフラインである。  イ 進捗状況  区は、この間、地域の関係機関が連携して障害者の地域生活を支援するため、世田谷区地域自立支援協議会を設置し、地域の課題について情報を共有しながら具体的に協議するネットワークづくりを進めている。各保健福祉課では、世田谷区地域自立支援協議会の部会である地域エリア部会の事務局として、地域の相談支援事業者やサービス提供事業者等と連携し、関係者が抱える個々のケースに基づき、地域の障害者の個別的継続支援に係る協議及び調整を行っている。 また、障害者福祉サービスを効果的に活用し、障害者の生活全般にわたる相談や支援のニーズに対応した障害者ケアマネジメントを実施できる人材養成のため、障害者ケアマネジメント研修を実施しているところである。 情報伝達については「区のおしらせ」の点字版や音声テープ版の作成、ホームページ、エフエム世田谷などさまざまな手法を活用して、必要な情報をできる限りきめ細かく提供している。また、合わせて以下の取組みを進めてきた。 ○聴覚障害の方に対し情報を提供するため、広報誌へのFAX番号の掲載、外出や会議で必要な方へ手話通訳者・要約筆記者の派遣、区の事業への手話通訳者の派遣、区役所に手話通訳者の待機日を設定している。 ○視覚障害の方に対し、区の保健福祉課、総合福祉センターなどの窓口において、音声コードの読み上げ装置を用意し、区からの通知や案内などを聞き取ることができるようにしてきた。 ○情報が伝わりにくい失語症の方に対して、失語症会話パートナーを養成し、派遣する仕組みづくりを検討している。 ○災害時の情報伝達手段として、災害・防犯情報メール、ホームページ、ラジオ放送等多様な媒体による提供体制を整備するとともに、災害時に医療救護所に手話通訳者など派遣する協定を締結した。 区は、今後もこのような実践を重ねて、地域での相談支援体制を整備し、区が発信する情報を利用しやすい環境を整えるとともに、情報提供者側で配慮すべき提供のガイドラインを普及させるなど、わかりやすい情報提供について今後取組みを進めていく必要がある。 (3)地域で自立して生活するためのサービスの整備  ア 策定時の課題 ○障害者(児)が地域で生活していくため、平時、災害時を問わず、区民・事業者・区の協働によるサービス基盤の整備が求められる。 ○様々な施策が実施されてきている中で、乳幼児期から成人期まで、地域での自立生活を安心して継続しうる支援体系を再検討していく必要がある。  イ 進捗状況 平成19年度に設置した「地域生活支援型施設と暮らしの場の確保検討委員会」において、障害者(児)の地域生活の継続を支えるための具体的な支援モデルの検討を行った。この報告においては、障害者が地域で自立した生活を送るには、住まい、相談支援の充実や日中活動の場の提供、居宅介護や短期入所等の基盤確保などの地域生活支援拠点機能の創出が必要であると提言を受け、障害福祉計画の策定等において検討してきた。 また、この間、地域に移行する障害者の生活を支える基盤として相談支援事業や居宅介護事業などの既存の支援機能の強化やホームヘルプの支給時間の増加、通所施設やグループホームの整備及び整備支援、障害者自立支援法施行に伴う障害者施設の新たなサービス体系の事業への移行促進などの取組みを進め、以下の施設を整備した。 ○平成18年度に開設した「ほほえみ経堂」においては、主に重度の身体障害者を対象として、介護を中心とした支援を提供しながら、作業や創作活動、入浴サービス等を実施している。 ○平成19年度に開設した、福祉移動支援センター「そとでる」においては、移動困難な障害者(身体、知的、精神)、介護保険の要支援、要介護認定者を対象に、高齢者や障害者等の移動に関する全般的な相談を受け付ける。また、利用者の希望する運行内容等により、介護タクシー事業者やNPOを紹介している。 ○平成19年度に開設したIT特化型就労支援センター「さら就労塾@ぽれぽれ」においては、パソコン技能の習得による障害者の職域の拡大をめざして就労支援を行っている。常時約25名が技能にあわせたコースで学んでいる。 ○平成18年度に就労障害者生活支援センター「クローバー」の分室として「そしがや」を開設した。障害者が安定した就労生活が継続できるように、日常生活や職場内での悩みや困りごとの相談・支援を行うほか、学習会や仲間づくりなどの活動を支援している。 ○平成21年度に旧砧保健福祉センター跡施設を改修して開設した「わくわく祖師谷」においては、主に重度の知的障害者を対象に介護を中心とした支援と、中軽度の知的障害者を対象にパンの製造販売等の作業を中心とした支援を行っている。 区は、引き続き、既存施設の活用や社会福祉法人等民間事業者の参入を促進し、障害者が安心して地域で自立した生活が継続できるよう支援モデルの具体化に取り組む必要がある。 (4)新たなニーズへの対応  ア 策定時の課題 ○障害者基本法は障害者を「身体障害、知的障害又は精神障害があるため、継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者」としているが、3障害以外についても、後段の「継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者」に重点をおいた柔軟な対応が求められる。 ○発達障害者支援法の成立も受けて、今後は、発達障害や高次脳機能障害などの新たなニーズに対しても専門家を含めた理解の促進、対応できる人材の育成、教育等の関連機関との連携、また既存資源の有効活用が検討される必要がある。  イ 進捗状況 発達障害者の支援については、早期発見から早期対応につなげる仕組みとして、4歳6か月児のいる世帯に発達・発育相談の案内を送付して相談の利用を促し、専門機関での療育に結びつける仕組みを構築すると共に、幼稚園、保育園、小中学校などの機関が相互に連携することにより、発達段階によって途切れることのない支援体制を整えてきた。また、平成21年度には発達障害相談・療育センター「げんき」を開設し、発達障害の相談から療育、地域支援に至るまでの発達障害の一貫した専門支援体制を強化した。 高次脳機能障害者の支援においても、平成18年度に都から高次脳機能障害者支援モデル事業を受託して、他区に先駆け、総合福祉センターを中心に関係機関とのネットワークを構築するなど、高次脳機能障害者の支援に取り組んできた。また、平成20年度からは、高次脳機能障害の方の社会参加を目的に移動支援事業を実施している。 この間、総合福祉センターにおいては、専門的な相談体制の整備、医療機関や通所訓練施設との連携、障害福祉の専門研修や講演会の企画・実施や、各分野の専門スタッフによる研究及び発表による人材育成の促進、各機関への情報提供を行うなど、支援員の配置と同様に、相談体制の整備に重要な役割を果たしてきた。 今後とも、区、総合福祉センター、発達障害相談・療育センター「げんき」及び各関係機関が連携を図り、新たなニーズに対して対応していく必要がある。 (5)今後の障害保健福祉改革への対応  ア 策定時の課題 ○平成18年4月より障害者自立支援法が施行されることにより、新たな地域生活支援の施策が順次展開されていくことになる。これにより、従来のサービス体系の見直しや、利用手続や基準の明確化・透明化、またサービス利用についての費用負担の導入など、大幅な制度改正が行われていく。この新たな改革のなかで、区としても区内に住まう障害者(児)が地域生活を継続するとの観点から必要な対応を多角的に検討することが必要である。また、そのための方策について、必要に応じて、国や都に働きかけていくことが求められる。 ○精神障害については、退院促進、地域復帰の動向も踏まえ、今後の地域生活支援のあり方を検討していく必要がある。 ○このように、障害者(児)への新たな地域生活支援が展開されていく中で、未だ重い課題である親なき後への対応や発達障害者(児)や高次脳機能障害者への支援等についても、この改革のなかでどう展開していくのか、引き続き検討していくことが必要である。  イ 進捗状況  区は、この間、障害者自立支援法のポイントである「障害者施策の3障害一元化」「利用者本位のサービス体系に再編」「就労支援の抜本的強化」「支給決定の透明化・明確化」「安定的な財源の確保」にむけた制度改正に着実に取り組むと共に、制度の円滑な施行にむけた経過措置などに迅速に対応してきた。 平成19年度には「障害者自立支援法実態調査」を実施し、その結果、サービス提供事業者の事業の採算性は厳しい状況にあり、人材確保については、事業を運営する上での課題であるとなっていたため、区では、こうした状況を踏まえて、特別区長会等を通じて、サービス基盤整備などの障害者施策の充実や介護保険制度の充実について、国に要望を伝え、平成21年度より介護報酬については3%、障害者自立支援法のサービス報酬については5.1%の引き上げが示される結果となった。 今後、区としては、良質な人材の確保や事業者の経営基盤の安定等の視点に立った4月以降の報酬改定による影響や国の動向を注視するとともに、必要に応じて現況調査の実施について検討していく必要がある。 精神障害者の地域移行については、障害福祉計画において、23年度までの見込みをたて、入院中の精神障害者の地域移行に取り組んできた。 この精神障害者の地域生活を支えるための居住支援の取組みとして、住宅を確保する際の保証料助成などを行う「居住支援制度」を実施するとともに、平成18年度、19年度においては東京都のモデル事業であった「世田谷区精神障害者退院促進支援事業」を実施し、退院を予定している精神障害者の住居の確保、居住継続支援等に関する生活支援に取り組んできた。 今後とも、地域活動支援センター、相談支援事業所、居住支援制度、成年後見制度など、様々な取組みを活用して精神障害者の地域生活を支援していく。 前述のように、区は、この間の障害者制度改革の流れの中において各種の施策に取り組んできた、現在も、国では障害者自立支援法の廃止、障害者基本法の改正などの議論が行われており、引き続き国、都の動向を注視しながら着実に施策を進めていく必要がある。