第5 障害特性に応じた対応  障害者と接するときには、それぞれの障害特性に応じた対応が求められます。以下に、いくつかの代表的な障害について、その概要をまとめました。  改定にあたり「障害者差別解消法 福祉事業者向けガイドライン」(厚生労働省)東京都心身障害者福祉センターリーフレット「障害理解のために」及び「東京都障害者差別解消ハンドブック」等の掲載事例を参考に、区内障害者団体のご協力をいただきました。  対応事例については、区職員・区の窓口・区の事業で生じたものについて、区の実情にあわせて記載しました。 2、 聴覚障害   生活の中には、多くの音声情報が溢れています。聴覚障害者は、「聞こえない」「聞こえづらい」など、耳からの情報を得にくいために、会話のほか、様々な不便・不自由の中で生活しています。また、外見上は分かりにくいため、誤解されたり、適切な配慮を得られない事があります。       [よくある誤解]  ・難聴の人は皆、補聴器をつければ会話ができる  ・聞こえにくい人には声を大きくすれば聞こえる  ・聴覚障害者は皆、手話ができる  ・手続きの説明書を一式送ったので、説明はいらない  ・説明に「分かりました」と言ったので、内容は伝わった  ・本人のプライバシーにかかわる事は、手話通訳を介さないほうが良い                             (正解は以下を参照)                                       【コミュニケーションの特徴とポイント】 〇全く聞こえない方(ろう者)もいれば、聞こえづらい方(難聴者)もおり、「聞こえづらさ」も様々です。また、それぞれの「聞こえ方」やこれまでの生活によって、コミュニケーション手段も様々です。 〇手話、筆談、読話(相手の口の形から言葉を推測する)のほかスマホ、タブレットなどを、相手や場面に応じて併用したり使い分けています。聴覚障害者は手話ができると思われがちですが、手話を学ぶ機会がなかった人(中途障害など)は手話が使えません。 〇また、補聴器や人工内耳などを使ったり、様々な用具(音声を光や振動で知らせる 等)やIT機器の活用などによって、情報を得ています。 〇手話通訳者や介助者を同伴している場合も、通訳者や介助者とではなく、必ず本人と話します。  〔コラム10:聴覚障害の種類 〕  聴覚障害には、「伝音性難聴」(音そのものが聞こえにくい)、「感音性難聴」(言葉や音がゆがんで聞こえ、言葉を聞き分けにくい)、その両方を併せ持つ「混合性難聴」の、3つの種類があります。  伝音性難聴は、大きな声で聞き取りやすくなる場合があります。感音性難聴では、大きな声は「音のゆがみ」が大きくなり、より分かりにくくなります。いずれも環境(静かかどうか)や話し方で、聞こえ方は変わります。老人性難聴は感音性難聴です。  〔コラム11:補聴器〕  補聴器は、基本的に音を大きくする器械です。人の声だけでなく、周囲の雑音も大きく聞こえます。なるべく静かな場所での対応を心がけましょう。  また感音性難聴があると、補聴器で音を大きくしても、会話がきちんと聞き取れるとはかぎりません。補聴器を使用している方にも、話し方の工夫が必要です。 最新の補聴器は、調整の良し悪しで聞こえが左右されます。聞き取りにくいときは、      調整しなおすことが有効です。      (1)こんなことに困っています   ○会話 ・人から道を聞かれましたが、内容が分からずに困りました。 ・声を大きくすれば分かるだろうと大声を出されて、かえって聞き取れませんでした。 ・手話が使えないのに、いきなり手話で話しかけられて困りました。 ・後ろから声をかけられても気づかず、「無視した」など誤解されることがあります。   ○街中や交通機関で   ・電車が止まったとき、車内アナウンスが聞き取れず、困りました。 ・スーパーマーケットで、タイムセールのアナウンスが分からず、特売品を買えませんでした。 ・後ろから来た自転車のベルや、車やバイクのクラクションが分からず、危ない思いをしました。   ○家で   ・ノックやインターホンの声が聞き取れず、宅配便を受け取れませんでした。  (2)こんな配慮が必要です   〇困っている様子があったら   ・後ろからの声かけは聞こえない場合があります。正面から顔を見せ、口をはっきり開けて「お困りですか?」「お手伝いしましょうか?」と声をかけます。 ・マスクはなるべく外します(声がくぐもり、口の形がわかりません。) 〇コミュニケーションでは  ・どのような方法がよいかを、本人にたずねてください。 ・筆談、読話、手話いずれの場合も、声を出して行います。相手の顔を見て、普通の大きさの声でゆっくり、はっきり口を動かし、文節で区切って話します。(マスクはなるべく外します。)身振り、手ぶりで会話を補うことも有効です。 ・なるべく騒音のない場所で対応しましょう。会議室などでは、窓を閉め、雑音を防ぎます。テレビなどは消します。(換気に留意しましょう。) ・聴覚障害の人は、音だけではなく、口の形や前後の話の内容から推測して聞いています。聞こえなかったことを、無意識に推測で補完していることがあります。「わかった」と言っている場合も、大事なことはメモや文章でわたすなど、きちんと伝わったかどうかを確認しましょう ① 補聴器を使っている人への対応:上記と同様です。 ② 筆談 ・要点をまとめて文章は短く区切ります。専門用語を避け平易な言葉づかいにします。会話調で書く必要はなく、単語レベルで十分です。 ・質問は、なるべく「ハイ」「イイエ」で答えられる聞き方で。 ・手順などの説明は、図や写真、現物などの活用が有効です。 (詳しくはP38筆談マニュアル抜粋参照) ③ 読話への配慮 ・同音異議語など、同じ口の形や似た口の形の言葉があります。 (例:一時(いちじ)と二時(にじ)は口の形が同じ) ・誤解が生じないように、日にちや時間など大事な事は、メモに書くなどで確認しましょう。 ④ 手話 ・本人が見やすい位置に、手話通訳者の場所を確保します。 ・手話通訳通訳者にではなく、必ず本人に向かって話します。 ・「遠隔手話通訳」の利用を希望する場合は、対応します。 *手話通訳者の待機・遠隔手話通訳⇒P19参照 (3)これだけはチェック!   ・講演会・研修会・イベント ① 手話通訳や要約筆記配置の検討  補聴器ですべて聞き取ることができるか、手話通訳または要約筆記が必要かなど、参加者に合ったコミュニケーション手段を個別に確認し、可能な範囲で対応します。(P19参照。) ② 座席の工夫 スピーカーの種類によって、聞こえ方が変わる場合があります。必要に応じて、席の工夫(話者の前等)を検討しましょう。     ③ 窓口の筆談ボードの場所を確認しましたか?     (参考)『筆談できます』マークの表示(サンプル)     障害施策推進課 庁内公開サイト  7-06平成29年6月21日 各種依頼等 庶務担当課長会  ③ 「窓口における筆談マーク等の掲示について」(依頼)      〔コラム12:手話〕 1、 手話は言語  手話は、日本語とは異なる文法や手法による言語です。先天的に聴覚障害があるなど、手話を母語とする人たちにとっては、日本語はいわば外国語です。耳から覚えることが難しいため、日本語の語彙や言い回しなどを身に着けるには限界があります。相談の際や連絡などでは、筆談やFAXなどはなるべく分かりやすい、平易な言葉を使いましょう。 2、 手話通訳者  手話通訳資格には、「手話通訳士」(厚生労働大臣認可)、「世田谷区登録手話通訳者」「東京手話通訳派遣センター登録者」などがあります。いずれも、守秘義務が課せられていて、通訳上知りえた秘密を他に漏らすことは禁じられています。   (参考)筆談マニュアル抜粋(庁内公開サイト4-12参照) 簡易筆談機器で正確に伝えるための方法は・・・  筆談といってもただ書くだけではなく、相手の顔を見ながら簡単な口話や手話または身振りを交えることが大切です。そして、理解したかどうかを確認しながら進めると、より良いコミュニケーションが図れます。   《お客様に書いて伝えるときのポイント》 ① 読みやすい文字で書きましょう。 ② 短い文で書きましょう。   ※長い文は前後の関係などが複雑になり、理解しにくくなります。 ③ 5W1H(いつ・どこで・だれが・なにを・なぜ・どのように)など、内容のポイントをはっきり伝えましょう。 ④ ひらがなだけの文章ではなく、日常使う漢字を用いる方が理解しやすいです。 漢字は意味の理解に役立ちます。かな文字が多すぎると、ことばのまとまりがはっきりせず、意味がわかりにくくなります。 ⑤ イラストや図などを使い、わかりやすく書きましょう。     ×悪い例  手当のしんせいは15日からはじまりますが、しんせいほうほうについては5日にゆうそうします。     〇良い例    手当申請書類 6月5日に郵送    手当申請受付 7月15日開始 ⑥  二重否定は避けましょう     ×悪い例        本人でなければ申請できないというわけではありません。     〇良い例        委任状があれば、代理人でも申請できます。     ×悪い例         知らない人は一人もいない。     〇良い例         皆、知っている。 ⑦ 開催日時や会場および地図など聞かれたら、簡易筆談機器ではなく、メモに書いて渡しましょう。 ※ 個人情報に配慮して、渡してもよい内容はできるだけメモに書いて渡してください。   《お客様が書いたものを読むときのポイント》 ① 表現に不十分な点があっても、書かれた内容を読み取るように心がけてください。 ※ 幼少期から重度の障害者の中には、ことばの習得に支障があり、読み書きが苦手な人がいます。独特の話し方をされる方もいます。 しかし、用件を伝えるために筆談をしていますので、ことばづかいの誤りにとらわれないでください。 ② 書かれた意味が理解できない場合は、本人に具体的に質問してください。 ※ 意味を確認しないままでいると、誤解が生じるもとになります。 事例 (内容は【事例・資料編】を参照のこと) ●区の事例 ・粗大ごみのFax申し込みができない(201)  ・投票所の筆談対応について(202)  ・窓口に「筆談器あります」と表示があったのに、置き場所が不明(206) ・(職)生活支援の相談にメールでできないかとの相談があった(207) ・区のスポーツ施設の当日キャンセル方法が電話しか出来ない(208)  ・(職)イベントに手話通訳配置は必須か(209)  ・研修受講時の手話通訳配置(210)  *(職):職員からの相談 ●民間事業所等の事例  ・転居に伴う、ITプロバイダーの対応(203)  ・民営バスにおける障害者割引の手帳提示(204)  ・大学講義(スクーリング)での情報保障(ノートテイク)(205)           ●都の好事例(東京都差別解消法ハンドブック H30/10より抜粋)  聴覚障害者のAさんは、ある研修会に参加することになりました。事務局から研修担当者には、Aさんは聴覚障害があるので配慮するよう伝えていましたが、研修担当は、Aさんは補聴器をつけていたので問題ないと思い、特段の配慮もなく研修が進められ第1日が終わってしまいました。  ⇒Aさんは、補聴器をつけていても、全てが聞き取れる訳ではないことを事務局に相談したところ、次回以降、手話通訳者が要約筆記者(ノートテイク)で対応してくれることになりました。   (参考)盲ろう(視覚と聴覚の重複障害〕        視覚と聴覚の両方に障害がある状態を「盲ろう」と呼んでいます。 発症の時期や、経緯も様々です。また、見え方と聞こえ方の組み合わせによって、4つのタイプがあります。 ① 「全盲ろう」(全く見えず聞こえない) ② 「弱視ろう」(見えにくく聞こえない) ③ 「盲難聴」(全く見えず聞こえにくい) ④ 「弱視難聴」(見えにくく聞こえにくい)                 「盲ろう者」は、情報入手・コミュニケーション・移動等の様々な場面で困難な状況に置かれています。社会参加のためには、それぞれについて支援や介助等が不可欠です。   ○ コミュニケーションの場面では  障害の状態や、盲ろうになるまでに習得した技法により、使用するコミュニケーション方法は異なります。まず、触れ合うことから始めましょう。 ・触覚を使用:  「手書き文字」(相手の手の平に指先等で直接文字を書く)  「指点字」(指を点字タイプライターに見立ててタッチする) 「触手話」「指文字」(話者の手話等の形や位置を盲ろう者が手で直接読み取る)        ・視覚を使用:少し見える人には大きな文字で筆談する        ・聴覚を使用:少し聞こえる人には、耳元ではっきりゆっくり話す      (大きな声はかえって聞きにくい場合がある)  ○ 情報伝達・説明の場面では ・言葉の通訳に加えて、周囲の状況を伝えることも大切です。視覚的・        聴覚的情報についても意識的に伝えましょう。 ・その場の状況説明として、人に関する情報(人数、性別等)や環境  に関する情報(部屋の大きさや机の配置、その場の雰囲気等)など  も伝えましょう。 ○ 移動の際は安全確保に特に注意しましょう。 ●都の好事例(東京都差別解消法ハンドブック H30/10より抜粋)     盲ろう者であるBさんは、通訳・介助者を伴って、パソコンの訓練施設に相談に行きましたが、盲ろう者との特殊なコミュニケーション方法である「手書き文字」「点字筆記」「触手話」「指点字」ができる職員がいないとの理由で受入れを断られました。     後日、Bさんは盲ろう者関係機関に相談したところ、「Bさんは点字ができること、手のひらに書く(手書き文字)ことでコミュニケーションがとれることを施設側に伝えたらよいのではないか」との助言を受け、そのことを改めて施設に説明した結果、施設側の理解を得られ、前向きに受け入れる方向で話が進展しました。      3、肢体不自由 病気やケガ、先天性の疾患等により、上下肢・体幹のまひや欠損、筋力低下、骨 や関節の変形、痛みや痺れ、不随意運動(自分の意思と関係なく体が動く)等が生 じたため、日常の動作(立つ・座る・歩く・食事・着替え・物の持ち運び・字を書 く・入浴等)や、姿勢を保つことが難しい状態です。 障害の部位や状況によって、不自由の程度には個人差があります。   [よくある誤解]  ・車いすの人用の書類記載台は、台の高さの調整だけすれば良い  ・言葉がはっきりしない人は話すのが大変なので、介助者に話すほうが良い  ・片麻痺の人は、麻痺のある側で杖をつく  ・車いすの幅は広いので、通常のドアの間口では入ることができない  ・エレベーターは、車いすの人も含めて、早い者順で使ってよい  ・車いすにのっていれば安全            (正解は以下を参照)                                                                    (1)こんなことに困っています  ○ 下肢や体幹の障害  同じ姿勢を保つこと(立っている、座っている)や、起居(立ち上がる、座る)、移動(歩く、段差の昇降など)に制約があります。 *移動の補助として「杖」「歩行器「車いす」「装具」等を利用する人もいます。 ・段差や階段、手動ドアなどを一人で移動するのか難しい。 ・歩行が不安定で転倒しやすい。 ・日常生活では、食事・着替え・入浴・排せつなどに介助が必要な人がいる。    【車いす利用者は】 ・高い所に手が届かず、床の物は拾いにくい。無理に拾おうとして、車いすから落下・転倒することがある。 ・移動手段や介助者の確保、移動先の設備(車いすトイレなど)が必要なため、外出先が制限されることがある。 ・長時間座位による疲労や、床ずれやずり落ちがある。 ・雨の日は外出しにくい。      ○ 上肢の障害 つかむ・握る・持ち上げる・運ぶなどの、片手あるいは両手の動作に制約があります。 ・お金や切符などを取り出すのが難しい ・ファスナーの開閉が難しい ・字が書きにくく、署名などができない ・小さなボタンスイッチやタッチパネルの操作が難しい ・ドアや水栓の開閉などが難しい ・片手が使えない場合、作業する物をしっかり支えることが難しい  〇 半身まひ ・片側の上下肢の麻痺により、歩行や両手を使う動作が難しい。また体幹にも麻痺があることが多く、バランスを崩しやすい。  〇 脊髄の損傷 手足の感覚が鈍くなったり、体温調整が困難になることがあります。 ・ケガや火傷をしてもわかりにくい ・冷暖房の設備がない場所では、熱中症や低体温になりやすい ・排泄のコントロールがうまくいかず、そのために血圧の上昇や頭痛・発汗・息苦しさ・鳥肌などの症状がでることがある。 〇 発声に関わる器官(舌・喉頭等)の障害や失語症 発声や言語でのミュニケーションをとるのが困難な方がいます。     ・うまく喋れないために、「理解が出来ない人」だと誤解される ・(付き添いがいる場合)本人と話さず、付き添いと話す *詳しくはP50 音声・言語・構音障害 参照 〇 上記の障害に加えて、筋力低下や痛み、しびれ、関節の可動域の制限などを伴う場合も多いです。周囲からはわかりにくく、「出来るのにやらない」と誤解されることがあります。    〔コラム13:エスカレーターに止まって乗りたい〕 ・半身まひがある人は、バランスをとる等のために、麻痺のない側で杖をついたり、手すりを使用します。 ・左側が麻痺している人や、けがや病気のために左手の機能が弱い人は、エスカレーターでは右手すりにつかまって、止まって乗るのが安全です。しかし多くの人が左側に寄って立ち、右側は歩く人のために開けて乗り、右側手すりにつかまって立っていると、「歩いてください」などと言われることがあります。 (このポスターは、東京都理学療法士協会による「エスカレーターマナー推進委員会」が作成しました。この他に当事者が身に着けるカードなども作成しています。)      (2)こんな配慮が必要です  【会話では】  〇 相手の立場・目線で話す    ・座っている人や車いす利用者は、立った姿勢で話されると、上から見下ろさ れている感じがします。少しかがんで、同じ目線で話すようにしましょう。  〇 わからないときは聞き直す ・聴き取りにくいときは分かったふりをせずに、何度でも聞き返します。話の  内容を一区切りずつ確認しながら聞きましょう。介助者がいる場合も、必ず  本人と話します。    【介助では】  〇 本人の意思を十分に確認する ・障害の状況や必要とする介助は人により様々です。「お手伝いしましょうか?」 (介助の必要性)「どのようにお手伝いしますか?」「気を付けることはありま すか?」(介助の方法)など、本人に確認しましょう。(付き添いがいる場合も同じです。)  〇 声をかけてから介助する ・急に支援を始めると不安や不快を感じます。「では動きます」(車いすの場合) 「この席でよいですか?」「書類はどこに入れますか?」などと声をかけ、本人の意向を確認しながら支援しましょう。 〇 無理な介助はしない   ・介助には複数の人が必要な場合もあります。無理な介助は、本人が危険なだけ  ではなく、介助者の腰や関節を痛める原因ともなります。一人では無理な場合  は周囲に協力を求め、安全な方法で行います。 ・車いすでは、前輪を上げる場合は、後部のティッピングレバー(前輪を上げる  ために踏み込むレバー)を活用します。スロープや段差を降りる時は後ろ向き  で移動します。  【物理的環境の整備と配慮】  〇 環境を整える ・段差を出来るだけ解消し、必要に応じて簡易スロープを用  意しましょう。 ・車椅子で移動できるよう、通路の幅を確保し斜度に留意し  ます。荷物や机などで通路をせばめることの無いよう、留  意します。 ・車椅子用トイレの整備や、ドアを引き戸や自動ドアにします。 ・車いす用のカウンターの整備や、記載しやすい文具の配置を工夫しましょう。 ・ドア、エレベーターの中のスイッチなどの機器操作がしにくい場合がありま  す。スイッチの高さを調整したり、フットスイッチ(足で押すスイッチ)や  大き目のボタンなど、操作しやすい工夫をしましょう。 ・車椅子利用者が、書類を記入したり、機器を操作するとき、台の下に物を置かないように注意しましょう。(車椅子のフットサポートが机の下にある荷物等につかえて、十分前に出られないことがあります。)    〔コラム14:車いすの幅と入り口の幅〕 ・車いすの幅は、70㎝以下(JIS規格)となっています。80cm以上の間口であれば何  とか通過できますが、余裕がありません。85cm以上ほしいところです。 ・廊下など、人がすれ違う場所では、最低120cm必要です。  〇 場面に応じた柔軟な対応を   ・杖を利用している方には  説明や書類記載では、椅子を用意する、書類記載の際はローカウンターを 使うなど、相手の方に合わせた配慮をしましょう。 階段を昇るときは、手すりや杖を持っていない側の斜め後ろから介助します。降りるときは本人の一段下の斜め前に立ち、いつでも支えられるよう、横向きに降りてください。   ・脊髄損傷者など、周囲の温度に応じた体温調節が困難な方がいます。ご本人の    意向を確認しながら、部屋の温度の調節をしましょう。    〔コラム15:エレベーターの順番〕 ・エレベーターは、人が並んでいた場合も、車いすの人を優先します。一般の人は階段やエレベーターで移動出来ますが、車いすの人は利用できないからです。 「だれでもトイレ」についても同様です。 〇 運動障害(片麻痺や運動失調等)や感覚障害(眼や耳や皮膚、脳の損傷によ  る)、高次脳機能障害(P47参照)を伴う場合もあります。本人に確認し対応  しましょう。 (3)これだけはチェック! 〇 講演会・研修・イベントでは  肢体不自由のある方が参加する可能性があることを想定していますか。当日その場で考えるのではなく、あらかじめ準備しておきましょう。 〇 職場のバリアーを点検しましょう     車いすや杖などを使う人にとっては、ちょっとした段差や坂道が移動の妨げ    になることがあります。また、車いすの種類には手動型、電動型、スクーター    式などがあり、電動車いすの重量がかなり重いタイプもあります。   〇 受付、手続き、手数料の受領などの配慮を、想定しておきましょう     手指や手などにマヒがある人などは、文字を書いたりお金の扱いなどが困難    な場合があります。     事例 ●区の事例 (内容は【事例・資料編】を参照のこと) ・ ホールの舞台に車いすで登壇したい(301) ・ 区役所内の段差のためレストラン・トイレが利用できない(302) ・ 車いす利用者の講習会参加について(303) ・ (職)車いす利用者の講演会参加について(304) ・ 投票所の段差等への対応について(305) ・ 駐輪場の自転車の出し入れ(306) ・ 大型自転車の駐輪について(307) ・ 区民施設駐車場の案内について(308) ・ まち歩きイベントにおける合理的配慮とは(309) ・ 新成人の集いへの出席(好事例)(310) ・ BOPでの弁当の可否(323) ・ (職)貸出用車いすでの荷物運搬(324) ・ 仮施設のトイレへの対応について(325) ・ イベントでの駐車場誘導(326) ・ 介助を待たせてしまう(327) ・ 学校給食をミキサー食に(328) ・ 障害者施設にウォシュレットを(329) ・ 本人がいるのに証明書を家族に渡した(330) ・ (職)成人用おむつ交換の場所について(331) ・ 大型車いすがエレベーターに乗れない(332) ・ テニス退会手続き方法(333) ・ エレベーターのない地下会議室への車いす参加(334) ・ 地区会館にエレベーターがない(335) ・ 駐車場までの移動(336)         *(職):職員からの相談 ●民間事業所等の事例      ・ 電動車いすの入店介助の拒否(311) ・ 電動車いすでの入店を拒否された(312) ・ 飲食店の固定された椅子とテーブルについて(313) ・ スーパーマーケットのセミセルフレジについて(314) ・ スーパーマーケットにおけるシニアカーの利用について(315) ・ 福祉タクシー券の利用拒否について(316) ・ タクシー料金の支払いについて(317) ・ 降車駅を伝えたのに駅員が配置されなかった(318) ・ 混雑を理由に乗車を拒否された(319) ・ ストレッチャー型電動車いすの新幹線乗車(320) ・ 車いす利用者への銀行の対応(321) ・ マンション駐車場の変更を(322) ・ 電動車いすの入店拒否(337) ・ レジで無視された(338) ・ レジの対応(339) ・ スーパーの入口が狭い(340) ・ まち歩きイベントにおける合理的配慮(341) ・ オートロック化に伴う配慮(342) ・ マンション駐車場の変更を(343) ・ タクシーの本人無視(344) ・ 駅員の対応(346) ・ 降車駅を伝えたのに駅員が配置されなかった(345) ・ バス乗務員の手荷物介助(347) ・ 金融機関の対応(通帳返却)(348) ・ 銀行口座の本人確認(349) ・ 電動車いすの照明(350) ・ マンション総会開催場所への移動(351) ・ 学内の生活面の介助(352) ・ 高速料金支払い機(353)    4、高次脳機能障害  脳卒中などの病気や交通事故などで脳の一部が損傷を受けると、日常生活を送るために必要な認知能力(言語や記憶など)に障害が残ることがあります。脳の損傷部位によって特定の症状が出ます。  〇失語症:言葉によるコミュニケーション(会話や読み書き)が難しい  〇注意障害:注意を向ける、注意を持続することが難しい  〇記憶障害:新しいことを覚えにくい  〇半側空間無視:目の前の空間の半分(多くは左側)を認識できない  〇行動と感情の障害:欲求や感情のコントロールが難しい  〇遂行機能障害:段取りよく物事を進めることが難しい  〇病識の欠如:自分の障害を認識することが難しい    身体障害を伴う場合と、伴わない場合があります。外見からはわかりにくいため、周囲から理解されにくく、本人自身も自分の状態を十分に認識できないことがあります。本人の障害の内容を踏まえた、周囲の配慮が求められます。   [よくある誤解]  ・約束したことを守らないのは、責任感がないから  ・「出来る」のに、周りに甘えていてやろうとしない  ・分かっていなくても、すぐ「分かった」と言う  ・しゃべれなくても、こちらの言うことはわかっている  ・会話が出来なくても、筆談はできる         (正解は以下を参照)                                  (1)こんなことに困っています 〇失語症(*詳しくはP50~P53 音声・言語・構音障害 参照)  ・話を理解できない、言葉が出てこない、早口や長い話が分からなくなる  ・読むことができない、文字を読んでも理解が難しい  ・書くことが難しい、文字を思い出せない、「てにをは」をうまく使えない 〇注意障害 ・集中力が続かず、気が散りやすい ・長時間集中しようとすると疲れて、頭がボーっとしている 〇記憶障害  ・薬を飲んだことを覚えていないため、飲み忘れや飲みすぎることがある  ・約束を覚えていられず、忘れたり、間違えたりする  ・その時は分かったつもりで「分かった」というが、内容を覚えていない   〇半側空間無視(多くは左側)  ・食卓の(左)半分のおかずを食べ残す  ・移動するときに、片(左)側にあるものにぶつかる   〇行動と感情の障害  ・指示してもらわないとやる気が起きない  ・すぐに怒ったり笑ったり、感情を爆発させる  ・一つのことにこだわって他のことができない 〇遂行機能障害  ・計画を立てて実行することができない、優先順位がつけられない   ・間違いの修正や計画の変更ができない  ・以前出来ていたことが、うまく出来なくなった 〇病識の欠如  ・自分に障害があることを認識せず、無理な予定を立てたりする (2)こんな配慮が必要です     〇基本的な配慮   ・急がせたり、せかしたりせず、気持ちにゆとりを持って接します。   ・うまく出来ないことについて、甘えているのでも、責任感の問題でも無いこと    を理解して、「どうすれば上手くいくか」を考えましょう。  〇 ことばの障害がある方への配慮(*詳しくはP50 音声・言語・構音障害 参照) ・相手の状況・気持ちを推測して、用件や相談内容を推測しましょう。 ・話すことが困難な場合は、「はい」「いいえ」で答えられるような具体的な選択 肢で質問しましょう。筆談は、出来る場合も出来ない場合もあります。 ・聞き取れなくても分かったふりをせず、分からないことを伝えて、聞き取る  方法を工夫しましょう。 ・ポイントを絞ってゆっくり、はっきり、分かりやすく話しましょう。 ・文字や絵、図で説明したり、ジェスチャーを交えるなどの工夫をしましょう。  〇 記憶の障害がある方への配慮    ・大事なことは、必要に応じてメモを書いて渡しましょう。    ・場合によっては、予定の前日に確認の連絡をしましょう。  〇 感情の障害がある方への配慮 ・不安感が高まり泣き出したり、ささいなことで怒り出したり、笑いが止まらなくなったりすることがあります。 ・基本的にはゆっくりと時間をかけて、本人が落ち着くのを待ちましょう。 (怒り出した原因に心当たりがあればすぐに謝罪し、心当たりがないときも静かな場所を確保し、誠意を持って関わってください。) ・感情の切り替えが難しいことがあるので、時間や日にちを変えてお話するほうが、落ち着いて話せることがあります。 (3)これだけはチェック!  〇受付・窓口では   ・窓口が探せない方 必要に応じて同行します。   ・書類の記入がうまく出来ない方     見本を示したり、ことばを添えて確認しましょう。   ・書類の内容を読むことが難しい方 理解したかどうかを確認しながら、要点を分かりやすく説明しましょう。 口頭での説明に加え、大切なことは必要に応じて文字や図、絵などで示します。   ・説明されたことを忘れる方  大切な事は、あとで本人が確認できるよう、ポイントを明確にしたメモを手渡しましょう。     〔コラム16 発達障害と子どもの高次脳機能障害 〕 子どもの高次脳機能障害の症状と発達障害の症状は、似ていますが原因が異なります。 発達障害(広汎性発達障害、注意欠陥多動性障害など P62参照)の多くは生まれつきの脳機能の障害が原因で生じると考えられています。  一方、高次脳機能障害は、健康だった子どもが事故や病気になどによる、後天的な脳損傷が原因の「中途障害」です。  事例    ●都の好事例(東京都差別解消法ハンドブック H30/10より抜粋)     ・メモを活用して行き違いを防止  高次脳機能障害のAさんに、「先ほど伝えたことを忘れて勝手な行動をしている」と注意したところ、「聞いていなかった、知らない」と逆に怒り出してしまいました。Aさんは普段、難しい言葉を使ったり、以前のことをよく覚えている方なので、高次脳機能障害の特性を知らない周囲の人は、Aさんはいい加減だと腹を立てて人間関係が悪化してしまいました。  高次脳機能障害の方は、受傷前の知識や経験を覚えている場合が多いが、直近のことを忘れてしまいがちであるという説明を受け、周囲の人は、障害の特性であることを理解することができました。また、口頭で伝えたことは言った、言わないのトラブルのもとになりやすいので、メモに書いてもらい、双方で確認するようにしたら、トラブルが起きなくなりました。」 5、音声・言語・構音障害  ひとくちに言語障害といっても一様ではありません。言語の理解と表出に関わるものを「失語症(高次脳機能障害の症状の一つ)」、発声・発語に関わる障害によるものを「音声障害・構音障害」といいます。会話が難しいという点では似ていますが、困りごとや配慮の方法は異なります。  いずれも、外見からは分かりにくい障害です。   〇「音声障害」  音声を発することができない状態です。喉頭摘出や声帯の異常により、声が出ない、出しづらくなる、声がかすれる等の状態です。  喉頭を摘出した方の中には、食道発声や喉頭の機能を代用する補助具(人工喉頭)、手元のボードの操作により言語を発生させる機械を使用している人もいます。 〇「構音障害」  音を作る器官や神経・筋の動きに問題があり、発音が不規則・不明瞭になる状態です。   〇「失語症」 脳の言語機能の中枢の損傷により、獲得した言語機能(「話す」「聞いて理解する」「読む」「書く」など)が損なわれた状態です。 [よくある誤解]  ・「失語症」の人はしゃべれないが、こちらの言うことは理解している ・会話が難しい人に説明するのは相手に悪いので、付き添いの人と話すほうが良       い  ・話が聞き取れない時、聞き返すのは失礼にあたる    (正解は以下を参照)                                       (1)こんなことに困っています ○ 周囲に気づいてもらいにくい    会話が難しいため、自分から不便さを伝えることが困難です。 ○ 誤解されやすい  発声が困難な音声障害や構音障害の人は、言語の理解や聴力にも障害があると間違われることがあります。   ○ 失語症の場合、「話せるけれど、読めない」「聞き取れないけれど、読める」「話せないけれど、ある程度聞き取れる」など、症状は人によって異なります。  ① 話すことの困難 ・伝えたいことがあっても言葉が出てこない。言い誤ってしまう   ・「てにをは」をうまく使えない ・数字の言い間違いがある  ② 聞くことの困難   ・話を理解できない、早口や長い話が分からなくなる ・聞こえているのに言葉の意味がわからない ・数字の聞き間違いがある ③ 読むことの困難 ・読むことができない、文字を読んでも理解が難しい ・文字や文章の意味がわからない。特にカナ文字が苦手 ④ 書くことの困難 ・文字を思い出せず書けない。書き誤ってしまう (2)こんな配慮が必要です  【共通事項】 ・聞き取れない時は分かったふりをせず、聞き返しましょう。 ・言葉だけに注目せず、相手の気持ち・状況などを推測しましょう。 ・付き添いの人がいても、必ず本人に視線を向けて話しかけましょう。 ・どのような方法でコミュニケーションを取ればよいか、尋ねてみましょう。  【失語症】 〇 話すとき ・相手を焦らせないように気を付けます。表情がわかるよう顔を見ながら、落ち着いた、ゆったりとした雰囲気の中で話しましょう。     ・ゆっくり、はっきり、短く、わかりやすい言葉で話しかけましょう。早口、     長い文、あいまいな言い回しは厳禁です。 ・一度でうまく伝わらない時は、繰り返したり、別の言葉に言い換えてみま   す。 ・話し言葉以外の手段(カレンダー、地図、時計、写真、実物、絵を描く、 ジェスチャーなど、見てわかるもの)を併用すると、コミュニケーション  の助けとなります。 〇 話を聞くとき ・言葉が出なくても先回りせず、ゆっくり待ちましょう。はい・いいえで答えられる質問が有効です。50音表は役立ちません(カナ文字が苦手なため)。    〇 確認しながら ・話の内容を理解できているかどうか、確認しながら話をしましょう。できるだけ漢字の単語を使い、要点をメモしながら話を進めましょう。 ・数字に関することは、特に聞き誤り、言い誤りやすいので、日付や時間、お金の確認は必ずメモを利用するようにしましょう。    【音声・構音障害】 〇 言葉が出ずに困っているときは、必要に応じて相手の状況・気持ちを推測 し、はい・いいえで答えられるように具体的な選択肢を挙げて質問しまし ょう。 〇 50音表の指さしや、筆談などが有効な場合があります。必ず本人に確認してから使用しましょう。 〔コラム17 失語症者向け意思疎通支援者派遣事業(令和2年5月開始〕  失語症のある人は、表出面だけではなく理解面にも障害があります。また、外見上はわからないため、誤解や不当な扱いを受けることがよくあります。しかし、適切な意思疎通支援を受けることによって、意思の表出や理解がしやすくなり、安心して活動や社会参加が出来るようになります。  「失語症者向け意思疎通支援者派遣事業」は、会話や会議、外出、手続きなどの場面に意思疎通支援者を派遣して、本人の意思を確認し、コミュニケーションの橋渡しをする人です。支援者は失語症を理解し、国が指定した40時間の講習、実習を終了しています。  この派遣事業は、①会議等 ②病院や薬局 ③買い物 ④公共施設の利用 ⑤公共交通機関の利用 等の場面で利用できます。   (詳しくは保健センター専門相談課 または障害施策推進課事業担当まで) 事例  (内容は【事例・資料編】を参照のこと) ●区の事例     ・言語障害者への対応(401)    ●都の好事例(失語症) (東京都差別解消法ハンドブック H30/10より抜粋)     ・買い物で欲しいものをさがせない  失語症のDさんが買い物に行きましたが、自分の欲しいものを探すことができません。店員に尋ねようとしましたが、うまく伝えられず困っていました。     店員は、Dさんがうまく話せないことが分かったため、「食べ物」「飲み物」「日用品」等、徐々に的を絞って確認していったところ、Dさんの欲しいものが判明し、購入することができました。   6、内部障害  病気などで内臓の働きが低下したり、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)により免疫機能が低下したりする障害です。  日常生活に支障があり、常に医療的対応を必要とすることが多く、外見からは見えないため、周りの人に理解を得られにくい障害です。  ヘルプマークは、内部障害など「外見からはわかりにくい障害」の方たちのために出来ました。   〇 心臓機能障害  全身に必要な血液を送り出すポンプの役割を果たす心臓の機能が低下してしまう状態の方です。ペースメーカー等を装着している人もいます。 〇 呼吸器機能障害  肺の機能が低下して、酸素と二酸化酸素の交換がうまくいかずに、酸素不足になる状態の人です。常時酸素を吸入している人もいます。    〇 腎臓機能障害  腎臓の働きが悪くなり、からだに有害な老廃物や水分を排泄できなくなり、不必要な物質や有害な物質がからだの中に蓄積する状態の人です。人工透析を受ける人もいます。    〇 膀胱・直腸機能障害    尿をためる膀胱、便をためる直腸が機能低下や機能を失ってしまった状態です。そのため、お腹に人工肛門・人工膀胱(ストマ)を造設している人もいます。これらの方をオストメイトといいます。  オストメイトの方は便意や尿意を感じたり、排泄のコントロールが難しいため、便や尿をためておくための袋(パウチ)を腹部に装着しています。パウチに溜まった排泄物は捨てるために、オストメイト用の設備があるトイレが必要です。)   (P56「オストメイト設備の例」参照)    〇 小腸機能障害    小腸が切除されたり、小腸の機能の消化吸収が妨げられ、食事を通じた栄養維持が困難な状態です。定期的に静脈や腸から栄養を受けている人もいます。 〇 肝臓機能障害    肝臓の機能が低下した状態です。そのため倦怠感(だるさ)、黄疸(皮膚が黄色くなる)、浮腫(むくみ)、出血傾向(あざができやすい)、易感染症、食道・胃の静脈瘤破裂による吐血、意識障害などが生じやすくなります。 〇 ヒト免疫不全ウィルス(HIV)による免疫機能障害  HIVによって免疫機能が低下した障害で、抗ウィルス剤を服薬している人です。   [よくある誤解]  ・手足にマヒなどがないので、車いすが必要な人はいない。  ・いすに座っていれば、待ち時間が長時間になっても支障はない。  ・肢体不自由の障害ではないので、乗り物の優先席を配慮しなくてもよい。  ・オストメイトでも車いすでなければ、バリアフリートイレは必要ない。  (正解は下記参照) (1)こんなことに困っています(共通) ○ 全身状態が低下して疲れやすいため、長時間の立位、速歩、荷物を持つことや作業が制限されます。必要に応じて車いすを使用する人もいます。 〇 体調に波があることが多く、良いときと悪いときの動き方や気分に差があります。そのため、「やれば出来るのにやらない」「甘えがち」などと誤解されることがあります。 ○ 外見からはわからないため周りの人に理解してもらいにくく、優先席に座ってい   ると不審な目で見られ、ストレスを受けることがあります。  (2)こんな配慮が必要です  【共通】 〇 プライバシーには十分配慮して、原因疾患など不要な個人情報などは聞かないようにしましょう。  〇 疲労感がたまり、集中力を維持しにくいなど、外見からは分かりにくい不便さ  を抱えていることを理解し、できるだけ負担をかけない寄り添う応対を心がけます。  〇 椅子に座っていても、待ち時間が長くなりそうな場合は、順番を早める、ゆっくり休める場所に案内する、などの配慮が必要です。  〇 内部障害の方は感染しやすいため、感染予防に最大限の配慮をしましょう。 【心臓機能障害】 ・ペースメーカー等を装着している人は、近距離でスマホ等を利用すると悪い影  響を及ぼすリスクがあります。また、当事者が不安に感じることがあります。 【呼吸器機能障害】   ・タバコの煙などが苦しい方もいます。近くではタバコを吸わないよう配慮しましょう。 ・慢性的な呼吸困難、息切れ、咳等の症状があることを理解し、息苦しくならな  いよう、楽な姿勢でゆっくり話ができるよう配慮が必要です。 【腎臓機能障害】   ・人工透析など、定期的な通院への理解と時間の配慮が必要です。 【ぼうこう・直腸機能障害】 ・トイレの案内などでは、安心して話をすることができるように、同性の対応が  望ましいでしょう。 ・オストメイト対応トイレに案内しましょう。設備がない場合は、近くに設備のある施設があればそちらを、無い場合は、ゆとりのある広めの洋式トイレに案内してください。 【肝臓機能障害】   ・過食(特にたんぱく質の取りすぎ)は意識障害の誘因となり、食塩はむくみを    悪化させます。アルコールや症状を悪化させる食べ物を無理に勧めないように    しましょう。                事例 (内容は【事例・資料編】を参照のこと) ●区の事例     ・言語障害者への対応(401)     ・区民プール入場時の障害者の確認方法について(601)  ・駐輪場にヘルプマーク優先スペースを(603)         ●民間事業所等の事例  ・障害者手帳のコピーの範囲(602) 7、重症心身障害・医療的ケアが必要な人  重症心身障害は、自分で体を動かすことができない重度の肢体不自由と、年齢に相応した知的発達が見られない重度の知的障害が重複している、最も重い障害です。原因は不明の場合もあり、周産期や成長期の事故や疾患による場合もあります。 言語によるコミュニケーションが難しく、四肢体幹の変形・拘縮・筋肉の緊張など、運動機能が著しく低下し、移動・食事・着替え・洗面・トイレ・入浴など様々な場面で介助が必要です。また、医療的ケアが必要な場合もあり、家族・介護者には長期にわたり多大な身体的、精神的負担があります。   [よくある誤解]  ・重症心身障害者は、障害が重いので、自分の意思をもてない。  ・話しかけても反応がない場合は、本人に届いていない。(正解は以下を参照)                                       (1)こんなことに困っています ○ 言語によるコミュニケーションが難しいため、何らかの意思表示をしていても、それが周囲に伝わりにくいこともあります。 ○ 外出や日中活動の場が制限されています。外出では、リフト付きタクシーなどの車両、トイレ、食事、介助者の確保などの調整が必要になります。 ○ 医療的ケアが必要な場合は、夜間の定期的な痰の吸引などで、家族の睡眠や休養が制約されることがあります。 〇 感染症などにかかりやすく重症化するリスクがあり、居室を清潔に保つなどの配慮が必要です。 (2)こんな配慮が必要です  ○ どんなに重い障害があっても、その人の発達の段階や一人ひとりの個性と能力に応じた発達支援、また家族への支援が必要です。  〇 介護者ではなく、本人に話しかけましょう。言葉によるコミュニケーションが難しく、話しかけて反応がないように見えても、本人は話す側のことばの雰囲気や表情などを感じ取っています。また、表情や仕草、身体の動きなどによって気持ちや意思を表しています。(P61 コラム19 意思決定支援参照)  ○ 医療的ケアの必要度に応じて、医療機関等と連携を図りながら、個々の状態や必要な支援を丁寧に確認し、適切な支援を行うことが必要です。 ○ 人工呼吸器などを装着して専用の車椅子で移動する人もいるため、電車やバスの乗降時等に、周囲の人が手伝って車椅子を持ち上げるなどの配慮が必要です。 ○ 体温調整がうまくできないことも多いので、衣服、寝具や室温、湿度に気を配り、急な温度変化を避け、一定の適温を保持する配慮が必要です。 〔 コラム18 医療的ケア・医療的ケア児について 〕  〇 医療的ケアとは    家族や看護師が在宅で日常的に行っている経管栄養注入や痰の吸引、導尿などの医    療的介助行為のことです。     医師法上の「医療行為」と区別して、「医療的ケア」と呼んでいます。    例)気管切開、人工呼吸器、吸引、エアウェイ、在宅酸素、経管栄養、胃ろう※、   中心静脈栄養、導尿、腹膜透析、尿道残置カテーテル、ストマ、腸ろう※ 等 ※エアウェイとは、意識障害や気道確保のために用いる管。 ※胃ろう(腸ろう)とは、口から水分や栄養をとれない方や食べてむせる方に、胃(腸)に開けた穴から、水分や栄養を直接入れる経管栄養のひとつです。   これらの介助は家庭だけでなく、介護や教育の場でも行う必要が生じてきて、現在  では、介護の場では介護福祉士が、教育の場では看護師が配置された特別支援学校で  は教員が、研修を修了し、都知事の認定を受けることにより、タンの吸引等の5つの  特定行為に限り、医療的ケアを行えるようになっています。     〇 医療的ケア児とは    医学の進歩を背景として、NICU(新生児集中治療室)等に長期入院した後など、  引き続き医療的ケアが日常的に必要なこどもを「医療的ケア児」といいます。歩行可能  な状態から自分で体を動かすことが困難な状態までと様々です。重症心身障害児も多く  いるとされています。   年齢相応の社会生活と教育を受けるために、医療、学校、家庭の十分な連携が必要で  す。    8、知的障害  おおむね18歳頃までの発達期に、知的な能力が年齢相応に発達していないため、日常生活や社会生活の適応に困難がある状態です。原因が特定できない場合が多いですが、ダウン症候群などの染色体異常、または先天性代謝異常によるものや、脳症や外傷性脳損傷などの脳の疾患による場合などもあります。  しかし、どんな重度の障害があっても、それぞれの障害特性に合わせた教育や配慮・支援を受けながら、社会経験や学びを積むことにより社会参加しています。  障害の状況は、知的能力の程度により、また「てんかん」や自閉症などとの重複により、大きく異なります。ダウン症候群の場合、筋肉の低緊張や、心臓などの臓器に疾患を伴う場合があります。  周囲の理解や支援によって一歩一歩成長していける可能性をもっています。   [よくある誤解]  ・抽象的なことは理解できないので、支援してあげないと何もできない。  ・「はい」と返事したことは、すべて理解している。  ・知的障害がある人は、一人で外出できない。  ・大人の年齢であっても子供と同じような言葉づかいでよい。  (正解は以下を参照)                                       (1)こんなことに困っています   ○ 読み書きや計算が苦手  そのため、お金の計算も苦手な人もいます。         〇 コミュニケーションの力が弱い   そのため、人に尋ねたり自分の意見を言うことが苦手な方もいます。       〇 状況を判断することが苦手    そのため、仕事の手順をすぐ覚えたり、人とのやり取りに素早く対応す   ることが困難で、時間がかかることがあります。      〇 抽象的な概念や複雑なことは理解しにくい     そのため、周りの状況、未経験の出来事や状況の急な変化への対応が困難な    方が多くいます。比喩や例えを言葉どおりに受け取り、誤解を招くことがあり    ます。     〇 経験不足から、金銭管理・会話・買い物・家事などの場面で、その人の状態に応じた支援が必要な場合があります。 〇 てんかん(P68)や、自閉症(P62)を重複する場合もあります。 (2)こんな配慮が必要です   〇 介助者と一緒でも、まず本人と向き合うことが原則です。子ども扱いせず、 その人の年齢に応じた接し方や言葉づかいをしてください。 〇 最初は難しいことも、その人に応じた配慮や、わかりやすい説明、練習など  によって、外出や社会生活上のスキルを身に着けていきます。一人で外出を楽  しむ人も沢山います。   〇 自分で出来ることは自分でやりたい人も多くいます。何でも手伝うのではな  く、場合によっては、見守ることも大切です。    〇 話しかけるとき   穏やかに、短い文章で、「ゆっくり」「ていねいに」「繰返し」説明し、理解さ    れたことを確認しながら応対します。      