障害のある人もない人も共に楽しめるスポーツ・レクリエーション交流事業 第2回講習会 講義テキスト 【スライド2】 皆様、それでは、第2回の講習会を始めていきたいと思います。今日、資料をお渡ししていますので、その資料に基づきながら、お話をいたしますが、第1回目の講習会を欠席された方も今日はおられますので、1回目の講習会の復習も兼ねて、少し、1回目の内容にも触れながら本日のパートをお話していきたいと思います。 まず、今日お渡しした資料の、表紙の写真をご覧いただきたいと思うのですが、1番左の写真は、ソチ冬季パラリンピックに私が日本障害者スキー連盟の役員として行っていた時の写真です。真ん中にいるアルペンの選手なのですが、私の大学時代の教え子でして、大学の方には、サッカーのゴールキーパーとして推薦で入学してきました。ところが大学1年の時に、バイクの転倒事故で片手麻痺の状態になり、入院をしてリハビリテーションを終えて、退院して、大学に戻ってきました。ゴールキーパーとして片手が麻痺しているという状態は致命的ですので、サッカーを続けていくということ自体はなかなか難しいということで、たまたま1年生の事故前に、私の障害者スポーツ論の授業を受講していた、ということもあり、私の研究室に訪ねてきました。 彼が事故で入院したということは、私が所属している学科の学生でもありましたので、知っておりましたので、大体相談の内容は想像ついたのですが、本人曰く、こういう状態でサッカーを続けるということはなかなか難しいので、今後どうしていったらいいかという事について、相談に乗ってくれないかということでしたから、私としては、サッカーで日本のトップレベル、あるいは世界を目指すというようなことを考えていたのであれば、サッカーではなく、他の競技、種目で世界を狙ったらどうかというような話をして、出身地を聞いたところ、長野県の松本市ということで、やっていたスポーツとしては、スキーはやったことがあるということだったものですから、当時私は障害者スキー連盟の役員をやっていた関係で、じゃあアルペンスキーでパラリンピックということになるけれども、世界を目指さないかということを問いかけて、本人もやれるようであれば是非チャレンジしてみたいということだったものですから、早速トレーニングに参加させたりしながら、後方支援といいますか、実際には強化部のやる仕事ですので、サポートをして、大学での学習に関してましても、私なりにサポートするということをしていたところ、在学中にパラリンピックに日本代表選手として出場することができて、本当に彼の潜在的な運動能力がそうさせたわけですけども、もちろん努力もあったわけですが、運良く在学中にパラリンピックに参加することができ、以来、日本の代表選手として、アルペンスキーの選手として、パラリンピックに参加し続けています。 なんらかの障害のある方で、中途障害、産まれた時から、先天的な障害でない場合、何か障害がある状態になる前にスポーツをしていたことがあるという人であれば、受傷後もまたスポーツへ復帰するというような意欲を持たれる方もいるわけですが、やはりその時に全く同じようにやるということは難しいというケースがほとんどです。したがって、種目を変えるとか、あるいは種目を変えずとも、新たなトレーニングの仕方を覚えてやっていくとか。いろいろなことがあるわけですが、やはり、中途障害の場合であっても、受傷前にスポーツをしてるかしてないかというのが非常に大きなことで、何らかの障害のある方々に、運動やスポーツを是非してほしい、実施する割合を増やしたい、という風に考える時に、やはり、産まれた時から、小さい時から、運動やスポーツをしているかどうかということは、1つの大きな要因になりますので、今障害がないという状態の人たちであっても、スポーツの実施率を上げておくということは、障害があるという状態になっても、運動やスポーツをする人の割合を増やすという意味では、非常に重要なことだという風に思います。そういったことを考えるという上での1つの事例として、この写真を載せておきました。 真ん中の写真なのですが、手前に写っている選手なのですが、彼は、この世田谷区の主催をしている、私たちはあるなし事業と呼んでますが、まさに障害のある人もない人も、共に楽しめるスポーツ・レクリエーション交流事業で、参加者として参加をしていた人です。