令和5年度 年度 月 QR コード 自動的に生成された説明 テキスト 自動的に生成された説明 事業運営 公益社団法人 青少年健康センター【茗荷谷クラブ】 目 次 Ⅰ.はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 Ⅱ.事業概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 1.メルクマールせたがやの理念・体制 2.活動内容 3.世田谷区の若者支援ネットワーク Ⅲ.活動実績 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 1.実績数値 2.利用状況 3.相談登録ケースに関する分析 4.ティーンズサポート事業 Ⅳ.支援効果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40 1.利用主体の変化 2.利用者の社会参加に向けた変化 3.利用者の他機関とのつながり Ⅴ.世田谷ひきこもり相談窓口「リンク」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48 1.概要 2.「リンク」における活動実績 3.メルクマールせたがやから「リンク」登録となったケースの特徴 Ⅵ.事例報告 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56 1.相談と居場所を利用し対人関係の自信を回復していった事例 2.母親相談から訪問支援、来所相談につながった20代の事例 3.メルクマールの両親相談から「リンク」の本人相談につながった事例 4.複数の機関を利用しながら社会とのつながりを回復した事例 5.両親相談から本人がつながり、数回の相談を経て本人が動き出せた事例 Ⅶ.メルクマールせたがや利用者の声 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62 1.アンケート結果 2.本人の声 3.家族の声 Ⅷ.広報・啓発活動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70 1.広報・啓発活動 2.視察・見学対応 Ⅸ.令和元年度~令和5年度 支援方針に基づく取組みの進行状況 ・・・・・・・・ 76 1.令和5年度の取組み状況 2.今後5年間の取組み Ⅰ はじめに Ⅰ.はじめに 令和5年度は、メルクマールせたがやが平成26年9月の開所から10年目を迎える節目の年で した。メルクマールせたがやは、せたがや若者サポートステーションと共に若者総合支援センター の構成機関として、若者ひとりひとりが望む自分らしい社会参加に向けた準備への支援に取り組ん できました。世田谷区は「若者支援担当課」という若者支援専門の部署を設置し、担当職員が一緒 になって区内の庁内関係機関を中心に事業周知の挨拶回りなどをしました。当時は、都内で若者支 援に取り組んでいる自治体はほとんどありませんでした。また、若者の総合相談窓口機能に加えて、 継続的な個別相談と居場所活動、家族会、アウトリーチなど多岐にわたる支援活動を先駆的に取り 組んでいる自治体として全国から視察の申し込みを受けました。若者支援・ひきこもり支援の普及 啓発など愚直に取り組み、支援活動を通して他機関とのネットワークが広がり、社会参加に向けた 準備が必要な若者やそのご家族と出会うことができました。 メルクマールせたがやにとって大きな転機になったのが、令和4年4月にひきこもり相談窓口 「リンク」が開設されたことです。これまでの若者支援の実践に加え、年齢を問わないひきこもり 支援窓口の運営を生活困窮者自立相談支援センターであるぷらっとホーム世田谷と共同運営する こととなりました。また、子ども・若者部から保健福祉政策部へと所管課が移管され、対象年齢も 39歳という上限が撤廃されました。本文でも触れていますが、開設10年目シンポジウムでは、パ ネリストから年齢上限が撤廃されて年齢による支援の分断がなくなったことに評価をいただきま した。令和5年度では、40歳以上の利用登録家庭数は20家庭と全体の4%であり、この割合は徐々 に増えています。 対象年齢が拡充されたことで、これまでの若者支援に係る機関だけではなく高齢福祉や保健福祉 といった地域包括支援に係る機関など、より多機関・多領域と連携する機会が増えました。メルク マールせたがやは、区内で多機関・多領域と連携している機関のひとつになったと自負しています。 連携を通して各機関の強みを学んでいます。 令和4年度以降、年間の新規相談登録家庭数は120件前後で推移しており、令和5年度末時点 での相談登録家庭数は累計で972家庭となりました。これに比例して、延べ相談対応件数も年々増 加傾向にあり、令和5年度は前年度から約1,000件増の5,876件でした。とくに、「リンク」の相 談対応件数は1,021件と前年度から倍増しています。ひきこもり相談という明確な相談窓口を開設 したことで、当事者やその家族が支援につながることができたと考えられます。ひきこもり支援で は、つながり続けることを目的とした伴走型支援という考え方があります。この支援のあり方は、 明確な課題や困難が語られない当事者への支援に必要であり、支援や制度からこぼれ落ちないため の予防にもなります。メルクマールせたがやは、当事者の思いや願いを聴くこと、声なき声を拾う ことを意識しながら、当事者が自分らしく暮らしていけるよう伴走型支援の実践に努めます。 令和6年度は、これまでの地域包括ケアシステムを5地域の保健福祉センターが強化する形で重 層的支援体制整備事業が区内全域で展開されます。生きづらさや困難を抱えた当事者個人だけでは なく、「リンク」で取り組んでいる「世帯丸ごと支援」の視点で、その世帯に対してあらゆる部署が 知恵を出し合うような多機関協働による支援体制が整備されることを願います。メルクマールせた がやは、生きづらさを抱えた若者の支援機関として、また「リンク」を運営する機関として、世田 谷区の重層的支援体制整備事業に寄与できるよう尽力いたします。今後ともご指導ご鞭撻のほど、 よろしくお願い致します。 令和6年5月 メルクマールせたがや施設長 廣岡武明 Ⅱ 事業概要 1.メルクマールせたがやの理念・体制 2.活動内容 3.世田谷区の若者支援ネットワーク Ⅱ.事業概要 1.メルクマールせたがやの理念・体制 メルクマールせたがやは、ひとりひとりの相談者を大切にするその理念として、3つのCHA を掲げ、ひきこもりなどの様々な理由から社会との接点が持てず、生きづらさを抱えた方及びそ の家族に対して、多様な自立や相談者の望む生き方をサポートすることを目的に、相談支援(来 所・訪問)、居場所支援、家族支援(家族会・出張セミナー)、他機関連携を実施している。 3つのCHA -メルクマールせたがやの理念- CHANCE -きっかけ作り- 不登校やひきこもりなどで生きづらさを抱えた方やその家族を対象に、変化に向けた一歩を踏み 出す・動き出すきっかけを作るための支援をします。 CHALLENGE -挑戦・動き出し- 活動やプログラムを通じて、新たなものに挑戦していくことをサポートします。 また、利用を重ねることで、自信をもって自立に向かえるよう支援します。 CHANNEL -つながり- 他の支援機関とつながり、連携をします。人とのつながり、関係性が生まれることにより、メル クマールせたがやを利用された方が再び社会とつながることができるよう支援します。 【対象】 区内在住の中高生世代以上の方とその家族。 なお令和3年度まで、本人(p.83用語解説参照)が39歳までの方とその家族を継続的な支援の 対象としていたが、令和4年度からは、①メルクマールせたがや利用者で40歳を迎えた方、 ②世田谷ひきこもり相談窓口「リンク」を経てメルクマールが継続的な相談を行う方、につい て年齢上限を撤廃し相談支援を行っている。相談者が18歳未満の場合、利用登録には保護者 の了承を必要とする。協定大学に在籍する学生は、住所地に関わらず利用できる(p.9 )。 【開室日・時間】 月曜日~土曜日(祝日、年末年始は除く) 10:00~18:00 【料金】 無料。ただし、本人に精神疾患、発達障害などの診断があり、医療機関を利用している場合は、 居場所利用にあたって主治医の意見書が必要であり、その費用は自己負担となる。また、居場 所のプログラムにおいて、材料費の実費負担として参加費を徴収するものもある。 【職員】 公認心理師・臨床心理士・精神保健福祉士、社会福祉士の有資格者もしくは若者・ひきこもり 支援の専門性を有する者で構成される。令和5年度は職員29名(常勤7名、非常勤22名)、開 室日平均12名の人員体制であった。 2.活動内容 1)相談支援 相談支援は、来所相談、訪問相談、出張相談を展開している。インテーク(初回面接)にて相談 者の話を丁寧に聴き、本人及び家族の悩みや心配事、要望などの相談内容を把握する。相談を継 続する中で問題・課題の解消に向けた適切な支援を行っている。来所による個別相談は担当制で 実施しており、家族からのみの相談も行う。 寝室の一角にあるソファー 中程度の精度で自動的に生成された説明 カウンターに置かれている部屋 低い精度で自動的に生成された説明 訪問相談は、原則本人・同居家族の了解を前提とし、家族から本人の状態、家庭での生活状況 などの情報収集を行い、本人とつながることを目的として実施している。必要に応じて、他機関 と連携して訪問を検討し、実施する。 出張相談は、メルクマールせたがやの相談員が区内関係機関・公共施設に出張し、区内遠方地 域での相談支援、他機関とのより円滑な連携を目的に行っている。令和2年6月より区内5つの 総合支所の区民相談室を利用した出張相談会を各支所隔月1回の定例で開始した。令和3年4月 から烏山総合支所のみ月1回の定例で実施していたが、令和4年4月からは区内5つの総合支 所全てにおいて、月1回の定例実施となった。また希望丘青少年交流センター「アップス」にお ける出張相談は、平成31年2月より開始し、毎月第2木曜日に実施している。いずれの出張相 談も1回30分程度の相談を受けている。ひきこもりなど生きづらさを抱え遠方からの利用を負 担に感じる方にとって、身近な場所で相談できる機会となっている。 (アップス出張相談会) (5総合支所出張相談会) テキスト 中程度の精度で自動的に生成された説明 テキスト 自動的に生成された説明 2)居場所支援 部屋に備えている様々な家具 中程度の精度で自動的に生成された説明 居場所は社会参加のきっかけづくりのために通うことのでき る交流の場である。居場所への参加は、グループ登録制として いる。登録制の居場所にすることで、ひきこもりなどの生きづ らさを抱えた若者が安心・安全感を持ちながら他者との交流体 験を積み重ねていく場となっている。 【対象】 メルクマールせたがや利用者で、居場所登録をした39歳までの若者 ※居場所登録をせずに参加できるオープンプログラムも月8回程度開催(メルサポ2回含む) 【開室日・時間】 月曜日~土曜日(祝日、年末年始は除く) 午前の回 10:30~12:30 午後の回 14:00~16:00 ※イベントの際はこの限りではない 【活動グループ】 グループ名 活動日 説明 Morningグループ 火AM 金PM 人数制限のないグループ。活動日は週1~2回。 Dayグループ 金AM 火PM 人数制限のないグループ。活動日は週1~2回。 First Stepグループ① 水PM(隔週) 定員5名の少人数グループ。活動日は隔週1回。 First Stepグループ② 月PM(隔週) 定員5名の少人数グループ。活動日は隔週1回 令和5年度は4つのグループで活動した。利用者は登録の際にいずれかのグループに所属す る。メンバーが固定されている活動グループの他に、グループ制限のないフリータイム、イベン トや居場所登録者以外でも参加可能なオープンプログラムを実施している。 【オープンプログラム】 グループ登録前に参加可能なプログラム。居場所登録を検討しているが参加している利用者の 様子や居場所の雰囲気がわからなかったり、どのように過ごしたらいいか不安を抱えていたり する方向けに、簡単な運動、座学形式の講座、クラフトや近所の散策など、興味・関心のある ものから参加しやすいようプログラム内容を工夫し実施している。 【メルサポ】 若者の中には、「支援」「相談」に対して構えのある方がいる。そこで、相談を経ずに予約もな しで「気軽にふらっと立ち寄れる居場所」として、平成30年度より世田谷若者総合支援セン ターをともに担う就労支援機関のせたがや若者サポートステーションと共同で実施している。 毎月祝日を除いた第1、4土曜日に実施している。主に2機関の利用者が集う場所となり、様々 な段階にいる参加者同士の交流が図られている。 テキスト 中程度の精度で自動的に生成された説明 テキスト が含まれている画像 自動的に生成された説明 (メルサポチラシ表) (メルサポチラシ裏) 【居場所スケジュール】 イベントやプログラム名を記載した居場所スケジュールは、毎月作成して利用者に配布・周知 している。 カレンダー 自動的に生成された説明 (令和5年6月号) 3)家族支援(家族会) 家族会には、講演会による「学び」、家族同士の「交流」の 2つの要素がある。特に、家族同士の交流は家族会 特有の機能であり、家族のピアサポート(p.83用語解説参照)の場となっている。基本的に家族会の前 半が本人理解や接し方などの心理面をはじめとした家族セミナー、後半が同じ悩みを抱える家族同士 の交流会で構成される。令和3年度より休止していた交流会は、令和5年5月に新型コロナウィルス 感染症が第5類に移行したことを受け、再開した。他支援機関とつながりがなく、悩みながらも個別 相談へのハードルが高いと感じて孤立しがちなご家族に向けて、聴講で参加できる家族会は支援機関 へとつながる入口として、孤立防止と早期介入を目的に行っている。 【対象】 区内在住のひきこもりなど生きづらさを抱えた方の家族(年齢は問わない) 【開催日・時間】 毎月第3土曜日 10:30~12:30 (※8月を除く) 【令和5年度家族支援実施内容】 テーブル が含まれている画像 自動的に生成された説明 4)出張セミナー 出張セミナーは、メルクマールせたがやがある世田谷地域以外の4地域(北沢・玉川・砧・烏山)で の利用者の掘り起こし、若者支援・ひきこもり支援の普及啓発・広報活動を目的としている。平成 28 年度より、世田谷若者総合支援センターとしてせたがや若者サポートステーションと共同で開催 しており、これまで精神科医やファイナンシャルプランナーなどによる講演を行うことにより、地域の 方々に事業を理解してもらうきっかけにもなっている。 【対象】 対象要件なし。 【開催日・時間】 年4回 13:30~16:00 【令和5年度出張セミナー実施内容】 第1回 令和5年6月3日 玉川区民会館 「子どもをサポートするコツ ~親にしかできないこと、親だからできないこととは?~」 講師:柴田泰臣氏(就労移行支援事業所ビルド神保町施設長) 第2回 令和5年9月9日 烏山区民会館 「「いいね!」から始めるお悩み解決術~自信を育む言葉かけ~」 講師:澤野久美子氏(学校法人敬心学園キャリアアドバイザー) 第3回 令和5年12月2日 祖師谷区民集会所 「働けない子どものライフプラン~親なき後のための生活設計~」 講師:村井英一氏(ファイナンシャルプランナー) 第4回 令和6年3月16日 梅丘パークホール(北沢区民会館別館) 「不登校・ひきこもりの対話的支援」 講師:斎藤環氏(筑波大学教授) 5)他機関連携 他機関連携は、「つながる・つなげる支援」として社会への自立の一歩、暮らしやすさを支援す る上で必須である。