世田谷区社会的養育推進計画(中間見直し)令和7(2025)年度〜令和11(2029)年度 概要版 令和7年3月 世田谷区 第1章 計画策定にあたって 1 計画(中間見直し)策定の趣旨  平成28年に児童福祉法が改正され、子どもが権利の主体であることが位置づけられるとともに、「家庭養育優先原則」が明記されました。  この理念のもと、平成29年8月に取りまとめられた「新しい社会的養育ビジョン」では、「社会的養護の課題と将来像(平成23年7月)」を全面的に見直し、市町村の子ども家庭支援体制や包括的な里親支援体制の構築など、平成28年改正児童福祉法の理念を実現するための工程と具体的な目標が示されました。  しかしながら、全国の児童相談所における児童虐待に関する相談対応件数は、令和2年度には20万件を超えるなど、依然として、子ども、その保護者、家庭を取り巻く環境は厳しいものとなっています。  例えば、子育てを行っている母親が近所に「子どもを預かってくれる人はいない」といったように孤立した状況に置かれていることや、各種の地域子ども・子育て支援事業についても支援を必要とする要支援児童等に十分に利用されていない等、子育てに困難を抱える世帯がこれまで以上に顕在化してきています。  このような状況を踏まえ、令和4年6月に全会一致で成立した令和4年改正児童福祉法においては、こどもに対する家庭及び養育環境の支援を強化し、こどもの権利の擁護が図られた児童福祉施策を推進するための支援の充実が示されました。  これに関連して、令和6年3月に「都道府県社会的養育推進計画の策定要領」が示され、令和6年度末までに、現行計画を全面的に見直し、令和7年度から令和11年度までを計画期間とする新たな計画を策定することとされています。  世田谷区においては、令和2年4月に特別区初となる区立の児童相談所を開設し、区民生活に密着した基礎自治体として、児童相談のあらゆる場面において子どもの権利が保障され、その最善の利益が優先された「みんなで子どもを守るまち・せたがや」の実現を目指すことを理念とし、  あらゆる子どもには家庭を与えられるべきという視点に立ち、子どもが家庭で健やかに養育されるよう保護者支援を重点的に行うとともに、子ども家庭支援センターと児童相談所の一元的な運用を大きな柱として、地域の支援を最大限に活用した予防型の児童相談行政の展開を図ってきました。  また、開設にあわせて、社会的養育を着実に推進するための体制整備に向けた区の基本的な考え方等を示すため「世田谷区社会的養育推進計画」を令和3年4月に策定し、令和6年度に進捗状況の検証、計画の見直しを行うこととしていました。  令和6年度には開設5年目を迎え、予防型の児童相談行政の構築を着実に図ってきた一方で、令和5年度の区の児童虐待相談対応件数は3,265件にのぼり、複雑・困難なケースも増加していることから、さらなる支援の充実を図る必要があります。  この計画は、社会的養育の充実に向けた国の動向等を踏まえ、子どもの最善の利益の実現に向け、「家庭養育優先原則※1」と「パーマネンシ―保障※2の理念」に基づき、支援が必要な子どもと子育て家庭を支える環境の充実を図るために、現行計画を見直し、世田谷区の社会的養育の推進に関する今後5年間の取組みをまとめた計画として策定するものです。 2 計画の位置づけ  この計画は、国が定める「都道府県社会的養育推進計画の策定要領(令和6年3月)」に基づき、「世田谷区社会的養育推進計画(令和3年4月策定)【計画期間:令和3〜11年度】」の中間見直しとして策定するものです。  また、こども基本法の「市町村こども計画」に位置づけられている「世田谷区子ども・若者総合計画(第3期)【計画期間:令和7〜16年度】」との整合性を図っています。 3 計画期間  計画期間は、令和7(2025)年度から令和11 (2029)年度の5年間とします。  ※「都道府県社会的養育推進計画の策定要領(令和6年3月)」に基づき、計画期間を定めています。? 第3章 計画の基本的な考え方  1 計画の理念・目指す姿      子どもが権利の主体として、置かれた環境や経験にかかわらず、安全・安心に健やかに成長できるよう、地域社会全体で支え育み、「子どもが自分らしく幸せ(ウェルビーイング)な今を生きることができるまち・せたがや」を目指します。 区は、これまで「世田谷区社会的養育推進計画(令和3年4月策定)」で掲げた理念・目指すべき姿である、家庭への養育支援から代替養育までを通した、社会的養育の体制整備に一貫して取り組み、平成28年改正児童福祉法の理念に則り、子どもの権利が保障され、最善の利益が優先された「みんなで子どもを守るまち・せたがや」の実現を目指し、取組みを推進してきました。 社会的養護は、「子どもの最善の利益のために」と「社会全体で子どもを育む」を理念として行われています。 社会的養護のもとで育つ子どもや、その子どもを支える里親家庭や児童養護施設等が地域から孤立せず、地域のつながりの中で安心して養育ができるよう、地域や社会全体が、社会的養育を理解し、子どもを共に支え合う、そんな地域づくりが必要です。 子どもは大人から「守られる存在」だけでなく、権利の主体であり、今を生きている存在です。 子どもが、子どもの権利について理解するとともに、自らのことについて意見を形成し、「自由に意見を発言していいんだ」と思える安心して発言できる環境の中で、自由にその意見を表明でき、意見が尊重され、周囲が変わっていく体験を積み重ねること。 