せたがやインクルーシブ教育ガイドライン 〜子どもの主体的な成長を促す教育をしていますか? 共に学び、共に育つ教育をめざして〜 せたがやインクルーシブ教育ガイドライン 〜子どもの主体的な成長を促す教育をしていますか? 共に学び、共に育つ教育をめざして〜 令和7年3月 世田谷区教育委員会 はじめに 世田谷区は、2023年(令和5年)11月に、区長と教育委員会で構成される総合教育会議に おいて議論を重ね、区の教育の方向性を定めた、教育大綱(案)を踏まえ、「世田谷区教育 大綱」を策定しました。 「世田谷区教育大綱」では、 学ぶとは、自分自身を見つめ直すこと。 これからやってくる未来に向けて、 あたたかく充実した日々を送るために、 身体まるごとで問いかけ、思考を深めて、成長をはかる。 〜略〜 学びの権利は、誰もが持つもの。 この保障と実現こそ、「世田谷の教育」が目指す礎である。 さらに、学びの権利を分け隔てなく実現する「誰一人取り残さない社会」を 構築していくために、 私たちは「世田谷の教育」の意義を共有し、高めていく。 人はひとりひとり違う。 性別も、年齢も、育ち暮らす環境も、資質もそれぞれだ。 学びの場での気づきや、学びを深める速度やリズムも、それぞれ異なる。 それならば、学びのあり方も多様となる。 〜略〜 まさに、人間として誰もが持つ生命の鼓動を、やさしく受けとめ、 可能性と未来への道を引き出すのが「世田谷の教育」であり、 子どもも大人も、「世田谷の教育」を創り出す当事者なのである。 〜略〜 とし、区全体の教育行政の方向性を示しました。 これを受け、世田谷区教育委員会では、令和6年度を初年度とする「世田谷区教育振興基 本計画」を策定しました。この「世田谷区教育振興基本計画」と区としての障害者への考え 方や施策を明らかにした令和6年度を初年度とする「せたがやインクルージョンプラン」に おいて、教育委員会と区は、インクルーシブ教育の推進を重点取組みとして位置付け、その 方向性、取組み内容を明らかにしました。 この度、インクルーシブ教育の推進において、実践する教職員に向けて教育委員会の考え 方や視点、取組みを示し、目の前の子どもたちに現在起きている状況に対し、どのように捉 えればよいのかを考え、子どもたちに寄り添い、主体的な成長を促す学級の運営、指導の工 夫や配慮等、学校として、教員として行動につなげることのできるガイドラインを作成する ものです。 このガイドラインが現場の教職員の役に立ち、学校の積極的な取組みにつながって、子ど もたちの学校生活が充実し、子どもたちの成長を誰もが実感できるよう、作成に取り組んで きました。 今後とも、教育の質をさらに向上させるため、このガイドラインのバージョンアップを 図っていきます。 教育長あいさつ 各学校、先生方が、世田谷区の教育の充実や子どもたちの幸せのために尽 力くださっていることに敬意を表します。 世田谷区では、「子どもも大人も共に学び、共に育つ教育の推進」を教育の 土台に据えて、取り組んでいます。「世田谷区教育大綱」にもある通り、「人 はひとりひとり違う。性別も、年齢も、育ち暮らす環境も、資質もそれぞれ」 です。世田谷区では現在、障害や様々な背景がある多くの子どもが同じクラ スに在籍しています。このような中、これからの学校は、私たち大人が「〜 である」といったことを決めるのではなく、子どもたち自身が学び方や過ご し方を決めていくことが必要です。 多様な個性や背景をもつ子どもそれぞれの学び方を、あらかじめ決めるの ではなく、子どもが決めたことを子どもと一緒に実現するために、見守り、 伴走することが求められています。 これは一見すると当然のことのように思えますが、子どもへの私たち大人 が良かれと思う言葉を飲み込み、子どもを信じて待ち、子どもと対話し、寄 り添うことは、実は非常に難しいのではないかと思います。しかしながら、 この考え方は、今後の「世田谷の教育」の根幹を成すものであり、さまざま な学びの場で実践していくべきことであります。このたび、このような考え 方のもと、世田谷区教育委員会として、これまで以上にインクルーシブ教育 を推進していくため、「せたがやインクルーシブ教育ガイドライン」を策定し ました。 これまでも先生方は、一人ひとりの子どもたちの幸せのために日々実践を 積み重ね、優れた指導技術を有しておられます。このガイドラインからこれ までの自身の教育の在り方について、新たな発見や、考えられること、気づ いたことを日々の授業や教育活動に生かしてほしいと思います。教育委員会 としても、インクルーシブ教育の推進のための考え方や視点、支援体制の全 容等を示し、実践していく先生方と一緒に、「世田谷区の教育」の基礎を築 き、インクルーシブ教育を本ガイドラインのもとで一歩ずつ推進していきま す。 このガイドラインに基づき、世田谷で学んだ子どもたちが自分たちで豊か な、そして自分らしい未来を切り開いていくことにつながるよう願っていま す。 世田谷区教育委員会 教育長 知久 孝之 せたがやインクルーシブ教育ガイドライン作成委員会 委員長あいさつ 今回、世田谷区におけるインクルーシブ教育の実現をめざすガイドライン を作成しました。インクルーシブ教育は、全ての子どもたちが背景や能力に 関わらず、共に学び成長することをめざすものです。また、これからの時代 の教育に向けて、多様性を尊重し、誰一人取り残さない教育環境の整備の基 盤となるものです。 世田谷区のインクルーシブ教育の基本方針は、すべての子どもを対象に、 共に学び、共に育つため、多様な子どもたちを「誰一人取り残さない教育」 を実施し、学びの権利を保障していくことです。このガイドラインはインク ルーシブ教育の実現に向けた考え方や視点を示すとともに、インクルーシブ 教育を推進していく学校や先生方をサポートするために作成しました。 インクルーシブ教育の実現には教育に携わる一人ひとりの意識と行動が重 要であり、日々の教育活動で子どもたちに寄り添い、柔軟かつ創造的な対応 を心がけることが求められます。また、当事者も含めた学校に関わるすべて の保護者や地域社会、そして行政が互いに協力・連携しながらインクルーシブ 教育の理念を共有し、課題を克服することで、豊かな教育環境が築かれます。 このガイドラインは、実践のポイントとして、事例を加えています。教職 員や区職員等の研修資料や人権教育の授業に活用していただくとともに、身 近で日常的な事例を絶えず加え、学び、挑戦し続けていくことが大事であり ます。 このガイドラインが先生方の教育実践の道標となり、子どもたちの未来を 共に拓く一助となることを願っています。 せたがやインクルーシブ教育ガイドライン作成委員会 委員長 半澤 嘉博 目次 第1章 ガイドラインの位置付け・構成……………………………………1 第2章 世田谷区がめざすインクルーシブ教育の姿………………………2 2―1 インクルーシブ教育をより理解するための基礎知識… ………2 2−2 なぜ今、インクルーシブ教育なのか…………………………… 10 2−3 世田谷区がめざすインクルーシブ教育の基本理念… …………12 2−4 教育委員会の取組み… ……………………………………………13 2−5 学校における行動コンセプト…………………………………… 16 第3章 インクルーシブ教育 行動コンセプトの実践ポイント…………19 第4章 ガイドラインの活用について………………………………………31 4−1 職員会議・校内研修等で 対象 教職員… …………………… 31 4−2 自己研さんで 対象 教職員…………………………………… 33 4−3 保護者会で 対象 教員・保護者… …………………………… 34 4−4 地域への発信で 対象 保護者・地域………………………… 35 せたがやインクルーシブ教育ガイドライン作成委員会 開催の概要……36 資料編……………………………………………………………………………40 資料1 教育の質を高める働き方改革の推進… ………………………… 41 資料2 学校を支える体制………………………………………………… 42 資料3 特別支援学級等…………………………………………………… 45 資料4 医療的ケア等……………………………………………………… 48 資料5 帰国・外国人児童・生徒等及び日本語指導が必要な児童・生徒49 資料6 性的マイノリティ……………………………………………………50 資料7 ヤングケアラー…………………………………………………… 51 資料8 不登校……………………………………………………………… 52 資料9 子どもの権利を守る仕組み……………………………………… 53 第1章ガイドラインの位置付け・構成第1章ガイドラインの位置付け・構成 1 位置付け 本ガイドラインは、世界の動向や国や都の法令や計画等を踏まえ、区の各種条例や 計画とともに、学校から地域共生社会を進めていくため、教育委員会として、インク ルーシブ教育の実現に向けた考え方や視点を示すものです。 2 構成 本ガイドラインは、教育委員会と学校が一体となり、共に学び、共に育つ教育を実 践するため、第2章では、インクルーシブ教育推進のための基礎知識と、なぜインク ルーシブ教育が必要なのかについて、体系的に理解を深められるよう記載するととも に、世田谷区がめざすインクルーシブ教育の基本理念、それに対しての教育委員会の 基本方針や取組み、そして学校現場における行動コンセプトを明確にしました。 第3章では、事例を掲載しました。第2章の考え方やコンセプトを、学校生活にお いてどのように生かしていけばいいのか、またこれまで行ってきたことが正しいのか という観点から学校において考え、実行につなげていくための事例です。 第4章では、本ガイドラインの活用について、研修等の実施例を掲載しています。 巻末には学校に向けた資料として、教育委員会が実施する学校への支援体制の全容 を示すとともに、関係する国、都、区の現行の諸制度について解説しています。 第2章世田谷区がめざすインクルーシブ教育の姿第2章世田谷区がめざすインクルーシブ教育の姿 2―1 インクルーシブ教育をより理解するための基礎知識 1 インクルージョン(包摂)とは インクルーシブ教育をより理解するために、まず、インクルージョン(包摂)とは どのような状態をいうのかを理解する必要があります。また、インクルージョンと比 較される異なる状態として、エクスクルージョン(排除)、セグリゲーション(分 離)、インテグレーション(統合)があります。 これらの状態を、フランス経済・社会・環境評議会資料(2014年)を参照し、わか りやすく示したのが以下の図になります。 排除 エクスクルージョン みんなが同じであることが求められ、そうでな い人は参加できない状態です。このため、一部 の人だけが権利を持ち、他の人とのつながりが 断たれてしまいます。 分離 セグリゲーション 個々人のもつ特性・特徴により、特定のグルー プが別の場所に分けられている状態です。この ような分離は、法律などによって正当化される 場合があります。 統合 インテグレーション 様々な特性・特徴をもつ個々人が同じ場所にい ても、その場所のルールに合わせることを求め られます。適応できないと、権利が十分に守ら れません。 包摂 インクルージョン 個々人のもつ特性・特徴に関係なく、すべての 人が学校生活やその後の社会生活に平等に参加 できる状態です。法律や制度はすべての人のた めに作られ、多様性が尊重されます。 Conseil…economique,…social…et…environnemental,…Mieux…accompagner…et…inclure les…personnes…en…situation…de…handicap:…un…defi,…une…necessite,Journaux…officiels,Juin…2014(フランス経済・社会・環境評議会資料)(2014,…p20)を参照した。 上図のように、インクルージョン(包摂)とは、少数者も多数者も分け隔てなく、 すべての人が同じ場で関わり合いながら過ごすことをいいます。 世界的な歴史の流れの中で、誰もが(万人に)等しく教育を受ける権利があること が示されています。エクスクルージョン(分離)されることもなければ、インテグ レーション(統合)やダンピング(投げ入れ…共に学ぶ工夫がされないまま、同じ場 に入れられること)といった見かけ上の同じ学びの場での学びではなく、一人ひとり がそれぞれにあった学びを同じ学びの場でできる教育が、インクルーシブ教育です。 インクルーシブ教育については、国連障害者権利委員会が2016年に「障害者を包容 する教育(インクルーシブ教育)に対する権利に関する一般的意見第4号」で主に以 下の通り示しています。 (1)インクルーシブ教育とは、障害の有無を問わずあらゆる可能性のある児童・生 徒が同じ教室で一緒に学ぶことである。このことには、誰もが一緒に学びなが ら、個別のニーズを満たすことができる教育制度を構築することが含まれる。 (2)すべての人のための質の高い教育に焦点を当て、教育機関、例えば、学校や大 学がすべての児童・生徒を援助して、すべての児童・生徒が最善の状況で、完 全に参加できるようにする。 (3)インクルーシブ教育とは、すべての児童・生徒が上記の教育を受けられるよう にするために、教育のあり方を大きく変えることを指す。つまり、教育制度は 個人のニーズにあわせられるべきであり、個人を教育制度にあわせることでは ない。 (4)このように、インクルーシブ教育は、排除や分離、または統合と異なるもので ある。 2 インクルーシブ教育の歴史 1994年 (平成6年) 2006年 (平成18年) 特別なニーズ教育における原則、政策、実践に関するサラマンカ声明 (「サラマンカ声明」) スペインのサラマンカでユネスコとスペイン政府との共催による特別な ニーズ教育に関する世界会議において、世界人権宣言に示されたあらゆる個 人の教育を受ける権利(万人のための教育)の目標実現に向けた国際文書 で、以下が定められています。 (1)すべての子どもは誰であれ、教育を受ける基本的権利をもち、また、 受容できる学習レベルに到達し、かつ維持する機会が与えられなければ ならず、 (2)すべての子どもは、ユニークな特性、関心、能力および学習のニーズ をもっており、教育システムはきわめて多様なこうした特性やニーズを 考慮にいれて計画・立案され、教育計画が実施されなければならず、 (3)特別な教育的ニーズをもつ子どもたちは、彼らのニーズに合致できる 児童中心の教育学の枠内で調整する、通常の学校にアクセスしなければ ならず、 (4)このインクルーシブ志向をもつ通常の学校こそ、差別的態度と戦い、 すべての人を喜んで受け入れる地域社会をつくり上げ、インクルーシブ 社会を築き上げ、万人のための教育を達成する最も効果的な手段であ り、さらにそれらは、大多数の子どもたちに効果的な教育を提供し、全 教育システムの効率を高め、ついには費用対効果の高いものとする。 