もともと非常に運動好きで、いろいろなスポーツを楽しむことが非常に好きな青年なんですが、このあるなし事業で私たちと出会い、そして一緒にこの事業をやる中で、彼は非常に運動能力が高かったので、あるなし事業の最初は参加者だったのですが、年齢も中学生というようなところから参加してきたので、むしろ、彼は車いすを使う、車いすユーザーということで、下肢麻痺があるわけですが、むしろ、スタッフ的な役割を担ってくれていました。そういう彼に、それまでは楽しみとして運動やスポーツをするということのレベルだったのですが、1度こういう大会に出てみないかというような誘いをしてみたところ、是非やってみたいということで、駒沢競技場で行われた東京都障害者スポーツ大会に出場した時の様子なのですが、この大会は全国障害者スポーツ大会の予選会を兼ねていますので、初めての参加ということで、奥の選手は陸上の、レーサータイプと言われる車いすを使っているわけで、手前の彼は日常生活で使っている車いすで参加をしていますので、当然スピードも違って、なかなかタイムを出すということが難しいわけですけれども、まずはこういうレベルからスタートをしてというところで、参加をした時の様子です。 やはり、障害のある人もない人も共に楽しむというような事業に参加する中で、段々にレベルを上げて、より高いハードルをクリアするために練習をするという人たちも、中には出てくるわけですけれども、まず、本交流事業では、誰でも楽しめるということで、初心者レベルでもできるというようなものを、アクティビティとしては扱っています。しかしながら、そこで興味関心持ってもらって、運動やスポーツをするということは楽しいな、体を動かすということは楽しいな、ということを体験してもらって、皆さんがというわけではないのですが、中にはこうして、何か大会にチャレンジしていくというようなことを目指すという人が出てくるということも、あって良いのだという風に思いますし、また、そういう場合には皆でサポートをする、応援をするというようなことが、こうした事業を通じて仲間になった人たちでやっていくということも非常に重要なことなのではないかという風に思います。 また、こうした大会に出るためには、奥の選手のような、レーサータイプの車いすのようなものが段々に必要になってきます。これは、公的補助を受けられませんので、日常の生活用のこうした車いす等々の器具・用具であれば、補助は出るのですが、楽しみのために、あるいは競技のためにというような用途になってきますと、非常に高額ですし、自費で払わなければならないということで、そこまでできる人というのは限られてくるのですが、そういったことについても、こういう交流事業を通じて仲間になった皆でサポートをする、応援をするというようなこともできる関係性を作っていくということも、こうした事業の狙いの中にあっても良いのではないかという風に思います。 1番右側の写真ですが、これはまさに、世田谷区の交流事業の1場面です。で、今車いすに乗っている男の子ですが、実は私の孫でして、私がこういう事業に携わっているということで、孫にこんなことをじいじはやっているんだけれども、一緒に来ない?一緒に遊ばない?っていう風に声を掛けて、やりたいということでしたので、連れてきて、参加をしているところです。本人曰く、すごく車いすが速くて、スピードがあって面白かったし、同年代の子どもも参加していた時でしたので、そういう人たちとも友達になったりしたことも楽しかったということで、また機会があったら参加したいというようなことを言っていました。 私たちは、区内在住・在勤・在学をしているような方を主なターゲットとして、この交流事業を展開しているわけですが、講習会、あるいは体験会に参加される方が、1度でもこういう事業に関わって、これは非常に意義のあるものだ、楽しいものだ、是非継続的に続けていきたい、あるいは参加したいと思っていただけたとしたら、いろいろな友人に声を掛けていただければ、参加者が段々増えていくわけですし、まさにそういう参加される、あるいは興味関心を持っていただく方を増やすということも、交流事業の狙いの1つではありますので、まず身近なご家族、あるいは友人に、例えばこの講習会に参加されている皆さんが、ご家族や友人に、まず参加者として参加してもらうと、声掛けをするということも、1つ大事なことではないかと思います。