第27期第4回世田谷区社会教育委員の会議 議事録(要旨) 【1】開催日時 平成28年12月15日(木)18時30分〜20時15分 【2】開催場所 世田谷区役所第3庁舎3階 ブライトホール 【3】出席委員 萩原委員(議長)、宇佐美委員(副議長)、薄井委員、神保委員、箕輪委員、上原委員、権田委員、坂倉委員、宮田委員、湯澤委員 【4】出席職員 教育委員会事務局 工藤教育政策部長、土屋生涯学習・地域・学校連携課長、 小林社会教育係長、御園生社会教育担当係長、丸山社会教育係主事 【5】事例報告者 工藤 惠子 (NPO法人せたがや水辺デザインネットワーク、元児童館職員:福祉指導) 【6】傍 聴 人 なし 【7】資料  会議資料1 第27期社会教育委員の会議第3回定例会議事録(要旨) 会議資料2 事例報告者資料(「子ども・若者との約40年」研修レジメ) 参考資料1 教育委員会教育長、教育長職務代理者及び委員の就任について 参考資料2 第38回新年子どもまつりチラシ 参考資料3 わくわくウィンタープラン2016−2017 参考資料4 とうきょうの地域教育 No.125、No.126   【8】前回議事録(要旨)の承認 異議なく承認された。議事録(要旨)の署名人は、上原委員と権田委員。 第4回定例会の議事録(要旨)の署名人は、議長が宇佐美委員と坂倉委員を指名。 【9】議事要旨 1.事例報告 前回会議を受け、世田谷区の子どもの貧困の現状について、元児童館職員であり、現在はNPO法人せたがや水辺デザインネットワークで活動している工藤惠子氏より報告いただいた。 −事例報告要旨− 私たちの時代は、「人と人をつなぐ」ということを児童館の仕事の生業としてきた。「人と人をつなぐ」ことによって、子ども達が育つ環境で社会と地域のつながりを作る、子どもの遊び場を作る、そして同時に子ども自身の放課後の生活を作るという3本柱で児童館時代には仕事をしてきた。今日報告する子どもの貧困というテーマは、私自身がこの10年間にどう感じ、かつどのように子どもたちと向かい合いながら問題解決をしてきたかについて事例報告させていただく。 数字で現れるいわゆる経済的貧困は子どもの貧困とは少し違うように感じる。具体的に言うと、親が一流企業に勤めている事やマンションに住んでいるから、子どもが貧困ではないということはなく、父親がメンタル疾患になってしまい、それに伴い母親が入院してしまえば、貧困につながる。経済的な問題だけでなく、子ども達が追い詰められ、貧困状態になってしまう現実がある。それは家庭・家族の関係が希薄化していることも関係している。つまり、子どもの貧困は経済的な問題だけではなく、身体的な病気、メンタル、DVなどの複合的な要因で引き起こされる。 事例をあげれば、父親が公務員、母親が保育士という共働きの状況なのに、全ての収入を父親が管理し、母親に現金を渡さないため、母親は児童館の幼児サークルの時の材料費や、遠足の交通費が払えないでいた。このように目に見える就労先だけでは計れないことは沢山ある。 DVについては、父親が母親に暴力を振るう、また逆に母親が父親に暴力を振るうどちらのケースであっても、子どもは恐怖感を持つ。それが例え一時的なものであっても、子どもにとっては長く辛い体験となる。 子どもへのネグレクトはその中でも一番大きい問題であり、臭い、ケジラミ、耳の裏が汚い、手のしわの中が汚いなどで気がつく。 児童館職員の気づきから、児童相談所で緊急保護された子のケースですが、ある日、職員がお昼ご飯にインスタントの味噌汁を飲んでいると、欲しそうにしている子がいたので1つ作ってあげると、一口飲んで「美味しい」と言った。その時のその子の顔が、とても美味しいものを食べたような特別な顔だった。翌日児童館のお鍋で味噌汁をみんなで作ると、その味噌汁を抱え込むようにして飲み、余りも全て食べてしまった。ここまでくると何かあると思い、母親と話そうと家まで行ったが、家におらず会うことができなかった。その後、その子の妹が保育園に通っていることが分かっていたので、保育園の先生経由で母親へのアプローチを試みた。しかし、書類に書いてある勤め先などは嘘であり、会うことができなかった。しかたがないのでその子を送りにいった際に、その子の持っている鍵で家に入れてもらったが、中はひどい状態で、妹の世話は全てその子がしていた。結果的に児童相談所に相談し一時保護をかけ、その兄妹は施設に入った。ちょっとした顔つきや食事の仕方は子どもからのサインであり、それを見逃さないようにしなければならないと感じたケースである。 子どもは信頼関係を築いた相手にはお喋りである。何か問題を抱えていても、正式に相談があると言ってくる子はいない。学校でいじめがあった時「子どもは相談に来ませんでした」などのコメントがあるが、相談しに行く子は普通はいない。その子がボソッボソッと喋っていることをいかにキャッチできるかが重要であり、その前提としての信頼関係が大事である。 貧困からは離れていじめの問題になってしまうが、近隣の中学校でネットいじめがあった。