「障害者の権利に関する条約」 2006年に「障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)」が国連総会で採 択され、2008年に発効しました。日本は国内の法制度等の整備を経て、2014 年に批准しました。条約では以下が定められています。 (1)障害者が障害に基づいて一般的な教育制度から排除されないこと及び 障害のある児童が障害に基づいて無償のかつ義務的な初等教育から又は 中等教育から排除されないこと。 (2)障害者が、他の者との平等を基礎として、自己の生活する地域社会に おいて、障害者を包容(インクルージョン)し、質の高く、かつ無償初 等教育を享受することができること及び中等教育を享受することができ ること。 (3)個人に必要とされる合理的配慮が提供されること。 (4)障害者が、その効果的な教育を容易にするために必要な支援を教育制 度一般のもとで受けること。 (5)学問的及び社会的な発達を最大にする環境において、完全な包容とい う目標に合致する効果的で個別化された支援措置がとられることを確保 すること。 2015年 (平成27年) 2022年 (令和4年) 「持続可能な開発目標(SDGs)」が国連総会で採択 目標4「すべての人々への、包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯 学習の機会を促進する」が掲げられました。7つの達成目標と、3つの実現 の方法が示されています。 [関連する達成目標] 2030年までに、教育におけるジェンダー格差を無くし、障害者、先住民及 び脆弱な立場にある子どもなど、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練 に平等にアクセスできるようにする。 [関連する実現の方法] 子ども、障害者及びジェンダーに配慮した教育施設を構築・改良し、すべ ての人々に安全で非暴力的、包摂的、効果的な学習環境を提供できるように する。 国連・障害者権利委員会 日本政府報告に対する総括所見 「障害者権利条約」には、条約に基づく義務の履行状況などを把握するた め、締結国に対して、状況を報告させて審査を行い、改善等に関する勧告を 行う仕組みが定められています。8月に日本政府からの報告が審査され、9 月に報告に関する総括所見が採択されました。以下が記載されています。 (1)国の教育政策、法律及び行政上の取り決めの中で、分離特別教育を終 わらせることを目的として、障害のある児童が障害者を包容する教育 (インクルーシブ教育)を受ける権利があることを認識すること。 (2)すべての障害のある児童に対して通常の学校を利用する機会を確保す ること。 (3)障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)を確保するために合理 的配慮を保障すること。 (4)障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)に関する研修を確保 し、障害の人権モデルに関する意識を向上させること。 (5)点字、「イージーリード」、聾児童のための手話教育等、通常の教育環 境における補助的及び代替的な意思疎通様式及び手段の利用を保障し、 障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)環境における聾文化を推 進し、盲聾児童が、かかる教育を利用する機会を確保すること。 (6)大学入学試験及び学習過程を含め、高等教育における障害のある学生 の障壁を扱った国の包括的政策を策定すること。 「世田谷区障害理解の促進と地域共生社会の実現をめざす条例」制定 17条にインクルーシブ教育の推進のために必要な施策を講じることが定め られました。 3 「障害者の権利に関する条約」の批准に向けた国内の法制度の整備について 日本政府は、条約の批准に向けて、平成23年(2011年)に「障害者基本法」を改正 しました。 平成25年(2013年)には障害者に対する差別の解消を目的とし、学校を含む公共機 関や企業が障害者に対する差別の解消を推進するための、「障害を理由とする差別の 解消の推進に関する法律」を制定し、令和6年(2024年)4月には改正法が施行さ れ、合理的配慮の提供が義務化されました。この法律では、行政機関等及び事業者に 対し、障害のある人への障害を理由とする不当な差別的取扱いを禁止し、障害のある 人から申出があった場合の合理的配慮の提供を義務とすることなどを通じて、地域共 生社会を実現することをめざしています。 (1)合理的配慮 合理的配慮とは、障害者等が他の人と平等に機会を享受できるようにするための 個別の支援や調整を指します。これは、障害者等からの意思の表明に基づき、建設 的な対話を踏まえて、権利利益の侵害とならないよう行われる社会的障壁(バリ ア)の除去のことで、負担が過重でない範囲で提供されます。例えば、視覚障害の ある児童・生徒に対してデジタル教科書を使用すること、知的障害のある児童・生 徒に対して課題の提出期限を延長することなどが合理的配慮に該当します。 また、聴覚障害のある児童・生徒がいるクラスで、授業の際に手話通訳者を派遣 する例や、ノートテイクを行うための文字変換ソフトを使用する例もあり、他の児 童・生徒と同じように授業に参加できるよう、合理的配慮を行っています。 以上のような取組みは、障害のある児童・生徒が平等に教育を受ける権利を保障 するだけでなく、すべての児童・生徒が互いに理解し合い、支え合う環境を作るこ とにもつながります。「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」におい て、合理的配慮の不提供は差別とされますが、合理的配慮は固定的なものではな く、建設的な対話に基づいて支援の在り方を変更や調整する柔軟さが大切です。 「文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対 応指針の策定(令和6年1月17日)」では、「学校法人等は、本人・保護者から、学 校教育を受けるために個別の変更・調整を必要としている旨の意思の表明があった 場合において、均衡を失した又は過度の負担を課すものであると判断した場合に は、本人・保護者に分かりやすく説明し、実現可能な代替措置を提案するなど、合 意形成のための対話の場を設けること。対話においては、現在必要とされている変 更・調整は何か、何を優先して提供する必要があるかなどについて共通理解を図る こと」と示されており、教育委員会及び公立学校は直接の対象ではありませんが、 法に適切に対応するための参考とすることが求められています。本人の思いを聞 き、寄り添った支援が求められます。 (2)ユニバーサルデザイン ユニバーサルデザインとは、すべての人が利用しやすいように環境を整備するこ とです。世田谷区では、ユニバーサルデザインについて、すべての区民一人ひとり が尊重され、共に支え合い、すべての人にとって利用しやすいように生活できる環 境を作っていくことと考えています。 学校での事例としては、車椅子利用の児童・生徒がいるため、校内の段差をなく し、エレベーターを設置した例や、視覚障害のある児童・生徒のために、音声案内 システムを導入した例があります。これにより、すべての児童・生徒が自由に移動 できるようになり、学びやすい環境が整いました。 合理的配慮とユニバーサルデザインは、相互補完的な関係にあります。ユニバー サルデザインは、インクルーシブ教育を実施するための重要な手段でありますが、 すべてのニーズに対応できるものではなく、個別の合理的配慮が必要です。 4 障害のモデル 障害のモデルには以下の3つがあります。 医学モデル障害を病気やケガその他の健康状態から引き起こされた特性と 捉えます。 社会モデル「障害者権利条約」で示された概念で、「障害を理由とした差別 の解消の推進に関する法律」や「世田谷区障害理解の促進と地 域共生社会の実現をめざす条例」の基本となっている考え方で す。障害が社会的障壁と相対することで生ずるものと捉えます。 このモデルでは、障害者が直面するバリアは、私たちの意識を 変えることや、施設や環境の整備、情報伝達の工夫などにより 解消または軽減できると考えます。 人権モデル誰もが生まれながらにして尊厳を有することを強調します。こ のモデルは、障害のある児童・生徒の基本的権利を保障し、差 別や排除をなくすための措置を求めます。 これらのモデルは優劣をつけるものではなく、互いに関連しあうものです。例え ば、障害の医学モデルでは、視覚障害者に対しては、視力を回復させる手術や治療を 行うことを考えます。障害の社会モデルでは、バリアフリーの施設整備や情報のアク セシビリティ向上を考えます。障害の人権モデルでは、障害のある児童・生徒が本人 の希望で学外での学校行事等に参加できるための体制整備や条件整備をすることや、 他の児童・生徒との協働的な活動ができる準備や配慮等が重要と考えます。それぞれ のモデルが果たす役割を理解し、明らかにされる課題を把握することが必要です。 5 性的マイノリティ 性的マイノリティは、「性的少数者」「セクシュアル・マイノリティ」とも表現さ れ、「からだの性」と「自認する性」が異なる人や、「好きになる性」が同性である人 など、多数派とは違う性のあり方をもつ人々、全てを含んだ言葉です。性的指向や ジェンダーアイデンティティ(性自認)について人に相談できなかったり、暴露(ア ウティング)されるのではないかと不安を抱えていたり、社会の偏見や生活上の困難 に直面することが多いとされています。 国の自殺総合対策大綱では、性的マイノリティの自殺念慮の割合が高いことが指摘 されています。その背景には、性的マイノリティに対する無理解や偏見があるとされ ています。このため、大綱では自殺総合対策の当面の重点施策として、年代に応じた 情報提供や支援を行う人材として教職員の理解を促進することが明記されています。 学校においては、性的指向やジェンダーアイデンティティ(性自認)を理由とした 差別や偏見をなくすための知識や理解を深めるとともに、当事者への支援が求められ ます。 6 帰国・外国人児童・生徒等及び日本語指導が必要な児童・生徒 帰国・外国人児童・生徒等及び日本語指導を必要としている児童・生徒は、全国的 に見て特に小・中学生に増加傾向が見られます。以前は、日本企業が海外に進出する 中で、現地で働く日本人家庭の子どもが帰国するケースが主でしたが、近年では、日 本国内の労働力不足から外国人労働者が増加し、その家族が日本で生活する機会が増 えています。 日本語指導が必要な児童・生徒は外国籍の子どもに限られるわけではありません。 編入から数か月が過ぎ、生活言語はある程度できているように見えても、学習言語は 一段ハードルが上がります。また、2つの言語を使用する環境にいても、両言語共に 年相応のレベルに達していない状態や、年相応の教育を受けていない状況にあり、生 活や学習に影響を及ぼす児童・生徒もいます。 小(中)学校学習指導要領(平成29年文部科学省告示 第1章総則第4章2(2) イ)では、「日本語の習得に困難のある児童(生徒)については、個々の児童(生 徒)の実態に応じた指導内容や指導方法の工夫を組織的かつ計画的に行うものとす る」としています。平成26年には、学校教育法施行規則が改正され、日本語の習得に 困難がある児童・生徒に対し、日本語の能力に応じた「特別の教育課程」による指導 が可能となりました。 さらに、こうした子どもたちについては、生活習慣の違いなどによる不適応の問題 が生じる場合もあります。 学校においては、日本語の習得に関する支援に加えて、教職員や子どもたちが互い に言語的・文化的背景に関心をもって理解しようとする姿勢を保ち、温かい人間関係 をつくることができるよう配慮する必要があります。また、帰国・外国人児童・生徒 等の母国の言語や文化について、他の児童・生徒が学習する機会を設けることなどに も配慮することが大切です。 2−2 なぜ今、インクルーシブ教育なのか 1 世界がめざすインクルーシブ教育 1994年、スペインのサラマンカで開催された「特別なニーズ教育に関する世界会 議」で採択された「サラマンカ宣言」を機に、多様な背景を持つ子どもたちが分け隔 てなく共に学ぶインクルーシブ教育の実現が世界的に求められるようになりました。 2006年には「障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)」が国連総会で採択さ れ、2014年に日本は批准しました。これにより、すべての子どもたちが、学ぶ場所を 分けられることなく、質の高い教育を受けられるよう、日本の教育制度を変えること が求められました。 一方、2022年には、国連の障害者権利委員会より日本政府に対して、インクルーシ ブ教育の推進に関する勧告がなされました。 このように、現在、差別や排除をせず共に生きる地域共生社会の実現に向けて、世 界が取り組んでいます。それは、日本でも例外ではありません。地域共生社会の実現 の土台として求められているのが、インクルーシブ教育です。 2 すべての子どもたちが共に学び、共に育つインクルーシブ教育の推進 世田谷区では、障害の社会モデルの考え方に基づき、「世田谷区障害理解の促進と 地域共生社会の実現をめざす条例」を策定し、令和5年1月1日から施行しました。 障害者が日常生活または社会生活において受ける制限は、社会的障壁と相対すること によって生じると捉え、身近な環境にあるハード・ソフトのバリアを解消していくこ ととしております。これを受けて策定した「せたがやインクルージョンプラン」と区 全体の教育行政の方向性を定めた「世田谷区教育大綱」を受けて策定した「世田谷区 教育振興基本計画」において、基本方針の一つを「多様性を受け入れ自分らしく生き る」とし、インクルーシブ教育の推進を重点取組みとして位置付けています。 近年、障害の社会モデルだけでなく障害の人権モデルの考え方も広まりつつあり、 私たち一人ひとりが、誰もが基本的人権を享受していることを認識し、インクルーシ ブ教育の意味と意義を理解し、実践していくという意識に転換していかなくてはなり ません。 区は、子どもが居住する学区域の学校に行くことを基本としており、その方針は、 すべての子どもにあてはまります。しかしながら、このことが当たり前であるという 認識が十分でない教職員がいることで保護者との相互理解が不十分となり、教職員の 発言が子どもや保護者を傷つけていることがあります。このようなことが、子どもや 保護者が通常の学級で学ぶことは難しい、何も配慮されないのでは、などと思ってし まう要因の一つとなっています。また、インクルーシブ教育における合理的配慮の提 供には、子どもの意思の尊重と、学校と保護者による対話と、全ての関係者の協力が 重要です。しかし、調整不足等が原因で、保護者の期待と学校の対応との間にギャッ プが生じることもあります。 個人の尊厳を尊重し、年齢、性別、性的指向及びジェンダーアイデンティティ、国 籍、障害などに関わらず、また、不登校や家庭の状況など多様な背景をもつすべての 子どもが、望む場で学ぶことができるようにしていくことが重要です。 