自分たちがスタッフとして関わっているというようなものを、自信をもって、親しい人たちに一緒に参加しない?私たちがサポートするから、あるいは、私たちが運営しているから安心して参加しない?というようなことを、障害のあるなしに関わらず、家族、親戚、友人に声を掛けて、そういう方々を巻き込んで、そしてその中からスタッフの役割を担ってくれる方を増やし、スタッフの数がしっかり確保できれば、参加者として参加してくださる方をお迎えできる、前提条件が整うということになりますので、まずは、やはり身近なところから、参加の呼びかけをする。 なかなか、区報、あるいはいろんな媒体を使って、こうした事業の告知をするわけですけれども、なかなかそうした媒体だけをご覧いただくだけでは、どんなことをするのかというのはなかなか分かりにくいと思います。1回目に講習会を受講された方は聞かれたように、参加される方に応じて、どんなアクティビティをすれば皆さんに楽しんでいただけるかということを考えるということを、基本的な考え方として、こういう事業展開をしておりますので、例えばボッチャ体験会をやります、というようなことがあっても良いのですが、そういう風な呼びかけをしますと、ボッチャそのものに興味関心のある方は参加してくださる可能性が高いのですが、そもそもボッチャに興味関心のない方は、ボッチャを体験してみませんかと書いても、体験してみようと思わない、興味関心を抱かないということになることが多いわけですから、私たちはどういったアクティビティをするかということをある意味、意図的に、大体こんなことをやりますというようなレベルでお知らせをして、来ていただいて、楽しんでいただいて、初めて内容をご理解いただいて、それを継続的に続けていただけるような環境を作っていきたいと思っていますので、そういう意味では実際体験している、あるいは内容を知っている、講習会に参加されている皆さんや、今スタッフとして関わってくださっているような方々のお知り合いの方をまず参加者としてお招きして、その方がまた新たな方にお声掛けをするというようなことは、より具体的な告知になると思いますし、楽しいと思うから、他の方に声を掛けるのであって、そういう話は、より楽しさを連想させる良い情報源になるという風に考えています。そんなようなことを考えましたので、少し事例としてこの表紙に3枚の写真をつけておきました。 【スライド3】 それでは、本日の内容の中に入っていきたいと思います。この、あるなし事業なのですが、あるなし事業というのは、1つのメソッドですね。事業の手順というものに従ってやっています。1回目の時には、このうちの2つのことをお話したのですが、今日の主題は3つ目の内容になりますが、これはA-PIEプロセスと呼びます。A、P、I、Eと書いて、エーパイと読みますが、A-PIEプロセスという、こうしたメソッドがあります。PDCAサイクルというのは、よく聞かれることはあると思いますが、これは企業経営であるとか、組織運営であるとか、こういったことには非常に有用なメソッドなのですが、私たちがやっているような、運動やスポーツ、あるいはレクリエーション活動というようなものを考える時には、こちらのA-PIEプロセスというものの方が、より適切な手順になるということが分かっておりますので、これに沿って、このあるなし事業は行っています。1回目の復習になりますが、A-PIEプロセスのAは、アセスメント、のAです。査定ということなのですが、ちょっと査定という言葉が難しければ、対象者理解、という風に考えていただければ良いかと思います。参加される方々、おひとりおひとり、これは障害があるなしに関わらずなのですが、そこに参加される皆さんが、どのような方々であるかということを知っておくということによって、私たちはどのような準備、あるいは工夫、配慮、支援、そういったことをしなければいけないかということが見えてくるわけですし、それをしませんと、参加される方のことを全く知らない、あるいは具体的に分かっていないで、当日参加されてみて、あ、こういう方なんだということが分かるというのでは、やはり準備が不十分になることがありますので、このアセスメントというものは非常に重要だと思っています。 次のPですが、プランニングということで、企画や、あるいは計画ということになります。