〇 書類の説明  漢字を少なくしてルビを振るなどの配慮で、理解しやすくなることがありますが、逆に、ひらがなばかりの文章ではわかりにくい人もいます。一人ひとりの障害の特性に合わせて対応します。  絵や図・カード・写真等、実物のイメージがわかるものを使うと、わかりやすくなることがあります。   〇質問の仕方と確認   二者択一など、答えやすいような聞き方を工夫してください。  「はい、分かりました」と返事をしても内容を理解していないことがあります。大切な事柄は質問の仕方を変えて聞きなおし、(「○○が良い?」「○○は嫌?」)、内容を理解できているかの確認を行ったり、理解した内容を本人に話してもらうなどの方法で、確認できる場合もあります。 ○ 望ましくない行動が見られたとき   いきなり強い調子で「ダメ」「やらないで」などの否定する言葉を使うと、恐怖感を与えて、内容が伝わりません。「どうしましたか」等、穏やかな口調で「○○をしてください」と、肯定的、具体的に伝えましょう。 ○ あらかじめ予定を伝える   見通しがもてないと不安になることがあります。その日の予定や今後の手順 などを、わかりやすく伝えておきましょう。    (3)これだけはチェック! 〇 リーフレット等の作成では、必要に応じて「わかりやすい版」(表現を簡単にして、ルビを振る など)を作成する 〇 イベントの際には、必要に応じてクールダウン出来るスペース(周囲の騒音や刺激のない場所)等を用意する 事例  (内容は【事例・資料編】を参照のこと) ●区の事例     ・知的障害者への声かけについて(801)     ・健康診断における合理的配慮について(802)  ・子ども向け事業への保護者同伴について(803)  ・行事案内チラシの配慮(804)  ・プールでの指導者付き利用(805)     ・新BOPの対応について(806)  ・学校の部活動への参加(807)         ●民間事業所等の事例     ・病院の検査拒否(808) 〔コラム19 意思決定支援〕  障害のために、自分の意思を決定することや、表明することが困難な人もいます。  意思決定が困難な場合も、可能な限り本人が自ら意思決定ができるように支援し、本人の意思や選好を確認・推定して、本人の最善の利益を検討する仕組みを、「意思決定支援」といいます。   知的障害者には、意思決定支援としてサポートすることが重要視されています。その際のポイントは、以下のとおりです。    〇 自分で理解できる情報が得られること    〇 自分と似ている状況にある仲間や相談できる相手との経験の共有ができること    〇 選びやすくなるための、選択を体験する機会が十分にあること    〇 身体反応が健常者と異なる場合、身体反応のキャッチ(解読)ができる人           (熊谷晋一郎 「手をつなぐ仲間たち」2019年9月号より一部引用) 9 発達障害  発達障害者支援法において、「発達障害」は「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」(発達障害者支援法における定義 第二条より)と定義されています。  これらのタイプのうちどれにあたるのか、障害の種類を明確に分けて診断することは大変難しいとされています。障害ごとの特徴がそれぞれ少しずつ重なり合っている場合も多いからです。  大事なことは、その人がどんなことができて、何が苦手なのか、どんな魅力があるのかといった「その人」に目を向けることです。そして、その人その人に合った支援があれば、だれもが自分らしく、生きていけるのです。      脳機能の発達のアンバランスさによって、物事の見方、感じ方、理解の仕方、人との関わり方などに偏りがある障害です。外見からは分かりにくく、説明が難しい障害です。そのため、周囲からは親のしつけや、本人の性格の問題だと誤解されることも多く、本人や家族は「生きにくさ」を感じることがあります。    知的な遅れを伴うこともありますが、伴わない場合もあります。日常生活で困難を抱えていても障害とは気づかれにくく、必要な支援を受けることができずに困っていることがあります。             【広汎性発達障害】    広汎性発達障害とは、自閉症、アスペルガー症候群のほか、レット障害、小児期崩 壊性障害、特定不能の広汎性発達障害を含む総称です。  〇自閉症とは 次の3つの特徴をもつ障害で、3歳までには何らかの症状がみられます。 ① 対人関係の障害(人と関わることを嫌がる など) ② コミュニケーションの障害(相手の言葉をそのまま反復するなど、ことばのやりとりが難しい など) ③ 限定した情動的な興味、行動及び活動(特定のものや事にこだわる など)      最近では、症状が軽くても自閉症と同質の障害のある場合、自閉症スペクトラム   (連続体)と呼ばれることがあります。     〇アスペルガー症候群とは   対人関係の障害があり、限定した情動的な興味、行動及び活動をするという特徴   は、自閉症と共通した障害です。アスペルガー症候群は、明らかな認知の発達・   言語発達の障害を伴いません。     コラム20:広汎性発達障害の名称について】 発達障害の概念が医学的に明らかになってから、その理解や分類は変化してきました。DSM-Ⅴ(2013)*及びICD-11(2019)**においては、「広汎性発達障害」概念が見直されて、「自閉症スペクトラム」等に改編されています。 このガイドブック作成時点で、日本では「発達障害者支援法」や行政における表記はICD-10(1990)に基づいているため、「広汎性発達障害」のままの表記としました。(2022年までにICD11-の国内での適用作業が行われる予定です。)              *精神障害の診断と統計マニュアル:アメリカ精神医学会 **疾病及び関連保健問題の国際統計分類:WHO世界保健機構 [よくある誤解]  ・保護者のしつけや本人の努力不足など、家庭での教育上の問題である  ・自閉症のこだわりは、自己中心的な性格だから直らない  ・アスペルガーの人が相手の気持ちが分からないのは、「わがまま」だから  ・ADHDの注意力が低いのは、忘れやすい性格のせい  (正解は上記を参照)            (1)こんなことに困っています ・相手の表情や態度などから、相手の状況を読み取ることが難しいため、その場にふさわしい行動をとれないことがあります。 ・先の見通しの立たない状況では不安が強くなります。急な予定変更などに対処できず、パニックを起こすことがあります。 ・聴覚や触覚などの感覚過敏がある場合、大きな音や光などに過度に反応することがあります。 ・想像力の不足から、言葉を字義どおりにしか受け取れないことがあり、コミュ ケーションが上手くいかないことがあります。  ・特定の手順を繰り返したり、特定の物に強い興味を示すことがあります。 (2)こんな配慮が必要です ・肯定的、具体的、視覚的な伝え方の工夫を行います。 何かを伝えたり依頼する場合には、必ずその意図や目的を伝えたり、図やイラスト等を使って説明する、など) ・予定の変更は前もって説明しておきましょう。  手順の変更や担当職員の交代、当初の予定の変更などは、事前に説明することで、混乱やパニックを抑えられることがある ・スモールステップによる支援を心がけます。 手順を示す、モデルを見せる、体験練習をする、新しく挑戦する部分は少しずつにするなど ・感覚過敏がある場合  音や肌触り、室温など感覚面の調整を行います。 (イヤーマフを活用する、大声で説明せずホワイトボードで内容を伝える、人とぶつからないように居場所を衝立などで区切る、クーラー等の設備のある部屋を利用できるように配慮するなど) ・会話によるコミュニケーションに苦手意識を持つ人に対しては、必要に応じて、ICT機器を利用したり、筆談などの手段を使います。 事例 ●都の好事例(引用:東京都障害者差別解消法ハンドブックより)     「情報を整理し、情報から遮断された場所を準備する」  自閉症、アスペルガー障害などの人は、音・光・掲示物など情報過多な場所だと混乱しやすく、不安・緊張が強くなってしまいます。人ごみや騒々しい場所、雑然とした部屋などでは、会話が聞き取れなかったり、重要な掲示を見逃したり、必要な情報をピックアップすることができない場合があり、パニックを起こしてしまうこともあります。個室で対応する、パーテーションで遮るなど、できるだけ情報の少ない静かな場所で、必要な情報を確実に伝える工夫が有効です。   パニックを起こしてしまった場合は、トイレや個室など、できるだけ情報から遮断された場所(カームダウンスペース)に移動してもらい、落ち着くまで待つなどの対応をします。 【学習障害(LD)】   全般的な知的発達に遅れはないのに、読む・書く・計算するなどの特定の能力を  学んだり、行ったりすることに著しい困難がある状態をいいます。 (1)こんなことに困っています ・相手の話が理解できない、思っている事をうまく伝えられない人もいます。 ・「話す」「理解」は普通にできるのに、「読む」「書く」「計算する」ことが、努力しているのに極端に苦手な人がいます。 (2)こんな配慮が必要です ・ICT機器を活用する際は、文字を大きくしたり行間を空けるなど、読みやすくなるように工夫します。  ・苦手な部分について、課題の量・質を適切に加減する、柔軟な評価をする。  ・提出書類の代筆を行います。  学習障害のある人の中には、書類などを書くことに不相応な時間がかかったり、正確に書くことができない人がいます。窓口で対応する際に、苦手なことを確認した上で、代筆を行うなどの配慮が有効です。  ・窓口で計算機を利用できるようにします。 【注意欠陥多動性障害(ADHD)】  注意持続の欠如もしくは、その子どもの年齢や発達レベルに見合わない多動性や衝動性、あるいはその両方が特徴です。この3つの症状は通常7歳以前に現れます。