世田谷区本庁舎等整備施工者選定手法等検討委員会 報告書 令和元年8月 目次 はじめに 1ページ 1.世田谷区本庁舎等整備施工者選定手法等検討委員会について 2ページ (1)目的 (2)検討事項 (3)委員名簿 (4)委員会の経緯 2.世田谷区本庁舎等整備の概要について 4ページ (1)本事業の概要 (2)工事計画(1期工事) (3)工事計画(2期工事) (4)構造計画 (5)工程計画 3.世田谷区の建設工事における業者選定の現状 10ページ (1)工事請負契約の発注方法の考え方 (2)入札方式について 4.世田谷区本庁舎等整備施工者選定手法等について(提言) 11ページ (1)選定方式 (2)発注方式 5.今後の検討について 14ページ (1)入札参加者の形態 (2)地域経済振興の方策 (3)工期の適正化 (4)総合評価方式の評価項目 (5)検討組織の必要性 <資料編> 資料1 全体ステップ図 資料2 各階平面図・断面図(工期区分) 資料3 仮設計画図(1期工事、2期工事) 資料4 工程表(案) 資料5 区民会館改修内容 資料6 サウンディング型市場調査結果の概要について 資料7 建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律について(抜粋) 資料8 総合評価方式について はじめに 世田谷区本庁舎等整備については、建築後50年以上を経過した世田谷区役所本庁舎及び 世田谷区民会館について、災害対策や区民サービス、環境性能など様々な機能の向上を図るため、 平成28年12月に策定された「世田谷区本庁舎等整備基本構想」をもとに、 平成31年3月には「世田谷区本庁舎等整備基本設計」がとりまとめられ、 現在、実施設計が進められています。 今回の工事は、現在の敷地内で長期間にわたり、庁舎機能を維持しながら、 解体建設を繰り返す工事であり、また、各工期で建設した免震建物を最終的に 一つの建物として完成させる非常に難易度の高い工事です。 世田谷区本庁舎等整備施工者選定手法等検討委員会は、世田谷区本庁舎等整備に 最適な施工者を選定する手法等を検討するため、令和元年6月に設置されました。 本委員会は、建築契約や建築生産、建築構造といった分野の委員から構成され、 3回にわたって議論を重ねてきました。 世田谷区本庁舎等整備については、これまで区が経験したことのない大規模な事業であり、 高い施工品質と建物性能の確保等が求められるとともに、地域経済に与える波及効果や、 地元業者の受注機会の確保といった視点も重要となります。 本委員会では、このような要求に対し、本庁舎等整備に最適な施工者を選定することを 可能とする発注方式や選定方式を採用する視点で検討を進めてきました。 本委員会での検討が、区民に親しまれる魅力ある庁舎、区民会館の実現に活かされることを期待します。 令和元年8月 世田谷区本庁舎等整備施工者選定手法等検討委員会 委員長 遠藤 和義 1.世田谷区本庁舎等整備施工者選定手法等検討委員会について (1)目的 世田谷区本庁舎等整備は、限られた敷地条件下で、工事を数工期に分割し、 本庁舎機能を工事期間中も継続させ、長期にわたり安全を確保しつつ、 円滑に工事を進めなければならない。 平成31年3月に区が策定した世田谷区本庁舎等整備基本設計では、 「施工者を選定するにあたっては、価格競争方式の金額のみによる評価だけでなく、 建設工事の発注方法(各工期や建築・電気・機械工事における一括発注又は分離発注の区分)に ついても、十分検討をしたうえで、最適な施工者を選定する手法等を検討する必要がある」としている。 世田谷区は、これに基づき、高度な工事管理と施工技術が求められる本庁舎等整備について、 最適な施工者を選定するための建設工事の発注方法や選定手法を専門的見地から 検討することを目的に本委員会を設置した。 (2)検討事項 本委員会では、本庁舎等整備における建設工事の発注方法(各工期や建築・電気・機械工事に おける一括発注又は分離発注の区分)や施工者の選定手法(価格競争方式、総合評価方式、 技術提案・交渉方式など)について検討する。 (3)委員名簿 (敬称略) 委員長 えんどう かずよし 工学院大学建築学部建築学科教授 副委員長 つのだ まこと 首都大学東京都市環境学部建築学科教授 委員 うらえ まさと 東洋大学理工学部建築学科教授 委員 かにさわ ひろたけ 芝浦工業大学建築学部建築学科教授 委員 なかの よしあき 東京大学生産技術研究所教授 委員 おかだ あつし 世田谷区副区長 委員 しんどう たつお 世田谷区財務部長 (4)委員会の経緯 第1回 令和元年6月18日(火) 14:00〜17:00 区役所第三庁舎3階ブライトホール ・検討委員会の運営について ・世田谷区本庁舎等整備基本設計について ・世田谷区の建設工事における業者選定の現状について ・施工者選定手法等検討におけるポイントについて ・区が実施するサウンディング型市場調査について 第2回 令和元年7月23日(火)14:30〜17:00 区役所第二庁舎5階第5委員会室 ・選定方式について ・発注区分について 第3回 令和元年8月2日(金)13:00〜14:30 区役所第二庁舎5階第5委員会室 ・検討委員会報告書(案)について ・今後の検討について ・検討委員会資料の公開について 2.世田谷区本庁舎等整備の概要について 本工事の状況を把握するため、必要な図面等資料の提供を世田谷区に求め、 設計の条件を確認し、検討を行った。 (1)本事業の概要 今回の本庁舎等整備については、同一敷地内で解体と新築を繰り返す工事となるため、 工期ごとに、東敷地、西敷地において、既存庁舎の利用についても配慮しながら必要な 施工ヤードを確保し、工事を施工する必要がある。 基本設計においては、保存・改修する区民会館ホールを除き、東棟、西棟の2棟の免震建物で 本庁舎等を構成する計画としている。また、現敷地内での整備を行うことから、 既存庁舎設備の配置、工事期間中の執務面積確保、災害対策本部の機能維持等を考慮し、 東敷地を2期、西敷地を3期に分けて建設する計画としている。 3期工事の中で、特に仮設計画が難しい1期工事、2期工事の工事計画の概要を以下に示す。 (2)工事計画(1期工事) 【仮設計画図(1期工事)】 東敷地では、非常用発電機用のオイルタンクの設置、インフラ関係の引き込みが東側に 集中しているため、既存のケヤキを保存しつつ、歩行者の安全な通行を確保しながら、 これらの工事を調整して行う必要がある。また、オイルタンク設置の関係など、 メインゲートが通行できないことも想定されるため、中央区道側にも、サブの工事ゲートを 設ける想定もあるが、こちらにも既存のケヤキがあり、それを保存しながら、区民会館の 改修工事、地中熱利用の採熱管の設置と調整を行いながら、工事を進める必要がある。 西敷地では、工事中の非常用電源確保のため、仮設発電機とオイルタンクの設置、 井戸設備の工事を行い、これらの準備工事後に本体建物工事に着手する。 また、1期工事においては外構部分に、地中熱利用の採熱管を設置するため、 搬入車両との調整を行いながら、工事を進める必要がある。 1期工事の竣工時には、地下通路が未完成のため、情報通信等の配線を、東西の1期工事の 竣工エリアを仮配線で接続する必要がある。 1期工事では、給水・排水・中圧ガス・電気の引き込み、オイルタンクの設置、 地中熱利用設備などの工事を、本体建物の工事と平行して実施する必要がある為、 建築・電気・設備が互いに全体工程を見据え、調整を図りながら工事を進める必要がある。 (3)工事計画(2期工事) 【仮設計画図(2期工事)】 インフラ設備は、1期工事ですべて引き込みが完了するため、新たな引き込みはなく、 1期棟から2期棟へと延長・接続する形で工事を進める。 2期工事では、中央区道の下に地下1・2階で設置される地下通路の工事と、 既存のインフラ設備の切り替え工事との調整が重要となる。 中央区道には、給水管、下水管、電気、ガス配管、NTTの通信線などが埋設されているため、 山留め工事や掘削工事を行う際には、インフラ関係の調整が必要となる。 新設する地下通路と既存の地下通路は位置が重複しているため、既存の地下通路の撤去を 行う必要があるが、この既存地下通路には、現在の第1庁舎と第2庁舎を繋ぐ、 さまざまな配管・配線があるため、確実な現地調査を行ったうえで、 インフラの切り替えを実施する必要がある。 既存の地下通路の解体が完了後、新しい地下通路の躯体工事に着手することが可能となるが、 西1期棟については、敷地内の排水設備等のインフラ配管が設置済みの箇所があるため、 山留・躯体工事を進めるにあたっては、注意が必要となる。 地下通路の躯体が完成した後は、必要なインフラの配線・配管を復旧したあとに、 埋め戻しを行う流れとなる。