日本のこうした運動やスポーツに類するプログラム、あるいはアクティビティは、このアセスメントをあまりせずに、いきなりプランニングをする。つまり、主催者側で何をやれば良いかということを先に考えてしまうというようなことが往々にしてありますが、やはりボッチャ体験会をやります、ということは、ボッチャという1つのアクティビティを広く知らしめたい、多くの方に体験してもらいたいという狙いがあってやるわけですから、それはそれで狙いははっきりしているわけですが、先程も申しましたように、ボッチャが適しているのか、あるいは、プールで泳ぐということが適しているのか、あるいは、それ以外の全く違うことに興味関心を持っているのかによって、参加される方に応じた計画をするということが大事ですので、やはりアセスメントをした上で、その方々のことを考えて、対象者に合う計画をするということが順番としては大事だと思っています。 そこで、今日の1番の主題は、そのさらに次のI(アイ)ですね。インプリメンテーションのIなのですが、これは実際にアセスメントをして、その対象者をしっかりと理解した上で、対象者により楽しんでいただける内容を企画・計画した上で、その企画・計画に基づいて実際にやってみるということになります。その部分がインプリメンテーションということです。 最後はE。エバリュエーション。これは、評価するということですが、よく一般的には、振り返りとか、反省会とかという部分ですが、このA-PIEプロセスでのエバリュエーション、評価、というのは、もう少しきちっと論理的に、あるいは科学的に、しっかりとした評価基準を持って評価をするというようなことになるのですが、本日はインプリメンテーション、実施・実行ということについてお話をしていきたいと思っています。 【スライド4】 計画ができていますので、基本的には計画に沿ってやるということです。1番上に書いてありますが、インプリメンテーション、実行とは、A-PIEプロセスの3番目で、計画されたプログラムを実際に対象者に提供するステージということです。 2番目に書いてありますが、このプログラムを実際に実施する上で、重要な点ということになるんですが、プランニングとインプリメンテーションは、首尾一貫していなければならないという風に書きました。これがまず基本だということになりますが、しかしながら、アセスメントをしっかりしていても、対象者によっては、その日の体調であるとか、あるいは欠席者がいるとか、申込みをしてない方が急遽参加することになるとか、プランニングをしていても、当日様々な変更を余儀なくされる、あるいは変更する必要があるようなことは、どのようなことをする時でもよくある話です。したがいまして、計画はしてあるものの、実行の段階では、必ず計画通りに行くとは限りません。したがって、計画をする時にいろいろとポイントとなる重要なところは踏まえつつ、その部分は首尾一貫していく必要があるわけですが、実際にやるとなったら、例えば、グループ分けをしたようなことも、人数の関係上、グループ編成を変えるとか、それから、ご家族で参加されていても、ご家族が全部同じチームに入らなくても大丈夫そうだというようなことが当日受付の様子を見ていると、これは別々のグループに分けても良いな、例えば親御さんとお子さんは、別のグループの方がむしろ良いかなというようなことが分かったら、そのような実行段階では、変更するというようなことは、あって良いことだと思いますし、それも必要なことだという風に思います。基本は、ちゃんとアセスメントをした上で計画していますので、実行はエッセンスですね、非常にポイントとなるところは首尾一貫していなければいけないということで、重要なところという部分は首尾一貫するということですが、絶対に計画したとおりにやらなければならないということでは無いということを、是非ご理解ください。 このプログラムを実際にする時には、対象者の成果、対象者にとって何か良いことがあるとか、非常に楽しい体験になるとか、またやりたいとか、お友達ができるとか、何か具体的な成果というものを挙げていく。これが結局、評価に繋がるわけですが、成果を上げるんだと、これがなければ、対象者にとってそんなに楽しいと思えない、また来ようとも思わない、また参加しようとも思わないというような結果に繋がってきますので、やはり成果をきちっと上げるんだということを念頭に置いて実施するということです。 