このような背景のもと、すべての子どもを包摂する、共に学び、共に育つための質 の高い教育を行うため、多様な子どもたちを「誰一人取り残さない教育」を実施し、 学びの権利を保障していきます。既存の制度からより良い新たな制度への再構築を図 り、すべての子どもが地域で共に学び、共に育つことが当たり前であるとの認識に皆 が立てるインクルーシブ教育を実践し、地域共生社会の実現に向け、一歩ずつ前進さ せていく必要があります。 2−3 世田谷区がめざすインクルーシブ教育の基本理念 すべての子どもが同じ場所で仲間として共に学び、自分たちのことを自分たちで決 め、年齢、性別、性的指向及びジェンダーアイデンティティ、国籍、障害などに関わら ず、他者と自分との違いにより目に見えない壁をつくることなく、他人との比較で優劣 をつけるのではなく、誰もが自分らしく学校生活を送ることのできる教育をめざしま す。 子どもたちは、様々な障害、言語などの壁を乗り越えて、共に学び、共に考え、共に 支え合い、共に育つことが当たり前であることを理解します。自分とは違う人たちが近 くにいる環境の中で、まず自分自身を理解し、それぞれが様々な個性や背景をもってい ることを前提として、相互理解と尊重が当たり前となるような子ども同士のつながりを 築き、共に学び、共に育ち、共に成長する学校を築いていきます。 教員や学校に関係する大人も、子どもの自主性や成長を阻む壁ではなく、子ども同士 のつながりを大切にする伴走者となります。大人の「こうあるべき」という観念を見直 し、「あなたはどうしたい」と問いかけながら、悩みを抱えるすべての子どもに寄り添 い、その成長に応じた適切な支援と教育に取り組んでいきます。 そのために教育委員会と学校は、これまでの世田谷区の教育の知見を生かしつつ、す べての差別を取り除き、住み慣れた環境の中で子どもたち一人ひとりに応じた学びに よって子どもたちの可能性を伸ばすことができるよう体制づくりや環境整備を進めてい きます。 教育委員会は、この基本理念を、学校からの気づきを踏まえながら常に発展させてい き、子どもたちが自身の境遇や背景も含めて自分という人間を大切に思い、他者のこと も同じように大切にし、一人ひとりが共に生きる地域共生社会へつなぐインクルーシブ 教育を推進していきます。 2−4 教育委員会の取組み 1 教育委員会の基本方針 教育委員会は基本理念をもとに、インクルーシブ教育を一歩ずつ進め、様々な子ど もが差別なく地域の学校に就学・進学することを当たり前のこととし、子どもたちが 自分とは違う様々な困難さや経験などをもつ仲間と学び合い、広い視野で共に未来を 考えることにつなげていきます。 また、インクルーシブ教育を一歩ずつ進めるにあたっては、学校全体が安心してイ ンクルーシブ教育を実践できるための土台(基盤)が必要です。教育委員会はこの土 台(基盤)を強固にするため、学校をはじめ、区長部局や関係機関と連携し、本ガイ ドラインに沿った各種制度の運用と、子どもたちと保護者を支え、学校を支援する制 度の構築や運用、合理的配慮への理解促進と提供及び保護者との建設的な対話、子ど もたちの実態の把握や実態に基づいた教育活動及び支援が実施されるよう、取り組ん でまいります。 保護者・地域 協力・連携 実践 学校 重点取組み2・3・4 区長部局・関係機関 重点取組み1 相談・情報共有学校への支援 連携 (施策提案)(土台の強化) 相談・協力 推進 教育委員会 連携 重点取組み2・5 重点取組み1 保護者・学校・行政等と連携した一体的な取組みの推進 重点取組み2 学校現場への支援体制の拡充と人的支援の強化 重点取組み3 教職員・支援員等への専門研修の充実 重点取組み4 各学校に応じた環境整備の推進 重点取組み5 教育委員会事務局職員の理解促進 2 インクルーシブ教育を実現するために教育委員会が実施すること インクルーシブ教育を実現するために、教育委員会が行う重点取組みを定めます。 保護者・学校・行政等と連携した一体的な取組みの推進 一人ひとりの学びを支える一体となった環境や制度を整備する。 重点取組み1 学校現場への支援体制の拡充と人的支援の強化 学校現場への支援体制を拡充する。 子どもたちに適切な支援ができるように人的支援の強化を行う。 重点取組み2 教職員・支援員等への専門研修の充実 教職員や支援員等にインクルーシブ教育の実践に必要な研修を行う。 重点取組み3 各学校に応じた環境整備の推進 合理的配慮のもとに子どもたちに適切な支援ができるように環境整備を行う。 重点取組み4 教育委員会事務局職員の理解促進 教職員だけでなく、教育委員会事務局職員の理解促進を図る。 重点取組み5 重点取組み1 保護者・学校・行政等と連携した一体的な取組みの推進 子どもたち一人ひとりに応じた学びが実現されるには、子どもたちのことをよく 知っている保護者との協力はもちろんのこと、学校・行政(教育委員会)の関係者な どの対話を基にした環境の調整をし、それを基に地域との連携を進めていく必要があ ります。このように環境の調整を一体的に進めていくため、福祉等の関係機関と連携 して、絶えず変化する子どもの状況の把握や、合理的配慮の内容の検討のため、保護 者、学校、教育委員会とが一体となった仕組みを構築していきます。また、学校内に おいても、担任だけが担当するのではなく、学年、特別支援学級、特別支援教室(す まいるルーム)の教員も含め学校が一体となるよう、取組みを支援していきます。さ らに、学校を出発点に地域全体で地域共生社会について考えられるような学び合いの 場を設定していきます。 重点取組み2 学校現場への支援体制の拡充と人的支援の強化 通常の学級における配慮が必要な児童・生徒を支援するインクルーシブ教育支援 員、学校生活サポーターの配置を拡充させていきます。さらに学校への助言等を行う 教育委員会内の専門チームを質・量ともに充実させ、それらチームを総括する体制を 構築し、教育委員会と学校が一体となった子どもへの支援の充実を図り、個別最適な 学びと協働的な学びができる学級経営とつなげていきます。 また、障害のある子ども一人ひとりの個別最適な学びにつながるよう、教育委員会 は工夫を重ねながら、専門的な教員の確保や保護者の理解促進を図っていきます。 一方で、近年増加傾向にある外国人児童・生徒等及び日本語指導が必要な児童・生 徒に対する支援を、日本語指導や学校生活に必要な日本の習慣等、母語の習得状況に も配慮しながら、量的に拡充するとともに、区内どこからでも補習授業に参加できる 体制を整えます。 重点取組み3 教職員・支援員等への専門研修の充実 インクルーシブ教育ガイドラインの基本理念を理解し、子どもたちからも学び続け ながら成長できる教職員の育成をめざします。インクルーシブ教育を実践するための 知識や実践事例、そこから学ぶ様々な視点を日々の授業や子どもへの対応、保護者へ の対応、学校の運営に生かされるよう、専門的で実践的な研修を区内全体で、管理 職、特別支援教育コーディネーター、各学級担任等の教員に対し、実施していきま す。また、研修は教育委員会内の専門チームや区内の先進校、区長部局との連携のも と実施していきます。 さらに、進路選択に関する情報や各種福祉サービス等の情報を区長部局の関係部署 や専門機関とも連携し、より幅広い情報を収集できるようにするとともに、子どもの 希望にあわせた情報提供をするなど、進路指導を充実させていきます。 重点取組み4 各学校に応じた環境整備の推進 子どもたちに、住み慣れた環境の中で合理的配慮に基づく一人ひとりに応じた適切 な支援が提供できるよう、今後の学校改築に合わせ、本ガイドラインの主旨に沿って ユニバーサルデザイン推進条例に基づいた整備を行い、学びやすい環境整備を進めま す。また、現在ある学校については、改修の機会を捉え、各学校の状況に合わせ、で きる範囲を明確にしながら、適切な学校整備を行います。 その際、各教室や更衣場所、トイレの仕様、教室以外で児童・生徒が落ち着くこと のできる場所の配置等について、配慮していきます。また、一人ひとりの感覚特性に 応じた環境整備や配慮についても学校と共に取り組んでいきます。 重点取組み5 教育委員会事務局職員の理解促進 教育委員会事務局のすべての職員は、インクルーシブ教育に対する理解を深め、本 ガイドラインの基本理念を理解し、その達成に必要な基礎知識を身につけるととも に、国内外で常にアップデートされていくインクルーシブ教育に対する知見を養って いきます。また、それらの知見を基に現在の制度を本ガイドラインに沿って活用する とともに、必要な改善を行い、本ガイドラインの趣旨に沿った取組みが推進されるよ う、一歩ずつ前に進めていける人材を育成していきます。 2−5 学校における行動コンセプト 世田谷区がめざすインクルーシブ教育の基本理念を受け、以下の5つの行動コンセ プトに基づいた学校経営、学級経営を全校で実施していくとともに、教育委員会も2 −4の重点的取組みを実施することで各学校現場を支援し、土台を強化していきます。 各学校においては、行動コンセプトの内容を理解するとともに教員一人ひとりの意 識を高め、実践につなげていくことが大切です。 コンセプト1 子どもたちが決める 子どもたちが決める 学びの主人公である子どもの考えを大切にする。 子どもの自己決定を引き出す取組み コンセプト1 一人ひとりに応じたきめ細やかな指導や対応の充実 最適な学校生活支援シート(個別の教育支援計画)及び個別指導計画(個別の 指導計画)の策定に向けた校内体制の整備を行う。 コンセプト2 見守り、伴走する 「〜ねばならない」からの脱却 子どもがもつ力を信じて、待ち、支援する。 コンセプト3 子ども同士のつながりを大切にする 「同じ場にいるだけの友達」ではないかかわり 子どもたちが主体的にインクルーシブな学校をつくる。 コンセプト4 教員の専門性の向上 校内外での研修会の実施や事例の共有 学び続け、挑戦し続ける教員の姿 コンセプト5 #キーワード 自己決定や考えの尊重、意思表出や意思疎通の支援 こども基本法に定められた、すべての子どもが自分に直接関係することに意見を言 うことや、社会の様々な活動に参加する権利は、インクルーシブ教育において最も大 切にされる考え方です。学校、教員は子どもの年齢や発達の状況等に応じて、「こう あるべき」と大人が決めるのではなく、子どもの、そして子どもたちの自己決定を促 すことが必要です。一方で、子どもたちの中には、意思表示が難しい子もいます。ま ず彼らが自分の意思を伝える方法を見つけるための支援が必要です。これは言葉だけ でなく、身振りや絵、写真、絵文字、音楽など、様々な表現方法を試すこと、子ども たちが自分の意思を伝えるための環境を整えることも大切です。それは、子どもたち の意見が尊重され、安心して意見を言える環境をつくることにつながります。そして 何より、子どもたちが自分で決めることの大切さを理解し、自分が選んだことによる 結果を経験することで、自己決定の重要性を学ぶことができます。以上を踏まえなが ら、子どもたちのペースに合わせてサポートすることが大切です。 コンセプト2 一人ひとりに応じたきめ細やかな指導や対応の充実 #キーワード 的確な実態把握、学校生活支援シート及び個別指導計画の活用、校内体 制の充実、外部機関等の活用、合理的配慮の提供 子どもたちの実態は一人ひとり異なります。障害をはじめ、子どもの特性を教職員 がチームとして把握し、それに応じた最適な学校生活支援シート(個別の教育支援計 画)や個別指導計画(個別の指導計画)が策定できるように校内体制を整備していき ます。また、その際には、本人からの意見を聴くとともに、保護者から子どもの得意 なこと、好きなことなどを聴き、保護者を巻き込み、一緒になって子どもが自己肯定 感を育みながら成長することをめざした計画となるよう留意することが大切です。個 別指導計画の作成にあたっては、教育委員会が派遣する専門チームや作成支援ソフト などを活用することもできます。 コンセプト3 見守り、伴走する #キーワード 待つ、見守る、伴走する、個に応じた学びのプロセス 子どもは自分が大切にされていると感じたとき、自分らしさを発揮し、自己決定力 を高めていきます。学校では子どもにも、大人にも「〜しなければならない」「〜し てはいけない」と考えられがちです。喜びや失敗を積み重ねて成長していく子どもた ちの力を信じて見守り、伴走していくことが必要です。学習においては、教師が用意 した正解のみにたどり着くのではなく、子どもたちが生活や体験から関心や疑問を もったことについて、それぞれ得意なこと、好きなことを生かして協力しながら探究 する学びが行われるよう、活動を工夫することが大切です。 コンセプト4 子ども同士のつながりを大切にする #キーワード 子ども同士での多様性理解、子どものつながりの尊重、外部機関等の活用 学校や地域において、子ども同士が同じ学校、学び舎等の仲間として共に学ぶこと で、多様性への理解を深め、偏見のない人間関係を育みます。そして、教員や支援員 等の態度や行動は、子どもたちがどのように仲間と接するかに直接影響を与えます。 子どもたちのそばにいる大人が子ども同士のつながりを大切にすることで、子どもた ちが「どうすれば誰もが一緒に学校生活を送ることができるのか」を主体的に考え、 本ガイドラインの趣旨に沿って、現在の制度を最大限活用し、試行錯誤を重ねながら 行動することを促します。 コンセプト5 教員の専門性の向上 #キーワード 専門性の向上、教職員の人権感覚、研修、事例の共有、外部機関等の活用 全ての学級に支援の必要な子どもがいることが当たり前であるとの認識から、全教 員が障害特性、LGBTQなどの性的指向及びジェンダーアイデンティティ、海外で の生活や文化等の状況を把握し、専門家の知見を得ながら子どもの成長に結びつける ことのできる技術を習得することが必要不可欠です。これには子どもをありのままに 受け止め、一人の人間として尊重し、子どもたちからも学びながら共に成長すること ができるようになることが必要です。子どもたちの持つ背景や特性に応じた個別支援 を行い、協働的な学びにつなげられる、教員としての専門性を絶えず向上させること が必要です。 こうした専門性は一朝一夕に身に付くものではありませんが、教員それぞれが役割 やキャリアに応じて少しずつ力を高め、問題解決もできるよう、様々な研修を組み合 わせて実施していきます。 第3章インクルーシブ教育 行動コンセプトの実践ポイント第3章インクルーシブ教育 行動コンセプトの実践ポイント 世田谷区内においても、これまで多くの先生方が「共に学び、共に育つ」実践を行っ てきました。ここでは、2−5の行動コンセプトに沿った行動をとる際に、どのような 点がポイントになってくるのかについて、区内における様々なこれまでの実践を基に、 改めて考えるべきことをまとめています。先生方がこれまでの対応を改めて振り返り、 新たな取組みにチャレンジする際の参考となる事例となります。 