注意力や集中力が弱い、落ち着きがなくじっとしていられない(多動性)、突発的な行動(衝動性)などの特徴がみられます。 ① 多動性(おしゃべりが止まらない、待つことが苦手でうろうろしてしまうことがある) ② 注意力散漫(うっかりして同じ間違いを繰り返してしまうことがある)  ③ 衝動性(約束や決まり事を守れないことや、せっかちでいらいらしてしま    うことがよくある)   一般的に多動や不注意といった様子が目立つのは学齢期ですが、思春期以降はこ  ういった症状が目立たなくなるともいわれています。 (1)こんなことに困っています ・興味のあるものをすぐに触ったり、手に取ったりせずにいられない人もいます。 ・目的もなく歩き回ったり、そわそわして休みなく動いている人もいます。  ・優先順位をつけてものごとを処理していくことが苦手だったり、期限や約束を忘   れてしまうことがあります。そのため書類の締め切りを守れなかったり、重要な   約束をすっぽかしてしまうことがあります。 (2)こんな配慮が必要です(国交省コミュニケーションハンドブックより一部引用) 〇 具体的な表現で分かりやすく伝えます。  ・短く、はっきりした言い方で伝える  ・肯定的な対応を心掛ける  ・返答に困っていたら、補助ツール(図、写真など)を使ってみる   〇 手続きの流れや予定などの見通しを伝えます。 ・やるべきことを、優先順位を明確にして伝える  ・期限や約束が守れない人には、締め切りや約束の日を記したメモを渡す、   直前に確認の連絡(メール、電話)を行うなどのサポートが役立ちます 〇 環境に配慮します。 ・気の散りにくい座席の位置の工夫、分かりやすいルール提示などを行う ・忘れ物をする、約束を忘れる、遅刻する、場所がわからない、という状況に陥りやすいため、確認の仕方を工夫する 事例 ●区の事例 (内容は【事例・資料編】を参照のこと)     ・(職)テスト用紙の拡大コピーについて(902)  ・学校での合理的配慮(いじめ、座席)(903)     ・学校での合理的配慮(タブレット)(904)     ・学校での合理的配慮(学習)(905)     ・学校での十分な教育を(906)     ・WiFi環境整備等(907)  ・学力調査のITC活用(908)  (職):職員からの相談 ●民間事業所等の事例     ・交通事故被害児童の受診拒否(901)  ・柔道教室への参加(909 他の行政機関)  ● 都の好事例 (東京都差別解消法ハンドブック H30/10より抜粋)     発達障害のIさんは、文字の読み書きが苦手であり、様々な手続きの際、書類の記入欄を間違えたり、誤字を書いてしまったりして、何回も書き直さなければなりませんでした。     そこで、Iさんの相談を受けている職員は、「記入欄に鉛筆で丸をつけたり付箋を貼って示す」「書類のモデルを作成して示す」「職員が鉛筆で下書きする」などを試したところ、書類作成を失敗する回数が少なくなりました。 ●以上、主な発達障害とその症状については、国立障害者リハビリテーションセンター>発達障害情報・支援センター>理解する>発達障害とは  を参考にしました。 10 精神障害  さまざまな精神疾患(統合失調症やうつ病などの)が原因となり起こる、精神機能の障害によって、日常生活や社会参加に困難をきたしている状態のことです。  疾患や環境によって、障害状況や困りごとは様々です。また、時間帯や季節、ライフステージなどによって状態が変わることがあります。外部からは分かりにくく、誤解(努力不足、怠惰、甘えなど)や偏見(働けない、遺伝するなど)をうけやすいこともあり、症状からくる苦痛のほか、日々の生活や仕事、対人関係などの場面で、様々な生活のしづらさを抱えています。  医療だけでなく、福祉・就労・教育・権利擁護等の総合的な支援が望まれます。これらの支援により、就労も含めて、地域の中で安定して生活を送れる人が少なくありません。一方、病気に対する偏見や誤解によって、差別の対象となりやすく、社会資源の少なさもあり、社会参加が妨げられがちです。   [よくある誤解]  ・精神障害は遺伝する  ・精神障害がある人は、就労が困難である  ・働くことができないのは、本人の努力が足らないから  ・仕事をよく休むのは、甘えているからだ     (正解は上記を参照) ●以下は、代表的な疾患の特性です。 【統合失調症】  ・原因はよく分かっていない。100人に1人弱がかかる一般的な病気。 ・「陽性症状」:幻覚や妄想が特徴だが、その他にも様々な生活のしづらさが障害として表れることがある。 ・「陰性症状」:意欲が低下し、以前からの趣味や楽しみにしていた事に興味を示さなくなる。また疲れやすく集中力が保てず、人づきあいを避け引きこもりがちになる。 ・「認知や行動の障害」:考えがまとまりにくく、自分でも何が言いたいのかわからなくなる。相手の話の内容がつかめず、周囲にうまく合わせることができない。等     【気分障害】 ・気分の波が主な症状としてあらわれる病気。うつ状態のみを認める時はうつ病と呼び、うつ状態と躁状態を繰り返す場合には、双極性障害(躁うつ病)と呼ぶ。 ・うつ状態:気持ちが強く落ち込み、何事にもやる気が出ない、疲れやすい、考えが働かない、自分が価値のない人間のように思える、自殺を考えてしまうこともある。 ・躁状態:気持ちが過剰に高揚し、普段ならあり得ないような浪費をしたり、ほとんど眠らずに働き続けたりする。その一方で、ちょっとした事にも敏感に反応し、他人に対して怒りっぽくなったり、自分は何でも出来ると思い込んで人の話を聞かなくなったりする。 【依存症】(アルコール) ・飲酒したいという強い欲求がコントロールができず、過剰に飲酒したり、昼夜問わず飲酒したりすることで身体的、社会生活上の様々な問題が生じる。 ・体がアルコールに慣れることで、アルコールが体から抜けると、発汗、頻脈、手の震え、不安、イライラなどの離脱症状が出る。 ・一念発起して断酒しようとしても、離脱症状の不快感や、日常生活での不安感から逃れるために、また飲んでしまうことがある。 【てんかん】  ・何らかの原因で、一時的に脳の一部が過剰に興奮することにより、発作がおきる。 ・発作には、けいれんを伴うもの、突然意識を失うもの、意識はあるが認知の変化を伴うものなど、様々なタイプのものがある。発作による転倒により、打撲や頭部外傷などのケガを負うことがある。 ・内服治療を行い、発作が起こっていないほとんどの時間は普通の生活が可能。 【認知症】 ・認知症とは、単一の病名ではなく、種々の原因となる疾患により記憶障害など認知機能が低下し、生活に支障が出ている状態である。 ・原因となる主な疾患として、 アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症(ピック病など)がある。 ・認知機能の障害の他に、行動・心理症状(PTSD)と呼ばれる症状(徘徊、不穏、興奮、幻覚、妄想など)が出現することがある。                                     (1)こんなことに困っています ○日々の生活  ・ストレスに弱く、緊張したり疲れやすかったりします。  ・自信が持てなかったり、自信があってもしばしば失敗することがあります。  ・感情の表現が苦手です。  ・不眠や食欲の変化、身体の不調(頭痛・動悸・嘔吐や下痢、便秘・呼吸困難感 等) ○就労  ・まじめで緊張が強く、疲れやすかったり、周囲の期待に応えようと、がんばりすぎて、体調を崩すことがあります。  ・症状や服薬の影響などで、手順やルールをなど覚えるのに時間がかかることがあります。 ○対人関係 ・病気のことを知られたくないために、引っ込み思案になることがあります。 ・自分に関係ないことでも自分に関係づけて考えるなど、周囲の言動が被害的に感じられ、人と関わるのが怖くなったり、攻撃的になることがあります。 ・対人関係上の「適切な距離」が難しいことがある。など ○住居  ・賃貸の場合、障害をオープンにしての契約が難しいことがあります。  ・病状が悪化した際の状況によっては部屋の管理が行き届かないことがあります。 (2)こんな配慮が必要です ・症状のみに目を向けず、具体的な困りごとについて話し合いましょう。必要に応じて専門機関などに相談します。 ・手続きなどの説明で、分かりにくい様子があれば、見本を使うなどの工夫をしましょう。 ・手続き上「障害の内容」の確認が必要な場合も、必要最低限に留めます。(手帳等級のみで良い場合は、病名までは聞かない、など) 事例  (内容は【事例・資料編】を参照のこと) ●区の事例     ・ヘルプマークの理解を求めたら図書館から退去させられた(1001)  ・自転車駐輪場の障害者スペース(1002)      ●民間事業者等の事例  ・わかりやすい授業を(1003) ●都の好事例(東京都差別解消法ハンドブック H30/10より抜粋)   「薬が効くまでの時間をもらえると」  Jさんは、精神障害者としての経験を生かして、福祉サービス事業所でピアサポーター*として活動しています。しかし、月に一度位は幻聴が出ることがあり、Jさんは活動に支障がでることを心配していました。  ⇒職員に相談すると、「普段はどうしているのですか?」と質問され、Jさんは「頓服薬をのんで一時間位静養すると治まってくる」と説明しました。すると「自分なりの対処方法があるのは良いことですよ」「症状があっても、工夫しながら活動を続けることが大切です」「他の利用者の励みになるのだから気にする必要はありません」と言われ、幻聴が出た時は、頓服が効くまで静養できることになりました。その後、Aさんは、ピアサポーターとして自信を持ちながら、安心して活動しています。 *ピアサポーター:「ピアサポート」(同じ症状や悩みをもち同じような立場にある仲間が、体験を語り合い、回復を目指す取り組み)を行う人のことです。 (参考) 対応のコツ~統合失調症の方の場合を例に~     心配事を相談されたとき ・まず、本人のペースで話に耳をかたむけましょう。 ・大人として、相手を尊重した聞き方。話し方を心がけましょう。     ・ときどき、話を具体的に整理しながら会話をすすめましょう。     ・表情と感情を一致させましょう。(含み笑いは本人が誤解しやすい。)     助言をする場合 ・頭ごなしや命令口調ではなく、「○○してみましょうよ」「○○してくれると助かるんだけど」など、ゆっくり穏やかな口調で話しましょう。     ・具体的かつ手短かに、誤解の余地がないよう伝えましょう。     ・お手本や具体例を示しましょう。     対応がつらくなった場合     ・同意を求められても、違うと思うことや分からないことは率直に伝えましょう。 ・対応できる範囲を明確に伝えましょう。     ・専門機関などと相談しながら対応しましょう (東京都福祉保健局ハートシティ東京「障害を知る」より) 11 難病  難病とは、原因不明で治療方法が確立されておらず、神経筋疾病、骨関節疾病、感覚器疾病など様々な疾病により、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由など多彩な障害を生じる、長期の療養を必要とする疾病です。  しばしば、長期にわたって慢性の経過をたどり病態や障害が進行する場合が多く、生活面における制約や、治療等のための経済的な負担や、家族等の身体的、精神的な負担が大きいといわれています。また一方、継続的な医療などで病状が安定して、生活できる場合もあります。  難病のうち、医療の確保の必要性が高く一定の要件を満たすものは、障害福祉サービスの対象となります。その疾病の数は、令和元年7月に348疾病に拡大されました。                                  (1)こんなことに困っています  〇「痛み」「しびれ」「手足に力が入らない」「倦怠感」などに悩まされている場合   も多いのですが、外見上わかりにくいために、「出来るのにやらない」「さぼって   いる」など誤解されることがあります。  〇同じ病気でも、状態や障害に個人差がありますが、「その病気なら〇〇」とひと   くくりにされ、困っていることを分かってもらえないことがあります。  〇一日の中で症状が変化することがありますが、保健福祉サービスで状態に応じた介護や支援を適切に受けることは難しく、家族などの負担が大きくなることがあります。  〇外見に目立つ症状がある疾患などは、うつる病気と誤解されることがあります。 (2)こんな配慮が必要です  〇それぞれの病気による症状やその日の状態により、症状が異なります。外見で判   断せず、本人の様子や、直接本人に聞くなどにより、体調や状態に合わせて対応   しましょう。  〇病状により、痛みや疲労感、出来ること、出来ないことに波があります。その時の体調に合わせた配慮をしましょう。 〇体調がすぐれない様子の時には声をかけて、必要に応じて休憩できる場所へ案内しましょう。窓口職場などでは、柔軟に休憩できる場所を確保しておきましょう。 〇難病は伝染病ではないため、うつりません。外見の症状から来る誤解や偏見を招かないよう、配慮が必要です。  〇プライバシーに配慮し、病名や病状の確認などは、必要最低限   にとどめましょう。  〇ヘルプマークを身に着けている場合もあります。 事例 ●都の好事例(東京都差別解消法ハンドブック H30/10より抜粋)   「色素性乾皮症(XP)児の保育所における対応」 遮光対策が必要である色素性乾皮症患者のKちゃんは、紫外線対策がなされていない保育所に入所することは困難です。 ⇒入所を希望する保育所と話し合った結果、UVカットシートを保育室等の窓ガラスに貼ること、紫外線を遮断するために窓は常時閉鎖してエアコンを取り付けることのほか、保育所側に日光に当たってしまった際の対応策などを十分把握してもらった上で、他の保育児・保護者への説明も十分行い、疾病に対する理解を得ることで、安心して保育所に通うことができるようになりました。 〔 コラム21 障害児について 〕  障害児については、成人の障害者とは異なる支援の必要性があります。子どもは発達段階にあり、個々の子どもの発達の段階に応じて一人ひとりの個性と能力に応じた、ていねいに配慮された支援を行う発達支援が必要です。  また、子どもを養育する家族を含めた、ていねい且つ早い段階からの家族支援が必要です。特に保護者が、子どもの障害を知った時の気持ちを出発点とし、障害を理解して受け入れるまでの過程においては、関係者の十分な配慮が必要です。   ●子ども用車いす  子ども用車いすは、移動が困難な障害があるために、日常生活に必要不可欠な補装具として給付されたものです。ベビーカーと間違われて、段差や乗り物の乗降時に必要な介助を受けられなかったり、スロープを出してもらえない、あるいは電車内で折りたたむよう、要求されることもあります。  ベビーカーとの違いは、   ○ 大人用車いすよりは軽く、ベビーカーよりは重い。   ○ 乗り降りしやすいよう、座面の高さが調整できるタイプや、背もたれの角度が水平     近くまで倒すことができるタイプもあります。   ○ 障害によっては、人工呼吸器や吸引機などの医療用器具を載せるスペースも     確保されていることがあります。   〇 外出先でたたんだり、子供を降ろすことことは困難であることを知ってください。      〔 コラム22 複合差別 〕 ・ 女性である障害者は、障害に加えて性別による固定的役割分担や、それに関連する慣行や暴力など、複合的に困難な状況に置かれている場合があることに留意する必要があります。  ・ 場面や内容等により、女性職員が対応するなどの配慮が必要な場合があります。 ・ 障害のある女性は、障害者であると同時に女性です。そうした同時に複数の立場を生きる個人がこうむる、差別体験を捉える言葉として「複合差別」と言う言葉があります。 ・ 家庭や学校、職場、医療を受けるときなど、日常生活の様々な場面で、障害のある女  性は複合差別を経験する場合があります。 ・ 女性に限らず、子どもや貧困など、困難が複合していることに焦点を当て、取組む視  点も必要です。    第6 関連する相談窓口 ○ 障害者差別に関する相談 ・世田谷区障害施策推進課 TEL 03-5432-2424 (P16:相談・問い合わせへの対応を参照) ・東京都権利擁護センター TEL  03-5320-4223 ○ 障害者就労差別に関する相談 ・障害者就労支援センターしごとねっと TEL 03-3418-1432 ・ (同) すきっぷ就労相談室 TEL 03-3302-7972 ・ (同) ゆに(UNI) TEL 03-5707-2343 ・東京都労働局   TEL 03-3512-1664    ・渋谷総合労働相談コーナー(渋谷労働基準監督所内)                     TEL 03-6849-1167 ○ 障害者への虐待に関する相談窓口        世田谷総合支所保健福祉課障害支援  TEL 03-5432-2865    北沢総合支所保健福祉課障害支援   TEL 03-6804-8727    玉川総合支所保健福祉課障害支援   TEL 03-3702-2092    砧 総合支所保健福祉課障害支援  TEL 03-3482-819 8 烏山総合支所保健福祉課障害支援 TEL 03-3326-6115 世田谷区障害者夜間・休日虐待通報ダイヤル                      TEL 03-5432-1033   ○ その他    法テラス東京            TEL 050-3383-5300    世田谷区消費生活センター(相談専用)TEL 03-3410-6522 ○ 人権擁護相談(問い合わせ先:人権・男女共同参画担当課)                     TEL 03-5432-2259 ○ 世田谷区DV相談専用電話(※相談日のみ)      TEL 0570-074-740 【第一面記載方法】 おわりに  障害者差別解消法の理念を実現していくには、国民一人ひとりの障害に対する理解と適切な配慮が不可欠であり、差別と解される事例についても、お互いの意思疎通不足や理解の不足が起因していると思われることも見受けられます。法に定められたからということで身構えるのではなく、区民・事業者・区が歩み寄り理解を深めていくことが、差別解消の第一歩につながると考えられます。  職員のみなさんの本法に関する理解と、障害者差別解消に向けた取組みを積極的に進めて頂きますようお願いします。  【ガイドブック作成等にあたり、ご協力いただいた団体等】    <世田谷区障害者福祉団体連絡協議会加盟団体>     公益社団法人日本オストミー協会東京支部世田谷交流会     世田谷区肢体不自由児(者)父母の会     世田谷区身体障害者福祉協会     世田谷区重症心身障害児(者)を守る会     世田谷区手をつなぐ親の会     世田谷区パーキンソン病友の会     世田谷生活と健康を守る会しょうがい部会     特定非営利活動法人自立の家     特定非営利活動法人せたがや移動ケア     特定非営利活動法人世田谷区視力障害者福祉協会     特定非営利活動法人世田谷区聴覚障害者協会     特定非営利活動法人世田谷さくら会     特定非営利活動法人世田谷ミニキャブ区民の会   特定非営利活動法人ヒューマンハーバー世田谷     ふたばの会                     (50音順)  <世田谷区自立支援協議会 虐待防止・差別解消・権利擁護部会>                                                                              1 19