この、対象者にとっての成果という結果を出すためのポイントは3つあるということです。1つは、対象者の問題となる点。これは例えば、何らかの障害があって、その障害というものが、アクティビティをする上で、他の方と全く同じようなやり方ではできないというようなことは、どのようなケースでもあることですし、障害のない方であっても、年齢が小さいお子さんであったり、ご高齢の方であれば、やれること、あるいはやりにくいこと、できにくいこと、それぞれあるわけです。ですので、問題といいますか、対象者によって、いろいろと配慮しなければならないというようなこと、サポートしなければならないことというのは、障害あるなしに関わらず、それぞれがあるわけですね。そういった点を、しっかりと踏まえた上で、私たちは1つの、例えばボッチャというようなアクティビティをやろうとしても、同じようなやり方でボッチャをするということは難しければ、ボッチャをするということ自体は変えずとも、そのやり方。ボッチャは、ボッチャボールというものを転がしたり、投げたりということですが、そういったことも改善すべき点、配慮すべき点、工夫すべき点、いろいろあるわけですね。当然、人はそれぞれ違っていて当たり前ですので、その違いに応じて、どうすればおひとりおひとりがアクティビティを楽しんでいただけるかということを、しっかりと明らかにしておく必要が当然あります。これは、先程も言いました、アセスメントをして、そこでプランニングをする段階で、こういうことはちょっと配慮した方が良いねとか、これはちょっと違う用具を使った方が良いねとか、そういうようなことを明らかにしておくわけです。そして、そうしたこのやり方は違う、プレイの仕方が違ったり、使う道具が違ったりとか、というようなことをしっかりとやりながら、ゴールが導き出されるようにすること。実際にやる時には、ここが大事になってきます。 このゴールというのは何かと言いますと、参加者にとって、あるいはスタッフにとってもそうなんですが、この事業をやる時のゴールというものがあるわけですね。まずは、アクティビティを楽しんでいただく。楽しいということが、必然的に人と人とを結びつける、ある意味接着剤のような役割を担うというようなことになるわけです。楽しいがゆえに、ついつい歓声が溢れたり、あるいは、チームの中で仲良くなったりというようなことが出てくるわけで、まずはアクティビティを楽しんでいただくということで、楽しいがゆえに、それを一緒にやる人たちで親しくなって、友人になって、仲間になって、また一緒にやりたいねというような気持ちを抱いていただくと。そして、それが継続的に、持続的に、且つ、最終的には自主的に、主体的に、参加される方々でそうしたプログラムをやっていただけるようにする、というところが最終的なゴールですから、そのようなゴールに一歩でも近づけるようなことになる、そういったことが出てくるかどうかということですね。その結果を出してこないと、単に実行する、インプリメンテーションをするということは、やったらそれでおしまいということになってしまうわけで、何かアクティビティをやっていただいて、楽しかったと言って帰っていただいて、ただそれだけで終わってしまうというようなことでは、この事業の狙いというものの、全くそれだけでは駄目だということはないのですが、よりその先を目指していますので、そこに一歩でも近づけるようなことになるかどうかということが、実際に実行しながら、そのことが導き出されるように、意図的な働きかけ、配慮をする、ということは大事になってきます。 2番目に、選択されたプログラムはというのがあるわけですけれども、何度もお話してますが、アセスメントをして、その上で、プランニング、計画をするわけです。プランニングの段階で、どんなことをアクティビティとしてやると、より参加者に楽しんでいただけるかということを選択するわけですね。計画の段階で、いろいろなアクティビティを候補として挙げます。その挙げられた候補の中から、より参加者に合うだろうと思われるものの優先順位をつけて、プログラムという形に作り上げます。ですので、まず選択されたプログラムというのは、当然対象者のことを考えていますので、対象者の成果というのは、先程も申しましたけれども、楽しんでいただく。