また、図には記載していないが、中央区道は地区計画で 地区防災施設に指定されていることから、工事中も緊急時の通り抜けの確保が求められる。 2期工事においては、地下2階、地上5階の東棟・西棟の本体建物を構築しながら、 中央区道の通り抜けを確保しつつ、インフラの切り替え、地下通路の構築を進める必要があり、 建築・電気・設備が一体となって工事を進める必要がある。 (4)構造計画 本庁舎については、最終的に1つの建物となる免震建物を、工期を分割して建設し、 接続する構造計画としている。接続に際しては、両者の鉛直沈下量を一致させた上で、 各階床レベルで緊結・一体化する必要があるが、各工期で計画される建物については 規模(階数)が異なるため、単位面積当たりの重量が異なる。また、施工計画によっては 既に供用開始後の東1期建物と供用開始前の東2期建物を一体化する必要があり、 しかも2期建物では供用開始後に重量が変動する可能性があることなどから、 一体化にあたっては両建物の沈下量を継続的に計測しつつ、かつ、 供用開始後の沈下量変化も予測しながら一体化するなどの慎重な施工が必要となる。 【平面図】 【断面図(東棟)】 (5)工程計画 敷地内で庁舎機能を維持しながら工事を実施するため、工事期間中も必要な庁舎面積を 確保する必要があり、東敷地を2期、西敷地を3期に分けて施工する計画としている。 各工期の竣工後、一定の期間内に既存庁舎から新築する庁舎へ移転を行い、 次工期の工事に着手する計画としており、東敷地、西敷地において、 それぞれ工事規模の異なる各工期の竣工時期を一致させる必要があり、 施工にあたっては、詳細な工程管理が求められる。 【工程表(東敷地)】 【工程表(西敷地)】 なお、世田谷区では、世田谷区本庁舎等整備がこれまで区が経験したことのない規模の工事であり、 また、非常に難易度の高い工事であることから、本委員会の検討と平行して、 世田谷区による施工者へのサウンディング型市場調査が実施されている。調査では、 基本設計や仮設計画、工程表などの資料を提示し、本事業に参加意欲のある施工者から 「工事実績」「工事スケジュール」「その他」「参加意欲」などについて意見を求めている。 調査は、東京電子自治体共同運営電子調達サービスの共同運営格付における業種「建築工事」 の格付が「A」である法人(約300社)を対象とし、5者からの回答を得ている。 調査結果からは、現在の工程計画について、「工期が不足する」との回答が多く(5者中4者)、 その理由として、「既存建物の解体を含めた地下工事に不確定要素が多く、 工期の不足が懸念される。」(5者中4者)、「東1期の逆打ち工事に使用する鋼材、 ボルトの納期が問題になる可能性が高い。」(5者中4者)、「『働き方改革を推進するための 関連法律の整備に関する法律』に伴い、4週8閉所とすることを目標としている。」 (5者中5者)といった意見があったことが世田谷区から報告された。 3.世田谷区の建設工事における業者選定の現状 世田谷区から、これまでの建設工事における業者選定の現状と特徴について、以下の内容が説明された。 (1)工事請負契約の発注方法の考え方 1 区内事業者の育成・支援 ・一定金額以上の大規模案件等を除き、区内業者に限定して入札を実施している。 ・区内業者については「優先業種区分登録制度」を設けている。 ※土木、建築、電気設備、機械設備(空調、給排水衛生)、造園のうち1事業者1区分に申請をして、登録業種のみ入札参加可能とする制度。 ※登録の条件は、営業所が世田谷区内にあり、当該営業所で建設業許可を受けて以来継続的に営業活動を行い2年以上経過していること等。 ・過去の官公庁発注工事実績や経営事項審査の総合評定値(客観点数)を入札参加条件とする際は、区内業者の条件を区外業者より緩和することで、区内業者の受注機会を確保することが多い。 2 工種ごとの分離発注 受注機会拡大のため、原則として「建築工事」「電気工事」「空調工事」「給排水衛生工事」の分離発注を実施している。 3 東京電子自治体共同運営電子調達サービスの利用 入札はすべて東京電子自治体共同運営電子調達サービスによる電子入札とし、当該サービスで入札参加資格を有していることを参加条件としている。 (2)入札方式について 1 一般競争入札(価格競争入札) 予定価格130万円超の工事は原則として、価格競争による一般競争入札を実施している。 2 一般競争入札(施工能力審査型総合評価方式) 施工実績や工事成績を加味して施工者を選定することで工事の質を高めることが 期待される一部の工事で、施工能力審査型総合評価方式による一般競争入札を実施している。 <世田谷区の施工能力審査型総合評価方式の特徴> ・区が策定している総合評価方式の要綱は施工能力審査型(特別簡易型)のみ。 ・要綱上、建設共同企業体(JV)が参加する入札では施工能力審査型総合評価方式を実施しないとしている。 ・本方式は価格点、施工能力評価点及び地域貢献評価点の合計により評価されるが、施工能力評価点は世田谷区が発注した工事のみを成績評価の対象としていることや地域貢献評価点は区との災害時協力協定を加点要素としていることから、今回のような大規模かつ難易度の高い工事で区外業者も参加する入札の業者選定への適用には課題がある。 4.世田谷区本庁舎等整備施工者選定手法等について(提言) 委員会では、本事業の特徴と区の建設工事における業者選定の現状等を把握し、 「選定方式」「発注方式」について、3回の委員会にわたり議論を行った結果、 次のとおり提言する。 (1)選定方式 ・制限付一般競争入札とする。 ・総合評価方式の技術提案評価型(S型)を導入する。 本事業は大規模な公共工事発注であることから、透明性、公平性、競争性の高い一般競争入札となるが、高度な技術を保有した施工者を選定する必要があり、入札参加者に一定の資格、施工実績等の条件を付けた制限付一般競争入札とするべきである。 参加事業者が上記の条件を満たしていることを確認・評価するためには、価格だけでなく、実績や施工技術等を総合的に評価し落札者を決定する総合評価方式を採用することが必要である。 総合評価方式にも様々な型式が存在するが、本事業においては以下の点に考慮し、「国土交通省直轄工事における総合評価落札方式の運用ガイドライン」に定義される、施工上の特定の課題等に関して、施工上の工夫等に係る提案を求めて総合的なコストの縮減や品質の向上を図る技術提案評価型S型がふさわしいとの結論に至った。 ・本事業は設計・施工を分離発注する方針であり、要求事項は設計図書に反映されることから、設計の変更を伴うような提案を求める必要はないこと。 ・複雑な工事手順を踏むことに対し、施工上の工夫に対する提案を求める必要があること。 提案の例(想定):既存建物解体を含めた地下工事の施工方法、中央区道下の地下通路の解体と新築の施工方法など なお、世田谷区では初めての導入となるため、本事業への技術提案評価型総合評価方式の適用に関する制度構築について、区において検討を行う必要がある。また、総合評価方式における具体的な評価項目については、本事業特有の要求事項を踏まえた検討が必要である。 (2)発注方式 ・工期、工区、工種に関する分割は行わず、全て一括での発注とする。 ・区内事業者の受注機会の確保及び地域経済振興の施策については、先行的に行う解体・改修工事を分離発注することや、総合評価の具体的な評価基準に配慮することを検討する。 (工期・工区について) 規模及び単位面積当たりの重量の異なる各工期の免震構造の建物を一体化する本工事においては、各工期の建物の沈下量を継続的に計測しつつ、かつ、供用開始後の沈下量変化も予測しながら一体化するなどの慎重な施工が必要と考えられる。加えて、建物一体化時に当初予測値との誤差が認められた場合には、その適切な吸収方法を検討しておく必要がある。 これらは、いずれも理論的には解決可能ではあるが、施工時には信頼性ある方法で確実に実施される必要がある。したがって、全工期を通じての責任体制や連携体制の構築が重視され、本工事は全工期を通じて一括発注されることが必要との結論に至った。 更に、本工事は免震工法と耐震補強工法が混在する建物であり、挙動の異なる建物間で地震時の干渉、衝突等による不具合が生じないように施工することが重要である。 また、設備についても、最終的に一つのシステムとして機能する各種設備工事を段階的に施工し仮使用開始後に接続する必要がある。 これらの技術的課題は前述の工期だけでなく、工区の分割についても重要な論点となるとの認識に至った。 東西に分かれた本計画において、東西敷地をそれぞれ異なる施工者が施工する場合、接続時における不具合や事故が起きた場合の迅速な対応に課題が生じると考えられる。 また、分割された狭小な敷地内での施工ヤードの確保、東西の庁舎をつなぐインフラの維持、敷地中央道路下での既存地下通路の解体及び新設地下通路の構築等、施工作業自体が困難になると考えられる。