子ども・若者支援協議会(次項参照)のもとに「不登校・ひきこもり支援部会」 「思春期青年期精神保健部会」、重層的支援協議会のもとに「ひきこもり・就労支援部会」(p.49)、 「8050支援部会」が位置付けられている。区内には就労、障害、生活などの支援機関が多く存在 し、各協議会のネットワークおいて、本人のニーズにあった適切な機関と顔の見える連携を目指 してきた。 また、世田谷区と区内大学とで若者支援に関する協定が結ばれ、平成27年度よりひきこもり などの学生支援、若者の身近な居場所づくりを進めている。令和5年度現在、昭和女子大学、日 本大学文理学部の2校との連携を実施している。 ダイアグラム 中程度の精度で自動的に生成された説明 ①個別ケース検討会議 複合的問題を抱える利用者の支援には、多機関・多職種が互いの専門性を活かし合うことが 大切となる。機関同士の情報交換や支援状況の共有、支援方針の決定、役割分担などを目的に 開催する。 子ども・若者支援協議会と重層的支援協議会のもとに位置づけられた担当者レベルでの会議 のため、出席者は各機関における実務担当者を中心に構成される。会議の内容や知り得た情報 には守秘義務が課せられる。メルクマールせたがやは、世田谷区の子ども・若者指定支援機関 として、子ども・若者育成支援推進法に基づく個別ケース検討会議を開催することができる。 ②せたがや若者サポートステーションとの連携 せたがや若者サポートステーションとは、世田谷若者総合支援センターを担う機関として、 密に連携して若者支援に取り組んでいる。同じ建物という立地条件を活かし、文字通り担当者 同士の「顔の見える連携」ができることで迅速な対応につながっている。 また、世田谷若者総合支援センターとして、合同での出張セミナー(p.8)、「メルサポ」(p.6) や心理教育的なワークショップを中心とした「メルク・サポステ合同プログラム」などの居場 所プログラムを開催している。 3.世田谷区の若者支援ネットワーク 世田谷区は、平成27年2月に子ども・若者育成支援推進法第19条に基づき、主に区内の子ど も・若者支援に関する機関の連携を円滑に進めることを目的とした「世田谷区子ども・若者支援 協議会」を設置した。会議体は代表者会議、実務者会議、個別ケース検討会議に区分される。機 関同士の情報共有、支援内容の協議など関係機関連携を強化することにより、ひとつの機関で区 内の若者を支援するのではなく、区全体で総合的かつ継続的な支援を実施するためのネットワー クが構築されている。 以下の表は、子ども・若者支援協議会の開催状況である。メルクマールせたがやは、子ども・ 若者育成支援推進法による子ども・若者指定支援機関として、実務者会議となる「不登校・ひき こもり支援部会」の事務局を務めている。 協議会名年間開催数 世田谷区子ども・若者支援協議会2回 不登校・ひきこもり支援部会3回 思春期青年期精神保健部会2回 協 議 会 関 係 不登校・ひきこもり支援部会の主な取組み 不登校・ひきこもり支援部会は主に10代の若者に係る支援機関や教育機関で構成される。令 和5年度に開催された全3回の内容は表の通りである。不登校・ひきこもり支援部会では、不登 校・ひきこもりや若者支援に係る話題提供を行い、参加している委員が積極的に意見・発言を交 わす区内外の支援情報の共有の場となっている。各機関の顔つなぎの場として機能し、構成機関 同士の連携が強化されている。 また、毎年度各構成機関の支援活動の理解を目的として、構成機関別事業一覧を作成している。 第 1 回 5月 25日(木) 第 2 回 10月 26日(木) 第 3 回 2月 22日(木) 【内容】 ・部会説明 ・話題提供 ひきこもり相談窓口 「リンク」より ひきこもり相談窓 口「リンク」における支援の実際 ~「リンク」が若者層のいる世帯 に関わるとき 事例を通して~ 【内容】 ・話題提供① 世田谷区立桜木中 学校より 不登校等気になる生 徒への対応~学校現場より~ ・話題提供② メルクマールせた がやより 不登校・ひきこもりの子 どもとその家族への支援~連携を 視点に~ 【内容】 ・話題提供 メルクマールせた がやより 連携について(第2回 の振り返り) ・事例検討 【不登校・ひきこもり支援部会構成機関】 保健福祉センター健康づくり課世田谷区児童相談所NPO法人東京都自閉症協会 みつけばハウス 保健福祉センター子ども家庭支援課都立世田谷泉高等学校野毛青少年交流センター 保健福祉センター保健福祉課都立中部総合精神保健福祉センター希望丘青少年交流センター「アップス」 障害保健福祉課都立松沢病院池之上青少年交流センター 生活福祉課世田谷区発達障害相談・療育センター「げんき」(事務局)メルクマールせたがや 児童課NPO法人日本子どもソーシャルワーク協会(事務局)子ども・若者支援課 教育総合センター教育相談課特定非営利活動法人 まひろ(エリア・ワン)(オブザーバー)世田谷保健所健康推進課 【世田谷区子ども・若者支援協議会説明図】 ダイアグラム 自動的に生成された説明 Ⅲ 活動実績 1.実績数値 2.利用状況 3.相談登録ケースに関する分析 4.ティーンズサポート事業 Ⅲ.活動実績 1.実績数値 平成26年度から令和5年度までのメルクマールせたがやの実績数値は表の通りである。 メルクマールせたがや【令和5年度利用実績】 H26~R2年度合 計 R3年度合計R4年度合計4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月合計累計 ケース登録あり1740637764140363359377390404399409388403359399418466829990 リンク対応件数※15075971879110297107888957799410211528 ケース登録なし52681203131529152020161291013151879971793238574850435445493496526516532488501426491527587632515H26~R2年度合 計 R3年度合計R4年度合計4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月合計累計 410416419438447463470474478479477479651831228102010178106496811697234076302711116231141453499416419438447463470474478479477479473H26~R2年度合 計 R3年度合計R4年度合計4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月合計累計 1001014941669125107108107901061111161339599109130614479H26~R2年度合 計 R3年度合計R4年度合計4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月合計累計 1392215001111031012111877386848989767888526179265242324223525221420162422271384046147686436233532713911211120320014H26~R2年度合 計 R3年度合計R4年度合計4月5月6月*7月8月9月*10月11月12月*1月2月3月*合計累計 10512522731115241623615261813782451821*:出張セミナー実施月 H26~R2年度合 計 R3年度合計R4年度合計4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月合計累計 93737582879091981001021031031593350438631832224462881143526241110011012537212737582879091981001021031031022154567648535772756368667873657268810417962793594742163655519621546297275662817970726879796878738654375106618677110113011232161345H26~R2年度合 計 R3年度合計R4年度合計4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月合計累計 542324222222223223261274871952172220161614151618281916262261125H26~R元年度 合計 R2年度 合計 R4年度合計4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月合計累計 111111111111111223374446347663665996※1:リンク対応件数:「リンク」の相談にメルクマールせたがやの職員が対応した相談件数 延べ相談対応件数(単位:人) 延べ相談対応件数 合計 個別ケース検討会議の開催数 登録ケース数の増減について(実ケース数) 先月末日の累計登録ケース数 当月中の新規登録ケース数 当月中に終結したケース数 当月末日の登録ケース数 活動ルーム(居場所機能)の延べ利用人数 延べ利用者数(延べ人数) アウトリーチ関連数値 先月末日の累計登録ケース数 他機関主催の個別ケース検討会議の出席数 1642 訪問相談実施件数※2 出張相談(5支所)実施件数 出張相談(希望丘青少年交流センター アップス)実施件数   ※2:平成26年度~令和元年度の訪問実施件数は、希望丘青少年交流センターの出張相談を除く件数 家族会の参加人数 延べ参加者数 ティーンズサポート事業 ※平成28年度より開始 当月中の新規登録ケース数 当月中に終結したケース数 (20代に達したケースを含む) 当月末日の登録ケース数 延べ相談件数(来所) R2年度までは訪問・出張相談含む 延べ相談件数(訪問/出張相談) 実施回数 延べ参加者数(再掲) 累計件数(来所・訪問・出張相談) メルサポ 実施回数 延べ参加者数 メルぷら(むすびば) 延べ居場所利用者数 1)相談支援 ①新規相談登録件数 N=116 N=122 新規相談登録とは、インテーク(初回面接)を行った後に受理会議を実施し、メルクマールせ たがやで受理したケースのことを指す。令和5年度新規相談登録件数は116件で、平均すると 毎月約10件が新たに来所している。令和4年度新規相談登録122件と比較すると、令和5年 度新規相談登録は6件減少した。月別に見ると、6月が20件と最も多かった。 また令和5年度は新規相談登録件数116件の内、20代が46%(53件)と最も多く、次に高校 生世代以上10代が32%(37件)と高値を示していた。中学生世代は8%(9件)、30代は12%(14 件)、40代以上は2%(3件)だった。 平成26年開所から令和5年度まで、新規相談登録ケースの年齢分布の推移について上図に 示す。20代は年度毎にばらつきが見られるが、30代は令和4年度から約1割となり開所当初 と比べて減少傾向にある。一方10代の割合は令和元年度に一度減少しているが、再び増加し ている。新規相談に関しては、若年齢化が進んでいるといえる。 ②ひきこもり者数割合 N=116 N=122 次に、ひきこもり者数割合について上図に示す。メルクマールせたがやでは、将来ひきこも りに移行する可能性のある6ヵ月未満の準ひきこもりを含めてひきこもりとして定義してい る。令和5年度新規相談登録件数の内、ひきこもり状態は49%(57件)だった。平成26年の開 所から令和2年まで新規相談登録件数のうち、ひきこもり状態にある利用者の割合は約6割を 維持していた。一方、令和3年度以降は、ひきこもり状態ではない「それ以外」が上回ってお り、令和5年度新規相談登録件数においても51%(59件)と上回った。 *ひきこもりの定義(厚生労働省「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」より) 様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学,非常勤職を含む就労,家庭外での交 遊など)を回避し,原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と 交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念。 *準ひきこもりの定義 ひきこもりの定義のうち、6ヵ月という期間にこだわらず、将来的にひきこもりに移行する可能 性が高い状態 ③終結件数 終結とは、就労や就学、他機関の利用など様々な理由でメルクマールせたがやの利用を終了 したケースを指す。令和5年度の全終結件数は53件だった。月別に見ると3月が14件と最 も多く、新年度に向けて就労・進学したり、年度の切り替え時期に終結の申し出る場合が多か ったと考えられる。 終結理由などに関する詳細は、終結理由内訳(p.29)にて述べる。 ④延べ相談件数 延べ相談件数は、来所相談、訪問相談、電話・文書対応などあらゆる方法での相談件数を合 計した数値である。令和5年度は、月平均約490件の相談対応を行った。 平成26年度開所から令和5年度までの延べ相談件数を上図に示す。平成29年度以降、延 べ相談件数は年間3,000件を超える数値で安定している。一方、令和3年度以降は相談件数が 増加傾向にあり、令和2年度と比べると令和5年度の延べ相談件数は2,700件以上増えた。相 談件数の大きな増加の背景には、ひきこもり相談窓口「リンク」の開設、メルクマールせたが やの移転による影響があると考えられる。「リンク」が開設されたことで、若者総合支援センタ ーとしてのメルクマールせたがやを改めて知ってもらう機会となったと思われる。また三軒茶 屋駅近くに移転したことで、利便性が良くなったこと、相談室が増えたために1日の対応可能 件数が増加したことが影響したと考えられる。 ⑤延べ訪問相談・出張相談件数 訪問相談件数とは、利用者の自宅への訪問相談と、こころスペースや関係機関に出向いての出 張相談、関係機関への同行など、メルクマールせたがや以外の場で相談を実施した延べ件数であ る。メルクマールせたがやのスタッフが、世田谷ひきこもり相談窓口「リンク」として対応した 訪問や出張相談、関係機関への同行などの件数も含まれる。一方、出張相談件数とは、希望丘青 少年交流センター「アップス」と世田谷区役所5総合支所で相談を実施した延べ件数を示してい る。 令和5年度の延べ訪問相談・出張相談件数は338件であった。令和4年度と比較すると18件、 令和3年度と比較すると159件増加した。出張相談会場別件数については次の表の通りである。 【令和5年度出張相談会場別相談件数】 会場利用者関係機関合計(人数) 世田谷総合支所000 北沢総合支所213 玉川総合支所404 砧総合支所23023 烏山総合支所18523 希望丘青少年交流センター「アップス」14014 平成31年2月より、希望丘青少年交流センター「アップス」での出張相談を月1回定例で実 施しており、令和5年度の延べ相談件数は14件であった。また、各総合支所の区民相談室に おける出張相談の延べ相談件数は延べ53件であった。メルクマールせたがやから比較的距離 の遠い砧地域や烏山地域の利用が多い一方、世田谷総合支所では0人であった。メルクマール せたがやが三軒茶屋という交通の利便性のよい場所へ移転したことが考えられる。 会場別相談件数の傾向から、砧地域や烏山地域、「アップス」といった遠方地域の出張相談の ニーズが高いと考えられる。遠方地域の場合、メルクマールせたがやへ来所するには、電車や バスを乗り継ぎ、移動に長い時間を要する。