困難や辛い思いを経験した子どもも、こういった自分らしさが肯定される応答的な関わりの中で、安心感や自己効力感を回復し、「自分が大切な存在である」ということを実感することで、自分らしく心身ともに健やかに成長することができます。 傷ついても立ち直ることができる、そんな地域の支えの中で、今を生きる子どもが、基本的な生活基盤の安定と安心できる応答的な関わりの中で、心身ともに安全・安心して暮らし、たくさんの経験や成長し合えるポジティブな体験を重ね、「自分らしく幸せ(ウェルビーイング)」と感じることができる地域社会を実現するという決意を示すものです。 2 基本的な考え方  この計画の理念・目指す姿をもとに、施策展開にあたっては、以下の3つの視点をもち、取組みを推進していきます。 (1)子どもが家庭で健やかに育つことができるよう、家庭の養育支援や環境改善に取り組むとともに、子どもと子育て家庭を支える地域社会をつくります 「家庭養育優先原則」に基づき、まずは子どもが家庭において健やかに養育されるよう、保護者支援を行うこととされています。 令和4年度に区で実施した「子ども・子育て支援事業ニーズ調査」において、日常的に子どもをみてもらえる親族や友人・知人がいない家庭が半数あることや、妊娠中や出産後、周囲の手伝いや声掛けが得にくい状況にあること、子育てが辛いと感じる保護者ほど、子育ての心配ごとや悩みごとの相談先の数が少ない傾向にあるといった結果が出ており、子ども・子育て支援施策の充実が求められています。 子育てに不安や困難を抱える世帯が、社会的に孤立せず、必要な情報を得て、適切な支援につながることができるよう、当事者視点に立った情報提供を行い、支援の必要性を早期に発見し、適切な支援につなぎ、虐待の未然防止や親子間における適切な関係性の構築を図ることが重要です。 また、不適切な養育や親子関係の不調等で、分離して生活している親子のみならず、在宅で生活する親子も含め、家族関係の再構築に向け、関係修復、再発防止に向けた家庭の養育支援や環境改善を行うとともに、子どもと保護者が、安心して地域で生活できるよう、多様なメニューにより重層的・継続的な支援が行われることが必要です。               子育てを保護者だけのものにせず、地域社会全体でともに支え合うまちを文化として築いていくことを目指します。 (2)代替養育を必要とする子どもが、家庭と同様の養育環境において養育され、施設で養育される場合においても、できる限り良好な家庭的環境で養育されるよう、支援の充実を図ります 家庭での養育が困難と判断された場合、代替養育を必要とする子どもに対し、「家庭養育優先原則」に基づき、家庭と同様の養育環境において養育されるよう、里親等への委託を推進し、ケアニーズが高く、施設での養育が必要な場合についても、できる限り小規模かつ地域分散化された家庭的な養育環境を確保する必要があります。   代替養育が開始された後も、子どもの意向を踏まえながら、早期の家庭復帰や家族の再統合・親子関係の再構築に向けた親子支援を行い、子どもが家庭で健やかに育つことができるよう、再発防止と養育環境の改善に向けた支援を行うことが重要です。                 特別区児童相談所設置に伴い、東京都と児童相談所設置区は児童養護施設等を広域利用していることから、各自治体との円滑な調整・連携を図り、子どもの最善の利益が優先された体制整備を共に進めていきます。 (3)子どものセルフアドボカシー※が実現できるよう、子どもが安心して意見表明できる環境づくりをはじめとした権利擁護の取組みを一層推進し、子どもの権利が保障された地域社会を目指します 子どもの権利擁護の取組みの推進にあたっては、子どもも大人も「子どもの権利」について理解するとともに、子どもが意見を形成し、安心して自由にその意見を表明できる環境をつくることが大切です。 そして、大人が権利の主体である子どもの意見をしっかりと聴き、子どもの意見・意向を尊重し、応答的な関わりを持ち続けることで、子どもが安心して自分の意見や思いを表明できるようになります。 児童相談所をはじめとする関係機関が、子どもの最善の利益を第一に、子ども一人ひとりに対し、適切にソーシャルワークを行い、子どもの権利が守られる権利擁護の取組みを進めます。 3 計画の進行管理       毎年度、評価のための指標等により、事業の進捗状況について自己点検を実施し、結果については、世田谷区児童福祉審議会に報告し、評価・検証を行うとともに、区ホームページ等で公表します。  自己点検・評価によって明らかになった課題等については、必要に応じて見直し等を行い、適切にPDCAサイクルの運用を図ります。  ※ただし、数値目標を単に達成すれば良いものではなく、子ども一人ひとりに対して行われたソーシャルワークが子どもに還元されていることが重要であり、その点に留意する必要があります。 第4章 世田谷区における具体的な取組み  体系 1 子どもの権利擁護の取組みの推進 2 予防型の児童相談行政の推進 3 児童虐待の未然防止・再発防止と養育環境の改善 4 一時保護の児童への支援体制のさらなる強化 5 パーマネンシー保障に向けた取組みの推進 6 里親等委託の推進 7 児童養護施設等の機能強化 8 社会的養護自立支援の推進 9 人材育成・人材確保