2022年4月1日から成年年齢は18歳に。東京経済大学現代法学部教授弁護士村ちづこ。名古屋大学法学部卒。消費者問題等を専門とする弁護士。日本弁護士連合会消費者問題対策委員会委員、一般財団法人日本消費者協会理事長、東京都消費者被害救済委員会会長、 国民生活センター客員講師、消費者教育の推進活動を長年行っている。著書多数。 はじめに、民法では、成年年齢を20歳と定めています。1896年(明治29年)の制定時から、100年以上にわたり成年年齢はずっと20歳でした。この規定は、2018年(平成30年)民法改正により18歳に引き下げられ、施行までの準備期間の4年間を経て、来年の2022年(令和4年)4月1日から施行されます。つまり、来年4月1日になると、一斉にそれまで未成年だった18歳と19歳の若者全員が成年になるわけです。民法でいう「成年」とは何でしょうか。自分でどの契約を締結するかを選択することができ、締結した契約を守る法的義務を負うことになる年齢を意味します。文部科学省の調査による99.8%が高校に進学する(2020年度の調査データ)ということですから、ほとんどが高校三年生の誕生日から「成年」として一人前の大人としての法的責任を負うことになるわけです。高校三年生には、成年と未成年が混在することになります。 成年年齢引下げで変わること。民法では、まだ成年には達していない人を未成年として保護しています。契約に関する知識も社会的な経験も十分ではないことから一定の保護を図る制度を設けているわけです。具体的には、未成年者が契約をする場合には、原則として、法定代理人(通常は、戸籍上の両親)の同意が必要とされます。両親の同意がない場合には、その契約を未成年者本人か親が取り消すことができます。未成年者が自分の考えだけで契約して、そのあとで「失敗した」ことに気が付いたときや親が知って「その契約はとんでもない」と考えた場合には、その契約を取り消すことができます。これまで、この未成年者として保護される対象は20歳未満の若者でした。2022年4月以降は、未成年者として保護されるのは18歳未満の若者だけになり、18歳、19歳の若者は「一人前の大人」として扱われ、保護されなくなります。 未成年者はどのように保護されてきたか。抽象的な法律の説明だけではわかりにくいですね。身近な具体例で、未成年者がどのように保護されてきたかを見てみましょう。若い人にとって身近なものにスマートフォン(スマホ)があります。スマホを持つ契約をする場合、未成年者の場合は、事業者から法定代理人の同意を求められます。クレジットカードを持つ場合、高額な買い物や賃貸住宅を借りる場合、学生ローンなどで借金する場合も(まともな業者であれば)同様です。これは、民法に未成年者保護制度があるためです。高校生や大学生のほとんどはスマホを持っていますが、契約者は親で使用者を子供としている場合が多く、多少は、法定代理人の同意のもとに学生が契約しています。これは、20歳未満が未成年として保護されているためです。2022年4月以降は18歳から未成年となるので、高校三年生の誕生日以降に契約する場合には、法定代理人の同意はいらない、つまり若者が単独で契約できることになります。取引相手の事業者は法定代理人の同意を求める必要はなくなります。そして、契約後に失敗したと思っても、もう取り消すことはできなくなります。クレジットカード、消費者金融からの借金なども同じことです。「一人前の大人」としての法的責任を求められるわけです。 成年年齢引下げにより起こりうる変化。2022年4月1日からは、一斉に18歳と19歳の若者と契約する場合にも、事業者は法定代理人の同意を取らなくてもよくなります。成年が大人としての法的責任を負うということは、契約についての知識も社会的な経験も十分に積んで一人前になった、として扱うということです。しかし、現実はどうでしょうか。小学校、中学校、高校と両親や社会の保護のもとで生活してきています。が、周りから保護されていることは、保護されてきた未成年からは見えにくく、自覚しにくいものです。むしろ、高校生は、それまで保護されてきたので大きな失敗を経験しておらず、失敗体験がない分、「自分は賢いから、失敗しない」という認識を持ちがちです。18歳の誕生日になって「今日から一人前の大人」として扱われることになったとしても、一日の違いでいきなり十分な契約知識や社会的経験が身につくわけではありません。 若者の消費者被害から見えること。消費生活センターに寄せられる若者の消費者被害を見ると、20歳以降は訪問販売・マルチ商法・詐欺的な儲け話などの被害が目立つようになり、被害金額も100万円を超えるものも珍しくありません。お金もちの若者が狙われるからではなくて、消費者金融から借金させられ高額な被害になっています。もう未成年ではないので借金や高額契約であっても、事業者は、法定代理人の同意を得る必要はなく、消費者は、契約を未成年取消しはできません。解決は難しくなります。18歳の誕生日を迎える前に、「契約についての基礎知識」や「契約するときの注意点」「自分の意思をしっかり伝える力」などを身に着けることが大切です。また、若者を狙う悪質商法はどんどん変化しています。「今のトレンド」を知ることも重要です。家族、学校、地域、消費生活センターなどの行政機関の役割が極めて重要といえるでしょう。