以上を踏まえると、責任体制や連携体制の構築の観点から、工区についても一括で発注することが必要との結論に至った。 (工種について) 工種毎の発注区分については、3章で示したとおり、世田谷区はこれまで工種毎に分けて発注する「分割発注」を実施してきたが、本事業においては「分割発注」と全工種を1つの事業者に発注する「一括発注」の双方の特性を改めて確認したうえで、以下に示す「他の事業にはない特有の要求事項」に対し、工種間の連携強化と工事責任の明確化により、リスクの最小化を達成するため一括発注とすることが必要との結論に至った。 ・緊急時の早期対応が可能な各工種間の連携による6年間の全工事期間中の絶え間ない庁舎機能維持と区民及び区職員の安全確保 ・3つの工期とその間に行う移転・引越等を、多数の関係者が輻輳する中で、区民に周知した日程どおりに遂行させるスケジュール管理 ・本体建物工事に関連して発生する敷地内外の電気、ガス、水道、情報等の既存インフラを一時も寸断させることなく切り替えるために必要な本体建物施工者と各インフラ事業者との密接な事前調整と抜け漏れのない情報管理 また、一括発注とすることにより、各工種の施工情報を一括して管理することが可能となるため、工事中の建築、設備との取り合いなどの各工種間での施工の調整、進捗状況の確認等が可能となり、更に、竣工時期が異なる建物の竣工後の修繕・維持管理といったファシリティマネジメント※1に活用できるBIMデータの構築も可能となるとの意見もあった。 世田谷区の建設工事における業者選定の現状や、区において近年進められている比較的大型の拠点整備工事の現状と比較しても、今回の本庁舎等整備は100年に一度の大規模かつ難易度の高い工事である。よって、「他の事業にはない特有の要求事項」の実現に合致した、全てを一括発注とする方式が必要との結論に至った。 5.今後の検討について 昨今の社会情勢や建設市況を踏まえ、施工者選定を適正かつ公正に行うために、以下の事項について、さらなる検討を進め、決定する必要がある。 (1)入札参加者の形態 高い施工技術力を持った施工者を選定する必要性を前提としながらも、共同企業体での参加も可とするか等、事業者参画の機会のあり方を検討していくことが求められる。 (2)地域経済振興の方策 本事業では既存庁舎解体工事、本体建物新築工事及び外構工事に付随して、様々な関連整備工事が同時進行する。本事業特有の要求事項の達成を優先しながらも、本工事の安全性や建物性能の確保に影響のない範囲で、先行的に行う解体・改修などの分離発注を検討し、区内事業者の受注機会確保に努めていくことが求められる。 また、本事業は世田谷区が発注する事業の中でも非常に大きな金額規模であり、区内への経済振興に与える効果とその期待は大きいと考えられる。総合評価方式の評価項目に区内調達発注金額の提案を設定するなどの地域経済振興に資する方策を検討していくことが求められる。 (3)工期の適正化 サウンディング型市場調査の結果から伺えるように 2018 年7月改正の「働き方改革を推進するための関連法律の整備に関する法律」施行により、建設業界においても4週8閉所への変革が進められている。また、昨今課題となっている建設資材の納期についても、現時点では工期への影響を無視できない。 2020 年施行の改正建設業法に示される工期適正化に向けた方針に加え、入札不調リスクを回避するべく、市場の状況を踏まえた現実性のある工期設定が欠かせない。 サウンディング型市場調査の結果を参考に、国の動向も注視しながら、今後の実施設計の中で検証を重ね、実態を踏まえた適正な工期とすることが求められる。 (4)総合評価方式の評価項目 工事期間中の区民及び職員の安全性・利便性を確保し、工事が円滑に遂行されるよう、本施工者選定の総合評価方式では、以下に示す視点を参考に、入札参加事業者に求める具体的な評価項目を検討していくことが求められる。 【評価の視点の例】 ・事業者の業務実施体制 ・安全に配慮した施工計画 ・建物品質確保のための施工上の配慮 ・事業スケジュールに即した円滑な工事の遂行方法 ・区内の経済振興と事業者育成の方策 ・将来のファシリティマネジメントを有効に機能させるための方策 (5)検討組織の必要性 上記(1)〜(4)及び本委員会で提言した発注方式、選定方式に基づき施工者に求める条件、提案内容、また、提案に対する評価等を行うため、別途、専門的知見を有する委員会等を組織し、検討を進めることが求められる。