外出が難しくなっていたり生きづらさを抱えてい る方やその家族にとって、電車やバスなど公共交通機関の使用は、相談につながるハードルを 上げてしまう要因のひとつである。定期的な出張相談会が、身近な場での相談につながってい るといえる。 上図に開所以降の年度別訪問相談実施件数を示す。令和5年度は令和4年度に比べて6件増 加し、開所以来最多の271件だった。令和4年度以降の訪問相談件数には世田谷ひきこもり相 談窓口「リンク」として対応した訪問相談も含まれる。ひきこもり当事者の背景に様々な課題 が複雑に絡み合っている状況が多く見られる。当事者や家族の方などから支援機関へつながる ことが難しい場合もあるため、支援や資源を提供するためにこちらから出向くことが必須であ る。令和4年度以降の訪問相談の増加は、「リンク」において出向く支援を実践していること によると言える。 2)居場所支援 延べ居場所利用者数 令和5年度のメルクマールせたがやの居場所登録者数は、年度内に終結したケースを含めて 70名だった。延べ居場所利用者数には、登録制の居場所活動、居場所登録不要のオープンプロ グラム、登録・相談不要のメルサポの利用者数が含まれる。令和5年度の居場所延べ利用者数 は1306名で、令和4年度と比較して363名の減少となった。利用者数減少の背景には、これ まで精力的に居場所活動へ参加していた利用者が、令和5年度の途中から社会参加を試みるよ うになったことが影響していたと考えられる。また、相談件数の増加により、居場所の実施回 数が減ったことも一因である。登録者の活動参加日数を増やす働きかけをするとともに、人員 増加による活動日数の確保に取り組んでいきたい。 また令和5年度は利用者自身が居場所活動を企画していく「居場所プログラム会議」を実施 した。4月の段階では、自分たちでプログラムを考案していくことに戸惑いも見られたが、企 画会議では徐々に意見も多くなり、2月には利用者が講師となって他の利用者に麻雀を教える 『一から始める麻雀入門』など、徐々に当事者主体のプログラムを行うことができた。 新型コロナウィルス感染症の感染拡大以降、中止をしていた調理プログラムが令和5年6月 から再開となった。感染を危惧して参加に足を踏み出せない利用者もいたが、参加した利用者 からは調理ができる楽しさと、みんなで作った物を食べるという一体感が、感想としてよく話 されていた。 3)家族支援 家族会・出張セミナー参加者数 ※出張セミナー実施月 6月、9月、12月、3月 開 催 な し 令和5年度の家族会・出張セミナー延べ参加者数は245名であった。令和4年度273名と比 較すると28名の減少となった。また、出張セミナーは、3月の斎藤環氏による講演が、参加者数 70名で最も多かった。 家族会では、新型コロナウィルス感染症が第5類感染症に移行したことを受け、これまで休止 していた交流会を徐々に再開することとした。今後も参加者の反応をみながら、家族セミナーと 交流会をセットで実施する会を企画していく。 2.利用状況 1)相談登録者 以下には、令和5年度中に相談登録のあった526件の利用状況を示す。 ① 年齢分布 N=526 N=440 相談登録における利用者の年齢分布を示す。20代が52%を占めており、中学生世代が3%、 高校生世代以上10代が19%、30代が22%、40歳以上が4%となっている。全ての世代にお いて、令和4年度と大きな差はなかった。 ②男女比率 N=526 N=440 相談登録における男女比は男性が63%、女性が37%と、男性の割合が高い。平成26年度は 男性56%、女性44%だったが、男性の割合が増えており、平成29年度以降は6割以上が男性 となっている。また令和4年度と5年度とで男女比はほとんど同じ割合となった。 ③年代別男女登録者数 N=526 相談登録における年代別の男女登録者数は、すべての世代で男性が女性を上回っていた。 2)居場所登録者 年代別男女居場所登録者数 N=70 令和5年度の居場所登録者においては男女ともに20代が多い。また、20代の男女比は女性 の割合が高かった。 中学生世代の居場所登録者が開所以来いないことについては、中学校に在籍中であること、 支援機関として教育相談室、ほっとスクールなどの選択肢があり、メルクマールせたがやの居 場所利用のニーズが低いためと考えられる。10代の居場所登録は1名と令和4年度とほぼ同 数だった。10代の居場所活動についてはp.35で述べる。 また、令和5年度は新規居場所登録者数が3名と、令和元年度12名、令和2年度8名、令 和3年度2名、令和4年度18名と比べて少なかった。 3.相談登録ケースに関する分析 以下には、令和5年度中に相談登録のあった526件に関するデータを示す。 1)ひきこもりなどの背景要因 N=526 相談登録ケースにおける背景要因を示す。この表は、相談登録526件の内、背景要因となる各 項目の割合を示している。「精神障害」「発達障害」は医師からの診断があるもの、「知的障害」は 愛の手帳を取得しているもの、「精神障害の疑い」「発達障害の疑い」「知的障害の疑い」について は明確な診断がない、もしくは現在医療機関にかかっていないがそれらの障害が疑われたことが あるものとしている。 多いものから、心理的要因の「自己肯定感が低い」が73%、「不安、恐怖感が強い」が68%、 「傷つきやすい」が66%、社会的要因の「対人関係のつまずき」が66%、となっている。また、 生物学的要因では、疑いを含め「精神障害」が52%、「発達障害」が52%であった。 令和元年度より、ひきこもりなど利用者の抱える生きづらさについて、「生物・心理・社会モデ ル」(p.83用語解説参照)に沿って各項目の割合を出している。ひとつの項目や領域に偏ることは なく、利用者が抱えている背景が多様かつ複合的であることが示された。また、心理的要因の項 目は全体的に割合が高く、公認心理師や臨床心理士といった心理の有資格者による個別相談は背 景要因と合致した支援であると考えられる。さらに、社会的要因の「対人関係のつまずき」が半 数以上当てはまる。メルクマールせたがやの居場所活動は、スタッフに見守られながら対人交流 の機会を取り戻し、やり直す場である。生きづらさを抱えた方にとって、複合的な背景要因の改 善・解消に向けた取組みであるといえる。 2)主訴分類 主訴分類とは、インテーク時点における申込み用紙への記載や話の内容を基に、相談員が主訴 と見なしたものである。 令和5年度の相談登録526件の主訴を本人・家族で内容別に集計したところ、本人は就労・就 学(例:「今後の進路について」)が最も多かった。次いで対人関係(例:「人と関わる機会を持ちた い」)となっている。家族の主訴は家族関係が最も高く、次に就労・就学の割合が高かった。家族 は過年度と比較して、ほぼ同様の傾向が続いている。 【令和5年度主訴分類】 【令和4年度主訴分類】 本人 家族 対人関係 83(28%) 64(16%) 健康面 26(9%) 9(2%) 生活面 66(22%) 35(9%) 就労・就学 111(37%) 125(32%) 家族関係 11(4%) 154(40%) その他/不明 1(0%) 1(0%) 合計 298 388 本人 家族 対人関係 70(27%) 60(18%) 健康面 22(9%) 7(2%) 生活面 56(22%) 30(9%) 就労・就学 96(38%) 100(30%) 家族関係 9(4%) 134(40%) そのほか/不明 2(0%) 1(0%) 合計 255 332 3)ひきこもり期間 【参考】内閣府若者の生活に関する調査 報告書(平成28年)より 6ヵ月~1年 12.2% 1年~3年 12.2% 3年~5年 28.6% 5年~7年 12.2% 7年以上 34.7% ひきこもり状態になってからの期間 N=305 上記のグラフは「ひきこもりなし(N=221)」を除外した305件におけるインテーク時点でのひ きこもり期間の割合を示している。割合は「1~3年」が最も多く31%、次いで「7年以上」が 17%、「3年~5年」が15%、「6か月未満」が14%、「6か月~1年」が13%となっている。「不 明」とは断続的にひきこもり期間が見られ、正確なひきこもりの経過を示すことができないもの である。 ひきこもり期間が比較的短い3年未満の割合は、開所以来徐々に増加しており令和5年度は 58%の割合を占めた。参考までに、平成28年に実施された内閣府調査のひきこもり期間の割合 と比較すると、3年未満の割合は、メルクマールせたがやが58%なのに対し、内閣府調査は24.4%、 7年以上はメルクマールせたがやが17%なのに対し、内閣府調査は34.7%となっている。このこ とから、メルクマールせたがやには、ひきこもり状態が早期の段階で利用につながってきている と考えられる。 4)地域別分布 N=525 相談登録526件のうち、区外在住でまもなく世田谷区転居予定ケース1件を除く525件に おける居住地域一覧を示す。メルクマールせたがやの所在地が世田谷地域であることもあり、 世田谷地域から来所する利用者が32%と最も多く、次いで玉川地域23%という順になってい る。世田谷区の地域別人口の割合と比較すると、ほぼ同様の割合となっており、区内全域から 利用につながっていると考えられる。 メルクマールせたがやの所在地から遠方にあたる烏山地域は、10%と最も利用が低い地域と なっているものの、若者の地域人口比率から考えると一定数利用につながっていると考えられ る。 5)相談のきっかけ N=526 相談登録526件における相談のきっかけは、254件(48%)が「関係機関」からの紹介となって おり、約半数を占める。この傾向は開所以来続いている。3番目に多かったのが世田谷ひきこも り相談窓口「リンク」で、52件(10%)だった。「リンク」でのインテーク後、メルクマールせたが やでの継続相談が開始されたものや、「リンク」に問い合わせたことでメルクマールせたがやの ことを知り、相談につながったケースがこれに当たる。割合は10%ではあるものの、令和4年4 月に開設して既に3番目の多さとなっており、窓口開設の影響力の大きさがうかがえる。 紹介を受けた主な関係機関の内訳は以下に示す。 紹介を受けた関係機関一覧 就労支援機関 ・若者サポートステーション ・障害者就労支援センターしごとねっと ・障害者就労支援センター ゆに(UNI) ・三茶おしごとカフェ など 区関係機関 ・総合支所保健福祉センター4課 健康づくり課 保健福祉課(発達支援コーディネーター) 生活支援課 子ども家庭支援課 ・世田谷保健所 ・世田谷区児童相談所 など 教育機関 ・中学校(教員、スクールカウンセラー) ・高校(養護教諭、ユースソーシャルワーカー) ・教育総合センター(スクールソーシャルワーカー) ・各教育相談分室 ・大学学生相談室 など その他 ・ぷらっとホーム世田谷 ・発達障害相談・療育センター「げんき」 ・医療機関 ・東京都ひきこもりサポートネット ・児童養護施設 ・医療少年院 ・家族会 ・地域障害者相談支援センターぽーと ・あんしんすこやかセンター など 6)不登校との関連 N=526 N=440 相談登録526件における不登校経験の有無を示す。全体の64%が学齢期に不登校を経験して いることが示された。平成28年度以降、7割前後の高い水準で推移している。 7)終結理由内訳 N=53 N=30 令和5年度における終結件数は53件で、令和4年度の30件と比べ増加した。安定した社会 参加を送っている利用者の相談が終了したこと、何かあった場合のために利用登録のみを残して いた利用者がトラブルなく生活を送れていることから終了の申し出があったことなどが影響し ていると考えられる。 終結理由を6つに分類し、「就労」はアルバイトを含む就労に就いたもの、「就学」は学校への 進学・復学となったもの、「他機関利用」は、医療機関や別の支援機関などを主な利用先としたも の、「転出」は、区外への転居、「その他」は利用者からの利用終了の申し出や1年以上連絡が取 れず音信不通状態で終結したものなどとした。令和4年4月より年齢上限が撤廃され、年齢(40 歳)到達を理由として利用終結に至ることはなくなった。 終結理由内訳を見ると、「就労」「就学」「他機関利用(医療・その他)」を合わせると全体の49% と令和4年度と比べ増減はほとんどなかった。その他(申し出など)は40%と令和4年度よりも増 加した。 メルクマールせたがやでは、初回相談(インテーク)後、その時点で継続相談利用の断りがない 限り基本的に利用登録としている。しかしながら、利用者によっては初回相談後から連絡がつか ないケース、悩み事が解決して有事再来としていたがその後音信不通になってしまうケースが一 定数ある。これらのことから、その他の割合は比較的高くなる傾向にある。 【終結件数53件】 【他機関利用先一覧】 終結理由終結数小計 就労(アルバイト含む)15 就学(復学、転学含む)9 他機関利用(医療)0 他機関利用(その他)2 転出 その他(申し出など) 合計 24262153 就労移行支援事業所 せたがや若者サポートステーション 中学0 高校2 大学7 専門学校0 就学による終結の校種内訳 令和5年度終結件数における、利用期間別の割合を以下に示す。 N=53 N=30 終結に至るまでの利用期間は、25ヵ月以上が70%と最も多かった。1~3ヵ月は2%、4~6ヵ 月および7~12ヵ月は4%、13~24ヵ月以上は20%だった。 上記の結果から、ほとんどのケースで終結までに1年以上の期間を要していることがわかる。 メルクマールせたがやでは、音信不通の状態にあっても、最低6ヵ月以上は終結とせず、電話や 手紙などでアプローチを試みてから終結としていることから、1年以上の利用期間の割合が高く なっていると考えられる。また、ひきこもり相談窓口「リンク」の開設により、複合的な課題を 抱えた利用者も増加していくことが予想されるため、年単位での長期的な期間を見据えて支援に あたる必要があるといえる。 4.ティーンズサポート事業 平成28年度より、早期支援・早期介入を目的として10代の若者への支援に注力するべく開始 したティーンズサポート事業について示す。令和5年度に新規相談登録された本人年齢が10代 のケースは46件で、令和4年度よりも4件少なかった。 1) 10代新規相談登録件数の内訳(インテーク時点) N=46 N=50 令和5年度における10代新規相談登録46件の内訳は、「家族のみ」が最も多く63%となって いる。令和4年度と比較すると、「家族のみ」が減少し、「本人のみ」の割合が増加した。 また、10代新規相談登録46件の相談のきっかけは下の表の通りである。令和5年度は教育相 談室からの紹介が10件と最も多かった。次に多かった相談のきっかけは、医療機関とネットで 各8件だった。 【令和5年度10代の新規相談登録の相談のきっかけ】 きっかけ/機関名件数きっかけ/機関名件数 教育相談室10医療機関8 スクールカウンセラー0親・知人2 中学校1ネット8 高校0チラシ・区報1 区内関係機関4ひきこもり相談窓口「リンク」2 児童相談所 子ども家庭支援課 4その他6 2)10代新規相談登録件数における年齢分布 N=46 N=50 10代新規相談登録における利用者の年齢分布は、どの年代も令和4年度とほぼ同じ割合だっ た。 毎年度、区内公立中学校全生徒に向けティーンズサポート事業のチラシを配布している。また、 令和5年度は切れ目なく支援を引き継ぐことを目指し、「不登校保護者のつどい」にメルクマー ルせたがやの職員が参加することで、保護者との交流の機会を設けたり、中高生支援者懇談会に 講演へ行くことで児童館等との連携強化に努めてきた。中学生世代の保護者からは、中学卒業後 の相談先がなくなってしまう、高校入学後どのように子どもを見守っていけばいいのか、といっ た不安や心配の声と同時に、メルクマールせたがやがあると知って安心したという声も聴かれた。 