これらの事例には、様々な視点からの議論があり、一定の望ましい方向性はあるもの の、児童・生徒に寄り添った行動は、その子のもつ特性や学級の置かれた状況等で違い ます。各学校でご議論いただき、子どもや保護者への気付きの視点を増やしていきま しょう。 事例やポイントについて今後、様々な視点から追加し、内容を充実させていきます。 事例1 対応の引継ぎと丁寧な調整に基づいた支援 ♯キーワード 意思表出や意思疎通の支援、待つ、学校生活支援シートや個別指導計画の活用、合理的配慮の提供 事例2 子どもの就学先について ♯キーワード 自己決定や考えの尊重、校内体制の充実、専門性の向上 事例3 子どもの学びたい思いに応える ♯キーワード 自己決定や考えの尊重、合理的配慮の提供、個に応じた学びのプロセス 事例4 地域の子どもたちが共に学ぶ ♯キーワード 学校生活支援シートや個別指導計画の活用、子ども同士での多様性理解、子どものつなが りの尊重 事例5 子どもから見えている世界を理解する ♯キーワード 的確な実態把握、校内体制の充実、伴走する、専門性の向上 事例6 保護者との連携について ♯キーワード 外部機関との連携、合理的配慮の提供、事例の共有 事例7 子どもが自ら心の安定を図る ♯キーワード 校内体制の充実、合理的配慮の提供、子ども同士の多様性での理解 事例8 子どもたちのつながり ♯キーワード 自己決定や考えの尊重、見守る、子ども同士での多様性理解、子どものつながりの尊重 事例9 教育活動における保護者の協力 ♯キーワード 自己決定や考えの尊重、学校生活支援シート及び個別指導計画の活用、教職員の人権感覚 事例10 ヤングケアラー ♯キーワード 伴走する、的確な実態把握、外部機関との連携 事例11 思い込みや偏見 ♯キーワード 子ども同士での多様性理解、専門性の向上、教職員の人権感覚 事例 1 対応の引継ぎと丁寧な調整に基づいた支援 うまく言葉を出すことが苦手な子どもへの配慮 事例 1 対応の引継ぎと丁寧な調整に基づいた支援 うまく言葉を出すことが苦手な子どもへの配慮 中学校1年生のAさんは、小学校の時から学校でクラスメイトや先生と会話する場面が見られ ず、家族以外と言葉での意思疎通がなかなかうまくできませんでした。特に、初めての場面や初 対面の人と関わるとき、また授業中に発言の順番が回ってくると、緊張感が増し、動きが止まっ てしまうこともありました。 中学校に進学する際、学校生活支援シート(個別の教育支援計画)をもとに、Aさんの支援に ついて引継ぎが行われました。中学校としては、Aさんが安心して中学校で生活できるように、 改めて管理職、学年主任、担任、Aさんの保護者で入学前に面談を行うことで、Aさんの思いを 把握することにしました。保護者からは、 ・入学式は不安になり、途中で固まって動けなくなってしまうかもしれないので、呼名で立 てなくても、返事ができなくてもそのまま進行してほしい。 ・小学校の時は、時間をかけて支援員と信頼関係ができ、メモのやりとりで意思疎通ができ るようになった。声をかけられることは嫌ではないので、粘り強い声掛けを担任や支援員 の方にお願いしたい。 との申し出がありました。学校はその思いを受け止めることを伝え、 ・キーボード入力が得意と聞いているのでタブレットを活用してコミュニケーションを取り たい。 ・本人に学校生活で困り感がある時には、随時、学校と保護者で相互に連絡を取り合い、よ りよい方向に進めるよう連携したい。 と伝え、保護者も承諾されました。 入学式後、当初は不安も重なり、動きが止まってしまう時もありましたが、担任や支援員が 粘り強く肯定的に声をかけ続けたことでタブレットを活用したコミュニケーションができるよ うになりました。授業中に自分の考えを発表する際は、タブレットで自分の意見を入力し、支 援員の先生が代読してくれます。周囲に自分の考えを伝えることができた経験が生徒の自信に つながり、保護者に「学校は楽しい」と伝えるようになりました。 ♯キーワード意思表出や意思疎通の支援、待つ、学校生活支援シートや個別指 導計画の活用、合理的配慮の提供 この事例のポイント @ 学校生活支援シート(個別の教育支援計画)を基に、小中間の引継ぎを丁寧に実施し ていますか。 A 入学前の面談で、保護者の「子どもを大切にしてほしい、またクラスメイトと共に育っ てほしい」という思いに向き合い、合理的配慮の提供を検討していますか。 B 子どもへの声掛けが、「みんなも頑張っているから、あなたも頑張りなさい。」だけに なっていませんか。 事例 2 子どもの就学先について 居住する地域の学校に通いたいという子ども・保護者への対応 事例 2 子どもの就学先について 居住する地域の学校に通いたいという子ども・保護者への対応 Aさんの保護者は、Aさんの幼稚園での生活に困難さを感じ、区の就学相談を受けることにな りました。行動観察や心理検査、教育委員会との面談等を経て、「通常の学級で過ごす中で、す まいるルームを活用することが望ましい」という結果を教育委員会より受け取り、Aさんは地元 の小学校に通うことになりました。 小学校1年生の4月は楽しく過ごしていたものの、5月のゴールデンウィーク明けから、学習 面や学校生活での困難さが顕著に出てくるようになりました。この頃担任の記録には、 ・15分、座っていることが難しい。わからない問題になると怒り出す。 ・ノートに書く文字が重なって何を書いているかわからない。 ・自分が好きなものをお友達がもっていると、自分で奪ってしまう。 などのことが書かれていました。 すまいるルームでは、4月後半から指導をスタート。こちらでは周りからの刺激も少なく、 落ち着いて個別での自立活動や小集団での学習に取り組む様子が見られました。 教室での対応に困った担任は、5月下旬の校内委員会で、保護者に7月の面談で今の状況を 伝え、今の学級で生活するよりも、この子にあった学級、いわゆる特別支援学級への転級が望 ましいことを伝えたいと述べました。管理職からは、「もう少し様子を見よう」と言われまし たが、担任は納得せず、6月〜7月までの間、保護者に伝えるための記録をとり続けました。 そして7月の個人面談で担任は、保護者にこれまでのAさんへの対応の困難さについて、記 録をもとに伝えるとともに、 「今のクラスでは、Aさんにとって安心した空間にはなっていない」 「このクラスよりも、少人数のクラスで学習や生活をしたほうがよいのではないか」 「勉強がついていけなくて困っているAさんを見るのは私もつらい」 「本人のためを思うと特別支援学級に転級したほうがよいと私は思う」と面談で伝えました。 保護者は、このように言われると思っておらず、ショックを受けて帰りました。帰宅後、子 どもに「もうこの学校にはいられないかもしれないよ」と伝え、Aさんは「なんでいられない の、僕はこの学校がいい」と、泣きながらお母さんにしがみつきました。 この後、保護者より、担任の対応について、教育委員会に連絡が入りました。 ♯キーワード自己決定や考えの尊重、校内体制の充実、専門性の向上 この事例のポイント @ 子どもに困難さがあると認識した時、このクラスには合わないと思っていませんか。 手立てや支援策を視点にした記録をとり、それを基に子どもや保護者と共に考えてい ますか。 A 校内委員会が「大変だ会議」になっていませんか。担任一人が課題を抱えこまずに、 学校全体での具体的な支援を考える会議にしていますか。 B 子どもの就学先は、障害の状態や必要となる支援の内容等の専門的見地といった総合 的な観点を踏まえて、本人・保護者の意見を尊重し決定します。 C 教員一人ひとりが、個別指導計画や学校生活支援シート(個別の教育支援計画)を作 成するスキルをもっていますか。 事例 3 子どもの学びたい思いに応える 知的障害のある子どもへの学習面での対応 事例 3 子どもの学びたい思いに応える 知的障害のある子どもへの学習面での対応 知的障害のある中学校1年生のAさんは、得意な教科の授業中に指名されると元気に発表した り、昼休みは友だちと鬼ごっこしたりするなど、学校生活に意欲的に取り組んでいます。ただ、 全体への指示や説明が理解できないことも多く、また指示がわからなくても、「はい」「わかりま した」という返事をしてしまうことが多くあります。学習をする中でも、漢字を読むことや書く ことが苦手だったり、四則計算において繰り上がり繰り下がりの計算ができなかったりして、授 業中に涙ぐみながらワークシートに取り組む場面も見られました。 少しでも本人の自己肯定感を保ってあげたいと思った担任は、保護者と面談をすることにしま した。面談で伝えることを学年の他の教員や管理職と相談し、まずは本人の頑張っているところ と苦手としている部分について、保護者と共有することにしました。 面談で、はじめに自宅での様子を聞いてみると、 ・弟妹(小2、年長児)の面倒をよく見てくれて、とても助かっていること。 ・小2の弟と一緒に宿題等をしていると、弟がAさんの宿題の間違いをみつけて「こんなの もできないの」と言い、怒って喧嘩になってしまうことがあること。 ・また、3人の子に一斉に声をかけたときに、Aさんにだけ伝わっていないことがよくある こと。 等が話されました。担任は、学校でもAさんはとても頑張り屋さんで教員の手伝いをしてくれ ること、クラスに一斉に話をした内容は伝わっていないことがあることなどを伝えながら、学 習面や生活面での本人の困り感をサポートしたいが、例えば算数の時間に別の課題に取り組ま せるのはどうか、と聞いてみました。 保護者からは、Aさんは家で、みんなと違うことをするのは嫌だと言っていたこともあった が、本人の学習のためにどちらが良いか話し合ってみる、との話がありました。担任からは、 本人の思いも尊重しながら、サポートの仕方を本人、保護者、学校で継続的に話し合っていく ことを伝え、面談を終えました。その後、夏休みにかけて保護者と子どもと何度かやり取りを し、 ・事前に、読めない漢字があれば支援員さんにフリガナをふってもらうことができること。 ・クラス全体に指示をした後、机間指導してAさんに個別に話をするとともに、困っている ことを具体的に聞くようにすること。 ・数学は区費講師による取り出し授業を活用すること。 を保護者、Aさんに提案し、まずは2学期から始めてみることとしました。 ♯キーワード自己決定や考えの尊重、合理的配慮の提供、個に応じた学びのプ ロセス この事例のポイント @ 「子ども」が主語の対応をしていますか。自分の都合になっていませんか。 A 面談をする前に、管理職や関係する職員で、手立てを具体的に考えていますか。 B 面談の際、まずは、子どもや保護者の声に耳を傾けようとしていますか。 C スモールステップで、支援を始めていますか。 事例 4 地域の子どもたちが共に学ぶ 特別支援学校との副籍交流での対応について 事例 4 地域の子どもたちが共に学ぶ 特別支援学校との副籍交流での対応について A中学校は、新設1年目です。新設と同時に副籍交流の地域指定校になりました。そこでA 中学校の学区に住み、都立特別支援学校に通う2年生のBさんと直接的な交流をすることにな り、校内で検討が始まりました。 まずは、Bさんが特別支援学校ではどのような様子なのか、それぞれの学校担当者が、Bさ んの個別指導計画も踏まえてオンラインにて打ち合わせを行いました。その中で、Bさんが、 ・初めての場所では、楽しみにしている反面、とても緊張して、怖がってしまうこと。 ・校外学習に行く際に特別支援学校では、行先や経路の動画を見せることで少しでも安心で きるように対応していること。また保護者の方と、校外学習の場所を下見に行くこともあ ること。 等が伝えられました。 そこで、少しでもBさんが安心して副籍交流に参加できるように、担任からBさんと保護者 に事前にA中学校で事前校内見学会を提案することにし、保護者も承諾されました。 事前校内見学会当日、最初は緊張していたBさんでしたが、教室を見て回り、教員たちとあ いさつを交わす中で少しずつ緊張がほぐれる様子が見られました。そのあとの事前打ち合わせ では、 ・Bさんが自己紹介するときの方法や立つ位置について。 ・交流では、学級活動の時間にクラスみんなでできるゲームをすること。 ・Bさんの好きなこと、得意なこと、不得意なことを交流学年の生徒に事前に伝えること。 ・Bさんが土を触ることが好きなこともあり、今後は部活動(園芸部)も体験したいこと。 の4点を、確認しました。 そのあと、A中学校では、当該学年の学年集会や部活動のミーティングで、副籍交流につい ての説明、Bさんが定期的にA中学校に登校すること、Bさんの得意、不得意なことを確認す るなどするとともに、教員及び生徒が意見交換をし、共通認識をもつようにしました。交流に 当たって、特別支援学校や保護者とA中学校との連絡、A中学校の教員と生徒の意見交換は、 継続的に行いました。 1回目の交流当日のBさんは、自己紹介の緊張もあり、怖がってしまう様子もありました。 2回目の交流では多くの生徒が名前を呼びながら出迎えたこともあり、1回目より顔を上げて 周りの様子を見ていました。また学級活動の際も、2回目にはBさんに少し笑顔が見られまし た。また部活動においては、プランターへの花植えや水やりに熱心に取り組み、部員から「B さん、また来なよ」と言われ、とても喜んでいました。 この後もBさんと地域連携校との副籍交流は続き、学期に1回の直接交流や、学芸発表会で 作品を相互に展示する等の間接的な交流も実施していきました。 ♯キーワード学校生活支援シートや個別指導計画の活用、子ども同士での多様 性理解、子どものつながりの尊重 この事例のポイント @ 副籍制度を正しく理解していますか。 A 特別支援学校との緊密な連携を図ったうえで、対象となる児童・生徒の実態に即した 副籍交流を継続して実施していますか。 B 子ども同士のつながりを大切にした交流や合理的配慮の提供など、本ガイドラインの 趣旨に沿った副籍交流を、実施していますか。 事例は「副籍 交流事例&アイデア集(東京都教育委員会…平成27年3月)」を参照した。 事例 5 子どもから見えている世界を理解する 本人の特性・課題についての対応 事例 5 子どもから見えている世界を理解する 本人の特性・課題についての対応 小学校2年生のAさんは、とても活発なお子さんです。友だちとも関係は良好で、クラスの ムードメーカーのような存在でもあります。ただ、ついつい楽しくなりすぎてしまうと、特別 教室への移動が遅れたり、5時間目が始まっても教室にいなかったりすることが度々ありまし た。 担任はAさんが時間を守れなかった時に教室ですぐ注意したり、放課後個別に呼んで話をし たり、保護者にもその都度連絡をしながら、Aさんの課題について改善を図ってきたつもりで したが、改善される様子は見られませんでした。 またAさんは担任が指導すると、 「ぼくだって、気を付けているつもりだけど忘れてしまうんだよ」 と怒ったような言い方をします。担任は、Aさんが問題をわかっていないように感じていまし た。 ある日、Aさんが時間を見て行動できない様子に業を煮やした担任は、本人を呼び出し、 ・Aさんに、教員が購入した時計をつけさせること。 ・毎朝8時10分に本人を登校させ、今日の予定を確認する時間をつくり、見通しを持たせる こと。 の2つを明日からするからね、と伝えました。Aさんは黙って下を向いていました。 翌朝、時計をつけているAさんを見たクラスメイトが、 「なんで時計をつけてるの、あ、いつも時間を守りなさい、と先生に怒られているからだ!」 とAさんに言いました。Aさんは泣きながら、 「ぼくだって、こんなことしたくないよ」 と教室を飛び出して、トイレの個室に閉じこもってしまいました。 養護教諭の呼びかけにAさんはトイレから出てきましたが、保健室で「なぜいつもみんなの 前で僕だけ怒られるかわからない」「お母さんにもお父さんにも家で怒られる」と泣いてお り、その日は教室に戻ることができませんでした。 夕方、保護者より担任あてに抗議の電話が入り、Aさんが学校に行きたくないと言っている と伝えられました。 ♯キーワード的確な実態把握、校内体制の充実、伴走する、専門性の向上 この事例のポイント @ 障害等の特性から生じる子どもの言動について学び、理解していますか。 A 子どもが感じていることを子どもの目線で共感的に理解しようとしていますか。 B 教員の価値観や優先順位を対話することなく子どもや保護者に押し付けていませんか。 C 保護者への連絡が、マイナスなことばかりになっていませんか。 D 子どもの課題について、組織で対応していますか。 事例 6 保護者との連携について 海外から帰国し、編入した生徒の家庭との連絡方法 事例 6 保護者との連携について 海外から帰国し、編入した生徒の家庭との連絡方法 A先生が担任する中学校2年生のBさんは、海外から編入後3か月が経過し、挨拶程度の日 本語を習得しています。Bさんは帰国・外国人教育相談室に通い、生活言語とひらがなの学習 を頑張っており、在籍校では翻訳アプリを使いながら、クラスメイトと積極的にコミュニケー ションをとっています。 Bさんは、宗教上の理由で食べられないものがあり、給食を別食で対応しているので、保護 者との連絡が欠かせません。10月には河口湖移動教室があり、食事のことについて保護者と確 認がしたいのですが、連絡をしても、なかなか電話に出てもらえません。電話がつながって も、言葉の壁があり、伝えたいことがうまく伝わりません。 A先生は副校長に相談し、区の通訳派遣を利用して保護者の方と学校から連絡をする方法に ついて相談することになりました。相談の日は、通訳の方にサポートしてもらいながら、保護 者と連絡が取りやすい手段を、電話、手紙、FAX、メールから選んでもらい、電話で連絡を取 り合うことになりました。 しかし、保護者の日本語が片言なこともあり、なかなか電話がつながらず、必要な連絡をし ても折り返しもない状況が続きました。その様子を見ていたC学年主任が、「丁寧な言葉遣い がBさんの保護者にはわかりにくいかもしれないですよ」と、文化庁の「在留支援のためのや さしい日本語ガイドライン」を見せてくれました。このガイドラインを参考にして、簡単な日 本語で話すように心がけると、次第に保護者とコミュニケーションが取れるようになりまし た。しばらくすると、保護者からの折り返しももらえるようになりました。 また、緊急の時以外は、事前に「○がつ○にちの○じにでんわします」と書いた手紙を生徒 にもたせ、「ママに見せてね」と声をかけるようにしています。 河口湖移動教室の前には、丁寧に打ち合わせをする必要があったので、もう一度通訳の派遣 を依頼し、移動教室に向けた保護者会の内容も含め、食事のこと、持ち物のことなど、お互い に心配していることを話し合うことができました。Bさんは3日間の移動教室を無事に終え、 「ふじさんがとてもきれいだった」と作文を書くことができました。 1年生が終わる3月、保護者の方から、「はじめは先生からの電話が怖かった。今は大丈 夫」と声をかけられました。 ♯キーワード外部機関との連携、合理的配慮の提供、事例の共有 この事例のポイント @ 言葉の壁を低くするため、難しい言葉を使わず、「やさしい日本語」で伝えていますか。 A 通訳派遣など、外部との連携を検討していますか。 B 手紙などを活用し、なるべく事前に約束するようにしていますか。 C 子どもや保護者とどのような言葉でやりとりしたか記録を取り、他の教員や次年度へ の引き継ぎを行っていますか。 事例 7 子どもが自ら心の安定を図る クールダウンスペースを用いた支援 事例 7 子どもが自ら心の安定を図る クールダウンスペースを用いた支援 小学校3年生のAさんは、自閉スペクトラム症の診断を受けており、環境の変化や周囲の音に 敏感で、ストレスを感じるとパニックを起こすことがあります。学習活動の中で、グループワー クや学級活動など、複数のクラスメイトが同時に話すような場面では集中力が切れやすく、感情 のコントロールが難しい場面が見られました。学校生活サポーターがそばについて支援をしてい る時間もありますが、学習活動の形態が多様化する中、Aさんが落ち着いて学習できない時間も 多くありました。 担任のB先生は保護者と相談し、Aさんがパニックを起こしたときは、学校生活サポーターと 一緒に会議室へ移動して学習することを考えました。Aさんに提案したところ、少し不安そうで したがうなずいていました。しかし、学校生活サポーターがいない時間もあること、パニックを 起こしてから教室と違う階の会議室へ移動するのはAさんにとっても大変なことで、さらに混乱 してしまう様子が見られたことから、校内委員会で対応について検討しました。 B先生は、今度は特別支援コーディネーターと一緒にもう一度、Aさんと保護者と面談しまし た。最近の学校生活を振り返る中で、Aさんから「この間教室で泣いてしまった時、みんなから 見られていたのが嫌だった」と話しました。保護者からは、「Aさんが幼稚園の時、教室の角に木 の箱で仕切った小部屋をつくり、その中で過ごすことが好きだった」という話がありました。そ こで、校内委員会で検討したいくつかの案の中から、教室の一角に「クールダウンスペース」を 設置することを提案しました。 このスペースは、教室の後ろ、廊下側の角を使い、2辺を段ボールで囲って作りました。Aさ んがスペースの中で椅子に座れば、中からも外からも視線が遮られますが、サポーターがそばに 立てば、中の様子が分かります。 B先生はAさんに、不安を感じた時やみんなに見られたくない時にはこのスペースで学習する ことができると説明しました。クールダウンスペースを利用する際には、Aさん自身の判断で行 くことができるようにし、授業者やサポーターが様子を見ながら、パニックを起こす前に声をか けることができるよう、校内委員会や職員会議を通じて全教員に周知しました。また、Aさんの 保護者に、クラスの子どもたちにも、Aさんがクールダウンスペースを利用する時があることを 伝えてよいか確認し、保護者も承諾しました。 クールダウンスペースを導入した結果、Aさんは不安を感じた際にスペースを利用するように なり、パニックになることが減りました。クラスメイトもAさんの行動を理解し、スペースの利 用を自然なものとして受け入れるようになりました。 クールダウンスペースの利用だけでなく、イヤーマフやサングラスの活用を検討してAさんが 受ける刺激を調整する方法を探るなど、Aさん、Aさんの保護者とB先生で、学校生活が少しで も過ごしやすくなるよう、話し合いを継続しています。 ♯キーワード校内体制の充実、合理的配慮の提供、子ども同士の多様性での理解 この事例のポイント @ パニックを起こした後の対応を考えるだけでなく、本人や保護者、授業者からの情報 から、どのような状況が不安を引き起こすか考え、対応を検討していますか。 A 担任1人で対応せず、特別支援教育コーディネーター、校内委員会と連携しています か。 B クラスメイトやその保護者に対する理解を進める手立てを講じていますか。 事例 8 子どもたちのつながり みんなで遊ぶにはどうしたらよいか主体的に考える 事例 8 子どもたちのつながり みんなで遊ぶにはどうしたらよいか主体的に考える A小学校の6年1組には、足に障害があり、走ることの難しいBさんが在籍しています。今 日の学級活動では、学期末のお楽しみ会のプログラムを考えています。担任のC先生は、基本 的に子どもに任せて見守ることにしました。担任からのスケジュールなどの説明後、司会のD さんを中心にみんなが楽しめるのはどんな遊びか、話し合いました。 まず、子どもたちが自由に遊びのアイディアを出し合いました。「鬼ごっこがいい」「サッ カーがやりたい」「それだとBさんが参加できないよ」「私もサッカーは苦手だからやりたくな い」「スポーツは無理じゃないかな」など様々な意見が出ました。 Bさんが「サッカーがやってみたい」と発言したことをきっかけに、どうすればみんなで サッカーができるか、ルールの調整が始まりました。Bさんは「キーパーならできるよ」と言 いました。すると、「キーパーしかやらないなんて、サッカーをやったとは言えないよ」とい う意見が出ました。司会のDさんがBさんに「キーパー以外はやりたくない?」と聞いてみる と、「やってみたいけど、走れないから無理だと思う」との返事でした。 様々な意見から、「フィールドを小さくする」「走るのは禁止、早歩きまで」「ボールを持つ のは5秒以内」「Bさんは手を使ってもよい」というルールを考えました。 子どもたちは、「試してみたいので、先生、校庭を使ってもいいですか?あと、審判をして ください」と言い、C先生は「よし、校庭を使える時間を確認するね」と答えました。 後日、実際にみんなで決めたルールを試してみることになりました。Bさんが手を使うと、 Bさんの手と他の児童の足が当たりそうでかえって危なかったり、C先生1人では児童が走っ ていないかどうかジャッジするのが難しかったりすることが分かりました。問題が起こると子 どもたちは意見を出し合い、ルールを改良していきました。Bさんはボールを持っていない時 も、大きな声でチームに指示を出していました。 お楽しみ会当日も、みんなが笑顔でサッカーを楽しむことができ、自分たちで考えたルール でやり遂げた経験は、子どもたちの自信につながりました。 Bさんは少し疲れを感じる時もありましたが、様子を見ていたC先生や副校長がBさんに声 を掛け、休憩や見学も挟んでお楽しみ会に参加しました。C先生はBさんのこと以外にも、子 ども同士でけがが起きないか、また危なくないかを確認しながら見守り、子どものサポートに 徹しました。 ♯キーワード自己決定や考えの尊重、見守る、子ども同士での多様性理解、 子どものつながりの尊重 この事例のポイント @ 子どもが主体的に学級活動に取り組むことで、共感や多様性を尊重する姿勢を育てて いますか。 A 教員は必要な支援を行い、伴走する姿勢で見守っていますか。 B Bさんの考えを聞かずに、Bさんのできること、できないことを限定して提案するの は、良かれと思っての提案でも差別になることを理解していますか。 C 実際に試しながら、ルールを改善させることで、子どもたちに継続的な対話や調整の 重要性を体験させていますか。 事例 9 教育活動における保護者の協力 長時間歩行が困難な児童の遠足への対応 事例 9 教育活動における保護者の協力 長時間歩行が困難な児童の遠足への対応 小学校4年生のAさんは先天性疾患により、長時間の歩行は全身の筋肉や呼吸機能の状況か ら困難です。しかし、先生方がAさんに身体の状況やどうしたいかをよく問いかけ、他の教 員、友人、学校包括支援員、学校生活サポーター等の協力も得て、体育の授業を含む日常の学 校生活に一生懸命取り組むことができています。 さて、今年度の遠足は、青梅の御岳山です。現地ではケーブルカーを使用せず、往復徒歩の 行程です。担任のB先生は事前学習の時に、Aさんが自分の力で山を登れるか不安ではあるけ れども、友人と一緒に昼食を食べたり、きれいな景色を見たりすることをとても楽しみにして いることを知りました。 ただ、Aさんの身体的状況を踏まえると、途中で歩けなくなることや、呼吸が苦しくなるこ とも考えられます。B先生は、一緒に引率する同学年の教員に相談したところ、Aさんも登れ るか不安を抱えているが、遠足を楽しみにしていることから、保護者に同行してもらうのが良 いのではと助言されました。 B先生は、遠足の1週間前にAさんの保護者と面談を行い、遠足への同行をお願いすること にしました。面談当日、B先生は保護者に対して、 「Aさんが遠足をとても楽しみにしていることは学校、担任としても理解しています」 「ただ、今回は全体ではケーブルカーを使わない行程で行います」 「当日は、包括支援員もついていきますが、他の児童も見ないといけませんし、学校生活サ ポーターの方も当日は来られない状況で、Aさんに大人をつけることはできません」 「当日、Aさんはケーブルカーを使って、頂上まで来ていただきたいと考えていますので、 その際、保護者の方が同行いただくことはできませんか」と伝えました。 保護者は、残念そうな表情をしながら、 「Aはこの遠足を楽しみにしていて、先週末に家族で予行演習もしました」 「ケーブルカーを使うことには賛成ですが、このことはAに聞いていただけましたか。学校 生活支援シートにも、4年生からは本人の意思を確認することで当事者意識を育てていく ことを目標のひとつにすると記載してあったと思います」 「Aには少しずつ自立をしてほしいと思っています。その中で、先生方にも今回の遠足でお 願いしたいこともあり、B先生にお伝えするためにAと話し合い、まとめていたところで した」 「先生方が大変なこともわかりますが、配慮が必要な子どもは保護者の同伴が義務なのでしょ うか」と話があり、 「少し考えさせてほしい」と言って、保護者との面談は終了しました。 ♯キーワード自己決定や考えの尊重、学校生活支援シート及び個別指導計画の 活用、教職員の人権感覚 この事例のポイント @ 障害者差別解消法では、障害を理由に条件をつけることは、不当な差別的取扱いに該 当することを知っていますか。 A 遠足をどのような行程にするか、子ども同士で話し合う場面をつくりましたか。 B 引率する教員等の分担や、現地の交通の活用により、子どもの状況にあわせた遠足に なるように行程を検討しましたか。 C 保護者の協力を得る際は、十分な検討の時間を取り、話し合いを行っていますか。 D 子どもにどうしたいか十分に問いかけていたでしょうか。また、この事例の場合、担 任と保護者の面談において、本人は不在で良いでしょうか。 事例 10 ヤングケアラー 家庭の事情が心配な生徒への対応 事例 10 ヤングケアラー 家庭の事情が心配な生徒への対応 Aさんは、中学校1年生です。小学校の時から、児童会の活動に取り組んだり、勉強にも熱心 に取り組んだりするなど、何事にも積極的に活動する子どもとの情報が引継ぎではありました。 その情報通り、中学校でも、学習面、生活面とも積極的に取組み、友だちとも良好な関係を 保つなど、学年全体に良い影響を与える生徒として力を発揮しました。 ただ、5月のSCによる全員面接では以下のような話が聞けました。やってみたい部活もあ るが、家のことがあるので迷っていること。 ・父親とは5年前に死別しており、母親、本人、弟(4歳)の3人暮らしであること。 ・Aさん自身は、母親が自分たちを育てるために夜遅くまで仕事を頑張っているので、それ を助けるのは当たり前だと思っていること。 SCは詳しく話を聞く必要があると思い、担任に相談して改めて面接することになりました。 ・母親は仕事でAさんより早く家を出て、夜も帰宅が遅い日が多いこと。 ・Aさんが弟の朝の支度や、保育園の送迎、夕食の準備をしていること。 ・母親の疲れている気持ちや、つらい気持ちの受け止め役にAさんがなっていること。 ・自分の家庭での役割について、Aさんは使命感と誇りをもっていること。 SCからの報告を受け、担任と学年の教員を中心に、Aさんの様子を丁寧に見て、変わった ことがあればすぐに情報を共有し、対応を検討しようと確認していました。 1学期の期末考査が終わった週から、Aさんは少しずつ遅刻が増えてきました。遅刻の理由 をAさんに聞いても、「少し体調が悪いので・・・すみません」ということを繰り返し言い、保 護者に電話しても同じなので、それ以上は具体的に聞き出すことができませんでした。 夏休み中に三者面談の日を設定しましたが、約束した時間に本人から連絡が入り、キャンセ ルになりました。 2学期になるとAさんは欠席が増えてきました。緊急連絡アプリを通じて、欠席の連絡が体 調不良を理由として入ってはいましたが、担任が連絡してもなかなか母親と連絡がつかず、様 子が心配になってきました。 そこで学校では管理職の指示でAさんについて、管理職、学年教員、生活指導主任、養護教 諭及びSCで、登校支援会議を行いました。会議では、現在の状況の確認の後、今後欠席が3 日以上連続する場合、家庭訪問を学年体制で実施し、長期化を避けることを目指すこととなり ました。 その後、担任と面接したSCがたびたび家庭訪問をしてみましたが、洗濯物は干してあるも のの応答はなく、管理職の判断で教育相談課の不登校支援窓口に支援依頼をすることになりま した。学校が不登校支援窓口の心理職とSSWと協議した結果、不登校の背景にヤングケア ラーの疑いがあり、本人の安否確認も含め管理職から子ども家庭支援センターへ支援依頼する ことにしました。早速学校で関係者によるケース会議が開かれ、その後、アセスメントを基に した「児童生徒理解・支援シート」を作成し、支援をスタートすることになりました ♯キーワード伴走する、的確な実態把握、外部機関との連携 この事例のポイント @ 「不登校支援ガイドライン」に基づいた支援を行っていますか。 A SC全員面接の後、小学校と連絡をとるなど、様々な情報を支援に生かしていますか。 B 子どもに対して、信頼関係がある人からアプローチすることを心掛けていますか。 C 子どもの心身の健康を第一に、子どもや保護者の思いや考えも尊重しながら、支援の 方向を考えていますか。 D 関係機関と連携しながら、担任に負担が偏らないようチームでの対応を意識しています か。 事例 11 思い込みや偏見 面談において、子どもの良いところを伝える時の対応 事例 11 思い込みや偏見 面談において、子どもの良いところを伝える時の対応 ※ 本事例では分かりやすいように、子どもの名前を仮名で表記しています。 A先生は小学校1年生の担任で、これから1学期末の保護者面談が始まります。A先生はこ の3か月間、受け持っている児童一人ひとりをよく見て、それぞれの良い点を記録してきまし た。その記録を基に、保護者の方に児童の良いところを伝えたいと意気込んでいます。 1人目 ひろきさんの保護者と A先生:「ひろきさんは国語の授業で元気よく大きな声で教科書を読むなど、頑張っています。」 保護者:(笑顔で)「ありがとうございます。」 A先生:「ひろきさんは、声が高いことから、女の子に間違えられることもありますが、本当 に女の子のように誰にでも穏やかで優しいです。」 保護者:(無表情で)「はぁ…。」 2人目 アンジェラさんの保護者と A先生:「アンジェラさんは、とてもやさしいお子さんで、この間も忘れ物をした隣の友人に すぐに自分の消しゴムを貸していました。」 保護者:(笑顔で)「ありがとうございます。」 A先生:「それにアンジェラさんは、目がぱっちりしていてハーフっぽく、友人から大人気な んですよ。先生方とも、アンジェラちゃんの親はどこの出身なのってよく聞いたり していますよ。」 保護者:(無表情で)「はぁ…。」 〜中略〜 保護者:「先生はいろいろ忙しくて大変と聞きますが、これからもアンジェラのことをよろし くお願いいたします。」 A先生:「教員は多忙でブラック職場などと言われることもありますが、私は天職だと思って います。これからも子ども達のために頑張ります。」 保護者:(無言) ♯キーワード子ども同士での多様性理解、専門性の向上、教職員の人権感覚 この事例のポイント @ 子どもの外見や声、性格といった特徴から、その子どもが「**である」としたり、 性別等に関係づけた話をしたりしていませんか。 A 世間で使用されている表現の中にも、例えば、色を用いた言葉や表現は、悪意がなく とも人を傷つける場合があることを考えていますか。 B 自分自身では差別や偏見だと気付いていない思い込みや、ものの見方はありませんか。 C 大人の言葉や態度は、子どもに大きな影響を与えることを自覚していますか。 D 子どもや保護者の育った背景にも、配慮していますか。 第4章ガイドラインの活用について第4章ガイドラインの活用について 4−1 職員会議・校内研修等で対象:教職員 インクルーシブ教育を推進するには、校内の 全教職員が共通理解を深めることが必要です。 どの授業、どの教育活動においても、同じ認識 のもとで子どもたちと接することが大切です。 本ガイドラインを活用して校内研修等を行うに 当たっては、校長の学校経営方針に基づき、研 究主任等の校内研修を計画する役割を担う教員 と、特別支援教育コーディネーターが協働して研修を企画するのが望ましいです。 ここでは、外部講師を招へいしない形での研修実施の例を紹介します。多くの業務や 教育課題への対応に取り組む中で、研修時間の確保は大きな課題ですが、教育委員会主 催の研修と連携させながら、短時間の研修を複数回実施する等の工夫を行うことで、効 果を高めることができます。以下の例を参考に、職員会議や校内研修で本ガイドライン を活用して理解を深めましょう。 例1 15分×7回(既存の会議の中で短時間を確保し実施) ※ 区主催の外部研修等の内容を適宜伝達しながら進めます。 (第1回)第1章〜第2章について議論し、内容を個人で整理します。 (第2回)【先生方はこのガイドラインを通してどうしたい】と題し、自分なりの考 えをまとめ、ペアで共有します。 (第3回)第3章の各事例から一つを選び、グループごとに事例のポイントを考 え、最後に全体で共有します。 (第4回)第3章の各事例から第3回とは別の一つを選び、グループごとに事例の ポイントを考え、最後に全体で共有します。 (第5回)インクルーシブ教育の推進に向けて、世田谷区が進める「誰一人取り残 さない教育」について「すでに取り組んでいること」「これからすぐに取 り組めそうなこと」について、グループごとに「学校づくり」の視点で 話し合い、最後に全体で共有します。 (第6回)インクルーシブ教育の推進に向けて、合理的配慮について「すでに取り 組んでいること」「これからすぐに取り組めそうなこと」をグループごと に「学級づくり」の視点で話し合い、最後に全体で共有します。 (第7回)インクルーシブ教育の推進に向けて、授業のユニバーサルデザイン化に ついて「すでに取り組んでいること」「これからすぐに取り組めそうなこ と」について、グループごとに「授業づくり」の視点で話し合い、最後 に全体で共有します。 ※ 第5〜7回では、学校や学級の中で、児童・生徒が共に学び共に育つ実践をしている通常 の学級、教育委員会の専門チームから、実践例を共有する機会が設定できるとよいでしょう。 例2計60分〜90分(3回)(校内研修として時間を設定して実施) ※ 区主催の外部研修等の内容を適宜伝達しながら進めます。 (第1回)第1章〜第2章について、個人で内容を整理します。(10分) (第2回)第3章のいくつかの事例について、グループごとに事例のポイントを考 え、全体で共有します。(20〜30分) (第3回)インクルーシブ教育の推進に向けて、合理的配慮や授業のユニバーサル デザイン化などを基に、「すでに取り組んでいること」「これからすぐに 取り組めそうなこと」について、グループごとに「学校づくり」「学級づ くり」「授業づくり」の視点で話し合い、全体で共有します。(30〜50分) ※ 第3回では、児童・生徒が共に学び共に育つ実践をしている通常の学級、教育委員会の専 門チームの実践例を共有する機会が設定できるとよいでしょう。 4−2 自己研さんで対象:教職員 世田谷区全体でインクルーシブ教育を推進 するためには、一人ひとりの教職員がインク ルーシブ教育に対する理解を深め、高い意識 をもって取り組んでいくことが大切です。 まずは、本ガイドラインを読み込んで内容 を把握するとともに、区が開催する教職員対 象の研修に参加するなど、世田谷区のめざす インクルーシブ教育についての理解を深める ことが考えられます。 また、学んだことを自身の取組みに積極的に反映させながら、PDCAサイクルを意 識して以下のチェックを定期的に行い、教職員一人ひとりがインクルーシブ教育の推進 に向けてよりよい実践につなげていくことが大切です。 例以下のチェックを定期的に行い、自身のインクルーシブ教育の推進に向けた取 組を振り返る。 (1)子ども同士のつながりを大切にした学級(集団)づくりのために、自身が取り組 んでいることをチェックしてみましょう。 (2)誰にとってもわかりやすい授業づくりができているか、チェックしてみましょう。 (3)自分自身が、子どもたちをどのように理解しているかチェックしてみましょう。 (4)全ての子どもが安心して過ごせる学級環境がつくれているかチェックしてみましょう。 (5)保護者との連携、信頼関係について、チェックしてみましょう。 (6)校内の教職員との連携についてチェックしてみましょう。 (7)校外の関係機関との連携についてチェックしてみましょう。 インクルーシブ教育について、教職員だけでなく子どもたち、保護者、教育委員会の 専門チーム、福祉等の関係機関等と普段から話し合ってみましょう。 4−3 保護者会で対象:教員・保護者 各学校がインクルーシブ教育を推進するに あたっては、児童・生徒のみならず、全ての 保護者の理解啓発を図り、意見を交わすこと が不可欠です。このような取組みにより、教 員の理解も深まります。 クラス保護者会等の機会において、担任等 が、本ガイドラインを活用しながら、現段階 でのインクルーシブ教育をめざす上での課題 も明確にしつつ、全ての子どもたちが背景や 能力に関わらず、共に学び成長することをめざすこと、子どもの多様性を尊重し、誰一 人取り残さない学級づくりや学校づくりを行っていくこと等について、【子どもと大人 が一体となって、共に歩もう】と共通理解を図ることが望まれます。 例10分×2回(既存の1学期及び2学期保護者会の中で実施) (第1回)第1章〜第2章を5分ほどで黙読してもらい、インクルーシブ教育について の基本的な情報を共有します。様々な背景のある子どもたちがどのように学 習するのか、彼らの権利やニーズ等について説明し、学校におけるインク ルーシブ教育の取組みを紹介します。その際、多様性を理解することや、す べての子どもたちが一緒に学ぶことの価値など、インクルーシブ教育の意義 を具体的に伝えることが重要です。 (第2回)第3章の事例から、保護者が関わる部分を選び、隣同士で事例のポイントを 考え、全体にシェアしてもらいます。また、当事者である子どもたちの日常 をイメージしやすくするために、シミュレーションやロールプレイを行うこ とも考えられます。これにより、全ての保護者が様々な背景のある子どもた ちの立場を理解し、彼らの感じる困難や挑戦を共有します。最後に、インク ルーシブ教育についての質問や懸念を共有し、解決策を一緒に考える場をも つことも重要です。その際、例えば障害のある子どもについて、保護者の協 力のもと、その経験や視点を共有することも、保護者の理解を深めるために 効果的です。 4−4 地域への発信で対象:保護者・地域 学校だよりや学校ホームページ、学校運営 委員会、学校公開等を通じて、本ガイドライ ンの内容や学校の取組みを積極的に発信しま す。特別支援教育コーディネーターだけでな く、全ての教員がそれぞれの立場から発信す ることで、多様な視点からインクルーシブ教 育の推進について共有します。 インクルーシブ教育の理念や地域共生社会 の重要性を共有することで、学校・家庭・地 域社会が一体となり、子どもたちが生涯、地域で安心して過ごせる環境を築いていくこ とが大切です。行政も学校による地域への発信の取組みを支援します。 【学校ホームページや学校だよりの例】 1 学校でのインクルーシブな取組みをホームページ等で発信する。 2 地域で暮らす様々な背景を持つ方々のインタビュー等をホームページや学校だよ りに掲載する。   ※ 人選については学校運営委員会等と連携する。 【地域と連携した教育活動等の例】 1 多様な地域住民が利用する場(児童館、介護施設等)での職場体験学習を実施す る。 2 総合的な学習の時間で、様々な背景をもつ地域の方に児童・生徒がインタビュー をする。 3 学校評価アンケートの項目に「インクルーシブ教育ガイドライン」の内容が学校 で実践されているか、質問を設定する。 【行政による学校から地域への発信のための支援】 1 区ホームページや区のイベント及び世田谷区教育委員会が主催する様々なイベン トにおいて、ガイドラインについての広報活動を実施する。 2 PTAや地域自治会等と協力してインクルーシブ教育について考える機会を設け る。 