第1章  計画策定の背景 1. 障害者(児)施策をめぐる国等の動向 (1) 障害者(児)施策の国際社会における動向   ○  昭和51年の国連総会において、昭和56年を障害者の「完全参加と平等」をテーマに掲げた「国際障害者年」とすることが決議された。国際障害者年行動計画では、ノーマライゼーション社会構築への視点が提示され、我が国をはじめとして多くの国に影響を与えた。 ○  国際障害者年以降も、国際社会では、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)において決議された「アジア太平洋障害者の十年」(平成4年より開始、平成14年から10年延長)や、国連総会における「障害者の人権及び尊厳を保護・促進するための包括的・総合的な国際条約(障害者権利条約)」制定の決議(平成13年、現在起草作業中)など、「完全参加と平等」に向けた取り組みが引き続き行われている。 ○  世界保健機関(WHO)は、新たな障害分類である、「国際生活機能分類(ICF)」を平成13年に公表し、障害は誰でもなりうるとの立場から、障害を「心身機能・身体構造」だけではなく、「活動」「参加」の状況からも理解していく方向性を示した。さらに社会的差別の解消やバリアフリー化の進展によっても、障害は軽減しうることを示唆し、今後の障害者施策の推進に影響を与えていくものと考えられる。 (2) 障害者(児)施策のこれまでの展開 ○  一方、戦後の我が国における障害者(児)施策は施設収容を中心に展開されてきた。昭和22年に児童福祉法が、昭和24年に身体障害者福祉法が、昭和35年に精神薄弱者福祉法(平成11年に知的障害者福祉法に改正)が制定され、各法の規定する対象を施設で保護し、その生活を保障していく方策が障害者(児)施策の主要な課題に置かれてきた。 ○  この際の施設入所は、行政処分としての措置制度に基づいていた。従ってサービス内容を障害者(児)自身が選択し利用するという観点からはほど遠かった。また、措置の権限は都道府県が有しており、障害者(児)施策に関する区市町村の関与は極めて低かったといえる。 ○  昭和40年代に入り、特に重度障害者(児)への対策が進展していく中で、「日常生活用具の給付」等、在宅施策にも焦点が当てられた。地域福祉という議論が登場するのもこの時期である。しかしながら、この時点では、在宅施策のレベルにおいて、従来の域を飛躍的に踏み出すことはなかった。 ○  前述のように、昭和50年代に入り、国際社会は障害者(児)施策の推進に大きく動き出した。昭和51年の国連総会において、昭和56年を「国際障害者年」とすることが決議されたことを受け、昭和55年に内閣総理大臣を本部長とする「国際障害者年推進本部」が設置された。昭和57年に国際障害者年の国内行動計画であり、障害者(児)施策に関する初めての長期計画である「障害者対策に関する長期計画」が策定され、今日の「障害者基本計画」に連なる総合的な施策推進体制がここに構築された。 ○  平成の代になって、地域福祉の視点が施策レベルで改めて重要視されてきた。平成2年の「福祉八法改正」においては、区市町村の役割重視、在宅福祉の充実などが盛り込まれ、在宅福祉の分野については、区市町村を中心に展開していく方向が規定された。またサービスの供給主体についても、公・私がそれぞれの特性を活かして多様なサービスを展開していく形態が必要であるとされ、今日のサービス供給の多元化への路線も打ち出された。 ○  平成10年代に入ると、この地域福祉化やサービス供給主体の多元化の流れはさらに加速した。社会福祉基礎構造改革が始動し、「個人が尊厳を持ってその人らしい自立した生活が送れるよう支える」という理念のもとに、従来の措置制度についても利用者本位の観点から見直しが行われた。これを受けて、障害者の自己決定を尊重し、事業者との対等な関係に基づいて、障害者自らがサービスを選択し、契約によりサービスを利用する仕組みとして、平成15年より障害者(児)福祉の分野に「支援費制度」が導入された。 (3) 今日の障害者(児)施策をめぐる国等の動向 ○ 「支援費制度」は、戦後の措置制度を中心としてきた障害者(児) 福祉のあり方を抜本的に改革したものであった。しかしサービス利用者の急増とそれによる費用の増大によって、現状のままでは制度の維持が困難であることが指摘された。 ○  また、精神障害については、平成7年の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の制定以後、地域での自立と社会経済活動への参加を基調に施策が展開されてきた経緯があるが、他の障害と比較して、地域での福祉の取り組みは弱く、実際「支援費制度」の対象にもなっていなかった。 ○  これらを受けて、平成17年に障害者自立支援法が成立し、平成18年4月より障害者(児)への新たな地域生活支援の施策が順次展開されていくことになった。この新たな地域生活支援の施策においては、身体・知的・精神の3障害のサービス提供主体は区市町村に一元化され、利用者本位の徹底と、サービス支給決定の透明化や明確化、その費用について社会全体として支える仕組みが構築されることになる。日中の活動や住居の確保についても検討が加えられ、それに基づきサービス類型の見直し等が図られることにもなっている。また区市町村は、地域の実情に応じて相談や移動支援等の地域生活支援事業を実施するとともに、障害福祉計画を策定し、域内のサービス提供体制の確保に努めていくことも要請されている。 ○  発達障害者(児)への取り組みについては、平成16年12月に発達障害者支援法が成立し、平成17年4月より施行されている。今後は発達障害者への支援について,自治体においても必要な措置を講じていくことが求められている。 ○  障害児教育の領域では、障害のある児童・生徒一人ひとりの教育的ニーズに応じて適切な教育的支援を行う「特別支援教育」の導入を図ることが求められている。今後、地域社会の中で,多様な保健・医療・福祉・労働の各機関と連携し,児童・生徒の個別的支援に取り組んでいく方向性が打ち出されている。 ○  発達障害と並ぶ新たな課題のひとつである高次脳機能障害については、身体障害者手帳等の取得ができない場合については支援の対象とならず、支援のための社会資源も限定されている。高次脳機能障害への対応が、発達障害と同様に求められている状況にある。 ○  今日においては、地域で暮らす障害者(児)にとって、最も身近な基礎的自治体である区市町村の、障害者(児)施策の推進について果たす役割は極めて大きくなった。障害の有無に関わらず、住民が相互に人格と個性を尊重し、安心して暮らすことのできる地域社会づくりを総合的に進展していく役割が、まさに区市町村に求められているといえる。