教育相談室での相談を継続しながら、メルクマールせたがやへの個別相談を開始し、重なり合う ような形で支援・相談を引き継いでいった例もある。 義務教育終了が支援の切れ目ではなく、新たな相談先や支援につながるタイミングとなるよう、 今後も中学生世代の保護者とのつながり強化、教育機関との連携強化に力を入れていく。 3)平成28年度以降10代相談登録件数におけるインテーク時在籍内訳 ティーンズサポート事業を開始した平成28年度以降の10代相談登録件数におけるインテー ク時の在籍内訳を以下に示す。 N=288 N=46 ティーンズサポート事業開始以降、10代の相談登録件数288件のうち、高校が31%と最も多 く、通信制高校と合わせると55%と半数を占めた。 一方、「在籍なし」が23%おり、学校という10代の若者の社会生活の場から所属がなくなった 若者も利用しており、地域における高校生世代への支援と中学校卒業後に所属のない若者が再び 社会とつながるための支援が必要であるといえる。なお、令和5年度の「高校」は、平成28年 度以降登録者インテーク時在籍に比べてやや低かった。 N=25 (内訳) 中学校53%(10件) 高校32%(6件) 専門学校5%(1件) 大学10%(2件) (内訳) 高校67%(4件) 大学33%(2件) また、令和5年度10代新規相談登録のうち、所属なし及び通信制高校在籍を除く25件の登 校状況は、不登校が76%(19件)、登校が24%(6件)であった。不登校の内訳を見ると、中学校が 53%(10件)となっており、中学生世代の不登校に対して、在籍中から利用につながるケースが増 えていることがわかる。 4)10代延べ相談件数・延べ居場所利用者数 ①10代延べ相談件数 令和5年度10代の延べ相談件数は、メルクマールへ来所しての相談、家庭への訪問や出張 相談を合わせて月平均67件だった。ティーンズサポート事業を開始した平成28年度の月平 均29件と比べ、約2倍の増加となった。 ②10代延べ居場所利用者数 令和5年度10代の居場所延べ利用者数は、16名であった。令和4年度は77名であったの に対し、61名減少した。10代の居場所利用者数は年々減少している。 メルクマールせたがやでは、10代の若者だけが参加可能なプログラム「Teen’sTime」を令 和3年度より月に二回、定期開催している。メルクマールせたがやの居場所は10代から30代 まであらゆる年代の利用者が集まる、多様性が受け入れられる場である。10代の若者がお兄さ んお姉さん世代を頼りに居場所へ馴染んでいく様子も見られ、頼り頼られるという関係が自然 とできやすい。 一方Teen’sTimeは、同世代だけということからフラットな関係が自然と構成されやすい。 あらゆる世代が集まる場とはまた異なる居心地の良さが、Teen’sTimeにあると考えられるた め、今後はTeen’sTimeの利用者増加に努めたい。 ③年代別利用者内訳 N=526 上図に、令和5年度末時点での年代別利用者内訳を示す。10代は「本人・家族」と「家族 のみ」を合わせて86%(100件)と、家族利用の割合は他の年代と比べて最も高かった。 10代の延べ相談件数は増加している一方、居場所利用者数は減少していることから、10代 においては、家族からの相談ニーズが高いことがわかる。世田谷区の場合、教育相談室など教 育支援機関の対象は中学生までのため、メルクマールせたがやは高校生世代以上の10代が相 談利用できる地域資源のひとつになっていると考えられる。また、所属のあるうちに利用につ ながることで、社会との接点が途切れることがないよう早期支援を開始できているといえる。 メルクマールせたがやを利用する家族からは、「子どもも周りの目を気にするので、親が学 校で相談することは難しい」、「子どもが大きくなってきて、家庭のことをどこで相談したらよ いかわからなかった」といった声が聴かれる。家族が相談し支えられることは、生きづらさを 抱える若者(子ども)本人の成長や自立を支えることにつながる。メルクマールせたがやでは、 若者本人だけでなく家族のサポートも若者支援に重要な側面と考え取り組んでいく。 5)10代の若者に関わる他機関との連携 メルクマールせたがやでは子ども家庭支援課や中学校、高校など10代の若者に関わる機関と の連携強化に取り組んできた。令和2年4月に世田谷区児童相談所が開設され、10代の若者に 係る支援において、連携の強化を図ってきた。 令和5年度に実施した10代の利用者に関して個別ケース検討会議を実施した機関一覧を以下 の表に示す。 【個別ケース検討会議を実施した機関】 世田谷区児童相談所 健康づくり課 訪問看護ステーション 子ども家庭支援課 世田谷保健所 社会福祉法人めぐはうす まごの手便 教育相談室 生活支援課 NPO法人まひろ エリアワン 教育総合センター不登校支援窓口 令和5年度に実施した個別ケース検討会議11件のうち、7件は10代が対象となる会議であ った。7件の中には、教育相談室、児童相談所や子ども家庭支援課からメルクマールせたがやへ 支援が引き継がれたケースもある。15歳という義務教育課程修了の年齢、18から19歳という 児童福祉の対象から外れる年齢は、支援の切れ目になりやすいといわれる。年齢により支援が途 切れてしまうことのないよう、メルクマールせたがやが本人や家族のサポートを引き継ぐ機能 を担っていると考えられる。 Ⅳ 支援効果 1.利用主体の変化 2.利用者の社会参加に向けた変化 3.利用者の他機関とのつながり 40 Ⅳ.支援効果 令和5 年度におけるメルクマールせたがやの支援効果について検証する。ひきこもり支援の領域 では、ひとりひとりが望む形での社会参加が最終的な目標であるが、社会参加に至るまでの道のり は時間がかかる場合が多く、その過程を含めて支援の効果を検証する必要がある。 そこで、①利用主体の変化、②利用者の社会参加に向けた変化、③利用者の他機関とのつながり、 について取り上げ、メルクマールせたがやの支援効果について述べる。 1.利用主体の変化 ひきこもり支援において、ひきこもっている本人自ら来所や面会など直接的な支援の場に登場 することは稀である。キーパーソンは、ひきこもりの本人に最も身近な存在の家族である。家族 が支援機関の利用につながることがひきこもり支援の第一歩であり、両者が協同して本人のニー ズを把握し汲んでいくことが当初の目標となる。本人と支援の場がつながるためにも、その橋渡 しの役目を持つ家族を支えることは大いに意味がある。 利用者内訳の変化 相談登録526 件において、インテーク時は「家族のみ」の相談登録が最も多く308 件と全体の 59%であった。令和5 年度での登録者は、「家族のみ」は初回相談時より86 件(28%)減少し、「本 人のみ」は2 件(1%)増加、「本人・家族」は84 件(118%)増加した。登録年度別に見ると、全ての 登録年度において、インテーク時よりも令和5 年度時点の方が「家族のみ」が減少し、「本人・ 家族」が増加している。 このデータから、「家族のみ」で利用が始まった利用者の内約3 割は本人が利用につながって いること、家族のみでの相談から始まり、家族とのやり取りを通して本人とつながり、本人が利 用主体となるといった変化があると考えられる。 38 38 18 18 20 21 31 34 40 35 85 47 38 25 43 35 77 65 65 63 24 62 9 22 13 20 14 23 11 18 0 40 80 120 160 インテーク令和5年度インテーク令和5年度インテーク令和5年度インテーク令和5年度インテーク令和5年度 件 数 利用者内訳の変化 本人・家族 家族のみ 本人のみ H26~R元年度登録者 R2年度登録者 R3年度登録者 R4年度登録者 R5年度登録者 N=526 厚生労働省「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」を参照すると、ひきこもり支援 は、家族支援から本人の個人的な心の支援へ、そして個人的支援から居場所のような中間的・過 渡的な同世代の集団との再会へ、そしてその先に本格的な社会活動へと諸段階を登っていく過程 があり、各段階でどれだけの時間を要するかは各事例によってまったく異なるとされている。メ ルクマールせたがやの支援においても、親の相談による家族支援が、本人へとつながる直接的な 個人支援段階へとステップアップしていると考えられる。 タイムライン が含まれている画像自動的に生成された説明 ひきこもり支援の諸段階 (厚生労働省「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」より) 2.利用者の社会参加に向けた変化 動き出し(doing) 土台づくり(being) 就労・就学 家族関係の 改善 主体性の 向上 居場所への 参加 交友関係の 広がり 支援機関の 利用 就労・就学の 準備 平成26年度の報告書で検討した、社会的自立に向けた7段階モデルを上記に示す。 今回はこのモデル図を基に令和5年度時点での利用者の状況を示すことで、メルクマールせた がやにおける支援によってどのような変化が見られたか検討する。 7段階モデルでは、「家族関係の改善」「主体性の向上」「居場所への参加」「交友関係の広がり」 は、利用者の中で次の動きにつながるまでの“土台づくり(being)”の段階とし、「支援機関の利 用」「就労・就学の準備」「就労・就学」を自立へ向けた“動き出し(doing)”の段階とする。 1) ひきこもり期間による土台づくり(being)と動き出し(doing)の比較 N=408 N=118 相談登録件数について、ひきこもり期間なしと不明を含む3年未満の「ひきこもり短期群」 (408件)とひきこもり期間が3年以上の「ひきこもり長期群」(118件)に分け、7段階モデルにお ける“土台づくり(being)”と“動き出し(doing)”のどの段階にいるかを調査した。ひきこもり長 期群は58%(69件)が“土台づくり(being)”の段階にいる。一方、ひきこもり短期群では“土台づ くり(being)”の段階にいる本人の割合は24%(96件)と、ひきこもり長期群に比べて“土台づく り”の段階にいる本人の割合は低い。 動き出し(doing) 土台づくり(being) 2)7段階モデルにおける変化 N=526 さらに7段階モデルのどの段階にいるか細かく見ると、ひきこもり長期群では28.0%(33件)が 「家族関係の改善」、25.4%(30件)が「主体性の向上」という、“土台づくり(being)”の中でも特 に初期の段階にいる。一方ひきこもり短期群では、多い順に「就学」28.7%(117件)、「就労」 21.1%(86件)となっており、7段階モデルの中でも“動き出し(doing)”の段階にいる割合が高い。 以上のように、ひきこもり期間によって社会的自立における段階に差が見られた。ひきこもり など生きづらさを抱える方に対し“土台づくり(being)”の段階と“動き出し(doing)”のどの段階 にいるかを見極め、ひとりひとりに対して一律ではなく多様な支援の組み立てが必要である。ま た、ひきこもり支援は階段を順番に上っていくのではなく、行きつ戻りつを繰り返しながら一歩 ずつ前に進んでいくものである。 今後も、ひきこもり期間が短い時点で支援へとつなげるための早期発見・早期支援の取組みと 息の長い伴走型支援を継続していく。 3.利用者の他機関とのつながり メルクマールせたがやの利用者が、自立へ向け次のステップにどの程度つながってきているか を示すため、インテーク時点と令和5年度末時点の他機関利用の状況を以下に示す。 1)他機関利用の変化 N=526 N=526 相談登録件数526件の他機関利用の変化を見ると、インテーク時点と令和5年度末で他機関 利用の有無の割合はほぼ同じだった。令和5年度末は他機関利用ありが335件(64%)、他機関利 用なしが191件(36%)だった。 他機関との並行利用が6割以上と多いことについては、“背景要因”でも触れたように、利用 者が抱えている問題の多様さ、複雑さが関連していると考えられる。多様かつ複雑な問題を抱え る利用者を支援するためには、メルクマールせたがやだけで利用者を支援するのではなく、各支 援機関と協働して支えていくことが必要となる。 2)並行利用している関係機関の内訳 1)で示した関係機関の内訳と、具体的な関係機関について以下に示す。 N=335 ※重複回答有 並行利用している関係機関の内、医療機関が最も多く235件であり、他機関利用335件の内 約7割が医療機関を並行利用している。次いで区内の各総合支所保健福祉センター4課、区内就 労支援機関となっている。保健福祉センター4課68件のうち健康づくり課は28件で、担当者レ ベルで心身の健康面を中心に連携している。就労支援機関の中ではせたがや若者サポートステー ションの利用が最も多く54件となっており、ひきこもり相談窓口「リンク」の開設(p.48)以前の 令和3年度の39件よりも15件増加した。またぷらっとホーム世田谷の利用は22件で、令和3 年度の9件から3倍以上となった。「リンク」の開設とともに、せたがや若者サポートステーシ ョンとぷらっとホーム世田谷が同建物内に移転したこともあり、3機関の連携が強化されたと考 えられる。その他114件には、地域障害者相談支援センター“ぽーと”や青少年交流センター、 区外就労支援機関などが含まれる。 並行利用している関係機関一覧を見ると、様々な関係機関を利用していることが分かる。世田 谷区には多くの専門支援機関が存在し、それぞれ異なった特色を持っている。メルクマールせた がやでは、各専門支援機関と連携し、利用者が必要とする関係機関とつながることができるよう サポートを行う。 並行利用している関係機関一覧 Ⅴ 世田谷ひきこもり相談窓口「リンク」 1.概要 2.「リンク」における活動実績 3.メルクマールせたがやから「リンク」登録と なったケースの特徴 Ⅴ.世田谷ひきこもり相談窓口「リンク」 1.概要 令和4年4月5日に世田谷ひきこもり相談窓口「リンク」が開設され2年が経過した。誰もが 自分らしく暮らすことができるようサポートすることを目的に、メルクマールせたがやとぷらっ とホーム世田谷が共同運営する窓口である。 平成26年9月に開所したメルクマールせたがやでは、不登校やひきこもりなど生きづらさを 抱えた若者とその家族を対象に個別相談、居場所、家族会などを運営してきた。ぷらっとホーム 世田谷は、生活困窮者自立支援相談センターとして、経済的困窮をはじめ、あらゆる生活の困り ごとを支援してきた。これまで、ひきこもりについては、若者はメルクマールせたがや、年齢を 問わない孤独・孤立などはぷらっとホーム世田谷が支援してきており、ひきこもり相談窓口「リ ンク」は2機関がそれぞれ培ったノウハウを活かし、ひきこもりや孤独・孤立状態にある当事者 と当事者に係る全ての人と共に、その人らしい生活の再構築を目指している。 1)支援の流れ グラフィカル ユーザー インターフェイス, アプリケーション自動的に生成された説明 上図はひきこもり相談窓口「リンク」における支援の流れを示したものである。最初の相談受 付後、ぷらっとホーム世田谷とメルクマールせたがやのスタッフが複数名体制で初回相談(イン テーク)を実施する。その後、リンク検討会でぷらっとホーム世田谷、メルクマールせたがや、「リ ンク」の所管課である生活福祉課からなる約10名のスタッフにより、全ての初回相談内容や最 初の支援方針について検討を行う。ひきこもりや孤独・孤立の背景には、心理的課題だけでなく、 生活面における課題も多く存在する。そのため、どちらかの機関だけの見立てではなく、2機関 それぞれの得意分野を生かし、多職種の視点も加味したうえで、世帯構成員及び世帯全体の状況 把握に努めている。