せたがやインクルーシブ教育ガイドライン作成委員会 開催の概要 1 開催経過 回数開催日時 場所検討テーマ 第1回令和5年6月2日(金) 午後2時から午後3時30分 世田谷区役所 第1庁舎 4階 教育委員会室 (1)ガイドラインの全体構想 (2)ガイドライン作成の役割分担 (3)意見聴取のあり方 第2回令和5年7月12日(水) 午前10時から正午 世田谷区役所 第1庁舎 4階 教育委員会室 (1)インクルーシブ教育の定義について (2)ガイドラインのテーマの設定について (3)意見聴取について 第3回令和5年10月23日(月) 午後1時30分から午後3時30分 世田谷区砧総合支所 ミーティングルーム (1)本ガイドラインの論点整理について (2)意見聴取について 第4回令和5年12月27日(水) 午後1時30分から午後3時30分 教育総合センター 研修室 ほし (1)素案検討について 第5回令和6年1月23日(火) 午後1時30分から午後3時30分 世田谷区役所第1庁舎5階 庁議室 (1)構成案検討について 第6回令和6年5月22日(水) 午後1時30分から午後3時 教育総合センター 研修室 にじ (1)素案検討について   ガイドライン〔骨子案〕に対する議論 第7回令和6年7月19日(金) 午後1時30分から午後3時 教育総合センター 研修室 たいよう (1)素案検討について   ガイドライン〔素案〕に対する議論 第8回令和6年10月31日(木) 午後1時30分から午後4時30分 世田谷区民会館 集会室A(1)区民意見聴取   ガイドライン〔10月案〕に対する議論 (2)案の検討について 第9回令和6年11月29日(木) 午後1時30分から午後4時 烏山区民センター集会室 (1)ガイドライン(案)の検討   ガイドライン〔11月案〕に対する議論 (2)まとめ 2 委員名簿 <令和5年、6年度> ◎半澤 嘉博東京家政大学 特任教授 〇鈴木 秀樹東京学芸大学附属小金井小学校 教諭 島添 聡都立光明学園 …統括校長 宮田 守都立久我山青光学園 …統括校長 寺ア 晶子小学校校長会代表(世田谷区立松沢小学校長) 外村 さやか小学校特別支援教育コーディネーター (世田谷区立松沢小学校 主幹教諭) 美馬 景子小学校特別支援学級主任 (世田谷区立多聞小学校 主任教諭) 織毛 英美中学校特別支援学級主任 (世田谷区立松沢中学校 主任教諭) ◎委員長…○副委員長  肩書は令和6年度 <令和5年度のみ> 井尻 郁夫中学校校長会代表(世田谷区立芦花中学校長) 相佐 妃沙乃中学校主任教諭(世田谷区立深沢中学校) 肩書は令和5年度 <令和6年度のみ> 池田 賢市中央大学 教授 加藤 ユカ中学校校長会代表(世田谷区立弦巻中学校長) 坂本 尚子世田谷区帰国・外国人教育相談室 室長 肩書は令和6年度 3 作成委員会における主な意見 この間作成委員会において、事務局が示した案等に対する主なご意見を掲載しました。 全般について 〇本ガイドラインは、オール世田谷で共生社会を創っていくために共通の認識を示すた めのものとして、マニュアル化しないことが必要である。個々の詳細な部分は他のガ イドラインやマニュアルに委ねる形で良い。 〇ガイドラインは教員の意識改革の部分が中心となるのではないか。教員の役割を整理 して記載するのが良い。 〇一人ひとりの子どもに寄り添って教育を行っていくことが、教員の仕事の本来の意味 であり、今の教員が喜びを感じさせてあげられる内容であってほしい。 〇誰もが安心して普通学級、学校に入れるかということが権利として保障されているこ とが重要である。ガイドラインでは、まず制度改革をどうするのか、そしてその後に 教室の中をどのようにしていくかの2点が主な内容になるのではないか。 〇誰1人取り残さないとは、学びの権利保障から取り残さないことなので、その点がわ かるように書く必要があるのではないか。 〇現状の中でできることは一部分であるとしても、できるようになってからでは、統合 となり、インクルーシブにはならないので、その点を認識してもらうことが必要では ないか。先生に向けてのガイドラインであるならば、クラスをどのように変えるかが 書けると良いのではないか。 ○全体的に、分離を思わせる表記や文脈は修正すべきである。 ○今後インクルーシブ教育を推進するに当たり、全国的な課題として、学習評価や学級 規模のことを記載した方が良いのではないか。 第1章 ガイドラインの位置付け・構成 〇教育委員会として、教育振興基本計画に沿って制度改革を進めながら、教員には意識 改革を促すような流れが必要になると考えられる。 〇区の条例などとの整合性や重なりについても整理した方が良い。 第2章 世田谷区がめざすインクルーシブ教育の姿 〇なぜインクルーシブ教育を進めるかを、差別や人権侵害、分離が差別につながる点を 踏まえて、しっかり記載すべきである。インクルーシブな社会をめざすうえで、教育 の現場で分離があってはならないことを、すぐにできなくても示していくべき。 〇障害に限らずに、多様な子どもたちを対象にすることについて、整理して分かりやす く示すことが必要である。 〇5つのコンセプトを並列で示していることが分かりやすい。教員の専門性のコンセプ トについては、公立小中学校に勤務する教師としての専門性として、こういうものが 必要ということも示せると良い。 〇教員が自分のクラスに在籍する支援が必要な子どもについて、成長を促すためにチャ レンジさせていく部分や、できない部分についての必要な支援とは何かということ を、1つ1つ考えていくきっかけになるガイドラインになるように議論すべき。 〇教員が頑張るだけでなく、現場の教員が利用できる支援といった制度的保障がない と、うまくいかないのではないか。 〇「すべての子どもが、望む場で学ぶことができるようにしていく」という部分は、最 初から普通学級か特別支援学級かという選択肢が提示され、インクルーシブな状況と は言えず、国連の委員会からも、選択肢があること自体の差別性を指摘されているこ とを考えれば、居住する地域の普通学級で教育を受けることをめざしていることが伝 わるような表現にしてほしい。 〇2−4の図について、学校と教育委員会、学校と関係機関との関係は双方向であると 良いのではないか。実際には、学校から教育委員会へ相談や事例の共有があり、関係 機関との連携もすでに行われている。 ○合理的配慮には、関係者の建設的対話が必要である。 〇合理的配慮が学校に過度の負担を課すものであると判断した場合には、本人・保護者 に分かりやすく説明し、実現可能な代替措置を提案することを記載した方が良い。 第3章 インクルーシブ教育 行動コンセプトの実践ポイント 〇区内の実践事例があると自分たちでもできる、工夫できるというように感じる。 〇良かれと思ったことが実は差別といった事例を示せると良い。また、人権侵害時の人 権救済の方法をどこかに書いた方がいい。 〇読み手が現状を踏まえたうえで、どう変えていくかを考えてもらうことを示唆した い。 ○子どもの自己決定の視点、子ども同士のつながりを大切にして、みんなで考えて決め ることも事例に対するポイントとして盛り込めたらよい。 第4章 ガイドラインの活用について ○ガイドライン策定後に、関係者が忘れることなく、考える必要がある条件を作ってい くことが大事ではないか。見直すタイミングや話し合う場などの仕組みを作っておか ないと、形骸化してしまうのでないか。 ○研修の担当者と対象者を明記した方が良いのではないか。 ○研修においては、当事者や保護者から話を聞くことも入れた方がよい。 資料編 〇国連の考え方では、長期的には特別支援学級をなくしていく方向なので、特別支援学 級等整備計画の中で長期的には特別支援学級等を全小・中学校に設置する、と書かれ ていると、読む人が混乱する。資料編は学校にとって必要だと思うが、別冊にできな いか。 〇就学相談や支援のあり方、特別支援学級に通学する子どもの人数の長期的な目標など も示せるか検討が必要である。 ○交流及び共同学習についての文科省の通知は国連から撤回の勧告を受けている。あえ て書くことはないのではないか。 ○文科省通知を交流及び共同学習を制限するものとして捉えるか、推進するものとして 捉えるかによって、扱いが変わる。 資料編 資料編 本ガイドラインに基づいて各学校で取組みや検討を行う際には、現在の教育委員会の 施策や各種制度を活用していく必要があります。今ある制度を本ガイドラインに沿って 運用することにより、次の気づきや、新たな提案が浮かび上がってきます。資料編で は、これらの観点から、現在の関連する制度を中心にまとめました。 資料1 教育の質を高める働き方改革の推進 資料2 学校を支える体制 資料3 特別支援学級等 資料4 医療的ケア等 資料5 帰国・外国人児童・生徒等及び日本語指導が必要な児童・生徒 資料6 性的マイノリティ 資料7 ヤングケアラー 資料8 不登校 資料9 子どもの権利を守る仕組み 資料1 教育の質を高める働き方改革の推進 学校現場では、教員不足が続く中、授業だけでなく、その準備や様々な校務、更には 保護者への対応など教員が関わる業務が多岐にわたり、こうした重い業務負荷の常態化 から児童・生徒に向き合う時間等の不足を招いています。 また、昨年度実施した区内教員対象のアンケートでは、小・中学校ともに支援が必要 な児童・生徒への対応や、対応の時間の確保、保護者対応に悩んでいる教員が多くなっ ています。 教育委員会では、現在の状況から、「学校・教育委員会が実践する教育の質を高める 働き方改革推進プラン」を策定し、実施します。 〇「学校の働き方改革に関する区内教員アンケート(R5年度)」より勤務上の悩みについて 推進プランに基づいた具体的な取組みから教員の負荷を軽減することによって、教員 間の対話を促進し、協力体制が強化され、このことが、各学校の創造的な実践を推進 し、学校が進化し、子どもたちの幸せへつながっていくことが大切です。 〇「学校・教育委員会が実践する教育の質を高める働き方改革推進プラン(世田谷区教育委員会)」より 資料2 学校を支える体制 小・中学校の通常の学級、特別支援学級等、幼稚園においては、子どもの学びを支え るために様々な人材が活躍しています。 「学校・教育委員会が実践する教育の質を高める働き方改革推進プラン」を受け、こ れらの人材についても、学校に適切に配置します。また、専門家等を学校に派遣し、校 内委員会の組織力強化を支援するとともに、インクルーシブ教育支援員その他の人的支 援を拡充します。さらに教育委員会の専門チームを強化し、現場と教育委員会が一体と なった支援体制の構築に向けて取組みを進めます。 〇 支援人材一覧 種別役割通常学級特別支援 学級等 インクルーシブ教育 支援チーム 学校を巡回し、配慮や支援を必要とする子ども たちのニーズに合わせて、教員に助言する。 教科の補充指導を個別または小集団指導を行う。 区費講師自閉症・情緒障害学級や特別支援教室(すまい るルーム)における教員の補助を行う。 区費講師 または看護師 小学校における特別支援教育コーディネーター の本来業務(授業や保健室運営)を代替する。 インクルーシブ教育 支援員 配慮を要する児童・生徒が在籍する通常学級 で、安全配慮、教育活動や生活指導上の支援を 行う。 特別支援学級支援員 特別支援学級で、安全配慮、教育活動や生活指 導上の支援を行う。 学校医療的ケア 看護師 医療的ケアが必要な児童・生徒に医療的ケアを 行う。 学校生活 サポーター 配慮を要する児童・生徒の安全配慮、生活の支 援を行う。 エデュケーションアシスタント 配慮を要する小学1年生の安全配慮、生活の支 援を行う。〇 大学生 ボランティア配慮を要する児童・生徒の安全配慮を行う。 要約筆記 ボランティア 聴覚障害で配慮を要する生徒に対して要約筆記 を行う。 幼稚園・認定こども園 補助員(介助) 配慮を要する園児の安全配慮やコミュニケ― ションを仲介する。 〇 支援や配慮が必要な児童・生徒への支援の流れ ※ インクルーシブ教育支援チーム 教員経験者及びアセスメントができる専門職で構成するチームとする。 学校を訪問し、児童・生徒の観察、アセスメントを継続的に行うとともに、教職員による支援 の状況等の実態を把握した上で、支援内容や合理的配慮、校内支援体制に関する助言や、関係す る教員を対象とした研修等を行う。 〇 「支援の3つの柱」に基づく支援体制 配慮や支援を要する児童・生徒の支援を 着実に実施し、学校を支えるために、 「支援の3つの柱」に基づいた学校と 教育委員会の体制を構築している。 支援の3つの柱 インクルーシブ教育支援チームの 設置およびシステムの導入 D、F、H 支援員の整理拡充@、A、B、C、E 教員の専門性・指導力の向上 H 小学1年生小学2?6年生中学1?3年生 学校 インクルーシブ教育支援員A(旧:学校包括支援員) 中学校に配置 インクルーシブ教育支援員B 通常の学級における特別支援学校 適当相当の児童生徒の支援を行う。 学校生活サポーター スポット的な支援を行う。 特別支援教育コーディネーター 業務代替教員 コーディネーター業務を代替する 教員等を配置する。 1234 5 指導計画作成システム 個別の指導計画等の作成支援を 行うシステムの実証を行う。 インクルーシブ教育支援員A(旧:学校包括支援員) 小学校に配置 1 6 エデュケーション・アシスタント 小学校に配置し、小学1年生の 児童が学校生活になれるために 必要な支援等を行う。 教育委員会 インクルーシブ教育支援チーム 学校を巡回し、配慮を要する児童 生徒のアセスメントや支援体制に 対する助言等を行う。 7 教育委員会の職員体制充実 インクルーシブ教育支援チームの 運営を始め、インクルーシブ教育 全般を運営するために職員体制の 充実を図る。 8 9 多様な研修の充実・実施 教員や支援員の専門性、指導力、 支援力の向上のための研修を充実、 実施する。 全学年小1小2〜6中学 資料3 特別支援学級等 特別支援学級には固定学級と通級指導学級があり、一部の区立小・中学校に設置され ています。一方、特別支援教室(すまいるルーム)は全小・中学校に設置されていま す。そのほか、東京都や一部の私立に特別支援学校があります。 障害や発達上の特性がある児童・生徒の状態等は多様であり、一人ひとりのニーズに 応じた指導や支援が必要であることから、児童・生徒の発達段階や状態等に応じた学校 生活支援シートや個別指導計画を作成し、保護者をはじめ関係機関が連携・協力して指 導や支援を行っています。 今後の特別支援学級等の開設については、特別な支援を希望する子どもが地域の学校 で学ぶことや、校内における教員の指導や支援の向上を実現していくために、「世田谷 区立小・中学校特別支援学級等整備計画」に基づき進めていきます。 ※ ここでは、文部科学省告示(学習指導要領)に基づき「交流及び共同学習」、東京都の制度に 基づき「副籍交流」という名称を使用しています。 1 特別支援学級(固定学級)について 特別支援学級(固定学級)には、知的障害学級、肢体不自由学級、自閉症・情緒障 害学級の3種別があります。区立小・中学校の約30%にいずれかの特別支援学級を設 置しています。 特別支援学級の教育課程は、小・中学校の学習指導要領に基づいて(準じて)行う こととなっており、各教科、特別の教科、道徳、特別活動は通常の学級と同様に行い ますが、児童・生徒の障害の状況にあわせた特別な教育課程を編成することができま す。また、障害による学習または生活上の困難への対応等を目的とした自立活動の時 間を設けるか、自立活動に関する指導を行います。  [固定学級の設置校数(令和7年4月現在)] 小学校中学校 知的障害学級19校9校 肢体不自由学級2校1校 自閉症・情緒障害学級7校3校 2 通級指導学級について 通級指導学級には、難聴学級、言語障害学級、弱視学級の3種別があります。 通常の学級に在籍する児童・生徒が、通級指導学級を設置している学校へ定期的に 通級し、学習や生活をしやすくするために、一人ひとりの障害に応じた指導を行って います。  [通級指導学級の設置校数(令和7年4月現在)] 小学校中学校 難聴学級2校1校 言語障害学級4校− 弱視学級1校− 3 特別支援教室(すまいるルーム) 特別支援教室(すまいるルーム)は区立小・中学校の全校に設置しています。 