それから、単に楽しんでいただいてお帰りいただくだけではなく、楽しいということを通じて、1人でも仲間、友人、親しい人を作っていただいて、またはスタッフとも仲良くなっていただいて、そして、また一緒にやりたいね、またこのメンバーでこうした運動だとか、体を動かすだとか、スポーツをしてみたいねという風に思っていただくというようなところ。 対象者の方々の言葉で言いますと、行動変容という風に言うんですが、これまで、あんまり運動やスポーツ、あるいは体を動かすということに親しんでこなかったような方々に、1人でも多く、運動やスポーツに参画していただくことが大事ですので、それこそが私たちの事業の狙っているところですから、1人でも多くの方にまたやりたい、継続的にやりたいという風に思っていただけるというようなことが行動変容。少し考え方を変えていただくとか、こんなことだったら自分たちでもできるねとか、こういうスタッフがちゃんと居てくれるんだったら、安心して、安全に参加できるねと思っていただくとか、そういったような行動変容が生まれるかどうかというようなことが大事なので、そうした対象者の成果というようなことのために、ちゃんとなっているかどうか、どのプログラム…。アクティビティをいくつか組み合わせてプログラムというのを作るわけですけども、それがゴール達成と。これはこの事業の最終的なゴールであり、毎回毎回こうした体験会であったりというのをやるわけですが、1つ1つの体験会であっても、今回はこういったゴールを目指そうというようなことをプログラミングのところで作っていきますので、毎回毎回のゴール。そして、1年間で複数回やる体験会を通じて、少しでもこの事業のゴールに達成していくために、こうしたアクティビティを組み合わせたプログラムというのがちゃんと選択されているということが大事になってきます。それがないと、なかなかこのインプリメンテーション、ただやっても効果として出てこないということになります。 3番目は今お話した通りのことで、1と2を合わせて、結局参加される対象者の方々がどのように感じていただけるか、どのように思っていただけるかということが大事ですので、私たちは参加者の方々にこう感じてほしい、こう思ってほしいという風に考えてやるわけですけれども、本当にそのようになったかどうかということは、次のエバリュエーション、評価というところで、大事なことになってくるというようなことになろうかと思います。 実は、インプリメンテーションというのは、一見するとスタッフたちがいろいろと準備をし、参加者の方が来られて、そしていろいろなアクティビティ、1日のプログラムということを考えますと、開会式があって、ウォーミングアップを兼ねたアイスブレイクのようなものがあり、いくつかのアクティビティをやり、そして閉会式をやったりして記念写真を撮って、お疲れ様でしたというような1つのプログラムという形になるわけですけれども、例えば開会式のやり方であったりとか、もちろんアクティビティのやり方であったりとか、1時間半とか2時間とかというようなプログラムをやるという意味でも、いろんなことを実はスタッフというのは考えながらやるんだ、ということを是非ご理解いただきたいという風に思います。 計画をしてあるんだから、それがきちっとペーパーに書いてあって、スケジュールが書いてあるから、それを見ながらそのとおりやるんだではなく、やりながら、参加者の表情であるとか、状況や状態を見ながら、その時点で今、これ変更した方が良いという風に思われるところは、遠慮なく変更していく。あるいは、1回やりましょうというようなことだったけれども、1回やってみて、まだ少し時間的な余裕があるんであれば、じゃあもう1回やってみましょうという風に、本来1回の予定を2回にするとか、あるいは3回やる予定だったけれども、2回で満足したような雰囲気になっているのであれば、あえて3回やらずに2回で、このやり方でのアクティビティはここまでにしましょうというようなことで、2回にしておくとか、いろいろな変更点が出てくるわけですね。そういうことを実行段階では考えながらやりますので、スタッフとなる、この講習会に参加してくださっている皆さんはまさに、そういうことをやるスタッフを目指していただきたいがために、講習会に参加していただいてるわけですが、スタッフというのは、それぞれの役割を持ち、且つ、このようなことをいろいろ考えながらスタッフとしてやっているんだということをご理解いただくとたいへん嬉しく思います。 