このように、多様な視点から課題整理と支援方針を検討し、協働体制で支援 を進めていくこととなる。また、相談内容は多岐にわたることが多く、「リンク」内にとどまら ず、区内外の公的及び民間の社会資源や支援を必要とすることが多い。その場合、重層的支援会 議もしくは個別ケース検討会議を開催し、様々な支援機関との協働体制を整える。 2)世田谷区のひきこもり支援ネットワーク ダイアグラム 自動的に生成された説明 上図は「リンク」が連携・協働してひきこもり、孤独・孤立状態にある人をサポートする際の イメージ図である。「リンク」では、世帯の抱える課題・問題に対して、多機関が共通の認識をも ち「協働」することを基本としたうえで、それぞれの機関の強みを活かし多方面からアプローチ する「機関連携」を、世帯状況に応じて、時期ごとに柔軟に組み立てていく。ひきこもり状態に ある人とその家族が抱える多様な困りごとに対し、当事者とその家族を支援の中心におき、世帯 全体にとってよりよい暮らしのかたちを、支援機関がともに模索していく。そのため、このイメ ージ図は段階的で一方通行のものではなく、必要な支援を複数機関が同時並行的に支援を進める かたちが表されている。 3)ひきこもり・就労支援部会、8050部会への関与 令和4年3月に社会福祉法第106条に基づき、ひきこもりなど複合化した課題を抱える方及 びその家族に対する適切な支援を検討する「世田谷区重層的支援協議会」が設置されたことに伴 い、令和5年度よりひきこもり・就労支援部会が子ども・若者支援協議会から本協議会に移管さ れ、8050支援部会が新設された。 令和4年度までメルクマールせたがやがひきこもり・就労支援部会の事務局を担ってきたが、 令和5年度からは、ひきこもり・就労支援部会と8050支援部会の事務局をぷらっとホーム世田 谷が担っている。 メルクマールせたがやは、「リンク」の構成機関として、上記2つの部会で扱うテーマなどを ともに考える役割を果たしている。どちらの部会においても、支援の狭間に落ちやすい層への支 援について考えられるよう内容を工夫している。 ひきこもり・就労支援部会では、自立を就労に限定せず「その人らしく生きる」ことを重要な 視点と位置付けた上で、「就労」をキーワードとした支援ネットワークの構築を主な目的として いる。令和5年度は、「就労困難者へのアプローチ」をテーマとし、援助付き雇用/個別就労支 援プログラム(Individual Placement and Support: IPS)について講師を招聘し、学びを深めた。 8050支援部会では、8050世帯の架空事例を通じて、多機関協働での重層的支援の展開について 理解を深めた。とくに、グループワークで世帯課題の検討を行った回は、多機関から積極的な対 応の提示が得られ、参加者からは、区として部署を越えて対策を練るべき課題も浮き彫りとなっ た、という声が聞かれ満足度も高かった。 【重層的支援協議会説明図】 ダイアグラム 自動的に生成された説明 2.「リンク」における活動実績 「リンク」における支援の流れ(p.48)にあるように、2機関でインテークを実施した後、リン ク検討会にて相談内容や利用者のニーズに応じて①2機関(「リンク」登録) 、②メルクマールせ たがやのみ、③ぷらっとホーム世田谷のみ の中から継続相談の担当を決めている。 メルクマールせたがやは、インテーク及び上記①、②で相談対応を行っているほか、③につい ても専門的なサポートを求められる場面で面談などに同席することがある。 1)当事者年齢別/支援機関属性(令和5年度) リンク検討会にて主に相談対応する機関別の家庭数は以下の表の通りである。 クロスワードパズル, 時計 が含まれている画像 自動的に生成された説明 「リンク」でインテーク実施後、継続相談となった135家庭のうち、主に相談対応する機関の 登録状況は2機関の「リンク」登録が120件(89%)、メルクマールせたがやが14件(10%)、ぷら っとホーム世田谷が1件(1%)であった。「リンク」の新規登録のほぼすべてのケースにメルクマ ールせたがやの相談担当者が対応しており、令和5年度の「リンク」対応の延べ相談件数が1,021 件と令和4年度の507件から倍増している(p.14)。 2)「リンク」として対応したうち、メルクマールせたがや未登録のケース(以下、「リン クのみ」対応ケース) メルクマールせたがやのスタッフが、「リンク」として対応した相談ケースのうち、メルクマー ルせたがや未登録(初回相談など登録前の対応ケースも含む)での延べ相談対応件数は1,021件で 令和4度の2倍であり、メルクマールせたがやの延べ相談5,876件のうち約17%(令和4年度は 約10%)を占める。平均すると毎月約85件の「リンク」相談を実施している。 3)「リンク」経由でメルクマールせたがやのみ相談登録となったケースに関する分析 「リンク」で実施したインテークの後、メルクマールせたがやのみで担当をつけることになっ たケース(前項②にあたる)に関する分析を以下に示す。 ① 年齢分布 N=14 令和5年度「リンク」でインテークを実施したケースのうち、メルクマールせたがやのみで担 当することになった新規相談登録は14件で、メルクマールせたがや新規相談登録116件のうち 12%を占めている。年齢分布は、20代が最も多く64%(9件)で、次いで高校生世代以上10代が 22%(3件)、30代と40代以上が7%(各1件)だった。令和4年度は、「リンク」経由で29件の若 者層の新規登録があったのに比べ減少傾向にあるが、今年度は相談件数の増加に伴い「リンク」 の電話受付時に相談内容を丁寧に聞きとり、リンク検討会を経ず、直接メルクマールせたがやの インテークにつながったケースが3件あった。 4)「リンク」相談の出張相談会の活用 出張相談はこれまでメルクマールせたがやへの相談を希望する方を対象としていたが、令和5 年度からは、「リンク」相談についても、各総合支所の区民相談室を利用した出張相談の活用を開 始した。「リンク」相談の場合、ぷらっとホーム世田谷(就労支援のパソナ職員含む)とメルクマー ルせたがやの2機関で対応している。 令和5年度は5件の利用があり、内訳は「リンク」の新規相談が2件、相談者と関係機関の支 援者同席での打合せが1件、継続相談が2件であった。体調不良や長時間家を空けられない事情 があり、「リンク」への来所が困難な方に利用していただけた。 3.メルクマールせたがやから「リンク」登録となったケースの特徴 令和5年度は、メルクマールせたがやを経由して17名が「リンク」登録となった。うち3名 は、メルクマールせたがやへの初回相談電話にて、相談主旨の聞き取りをした際に、将来への不 安、お金の不安、就職活動への希望などが主訴だったため、「リンク」のインテークにつなぎメル クマールせたがやは未登録である。メルクマールせたがや利用中に「リンク」につないだ利用者 14名について、ケースの特徴を抽出する。 【「リンク」登録となったケースの抱える課題】 「リンク」登録となったケースの特徴は、以下の表のとおりである。これらの課題がひとつで はなく、複数絡み合っていることも「リンク」登録となったケースの特徴である。 課 題 説 明 経済問題 ・低収入や浪費などにより、家計が逼迫している ・生活保護受給で一人暮らしだが、金銭管理が困難 ・相続問題 家族が区外在住 ・家族や親族が遠方在住で本人と接点を持ちづらく、本人の生活状況がつかめない 暴言・暴力 ・家族への暴言・暴力、物の破壊行為がある ・同居継続が困難な状態 介護問題 ・本人以外の家族にも障害や介護の問題があり、家族への支援も求められている 連携問題 ・本人または家族が複数機関に相談しているが、支援方針が定まらない状態 医療の課題 ・精神的な不安定さを抱えているが、状況の改善が図れずにいる ・医療の必要性について、検討が必要な状況 住居問題 ・家族関係のバランスにより、本人の一人暮らしの検討が必要 ・将来の生活を考えた際、家の売却や転居の検討が必要 ・経済状況の悪化により、転居せざるを得ない状況 社会保障の活用や高齢サ ービスなどの導入 ・本人が働くことが難しく、障害年金の申請を検討している ・世帯支援の切り口として、高齢サービスなどの導入検討が必要 長期化による本人・家族の 高齢化 ・関係機関にもつながり継続利用しているが、家庭内に変化が見られず、ひきこもりが 長期化し本人および家族が高齢化 上記の課題から浮かび上がるのは、ひきこもりの当事者だけでなく、世帯内で困難や生きづら さの要因が複雑に絡み合っているということである。支援が必要な世帯であっても、当事者やそ の家族が支援を求めつつも変化に強い不安をもつ場合や、第三者に助けを求める発想に至れず SOSの発信が難しい場合において、支援の手が届かず行き詰ってしまうことがある。世帯全体が 多様で複雑な困難さや生きづらさを抱え、支援内容が多岐にわたる場合、「リンク」の支援で知恵 を出し合い強みを活かすことで、地域の関係機関との協働を円滑に進めやすい。 また、多機関による支援を必要とする場合は、個別ケース検討会議(p.48参照)で分野を横断し た支援や協働のあり方を検討している。「リンク」開設から2年経過し、複合的課題を抱える世 帯への対応の蓄積が徐々に進み、分野の垣根を越えた重層的支援を通じ、従来型の支援や制度の 狭間で支援が届きにくかった方々への、より良い支援体制の構築が少しずつ進んできている。 Ⅵ 事例報告 1.相談と居場所を利用し対人関係の自信を回復していった事例 2.母親相談から訪問支援、来所相談につながった20代の事例 3.メルクマールの両親相談から「リンク」の本人相談につながった事例 4.複数の機関を利用しながら社会とのつながりを回復した事例 5.両親相談から本人がつながり、数回の相談を経て本人が動き出せた事例 ※プライバシー保護のため、内容は加工してあります。 Ⅵ.事例報告 1.相談と居場所を利用し対人関係の自信を回復していった事例 ・相談者:本人、親 ・性別:女性 ・ひきこもり歴:あり ・年齢:20代 ・主訴:大学を休学中。対人関係の練習がしたい 本人は4年制大学に在籍する20代女性。他者との適切な距離感が掴めず孤立してしまい、抑う つ感から不登校になっていた。休学に伴い受診した精神科の主治医より、ASDとAD/HD傾向があ るため、対人関係の練習の場としてメルクマールせたがや(以下:メルク)の個別相談と居場所利用 を勧められて来所に至った。 本人は、基本的にはのんびりしていて穏やかな性格だが、他者の発言を字義どおりに受け取りや すく、度々からかいや仲間外れの対象になってきた。加えて、自分の気持ちを言葉で表現すること が苦手で、学習面でも得意不得意のばらつきが大きい等があり、中学から高校の間は何度か不登校 の経験があった。全日制の高校を中退後、本人なりに努力して通信制高校を卒業したが、本人は周 囲と自分を比較しがちで、何事にも自信が持てなかった。 大学こそは仲の良い友人をつくりたいと考え、周囲に積極的に声をかけたが、初対面の相手と距 離を縮めようと焦って付きまとってしまい、相手から避けられ、学内で孤立した。このため抑うつ 感、睡眠リズムの乱れ、食欲不振や登校を試みると腹痛が生じる等により、休学に至った。 個別相談では、他者とのやりとりの中ですれ違いや誤解が生じたことや、本人が振る舞い方に不 安を感じることなどを共有し、具体的な対応を検討していった。個別相談を半年ほど継続した頃、 対人関係の練習のために居場所利用を開始。居場所でも関係づくりへの焦りから、他利用者に大量 のSNSのメッセージを送信してしまう等のトラブルが生じた。本人は、同じことを繰り返してい ると大きく落ち込んだが、個別相談で、相手との距離感や関係性に応じた適切な振る舞い等を一緒 に考えた結果、トラブルのあった利用者とも関係修復ができた。関係修復が成功したこと、度々失 敗しても居場所スタッフが受容的に見守ってくれたこと等により、本人の対人関係への苦手意識は 軽減し、自信を回復することができた。 メルク利用開始から一年程経過した頃、居場所で他利用者のアルバイトの話を聞き、本人も関心 を持ち短期アルバイトを開始。この頃には、本人自ら「皆仕事しに来ている。休み時間に無理に会 話しなくても良いと割り切った」等、他者との距離感をある程度意識できるようになった。メルク の居場所に馴染む一方で、大学に戻ることは気が進まず、個別相談の中で、授業についていくこと が難しかったと振り返り、退学を決めた。 自身の進路を考えていく中で、主治医とも相談し、精神障害者保健福祉手帳を取得。さらに自分 に合った仕事を探したいと考え、就労移行支援事業所に利用登録。現在は、週3~4日は事業所に 通所しつつ、空き時間を見つけてメルクの居場所と個別相談利用も継続している。居場所での対人 関係の練習と、個別面接の振り返りを並行し、対人関係スキルの向上と自信の回復を経て、就労へ 向けて前向きに動き出すことができるようになった事例である。 2.母親相談から訪問支援、来所相談につながった20代の事例 ・相談者:本人・母親 ・性別:女性 ・ひきこもり歴:あり ・年齢:20代 ・主訴:高校卒業後、所属がない。今後について 本人は20代前半の女性。同級生からのいじめをきっかけに、小学校3年生から不登校であった。 本人に対して、母親は常にサポートし続けていたが、中学生の時に母親が病気になり入院したこと を契機に、摂食障害を発症した。体重減少が著しく、気持ちが落ち込んで希死念慮を訴えることも あったため、入院していた時期もあった。高校はサポート校を卒業したものの、その後は進学も就 職もせず、今後のことを心配した母親が相談に訪れた。 母親の話から、本人の状況は、軽快はしているものの現在も摂食障害の状態ではあることが分か った。体調面の懸念があったため、まずは訪問相談から検討し、本人と手紙のやり取りを行い、意 思を確認した上で、本人担当の相談員が自宅を訪問し話を聴いた。 本人は、年齢よりは幼く見えるが、最近の生活や自分の好きなことなどきちんと話ができる人で あった。数回訪問を重ねると、自分の将来についての考えや、それをなかなか家族には言えていな いことなどを話し始めた。これにより、自宅という緩い枠組みで話すよりも、きちんと「相談」と して扱うべき内容であると担当者たちは判断した。直接本人に会って体調面も落ち着いていること が確認できたため、訪問から来所相談に切り替えることとした。 来所相談は、母親の相談と同じ時間に、それぞれ別室で、並行面接の形で設定した。来所の途中、 母子で一緒に昼食をとり、きちんと一人分食べられたことが報告されたり、本人が「もう少し筋肉 をつけたい」と言うようになって、少しずつ回復している様子が見て取れた。また、友人と一緒に ライブを楽しんだり、旅行を計画するなど、体力の回復と同時に、活動の幅も広がっていった。 母親は、来所当初とても固い印象だった。医療機関や様々な相談機関への相談を経験しており、 知識はあったが、どこかで母親自身が周囲から責められているような感覚を持っていたためだった。 母の面接を続けると、本人が死にたいと言ったときに母親が必死で止めたことや、本人の状態を見 て母親の友人が離れていってことなど、これまでの苦労がにじみ出るような話題が出始めた。さら に、以前は本人の食事の量や行動を細かく観察していた母親だったが、「横目で見るようにしてい ます」と言うなど、母子の間で程よい距離ができるようになってきたようだった。これまでの母親 の本人への対応は、「先回り」とも言えるものであったが、それは実は、本人が落ち込んだりパニッ クになったりするのを見ることに対して、母親自身が不安だからやっていたことだった、という話 も出るなど、母親も変化していった。 並行面接を続けてしばらくすると、本人は突然アルバイトを始めた。不安であったアルバイト先 での対人関係など、様々なことが本人相談の中で語られていった。