通常の学級に在籍する児童・生徒が、校内に設置された教室へ定期的に通室し、発 達障害や発達上の特性に対する学習や生活をしやすくするための指導を行っていま す。 4 交流及び共同学習、副籍制度 固定学級や東京都立の特別支援学校に在籍する児童・生徒においては、交流及び共 同学習(特別支援学級に在籍する児童・生徒と通常の学級の児童・生徒が学校生活に おける交流や一緒に学習などをすること)、副籍制度(東京都立特別支援学校の小・ 中学部に在籍する児童・生徒が、地域指定校(居住する地域の小・中学校)に副次的 な籍を持ち、居住する地域の学校の児童・生徒や地域と交流すること)による交流な どを積極的に行うことを通じて、子ども同士や居住する地域とのつながりを深める制 度です。 学習指導要領の総則では、第5…学校運営上の留意事項の一つとして、教育課程の 編成及び実施に当たっては「他の小学校(中学校)や、幼稚園、認定こども園、保育 所、(小学校)中学校、高等学校、特別支援学校などとの間の連携や交流を図るとと もに、障害のある幼児児童・生徒との交流及び共同学習の機会を設け、共に尊重し合 いながら協働して生活していく態度を育むようにすること。」と示されています。 また、交流及び共同学習の時数に関する文部科学省の通知(4文科初第375号/令 和4年4月27日)がありますが、本通知については、国連・障害者権利委員会の日本 政府報告に対する総括所見において懸念と、障害者を包容する教育(インクルーシブ 教育)に対する権利に関する一般的意見第4号及び持続可能な開発目標を想起して撤 回の要請が示されています。 なお本通知では、以下が定められています。 (1)特別支援学級に在籍している児童・生徒については、原則として週の授業時数の 半分以上を目安として特別支援学級において児童・生徒の一人一人の障害の状態 や特性及び心身の発達の段階等に応じた授業を行うこと。 (2)ただし、次年度に特別支援学級から通常の学級への学びの場の変更を検討してい る児童・生徒について、段階的に交流及び共同学習の時数を増やしている等、当 該児童・生徒にとっての教育上の必要性がある場合においては、(1)の限りでは ないこと。 5 世田谷区立小・中学校特別支援学級等整備計画 世田谷区では、特別支援学級を希望する児童・生徒の地域における学びの場の確保の ため、「世田谷区立小・中学校特別支援学級等整備計画」に基づいて、区立小・中学校 の特別支援学級の開設整備等を進めています。整備計画はおおむね3年ごとに計画を見 直すこととしており、令和7年度から9年度までの計画では以下の整備方針のもとで計 画を推進していきます。 (1)長期的な目標 インクルーシブ教育の推進、地域の学校で学ぶことを基本とすることを見据えると ともに、特別支援学級で培われた指導方法の校内での共有により、学校全体の教員の 指導力や支援の向上を図り、各校で多様な児童・生徒が学び、理解を深める環境を構 築していくために、特別支援学級等を全小・中学校に設置することを将来的な目標と する。 (2)計画的な整備 特別支援学級・特別支援教室を希望する児童・生徒数を中期的に予測し、学校の空 き教室の状況、改築計画、地域偏在を踏まえた上で、整備計画を策定し、計画的な整 備を推進する。 (3)緊急的な整備 特別支援学級・特別支援教室を希望する児童・生徒数の予測外の増加に伴い、学級 数不足が見込まれる場合は、関係所管との協議を経て、緊急的な整備を行うこととす る。 資料4 医療的ケア等 教育委員会では、医療的ケア児が教育を受ける機会を確保するために、平成30年度か ら喀痰吸引、経管栄養等の配慮を必要とする児童に試行的に看護師を配置しました。 さらに、令和2年度から学校に本格的な看護師の配置を開始しました。令和3年9月 には、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が施行され、医療的ケ ア、医療的ケア児が定義されたことや、学校の設置者は法に基づき、医療的ケア児に適 切な支援を行うことが責務とされました。これを受け、令和6年3月に「学校等におけ る医療的ケア実施ガイドライン」とガイドラインの別冊である「学校における人工呼吸 器に関するマニュアル」を策定し、ガイドラインに基づいて、看護師を配置し、医療的 ケアを実施しています。 また、世田谷区では、疾病や身体障害等の理由から、徒歩や公共交通機関の利用と いった通常の経路及び方法による通学では身体の負担が極めて大きく、生命の安全性が 確保できない場合には、本人の状況と医師の意見書をもとに、福祉タクシー等で通学す ることが必要と認められる場合に、通学に要する福祉タクシー等の実費相当額について 就学奨励費または就学援助費の制度を活用し、令和5年9月から支給対象としていま す。 資料5 帰国・外国人児童・生徒等及び日本語指導が必要な児童・生徒 世田谷区では、平成15年度より、帰国・外国人教育相談室を区内中学校内に設置し、 区立小・中学校に在籍する外国人及び海外から帰国した児童・生徒・保護者を対象に、 教育相談・日本語指導・教科補習・通訳者の派遣等を行っています。 来日して間もない児童・生徒、及び来日してから時間が経っていても、学校での学習 に不安がある児童・生徒に対して、「初期指導」等で日本語指導を行い、その後も段階 的な日本語指導及び学習支援を、以下のようにシステム化して行っています。 1 初期指導 帰国・来日したばかりで日本語が話せない児童・生徒のために、学校からの申請に より、講師の派遣をします。講師は、児童・生徒の在籍校で、日本語の個別指導にあ たります。 2 訪問面接 当該児童・生徒に合った日本語指導の方針を決めるために面接を行います。面接の 内容を踏まえて、相談員と学校、必要に応じて保護者も交えて、その後の日本語指導 について協議します。 3 訪問指導・通級指導 小学生を対象に、「初期指導」だけでは「補習教室」に進むのが困難と判断された 場合に、相談員が学校へ出向いて期間を決めて(おおむね2か月を限度に)個別に日 本語指導を行います。 中学生の場合は、梅丘中学校内の「帰国・外国人教育相談室」に通う形で、個別に 日本語指導を行います。 4 補習教室 補習教室は梅丘中学校の教室を使用して行います。土曜教室では、日本語と国語を 中心に指導し、水曜教室では、国語と三教科(社会、数学、理科)のうち一教科を生 徒自身で選び、少人数グループで指導を行います。 (1)土曜教室 対象:小・中学生 (2)水曜教室 対象:中学生 5 通訳派遣 学校から保護者への連絡や説明、保護者会等で通訳が必要な場合に、通訳を派遣し ます。(就学前の説明会を含む) 資料6 性的マイノリティ 世田谷区では、平成30年に施行した「世田谷区多様性を認め合い男女共同参画と多文 化共生を推進する条例」で、性の多様性への理解促進とこれに起因する支障を取り除く ための支援を行うことを明示しています。 具体的な取組みとして、平成27年に渋谷区と同時に全国に先駆けて、世田谷区パート ナーシップ宣誓を始め、令和4年には、子や親もファミリーとして宣誓できるファミ リーシップ宣誓も始めました。その他、性的マイノリティのための電話相談(世田谷に じいろひろば電話相談)や居場所事業(世田谷にじいろひろば交流スペース)などの取 組みを行っています。 また、教育委員会では、区内全小・中学校の人権担当教員等を対象に、「性自認・性 的指向」をテーマとした授業公開を毎年度開催しています。子どもたちが、発達段階に 応じて、性の多様性について知り、自分と異なる意見や立場を尊重するとともに偏見や 差別をなくそうとする態度を育てることを目標とした内容で、授業後に協議会を行うな ど、教員の理解を深めるための取組みとして継続的に実施しています。 資料7 ヤングケアラー 令和6年6月「子ども・若者育成支援推進法」の改正により、ヤングケアラーは「家 族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」と 定義され、国・地方公共団体等が各種支援に努めるべき対象として明記されました。 ヤングケアラーの問題は、子ども本人が置かれている状況をうまく言葉にすることが 難しい、本人や家族に自覚がないといった理由などから、表面化しにくいことが指摘さ れています。また、ヤングケアラーの背景には、高齢・障害・生活困窮などの複合的な 課題があることから、まずは周囲の大人が気づき、関係機関と連携して、早期に必要な 支援につなげることが重要です。早い段階から子どもの将来を見据え、本人の可能性を 狭めることなく、将来の選択肢を増やすための支援を考える必要があります。 【世田谷区のヤングケアラー支援の取組み】 1 ヤングケアラーコーディネーター(支援者向け相談窓口) ヤングケアラー支援に関する助言や子ども本人への伴走型支援のほか、支援者向けの 研修や支援のネットワークづくりを行っています。気になる子どもがいる場合の対応 や、具体的な支援策、関係機関との連携等について、電話やメールで直接相談すること ができます(個人情報を伏せたかたちでの相談も受け付けています)。 2 世田谷区ヤングケアラーさぽーとるーむ(当事者向けLINE相談窓口) ヤングケアラーの子ども・若者を対象としたLINE相談窓口です。自身がヤングケア ラーだった経験を持つ相談員が相談対応を行います。必要に応じてヤングケアラーコー ディネーターとも連携し、ケースに応じた支援につなげます。 3 普及啓発の取組み (1)「ヤングケアラーってなんだろう?」(小学生版・中学生版・高校生以上版) ヤングケアラーに関する説明や、困ったときの相談先などについてまとめていま す。 ※ 毎年、区立小学校4年生、区立中学校1年生に配布、学校タブレット端末にも掲載 (2)世田谷区ヤングケアラー支援マニュアル(教育関係機関(学校)編) 教育関係機関向けのマニュアルとして、ヤングケアラー支援の基本や、関係機関の 役割、支援のフロー、支援事例、参考となる相談窓口や支援機関を掲載しています。 資料8 不登校 世田谷区では令和6年3月に、不登校児童・生徒への支援に関する教職員共通の指針 となる「不登校支援ガイドライン」を策定しました。このガイドラインは不登校の未然 防止、早期発見・早期対応、長期化した場合の支援など各段階における対応の指針とし て不登校児童・生徒への支援に関する基本的な考え方を示すものです。 教育委員会として、学校以外の居場所づくりや学習機会の保障等の支援事業も行って います。 1 ほっとルーム(別室登校) 不登校児童・生徒が、学校内の教室以外の場所を活用する「ほっとルーム(別室登 校)」を設置しています。教育委員会では、別室登校を利用する児童・生徒の安全管 理、学習支援等のため、小・中学校30校(令和6年度)に学校生活サポーターを配置 しています。 2 ほっとルームせたがYah!オンライン(ONLINE) 学習に不安があったり、外に出ることは難しいけれども日中の居場所を見つけたい と思っていたりする不登校またはその傾向がある児童・生徒向けに、オンライン(メ タバース環境)による学習支援や居場所支援、体験プログラムの提供を行うとともに 個別での児童・生徒・保護者の相談支援も行っています。現在週3日(月・水・金曜 日)開設しています。 3 ほっとスクール(教育支援センター) 心理的な理由等によって不登校状態にある区内在住の児童・生徒を対象に、学校生 活への復帰や、社会的自立に向けた支援を行っている施設です。ほっとスクールでは 同年代の子どもたちと一緒に過ごし、学習や体験活動を行っています。現在、世田谷 区には、城山、尾山台、希望丘と3施設あり、城山、尾山台は直営、希望丘は事業委 託により運営しています。 4 学びの多様化学校(不登校特例校)分教室「ねいろ」 新しい環境での学びを望み、学習意欲のある児童・生徒への支援策として、令和4 年4月に「学びの多様化学校(不登校特例校)『ねいろ』」を開設しました。 「ねいろ」では、生徒の実態に合わせた特別な教育課程を編成し、正規の教職員を 配置し、生徒の興味や関心に合わせた学習活動や様々な体験活動、交流事業を実施 し、生徒一人一人の個性や能力を発見・伸長しながら、社会的な自立に向けた教育活 動を実施しています。体験学習では、教科を横断的に様々な体験活動に取り組んでお り、探究の時間では、教科で学んだ内容や経験を生かして、個々の得意なことや興 味・関心に合わせて学習を進めています。 資料9 子どもの権利を守る仕組み 世田谷区子どもの人権擁護委員(通称:せたがやホッと子どもサポート) 「せたがやホッと子どもサポート」(略称:せたホッと)は、「世田谷区子ども条例」 に基づいて設置された第三者機関で、地方自治法に基づく区長及び教育委員会の附属機 関です。世田谷区に住んでいる子ども、学校や仕事で世田谷区に通っている子どもの権 利侵害があったときなど、問題の解決のために子どものすみやかな救済を図ります。 「せたホッと」には、「子どもの人権擁護委員」(子どもサポート委員)と相談・調査 専門員がいます。委員も相談・調査専門員も、子どもの話をじっくり聞き、子どもに とって一番いい方法を一緒に考えます。 子どもの権利侵害に関する相談・救済の流れ 子ども・保護者など子どもの人権擁護委員(条例第15条)、相談・調査専門員(条例第24条第 2項) いじめや虐待など の権利侵害 電話 ファックス メール 手紙 など 相談対応(相談・調査専門員)(条例第19条) 傾聴 助言 支援 区及び区民や事業者は 擁護委員の活動に協力 (条例第18条)状況の改善を希望 子どもの権利侵害を取り除くことや防ぐことについての申立て (条例第19条) 書面 口頭 擁護委員自ら必要とす る調査の実施(条例第 20条第1項) 調査実施(条例第20条第1項、第2項) ※調査のための協力要請(条例第20条第2項) 説明 文書提出 立入調査など 調整(条例第20条第3項) A @ 関係機関の場合でも、 区長及び教育委員会、 申立者(同意者)への 事前通知が必要 (規則第11条) 子どもの権利侵害を取り除くための要請(条例第21 条第1項)【注1】 子どもの権利侵害を防ぐため制度の改善を求める意見 を表明(条例第21条第2項)【注1】 関係機関の場合は 努力義務 改善に向けた対応 (条例第21条第3 項、第4項) 対応の報告請求(区の機関) (条例第21条第5項) 対応の報告 (区の機関) 対応の終了 改善 理解、納得、回復 公表(条例第21条第6項)【注1】 規則第13条(公表) 条例第21条第6項の規定による要請、意見 及び対応についての報告の内容の公表及び 条例第23条の規定による活動の内容の公表 は、公告その他の広く区民に周知させる方法 により行うものとする。 活動の報告(条例第23条) 普及・啓発(条例第16条第8号) 見守りなどの支援(条例第22条) 関係する機関等 仲介、代弁 など 他相談機関と連携 【注1】擁護委員による協議(条例第21条第7項) せたがやインクルーシブ教育ガイドライン 令和7年3月 発行 世田谷区教育委員会事務局 TEL 03−5432−2711