【スライド5】 これは新聞の記事でですね、お読みいただければという風に思うわけですけれども、お子さんが先天的に生まれた時から左の手の前腕部分が欠損、無い状態で産まれてきた、お母さんとその仲間が出版した本の紹介の記事がありましたので、私は早速この本を注文して、今日のこの講習会までにこの本が届きましたら皆さんに是非お読みいただければなという風に思っていたのですが、まだ手元に届かなかったものですから、その記事だけを資料につけておきました。義手ですね。先天的に左の手の前腕部分がないお子さんに、義手をつけて、どのように暮らして行くようになったかというようなことを分かりやすく書いた、絵本にしたものなんですけれども、結局この先天的に左の前腕部分が無いということで、他のお子さんと状況、状態が違うわけですね。 産まれてきたお子さんは、周りの子どもたちと自分の状況は違うということが分かるようになるまでは、やはりある程度年齢がいかないと分からないわけですが、年齢が分かってくると、なんで僕は人と違うのだということを思うようになるわけですが、いろいろやりたいことがあっても、前腕部分がないがために、他の子と同じようにできないというようなことがあるからこそ、義手というようなものが、それを補ってくれる大事な部分なわけですが、この本を作るきっかけというのは、資料でちょっと赤く囲っておきましたけれども、これまでも、義手の子どもを扱った絵本はあったが、苦しさや楽しさを乗り越えるといった内容が中心で、当事者や、この場合このお子さんですね、や、家族がより前向きな気持ちになれる絵本が必要と考えた、という風に書かれています。ですので、義手を使うというようなことが、ネガティブなイメージではなくて、義手といってもいろんな種類がありますし、作れますので、状況に応じて義手を取換えればいろいろなことができるわけです。そのような、配慮、工夫、サポートがあれば、やれることはたくさん増えてくるんだよということ。そういうようなことで、前腕部分がないお子さんを、周りの人が見えた時に、可哀想とか、あの子どもは大変だねとか、というような風に見られてしまうのがまだまだ一般的だと思うのですが、決してそうではないよと。こういう義手というのは、いろいろ開発されてきていますので、そういうものを使えばやれることはいろいろ増えてくるんだよというようなことを伝えたいという気持ちで、この本を書かれたということがこの記事から分かるわけです。 やはり、障害のあるということは、それ自体は事実ですので、障害があるがゆえに、運動やスポーツというものから遠ざかっている、あるいはできないんだと思い込んでいるという方がたくさんいらっしゃるわけで、我々は、そうした方々にこそ、そうではないと思いますよ、どのような状況状態であっても、やれることは必ずあるし、大事なことはご本人がやってみたい、そんなことをやったことないけれども、私にもできるんだ、楽しかった、と思っていただける。これがとても大事なことだという風に思っています。 ですので、私たちはどのような障害がある方でも、それから障害がなくとも、小さなお子さんであったり、高齢で耳が聞こえにくくなっていたりとか、目が見えにくくなっていたりとかというような方もたくさんいらっしゃるわけで、そういう方々も含めて、おひとりおひとりに応じて、体を動かすこと、運動すること、スポーツをすること、それからいろんな方と関わりを持つこと。それをスポーツというようなものが接着剤として役割を果たすということは有用だという風に考えていますので、そのようなことを実際に体験していただいて、感じていただくというようなことを使命としてこの事業をやっておりますので、是非、皆さんにも事業そのものへの理解と、それからこの事業運営のメソッドに対してのご理解を深めていただいた上で、今日の午後、実際にどのようなことをやれるかということを実技としてやるように考えていますので、この後、実技の中でもどのような、対象者に対しての配慮、工夫、支援、サポートをしていけば良いか、どのような運営の仕方をすれば良いかということについて学んでいただけたら幸いでございます。私のこの講義としてのお話の部分は以上という風にさせていただきたいと思います。それでは、少し休憩を挟んで、実際に実技という風に入って行きたいと思います。 では、一旦これで講義を終了いたします。お疲れ様でした。