体力を考慮して少ない日数・時 間数から開始したアルバイトだったが、徐々に増やしていった。 現在本人は、アルバイトを続けながら、自分の将来について改めて検討しているところである。 3.メルクマールの両親相談から「リンク」の本人相談につながった事例 ・相談者:両親・後に本人 ・性別:男性 ・ひきこもり歴:あり ・年齢:30代 ・主訴:将来の自立 本人は30代の男性。大学卒業後、契約社員として働いていたが、感染症の流行をきっかけに仕 事を辞めてしまい、自宅でひきこもるようになっていた。両親とは一緒に食事をしたりスポーツの 話題で会話をしたりするが、仕事や将来に関する話はできなかった。両親が高齢になり、また、父 親が数年後に退職をする見通しになったことから、本人の将来や自分たちの老後を心配した両親が メルクに来所した。 本人は幼少期からかんしゃく持ちでこだわりがあり、両親としては育てにくさを感じる子どもだ った。しかし、学生時代は部活動に取り組んだり、少人数ではあるが友人もいたりと、学校生活を 順調に送っていた。大学でもすべての単位を取得し学業面での問題はなかった。ただ、サークル活 動やアルバイトなどはせず、友人もいない様子で、遊びに出かけることもほとんどなかった。本人 なりに就職活動をしたがうまくいかず、卒業後はスーパーの契約社員として働くことになった。仕 事は休むことなく続けられたが、感染症が流行すると、感染症への不安を理由に退職し、以降は自 宅から出ない生活となった。 両親相談では、両親の抱いている本人への期待や不安、老後の生活設計が話題にあがった。特に 両親は親なき後の本人がどうなってしまうか、ということへの不安が強いようであった。そこで、 まずは本人が将来の見通しをもてるような働きかけをしていくことになった。具体的な方法として、 収入や生活費をまとめた家計簿を作成し、家族全体で共有することを始めた。また、今後の家計の 見通しや両親の老後の生活等を家族で話題にするようにした。さらに、家計の負担にならない額で、 本人に定期的にお小遣いをわたすことにした。本人は当初、家計や将来の話を避ける様子を見せて いたが、しばらくすると、家計簿をこっそり見たり、父親の体をいたわるような発言が増えたりと、 徐々に変化が見られるようになった。そして、数か月後には、本人も含めて将来に関する話題が家 族でできるようになった。 そのような変化があったため、次の段階として、本人を支援機関へつなぐ試みを始めた。両親が 本人の悩みを改めて確認すると、人と接する際に強い緊張があること、就労していたときに周囲の レベルについていけず自信を無くしていたこと、感染症を契機に外出の恐怖感が強くなり手や衣類 の汚れが気になるようになったこと、「自分は何かおかしいのではないか?」と思い始めているこ と等が語られた。両親の報告を踏まえて、精神科での治療・経済的支援・就労支援といった多角的 な支援が必要であると判断し、ひきこもり相談窓口「リンク」の活用が検討された。両親が本人に 「リンク」を紹介すると、想像していたよりも抵抗なく本人が「リンク」に来所した。「リンク」で は様々な支援やサービスの利用を検討しながら、医学面・心理面によるケアと、就労支援やボラン ティア活動を進めることになった。 4.複数の機関を利用しながら社会とのつながりを回復した事例 ・相談者:本人 ・性別:男性 ・ひきこもり歴:あり ・年齢:20代 ・主訴:お金に困っている 本人は一人暮らしの20代男性。専門学校を卒業後、ひきこもり生活となっている。遠方に住む両親 からの仕送りで生活をしていたが、経済的な不安があったためメルクに来所した。 本人は子どもの頃から衝動的な行動に出ることが多かった。同級生に対してすぐに怒ったり、喧嘩に なったりと、感情のコントロールが難しく、学生時代は孤立していた。高校生の時に勉強のストレスが 爆発し、家庭で大暴れをしたため精神科を受診(診断:AD/HD)。自宅にいると家族間トラブルになるた め、専門学校進学時に一人暮らしを始めた。専門学校は無事卒業したが、その後はひきこもり生活。オ ンラインゲームで知り合った人たちと交流する機会もあったが、いつも些細なことがきっかけで喧嘩と なり、ゲームコミュニティに入会してはすぐ脱退するというパターンを繰り返していた。 本人相談では、まず経済面の不安が語られた。今すぐに経済困窮に陥る状況ではなかったが、仕送り 額が十分ではないと本人は感じており、お金が無くなると両親に金銭を要求している状態だった。本人 は、お金を得るために「障害枠で就労がしたい」という希望を語った。しかし、そのために必要な方法 や手続きについては「何も知らない」と話した。そこで、就労について相談するために、障害者就労を 相談できる機関を紹介した。本人はすぐに相談へ行ったが、「スタッフが話を聞いてくれなかった!」と 怒り、1回で中断となった。直後のメルクの相談では、話を聞いてくれなかったスタッフへの不満と怒 りを話したが、徐々に「自分もうまくしゃべれなかった。初めての人と話すときは緊張して喋れない」 「物事がうまくいかないとすぐにカッとなるのが自分の悪いところ」と反省の弁も口にした。相談を重 ねていくと、新しい環境では特に感情的になりやすいこと、最初の数回を乗り越えられれば順応できる こと等が分かったため、メルクの支援者が同行することを提案。支援者同行のもとで別の機関へ行った ところ、「優しいスタッフだった。次からは一人で大丈夫」と話し、翌回からは本人のみで通所できるよ うになった。相談先の機関で自立支援医療と精神障害者保健福祉手帳および障害年金の申請を勧められ、 区の窓口で手続きを行うことができた。 この頃、本人相談ではお金の使い方が話題になり始めた。経済的な問題は、仕送り額が不十分という だけではなく、本人がゲームや食べ物を衝動的に購入していたことも影響していたのである。本人から は「両親に仕送りの追加を要求することに後ろめたさも感じている」という発言もたびたび語られるよ うになっていた。徐々に「金銭管理がうまくなりたい」という思いが強くなったため、ぷらっとホーム 世田谷を紹介。ぷらっとホーム世田谷の家計相談により支出が可視化されたことで、ペットボトルのジ ュースは買わない、お菓子は安いスーパーで買う、などの行動の変化が見られた。また、家族とも話し 合いを行い、仕送り額の見直しとお金の使い方のルールを確認した。こうした工夫でお金の使い方は改 善され、障害年金の受給も始まったこともあり、経済面は安定するようになった。 その後、本人は「友達を作りたい」と言うようになった。これまでの対人関係の失敗を相談で振り返 る中で、感情のコントロールが対人トラブルの引き金になっていることを確認。主治医と相談し処方を 変えてもらうこと、怒りを感じたらすぐに距離をとること、初めて交流する人には過剰に関わろうとし ないことなどを話し合った。そうした工夫の結果、数名のゲーム仲間と関われるようになった。 友達作りができたことで自信をつけた本人は就労移行支援事業所への通所を開始し、メルクの相談は 終了となった。最後の相談では、メルクを通してたくさんの人とのつながりを持てたことを感謝してい た。 5.両親相談から本人がつながり、数回の相談を経て本人が動き出せた事例 ・相談者:両親と本人 ・性別:男性 ・ひきこもり歴:あり ・年齢:20代 ・主訴:なかなか動き出さない本人にどう声をかけたらよいか 本人は20代前半の男性。母親がメルクの家族会に参加し、そこから相談につながった。家での 様子を父親からも聞きたいと促すと、翌回からは両親で来所するようになった。主訴は、本人が高 校で勉強につまずき、中高一貫の進学校から通信制の高校に転校、高卒認定を取得したがそこから 進まず、ゲームをしたりしてほとんど家にいる。強く本人にこうしなさいなどと指示をした方がい いのか、親はどうしたらよいか、本人との接し方を教えて欲しいとのことだった。 両親の話からは発達障害の特性がありそうだったが、高校在学時の検査では確定診断には至らな かったようである。多少のコミュニケーションに難しさはあるが、友だちはおり、カードゲームや サッカーが好き、とアクティブな面も伺えた。カードゲームの集まりに参加したり、サッカーのサ ークルで汗を流したりもするようだった。学校では、勉強のやりづらさはあったが、周囲から好か れる人柄なので、通信制の高校に転校してからも、友人関係は良い状態で続いているとのことだっ た。 母親は、本人とのコミュニケーションが難しく、質問にすぐに答えないことにいつも苛立ちを感 じており、母親がテキパキとできる性格なこともあって、幼少期から本人が動く前に先回りをして 何でもお膳立てをしてきたようだった。父親はいわゆる有名企業で管理職として勤めており、母親 が1人で子育てを担ってきた。本人には姉がおり、やはりコミュニケーションに難しさはあるよう だったが、集中できる性格から研究職で勤めているとのことだった。 両親相談の3回目に、本人に来てもらえないかと聞いたところ、実は両親も本人にメルクで進路 について話してみてはどうかと促していたと話があり、スムーズに本人が来所するに至った。 本人は、会話の難しさはあったが、こちらから「○○ですか?それとも△△でしょうか?」など といくつかの答えを提示したり、じっくりと答えを待つと、自身の言葉で返事が返ってきた。趣味 のカードゲームやサッカーの話を振ると話が弾み、担当者が知らないことを教えてくれたりと気遣 いのできる方であった。本人が来所して以降、両親相談の予約は入っていなかった。本人と3回目 の面談をしたところで、本人から実は福祉系の大学に進みたいと思っていたが、両親が反対すると 思い言い出せなかった、とポツリと本音が語られた。父親が有名企業でバリバリと仕事をしており、 外資系企業などで活躍している親族がいて、福祉系の道に進むとは言いづらかったとのことだった。 相談員からは「カードゲームやサッカーなど好きなこともあるし、友だちも大事にしており、気遣 いもできる。それは福祉の世界でもとても役立つ資質だと思う。ただ苦手なこともあると思うので、 そこは改善する努力をしたり対処方法を見つけながらやっていけば良いのではないか。ご両親には 自分でしっかり話したら良いと思う」と伝えた。また、「ご両親はあなたの苦手な部分をカバーしよ うと先に先にと補ってきたところはあると思うが、これからはしっかりと主張することも大事では ないか」と自分の気持ちを伝えることの大切さを本人と確認した。 後日、両親から数ヶ月ぶりに予約の電話が入り、本人が通信制の福祉系の大学に願書を出すこと ができた。本人なりに頑張りたいと言っているから応援したいとの報告があった。本人の相談は数 回で終了したが、両親からは、これからの大学生活でつまずいた時に、相談先があると安心との希 望があり相談は継続している。 Ⅶ メルクマールせたがや利用者の声 1.アンケート結果 2.本人の声 3.家族の声 Ⅶ.メルクマールせたがや利用者の声 1.アンケート結果 <回答者内訳> N=53 <回答者年齢内訳(本人)> <本人年齢内訳(家族回答分)> N=27 N=25 <利用期間> <総合的満足度> N=53 N=52 2.本人の声(一部校正あり) <メルクマールせたがやを利用して良かったこと、役立ったこと、変化を感じたこと> メルクを利用するようになってから、色々と生活面などが良い方向に動くようになったと感じます。ま たメルクを通じて色々な相談できる人とつながりを持てるようになったことに感謝しています。 人に話すことで、考えや悩みが整理された。 心が安定する。ぶれかけていても戻してくれる。 外出する機会が増えた。自分の気持ちを家族以 外の人に話せるようになった。 個別相談で心にたまったモヤモヤや悩みなどを 職員に相談できて、気持ちが穏やかになった。 家族関係改善の大きな助けになっている。その上、個人的なことでも手助けをいただけた。少しだけ生き ていて楽しいと思えるようになるかも知れない。特にジェンダーのことで公認になったのがうれしい。 相談員の方とお話をすることで、家族以外との人間関係を増やすことができ、家族には話しづらい内容 の相談もできたことです。 以前よりも気持ちが軽くなり、安心できる場所が見つかりました。ありがとうございます。 親身に相談に乗ってくれる。 自分の気持ちを言語化する練習ができたこと。 グループ活動が楽しい。 家族以外の人と交わることができ、また定期的 な外出の機会をつくることができ、よいリハビ リとなっている。 プライベートのことから、仕事のことまで色々なことを相談できるのでその点ですごく役に立っています。 面談を利用することで気持ちの整理ができています。家族に気持ちを伝えたい時等に先にこちらでお話 することで、伝えやすくなった。 医療者、家族、友人以外で話しづらかったことを気軽に話せて気持ちが楽になった。 来ることを強制される場所ではなく、自分のペースで利用していいと言っていただき、休むこともあり つつも続けることができました。外に出る機会が増えました。 最初は意思表示をする事もままなりませんでしたが、積極的に色んなプログラムに参加することで、人 のいる場所に慣れて、自分から発言や行動ができるようになりました。決められた時間や場所に、自ら の意思で行く事が、自分にとって良い経験になっていると感じています。メルク以外では、人と接する 機会はほとんどなく、外出も限られた場所にしかしないため、メルクという場があってとてもありがた く思っています。 <今後、改善してほしいこと、取り組んでほしいこと> もっと居場所活動で、外国の方と交流したり、英語を話せるスキルアップになるものが欲しい。パソコ ンやネットやプリンターを使えるスペースが欲しい(パソコン設置希望)。メールでの相談や予約ができ るようにしてほしい。 テーブルゲームの数がやり尽くせないほど豊富なので、もっとゲーム系のプログラムがあったら嬉しい です。 居場所のオープンのイベントを多様化してほし い。 居場所の数を増やして、参加できる人を増やして欲 しい。 現在私はメルクマールをこれから先の進路相談として利用させていただいているのですが、担当してい る相談員の人生経験や知識量に左右されてしまっている面もあるため、もっとメルクマールという組織 全体で相談者のこれからの進路等も一緒に考えてあげられるような仕組みは作って欲しいと感じまし た。例:部屋に掲示板等を設置(ネット上でも可)し相談者の大雑把な情報や担当している相談員が満足の いく回答が出せない悩みなどを載せておき、担当していない相談員がその情報を確認し、気になるとこ ろがあったら意見交換をしていくなど。 <初めてメルクを知ったとき、初めてメルクに来たとき、どう思ったか?> 最初は不安だったけど、初回の面接をしたら、ここなら通っても大丈夫と思いました。今思うと、とて も良い選択ができたと感じます。 当時病んでいる中だったため、「ここに来て変わ れるなら苦労しないけど」という思いだった 行政がここまで若者の居場所を作ることに協力 的であることに驚いた。 本当に役に立つのか、疑問だった。というのも、カウンセリングというものにはよい思い出がなかったから。 自分に合う病院を探すときもたくさんの病院を回ったので、同じように今回もまた合わないのではない か、同じ話を何度もしなければならないのかと不安だった。 憩いの場所 気持ちがラクになった。同時に緊張した。 ネットで初めて知った時は、区の機関であり、なおかつ利用料金も掛からないという点が、非常に安心 感がありました。実際に利用してみて、長年人と関わってなかった自分が一歩踏み出すきっかけの場所 としては、これ以上ない場所だと思いました。居場所の利用はファーストクラフトが初めてでしたが、 居心地も良く、自分から発言や行動ができなくても、スタッフの方が導いてくれたので、とても助かり 感謝しています。 3.