被害にあったのは3人で、1人は幼児サークルの頃から児童館に通っている子だった。その子は他の2人を庇っていじめを受けるようになっており、結果的にその3人は不登校になってしまった。加害者の子達は昔学童クラブに在籍していた子ども達で面識があったので、その子ども達を集めて話を聞いた。その中で、加害者の子ども達のストレスの根幹になっているのが、家庭環境の問題ということが分かった。加害者側の子の1人は父親がメンタルで病んでおり、その親の状況がストレスとなっていた。別の子は5人兄弟で、親が離婚の話し合いをしている最中だった。もう1人の子は母子家庭で生活が厳しかった。貧困とは何かを簡単には規定できないが、こういった家庭環境が子ども達に負のエネルギーを与えることは事実であり、そういった子どものストレスの解決方法も考えないと、問題は繰り返すだけである。 緊急事態のときに公の機関と繋がることはとても大事であり、子ども家庭支援センターや生活支援課などと連携を取りつつ、児童相談所につなぎ、問題解決に当たらなければならない時も沢山ある。その際に壁になるのが守秘義務である。この守秘義務が大きな壁となり、問題解決を遅らせる場合がある。もう一方でこの守秘義務を守らないと、地域が噂の壷になってしまい、子ども達が生き辛くなってしまう。この守秘義務の壁をいかに突破するかは、信頼関係と地域の協力関係に左右される。守秘義務を重要視しなければならないと共に、どうやって突破するかも考えなければならない。 他の事例では、児童館に毎日来ているのに、参加費7000円が払えないため、キャンプに行けない子がいた。そういった時に、児童館は平等だから7000円を払えない子は行けないというのは、児童館職員としては価値が無いと思う。7000円が無い中でその子とどう向き合うかがプロとしての勝負所である。その時は実際に家で出せるのはいくらかを子ども自身に確認させ、5000円までなら出せることが分かった。その児童館には中高生のリーダー集団がいて、この問題を議題にかけた所、足りない2000円を稼ぐことになった。この児童館には児童館の活動を支えてくれる大人のサークルがあり、その団体の人が家のガラス磨きや車の掃除などの要望を出してくれて、中高生のリーダー集団がその要望に応え、対価としてお金をもらうこととなった。そうして貯めたお金で2000円を出せることができた。後日その子のお婆ちゃんが漬物を作って持ってきてくれた。漬物は値段にしてみれば2000円に満たないものだが、心がこもっており、そのリーダー集団の子ども達はとても喜んだ。そういった繋がりが何よりも大事なものである。 先程話した母親に物しか渡さない家のケースの話しに戻るが、この母親は冬場に防寒着が無く困っていた。ただ単に誰かが防寒着を渡すことは簡単だが、それは施しをすることになり、その人を傷つけてしまう。その人が気兼ねなく防寒着を手に入れるにはどうすればいいか考える必要がある。このケースでは、児童館の中に「あげます・くださいコーナー」という、ボードに自分の欲しい物を書き込み、その物をあげてもいい人が、そのコーナーに物を置いていくリサイクルコーナーを作った。そのリサイクルコーナーを活用して、母親は防寒着を手に入れることができた。地域の子ども達や大人達が知恵を出し合う形で取り組むと、地域の繋がりによって、誰かを助けることができる。 貧困や生き辛い状況の子の生活を守ってあげるためには、その子を特別視し、他の子と差別化する必要があり、なおかつ他の子からは差別化してないように見せなければならない。公務員は平等に全ての人と接しなければならないという考え方があるが、そもそもの格差が存在するため平等にはならない。その子ども一人ひとりに足りない部分をどうフォローするかが大切である。施策どうこうももちろん大切なことだが、まずは目の前にいる子どもの現状を知り、必要なことを考えていく。その子のことを知っている人が増えていけば、繋がりの中でその子を見守る目も増えていく。子ども達を見守りながら、子ども達の訴えていることをキャッチし、生きた地域の人たちの繋がりでその子を見守っていくことが本当に大切な事である。地域で子ども達が生きやすい環境を築いていかなければならない。 最後の事例をお話するが、児童館によく来ていた子で、両親と上の兄姉が失踪してしまい、妹2人の面倒を見ていた子がいた。妹たちは結局施設に入り、本人は中学校卒業後から工場の家事手伝いの仕事をすることになった。その子は真面目で、現在は職を変えて非正規雇用で働きながら、施設から出た妹へ仕送りもしている。その子は未だに貧困のままだが、休暇は児童館への恩返しとして行事の手伝いに来てくれる。貧困状態は解消されていないかもしれないが、暖かさでその子は曲がらずに育ち、彼なりの目的を持って生きている。お金ではない価値意識で支えられるという意味では、改めて貧困はお金だけの問題でないと感じる。 2.意見交換 事例報告を受け、意見交換を行った。 (委員)今は子どもがSOSを出せる大人がいないのが問題だと感じる。子どもの事件が起こるたびに、SOSをキャッチできる大人がいなかったのではと感じるが、今の社会でそういったSOSをキャッチするにはどうしたらいいか。 (事例報告者)地域の行事やマンションの行事などの身近で日常的な活動が大事だと感じる。最近ではPTA役員の役割をお金で売買するなどの記事を見たが、PTAの活動も大事だと思うし、その助け合いの中で見えてくることもあると思う。 (議長)新しくアクションするより、今行っている活動の意味を別の角度で評価し直すのも大事かもしれない。 (事例報告者)子どもはずっとその地域で暮らしていく。最近は縦の関係が崩れたと良く言われるが実際には存在しており、中高生の姿に小学生は憧れる。中高生が地域を見守ってくれると、その地域は遊びを含め、豊かな関係性が築ける。またそれを見守る大人達がいることも大事で、中高生達を見守ってあげると豊かな地域となる。 中高生のリーダーがいない児童館では、別の児童館の中高生リーダーに来てもらい、6年生の子達にリーダーとしてどういった活動をすれば良いか教えてもらったことがあった。 東日本大震災の際に、児童館職員が交代で現地に行き、アパートを借り上げて、被災地の子ども達の居場所作りを行った。職員は定期的に交代するので、いなくなった後に次の職員への引き継ぎを行うボランティアとして協力してくれたのが、大学生になった、先程話した6年生の子達だった。新たなものを何か作るより、中高生の活躍の場を作るようにすると、知らない間に繋がりが作れている。 (委員)小さい頃に児童館でお世話になった子が中高生になって、今度は地域のリーダーとして小さい子達に教えていくという循環が実際に今できていると思う。子ども自身やその家族が抱えている背景を丸ごとひっくるめてサポートできる体制があれば良いが、それは難しいので、日常的に通えるような居場所づくりと、子どもを気にかけてくれる人が増えてくれると良い。 (委員)繋がりがあることで、貧困は解決しないが、生き辛さは解消できることが分かった。そのためにも人と人との繋がりを作れるような人を増やしていくことが重要だと思うが、どのように増やしたらいいのか。 (事例報告者)繋がりを作れる人が少ないのは、ソーシャルワーカーやソーシャルコーディネーターが日本に根付いていないのが原因のひとつだと思う。昔の児童館は今のような専門職ではなく、音楽、工作、体育、幼児サークルなどそれぞれに特化した非常勤の方々が働いており、専門的なサークルを作っていた。学習遅滞の子ども達が目立ち始めた時期に、中高生のリーダー集団が勉強を見てあげていたら、専門サークルで活動している人の夫が先生をしており、勉強を教えてくれることになった。そこから近くにいたソーシャルワーカーの方も加わり、寺子屋として活動を始めることになった。単体で活動をしている団体が多い中、その団体同士を繋げるようなキーパーソンとなる人がいると、繋がりを多く増やせていけると思う。 (委員)先程の事例の中にあった、子どもが行事の参加を諦めていたのを、工夫によって諦めさせないという経験をさせたことは、次の生活に繋がっていく大切な事だと感じた。一人ひとりの家庭や子どもの状況が違うので、時間もかかるし対応も異なってくる。そうなると現在は絶対的に子どもをサポートする場所が少ない。子どもに希望を与えるような場所を増やすことが、貧困の解消に繋がるのではないかと思う。 (委員)お話にあったような、年上の子が下の子の面倒を見ているような家庭は確かにある。何とか子どもを貧困から救うような仕組みが欲しい。親をどうするかの前に子どもに何をしてあげられるか考えなければならない。 (事例報告者)下町の方の区の一部のエリアで、親の帰りが遅い子どもの孤食を避ける事業を行政主導で行っている。またその際に子ども達を家まで送るのに、シルバー人材センターを活用しているとのことだった。既存の団体であるシルバーの方と新たな繋がりを作るという点で面白いなと思った。 (議長)別の自治体で似たような事業として、高齢者の方の計算教室があり、そこで子ども達に計算を教え、帰宅時には見守りとして家まで送る活動を行っている。 (委員)今まで既存で行ってきた事を、繋がりがもてるような形になれば、子ども達を守っていけるのではないかと思う。また義務教育終了後も小さい頃からの繋がりがあれば、見守っていけると思う。 (議長)今回の話を議事録にまとめ、次回キーワードやアイデアを出していくこととする。 (2)その他  <事務局より> ・教育委員会教育長、教育長職務代理者及び委員の就任について報告。 ・第38回新年子どもまつりについて報告 ・わくわくウィンタープラン2016~2017が発行。 ・とうきょうの地域教育No.125、No126が発行。 参考に情報提供する。 【10】今後の日程について 第5回定例会の日程について 1月24日(火)午後6時30分より、教育委員会室にて開催を予定する。 − 以上 −