家族の声(一部校正あり) <メルクマールせたがやを利用して良かったこと、役立ったこと、変化を感じたこと> 子どもへの対応について、声掛けを大切にして過ごせるようになりました。子どもの家庭での様子を話 して、対応の見直しをしていけますので、大変ありがたいです。 本人とはメルクマールさんは繋がっていませんが、親が繋がっていることで安心感がある。その安心感 は大きい。 家庭の中での話し合いが難しく、お互いの気持ちを語ることも上手くできていない状態でしたが、担当 の方が丁寧に話を聞いてくださり、各自、自分の気持ちを整理することができてきはじめたかと思いま す。 上から目線で指導されたり否定される事がないので何でも相談できます。 成人となり、どこに相談しても「成人なので…」とあまり親身になってくれる窓口がなかった(警察、 民間のメンタルクリニックなど)。しかしメルクマールせたがやを利用できてからは、話を定期的に聞い てくださり家族以外のお話を参考にでき、とても助けてもらえました。 どこからも受け入れてもらえず孤立してしまった気持から助けて下さる方がいる、分かって下さる方が いる、頼ってもいい方々がいると救われました。 自分にとっては相談できる所ができてありがたいと思っているが、本人は今のところ相変わらずなので もどかしい。少しでも前向きになれるよう、色々調べては本人に話してみるが、なかなか受け入れない。 そんな本人がここには行っても良いと言ったので、来て良かったと思えるように、これからの事を一緒 に考えていただけたら嬉しいです。 自分でやろうとしていることを客観視して、後押ししていただけるのがとても役立っている点だと思い ます。相談したことで頭の整理ができます。 今の状況をお話しできる。本人の気持ちに寄り添いたいと思うようになったのですが、それでも今のま までよいのか、本人は今の状態に満足してしまっているように思います。親としては諦めの気持ちに傾 いてしまいがちです。 個別相談でお話を聞いて頂くことにより、自分の気持ちの整理ができたり、また、客観的な視点からア ドバイスを頂くことは、大きな気づきに繋がりました。さらに、他のご家族、若者の例を伺い、参考に させて頂きました。 <今後、改善してほしいこと、取り組んでほしいこと> どのように元気を取り戻して、来れるための具 体的なやり方の例を知りたい。 交流会が、もう少し積極的に開かれたらいいな ぁと思います。 本人に会えなくても、家庭訪問を月に1回程度やって、親と会話しているという場面を創っていくとい う取り組みはいかがでしょうか。 何よりも息子本人に出てきてもらうことが望ましいながら、結局は本人次第であり、メルクマールに対 策をお願いするとか何かいい方策を教えていただくというものでもないですね。 もし今後、本人がメルクマールに行くことがある場合、他の人と会うのを嫌がりそうなので、顔をあわ せずに相談室に入れたらよいと思いました。 家族以外の接点がほぼない為、他人とのかかわり方や社会性を身につけてほしい。日常の常識や年相応に自然 に身につくことがすっぽり抜けているので、そういった指導を楽しく学べる機会を設けてほしい。 社会構造が日々複雑化していく中、社会と断絶もしくは、社会に溶け込まない対象者に、情報取得の方 法、情報発信の方法を柔らかいやり方で教えていってほしい。 <相談対象者のこと、相談対象者との関係について悩んだときに、支えになったこと> 本人の良いところがたくさんあり、記憶にあるので、諦めずに元気になると信じて生活を一緒にしている。 家から離れて自分の時間を持つ。 評価判断なく話を聞いてもらうこと 親が相談する相手として、心理士の方がいるというのは大変ありがたいです。家庭の中から一人でも外 の場所で相談することにより、家族の変化が起こると思えます。 自分自身、じっくり向き合う時間が必要だった。今もその最中。 「ピンチはチャンスですよ」と言っていただき、いつも背中を押して頂いてます。また、「こんなふうに 言ってみたらどうですか」と子どもへの言葉がけのアドバイスを頂き、助かっています。 しっかり話を聞いていただけたことです。又、自分では「これでよかったのか?」と悩むこともたくさ んありましたが、担当の方が「私も同じ考えだ」と共感してくれることがあり、自分がいま行っている ことは間違っていないのだと安心することができました。 親の育て方に大きく影響されると言われがちな病気です。責める気持ちでいっぱいだった私に寄り添っ て下さったこと、私自身の日常も大切にしてくださいと言って下さったこと、自分を責め、子供のことで 自分を見失っていたことに気が付きました。がんじがらめになっていた日々に風が吹いたようでした。 何か問題があった時に、どうすれば良いかお話してみようと頼れる場所がある事で、一人であれこれ悩 みすぎる事がなくなり、とても心強く、ありがたく思いました。そして、子供の年齢に応じた対応を心 がけるようになりました。 <相談対象者のこと、相談対象者との関係について悩んだとき、あればよいもの/もっと広まってほしいこと> 本人の精神が不安定になるのが夕方~夜だったり、早朝だったりすると、誰にも相談できなくて、私も つらくなる事があるので、365日24時間電話かLINEで相談できるシステム、機関があればいいなぁ と思います。 支え続けるのは理解し、認識しているが、いずれ訪れる親の不在になった時の経済基盤を準備はするが、 それでも万全ではないので互助会的な基金の設立があればと希望。 同じ年代の人が家庭訪問をして、定期的に声掛けをして、信頼関係を作りながら一緒に外出をしていく という方法はいかがでしょうか。オープンダイアローグを進めていくのもいいと思われます(家庭に数 名来て会話するなど)。 病院や相談機関、支援先(本人を受けて入れてくれる所)など、周囲に相談できない状況なので、どんな 所があるのか色々教えて頂けるとありがたい。 つまずきがあったり、成長がゆっくりな人達が学び直したいと思った時に、安心して学習できる場所が あると良いと思っています(学校以外で通える場所)。又、そのような人達が仕事を選ぶ際、職種が広が り、選択肢が増えると良いと思います。 今やっていただいていることで特に他要望はありませんが、もっとメルクマールせたがやが世間に知れ 渡るとよいと思っています。いつもありがとうございます!! Ⅷ 広報・啓発活動 1.広報・啓発活動 2.視察・見学対応 Ⅷ.広報・啓発活動 1.広報・啓発活動 1)ニュースレター メルクマールせたがやでは、毎月居場所活動のスケジュールとあわせてニュースレターを発行 している。ニュースレターでは、実施したイベントの様子や居場所プログラムの紹介など、メル クマールせたがやの活動が伝わるように作成している。ニュースレターは、利用者に配布するだ けでなく関係機関にも送付している。 テキスト 自動的に生成された説明 ニュースレターの例(令和5年10月) 2)ホームページにおけるブログ メルクマールせたがやでは、広報の一環として居場所活動の様子をブログで発信している。 QR コード 自動的に生成された説明 (https://3cha.tokyo) ブログでは、ニュースレター同様にイベント・プログラムの内容について写真を掲載しながら 紹介している。ブログの読者に、メルクマールせたがやの取組みや活動の様子が伝わるような内 容を意識して作成している。なお、ホームページは居場所だけでなく家族会や出張セミナーの周 知の場としても活用している。 3)事業紹介(研修会・会議体講師、会合の出席など) 事業紹介は、具体的な活動内容や利用者の様子などを周知し、若者・ひきこもり支援に係る地 域の支援者にメルクマールせたがやを知っていただくことを目的としており、地域に理解者が増 えることが、潜在的なニーズの掘り起こしにつながると考えている。 令和5年度は新型コロナウィルス感染症が5類感染症に移行したことを受けて、研修会や地域 のイベントや会議が対面で開催されるようになった。主な活動は、以下の表の通りである。若者 に係る内容はメルクマールせたがやとして、地域包括やひきこもり支援に係る内容はひきこもり 相談窓口「リンク」として招かれる機会が多い。講師として登壇するだけでなく、会議などに出 席することによって、支援者同士の顔の見える関係づくりの機会となっている。また、ひきこも り相談窓口「リンク」においては都や国から声がかかり、全国に世田谷区のひきこもり支援の取 組みを発信している。 研修会・会議体(リンク) <区内> あんしんすこやかセンタースキルアップ研修 講師 北沢地域ケア会議 玉川地域ケア会議 烏山地域ケア会議 松沢病院まつざわ地域連携ネットワーク会議 講師 重層的支援体制整備事業共催研修 講師 せたがや自治政策研究所 インタビュー協力 <区外(国・都道府県など)> 厚生労働省ひきこもり支援ガイドライン作成に係る作業部会 厚生労働省ひきこもり支援者を対象としたインタビュー調査 東京都主催ひきこもりに係る支援者向け研修 講師 静岡県生活困窮者自立支援事業従事者養成研修 講師 研修会・会議体(メルクマール) あんしんすこやかセンタースキルアップ研修 昭和女子大学見学実習 世田谷区子ども・青少年協議会 インタビュー調査 子ども・若者支援専門職養成研究所 インタビュー調査 世田谷地域中高生支援者懇談会 講師 砧地域中高生支援者懇談会 講師 玉川地域中高生支援者懇談会 池之上青少年交流センター地域懇談会 野毛青少年交流センター地域懇談会 希望丘青少年交流センター地域懇談会 教育相談室調整会 不登校保護者のつどい ほっとスクール合同会議 子どもの貧困対策推進フォーラム パネリスト 4)情熱せたがや、始めました。(略してねつせた!)による情報発信 世田谷区では、若者による若者向けのソーシャルネットワークサービスを利用した情報発信を 行っている。長期休暇の時期などにあわせて、メルクマールせたがやの利用を促すメッセージを 発信した。 5)地域と若者の交流 若者と地域の交流の機会として、野毛青少年交流センター主催の「のげ青縁日」、池之上青少年 交流センター主催の「青年文化祭」、池尻児童館主催の「がやがや村祭り」にせたがや若者サポー トステーションと一緒に世田谷若者総合支援センターとして「ワニたたき」という子ども向けの 出店を行った。 6)開設10年目シンポジウム 令和5年8月8日に、成城ホールにてメルクマールせたがや10年目報告会を開催した。開設 からの変遷や活動報告を行った。また、パネリストに筑波大学教授の斎藤環氏、明治大学特任教 授の山登敬之氏、世田谷区長の保坂展人氏を招き、昨今の不登校、ひきこもりといった社会的課 題への支援についてパネルディスカッションを開催した。 パネリストの3名はメルクマールせたがや5周年報告会と同じ方々だったこともあり、対象年 齢による制約がなくなり継続的な支援が可能になったこと、早期支援の取組みや相談件数が年々 伸びていることに一定の評価をいただいた。また、今後の課題として、狭義の専門支援に寄り過 ぎず、福祉制度や地域資源の知識などをオールラウンドに対応できるような人材の育成や教育と 福祉の連携、重層的支援体制の充実について提言をいただいた。 図形 が含まれている画像 自動的に生成された説明 2.視察・見学対応 メルクマールせたがやには、毎年区内外を問わず視察や施設見学の申込みがある。特に、居場 所のコンセプトや機関連携など実際の運営について質問を受けることが多い。ひきこもりの方が どのようにして利用に至るのか、相談支援と居場所支援の取組みについて意見交換をすることが あり、メルクマールせたがやとしても、視察を通して他の自治体の取組みを知る貴重な機会とな っている。 1)視察対応 令和5年度の主な視察対応は以下の表の通りである。ひきこもり相談窓口「リンク」が開設し たことにより、メルクマールせたがやには主に若者支援施策に係る内容が多く、「リンク」には主 にひきこもり支援や重層的支援体制整備事業に係る内容の依頼が多い。視察対応では、相談窓口 機能だけではない継続的な相談支援や居場所活動の他、協議会の運営や他機関連携について意見 交換を行った。 視察対応(メルクマール) 川崎市総合リハビリテーション推進センター 世田谷総合支所 こども家庭庁 東京都若年支援課 目黒区議団目黒区の未来を創る会 視察対応(リンク) 板橋区生活支援課 厚生労働省 世田谷区公明党区議団 大田区施設整備課・生活福祉課・青少年担当 板橋区議会議員 NPO法人オレンジの会 Ⅸ 令和元年度~令和5年度 支援方針に基づく取組みの進行状況 1.令和5年度の取組み状況 2.今後5年間の取組み Ⅸ.令和元年度~令和5年度.支援方針に基づく取組みの進行状況 平成30年度の事業報告書において、これまでの5年間の活動から見えてきた課題を明らかにし、 令和元年度から令和5年度に重点的に取り組んでいくことを以下の3つの方針としてまとめた。 1.支援を必要とする若者の掘り起こし 2.社会参加に向けた動き出しの支援の充実 3.中高生への切れ目のない支援 この方針に基づく取組みの進行状況について報告する。 1.令和5年度の取組み状況 1)支援を必要とする若者の掘り起こし メルクマールせたがやは、開所から令和6年3月末までで972家庭の利用があった。令和5年 度は、新規相談登録件数は116件と開所以来最も登録件数が多かった令和4年度に近い件数であ った。新規相談登録が増加した理由は、世田谷ひきこもり相談窓口「リンク」が開設したこと、 移転に伴いアクセスが良くなったこと、コロナ禍ではあるが行動制限が緩和されたことが影響し ていると考えられるが、10代の新規相談登録が高い割合を維持していることも要因の一つと考 えられる。 ①地域特性に合わせたサテライト整備 (サテライト:p.83用語解説参照) 出張相談会は、令和2年度より希望丘青少年交流センターに加え、5つの総合支所区民相談 室で定例開催している。令和5年度は、すべての場所で毎月開催した。年間で出張相談会から 新規登録となった件数は6件、出張相談の延べ相談件数は67件と、令和4年度より増加した。 出張相談からメルクマールせたがやへの来所相談へ移行した利用者もいれば、来所相談から出 張相談へと相談の場を移した利用者もいる。定例で出張相談会を開催することで選択肢の幅が 広がり、利用者のニーズに合わせて相談の場を提供できるようになった。 ②地域に根差した交流 令和5年度は、令和4年度に比べ対面で開催されるものが増えてきた。野毛青少年交流セン ターの「のげ青縁日」、池之上青少年交流センターの「青年文化祭」では、せたがや若者サポー トステーションとの合同による子ども向けのゲームコーナー(ワニたたき)を出店した。 また、令和4度に引き続き、メルサポの特別枠という形で株式会社セックによるプログラミ ング体験、AR体験のプログラムを企画し、若者と地域の企業との交流の機会が生まれた。令 和5年度では、連続講座を開催するなど、内容もより充実しての開催となった。 ③独自のホームページ開設 これまでも世田谷区のホームページ内でメルクマールせたがやの情報は提供されていたが、 令和3年度からメルクマールせたがや独自のホームページを開設した。若者がより一層メルク マールせたがやの利用に結びつきやすくなるように情報を発信している。また、ウェブ上から 問い合わせができるように問い合わせフォームを設置し、本人とその家族が声を発しやすくな ることで、新規相談申込み増加の効果をねらった。令和5年度における新規相談登録件数116 件のうち、来談経路がホームページだった相談登録件数は21件であった。ホームページによ る情報発信、問い合わせフォームを設置することにより、インターネットという新たな相談申 込みの窓口は利用の入り口として機能している。 なお、これまで居場所活動の様子などを記事にして広報として活用していたブログは、ホー ムページ内に移行して継続している。 人, 屋内, 座る, シャツ が含まれている画像 自動的に生成された説明 QR コード 自動的に生成された説明 (https://3cha.tokyo) 令和3年4月1日開設 2)社会参加に向けた動き出しの支援の充実 動き出しの支援については、これまで取り組んできた支援活動の振り返りと更なる充実を図っ た。 ①個別の専門相談・家族支援の充実 個別相談では、家族支援の充実として、本人がメルクマールせたがやの来所に至るまでの経 緯を大切にするため、本人を誘うタイミングを図りつつ家族をエンパワメント(p.83用語解説 参照)して家族関係の調整を丁寧に行った。令和5年度の新規相談登録件数116件のうち、家 族のみから利用開始となったのは65件(56%)と最も多い割合を占めている。ひきこもり支援 において、本人につながるための家族支援は必須であり、家族のみからでも相談できる場が求 められている。 相談への敷居が高い場合は、ひきこもりに悩む家族に限定した家族会や、参加の対象を問わ ない出張セミナーへの参加もひとつの方法である。出張セミナーは、若者支援・ひきこもり支 援の普及啓発と若者総合支援センターの広報活動が主な目的であり、来場者の多くは家族であ ることから、内容は家族向けに構成している。セミナーを受講するという開かれた参加の機会 から利用のきっかけを提供できるよう努めている。令和5年度は、全て対面で開催した。 本人についても居場所利用や他機関につなぐということにとらわれず、一人ひとりの利用者 にとって“どんな体験を得られることが望ましいか”“どんな支援が適切か”について相談担当者 を中心にアセスメントし、スタッフ会議で支援方針を立てるようにした。行動上の変化は急い てしまうと傷つきの上塗りになってしまうため、本人のペースを尊重しつつ相談担当が時には 調整役となって伴走する必要がある。 ②安心・安全な居場所 居場所に関しては、新型コロナウィルス感染症が第5類感染症に移行してからも引き続き基 本の感染対策を講じながら、若者がリアルに交流できる場として活動を維持継続した。令和5 年度からは、飲食を伴うプログラム、交通機関を利用しての遠方への外出イベントを再開する ことができた。新規の登録者は、令和5年度3名と令和4年度と比べて大幅に減少している が、全体の居場所利用登録者数は70名と高い水準を維持している。体験参加できるプログラ ムの充実と令和3年度より始めた「ファーストクラフト」というペーパークラフトやジグソー パズル、ハーバリウムなどの作業をメインとしたプログラムが、雑談などのコミュニケーショ ンに緊張する方や苦手な方が活動ルームで過ごすことを試みる機会となっている。 また、新たな試みとして利用者のやりたいことを実現する「居場所プログラム企画会議」と いう月1回のミーティングを主としたプログラムを企画した。ミーティングの中で、利用者の 希望を聞き、その実現に向けてスタッフがサポートするという取組みであるが、太子堂にある ふれあい広場でモルックを楽しんだり、池之上青少年交流センターの音楽室を借りて楽器演奏 によるセッションを楽しむなど、様々な企画が生まれた。今後も、利用者の意見を大切にして 主体性の回復、若者の参加参画の機会として継続する。 ③アウトリーチ型支援 メルクマールせたがやは、アウトリーチ型支援の一環で利用者の自宅もしくは近隣の公共機 関にて訪問相談を実施している。令和5年度は、家族相談から本人アプローチとして訪問を導 入するケース、他機関の訪問相談に同行したケースの他、世田谷ひきこもり相談窓口「リンク」 での訪問相談を行った。延べ訪問相談件数は271件と令和4年度から微増であった。 また、前述の地域特性に合わせたサテライト整備(p.76)にあるように、出張相談会は5つの 総合支所は毎月1回へと拡充しており、身近な場所での相談機会の提供が整備されつつある。 出張相談会は相談支援だけでなく他機関連携の機会としても機能している。 広義のアウトリーチである他機関連携は、事務局を務める「不登校・ひきこもり支援部会」 にて、構成機関を中心に「連携」をテーマに扱っている。令和5年度は、来場のみで開催した。 対面で開催することにより、コロナ禍前の“顔の見える関係づくり”が促進され、部会終了後 に参加者が情報交換する姿が見られた。 ④せたがや若者サポートステーションとの地続き支援 令和4年4月に世田谷ものづくり学校から三軒茶屋のSTKハイツに移転後も同じ建物内で 引き続き世田谷若者総合支援センターとして日頃から連携している。せたがや若者サポートス テーションとは、メルサポや合同プログラム、地域イベントへの出店などを行っている。利用 者にとっても身近な存在となったことで、令和5年度においては、並行利用者が54名と就労 支援機関では最も多い人数となった。 令和2年度よりメルサポ、メルク・サポステ合同プログラムでは両機関の担当スタッフの打 合せの時間を実施前後で取り、プログラムの目的や方向性を共有しながら取り組むことを継続 している。引き続き、若者総合支援センターの運営の充実のため、プログラムの目的や計画、 並行利用者の情報交換や役割分担など、より良い2機関の連携の在り方を構築していく。 令和5年度は、共催のメルサポの特別枠として株式会社セックの協力のもと、プログラミン グ体験、AR体験のプログラムを開催した。 ⑤青少年交流センターの福祉的就労の取組みとの連携 青少年交流センターは、世田谷区の若者施策である「若者の交流と活動の推進」の中心的機 関である。区内に3か所あり、各センターで生きづらさを抱えた若者の就労支援プログラムを 実施している。野毛青少年交流センターでは、「畑プロジェクト」という農業体験を実施してお り、希望丘青少年交流センター「アップス」では、「P-work」というカフェを活用したプログ ラムと「P-farm」という農業体験を実施している。令和4年度は、新たに池之上青少年交流セ ンターでの駄菓子の売店が加わった。 これまで、メルクマールせたがやの利用者が福祉的就労の取組みに参加することはほとんど なかったが、せたがや若者サポートステーションを並行利用している若者が「P-work」に参加 した。居場所に参加している利用者同士で話題になるなど、就労体験の機会として認知が広が ってきている。また、青少年交流センターを居場所として利用する若者が増えてきている。各 機関のスタッフ同士は研修会や出張相談会の開催、子ども・若者支援協議会などを通じて顔の 見える関係が構築されており、双方の取組みの理解は深まっている。 3)中高生世代への切れ目のない支援 メルクマールせたがやでは、早期支援・早期介入を目的に平成28年度よりティーンズサポー ト事業を重点事業として取り組んでいる。 ①中学校との連携 令和5年度は公立中学校全校生徒へティーンズサポート事業のチラシを配布した。また、中 学校の校長会にて中学校訪問について周知を行った。中学校訪問は、希望する中学校の教職員 を対象にティーンズサポート事業の説明をして事業周知を図るとともに、連携の意見交換を行 うというものであるが、令和5年度は中学校訪問を希望する学校がなく、未実施で終わった。 不登校生徒が激増している昨今、教育と福祉の連携の実現に向けて、公立中学校への有効なア プローチを検討し、今後も実践を積み重ねていく。 ②10代を対象とする支援機関との連携の充実 10代の支援機関との連携では、15歳の義務教育課程、18歳の児童福祉といった支援や制度 の切れ目があるため、支援機関同士が情報を共有して、支援を必要とする若者が支援や制度の 狭間にこぼれ落ちないよう重なり合うような連携が重要である。 令和5年度においても、引き続き区児童相談所との連携を充実するとともに、子ども家庭支 援課や教育相談室などと連携し、区内の若者支援機関として切れ目のない支援に取り組んだ。 連携の際には、子ども・若者支援協議会の実務者会議となる個別ケース検討会議を開催して、 情報交換や方針の共有などを行い、利用者が安心してつながれるように支援していく。 4)世田谷ひきこもり相談窓口「リンク」におけるぷらっとホーム世田谷との連携・協働 令和4年4月、年齢を問わずひきこもり当事者の方や家族を支援する、世田谷ひきこもり相談 窓口「リンク」が開設された。メルクマールせたがやは、これまでの若者のひきこもり支援の活 動やノウハウ、公認心理師や臨床心理士、精神保健福祉士、社会福祉士などの専門性を活かし、 社会的困窮や孤立した状態にある当事者を支援してきたぷらっとホーム世田谷と協力して、40歳 以上のひきこもり当事者も含めた全年齢支援にあたっている。相談の初期段階から2機関が協働 することで見立てや対応を検討し、当事者のニーズに沿って支援を行っている。令和5年度は延 べ相談件数が1,021件と開設した令和4年度の507件から相談対応件数が倍増した。また、「む すびば」という月1回の居場所活動も参加者が定着して延べ利用者数が59人と令和4年度の37 人から大きく増加している。相談、居場所ともに利用実績は延びており、重点事業として引き続 き取り組んでいく。 2.今後5年間の取組み 今後の5年間は、これまで取り組んできた内容を継続しながら、より充実させていくことが求 められる。加えて、区や都、国の支援施策の動向を視野に入れながら、行政における若者支援、 ひきこもり支援機関として活動していく。 新たな課題解決に向けた取組みを以下に抜粋する。 1)世田谷ひきこもり相談窓口「リンク」におけるぷらっとホーム世田谷との連携・協働 世田谷ひきこもり相談窓口「リンク」開設から2年が経過した。「リンク」では、メルクマー ルせたがやとぷらっとホーム世田谷からそれぞれ担当者がついて当事者の支援にあたる。2機関 が協働することで、見立てや当事者のニーズに合わせて、2機関の強みを活かした支援を進める ことができる。「リンク」には、本人や親だけでなく、兄弟や知人などからも相談申込みがある。 また、高齢福祉や障害福祉の支援機関からの問い合わせや相談も多く寄せられている。引き続き、 あらゆるニーズに応えられるように、支援の選択肢を増やしていく。多機関連携は、個別ケース 検討会議などで、分野を横断した重層的支援のあり方を模索しながら展開する。複合的な課題を 抱える世帯への対応事例を蓄積していき、分野の垣根を越えた重層的支援が、区内で確実に根づ いていくことを目指し、従来型の支援や制度の狭間にあり支援が届きづらかった層への、より良 い支援体制の構築に取り組む。 令和6年度から、重層的支援体制整備事業で5地域の総合支所にある保健福祉センターが窓口 となって多機関協働事業が区全体の動きとして始まる。メルクマールせたがやは、ひきこもり相 談窓口「リンク」の運営にあたり、ぷらっとホーム世田谷と協働体制を取ってきた。今後は、困 難を抱えた世帯に関わる機関としてだけでなく、支援者支援の視点で地域の多機関協同事業の後 方支援の役割も担っていくことになると考えられる。 2)早期支援・早期回復を目的とした中高生世代への切れ目のない支援 メルクマールせたがやは、所管課が子ども・若者支援課から生活福祉課に移管されたが、引き 続き区の若者総合相談センターに位置づけられており、10代の若者への早期支援であるティー ンズサポート事業を重点事業とする。令和5年度の活動実績は、新規相談登録件数における10 代の割合が40%と、ひきこもりなどの状態が長期化・重篤化する前に相談利用につながってきて いると考えられる。 また、支援を必要とする若者が制度の狭間にこぼれ落ちないようにするためには、複数の機関 が重なり合うことで年齢による切れ目をなくし、支援のタスキをつなぐことが重要である。関係 機関との個別ケース検討会議の開催は、10代の若者を対象としている機関と実施する割合が増 えており、子ども・若者支援協議会における指定支援機関の役割を果たしていく。中学校や高校 などの教育機関、区児童相談所や子ども家庭支援課といった児童福祉の機関との連携実績を積み 重ねていく。特に令和5年度は、①教育相談室調整会議の参加、②不登校保護者のつどいの参加、 ③ほっとスクール合同会議の参加など、教育との連携に取り組んだ。今後も不登校支援に携わる 職員や、生徒・保護者と直接つながれる機会を大切にし、切れ目のない支援に取り組む。 その他、世田谷区子ども・青少年協議会では、「居場所」をキーワードにした若者の参加参画、 地域と若者のつながりを主な目的として学校モデル事業を開始している。学校モデル事業では、 学校内に地域の大人がカフェを開き、学校という社会生活場面に安心できる居場所を作る取組み を行っている。メルクマールせたがやは、地域資源のひとつとして校内カフェの運営に後方支援 として連携を図る。 【用語解説】 □ アウトリーチ:主に社会福祉の領域で使われる用語で、「支援者側から地域に出向いて支援を 必要とする人に必要な支援と情報を届ける活動」のこと。メルクマールせたがやでは、利用者 の自宅への訪問相談や地域に出向いての出張相談会などを実施している。また、他機関との連 携や支援ネットワーク構築も広義のアウトリーチ活動である。 □ アセスメント:「査定」と訳される用語で、相談者との面接場面でのやり取りの様子や聴取し た情報などを基に、相談者の心理状態や力のある部分といった能力、課題などを見立て、今後 の支援方針を計画すること。相談者を理解し、適切な支援を提供することを目指す。 □ エンパワメント:個人や集団が本来持っている潜在能力を引き出し、湧き出させることを意味 する用語。利用者が本来の力を発揮できるようになることで、自ら主体的に課題解決に取り組 めるようになると考え、支援者は利用者の強みや能力を尊重した肯定的な働きかけを行う。 □ サテライト:ここでは、「拠点」という意味で使用している。メルクマールせたがやは世田谷区 の三軒茶屋が本拠地であるが、世田谷区は区役所機能が5地域に分かれており、広域で人口も 多い自治体であることから、区民の身近な場所で支援を届けるためには「拠点」が各地域に必 要と考えており、サテライトとして出張相談会を5地域の総合支所や希望丘青少年交流センタ ー「アップス」で定期開催している。 □ 生物・心理・社会モデル:遺伝子や身体機能などの生物学的な面、気分や行動といった心理学 的な面、生活する社会環境や文化などの社会的な面という3つの側面から、課題や困難な状況 を包括的にとらえるという考え方。精神科医のエンゲルによって提唱されたモデル。 □ ピアサポート:「同じ悩みを抱える仲間同士の支え合い」を意味する用語。メルクマールせた がやにおいては、居場所活動はひきこもりに悩む本人同士のピアサポートの場であり、家族会 はひきこもりに悩む家族同士のピアサポートの場になっている。対等な関係性の中でお互いに 支え合いながら成長し、課題を解決していく。 □ 本人:ここでは、「ひきこもりなど生きづらさを抱えた方」を指す用語として使用している。メ ルクマールせたがやはその方々の多様な自立や望む生き方をサポートする機関であり、家族が 利用主体の場合も“家族を通した「本人」への支援”を実施している。 STKハイツ 5F タイムライン 自動的に生成された説明 ○ アクセス 【東急田園都市線・世田谷線】 三軒茶屋駅徒歩3分 【東急バス】 三軒茶屋から徒歩1分 世田谷若者総合支援センター 令和5年度メルクマールせたがや事業報告書 <令和5年4月~令和6年3月> 令和6年5月 発行 編集・発行 世田谷若者総合支援センター メルクマールせたがや 事業運営 公益社団法人 青少年健康センター【茗荷谷クラブ】 〒154-0004 東京都世田谷区太子堂4-3-1 STKハイツ5階 TEL 03-3414-7867 なやむな FAX 03-6453-4750 HP https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/kusei/012/008/005/d00134311.html https://3cha.tokyo/